ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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今回、あるウルトラシリーズのキャラクターと名前が同じキャラクターが出てきますが、原作の方を参考に作成したキャラクターなのであまり深い意味はありません。
あくまで名前が同じなだけです。


第13話 伝説のメイド! その名はミナリンスキー!!
第一章:再会の友


[プロローグ]

 

 

 いま一度、状況を整理しようと、一条リヒトは思った。

 まず自分がいるのは、秋葉原にあるとあるメイド喫茶。再会した友人に連れてこられた場所だ。

 次に、いま自分はこのメイド喫茶の何かしらのイベントに参加している──正確には、参加することになってしまった──。イベントは順位を決めるトーナメント制になっており、一位になった者にはこのメイド喫茶にて人気ナンバーワンを誇るメイド『ミナリンスキー』とのツーショット券が贈られる。

 リヒトはそのミナリンスキーからなんとしても優勝してほしいと直々に懇願され、このイベントに参加することになってしまったのだ。

 そして、なぜか決勝まで勝ち進んでしまい、まもなく決勝戦が始まろうとしている。

 イベント内容は至ってシンプル。叩いてかぶってジャンケンポンで勝敗を決めるのだ。

 目の前のテーブルには攻撃用に使うピコピコハンマーと、防御用に使う銀色のトレーがそれぞれ二個ずつ。

 改めて自分の置かれている状況を整理をして、やっぱり『なんでかなー』と思うリヒト。

 

「私は特別『ミナリンスキー』推しではないのだがね。しかし、この店の常連として、ミナリンスキーが可愛いこともまた事実。ならば、参加しない理由はない! さあ光の少年。正々堂々いこうじゃないか」

 

 目の前にいる、白いシャツに黒のレザーベスト、加えて黒いハットを被ったダンディな男性が告げる。

 右の人差し指でつばを押し上げ、不敵な笑みを浮かべて、準備万端といった様子。

 

(……いや、俺も別にミナリンスキーのファンじゃないんだけど……てか、ここに来たの今日が初めてだし……)

 

 チラリと、この戦いを見守っているミナリンスキーの方を見る。

 そこには、とても知っている顔。だけど別人だと言い張る友人が、困った顔をしつつもこちらに声援を送っていた。

 

「……ほう、私を無視してミナリンスキーへ熱い視線を向けるとは。私のことなど眼中にないと言うわけかね」

 

「え? あ、いや別にそう言うわけじゃ」

 

「構わない。彼女にはそれほどの魅力がある。しかし、忠告しよう。目の前の相手を無視するとは、すなわち戦いに目を向けていないと言うこと。戦いにおいて、戦場から意識を外すことは愚か者のすることだ。覚えておくといい」

 

 渋い声で、射抜くような視線がリヒトに向けられる。

 男性の言う通りだ。いくら自分の意思で参加したことではないのだとしても、やるからにはそれ相応の態度を見せなくてはいけない。

 リヒトは意識を切り替え、目の前の男性を見据える。すると、男性は満足したようにフッと笑った。

 

「いい目つきになった。では、参ろうか」

 

 そして、両者は構えるのだった。

 

 

[1]

 

 

 ──夏休み。

 一般的に七月下旬から八月いっぱいの長い休みを示し、子供たちはこの長い休みを有意義に過ごす。

 もちろん、人によっては受験の追い込みであったり、就職活動、部活動の最後の大会など重大な時期でもあったりする。

 そして、一条リヒトにとって夏休みとは──。

 

「この夏休みで決着をつける」

 

 ──自信が背負っている使命に決着をつける最適なタイミングであった。

 場所は榊家の居間。そこにはリヒトの他に、榊奉次郎と東條希が同席していた。

 

「夏休みが終われば、俺は実家に帰らないといけない。そうなったら、もう自由に動けなくなる。決めるにはここしかない」

 

 リヒトはウルトラマンとして、この町で暗躍している『闇』と戦っている。

 しかし、この事情を家族内で知っているのは、母方の祖父である榊奉次郎だけ。両親は全く知らない。

 つまり両親からすればリヒトは至って普通の高校三年生であり受験生なのだ。

 夏休みとは受験生にとってまさに勉強の時。夏休みが明け、秋が来れば試験が始まるところだってある。この夏休みをどうやって過ごすかが、受験生にとっては大切なのである。 

 故に、この夏休みが明けてしまえばリヒトはもう自由に動くことができない。もしそんなことになれば、大事な時に戦いに行けないといった事態になってくる。

 それを避けるためにも、この夏休みで戦いに決着をつけたいのだ。

 

「りっくんの言う通りやね。決着は早くにつけたほうがいいと思う。理事長が狙われたとなると、もう誰が狙われてもおかしくないとウチは思うよ」

 

 リヒトの宣言を聞いていた東條希が賛同の意を示す。

 

「学校を巻き込んだあの事件も、比奈さんの心を壊すための事前準備じゃったんじゃろうな」

 

 続いて榊奉次郎が言葉を続けた。

 ウルトラマンギンガと初めて会った時、ギンガは穂乃果たちの背後に『邪悪な魔の手』が迫っていると言った。その言葉から、狙われるのは穂乃果たちだけだと思っていた。

 しかし、前回狙われたのは南ことりの母であり、同時に音ノ木坂学院の理事長である南比奈。そして比奈の心を壊すために、音ノ木坂学院の生徒全員が巻き込まれた前々回の事例。

 希の言う通り、もう誰が狙われてもおかしくないと考えられる。

 

「しかし、ローブ男が生きていたことはもちろんじゃが、一番気になるのは『白い少女』じゃな。ギンガスパークが反応せんかったのじゃろ?」

 

 奉次郎の問いにリヒトは頷く。

 

「ギンガスパークが感じ取ったのは『ローブ男』の気配だけ。『白い少女』の気配はまったく感じなかった。入室後に突然現れたって感じだ」

 

「それで、光を吸収されたんよね?」

 

「ああ」

 

 吸血鬼が人間の血を吸う行為と同じだった。首筋に噛みつき、そこから血を吸う。白い少女の場合は血ではなく光なのだが、リヒトが感じた感覚はまるで血を吸われているかのようなものだった。

 

「そのせいで、ギンガにライブできる時間も短くなった……」

 

 光を吸収されたことで、リヒトはウルトラマンギンガにウルトライブできる時間が短くなってしまった。

 元々三分間という短い制限時間が、より短くなってしまう。前回はなんとか解決まで持っていけたが、もしあのまま光を吸われ続けたと考えると、下手をすればギンガへのウルトライブ自体ができなくなっていた可能性だってある。

 一方、リヒトの返答を聞いた希は目を閉じた。まるで瞑想しているかのような、そんな姿勢のまま数秒。

 

「のんちゃんも『白い少女』のことはわからないみたい」

 

『のんちゃん』とは希の中にあるもう一つの魂のことだ。

 はるか昔、『ティガ伝説』の時代に生きていた少女の魂が、なぜか東條希の魂と共に一つの肉体に宿っている。これが原因で希は霊感が強く、そして『闇の波動』を感じ取ることができるのだ。

 おそらく先ほど目を瞑ったのは、のんちゃんと会話をしていたためだろう。体の主導権を入れ替えられることはできなくて、先ほどのように基本的に希だけが会話可能である。

 そして、のんちゃんでもわからないとなると、いよいよ持って白い少女の謎が深まる……と思っていたところで、「でも」と希が付け加えた。

 

「感じ取ってはいたみたい。その『白い少女』の存在を」

 

「え?」

 

「存在は感じ取っておったのか?」

 

 希の言葉にリヒトは驚き、奉次郎は確認の言葉を投げかける。

 希は一度頷いてから言った。

 

「存在は感じ取れる、でも正体が何者なのかはわからないみたい」

 

「いや、そこは正体もわかってて欲しかったな……」

 

「ふむ。ひとまず、狙いはリヒトの光……と仮定したいところじゃが、『大いなる闇』復活に必要なのは強力な『闇』。『光』はむしろ反属性な故邪魔なはず……」

 

「のんちゃんには感じ取れて、ギンガスパークじゃ感じ取れないってのも気がかりだな」

 

 ギンガスパークで感知できない存在。それは一体なんなのだろうと考える。ローブ男と行動を共にしているのであれば、闇の勢力と考えていい。

 しかし、ならばなぜ闇の波動を感知できるギンガスパークが反応しないのか。

 

「希、のんちゃんが感じ取るのは『闇』だよな?」

 

「そうやで。のんちゃんは生きてる時『イージス』から治癒の力を授かった。その力が反する『闇』の力を感じ取ることができる。でも、ギンガスパークほど正確やない──って、前に聞いたんやけど……」

 

 それはリヒトも聞いたことがある。だから、より正確に闇の波動を感知できるギンガスパークを常備しているように言われたのだ。

 しかし、そうなるといよいよわからなくなってくる。なぜギンガスパークで感知ができず、のんちゃんは感知することができるのか。

 ただ一つ、今ここではっきりしたことは『白い少女』を感知できるのんちゃんの存在が、今後必要不可欠だということ。

 幸い、もうすぐで音ノ木坂学院も夏休みに入る。そうなったら、可能な限り希と行動を共にしたほうがいいだろうと、リヒトは思った。

 

「ローブ男が生きていた理由も気になるのう。リヒト、本当にローブ男は消えたのか? お前さんの見間違いではなく」

 

「……ああ。たしかに、消えた……はず……」

 

「はず……?」

 

 奉次郎の追求の目がリヒトの射抜く。

 

「し、仕方ねえだろ! あの時はローブ男が俺の中入ってきて、精神をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような感じだったんだから! ……でも、あいつは魂をふたつ持ってたらしいぜ。その片方を犠牲にして生き残った。あいつ自信がそう言ったんだ」

 

 リヒトの言葉を聞き、より考え込む奉次郎。

 

「情報をまとめると、ローブ男は片方の魂を犠牲に生き残っておった。しかし力の大半を失い、スパークドールズを喰らうことでエネルギーを補填しておる。ローブ男の主な動きは人の心の闇に漬け込み、怪獣にすること。そして白い少女は突然現れ、リヒトの光を吸収し行動不能にすることができる」

 

「まるで役割分担でもしてるようやな」

 

「なら、なんで最初からそうしてこねえんだ? 白い少女が接触してきたのは前回だぞ?」

 

「そこは、ウチにもわからん」

 

 ジェスチャーを交えて言葉を返す希。

 

「どちらにせよ、リヒト。警戒するのはローブ男だけとは限らんと言うことじゃ。今まで以上に気を引き締めるのじゃぞ」

 

「ああ。ここで決着をつけて、全て終わらせる。そして、穂乃果たちには気持ちよく『ラブライブ!』に望んで欲しいものだ」

 

 穂乃果たちの背後に迫る『邪悪な魔の手』。そのせいで、音ノ木坂学院が廃校となってしまう未来のビジョンをリヒトは見た。それを回避するのが、リヒトの戦う理由だ。

 穂乃果たちの夢を守るために戦う。

 そうすれば、穂乃果たちに危機は訪れなくなり、最悪の未来から最高の未来へ変えることが出来るのだ。

 その未来を変えるために、穂乃果たちには『ラブライブ!』に気持ちよく参加して欲しいと願っている。

 

「そういえば、今って何位なんだ?」

 

 ふと、気になった疑問が口から漏れた。

『ラブライブ!』と呼ばれるスクールアイドルの甲子園。それに出場するにはスクールアイドルランキングの上位二十位に入らなければいけない。

 現在全国のスクールアイドルの総数がいくつかはわからないが、それ相応の数があることをリヒトは知っている。その中から上位二十位に入るのは、並大抵のことではない。

 しかし『ラブライブ!』で優勝し、母校の廃校を阻止する目標を掲げるμ’sにとって、まずは最初の壁である出場条件をクリアしなくては何も始まらないのだ。

 

「確か、この前見た時五十位くらいにはなってた気がするな」

 

 希は先日見たランクングの順位を思い出しながら言った。

 つまり、あと三十位以上上げなければ本選へは進めない。本選に進まなければ、そもそも優勝すら狙えない。

 オープンキャンパスを終えた段階で五十位台。

 

「……この夏で何か手を打っとかないといけないな」

 

「そ。だからりっくんだけやのうて、ウチらもこの夏が大事なんよ」

 

 夏休みが開ければ『ラブライブ!』本選が間近に迫ってくる。それまでに上位二十位に入るには、この夏休みで大きなレベルアップと何か手を打たなくてはいけない。

 

「まあ、夏休みなら俺も久しぶりにみんなの練習見られるからな。絢瀬だけじゃカバーし切れないだろ」

 

 絢瀬絵里が加入したタイミングで、入れ替わるようにリヒトは実家へと戻ることになった。今までダンスパートを指導していたリヒトの代わりにいまは絵里がダンス指導を行っているが、絵里自身もμ’sのメンバーである。自分も一緒にダンスを踊らなくてはいけないため、やはり手の届かないところが出てきてしまうのだった。

 しかし今なら、リヒトがいる。九人でのフォーメーションをリアルタイムで確認でき、アドバイスを飛ばすことができればきっと今よりもレベルアップが見込める。

 もちろん、同時にリヒトが今のμ’sのダンスを見たいという気持ちもある。

 

「そうやね。ただ……」

 

 言葉尻を濁した希。

 

「どうかしたのか?」

 

「ことりちゃんが最近よく練習を休むんよ。何やら用事があるらしくて、早くに帰ってしもてのう。なかなか九人で練習できない状況なんよ」

 

「ことりが? 意外だな。ことりは休む方じゃないって思ってたんだけど」

 

「まあ、本人はもう少ししたら練習のほうに参加できるようになるから待っててって言っとるんやけどね」

 

 一応本人との話はついているようだ。

 それなら、リヒトが何か言う必要はないだろう。

 と、話にひと段落ついたタイミングで、偶然かリヒトのスマホがメッセージの着信を知らせる。

 スマホを取り出し、画面に表示されたメッセージと送信者を見て、リヒトは眉を顰めた。

 

「なあじいちゃん」

 

「なんじゃ?」

 

「この『アスカ』って人、知ってる?」

 

 奉次郎にスマホの画面を向ける。そこには送られてきたメッセージと送信者である『アスカ』という名前が表示されていた。

 

「お前さんの友人じゃよ」

 

「いや、それはなんとなくわかるんだけど……どんな人だったとか『一条リヒト』とどんな関係だったとか、そっちを知りたい」

 

 メッセージの文脈から『アスカ』と『一条リヒト』が友人関係であることは大方予想がついている。しかし、記憶喪失のリヒトにとって、この『アスカ』と呼ばれる人物像が全く思い浮かばない。

 故に送られてくるメッセージになんと返信すればいいのかわからないでいた。

 

「ふむ……そこはわしの口から語るより、直接会った方がいいじゃろ。それに、記憶喪失だとしっかり説明せねば無視していると思われ失礼じゃぞ」

 

「…………」

 

「安心せい。悪い奴ではないと保証できる。むしろ情に熱い、いい奴じゃよ」

 

 奉次郎の言葉を受けて、画面を見つめること数秒。

 リヒトは、返信するためにメッセージアプリを起動するのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 夏の色が強くなり始めたとある休日。リヒトはスマホに記された待ち合わせ場所に来ていた。

 時刻は待ち合わせ時間の五分前。そして、リヒトがここに到着してすでに20分経過していた。

 別にこんなに早く来るつもりはなかった。本当は十分前の到着を予定していた。だが、結果はそれよりも早く到着してしまっている。

 なぜか。そんなもの決まっている。緊張しているのだ。そのせいで朝早くに目が覚めてしまし、ソワソワと落ち着かない気持ちを紛らわせるために家を早くに出た。

 向こうにしてみれば、友人との久しぶりの再会。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()。向こうは知っていても、リヒトは知らない相手。緊張するなというのが無理である。

 

『もういるのか? いるならどんな服装か教えてくれ』

 

 と、アスカからのメッセージを受信。

 

『もういる。服装はエスニック風のやつがいたらたぶんそれ。割と目立つと思う』

 

 こんな感じでいいのだろうか、と思いながら返信。記憶を失う前のやり取りを参考に文を作成するのは、少しだけ疲れる。

 すると、すぐに『まじか! 急ぐわ! エスニックな!』と返信が来た。

 

「…………」

 

 暗くなったスマホの画面に反射する自分の顔。そこにはどこか緊張の色が伺える。

 ぽたりと、スマホの画面に汗が一滴落ちた。

 それを拭いながら、今度は空を見上げる。見上げながら、これから会う友人の名前を思い返す。

 

 

 桐島(きりしま)アスカ。

 

 

 それがこれから会う友人の名前だ。『一条リヒト』が音ノ木町に遊びにきた際に知り合った、穂乃果たちとは別口の友人。

 どんな人物なのかと奉次郎に聞いても、情に熱いいい奴、としか教えてくれなかった。

『一条リヒト』はどんな風にアスカと接していたのか。リヒトはどうやってアスカと接すればいいのか。肝心なところを、リヒトが知りたいことを分かった上で教えないでいる。

 そのせいで、リヒトはメッセージアプリでのやり取りから接し方を考えるしかなかった。 

 はあ、と本日何度目かのため息をこぼすと、

 

「おーい! リヒトォ!! 既読無視とはどういう了見じゃあああ!!」

 

「!?」

 

 ──襲撃を受けた。

 背後からの衝撃。視界が揺れ、体の重心が一気に崩れる。しかしこのまま派手に倒れるとアスファルトに顔面からダイブすることになる。

 顔面からいったら確実にやばい。なんとしてでも避けなくてはいけない。

 ダンスをやってきたのだから、体幹には自信がある。この不意打ちをなんとか耐え切ってやる。

 そんな刹那の時間に思考をまとめたリヒトは、前に進む体の体重をなんとか制御してアスファルトへのダイブを回避した。

 

「へ? あれ? リヒ──ったあ!?」

 

 一方、襲撃者は自分が予想していた事態とは異なる展開になっていたことに疑問の声をあげ、そして頭部に鉄拳制裁が振り下ろされた。

 

「なにすんだよ!?」

 

「あんたね、久しぶりの再会だからっていきなり背中から襲いかかる? 普通。リヒト思いっきり倒れ込みそうになってたわよ」

 

「いや、俺だって驚いてるわ。既読無視するは俺の強襲に気づかないは、今まではなかっただろ?」

 

「だからってやっていいことじゃないでしょ」

 

 てっきり来るのはアスカだけだと思っていた。しかし、振り返ってみればそこにいいたのは一組の男女。

 長い黒髪とすらりとした長身の女性。見た感じ身長は一六五センチくらいだろう。服装は白のフレアフレンチブラウスとデニム。右手を腰に当て、やや呆れた様子。

 その視線の先にいるのは、鉄拳制裁を受け頭部を押さえている短髪の少年。こちらは黒のスキーニパンツに白いTシャツと至ってシンプルな服装。そして日焼けした肌から感じられる、いかにもスポーツマンといった風貌。

 メッセージの言葉使いから考えると、おそらく男子の方が『アスカ』だと思われる。

 

「ごめんね。このバカがいきなり襲いかかって。久しぶりの再会でちょっとテンション上がってるみたい」

 

 と、少女の方が言った。

 一方、頭を押さえながら襲撃者であるアスカ(おそらく)は首を傾げていた。

 

「つか、お前本当にリヒトか? なんか雰囲気違わね?」

 

「あんたねぇ」

 

 再び構えられる拳。

 しかしすぐにアスカ(おそらく)は言葉を続けた。

 

「よく見てみろよ。いつもの飄々とした雰囲気が全くねえだろ」

 

「……言われてみれば」

 

 ふたりして、リヒトを探るように見てくる。

 雰囲気でわかるものなのか、と思いつつリヒトは答えた。

 

「……信じてもらえるかわからねえけど、今の俺、記憶喪失なんだよ」

 

「「記憶喪失???」」

 

 と、ふたりは息ぴったりに言った。

 

「ああ。去年の十二月以前の記憶がない。だから、メッセージは誰が送ってきたのかわからなかったんだ。それで既読無視みたいになったのは謝る。わるかった」

 

 パチパチと瞬きをするふたり。

 

「……本当か? 久しぶりに再会したドッキリとかじゃなくてか? マジの記憶喪失なのか?」

 

 疑いの色が消えない視線でリヒトを見るアスカ。

 

「ああ。マジで記憶喪失だ。なんならふたりが知っている『一条リヒト』との思い出話、もしくはこの三人しか知らないことでも言ってくれ。今の俺じゃあ何にも答えられないから」

 

 ふたりは顔を見合わせる。

 やがて困ったように頭をかきながら、アスカは切り出す。

 

「……んー、そっか……なんつーか、あー、それはー大変だな……で、記憶喪失ってどんな感じなんだ?」

 

 ポカっとアスカの頭にゲンコツが落とされた。

 

「いったあああ!?」

 

「ばか。気にしてることかもしれないんだから迂闊に聞かないの!」

 

「いやでもよ〜、気になるじゃんかよ。記憶喪失の友人なんて滅多にいないんだぞ?」

 

「だからってねえ……」

 

「……疑わないのか?」

 

 ぽつりと、リヒトの口からもれた言葉。

 それを聞いたふたりはポカンとした表情を浮かべる。

 

「疑う? なんで?」

 

「いや、だって……」

 

「そりゃあ、ドッキリとか色々疑ったけど、今のお前の表情見たらマジなんだなって思ったわけ。んな不安そうな表情してたら信じるしかねえって」

 

 そんなに不安な表情を浮かべているのだろうかと思ったが、さっきスマホの画面に映った自分の顔を思い出す。

 あれは間違いなく『不安です』と言っているような表情だった。

 

「つうことは、俺たちの名前も覚えてないんだよな。うしっ、改めての自己紹介っていこうか。俺は桐島アスカ。お前と同じ高校三年生で野球部エース。ポジションはピッチャーだ」

 

「『元』野球部エースでしょ。もう引退してるんだから」

 

「うぐっ……」

 

「私は美村(み むら)(りよう)。アスカとは……小学校からの腐れ縁。同い年よ。よろしく、ってのもなんか変な感じね」

 

「ああ、よろしく」

 

 一瞬、言葉が詰まったことに疑問を感じたが、戸惑いの表情を見せる涼につられて少しだけぎこちない挨拶を返す。

 リヒトからしてみれば、よろしくと言った挨拶はなんら不思議がることはないのだが、相手が戸惑っているとなるとこちらも戸惑ってしまう。

 一方、そんなリヒトをジーッと見るアスカ。

 

「…………」

 

「な、何」

 

「……いや、なんかこう、調子が狂う気がしてな。俺が知っている『一条リヒト』ってのは、飄々としてて、常に余裕を崩さないやつだったから。今みたく戸惑ったり不安がるとこ、あんまみたことなくってよ」

 

「んなこと言われても……」

 

「いや、別に責めてるわけじゃねーというかー、なんというかー。なあ涼、こういう時なんて言えばいいんだ?」

 

「私に聞かれても困るわよ。それより、一旦どこかに移動しない? さすがに夏の外で立話は避けたいわ」

 

 涼のいう通りである。いくら日陰であるとはいえ、夏の太陽の下で立話は避けたい。

 とはいえ、どこか行く宛があるかなと考える前にアスカが声を上げた。

 

「んじゃあさ、あそこ行こうぜ! 涼のバイト先!」

 

「はあ!? 何で!?」

 

「だって、この前行ったらちょうどお得なクーポン当たったんだよ。それに、リヒトには前々から行って欲しいて思ってたからなー。ちょうどいいぜ」

 

「いや、でもさ。私今日バイト休みなんだよ? それなのになんでバイト先に行かなきゃいけないわけ?」

 

「いーじゃん。俺だってたまにバイト先によく行くし」

 

「あんたのバイト先はバッティングセンターでしょ? 私のバイト先とは違うじゃん!」

 

「さ、行くぞ行くぞ!」

 

「ちょっと!?」

 

 アスカの提案を頑なに拒否しようとする涼。

 しかしそれを無視して出発するアスカ。

 どうしたものかと考えるリヒトだったが、アスカが「置いてくぞー」と言うので仕方なくついてくことにするのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 三人がやってきたのは、秋葉原にあるとあるメイド喫茶。

 まさか行き先がメイド喫茶だとは思ってもいなかった。メイド喫茶といえば、フリフリのメイド服を着た可愛い女の子たちが迎え入れてくれるお店、と言った印象しかない。

 

「メイド喫茶? 美村のバイト先ってここなのか?」

 

「……そうよ。悪い?」

 

「いえ全然」

 

 返ってくる言葉に少しだけドスが効いているのはなぜだろうか。

 

「なあ涼。今日ってミナリンスキーの出勤日?」

 

 店に入ろうとするその直前、アスカが振り返りながら聞いてきた。

 

「……たしかそうよ」

 

「おっしゃ! ラッキーじゃあねえかリヒト! ミナリンスキーに会えるぞ!!」

 

「……よかったわね」

 

「ミナリンスキーって誰だ?」

 

 リヒトの問いに、アスカは少し得意げに笑うと、

 

「このメイド喫茶の人気ナンバーワン! メイドだ!! これがまたマジで可愛くてよー、何? もうほんと天使! 天使が擬人化したらきっとあんな感じだろうなって思っちゃうくらいマジ可愛いのよ! 見た目も声も! あの声聞いたら脳がとろけるわって感じ!!」

 

 一気に火がついたのはテンションが爆上がりするアスカ。

 反対に、隣の涼からは怖い殺気を感じるのはなぜだろうか。

 

「ま、お前も見てみればわかるって」

 

 そう言って店の中に入っていくアスカ。

 仕方なくリヒトと涼も続いて入店する。


『お帰りなさいませ、ご主人様!』

 

 入店すると、真っ先に少女たちの声が出迎えてくれる。

 

「──は?」

 

 その中に、通る甘い声があったのをリヒトは聞き逃さなかった。

 だってよく聞く声だったから。記憶喪失になってから再会した時も、その甘い声が印象として残っていたから。

 だから、聞き間違えるはずがない。メイド喫茶の店員さんはみんな可愛い声で迎えてくれたが、やっぱり一名だけ違う。

 そこへ視線を向けて、リヒトは思わず声を出してしまった。

 だって──、

 

「ことり……?」

 

 ──そこには笑顔のまま固まり、冷や汗を流す、とても見知った顔でとても知っている友人の南ことりその人なのだから。

 




まさか令和の時代に人形爆破が見られるとは思わなかった……
スーパースターの今後の展開も気になる……

それよりも、上記二つが最終回を迎える前に、せめて第二部は終わらせたいなー。
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