第11話・第二章になります。
[2]
穂乃果はことりの手を掴んで走り出した。立ち止まっているわけにはいかない。背中にゾワっとした感覚がある。スマートフォンのものと思われる着信音が聞こえる。
間違いなく、教室から出てきた生徒たちが穂乃果の方を見ている。
逃げなければ。なんとして逃げなければ、海未が自分を犠牲にして助けてくれた意味がなくなってしまう。
だが、どこへ逃げればいい?
逃げた先で何をすれば助かる?
この異常事態の解決策などあるのだろうか?
(──ある! 奉次郎さんならきっと……!)
答えは『ある』だ。
以前、自分の〝怪異〟を解決してくれた
それに最近、雪穂も〝怪異〟と表現できる事件に巻き込まれたらしい。結末は知らないが、その相談相手として奉次郎の元を訪れていたことは知っている。
ならば、今回もきっと奉次郎が解決策を見出してくれる──見出してくれると、無理矢理にでも信じるしかない。そうしないと恐怖で足が止まってしまいそうだ。
「ことりちゃん! 奉次郎さんのところに行こう! きっと奉次郎さんならなんとかしてくれるはずだから!」
「うん!」
奉次郎のところに行くには、まずは学校から脱出しなくてはいけない。そして、ここから奉次郎がいるであろう場所──おそらくこの時間帯なら神田明神にいるはずだ──へ向かう。
辿り着くべき目的地ははっきりとした。ならあとは、そこに向かって進むだけ。
二年生の教室は音ノ木坂学院の三階に位置する。まずは階段を使って一階まで降りる必要がある。急いで階段を下ることは、転倒する恐れがあるが、穂乃果たちはスクールアイドルとして日々体を鍛えているのだ。そう簡単に転倒することはない。
しかし、
「電話!」
「わっ!?」
二階の廊下から飛び出してきた三年生によって阻まれてしまう。
茶髪のロングヘアーの先輩が、穂乃果たちの前に立ち塞がる。
「電話よ……電話。ほら、あなたたちを呼んでる」
虚ろな瞳の先輩は、着信音が鳴るスマホを手に迫ってくる。その横を抜けて、一階を目指そうとする穂乃果だが、
「だーめ」
「きゃっ!」
「ことりちゃん!」
現れたもう一人の先輩によって、ことりは羽交い締めにされてしまった。
「ほぅらぁ、電話」
ことりを羽交い締めにした先輩は、蜜のような甘い声で囁き、自分が持っているスマホをことりの耳に押し当てた。
「穂乃果、ちゃん……」
涙を浮かべて、穂乃果に助けを求めることりだが、すでにスマホは押し当てられてしまっている。
次の瞬間、糸が切れた人形のようにことりの体から力が抜けていった。
「ことり、ちゃん……?」
だらん、と肩の力が抜けたことりは、先輩から解放されると、虚ろな瞳で穂乃果を捉えた。
「──っ⁉︎」
背筋が凍る。
虚ろな瞳は、まるで底のない真っ黒な穴のようだ。飲み込まれそう……。そんな錯覚をしてしまうほど、真っ黒で恐ろしい瞳。親友のはずなのに、知らない誰かが成り代わっているよう。
目の前の人物は、本当に南ことりなのだろうか? そんなことを考えてしまう。
「ほら、あなたも」
「あっ!」
一瞬の油断を突かれ、茶髪の先輩が持つスマホが穂乃果の耳に押し当てられる。
「あっ、あっ、あ」
ノイズのような音が、鼓膜から脳に向かって這いずるような感覚に襲われる。
とてつもなく気持ち悪い。吐き気が、寒気が、意識をかき混ぜられると言う未知の感覚が、穂乃果を襲う。
しかし、突如、ポケットの赤い輝石が輝きを放ち、ノイズから穂乃果を開放する。
「──え? 今のは……?」
ノイズが聞こえなくなり、意識の自由が戻る。
「……あれ?」
茶髪先輩が首を傾げる。スマホを押し当てたのに、穂乃果の様子が変化していないことを不思議に思っているようだ。
「なら、もう一度」
しかしすぐに次に行動に出た。先ほどことりを羽交い締めにした先輩が穂乃果の背後を取り、茶髪先輩はことりを加わえたふたりで穂乃果の両耳にスマホを押し当ててくる。
逃げようと体を動かすが、後ろの先輩の力が強く逃げることができない。
徐々にスマホが穂乃果の耳に迫る中、
「そこまでや!」
茶髪先輩とことりの背後から聞こえてきた声。その声に一瞬気を取られた茶髪先輩とことりは、頭を何かで叩かれると気を失ったように倒れた。
倒れるふたりを支えるもうひとつの影。揺れるブロンドヘアーの影の正体は、生徒会長、
と言うことは、もうひとつの影も自ずと正体がわかってくる。
「おねんねやで」
穂乃果を羽交い締めしていた先輩も、その声の主によって無力化され、力なく倒れた。
「
穂乃果は自分を助けてくれた先輩の名を呼んだ。
ゆっくりと茶髪先輩とことりを寝かせた絵里は、立ち上がると少し驚いた様子で穂乃果を見る。
「穂乃果はなんとも何の?」
「はい」
「そう。なら逃げるわよ! 走って!」
「ええ⁉︎」
急いだ様子で穂乃果の手を取る絵里。そのまま、絵里に引っ張られる形で走り出す。
なぜそんな行動に出たのか。
理由は明白。穂乃果を追って三階から二年生の生徒たちがやって来たのだ。絵里の判断が遅ければ、あそこで捕まっていた。
冷や汗をかきつつ、絵里に引っ張られて廊下を走る。
その後ろを無言で追いかけてくる同級生たち。着信音を鳴り響かせながら、無言で追ってくるその姿には恐怖しか感じない。まるで一種のホラー映画のシーンだ。
「どこまで追ってくるのよ!」
「ウチらを捕まえるまでずっとやろうな」
「希なんとかできない⁉︎」
「あの数は無理や。とにかく、逃げ切るにはどこか空き教室に入った方がええと思う」
「そうね!」
ぐるりと、階段を中心に一周して戻ってきた三人は、階段を一気に駆け降り一階に到着。すぐに空いている教室へと飛び込んだ。
鍵をかけて、外から見つからないように息を潜める。本当だったらドアの前に物を置くのがよくある展開なのだが、スライド式のドアの前に物を置いてもあまり意味はないだろう。
しばらく経ってから、
「……気づかれてはいない、ようね」
と、絵里が言った。
ドアの向こうから感じる静けさから、撒くことに成功したと判断したのだろう。
絵里のひと言にその場の全員が息を吐いた。
「それにしても、穂乃果は本当に大丈夫なの? スマートフォンを耳に当てられたのが見えたけど」
と、絵里が改めて疑問に思っていたことを訊いてきた。
「はい……なんともないです」
「そう。なんでかしら……」
「理由はエリチと同じや」
と、希が答えた。
絵里は希の言葉に思う当たるものがあるのか、再度驚いた様子で問いかける。
「え? 同じって、穂乃果も持ってるの?」
「持ってる……?」
「これのことよ」
絵里はリボンを外すと、ブラウスの第一ボタンを外し、その下に隠れている青い輝石を取り出した。
黒い紐に繋がれている、海のように深い青色をした輝石。それを見た時、穂乃果のポケットにある赤い輝石からほんのり暖かみを感じた。
取り出してみれば、ほんの少し輝いているように見える。
「穂乃果のは赤いのね。希が言うにはこれのおかげで、スマートフォンを耳に当てられても正気でいられるみたいなの」
「これのおかげ……」
そう言えば、今朝ヒデコから電話を受けた時も、同じようなことがあった。初めてウルトラマンギンガの戦いを目撃した時も、この輝石が光を放って怪獣の攻撃から守ってくれたことがある。
もしかしたらこれは、そういったお守りなのかもしれない。
「とにかく、一旦状況の整理をしよか」
と、希が提案をした。
三人は今の状況を整理するため、お互いの状況を確認し合う。
どうやら、絵里たち三年生も、教室に入った時クラスメイト全員の様子がおかしかったらしい。いつもであれば他愛のない話しているはずの子が、席に着いて静かにしている。穂乃果たちと同じだ。
そして、誰かのスマートフォンが着信音を鳴り出すのと同時に、襲いかかってきた。
「私たちも同じです。朝電話をかけてきた友人に、そのことを訊こうとしたら、電話を向けてきて」
「その後、クラスメイト全員が襲いかかってきた」
「はい。それで、私とことりちゃんを逃すために海未ちゃんが……」
「そう……私たちの方も自分たちの教室を抜け出した後、にこのところに行ったんだけれど、遅かったわ。今はことりたちと同じように気を失ってる。けど希、起きてくるってことはないのかしら?」
「それはわからんな。もし他の誰かがまたスマホを耳に押し当てたら復活するかもしれへん。いまウチがやってるのは、一時的な無力化でしかないから」
そう言って、手に持つ半透明な水色の短剣のようなアイテム、ギンガライトスパークを撫でる希。これは以前、“異形の海”に攫われた絵里を救出するために、にこから借りたもの。返さずにそのまま希が持っていたのだが、これによってにこがやられてしまったことを考えると、少しだけ申し訳なく思えてくる。
「それのおかげで、絵里先輩たちは無事だったんですか?」
「ええそうよ。それで生徒たちを無力化して、穂乃果たちを助けに行こうとしていたことろだったの」
「これで軽く叩けば、叩かれた人は気を失ったように倒れる。一見物騒に見えるけど、イメージとしては憑き物を祓う感じやな」
希が持つ〝ギンガライトスパーク〟は、一条リヒトが持つギンガスパークのダミースパークであり、性能は劣っているが、同じく光の力を宿している。そのため、闇を打ち払うことができるのだ。そのおかげで、様子がおかしくなってしまった生徒たちを無力化でき、ここまで逃げ切れている。
「……希先輩って何者なんですか? ギンガさんのことを知っていたようでしたし、私の時も」
「そうやね。巫女さんのバイトをしてるから、そのおかげかもね」
「はぐらかさないでくださいよ」
「ふふっ。女の子はミステリアスな方がええんよ」
そして、これは同時に生徒たちがおかしくなった原因が『闇』であることを意味していた。
あの〝異形の海〟での戦いで、闇の刺客であった『ローブ男』は消滅したはず。それならば、今回の騒動を引き起こした闇の刺客はローブ男とは別の者の仕業? それともローブ男が生きているのか。
いずれにせよ、闇との戦いは終わっていなかったということだ。
そして同時に、闇が動いているということは、リヒトも気づいているはず。
大丈夫。リヒトが気づいるなら、きっとどうにかなる。
「真姫ちゃんたちは大丈夫かな」
ぽつりと、穂乃果が言った。
「……どうやろ。一クラスしかない分、逃げやすいのかもしれへんし、あっさりやられてるかもしれへんし」
「……私たち、三クラスあるのによく逃げ切れてるわね」
「言われてみればそうやね」
と、少し茶目っ気にウィンクする希。少しでもこの場の空気を明るくしようとしたのだが、あまり手応えはよくなかった。
「それで、これからどうするか考えましょう。いつまでもここに立てこもってるわけにはいかないでしょうし」
仕切り直すように絵里が言った。
「そうやねー。ここにいるのが安全なんだろうけど、〝絶対に安全〟とは言い切れ──」
──ない、と希が続けようとした時、誰かのスマートフォンの着信音がそれを遮る。
三人の表情が瞬時に強張った。
「なんで!? マナーモードにしたはずなのに!」
音の発生源であるスマホの持ち主、穂乃果は驚き声とともにスマホを取り出した。
「穂乃果! 絶対でちゃダメ! いますぐ切るのよ!」
「はい!」
すぐに通話終了ボタンをタップする。
しかし、再び着信音がなり始める。
「電源を切るんや!」
希の言葉にハッとして、穂乃果は電源を切った。これなら電話はかかってこない。
──そう思っていたのに、
「嘘っ!? 電源を切ってるのに!?」
電源を切ったはずのスマートフォンの画面は光を灯し、着信を鳴り響かせる。
そして、もう一度電源を切ろうとボタンを長押しし、『電源を切る』をタップしようとした時、
「──!?」
突然視界が真っ白になった。
でもそれは一瞬。次の瞬間にはノイズを聞いた時と同じ感覚──意識をかき混ぜられる感覚に襲われた。
「──あぐっ!」
呼吸が止まる。
体が酸素を求め始める。
視界がぐるぐると周り、やがてポケットの赤い輝石が輝くとそれは治った。
「穂乃果!」
「穂乃果ちゃん大丈夫!」
「は、はい……大丈夫、です……」
膝から崩れ落ちる穂乃果に駆け寄る絵里と希。
呼吸を整えながら、穂乃果は床に落ちたスマートフォンに視線を向ける。手放したスマートフォンは、偶然、液晶画面が下になるように落ちている。
「なんで……電源、切ったはずなのに……」
「それだけやない。穂乃果ちゃんはスマホを耳に当てていなかったのに、何かに襲われた。違う?」
「はい……画面を見た瞬間目の前が真っ白になって、スマホを耳に当てられた時と同じ感覚に襲われました」
「どういうこと……? 電話に出なければ安全じゃなかったの?」
絵里の言う通り、これまで様子がおかしくなった生徒たちは、みんな着信音が鳴り響くスマートフォンを耳に当てることでおかしくなっていった。
実際、絵里は自分のクラスメイトがこの方法でおかしくなっていくのを目にしているし、絵里も耳にスマホを当てられた時意識がかき混ぜられる感覚に襲われたのだ。
それなのに、穂乃果は画面を見ただけでその感覚に襲われたと言った。
「……まさか、画面を見たのが原因?」
と、希が言った。
「え……? 希、どう言うことよ」
「最悪や。とんでもなく最悪なことになった!」
「希! 何がわかったの⁉︎」
やがて希は、苦虫を噛み潰した表情のまま、重々しく語り始める。
「……みんなをおかしくしている原因の『ナニカ』は、電話に出ること、正確にはスマホを耳に当てることをトリガーにみんなをおかしくしていた。けど、それは電話に出ないことで防がれてしまう。だから別のやり方を見つける必要があった。原理はわからないけど、
「そんな……。でも、私と穂乃果はこの輝石のおかげで平気なんでしょ?」
「一時的には、やろね。もし耳にスマホを当て続けられたり、画面をずっと向けられたらどうなるかは、わからんよ」
重い空気が広がり始める。
そして、それを引き裂くかのようにドアが揺れる。
ガタン、ガタンと、鍵がかかっているドアを無理矢理開けようとしている。壊れるのではないかと思えるほどの乱暴さでドアが揺れる。
「気づかれた!?」
「さっきの着信音が原因やな」
「ごめんなさい! 私のせいで」
「謝ってる暇なんてないで。この調子だと、ドアが壊されるのも時間の問題。それまでに逃げないと」
「幸いここは一階。窓から逃げましょう」
絵里の提案にふたりは頷いた。
一階程度の高さなど、あるようでないようなものだ。
窓を開けて三人は順番に外へ出る。
「私、奉次郎さんのところ行こうと思ってたんです! 奉次郎さんならなんとかしてくれると思って!」
思い出したかのように穂乃果が言った。そして、ひとり正門へとむかう。
「穂乃果!」
「ひとりになるのは危険や!」
穂乃果の後を追うふたり。
正門までは誰の邪魔も入ることなく辿り着くことができた。
しかし、ゴツンと、透明な壁に阻まれる。
「ええ!? 何で!?」
おでこを押さえながら、穂乃果は声をあげた。
駆けつけてきた絵里が、そっと掌を前に出す。絵里の手には、壁のような物に触れてた感触が返ってくる。
透明な壁がそこにある。
「もしかして、私たち閉じ込められてる!?」
「……みたいやね」
絵里の言葉を希が肯定する。
希が見ているのは空。穂乃果と絵里も釣られて空を見上げる。そこには、いつもの青空とは異なる、異様な色をした空が広がっていた。
赤黒く不気味な色をした空。よくみれば地面も紫色に変色している。
そこは、穂乃果たちがファーストライブをしたあの日に巻き込まれた、闇属性の異空間。
これによって、完全に隔離されたことになる。
「そんな……」
絶望の表情を浮かべる穂乃果。
これでは奉次郎の元に行くことができない。いや、それよりももっと事態は最悪なことだと判明した。
間違いなく、学校の敷地内に閉じ込められたと考えられる。逃げられる範囲が限定され、校舎内には様子がおかしくなった生徒たち。これでは、どこに逃げたとしても、捕まるのは時間の問題。
「……とにかく、どこかに隠れましょう。ここにいたら目立つわ」
「そうやね」
「…………」
「大丈夫やで、穂乃果ちゃん」
不安で言葉を無くした穂乃果に向けて、希はそう言った。
「……え?」
「こういう時、遅れても必ず駆けつけてくれる。それがヒーローやから」
☆★☆★☆★
実のところ、一年生組の中で唯一、西木野真姫だけが生き残っていた。いや、この場合は生き残ってしまったとも言える。
教室に到着した真姫は、様子のおかしいクラスメイトに不信感を抱いた。その異変に真っ先に気づけたのは、真姫が優れた聴力を持っていたおかげだったのかもしれない。スマホから鳴る着信音から感じた、絶対に聞いてはいけないという予感。それに従い、いち早く教室から飛び出したのだ。
もちろん、花陽と凛にも忠告はした。しかし、花陽が捕まってしまったため、助けるために凛は教室に戻り、結局真姫だけが屋上にたどり着いた。
「……なにが、どうなってんのよ……」
空も変色している。そんな状況を理解する術が真姫にはない。もし下の階に逃げていれば、希たちと合流できて状況を理解できかもしれない。
しかし、一年生のクラスは四階にある。それに、咄嗟に向かった階段が屋上へつながるところだったのだ。仕方ないと言えば仕方ない。そう自分に言い聞かせるしかない。
だが、この選択は明らかに失敗だった。屋上となると、逃げ場などほとんどない。おまけにドアを押さえつけるものなどないため、誰かに簡単に開けられてしまう。
「誰か……助けて……」
状況がわからない。
何が起こっているのかわからない。
それが、一番怖い。
誰か、この状況を説明できる人がきてほしい。切にそう願う真姫だが、不意に屋上の扉が開く。
「!?」
慌てて隠れる。扉の反対側に身を潜めたため、真姫からも誰が何人来たのかわからない。
「…………」
とにかく、息を潜めて待つしかない。こっちに近寄る気配があれば、反対側に逃げる。
その駆け引きで生き残るしかない。
そっと、真姫は手に持つ鞄から〝ギンガライトスパーク〟を取り出す。以前、リヒトからお守りとして受け取ったギンガライトスパーク。
もちろん、真姫はそれがどういったものか知らない。だから、取り出したのは本当に偶然。
あとは、もうひとつ偶然を起こし、それで様子のおかしくなった生徒たちを無力化できるということを知ることさえできればいい。
「………………………………………………………………………………………………」
静かに、息を潜める真姫。
気配が、近づいてきた。
☆★☆★☆★
学校の敷地内を移動する穂乃果、希、絵里の三人は、身を隠しながら移動をしていた。
「……おかしい」
と、絵里が言った。
「どうしたんですか?」
「外に全く人気がないなんて、おかしいと思わない?」
「言われてみれば……」
絵里の言う通り、いくら音ノ木坂学院が廃校の危機に瀕しているとはいえ、各学年合わせて六クラス。それに教員の人数を合わせれば、そこそこの人数になる。それなのに、ここまで全く遭遇しないのはおかしい。
「どこかで待ち伏せている……とかですか?」
「ありえるわね……希、何かわからない?」
「えらく頼りにされてるんだけど、ウチがなんでも知ってるわけじゃないかね?」
「……そうね。ちょっと希に頼りすぎてたかも」
このメンバーの中で一番『知っている』人物は希なのだ。『知らない』側からしてみれば、『知っている』人間の存在は知りたい答えを知っている。だから、つい頼ってしまう。
本当は知っているのではないだろうか? この状況が一体なんなのか。解決策はあるのか。
「……本当に、何が──」
バリン! と、どこかの窓ガラスが割れたような音がした。
えっ、と誰もがその音がした方へ視線を向ける。
──果たして、そこには数十人の生徒がいた。
「見つけた」「電話」「あなたたちに電話よ」「ほら出て」「大丈夫。すごく楽しいから」「電話だよ」「電話よ」「出て」「おいで」「怪しくないから」「ほら──電話が鳴ってる」
「────っ!!」
すぐに走り出す。
振り返ってはいけない。電話だけでなく、画面を向けられた瞬間アウトなのだ。
見てはいけない。
自分たちにできることは、ただ逃げるだけ。
この事態を解決してくれる、光が来るまで。
「電話よ」
その声は
規則正しい足の音。
(まさか、陸上部!)
陸上部の生徒、中でも短距離を種目としている生徒がいたら、まず足で勝つことはできない。
捕まるのは、時間の問題。
そして、希の予想が正しかったと証明するかのように、肩に手が置かれた。
「──!!」
呼吸が、止まった。
心臓を掴まれたような、全てが止まるような感覚。
大丈夫。焦るな。ギンガライトスパークで叩けば、まだなんとかなる。だから、この右手を動かせ。
「──あ」
誰かに抱きつかれた。
そのまま、重力に従って転倒。
耳に、何かが当てられる。
意識がかき混ぜられる。
その前に、ギンガライトスパークで自分の頭を叩け。そうしなければやられる。
だが、右手を誰かに押さえつけられた。
「──っ!?」
対策手段が封じられた。
それにより一気に恐怖が駆け上がってくる。
横目で確認できた。自分にのしかかってくる人数は三人。どう足掻いても、自分一人でどうにかできる人数ではない。
「希!」
「希先輩!」
ふたりが名を呼ぶ。
「──逃げて!」
そう叫ぶしかない。
そして、耳と目の前にスマホを突き出されて──、
天より飛来した青い光が、希にのしかかった少女を無力化した。
「──え」
眩い輝きを放ちながら現れたのは、ウルトラマンギンガだった。しかし、いつもの六十メートル越えの巨人ではなく、170センチほどの人間サイズだ。
差し出されたギンガの手を取り立ち上がる希。
その横に、もうひとつの影があった。
「希ちゃん、大丈夫か?」
「奉次郎……さん?」
ギンガと一緒に現れたのは榊奉次郎。音ノ木町ではちょっとした有名人であり、『ティガ伝説』の古文書を継承している『榊家』の人間。
そして〝怪異〟に対抗できる人間。
「ええ!? ギンガさんに奉次郎さん!? どうしてここに……」
「何、ギンガに案内されたんじゃよ。今回は自分一人では難しそうじゃからって」
「そうなんですか……」
驚きを隠せない穂乃果の視線は、自然とギンガへ向けられる。いつも、何十メートルといった巨人の姿でしか見たことのないウルトラマンギンガが、自分たちと変わらない人間サイズでいる。
この、なんとも言えない新鮮味に穂乃果は驚きと戸惑いを感じていた。
ギンガはクリスタルを緑色に変化させる。それは、ギンガの持つ浄化技──〝ギンガコンフォート〟を放つ際の色だ。
ギンガコンフォートの光で、こちらに向かってきていた数十人の生徒を無力化させる。
すると、ギンガは視線を上に向けた。誰かの悲鳴が聞こえたのだ。
ギンガは一度奉次郎の方を見る。まるで、ここを任せたいと言っているようだった。
「うむ。任せるのじゃ」
奉次郎の返答を聞いたギンガは、音ノ木坂学院の屋上に向かって飛んでいく。
屋上では、今まさにスマホを向けられている真姫の姿があったのだ。
「え?」
ギンガの姿に真姫は驚きの声をあげる。
ギンガは同じくギンガコンフォートで真姫を襲っていた生徒たちを眠らせると、真姫を自分の方へ抱き寄せた。
へ、と真姫の口から変な声が漏れる。
抵抗などする暇はなかった。ギンガは真姫を抱き寄せるとすぐに飛び立ち、地上で待つ穂乃果たちの元へ真姫を連れてきたのだ。
「真姫ちゃん! 無事だったんだ!」
「高坂先輩、それに生徒会長も……」
「真姫、無事だったのね」
「他の子達は?」
希の質問に、真姫は視線を伏せた。
それが答えだった。
「……そっか。それじゃあ無事なのはウチらだけってこと」
「……はい」
と、真姫は答えた。
重い空気が流れる中、空から雷が落ちた。全員の視線がそちらに向く。
雷の落ちた場所には、一体の怪獣がいた。
「あれって……」
その姿に、穂乃果は既視感を感じる。
複数の眼を持つ顔と、腹部だけでなく襟巻きにも顔を備えた異形の怪物。
その名は〝クインメザード〟。以前、穂乃果が初めてウルトラマンギンガの戦いを見た時に現れた怪獣、サイコメザードの進化系だ。
クインンメザードは、複数の眼でこちらを、正確にはギンガを見据える。
ギンガは一歩前に出ると、全身を輝かせた。その光はどんどん巨大になっていき、六十メートルを越え、巨人となる。
巨人となったギンガを威嚇するクインメザード。
『……お前、前に一度倒したはず……パワーアップってやつか?』
インナースペースに立つリヒトは、以前戦ったサイコメザードと目の前の怪物の姿が異なっていることにそんな感想を抱いた。
視線を凝らして見てみると、インナースペースはみられない。つまり、あの時と同じように怪獣自身が相手となる。
クインメザードは雄叫びを上げ、ギンガを睨む。その目には強い復讐の色があった。
『なるほど……リベンジってわけか。だけど悪いな。今回も俺が勝つぜ』
ギンガスパークを構えるリヒト。
両者は睨み合う。
戦いの火蓋は、切って落とされた。
今の時代にもしメザードの話が描かれたら、どんな感じになるのか。
ガイア放送時は携帯電話だったものが今はスマートフォン。誰でも持っているこの時代で、もしメザードが暴れたら、とんでもないことになりそう。
そんなことを考えながら思いついたのが、『画面を見ただけでアウト』という展開でした。他にも色々描こうと思いましたが、長くなりそうなのでやめました。
それでは、次回第三章あたりで決着ですかね。