第12話・第二章になります。
前回の冒頭で今回のターゲットが誰なのかすぐにわかってしまったようですね……まあ、自分でも「これすぐ気づくよな」と思ったので、仕方ないんですけどね。
それでは、どうぞ。
[2]
気づけば、またここへ足を運んでいた。
二週間毎日訪れていたからだろうか。意識しなくても、体が勝手にここを目指していた。
そんな自分の精神状態に苦笑いをしつつ、せっかく訪れたのだからお参りをしていこうと、いつも通りに賽銭箱の前に立つ。
小銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼。
「…………」
しかし、もはやこの行動に意味を見出せる程心は幼くなかった。
この行動に意味があるのか。おそらくそんなものはない。この先にいい結果が訪れるとは思えない。
この先に待っているのは選択を迫る『彼』だけ。
壊すか、それとも見捨てるか。
どちらを選んでも、何かが壊れてしまう選択。
回避する術はない。どちらの選択にも希望がない。
小さな希望はあるのかも知れないのに、それが実る前に絶望の方が選ばれてしまう。
「…………」
だめだ……と、自己嫌悪に陥る。
なぜ信じてあげることができないのか。
なぜ任せることができないのか。
なぜ、背中を押すようなことができないのか。
色々と知ってしまった大人だからだろうか。現実を知ってしまったからだろうか。どうすれば、いいのだろうか。
抜け出せない迷路をずっと歩き続けている。そんな感覚に、ため息が一つ溢れるのだった。
☆★☆★☆★
二週間。それは長いようで経ってしまえばとても短い時間。日数に変えると十四日ほど。
『運命の日』を音ノ木坂学院は迎えていた。
正門を通ってみればいつもと同じ、だがどこか違う空気が流れていると肌で感じることができる。
奉次郎がそう感じるのだから、生徒たちや教師たちはどう感じているのだろうか。
そんなことを思いながら、奉次郎は受付へと向かう。
「それでは、こちら入校許可証になります。必ず首にかけてください」
「うむ、わかった」
受付を済ませ、差し出された入校許可証を受け取る。それを首にかけ、受付をしてくれた事務員に会釈をすると、案内役を任されている希と合流した。
「では、案内頼むぞ」
「はい」
希に案内を頼み、その隣を歩く奉次郎。
オープンキャンパスの日ということもあって、校内には音ノ木坂学院とは違う制服に身を包んだ少女たちがいた。近隣の中学校の制服だ。
その数は『多い』と表現できる。彼女たちがこのオープンキャンパス終了後に記入するアンケードの結果で、学校の運命が決まる。
もちろん、彼女たちはそんな事情を知らない。『廃校の噂』ぐらいは耳にしているだろうが、自分たちがその運命を握っているとは考えもしないだろう。
すれ違う女子中学生たちが、奉次郎の姿を目にすると驚いた表情を浮かべる。女子校に部外者がいることに対してか、それとも音ノ木町では色々と有名な奉次郎がいることに対してか。
一応、入校許可証は首にかけているため怪しまれたとしても説明はできる。しかし、彼女たちの視線から察するに、驚いている理由は後者だろうなと奉次郎は勝手に思った。
そんな彼女たちに会釈を返しながら、ふと感じた懐かしさに頬を緩ませる。
「懐かしいのう……
「美鈴さんって、りっくんのお母さんですよね?」
と、奉次郎の呟きが聞こえたのか希が訊いて来た。
「うむ。榊家の長女にして元プロダンサー。現在は静岡で喫茶店を経営しとる、わしの自慢の娘じゃよ。妻と、あと次女の
そう語る奉次郎の表情はとても楽しそうで、懐かしそうだった。
「今でも昨日のことのように思い出せるわい。もう数十年前だというのに、娘との思い出は何年経とうと
「そうなんですか?」
「そうじゃよ。ワシも父親になる前は点でわからんかった。じゃが
瞼を閉じれば、その裏には娘、息子たちとの思い出が浮かび上がってくる。
長女・美鈴、次女・優子、長男・
三人の子供たちのうち、二人はこの学校で高校生活を過ごしたのだ。三年間の体育祭や部活動、文化祭などの学校行事で奉次郎は何度か音ノ木坂学院を訪れている。二人の母校、正確には妻である京子もこの学校の卒業生であるため、三人の母校であるこの音ノ木坂学院への想いは奉次郎だってそれなりにあるのだ。
そんな思い出の地がなくなってしまうかもしれない。
思い出の地を残すために、妻と子供たちの後輩が頑張っている。その頑張りを邪魔しようとする輩が存在し、今もこの学校内のどこかに息を潜めている。
「奉次郎さん、りっくんは来てるんですか?」
と、希が訊いて来た。
もちろん、奉次郎もあの戦いのあとギンガスパークが闇の波動を感じ取ったことを知っている。その正体を突き止めるために、今この場にいるのだ。
「来とるよ。というか、今もワシと一緒にいる」
「え? 一緒に?」
奉次郎の周りに視線を向ける希。
しかし、そこに誰かがいる
「ここじゃよ」
そう言って、奉次郎は左の袖口が見えるように腕を動かした。
首を傾げる希。すると、ひょこっと袖口の中からカオスジラークが顔を覗かせる。
「え? りっくん?」
やや驚いた声を上げる希。その声が聞こえたカオスジラークは、手を振って反応してみせた。
その姿に、希はしばし呆然とする。袖口に収まっているということは、今のカオスジラークはおよそ二十センチ程の大きさだ。大きさとしては可愛げのある数値だが、見た目は何も変わっていないため、やや不気味である。
「先日、ギンガにライブした際に体の大きさを変えることができてのう。それを怪獣でも試せないかと思ったところ、この通り」
できた、と奉次郎が言葉には表さずに視線で言った。
希の方は、なんとも言えない表情をしている。
「…………」
「まあ、そうなるのも無理はないのう。見た目が少しでも可愛くデフォルメされればよかったかもしれんが、ただ小さくなっただけじゃからの。正直ワシもまだ慣れん」
人形のような無機質感はなく、生物特有の『生きている』を感じる全長二十センチ程のカオスジラーク。それはなんとも言えない感覚を見ている者に与え、しかし、それを飲み込んだ希の脳はようやく動き始める。
「……でも、これで正確に闇の波動を探索できますね」
「うむ。それまではいっときも気を抜くのではないぞ」
そう言って、袖を揺らす奉次郎。
カオスラークはまるで転がるように袖の中に消えて行った。
「随分荒い扱い方ですね」
「緊急とはいえ、女子校への潜入方法を考えていた不届き者じゃからの。その罰じゃ」
確かに、会話の時は普通に流していたが、冷静に考えればリヒトは女子校に潜入しようとする不届き者だ。
かわいそうではあるが仕方のないことだと希は心の中で合掌した。
「闇が動くタイミングじゃが、わしらの予想ではライブの開始直前ではないかと思っとる。その場全員を異空間に送り込めば、ライブどころではなくなってしまうからの」
「はい。ウチもそこを危惧しています」
μ’sのファーストライブの時、ライブの準備をしていた穂乃果たちが異空間に送り込まれたことがある。リヒト──ウルトラマンギンガが駆けつけ無事に怪獣を倒せたが、ライブの開始時間は五分ほど遅れた。
しかし、今はあの時と違いμ’sの存在が認知されている。ライブの会場も校庭に設けられ、あの時以上に大きな規模のステージが用意されている。
もしそれに少しでも遅刻したらどうなるか。また、ウルトラマンと怪獣の戦いを見た後に万全なパフォーマンスができるだろうか。
そもそも、巻き込まれた時点で無事に帰って来れる保証がない。
巻き込まれるのは、最悪に近い状況へと陥るのだ。
「探索はワシらの方で受け持つ。希ちゃんは、難しいじゃろうがライブの方に集中するのじゃ。希ちゃんたちにとっては、ライブの方が重要なんじゃから」
「……はい」
「心配せんでもよい。リヒトが必ず見つけ出す。そして、必ず勝つ。今までみたいに」
「わかりました。頼りにしとるで、りっくん」
希の期待に応えるように奉次郎の袖が揺れた。
☆★☆★☆★
希の案内について行き、目的の部屋の前にたどり着く奉次郎。
視線が上の方にいく。プレートにはこの部屋の名前。その一文に、奉次郎はかすかに眉を動かした。
「ここが『超常現象研究部』の部室です」
希がプレートの文字を読み上げる。
「……こんな部活があったとはの」
少なくとも、次女の優子が通っていた時にはなかった部活だ。
もちろんそんなのはもう数十年前の話なので、あてにならない情報だと奉次郎も理解している。
むしろ、この町の過去を知っている奉次郎からすれば、ようやくこの手の部活が出来上がったのか、と言った感じである。
「ほとんど活動していない部活やったんですけど、この前の件でまた熱が盛り返したみたいで。それで、新規活動の一発目に色々と『噂』がある奉次郎さんにインタビューしたいみたいなんです」
「む、先日のことを覚えとる、ということか?」
「いえ、鮮明には覚えていないみたいです。ただ、多くの生徒が似たような夢を見たって感じで。『こんなに大勢が似たような夢を見るなんて、何かあるー!』って、また活動を始めたみたいです」
二人が話しているのは、先日音ノ木坂学院を巻き込んで起こったクインメザードの件だ。クインメザードによってスマホの着信に出た者、さらには画面を見た者がまるで操り人形と化したかのような怪異事件。無事にウルトラマンギンガによってクイメザードは倒され、この怪異事件は解決した。
希の話では、この時のことを鮮明に覚えているのは最後までクインメザードの術中に陥らなかった希、穂乃果、絵里の三名だけ。そのほかの術中に陥ってしまった生徒たちははっきりとは覚えていないものの、まるで夢を見ていたかのような感覚で朧げに覚えているらしい。
しかしだ。
それが『超常現象研究部』の部長。元々占いや超常現象といったオカルト話が大好きで、霊感が強い希も彼女と出会った時に色々と話を聞かれたようだ。
「一応、ウチも数ヶ月だけこの部活に所属してたんです。そしたら、奉次郎さんにインタビューさせてくれって言われまして……押しが強い子なんで断るに断れず……」
希を押し切るとは余程の人物なのだろう、と聞き耳を立てていたリヒトは思った。
「まさか、ワシの噂がこんな形で生きてくるとはのう。人生とはわからんものじゃ」
奉次郎はそのインタビューに応じるために音ノ木坂学院にやってきたのだ。インタビューに応じれば、正式に音ノ木坂学院の敷地内に入ることができる。
もちろん、理事長である比奈に相談すれば入れたかも知れないが、その場合は負担をかけてしまうことになる。それはきっと、今の精神上あまりよろしくないと奉次郎は思ったのだ。
「あ、希。待ちくたびれたわよ!」
ちょうど部室の扉が開き、中から三年生だと思われる黒髪ロングの女子生徒が顔を出してきた。
「ごめんごめん、待たせてもうたな。この人が、奉次郎さんや」
「初めまして! 私、超常現象研究部部長、
「う、うむ……」
芥耀と名乗る少女テンションの高い少女。その近い距離感に圧倒される奉次郎。
気のせいか、その瞳がキラキラと光っている。先程希はクインメザードの件で熱を盛り返したと言っていたが、このテンションの少女が一旦熱を失っていたとは俄かに信じられなかった。
「何から聞こうかな〜」
まるで水を得た魚のように生き生きとした少女を前に、奉次郎はしばらく圧倒され続けるのだった。
☆★☆★☆★
芥耀によるインタビューは奉次郎が予想していたよりも長時間行われた。事前に色々調べていたのだろう。質問内容はしっかりまとまっていたのだが、耀の探究心は奉次郎の想像をはるかに超えていたのだ。
そのあまりにも熱の入った姿勢に最初は圧倒されたものの、その熱に隠された純粋な好奇心はとても綺麗で眩しいものだった。久しぶりに純粋な心を持つ若者を前にした奉次郎は、つい次回のインタビューまで約束してしまった。
そして現在、もうしばらくしたらμ’sのライブが始まるということでインタビューは一旦終了となったところだ。
奉次郎は耀とともにライブ会場へ向かうために移動していた。
その途中、向かいからやってくる少女に気づく。
「ん? ことりちゃん?」
「奉次郎さん? どうしてここに?」
向かいからやってきた少女、南ことりは奉次郎の姿に驚いた表情を浮かべた。
「超常現象研究部のインタビューに呼ばれてのう。先程まで受けておったところじゃ。今、ちょうどライブの方を見に行こうとしてたんじゃが、ことりちゃんこそ準備はいいのか?」
ライブ開始までまだ時間があるとはいえ、準備を始めていた方がいい時間帯だ。それなのに、ことりはまだ衣装に着替えていない。
「お母さんに呼ばれて」
「比奈さんに?」
「はい。なんでかはわからないんですけど、私もちょうどライブを見にきてねって言おうと思ってたんです。お母さん、最近いつも忙しそうで少しつらそうに見えるから。私たちのライブを見て、少しでも元気になってくれるかなって。絵里先輩も、元気のない亜里沙ちゃんに元気を与えたいって言っていたから、私もお母さんに元気を与えたくて」
なるほど、と奉次郎は思った。ことりの母、南比奈は最近思い詰めた様子で神田明神に足を運んできている。おそらく、この学校の廃校についてだろう。
その姿を見かねた奉次郎が声をかけ、相談相手になっていたのだが、娘の目にも元気がないと映ってしまうほど、比奈は疲弊しているらしい。
さらに、今日で音ノ木坂学院の未来が決まる。落ち着いていられる訳がないだろう。
「ふむ、ワシも行っても良いか?」
「お母さんのところにですか?」
「うむ。最近よく相談相手になっていたからのう、ワシも気になるんじゃ」
「いいですよ」
「ありがとう。では、耀ちゃん。ワシは行くところができたから、すまんが先に行っててくれんか」
「わかりました」
と、言って先にライブ会場の方へ行こうとして、耀は一度ことりを見る。
「楽しみにしてるからね!」
サムズアップをして、彼女は進んでいった。
「これは、失敗できないのう」
「はい」
楽しみにしてくれている人がいる。
それはパフォーマンスを行う者にとって、この上ない喜びだ。その一言で、一気にやる気が湧いてくる。心の温度が上がる。その人を楽しませたいと、心が動くのだ。
しかし今は先に行くところがある。その熱い気持ちは保ちつつ、燃え上がるその時まで一旦落ち着かせておく。
程なくして、ふたりは理事長室へとたどり着いた。
ことりがノックをして返事を待つ。
「あれ?」
しかし、すぐに返事がなかった。時間を考えても、比奈はこの中にいるはずなのに。
もう一度ノックしてみる。すると、今度は「どうぞ」という返事が聞こえた。
「失礼します」
母親に会いに行くとはいえ、学校では生徒と理事長というポジションでもある。ことりの雰囲気は『母と子』のそれではない。『生徒と理事長』の雰囲気だ。どこかで切り替えるのだろうと思っていると、奉次郎の左袖が
奉次郎の体に緊張が走る。
それはつまり、ギンガスパークが闇の波動を感じ取ったということ。奉次郎へ知らせるためにリヒトが大きく動いたのだ。
すぐさま奉次郎はどこに闇がいるのか室内に視線を走らせつつ、すでに入室してしまっていることりを保護するべく手を伸ばす。
「──すまないけど、ご老人は退室願おうか」
そんな声が聞こえたのと同時。奉次郎の体が後ろに吹き飛ぶ。
何かが体の前から襲ってきた。防御も反応もできず、理事長室から追い出される奉次郎の体。
廊下の壁に背中から叩きつけられ、息が詰まる。その目の前で扉が閉まっていく。
──しまった、と思った時にはもう遅い。
閉じられる扉。
だが、
ならば、ここは託すしかない。
☆★☆★☆★
理事長室に足を踏み入れた瞬間、ギンガスパークが激しく反応を示した。奉次郎に合図を送ったが、すでに遅いと考えていい。ならば、と袖を切り裂いて自ら飛び出したのだ。
そして、部屋の中にいるある人物の存在に目を見開く。
「──なっ!?」
ボロボロのローブを着た銀髪の男。フードに隠れていた顔があらわになっているため、一瞬誰なのかわからなかったが、ギンガスパークの反応が答えを示していた。
目の前の男は間違いなく、これまでμ’sの心の闇を利用してきた『ローブ男』だと。
──ならば、狙いはことりか。
すぐに体の大きさを人間サイズに変え、カオスジラークの力を行使する。
伸びる鞭。
しかし、銀髪男は右手で弾くと、突き出した左手から衝撃波を放つ。
閉まったドアに背中を打ち付け、床に倒れる。
「え!? な、なに!?」
「……!?」
突然の事態に、ただ困惑する南親子。
カオスジラークはすぐに起き上がり、反撃に出ようとして、
「動くな」
銀髪男の手に捕まることりの姿を見た。
口を押さえられ、もがくことり。
「変身を解いて、持ってるスパークドールズとギンガスパークを床に置いた方がいいよ。じゃないと──」
ことりの瞼が閉じる。
その体から力が抜け、銀髪男の手がことりの細い首に添えられた。
──くっ、とリヒトは唇を噛んだ。
「ことり!」
「理事長もだよ。大人しくしててね」
「……娘には手を出さないで」
「それは彼次第さ」
言葉は理事長に、視線はカオスジラークに向けられている。
続けて理事長の視線がカオスジラークに向かい、拳を握り込むカオスジラークが光に包まれた。光が収まると、見知った顔の少年が現れる。
「リヒトくん!?」
「…………」
ウルトライブを解いたリヒトは、手に持っているギンガスパークとカオスジラークのスパークドールズ、さらにポケットから取り出したダークガルベロスのスパークドールズを床に置いた。
床に視線を向けた銀髪男が怪訝な表情を浮かべる。
「それだけ?」
「ああ。あまり物は持たない主義なんだよ」
「ふーん。カオスジラークにダークガルベロス……手持ちに選ぶのには妥当だと言えるね」
「言われた通りにしたぞ。ことりをはなせ」
銀髪男は肩をすくめると、ことりを手放した。
床に落ちることりの体。
同時に、床に置いたギンガスパークを蹴り飛ばそうとしたところで、先に銀髪男の
衝撃波が襲いかかり、リヒトの体が後ろに飛ぶ。再びドアに激突し、肺から空気が押し出される。
「残念。ギンガスパークの先端をこっちに向けて置いてる時点で、怪しむには十分だよ」
床に倒れ、咳き込みながらも起き上がろうとして、
「ほら、押さえて」
何者かがリヒトを押さえつけた。
「ぐっ、この……っ」
押さえつけられた頭を動かして、背中に乗っている人物を視界の端に捉える。
そこにいたのは、髪も肌も白い少女だった。
驚きがリヒトを襲う。先程まで気配も姿もなかった。ギンガスパークが感知した闇の波動は一つだけ。銀髪男だけのはずだ。
ならば、この少女はどこから現れた? 一体何者だ?
「誰、だ……」
「お前が知る必要はない」
冷たい声で言い返す少女。小柄の体格からは想像できない力で押さえつけられる。
だが完全に押さえつけられたわけではない。無理矢理になら脱出できる。そう判断して、力づくで抜け出そうとするが、
「させんぞ」
もちろん白い少女が見逃す訳がない。リヒトの動きを封じるために、白い少女は己の小さな口をリヒトの首元に近づけ、噛み付いた。
少女の歯は容易くリヒトの首に穴を開け、血とともにリヒトの中に眠る『光』を吸い取る。
『光』を吸い取られ、リヒトの体から力が抜けていく。
「気をつけなよ。前回、勢いよく飲みすぎて、しばらく動けなくなったの忘れた?」
「あんな失態を忘れるわけなかろう。二度同じ失敗はしない」
白い少女はリヒトの首に再度口をつけ、光を吸う。
「ま、しばらく動きを封じててくれればいいから」
銀髪男はリヒトが置いたスパークドールズを拾い上げ、同時にギンガスパークにも手を伸ばしたが弾かれる。
「やっぱり触れることすらできないか」
わかりきっていたことを確認するかのような呟き。
その一方で、体から力が徐々に抜けていく感覚を味わいながらリヒトは問う。
「なんで、生きてる……あの時、消滅、したはずじゃ……」
「この体には二つの魂が宿っていてね。片方に犠牲になってもらったんだよ。とはいえ、ボクも力の大半を失って全然無事じゃないんだけど。おかげで全然力使えないし、せっかくわずかに残った力もメザードの個人的な復讐を手伝うために使っちゃったしさ。せめてボクに還元する分の闇を稼いでくれないと。そう思わない?」
同意を求めてくる銀髪男視線を、睨み返すリヒト。
その背後で、ことりに駆け寄ろうとした比奈に掌を向ける。
闇の力に捕まり、身動きが取れなくなる比奈。
「でも、あなたの心の闇を育てるきっかけになったと考えれば、完全に無駄ってわけじゃないよね」
「くっ……」
銀髪男は一度リヒトへ視線を向ける。
「本当は今すぐ君を殺したいんだけど、残念ながらそんな力も残ってないんだよね。だから、ボクが本当の力を取り戻したら相手をする。今はそこでおとなしくしてて」
そう言って銀髪男は、さっき拾い上げたカオスジラークのスパークドールズを口へと持っていき、
「あーん」
バリボリと食べ始めた。
「なっ……!? 食べ、てる……!?」
「怪獣のスパークドールズには『大いなる闇』の力の一部が封じられている。それを食べれば闇の力を回復できるというわけだ。まあ無論、あくまでエネルギー回復だけであって、力を取り戻すわけではない。応急処置といったところだ」
驚きで声を上げたリヒトに答えるように、白い少女が言った。
銀髪男はカオスジラークだけでなく、ダークガルベロスのスパークドールズまでも食べ始める。
二体の怪獣スパークドールズを食べ終えた銀髪男。まるでおにぎりを食べ終えた後かのように、その指を下で舐めた。
「……やっぱり、ギンガスパークでリードされている分薄くなってるな。まあ、二体じゃ補給できる力なんてたかが知れているし、今この場においてはこれで十分」
銀髪男は改まって比奈の方を向く。
「さ、準備は整いました。あとは、わかってますよね」
「…………」
「沈黙しても意味ないですよ。もう娘さんはこちらの手にあります。助けに来たヒーローくんもご覧の有り様。もうあなたを救う希望はないんです。それとも、失わないとわかりませんか?」
「やめてっ……!」
「なら、決めてください」
銀髪男が、怪獣のスパークドールズを一つ取り出す。
エネルギー補給のためではなく、比奈にリードさせるための怪獣。それを、比奈の目の前に落とす。
比奈は床に落ちたスパークドールズを見て、苦悶の表情を浮かべた。
今の自分に選択肢なんてない。あるのは、これを手にするということだけ。
「だめだ……! それを手にしちゃいけない!!」
リヒトが叫ぶ。
しかし、それだけではどうしようもない。もう、どうもできない状況が出来上がってしまったのだ。
「……っ!」
比奈がそれを手に取る。
銀髪男が笑みを浮かべ、
「いい判断です。ボクも嬉しい」
そう言って、ことりを含めた三人が姿を消した。
理事長室にリヒトと白い少女だけが残される。
「……どこへ行ったんだ?」
「それは私への問いか? そこまで答えるつもりはない。さあ、残りの光のいただくぞ」
三度噛み付く白い少女。
体から力が抜けていく。これ以上はまずい。南親子が銀髪男とともに消えたのだ。間違いなく、比奈は怪獣にダークライブしているだろう。なぜことりも連れ去ったのか不明だが、比奈の心に更なる追い討ちをかけるためと考えられる。
今すぐに駆けつけなくてはいけない。
しかしギンガスパークは手の届かないところにある。そもそも、背中に乗っている白い少女をどうにかしなければいけない。
なんとかしなくてはと、焦る心。
しかし、突然白い少女から苦悶の声が上がった。
同時に押さえつける力が弱まる。その隙をついて、リヒトは強引に体を動かして抜け出す。
ギンガスパークを拾い上げ、白い少女へ先端を向ける。少女は頭を押さえながら、床に手をついて苦しそうな表情を浮かべていた。
「そうか……噛みついた際の傷の修復で……くっ」
余程のことだったのだろう。白い少女は光となってその場から消えていった。
「なんだ……」
突然撤退した少女に疑問を抱いていると、
「リヒト! 無事か!?」
扉を開けて奉次郎がやってきた。
奉次郎は室内を見回して、ことりと比奈の姿がないことに気づく。
「比奈さんとことりちゃんは!?」
「──! そうだった!」
リヒトはギンガスパークを構え、しかし三人の行き先がわからない。怪獣にダークライブしているのであれば、その反応を元に行き先を特定できるのだが、その反応もまだなかった。
「じいちゃん。敵の狙いはことりの母親だった」
「何?」
「ローブ男は二人を連れて消えたんだ。きっと、ことりの母親を怪獣にダークライブさせて何かする気なんだ。それに心当たりは?」
「……UTX学園かもしれん。音ノ木坂学院が廃校する要因の一つとして、UTX学園の設立が関係していると言っていた。心当たりがあるとすれば、そこぐらいじゃ」
「UTX学園だな!」
ギンガスパークを構え、ギンガのスパークドールズを呼び出そうとして、
『リヒト』
(──ギンガ!?)
突然周囲の光景がホワイトアウトし、目の前にギンガが現れた。
『君の祖父の言う通り、怪獣はUTX学園に出現した。今位相が変わったところだ」
(じいちゃんの言ってた通りってわけか。ってか、それを言いにわざわざ?)
『もう一つ。先程の少女によって、私たちの光が吸収されてしまった。今私にウルトライブしても、三分間も戦えない』
(なっ!?)
『戦うな、とは言わない。しかし、いつも以上に厳しい戦いになることを覚悟していてくれ』
伝えるべきことは伝え終わったのか、周囲の光景が元に戻りリヒトの手にはギンガスのパークドールズが握られていた。
「リヒト?」
動きを止めたリヒトに奉次郎が声をかける。
「いや、行ってくる」
『ウルトラーイブ! ウルトラマンギンガ!!』
リヒトの体は光に包まれ、ウルトラマンギンガへと姿をかえる。
そしてテレポーテーションを行い、UTX学園を目指すのだった。
学校の廃校を理事長がどう受け止めているのか。
アニメを見た当時に抱いた疑問から生まれた今回のエピソード。
理事長として、色々と策を打っていただろうし、頑張っていただろうなって考えたら、あらま不思議ローブ男さんがこんにちわしましたよ。
娘まで攫われてしまって一体どうなるのら。
多分、次回あたりで決着となるでしょう。
それでは。