ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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お待たせしました。
今回、さらに新キャラ登場します&いよいよ急展開!? なお話です。


第五章:帰ってきたメイド

 終わってみれば、それはあっさりとしたものだった。

 勝利の喜び。

 強敵に勝った達成感。

 そういったものが溢れんばかりに湧き上がってくると思っていたのに、

 

(つ、つかれたー)

 

 現実は疲労困憊しかなかった。テーブルに手をついて、崩れ落ちそうになる体を支える。

 しかし、それは無理もないことだった。このゲームにおいて、リヒトに課せられた使命は『優勝』すること。それ以外は許されない、というのは大袈裟かもしれないが、そう言い換えても問題はないほどの状況だった。

 『絶対に勝たなくてはいけない』というプレッシャーは、想像以上に体への負担となっていた。

 加えて、ハットさんとの戦いは勝てる確率がほぼ0%のもの。

 だから、結果として疲労感の方が強いのは仕方のないことだった。

 

(それにしても最後──)

 

 ──ハットさんはなにに気を取られたのだろうか。そんな疑問が浮かんできた。

 そもそもの大前提として、ハットさんの正体は宇宙人(メトロン星人)だ。ただの人間がまず勝てる相手ではない。

 リヒトはウルトラマンの力を持っているが、それを超能力のように使えるわけではない。身体能力はあくまで人間のソレだ。

 人間のリヒトが宇宙人のハットさんに勝つには、何か外部からの援護があるか、ハットさん側に何かしらのアクシデントが起きるか、もしくは奇跡が起きるかしかない。

 そして、ハットさんは最後の最後に視線が別の方向へと向いた。注意が外れたのだ。その結果、わずかに生まれた隙を全力で突くことでリヒトは勝てた。ハットさん側のアクシデントと取るか、奇跡が起きたと取るか、外部からの援護があったのか、真実はわからない。

 だが、あの戦いの中、リヒトと()()()()()()()()()()()ハットさんが、最後の最後に何かに気を取られたのは確かなのだ。それがあまりにも解せない。

 ──たしか、後ろの方だったよな、と思った瞬間、

 

 

 

 

「あれれー? どーしたん、ご主人サマ? ぼーっとしちゃって……もしかして、男と男の戦いの果てに禁断の愛に目覚めちゃったトカ?」

 

 

 

 

 と、陽気な声が聞こえてきた。

 

「──んなわけあるか!」

 

 訂正と共に振り返る。

 そこにいたのは、

 

「ダヨネー、ご主人サマちゃんと女の子好きって顔してるし。あ、でも、それじゃあこのアタシちゃんに惚れてくれてもいいんダゼ?」

 

 キメ顔でそんなことを言う、何とも破天荒なメイドさんがいた。

 

「…………」

 

 呆気に取られるリヒト。

 目の前のメイドさんは、服装こそ周囲のメイドと一緒のものだが、纏っている雰囲気がまったく違う。それはもう言葉を選ばずに表すのならば『やかましい』や『うるさい』がピッタリだと言えるほどの雰囲気。

 それはきっと彼女の容姿が影響しているのだろう。エクステを使い、水色とピンクのメッシュが入った髪をツインテールにし、大きな瞳はカラーコンタクトで青色に。派手ではないがばっちりと化粧を施したやや幼さが残る顔。

 昨日来た時にはいなかったメイドだ。

 

「……えーっと、誰?」

 

「…………!?」

 

 純粋に思ったことを口にした。

 それだけなのにメイドさん並びに店内のお客たちからの視線が一斉に突き刺さる。

 

「ワーオ、マジなのこのご主人サマ……アタシちゃんのことを知らないなんて……」

 

 がっくり、と音がきこえてきそうなほどに大きく肩を落とすメイドさん。

 周囲の視線に信じられないものを見る色が加わる。

 

「……すみません、昨日ここに初めて来たんで、誰だかわからないんです」

 

「あ、そっか。なら仕方ないネ」

 

 正直なことを告げた瞬間、メイドさんはケロッとした表情で顔を上げた。

 さっきのは演技だったのだろう。いいように揶揄われたリヒトはジト目を向けるも、メイドさんは気にしない素振りでスカートを翻し、店内にいる人たちにも届くよう声高々に言う。

 

「なにを隠そう! アタシちゃんはここのナンバーワ……いーや、今はミナちゃんがナンバーワンだから、『元』ナンバーワンなんだよネ……うん、悔しいけど、それはもうハンカチを噛みたいほどに悔しいけれど! あえて言います『元』ナンバーワンメイド! ──だって勉強が忙しかったんだもんマジ学校のテストめんどい──マイマイ! 今日から復帰なんだゼー! イエーイ! ご主人サマたち元気にしてたー?」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!! マイマイイイイイイィィぃぃぃぃ!!』

 

 これまでにない歓声。

 そのすべてが、今目の前にいるメイドに向けられているものだ。

 喜び、感動、嬉しさ。

 メイドという小さなコミュニティの中で上がる歓喜の声にしては、あまりにも大きく、そして強い。

 それほどまでの人気が、目の前の破天荒なメイドにはあるということ。店内の空気が、意識が、すべて目の前のメイドに向けられている。

 たった一度の登場で、店内の空気を染め上げた。

 

「……すげぇメイドなんだな」

 

 もはやさっきまでもゲームを覚えているものはいない。

 今この場を支配しているのは、カラフルな髪をした破天荒なメイド。

 店内の全ての人が笑顔になっている様を見て、リヒトはゴクリと息を飲んだ。

 だがその歓声も、店長のひと拍手で落ち着きを取り戻す。

 

「──それじゃあ、ご主人様。どっちのメイドと写真を撮る?」

 

 と、変わらない調子で問われ、リヒトは一瞬止まった。

 そして、自分に向けられた言葉の内容を理解して、すぐに『?』が頭に浮かんだ。

 

「撮るのってミナリンスキーとじゃないんですか?」

 

「実はね、元々はマイマイと撮る予定だったんだ。けど、ほら、この子最近休んでたからさ、急遽ミナリンスキーに代役を頼んだわけ。だっていうのに、今日復帰ってさっき知らされてさ。なら元に戻そうかとも思ったんだけど、もうミナリンスキーでって言っちゃってたから。そこで、一位になったご主人様がどちらと撮るか決めてもらうことにしようと、今決めたわけ」

 

「今ですか」

 

「そう、今よ」

 

 即答だった。

 自由な人だな、と思いつつミナリンスキーを見る。

 こちらも苦笑いを浮かべていることから、本当に急遽決まったのだと伺える。

 

(俺の頑張りって……ん? 待てよ。よく考えたら俺、別に負けても問題なかったんじゃ……)

 

 これではあの頑張りはなんだったのか。

 と、浮かんできた感情と同時にひとつ思ったことがある。

 たとえば、決勝戦でリヒトが負けた場合。優勝者はハットさんになるだろう。そして、ハットさんはミナリンスキーかマイマイとのツーショットとなるのだが、彼は写真を売るような性格なのだろうか。

 そもそもリヒトが優勝を目指していたのは、ことりにお願いされたからだ。そしてことりの願いは『写真が出回らないようにしてほしい』ということ。

 仮にハットさんが優勝しても、彼ならば絶対に写真を売ったりしないと考えられる。言質などが取れれば、そもそもリヒトとハットさんが勝ち残った時点でことりの危惧していた点は回避できていたのだ。

 

「…………」

 

 それがわかった途端に湧いてきた感情をどう処理すればいいのだろうか。

 

「……光の少年」

 

「うおっ!?」

 

 と、背後からの声。

 油断していたせいで変な声が出てしまったが、振り返った先にいたハットさんの雰囲気に言葉を失う。ハットを深く被って視線を隠してはいるが、その雰囲気には並々ならぬ『圧』が込められている。

 

「君は、どちらのメイドを選ぶのかね」

 

 渋く、低いトーンの声は床を震わせ足を伝い、リヒトの体の芯を震わす。

 そこに込められている感情はなんなのだろうか。自分が推しているマイマイを選ぶのではないかという感情だろう。

 元々は『ミナリンスキーとのツーショット』が景品のゲーム。

 彼は言っていた。『ミナリンスキーは特別推しではないと』。

 しかし、今はどうだろうか。推しである『マイマイ』とのツーショットの可能性があるのだ。彼からすれば喉から手が出るほどに欲しいだろう。よくみれば肩が震えている。必死に感情を、衝動を押さえているのだとわかる。

 もしここでリヒトが『マイマイ』と口にすれば、彼はどうなるのだろう。もしくは、リヒトの身がどうなるのだろう。考えるだけで怖くなってきた。

 とはいえ、友人であるミナリンスキーか、それとも今この場で突然出会ったマイマイかと問われれば、必然的に答えは決まっている。

 後々面倒くさそうになる可能性があるのは前者なのだろうが、

 

「えっと、ミナリンスキーで」

 

 後者を選ぶ理由は特別なかった。

 そもそも、リヒトはミナリンスキーとのツーショットと聞かされていたのだ。ならば聞いた時の情報通り、ミナリンスキーを選んだだけ。

 他意はない。

 

「…………」

 

 リヒトが『ミナリンスキー』の名を告げた時、周囲のお客は息を呑み、ミナリンスキーは驚きで目を見開き、

 

 

 

 

 そして、マイマイは一瞬だけ動きが止まった。

 

 

 

 

 目の前にいたから、リヒトはついそれが目に入った。だから気になった。

 

「…………んー、やっぱりミナちゃんか〜。まあ、ご主人サマは今初めてアタシちゃんと出会ったわけだから当然っちゃ当然かー」

 

 とはいえ、それは一瞬の出来事で次の瞬間には元の雰囲気に戻っている。

 残念だけど当然の結果だと、ニマニマと受け止めている。

 

「んじゃ、そんなご主人サマをメロメロにできるよう、頑張っちゃおっかな〜」

 

「こーら。一人だけ贔屓にしないの」

 

「わかってますよー店長。でもなんかー、このご主人サマ面白そう!」

 

「とりあえず撮影に入ってもらっていいですか。後ろから今にも刺されそうな視線感じるんで」

 

 ニッシシシっ、と笑うマイマイは絶対わかっているだろう。リヒトの背後にいるダンディな宇宙人が、ものすごい雰囲気でいることを。それをわかった上でのこの行動。このメイドさん、絶対にいる場所間違えているのではないかと思うリヒトだった。

 

 

 

 

  ☆★☆★☆★

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「……どうも」

 

 店長から一枚の写真を受け取る。そこに写っているのは、仲良くハートマークを作っているリヒトとミナリンスキー……正確には()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 つい先ほど撮影を終えたミナリンスキーとのツーショットは、見返しても苦笑いしてしまうほどに硬い。気まづさを感じつつも、それが表に出ないようにしているせいだろう。表情だけでなく、全体的な雰囲気も硬い。

 しかし、これでも1枚目よりよくなっているのだ。1枚目は、それこそ店長が「うん、ちょっと表情硬いわよ。せっかく勝ち取ったんだからもっと笑顔、笑顔」と思わず言ってしまうほど。

 勘弁して欲しいものである。『ミナリンスキー=南ことり』の認識が出来上がっているリヒトにとって、ハートマークを作っての撮影はなかなかにクルのだ。結局、2枚目で改善されることなく、店長のアドバイスを受けて何十枚も撮影することになってしまった。

 そして出来上がったのがコレである。

 ふたりの事情を知らない人から見れば、お互い少しだけ緊張しているように見える愛らしい写真。

 だが、ふたりのことを知っている人からすれば180度違う。

 なにせ、お互い顔見知りどころか幼少期からの友人関係であるのだから。これがいかに面白おかしい写真なのか、知っている人から見れば腹を抱えて笑ってしまいたいほどの写真が今リヒトの手の中にある。

 

(これ、穂乃果たちに見つからねえようにしねえと)

 

 自ら招いたこととはいえ、これが穂乃果たちに見られたら間違いなく在らぬ勘違いをされるだろう。特に絵里には絶対に見つかってほしくない。

 そんなことを思いながら、写真を財布にしまおうとして、

 

「うんうん、なかなかに表情が硬いね〜」

 

「うおっ!?」

 

 背後からひょっこり現れたマイマイに驚かされた。

 そんな反応が面白かったのか、マイマイは豪快に笑いながらリヒトの肩を叩く。

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!! ご主人サマ驚きすぎ! ってか、背後からの声かけに弱いと見た」

 

「いや、後ろから声かけられたら誰だって驚くだろ……」

 

 加えてこっちはゲームの疲労と慣れない写真のせいで精神も疲弊しているのだ。驚きやすくなって当然だと言いたい。

 

「そんなに緊張するなら、アタシちゃんにしとけば、よかったのにぃ〜。楽しくピースでいい写真になったと思うぜい?」

 

「いや、それはそれであとが怖いというか……選んだら俺の身がどうなってたかわからないというか……」

 

 そう、今絶賛こっちを見ているあのダンディな男によって生命の危機に瀕するかもしれない。そう考えると迂闊にマイマイは選択できないのだ。

 

「むー、そんなにミナちゃんの方が魅力なのかなー」

 

「そういう話じゃなくて……」

 

 ハットさんのことに気づいているのか、気づいていないのか。マイペースにことを進めようとするマイマイ。

 

「……それとも、ミナちゃんとの間に何か隠さなきゃいけない秘密があるのか?」

 

「……!」

 

 スーッと、大きな瞳が細められる。

 さっきまでのハイテンションから一転。冷たい目がリヒトを見る。

 そのせいで、ぞくりとリヒトの背中が動いてしまった。

 このメイドは、リヒトとミナリンスキーの関係を知っているのだろうか……。

 

「──なーんて、犯人を追い詰めた探偵みたく目を細めて意味深かに言うアタシちゃんなのでした。まあ、今日でアタシちゃんの魅力を見せつけて、メロメロにしちゃおっか! ってなわけで、ご主人サマ何かご注文ない?」

 

 またしてもテンションが切り替わるマイマイ。

 その代わりように、つい力が入っていた膝から崩れ落ちそうになってしまう。

 

「注文って、そうだなー……んじゃあ、パフェひとつ。頭使って疲れたから、甘いもの食べたい」

 

「パフェね〜。了解了解、承りましたぜご主人サマ。んじゃ、席で待っててね〜」

 

 と言って、リヒトの元から去っていくマイマイ。

 その背中をリヒトは最後まで見送った。

 

「…………」

 

 先程のことが気になって、ついその背中を見つめる。

 あの時、おふざけにしては空気の代わりようが異常だったように感じた。(ゼロ)(ヒャク)と感じるほどの差。あの一瞬にしてマイマイの中身が変わったのではないかと思うほど変化。気になりつつも、いつまでも突っ立っているわけにはいかないためアスカが座る席へと戻る。

 

「ん? お帰り。見てて面白かったぜ。おかげでひとりの時間を潰せたわ」

 

「そりゃよかった」

 

 席に戻り、オムライスを頬張っているアスカを適当にあしらいながら、ようやく休むことができた。なにせ、ゲーム終了後すぐに写真撮影が始まったため、こうして腰を落ち着かせられるのはゲームを開始する前ぶりだ。

 なんだか長い時間気を張っていた気がして、感じている以上に体が疲れている気がする。

 しかし、このあとおそらくパフェを持ってくるであろうマイマイからまた揶揄われることを考えると少しだけ気が重くなった。 

 

「なあアスカ。あのメイドさん……『マイマイ』だっけ? あの人のこと知ってるんだよな?」

 

「もちろん。なんだぁ? お前さんまさかマイマイにまで惚れ」

 

「違うっての。なんか、一人だけ周りと雰囲気が明らかに違うだろ。だから気になってるだけ」

 

 また変なことを口走るアスカを軽く睨んでみれば、彼は戯けた様子でマイマイについて説明し始めた。

 

「まあ、そうだな……ミナリンスキーが『可愛い系』なら、マイマイは『テンションMAX系』いや、ギャル系? パリピ系? なんっつーだ? こう……そういう系だからな。いつも明るくて、誰にでも分け隔てなく、ってのは接客の基本だからあれだけどよ。マイマイは別格。なあ、リヒト。メイドって言えばどんなイメージを持つ? あ、もちろんこの秋葉原のメイドだけじゃなくて、世界全般のメイドな」

 

 メイドのイメージ。

 どう言ったのものだろうかと考え、率直に浮かんできたものを言葉にしてみる。

 

「『使用人』かな。ほら、でかい屋敷で主人(あるじ)の身の回りの世話とかする。礼儀とか、いろいろきっちりしてるイメージ。主人に仕えるってところをうまくカジュアルにしたのが、秋葉原のメイドなんだろうけど」

 

「んな感じだよな。よくドラマとかアニメだと、主人に仕えてあまり反論はしない。常に主人を尊重し、自分はその一歩後ろにいる、まあここの場合そこに接客っていうのが合わさってくるんだが、あんまし違いはないだろ。概ねリヒトが今言ったことで間違いはねえだろうさ。けどよ、マイマイは全然違うわけ。なんっていうの、思いっきりズバッと言いたいことは言ってきたり、『ご主人様』とか言ってるけど一歩後ろじゃなくて同じ位置、もしくは前歩いてるみたいな。お、ちょうど接客するみたいだし、ちょっと見てみろよ」

 

 アスカの視線に促され、首を回してみればそこにはちょうど入店してきたお客さんのもとへ向かうマイマイの姿。

 おそらく、リヒトが注文したパフェが出来上がるまでの時間を利用して、接客をするつもりなのだろう。

 

「お帰りなさいませ、ご主人さまー!」

 

「え!? マイマイ!?」

 

「そうですそうで、みんなの一押しメイドこと『マイマイ』! 華麗にふっっかーつー!! 元気にしてたかい、ご主人さ、ま?」

 

 メイドさんとしての基礎は残しつつも大胆にアレンジした挨拶でお客さんを迎え入れているマイマイ。その姿は、彼女の派手な見た目と相まってか違和感のないものに仕上がっている。

 

「なんつーか、いい意味で常識に囚われないメイドなんだよ。マイマイは」

 

 かっこよく決めた雰囲気を醸し出しながら締めるアスカ。

 ……その口の端にオムライスのケチャップがついていなければ、本人が思い描いているかっこよさが出せていただろうに。

 しかし、こうして見てみればマイマイの人気がなんとなくわかる気がしてきた。そのテンションの高さはもちろんのこと、こちらのペースをあっという間に巻き込んでしまうトーク力と接客スキル。μ’sの中にも元気系に属する子がいるが、あそこまで突き抜けた破天荒はいない。

 近い属性は穂乃果が持っているだろうか。だが、穂乃果はあそこまで突き抜けてはいない気がする。

 となれば、記憶喪失となって、初めて遭遇するタイプの女子。

 ミナリンスキーとは違う魅力を秘めたメイド。

 ふと、マイマイと視線があった。

 ニヤリと笑ったあと、笑顔で手を振ってくる。一応振り返しておくと、

 

「随分と、マイマイと親密になったようだな。光の少年」

 

 ハットさんが、こちらの席へとやってきた。

 どうやら、先程の笑みはこれを意味していたようだ。

 

「羨ましい限りだよ。何度も通った私に対して、たった一回の接触でここまで差を見せつけられるとは……」

 

 その声は本当に悔しがっているように聞こえる。

 

「そうなんですよハットさん。罪な男なんですよ、こいつは」

 

「おや、少年は昔からの知り合いなのかね?」

 

「昔っからって言えばそうっすね。会う機会はそうなかったですけど、それなりの付き合いっす」

 

「ふむ。では君と話せば、光の少年のことを知ることができるようだな」

 

「あ、聞きます? こいつが好きな子いるのにマイマイやミナリンスキーにうつつを抜かす奴だって話し、しちゃいますか?」

 

「是非」

 

「おい」

 

 少し強めに声をかけた。

 アスカが言ったふざけたことへの怒りと、あまりプライベートを話されたくないこと。そして、忘れそうになるがハットさんは『闇の刺客』なのだから、あまり情報を知られたくない。

 アスカもリヒトの強めの声を聞いて、さすがに悪ふざけが過ぎたと思ったのか、

 

「っと、すみません。割と本気でダメなところみたいなんで、お口にチャックさせていただきます」

 

 と、謝罪の言葉を述べた。

 

「いや、こちらも失礼した。あまり他人のプライベートに入っていいものではないな。私も席に戻るとしよう。君たちの間に入るほど無神経な人になった覚えはないのでね」

 

 では、と言ってハットさんは自分の席に戻っていく。

 

「別に相席してもよかったんだけどなぁ。ま、リヒトが嫌がりそうだし、今度会ったときにでも話すか」

 

「俺を話しの種にはするなよ。

 ……っと、悪い、アスカ。ちょっと手洗い行ってくる。さっきパフェ注文したから、きたら受け取っといてくれ」

 

「あいよー」

 

 席を立ち、店内の奥にあるお手洗いへと向かう。

 と、その途中ミナリンスキーと遭遇した。

 

「あ、りひとさん」

 

 しかも、普通にリヒトの名前を呼んできた。

 

「おいおい、一応ミナリンスキー状態だろ。誰かに聞かれたらどうするんだよ……」

 

「あ、ごめんなさい。つい」

 

 幸い、リヒトが今いるのは店内の奥の方であるため、周囲に聞かれた様子はない。フロアからも影になっているところであるため、多少は隠せる位置だ。

 

「気をつけろよ。と言っても、今後ここにくるかどうかわからねえけど」

 

「え? もう来ないの?」

 

「できれば遠慮したいな。お互いのためにも」

 

 なぜ少しだけがっかりした様子を見せるのか。リヒトとしては、今後ここにくる理由は『ハットさん』の存在だけだ。自らがメトロン星人だと正体を明かした彼は、最後にマイマイに会わせて欲しいと願った。

 そして、今日彼女は復帰した。ならば、遅かれ早かれ彼の『終わり』はやってくる。それが片付いて仕舞えば、リヒトはもうここにくることはなだろう。

 

「ま、と言うわけだ。最後になるかもしれないメイド喫茶を、楽しませてもらうよ」

 

 そう言って、リヒトはことりの横を通り過ぎた。

 注文したパフェの到着にはそう時間はかからないだろう。さっさと済ませて席に戻ろう。

 そう思ったリヒトは、

 

 

 

 

 席へ戻る際、何か頭部に重い衝撃を感じるのだった。




ここまで来るのに五章分……ですが、まだまだじっくりやっていきます。
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