ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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今年も残りあと1ヶ月……年内にどこまでエピソードが進められるかわかりませんが、どうかよろしくお願いします。
それでは、第六章スタートです。


第六章:悲劇開幕

 ──暗い緑色をしたヒト型の怪物がいる。首はない。頭部の横から腕が生えているような、そんなフォルムをしたヒト型の怪物。

 その怪物の攻撃を受けて後ろへ倒れる。

 ──苦しい。

 息が苦しいのか……いいや違う。これは感情の苦しいだ。胸が詰まるような苦しさ。

 なぜこうなってしまったのか、なぜ力を持っているのに彼女を救えないのか。

 今起こっている状況、そして自分に対して苦しいんだ。

 怪物は声を上げる。何か叫んでいる。おおよそ人の言葉ではない。だが、何を言っているのかわかってしまう。

 泣いている。自分の姿に。なぜこうなってしまったのかに。

 自分が苦しんでいるように、怪物自身も、なぜ自分がこんな姿になったのかわからない。苦しく、そして悲しい。

 ただ彼女は『帰りたい』と願っただけ。帰ることのできない場所へ、ただ帰りたかった。それだけなのだ。

 しかし、その結果が怪物の姿。

 怪物は暴れる。自分は、それを止めなくてはいけない。戦って止めなくてはいけない。

 しかしもう、戦ったところで彼女を元の姿に戻すことはできない。

 彼女を救うことはできない。

 たった一つの方法を除いて。

 もう、この手しかないのだ。

 誰かの叫び声が聞こえた。人間の声。やめてと叫ぶ声。

 同時に聞こえる『お願い』という切ない声。

 それを聞き届けて──腕を十字に組んだ。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 

「──いってぇ」

 

 頭部に感じる鈍い痛みで目を覚ます。

 相変わらず、意味のわからないビジョンを見ていた気がするが、目覚めると同時に鮮明さが失われていった。いまではよく思い出せない。

 ただ、とても苦しくて、この世の全てを恨みそうになった感情だけは残っている。

 自分のものではない、誰かの感情。

 だがそれも、次第に薄れていく……。

 

「は?」

 

 痛む頭部を手で押さえようとして、しかしその手が動かないことに声を上げた。

 一瞬で頭の中が「?」に埋め尽くされる。

 腕が動かない?

 

「いや、違う」

 

 そこで、リヒトはようやく自分が拘束されていることに気づいた。両腕が後ろに回され、親指を合わせるように拘束されている。どれだけ力を入れてもびくともしない。むしろ何かが指に食い込んでくる。これは力技で解除できるものではないと、すぐにわかった。

 背中には何か一本の柱のようなもの。そこに腕を回されているせいで、動くことすらままならない。

 

「……どういうことだよ」

 

 詳細な状況は、辺りが薄暗いせいでわからない。だが拘束されていることは間違いなくわかる。

 ──落ち着け、落ち着け。しばらくすれば目が慣れる。そうしたら、状況の把握に努めればいい。

 そう自分に言い聞かせて、脈打つ心臓を落ち着かせる。

 

「どこだ? ここ……」

 

 徐々に目が慣れ始める。薄暗く見えるようになった視界から、可能な限り情報を集める。

 ……どこかの部屋だろうか。壁には棚があり、さまざまな物が置かれている。棚は自分の背後にもあり、その柱に腕を回され、親指を結束バンドで繋がれていた。

 これは無理矢理拘束を解こうとして、棚に積まれている物の下敷きになりかねない。迂闊に動くことはできないとわかった。

 

「なんだよ、これ」

 

 周囲を把握し、真っ先に思ったことは今の状況がおかしいということだ。さっきまでメイド喫茶の中にいたはずなのに、今いる場所は全く別の場所。

 可能性を上げるならば、備品などが置いてある部屋だろうか。

 だがそんなところに行った覚えはないし、客であるリヒトが向かう理由もない。なぜこんなところにいるのか、不思議でたまらない。

 直前の記憶を手繰り寄せ、どうしてこうなったのかの過程を思い出そうとする。

 まず、自分はどこにいた? ──メイド喫茶だ。そしてお手洗いから席に戻る途中だったはず。

 なぜここにいる? ──わからない。頭部に鈍い痛みを感じることから、誰かに襲われたと考えるべきか。

 ここはどこだ? ──どこかの部屋のようだ。そこへ連れてこられたと考えるべき。

 今自分はどういう状況だ? ──結束バンドて固定されている。つまり捕われていると考えられる。

 なぜこうなった? ──わからない。

 ひとつひとつ考え、しかし導き出される解答は大半が不明。何もわからないことに唇を噛む。

 

「……まさか」

 

 しかし、この状況を作り出すことで得する人物が思い浮かんだ。

 ハットさん──メトロン星人だ。

 闇のエージェントである彼ならば、こうしてリヒトを拘束する事に意味を持つ。

 

「──っ!!」

 

 拘束されている両手に力を入れる。結束バンドが親指に食い込む。

 ──今、こうしている間に誰かが怪獣にされているかもしれない。誰かが、『大いなる闇』の生贄にされてしまうかもしれない。

 そんな最悪の事態が思い浮かび、それを阻止すべく動く。

 しかし、いくら力を入れたところで人間の力で結束バンドが千切れるはずもなかった。

 

「クソっ」

 

 唾が飛ぶ。

 失態だ。これは、紛れもないリヒトの大失態。とても近くに闇のエージェントがいながら、警戒を怠った。彼があまりにも親しく、そして闇を感じさせない男だったから、どこか油断していたのかもしれない。

 その結果が招いたこと。

 

「おい! 誰か! 誰かいないのか!? 誰か声が聞こえないか!!」

 

 大声で叫ぶが、返答はない。

 舌打ちをし、再び親指に力を入れる。

 ガンっ! と、思いっきり足を振り下ろしてみる。地べたに座っているおかげか、足の裏でしっかりと床を叩けた。

 しかし、音が響くだけで返ってくるものは何もない。

 そもそも、ここがどこなのか不明なのだ。この音が外に聞こえているかも不明。

 

「くそっ!」

 

 ガンッ! と、最後に大きく足を振り下ろす。

 考える。この状況を打破する方法。最悪の結果が来る前になんとしても動けるようにならなくては──。

 

「誰か、いるの……?」

 

 ──と、声が聞こえてきた。

 女の子の声。

 それは聞き覚えのある声。

 

「ことり……?」

 

 薄暗い部屋の中に視線を走らせる。

 声の主、南ことりは意外にもリヒトの正面に近い位置にいた。薄暗いせいで気づかなかったのだろう。反対にことりはリヒトの立てた音で目覚めたと考えられる。

 

「リヒトさん……? どこにいるの?」

 

「正面だ。正面に近い位置にいる」

 

 気づいたばかりで、まだ目が慣れていないのだろう。不安に揺れる声にできるだけ優しく返す。

 ことりは声だけを頼りに視線を巡らせる。

 

「リヒトさ……あれ? 腕が動かない……!?」

 

「落ち着け。たぶん拘束されてるだけだ。目が慣れたら見てみろ」

 

 取り乱しそうになることりに向け、優しく声をかける。おそらく状況はリヒトと同じ。腕が動かないということは、拘束されているということだろう。暗い中、突然腕が動かなければ、誰だって不安から取り乱してしまう。

 それを阻止するために、リヒトはおそらく自分と同じ状況であろうということ。そして自分の位置を知らせた。

 しばらくして、目が慣れ始めたのかことりの視線がリヒトの方をしっかりと向く。

 

「リヒトさん……!」

 

「目が慣れてきたみたいだな。とりあえず、どこか痛むはとこはないか?」

 

「うん、ちょっと体が痺れてるくらい……けど、大丈夫」

 

「そうか。ことり以外に誰かいないか!?」

 

 部屋全体に響くように声を飛ばすが、返ってくる声はない。

 どうやら、囚われているのはリヒトとことりだけのようだ。

 

「ことり。目が覚める前のこと、どこまで覚えてる?」

 

「えっと……たしか、マイ先輩に呼ばれて裏手に行って、そこで確かケースを開けるように言われて……開けたらビリっときて……」

 

 ゆっくりと、思い出しながらその時のことを説明することり。

 その中に、気になるワードがあった。

 

「開けたら、ビリッときた?」

 

「うん。体が痺れるような感じ……そして気づいたらここに……」

 

 そこへガチャリと、ドアの開く音がした。続けて部屋の電気が点き、突然の明かりに視界が飛ぶ。

 やがて、ゆっくりと元に戻った視線を向けてみれば、そこにはマイマイがいた。

 

「マイ先輩……?」

 

「マイマイ……?」

 

 彼女の手には、ことりを気絶させた原因であろうケースが握られている。大きさは、一泊二日程度の旅行に使われそうなスーツケースくらい。黒色をした無機質なケース。

 それを手に部屋の中に入ってきたマイマイは、驚くほど無表情で、同時にリヒトがこれまで見てきた表情と酷似している。

 すなわち、闇の魔の手によってダークダミースパークを手にした者たちと同じ。

 ──ぞくり、とリヒトのポケットにあるギンガスパークが震えた。

 しかし、マイマイはことりの方を見ると、その表情が嘘のように明るくなる。

 

「よかったー。目が覚めたんだね、ミナちゃん!」

 

 そう言って、ことりへと駆け寄るマイマイ。

 

「マイ、先輩……」

 

 ことりの声は震えている。

 それがおかしいのか、首を傾げるマイマイ。彼女は変わらず、破天荒に続ける。

 

「ん? どーしたの? あ、さっきはごめんね。痛かったでしょぉ。出力間違えちゃったみたい。でも、目が覚めてくれてよかったー。あれで終わっちゃったら、興ざめだもんネー」

 

「マイ先輩……なにを、言ってるん、ですか?」

 

「ん? いや、だからアレで終わらなくてよかったーって言ってるんだヨー。ミナちゃん、意外ど体丈夫なんだね!」

 

 リヒトからはマイマイの表情は見えない。

 だが、ことりが恐怖に震えていること、そして先ほどの表情からとても危険な状況にあると判断できる。

 なぜなら、マイマイの言葉はことりを心配しているようで、そんなのまったく感じられないほど平坦なのだ。

 そもそもことりが意識を失った要因のひとつがマイマイだ。ことりはマイマイに言われてケースを開けた。そして意識を失った。マイマイの目の前で倒れたはずなのだ。それなのに、目が覚めたことりは部屋で拘束されていて、マイマイは謎に謝罪を述べてくる。

 言葉と行動がチグハグだ。

 

「あの、マイせんぱ──」

 

「──それじゃあ、ミナちゃん。続き、行こっか」

 

 そう言って、マイマイはことりから離れた。

 スーツケースの元へ行き、とても楽しそうな表情でケースの向きを変える。ちょうど開くところが、ことりに向くように。

 

「──っ!?」

 

 ことりの脳裏に蘇る、ひとつの光景。あのケースが開いた時に襲ってきた痺れ、痛み、恐怖。

 ケースが開く寸前、

 

「おい! やめろ!」

 

 リヒトが声を飛ばす。

 マイマイの動きが止まる。

 ぐるり、とリヒトの方を振り返るマイマイ。その瞳がリヒトの脳裏にある、西木野真姫、小泉花陽、矢澤にこと重なる。

 

「邪魔しないでよご主人サマ。てか、なんで生きてんの?」

 

 変わることのない調子のマイマイ。

 それに気圧されそうになりながらも、リヒトは向き合う。

 

「お前、なにをする気だ」

 

「なにって、決まってるじゃん──復讐」

 

 そう言って、マイマイはケースを開く。

 ケースの中は機械的な造形が施され、中心部に緑色に光る球体があるだけの簡素なモノだった。

 マイマイの細い腕が、球体の横にあるスイッチへ伸びる。そしてスイッチが押された瞬間、球体から電撃が飛んだ。

 

「ああっ!?」

 

 ことりの体が跳ねる。

 電撃による攻撃。最悪、感電死してしまう恐れのある攻撃。拘束されていることりは悲鳴をあげた後、力が抜けたように首が落ちる。

 

「ことり!」

 

「ぅ……ぁ…………」

 

 か細い声が聞こえてきた。

 どうやら、意識は失っていない様子。

 

「おお〜、ちゃんと威力調整されてんじゃん〜。よかったよかった、これですぐに飛ぶことできなくなったよね」

 

 とても安心したように言って、マイマイは続けてスイッチを押す。何度も。それこそ、子供が無邪気にボタンを押すかのように、何度もスイッチを押す。

 その度に球体から電撃が放たれ、ことりの体が何度も跳ねる。

 悲鳴が上がる。

 歓喜の笑いが上がる。

 

「おい! やめろ! やめろ!!」

 

「うるさい! ご主人サマは黙ってて! これは、アタシちゃんの復讐なんだから!!」

 

「復讐……?」

 

「そう! アタシが頑張って、努力して、考え抜いて、ようやく掴み取ったナンバーワンの座を、なんの努力もしないでポッと出のこいつが奪った!! アタシがナンバーワンの座を得るための頑張りを、こいつは数日で達成しやがった! ろくに考えもないで、ろくに努力もしないで! ふざけるんじゃないわよ!!」

 

「そんな理由で、こんなことしていいわけないだろ!!」

 

「良いか悪いかなんて関係ない! アタシが満足すれば、それでいい!!」

 

 拳を叩きつけるようにスイッチが押される。

 電撃がことりを襲い、悲鳴が部屋に響く。

 

「ことり!!」

 

 がっくりと項垂れ、体に力が入っていないように見える。

 あれだけの電撃を受けて無事なはずがない。

 

「ってかさー、なんでご主人サマそんな大声出せるの? あんだけ血を流しておいて──」

 

 ──と、そこでマイマイの動きが止まった。

 

「…………」

 

 何か信じられないものを見たような表情で振り返る。

 マイマイは何かを確認するべくリヒトに駆け寄り、頭を押さえつけた。そのまま、後頭部を覗き込むように見る。手で髪をかき分け、頭皮をくまなく見る。

 やがて、ポツリとこぼすように言った。

 

「傷がなくなってる……? なんで……? あんなに血が出てたのに。血が止まるならまだわかるけど……これ、傷が初めからなかったみたい……ふふっ、ねえミナちゃん。ミナちゃんの彼氏さんさ、()()()()()()みたいだよ」

 

 と、ことりに向けて、まるで秘密をバラす意地悪な女の子のように言った。

 しかし、ことりからの反応はない。

 気にせず、無邪気な瞳でリヒトの顔と向き合う。

 

「宇宙人? それともバケモノ? ねえ、ご主人サマ。どっち?」

 

 無邪気な問いかけ。

 純粋な疑問。

 しかし、その目は言葉とは裏腹に黒い物が見える。これまでリヒトが見てきた、闇の力に心が染まってしまった者の目。

 その目は同時に『お前は人間なのか?』と、リヒトに問いかけている。

 ──何を、言っている? 

 言葉の意味がわからない。人間じゃない? 人間じゃないとは、どう言う意味だ?

『一条リヒトは人間ではない』と、そういう意味で言ったのか。

 ……いいや、そんなわけない。何を言っている。リヒトは人間だ。『一条リヒト』は紛れもない人間だ。今はウルトラマンの力を持っているが、その体は人間そのもの。化け物のはずはない……そのはずだ。そのはずなのに、マイマイの言葉は胸に風穴を開けた。

 思考に空白が生まれる。

 人間? 人間だ。一条リヒトは人間だ。人間の、はずだ………。

 

「俺は……にん、げ──」

 

 

 

 

「お前は人間じゃない」

 

 

 

 

 リヒトの言葉を遮るように、新たな声が聞こえてきた。

 少女の声。

 ふたりの視線が声の方へ向かう。

 出入り口には『白い少女』が立っていた。

 

「でなければ、ガラス瓶で頭を叩かれて無傷なはずがない。それが何よりの証拠だ」

 

 腕を組んで立つ『白い少女』は呆れた様子で続ける。

 

「そもそも、お前は幾度も傷を負っておきながら、それがすぐに回復することに疑問を感じなかったのか? あいつに襲われた時もそう。全身を焼かれ、骨を砕かれ、内臓を破壊されておきながら、絢瀬絵里の危機に駆けつけた。そんなお前が人間だと言えるのか?」

 

『白い少女』が言う『あの時』とは、数週間前、絢瀬絵里が心の闇を利用されワロガへダークライブした時のことを示す。その一連の中で、リヒトは一度音ノ木町を離れた時があった。その時『ローブ男』に直接襲われたことがあったのだ。

 音ノ木町から離れる、それはすなわち『イージスの力』の加護から外れてしまうことを意味し、加護を失ったリヒトは、その無謀な状況を襲われた。

 当然、闇の勢力からすれば邪魔であるリヒト排除できる絶好の機会。故に、リヒトは徹底的に痛めつけられた。絵里の危機に駆けつけることができず、そのまま絵里が『大いなる闇』の生贄にされてしまうかもしれないという、非常に危なかった状況へと追い込まれた。

 しかし、リヒトは駆けつけた。音ノ木坂学院が破壊されるギリギリのタイミングで、駆けつけたのだ。駆けつけることができたのだ。()()()()()()()()()()()()

 

「リヒトさんが、人間じゃない……? な、なにを言っているの……」

 

「ほう。アレだけ電撃を喰らっておいて生きとるとはの……なるほど、その勾玉のおかげか。さすが奴らの末裔の人間が作ったモノだな。しかし、なんだお前、自分の正体を話していなかったのか」

 

 ことりに向けられて放たれている電撃は、それなりの威力があるものだ。それを受けながら、意識を失うことなく自我を保っていることに『白い少女』は関心の声を上げた。

 だが、ことりが意識を保っている理由に心当たりがあるのか、つまらなそうに続けて、やがて何か面白いことを思いついたのか、三日月のように口を吊り上げる。

 

「そうか。ならば、面白いものを見せようじゃないか」

 

 そう言って、彼女は果物ナイフを一本取り出した。

 このメイド喫茶で使用されているナイフだ。ことりも何度か使ったことがあるナイフ。銀色に光るソレを見て、嫌な予感がした。これから起こる最悪の光景が、脳裏に浮かんでしまう。

 

「おい、しっかり見ろ」

 

 目を瞑ろうとしたことりに向け、少女が手をかざす。

 

「!?」

 

 目を瞑ることができない。

 見開かれたことりの双眸はしっかりとリヒトの方へ向く。

『白い少女』は笑みを浮かべ、リヒトへ近づく。

 そして、左手でリヒトの頭を押さえつける。一度ことりを見て、ことりの視界にしっかりソレが見えていると確認して、右手に持った果物ナイフを勢いよく()()()()()()()()()()()()

 

「────────────────────」

 

 激痛──いや、もはや痛みすら一瞬で消えるほどの感覚に、リヒトが声にならない悲鳴をあげる。

『白い少女』はそのまま抉るように、脳髄を貫く勢いでナイフを押し込む。

 鮮血が噴き出て、あっという間にリヒトをそして少女自身を赤く染める。

 ナイフが抜かれ、赤が吹き出る。

 (おびただ)しいほどの赤が広がる。

 赤。

 紅。

 赫。

 人間の体に流れているソレが、床に流れ出る。

 素人でもわかる。ソレはダメだ。ダメなやつだ。普通の人間が耐えられるはずがない。生命が続くわけがない。

 だが。

 

「うぐ、あぁ……」

 

「ほら、よく見ろ。お前の友人はすでに──」

 

 すでに『白い少女』はことりに向けた呪縛を解いている。

 しかし、ことりの体は恐怖で動かない。衝撃の光景から目を離せず、固まっている。

 マイマイも同じ。目の前で起きたことにただ唖然としている。

 だが、二人の衝撃は目の前で起きた、『白い少女』の行動ではない。

 

「──人間ではなくなっているぞ」

 

 リヒトの右目は、確かにナイフを刺された右目は、もうすでに()()()()()()()

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