ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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お待たせいたしました。
第12話、第三章になります。
闇に囚われてしまった理事長を、ギンガは救えるのでしょうか。
それでは、どうぞ──。


第三章:親と子

[3]

 

 

『ダークライブ! グワーム!!』

 

 比奈がその手に持つ怪獣のスパークドールズを解放した。

 長い首と銀色の装甲を纏う四つ足の怪獣。その名は『グワーム』。

 別名『宇宙鋼鉄竜』。 

 UTX学園の前に姿を現したグワームは、黄色瞳で目標物を見据える。 

 銀髪男は、おもしろおかしそうにその光景を見ていた。

 

「さて、ここで壊しても現実には影響ないんだけど……たとえ幻想であっても、自分の手で壊した感触が残れば、それは心の崩壊へとつながる」

 

 そこで思い出したように、銀髪男は続ける。

 

「そうだ、理事長。グワームの攻撃手段は口から吐くガス攻撃しかないけど、そのガス攻撃は攻撃と呼べるほどの威力は持ち合わせていない。破壊行為は自らの手を下さないといけないから」

 

 竜型の生物兵器であるグワームはコレといった攻撃手段を持っていない。一応口から赤いガスを吐くことはできるが、それには大した威力はなく効力も大気を変えるというもの。何かを破壊したいのならば、自分の体をぶつけるしか方法がないのだ。

 実に単純でシンプル。

 だからこの怪獣を選んだ。自ら手を動かすことでしか物の破壊ができない怪獣。光線や炎といったわかりやすい攻撃ではなく、自らの手で破壊するからこそ心にくるダメージは大きい。

 加えて、『ある仕掛け』がこの怪獣では出来る。

 

「……ん? 来たんだ、ウルトラマンギンガ」

 

 グワームとUTX学園の間に、光の巨人が現れる。

 ここに来たと言うことは、あいつの拘束から抜け出したということだが、まあいい。おそらく光──体力はかなり奪われているはずだ。いくらここが光の異空間とはいえ、元から消耗していれば通常通りには戦えまい。

 さて、ウルトラマンギンガはこの状況をどう乗り越えるのだろうか。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 戦いの場にやって来て、リヒトはすぐに違和感に気づいた。

 ──ギンガから感じるパワーがとても弱い。いつもなら溢れんばかりのパワーをギンガから感じるのに今回はその逆だ。

 先ほどギンガは『あの少女によって私たちの光が吸収された』と言っていた。そのせいでギンガにウルトライブしていられる時間も少ないという。

 光が吸収されたと言うことは、体力を奪われたことに等しいことなのだろう。いつタイムリミットが来てもおかしくない状態で戦わなくてはいけない。

 あまりにも不利な状況に思わず下唇を噛んでしまう。 

 そして、リヒトが感じた違和感はもうひとつあった。

 グワームのインナースペースには、南比奈ひとりしかいないのだ。

 

「理事長、ことりはどこに行ったんですか?」

 

「……わからないわ。近くにいるとは思うの……けど、どこにいるかはわからない」

 

 リヒトは目を凝らしてインナースペースを見る。

 しかしどこにもことりの姿はない。

 

『──リヒト。怪獣の頭部だ』

 

 ギンガの声が聞こえ、視線を怪獣の頭部へと向ける。

 グワームの頭部にはやや盛り上がった部分があった。

 ──もしかしてと、嫌な予感がしたのと同時、その頭部の中にことりの姿があることを視認した。

 

「ことり!?」

 

 ──ことりが怪獣に囚われている……。

 それを理解した瞬間、グワームが動き出した。

 ギンガの胸部を目掛けて長い首を振るう。受け止めようと動くギンガだったが、振われる首の先──頭部にことりがいることを思い出して動きが止まる。

 グワームの頭部がギンガの胸を叩く──幸いことりは頭頂部付近にいるため、ギンガの胸部を叩いた頭部とは別箇所だった──。ダメージを受け、膝をつく。そこへのしかかる様にグワームが迫る。

 グワームの下敷きとなるギンガ。押し返そうとグワームの体を叩くが、その体は頑丈でびくともしない。

 ようやくの思いで抜け出すことに成功したが、すぐに長い首がギンガの胸部を叩き後ろに飛ぶ。建物を巻き込んで地に倒れるギンガ。

 グワームは再びUTX学園に向かって進行を始める。

 起き上がったギンガはそれを阻止するべく長い首に掴みかかった。

 

「理事長! やめてください!」

 

「放してちょうだい! あの学校が……あの学校がなければ! 音ノ木坂学院は廃校にならずに済むの!」

 

 グワームの首が大きく揺れた。その動きに流され、手を離してしまう。

 離れたところへ、ガス攻撃。大したダメージにはならないが、一瞬の隙を作るには十分な攻撃手段たった。

 突進を受け、倒れるギンガ。

 同時に、胸のカラータイマーが点滅を始める。

 いつもであれば残り時間が1分になったことの知らせ。しかし、今回に限っては残り時間が1分であるとは言い切れない。元々の制限時間が短くなっているのだ。カラータイマー点滅後の残り時間もいつも通りではないと言えるだろう。

 残り時間が不明。さらに怪獣の頭部にことりが囚われた状態で、まだ解決の糸口が見えていない。

 圧倒的に不利な状況。

 焦りが生まれる。

 

「理事長!」

 

 UTX学園へと迫るグワームを阻止するべく、再び立ち上がるギンガ。背後にある尻尾を掴み、これ以上進ませないように引っ張る。

 

(くっ、力が全然出ねえ!)

 

 いつもであればこのまま後ろへ投げ飛ばせたはずだが、今回ばかりはグワームをこれ以上進ませないようにすることしかできない。

 

「邪魔を……しないでっ!」

 

 グワームの顔がぐるりと後ろを向きガスを吐き出す。

 その拍子に両手を離してしまう。続け様に鞭のように振われた首がギンガの胸を叩き、後ろへ吹き飛ばす。

 背中から倒れるギンガ。

 起きあがろうとするギンガに向けて、ガスの追撃。

 

「あの学校さえ……あの学校さえなければ、音ノ木坂学院は廃校にならなかったはずなのに……!」

 

 ガスで視界を塞がれ、気づいた時にはグワームが目の前にいた。

 ギンガの上に伸し掛かるグワーム。

 

「お願いリヒトくん……私の邪魔をしないで……」

 

 それは、悲しみの声だった。

 悲痛な叫び。

 

「わかってるの……こんなことをしたって意味がないって……でも、もう止められないの。自分では止められないほど、あの学校にこの気持ちをぶつけないと気が済まないの!」

 

 比奈の悲鳴とともにギンガは何度も踏みつけられる。

 何度も。何度も。

 壊れてしまった心。もう止まらない、止められない。さっきまではあったブレーキが今は消えてしまった。

 ブレーキが壊れた彼女はここでギンガを潰す気だ。邪魔をされないように、ここで行動不能にする。

 比奈にはギンガの胸の点滅が何を意味しているのかわからない。だが、それが何かの危険信号もしくはリミットを表しているのだと感覚でわかった。

 だから、このままここでその時間が切れるのを待つ。彼が消えてしまえば、もう誰も止められない。

 自分を止める人はいなくなる。

 

「UTXがなければ、音ノ木坂学院は廃校にならなかった。UTXがなければ、校舎の修復工事ができた。UTXがなければ、私が受け継いだ学校を存続させることができる! 古き伝統のあるあの学校を、ずっと残していける!」

 

「だからって……壊していいわけないだろ!!」

 

 リヒトは吠え、ギンガはグワームの足を押し返す。

 

「確かにUTX学園ができて、それが音ノ木坂学院の廃校に関係しているのかもしれない。けど! その廃校を阻止するためにことりたちが立ち上がったんじゃないですか! それを応援してたんでしょ? だったら! まだ諦めるには早いじゃないですか!」

 

「……そもそも、私がしっかりしていれば、学校が廃校になることはなかったの。学校が廃校にならなければ、ことりが危険な目に遭うことも……絢瀬さんが苦しむこともなかったの!」

 

「それはちが──」

 

「──違くないわ! 私がしっかりしていればこんな状況になってないはずよ! 廃校の心配もなくて、生徒たちは楽しい学園生活を送れたの! なのに……なのに私が廃校を止められなかったから……そのせいで、生徒たちには大変な思いをさせて、絢瀬さんはとても辛い思いをさせてしまった……」

 

 理事長。

 それは学校法人のトップを担う役職である。学校運営の方針を決め、その指示を出す立場の人間。

 加えて音ノ木坂学院は古くからある歴史の長い学校だ。今まで数多くの理事長が音ノ木坂学院を発展させてきた。

 

 

 そんな学校が自分の代で廃校となり、歴史が終わってしまうかもしれない。

 

 

 もしそんな場面に直面したら、果たしてどれだけのプレッシャーを感じることだろう。

 普通の学校とは違い、歴史が古く、おそらく音ノ木町に住む多くの女性の母校となっている学校。

 そんな、とても歴史が刻まれた学校が自分の代で消えてしまうかもしれない。

 何としてでも阻止しようと考える。そのためにありとあらゆる策を講じた。どうすれば、自分の代でも音ノ木坂学院を存続できるか。どうすれば終わらせずに、続けさせることができるか。

 何度も考えた。だが結果はいい方向には変わらず、ついには自分の娘たちが自らの手で廃校を阻止しようと動き出した。

 

 

 そしてその時、思ってしまったのだ。もし、娘たちの頑張りが叶わず廃校が決定してしまった場合、どれほど傷つくのかと。

 

 スクールアイドルとは、言ってしまえば気を衒った作戦だ。生徒たちが自らアイドルとなり、パフォーマンスをして生徒の興味を惹く。

 成功したときの達成感は大きいが、失敗したときの挫折もまた大きい。自分たちから立ち上がったため、挫折はより大きなものとなるだろう。

 大人である自分がここまで挫折しているのだ。まだ子供である彼女たちはどうなってしまうのか。

 そんな不安を抱き始めた頃に、ローブ男──あの銀髪の男が現れた。

 

『あなたの考えている通りだよ。彼女たちは自らの足で無謀な夢を追い始め、そして挫折する。挫折し、彼女たちは怪獣となって「大いなる闇」の生贄となる』

 

『大いなる闇』が何なのかはわからない。

 だが、その時見せられた光景──生徒たちが次々と怪獣となる光景はあまりにも悍ましかった。

 その中に、愛する娘の姿があったことも……。

 

「そうだ……ことりはどこに行ったの……? ことりはどこなのよ!!」

 

『まずいぞ。彼女の心がより深く闇に飲まれ始めている』

 

 ギンガの言う通り、比奈の叫びに応えるかのようにその手にもつダークダミースパークの輝きが増した。

 比奈の目がより虚なものへ変わっていく。

 

「ことり……ことりはどこ?」

 

 愛する娘の名を叫ぶ母。

 ──そして、その声に答えるものがあった。

 

『……お母さん』

 

「──! ことり! ことり! どこにいるの!?」

 

「……今、ことりの声が」

 

 母を呼ぶ娘の声。それはリヒトの耳にも聞こえてきた。

 だが、それはタイミングがあまりにも悪かった。今の状況では、より比奈の心に負荷をかけることになってしまう。

 

「ことり……ことりっ!!」

 

 何度呼んでも姿は見えない。

 だから、声だけを頼りに娘の在処を探す。彷徨うように、愛すべき娘の姿を追いかける母。

 自分のせいで娘が今危険な目に遭っている。その事実に胸が締め付けられ、より心の熱が沸騰していく。

 ダークダミースパークの輝きが増していく。

 

「理事長!」

 

 しかし、これ以上比奈の心を壊させないために光の巨人がグワームの行手に降り立つ。

 邪魔者を排除するために、ギンガに向かって突進をするグワーム。ギンガはそれを真正面から受け止める。

 全力を振り絞り、グワームの進行を遅らせることには成功したが、完全に止めるにはやはりパワーが足りない。

 グワームの前足がギンガの足を叩く。鋼鉄の塊に叩かれ、火花が散り体制が崩れる。

 首が大きく振るわれ、またしもギンガの体がそちらに流される。

 元から体力を奪われている状況。踏ん張りが効かずに体が流され、すぐに体制を立て直すこともできない。

 

『リヒト。ここは、先に南ことりの救出が先決だ。南ことりを救出しなければ、おそらく私たちの声は彼女に届かない』

 

 ギンガの言う通りだ。今の精神状態ではこちらの声が比奈に届くとは思えない。

 ならばまずはことりの救出からなのだが、いったいどうやってグワームの頭部から救出すればいいのだろう。

 

「でも、どうやって……」

 

『ギンガセイバーで頭頂部を斬る』

 

「──っ!?」

 

『一歩間違えれば南ことりをも斬りつけてしまうが、これしか方法はない』

 

「…………」

 

 躊躇うのは一瞬。

 リヒトは覚悟を決め、ギンガスパークを握る。

 グワームの視線はUTX学園へと向いている。

 ギンガは走り出し、跳躍。空中で身を捻り、UTX学園を背にする形で着地。グワームを見据える。

 グワームは、再び行方を阻むギンガに向け吠える。

 ギンガは駆け出す。

 再びの跳躍、グワームが迎撃のため口を開く。

 ──チャンスはこの一瞬。

 クリスタルが白色に輝き、右腕のクリスタルから剣が生成させる。

 

「──っ!!」

 

 重なる二つの姿。

 振り抜かれる右腕。

 尾を引く白い光。

 散る火花。

 ──ギンガの手に、グワームの頭頂部から切り取られたパーツが落ちてきた。

 自分の手の中に落ちてきたソレに目をむけ、ことりの無事を確認する。

 背後から、グワームの咆哮が聞こえてきた。

 怒りの咆哮。走り出すグワームを待ち構えるギンガは、その距離がゼロになる寸前でクリスタルを緑色に輝かせる。カウンターとして、光を纏った拳をグワームに打ち込む。

 その拳はグワームの中へとインナスペースにいる比奈の元へと辿り着き、彼女の視界を光で染め上げる。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

「…………ここ、は」

 

 気がついた時、南比奈は光に染まった世界に立っていた。

 さっきまでいた暗い闇の世界とは反対の明るい世界。

 

「理事長」

 

「……リヒト、くん」

 

 そこに、娘の友人がいた。

 その腕には愛する娘が抱えられている。

 

「ことり……!」

 

 すぐに娘の元へ走り出す母。

 リヒトの腕の中にいることりは瞼を閉じている。だが、しっかりと呼吸をしていた。

 

「大丈夫です。どこにも怪我はありませんし、何かが体を蝕んでいる訳でもありませせん。気を失っているだけです」

 

「ことり……よかった……」

 

 リヒトの腕から比奈の腕の中へ。

 ──何十年ぶりだろうか。こうして娘を抱き抱えるのは。小学生以来か、それとももっと前か。生まれつき膝の弱かったことりをよく抱っこしていた感触が、つい最近のように蘇ってきた。

 高校生になった娘は、その時に比べればとても重い。成長しているのだから当たり前だ。流石に立った状態でいられるわけがなく、つい座り込んでしまう。

 だが、その重さが母親にとっては嬉しいものだった。

 その重さは娘が成長していると言うこと。

 娘が自分の腕の中にいると言うこと。

 娘が無事であると言うこと。

 スクールアイドルを始めたからだろうか。その手に伝わる感触はとてもしっかりしたものだった。きっとダンスの練習や基礎トレーニングの結果、筋肉がついているのだろう。膝の弱っかったあの時からは考えられないことだ。

 幼い頃のことりはよく家の中にいた。膝が弱かったからあまり外では遊べず、家の中で過ごすことが多かったのに、今では激しいダンスをするアイドルをやっている。

 母親の見えないところで、強く、成長したのだ。

 

「……理事長、もうこれ以上自分を責めないでください」

 

「リヒトくん……」

 

 そんな二人を見ていたリヒトが、膝をついて言ってきた。

 

「これ以上自分自身を責めたら、あなたの心が壊れてしまう。そしたら、ことりが一番悲しみます。理事長がことりを大切に思っていると同じぐらい、ことりは理事長のことを……母親のことを大切に思っているんです」

 

「…………」

 

「心配してましたよ。比奈さんのことを。いつも遅くに、暗い顔をして帰ってきていることを、とても心配してました。多分、比奈さんの苦労を感じ取っていたんだと思います。娘だからこそ感じ取ってしまう、親の心を。だから、今度のオープンキャンパスを絶対に成功させて、お母さんを元気にさせたい、安心して欲しいって言ってました」

 

「ことり……」

 

 腕の中で眠る娘を見る。

 

「俺はことりたちがダンスを始めらころから見てます。だから、断言できます。ことりたちは確実に上手くなっている。誰かを魅了する力をつけてきてます。だから、オープンキャンパスのライブも必ず上手くいきます。信じてあげてください。ことりたちの可能性を」

 

 娘の可能性。

 それは、信じていいものなのか。もし失敗したら、娘はとても傷つく。立ち直れないほどのショックを受けるかもしれない。

 そう何度も考え、しかし、それは誤りだと気づいた。

 だって娘は成長している。成長して、母親の知らない娘になっている。

 記憶の中の娘とはもう別人。記憶の中にいる、弱い子ではない。

 だったら、母親として出すべき答えは──。

 

「……ええ、信じるわ。ここでこの子を信じなかったら、母親失格だもの」

 

 

 

[エピローグ]

 

 

「…………ん」

 

「気づいたのね。ことり」

 

「……お母、さん……?」

 

 自分の膝で横になっていたことりが目を覚ます。

 今二人がいるのは音ノ木坂学院の理事長室。ウルトラマンギンガによってダークダミースパークから解放された比奈は、ことりと共にここへ帰ってきたのだ。そして、眠ったままのことりをほっとくわけにもいかず、室内にあるソファーに座り、膝枕をしてことりが目覚めるのを待っていた。

 目が覚めたことりは、自分がどう言った状況にいるのか分からず困惑している様子。

 

「大丈夫? 何ともない?」

 

「うん……あれ? 私、たしかお母さんのところに来てそれから……あれ? どうしてお母さんの膝で寝ているの?」

 

 どうやらリヒトの推測通り、この部屋に入ってからの記憶がはっきりとしていないようだ。ことりは部屋に入った直後に、銀髪男によって眠らされてしまった。その時のショックで記憶が飛んでしまっているのだろう。

 加えて、怪獣の頭部に囚われていたことも覚えていないようだ。

 

「緊張してたのかしらね。少し横になるって言ってそのまま寝てたのよ」

 

「ええ!? それじゃあ時間は!?」

 

「大丈夫。寝てたって言っても、ほんと数分だから。まだ時間に余裕はあるわよ」

 

 急いだ様子のことりに優しく言葉を掛ける比奈。

 立ち上がり、部屋を出て行こうとすることりは、ふと立ち止まり母を見る。

 

「…………」

 

「ん? どうかしたの?」

 

「ううん。お母さん、何だかスッキリした顔してるなって」

 

「え?」

 

「憑き物が落ちたいみたい」

 

 娘の発言に言葉を失う母。

 そこで、ことりは何か思い出したように言葉を続ける。

 

「そうだ、お母さん。私たちのライブ見に来られる?」

 

「……ええ。もちろん。楽しみにしているもの」

 

「よかった。絶対に見にきてね。学校の廃校、絶対止めてみせるから!」

 

 そう言って、ことりはドアを開けた。すると、廊下で待機していた奉次郎が入れ替わる形で室内に入ってくる。

 奉次郎は比奈の姿を見ると、その代わりように安堵の表情を浮かべた。

 

「……その様子じゃと、リヒトは無事に解決したようじゃな」

 

「ええ……ウルトラマン、リヒトくんに助けられました」

 

「いや、最後に闇に打ち勝ったのは比奈さん自信じゃよ。リヒトはその手助けをしたにすぎん」

 

「それでも、彼がいなかったら私はここに立ってません。きっと、壊れてたと思います」

 

 比奈の記憶には、自分が怪獣になって何をしようとしていたのか。その胸に湧き上がる破壊衝動がどう言ったものだったのか、そう言ったものがはっきりと刻まれている。

 決して忘れてはいけない。自分の弱さ、醜さ、傲慢さ、それらを凝縮したような感覚。

 己の罪。

 それがはっきりと残っている。

 

「……これは、償うべきものなのでしょう」

 

「……どうじゃろな。闇に囚われたとはいえ、比奈さんは何も壊しておらん。壊す前にリヒトが止めた。お主に罪はないと思うのじゃが」

 

「いいえ。私は自分の娘を信じていなかった。記憶の中にある幼い娘と一緒だと思い込んでいた。でも、今のことりは記憶の中にあることりより、とても強く成長しています。それなのに、母親である私はその成長を見過ごしていた。だから今回の事態を招いた。なので、これは私の罪なんです」

 

「……真面目じゃな」

 

 奉次郎の言葉に比奈はふっと笑みをこぼす。

 

「では、ことりちゃんたちのライブを見に行こうかのう」

 

 奉次郎の言葉に頷き、ふたりはライブ会場へと向かう。

 思えば、娘のライブを見るのはこれが始めてだ。ずっと廃校を阻止するために思い詰めていたため、動画サイトに上がったものも含めて一回も見たことがない。

 どんなライブなのか、とても楽しみである。

 校庭に設置されたライブ会場には、おそらく今日のオープンキャンパスに訪れた中学生がほとんどいると見ていい。それほどの人を集めていることに驚きつつ、やがてステージに九人の影が現れる。

 そして、リーダーである高坂穂乃果の言葉と共に曲名が告げられライブが始まる。

 

「…………」

 

 以前、ことりが生まれた時に奉次郎が言った言葉を思い出した。

 

『子供が産まれてからの時間はあっという間じゃ。ワシら親が知らぬ間にどんどん成長していく。その一瞬一瞬を、見逃すでないぞ』

 

 その時はあまり分からなかったが、いまステージで歌い、踊る娘を見てわかった。

 本当、奉次郎の言う通りである。

「奉次郎さん」と、気づけば比奈は言葉をかけていた。

 そして、

 

「本当に子供たちは、大人が見ないうちにとても早いスピードで成長するんですね」

 

 と言った。

 その表情はとても晴れやかであった。




第12話 運命のオープンキャンパス ─完─

○登場怪獣
グワーム


○あとがき
以上をもちまして、第12話終了です。
理事長にスポットを当てたエピソードいかがでしたでしょうか。原作の方では学校の廃校をどう受け止めていたのか、詳しい情報が出てこなかったので今回のエピソードを考えてみました。
理事長なら、それなりに重く受け止めてるだろうなーと、この作品を描き始めた当時の私は思ったようですね。

そしてようやくオープンキャンパスまで終わりました。ちょうどアニメなどでいえば1クール。めちゃくちゃかかりました。あとはメイドやって海行って文化祭やって留学問題をやって、そうすればアニメ一期のエピソードが終わる。
(もちろん色々足し引きありますが……)。

さて、次回もちょっと意外なところにスポットを当てたエピソードとなっております。
お楽しみいただければ幸いです。


○次回予告
生きていたローブ男と正体不明の白い少女。何としても決着を夏休み中につけるときめたリヒトは再び音ノ木町へとやってくる。
そんな彼の元に、ひと組の男女が現れる。どうやら記憶を失う前のリヒトの友人のようで、二人に連れられやってきたのは、何とメイド喫茶!? しかもそこには、何だか顔を知っている少女が人気ナンバーワンとなっており……?

次回、伝説のメイド! その名はミナリンスキー! 


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