第13話最後の章になります。
終わりまで書き切ったので長いですが、どうぞ。
──あれは何?
そんな疑問が浮かんでくると共に、視界が『白』に埋め尽くされていった。
そして、体が後ろに吹き飛ぶ。
「かはっ」
背中を壁に打ち付け、肺の中の空気が吐き出される。体重を壁に預けながら、ずるずると落ちていく。
尻餅をついて、何度も咳き込み、浅い呼吸を繰り返して酸素を取り込む。
チカチカしていた視界が元に戻ると、光を放った少女が見えた。その姿は先ほど見た天使のようなものではなく、ヒトの姿に戻っている。
(今のは……)
先ほどの見た光景が脳裏に焼き付いて離れない。
常人より動体視力の良いことりだからこそ見えた光景。
ヒト型の天使のような姿。それはあまりにも美しく、神々しく、神秘的であった。
しかし、その『美しい』の中に一点の『遺物』と言ってもいいものがあった。『禍々しい感覚』と言ってもいい。正確には、それが何なのか表現ができないのだ。この奇妙な感覚を表現するならば、『禍々しい感覚』としか言いようがない。
美しいとは反対であり、本来『美しい』と同時に感じることのない感覚。相反するものが同時に存在しているような、そんな普通であればあり得ないものがそこに存在していた。
『白い少女』はひと息つくと、
「ちょっと、アタシちゃんも巻き込まれたんだけど……」
膝をつくマイマイが抗議の声を上げた。
『白い少女』はマイマイの方を見ると、
「お前は今、その身に『闇』を宿している。反属性の攻撃が起これば巻き込まれるのは当然のこと」はあ、と息を吐いて「これでも加減はした。五体満足であることに感謝するんだな」
と言った。
そして、視線を同じく膝をつくハットさんへと向ける。
「しかし、お前がその程度で済むとはな……加減をしすぎたか」
「そのようだな。形成逆転を狙うのならば、力は壮大に使ったほうがいい。例え、それによって自分が不利になったとしてもだ」
「そうか。だが、その体を維持するのは限界に近いようだな」
「…………」
ハットさんの頬を一滴の汗が流れ落ちる。
それは状況的にハットさんが追い込まれている証拠。余裕そうな雰囲気を保ってはいるが、それはハッタリだろう。おそらく、次に『白い少女』が動いた時、それを止めることはできない。『白い少女』から見れば邪魔者がいなくなったも当然。
つまり、
「さて、それを返してもらおうか。こいつの心の闇を育てるのに必要な物だ」
少女を止めることができないということ。
ハットさんは動こうとしても動けない。
少女の行き先にいるのは、ケースを持つアスカ。先ほどの衝撃で床に倒れるアスカは、打ちどころが悪かったのかすぐには起き上がれない。
「アスカ!!」
涼の悲鳴。
少女の手がアスカに伸びる──
──直前、青い光が少女の行手を阻んだ。
「そうか。光であるお前は動けたな」
少女の行手を阻んだのは、銀色の短剣のようなものを振り抜いた姿で立つリヒトだった。
あの光の暴力があったにも関わらず、リヒトはしっかりと立っていた。その顔を赤色で染めながらも、しっかりと立っている。
(よかった……)
リヒトの姿に安心感を抱くことり。
しかし、すぐに疑問が浮かんできた。
──『白い少女』を止められると言うことは、リヒトは一体何者なのだ?
安心感と疑問。その二つが同時に浮かぶ。
リヒトは、『白い少女』を牽制しつつハットさんの方へと近づく。
「助かったぞ、光の少年」
「あんたの方は大丈夫なのか」
「正直に言ってしまえば大丈夫ではない。だが、マイマイを助けるためだ。無理をするのは当然のこと。時間ぐらいは稼げるさ」
ハットさんが立ち上がる。その様子は明らかに大丈夫と言った様子ではない。無理をしているのがはっきりとわかる。
しかし、マイマイはハットさんにとって大切な人なのだ。自分に生きる理由を与えてくれた人。そんな人が今闇に囚われている。助けるためには、多少の、いや、かなりの無茶をしなくてはいけない。
「……そうか」
リヒトはただ一言、そう返した。
「マイマイの方を頼めるかね」
「わかった」
短い会話の後、ふたりは並び立つ。
助けるために。闇を倒すために。
「……面倒なことになったな。おい」
『白い少女』は並び立つふたりを見てつぶやくと、マイマイの方へと呼びかける。懐から取り出した十四センチほどの人形を投げ渡し、
「使い方は聞いているだろう。それを使ってさっさと終わらせろ。これ以上は時間の無駄だ」
と言った。
首を傾げるマイマイだったが、状況が良くない方へ転がりつつあるのは感じていた。
仕方ない、といった様子でため息をつくと、その手に持つ紫色の短剣を構える。
リヒトとハットさんが飛び跳ねるように動いた。
その表情から、事態がどう転びつつあるのかことりでも感じ取れた。
──ふわりと、少女の髪が浮立つ。
「ああ。そうだな。あいつが動かなければ、当然広がるのはそちらのフィールド」
少女の雰囲気が変わる。
まるで疲れていた体に力が戻るような。
「ひとつ、言っておこう。光がお前たちだけの力だと思うなよ。人間」
少女の姿が消える。
刹那、リヒトとハットさんの体が吹き飛び、
『ダークライブ! ザムリベンジャー!』
マイマイが人形の足先に紫色の短剣を当てた。
☆★☆★☆★
轟音を立てて、白色のロボットが出現する。
その名は『ザムリベンジャー』。またの名を『復讐ロボット』。
いまのマイマイにとって相応しい名を持つロボット。
「あーやっちゃったなあ。アタシちゃんのばか。これじゃあミナちゃん生き埋めになっちゃうじゃん〜」
室内でのダークライブ。ザムリベンジャーの巨体が室内に収まるはずもなく、メイド喫茶を破壊しながら出現した。
コツン、と自分の頭を叩くマイマイ。喫茶店を破壊してしまっては、その中で働くスタッフたちもまとめて生き埋めになってしまう。
それはまずい。彼女の復讐相手はミナリンスキーだけだ。他のスタッフの中には仲良くしている子もいる。生き埋めにしてしまっては申し訳ない。
だが、その心配の必要はない。
「って空なに!? オーロラ!? うっそいつもの空じゃないじゃん……うえ!? よく見たらビルとかナニコレって感じになってる!?」
マイマイの視線が空へと向くと、そこには知らない空が広がっていた。
オレンジ色のオーロラがかかった空。周囲の建物は赤土色に変化。まるで上から何かを乗せているような、摩訶不思議な空間へと変わっている。
そこは神田明神の地下に眠る『イージスの力』が展開した『光の異空間』。
ウルトラマンと怪獣の戦いを隔離するための空間だ。
この空間にマイマイたち以外は存在しない。たとえメイド喫茶が破壊されようと、そこは無人のメイド喫茶なのだ。
周囲の変化に『ほえ〜』と息を吐いていると、瓦礫の中から空へと飛翔する青い光が目に映った。
青い光は地上へ舞い降りると、次第にその輝きが収まり姿が明確になっていく。赤色の体に銀色のライン。頭部、肩、腕、胸、足に水色のクリスタルがある巨人。
その名は『ウルトラマンギンガ』。瓦礫の下敷きになる直前にリヒトが
ギンガは右手をそっと地上へと降ろし、ゆっくりと開く。その掌には救出したことりたちが握られていた。
しかし、全員が無事というわけではない。
「ハットさん大丈夫ですか!?」
「……っ、すまない……大丈夫、だ」
「何言ってんすか!? 全然大丈夫じゃないでしょ!?」
ハットさんだけが、苦しげに地面に降りた。涼とアスカに支えてもらわなければ、立つこともままならない。
加えて、ハットさんの体はすでに人間の容姿を保てていない。メトロン星人としての姿を晒しながら、ふたりに介護されている。
原因はマイマイがダークライブする直前、『白い少女』が放った攻撃によって受けた傷だ。闇の存在であるハットさんにとって、反属性である光の攻撃は絶大な効果を発揮する。一撃目はまだ耐えられたが、二撃目は耐えられない。
あのタイミングで行われた『白い少女』の攻撃。もしあの攻撃をリヒトとハットさん両方が受けてしまった場合、おそらくリヒトのウルトライブが間に合わなかっただろう。そうなれば、あの場にいる全員が瓦礫の生き埋めになってしまう。
それを回避するために、ハットさんはリヒトを庇ったのだ。
結果、ギリギリのタイミングでウルトライブでき、全員が瓦礫の下敷きになる前に助けることができた。
もしハットさんの行動がなかったら、間に合わなかっただろう。
「…………」
事態の把握ができていないことりだけが唖然とした様子でいる。
なぜハットさんがこんなにも大怪我を負っているのか。
なぜ涼とアスカはハットさんの姿に驚いていないのか。
そして、目の前にいるウルトラマンの正体がリヒトだったということが一番の衝撃。
ファーストライブのあの日。怪獣に襲われた自分達を助けてくれたウルトラマン。その正体が友人の一条リヒトだった。
「……驚かせてすまない。これが、私の、本当の……姿だ」
ハットさんがことりに向けて言った。
「ふたり……には、最初に正体を明かした……だから、驚いていないのだ……記憶にも細工をしたからな……ははっ、その罰が、降ったのかも、しれないな……」
「喋らないで! いま傷を……」
「でも宇宙人の傷ってどうすりゃいいんだよ!?」
「……っ!」
アスカの言葉に涼が唇を噛む。
わかっている。宇宙人の傷の治し方などわかるわけがない。
でも、だからと言ってこのまま何もしないわけにもいかない。例え人間でなくても、怪我を負っているならどうにかしたい。その思いに種族など関係ないのだ。
「ひかり、の……巨人、よ。マイマイを、頼む」
ハットさんは絞り出すようにギンガに向けて言った。
ことりの視線がギンガに向かう。
ギンガは頷き、立ち上がってザムリベンジャーと対峙する。
「んー? それがご主人サマの本当の姿なの? 傷が治るのもそれが理由? ってことは、ホントに人間じゃないんだー」
リヒトは何も言わない。
マイマイはむすっとして、
「ちょっと、無視はヒドくないかなー。まあでも、ご主人サマのおかげでミナちゃん無事なわけだし、そこは感謝しとかなくちゃなー」
そして、スゥーっと目を細めてリヒトを、ギンガを見る。
「アタシちゃんの邪魔、するよね?」
「当たり前だ。あんたを止める」
「うわー! カッコイイ!!」
パチパチと拍手をして──、
「じゃあ、潰すね」
──そう、宣言した。
両者の激突が始まる。
ギンガはザムリベンジャー目掛けてのダッシュ。一直線に進み、そのスピードを利用してタックル。
続けて右のストレート。左のフックと、拳による追撃。
しかしそのすべてが硬い装甲に阻まれる。
「それだけ? なら、次はこっちの番!!」
ザムリベンジャーの腕が振られる。
ギンガは両腕を使ってガードするが、その上から叩き潰される。
無機質な塊。それは確かな重量とともにギンガの体を打つ。
腹部に叩き込まれた腕を、抱えるようにして掴む。しかし、無理矢理振り払われ、ギンガの体が投げ飛ばされた。
両者の距離が開く。
腕を構えるのはザムリベンジャー。その指先に装填される小型ミサイル。
すぐさまギンガは回避行動に出る。
連射される小型ミサイル。精度は良くないのか、狙い通りギンガに着弾するものもあれば、その周囲を撃ち抜くものもある。
「うーん、これあんまり良くないな」
マイマイも感想を漏らすほど。
「じゃ、こっち行こうか」
次に両腕から放たれたのはレーザー光線。一直線に伸びたその一撃は、速度もあり容易くギンガを撃ち抜いた。
「おー! こっちは結構いいじゃん〜。なら──」
ニヤリと、インナースペースで笑うマイマイは、ザムリベンジャーの腕をことりたちの方へ向ける。
「──っと、流石にちょっと見えにくいか」
ザムリベンジャーとことりたちの距離はそれなりにある。先ほどのレーザー光線で埋められるかと思って右腕を向けてみたが、ビルの合間にいることりたちを正確に狙うのは難しい。
しかし、だからと言って撃てないわけではない。当たればラッキーくらいの心持ちで撃てばいい。
そんな軽い気持ちで攻撃を行おうとする。
ぞわりと、命を狙われたことりたちが恐怖に震える。
満身創痍のハットさんが動こうとして、先にザムリベンジャーの腕を青い光線が撃ち抜いた。
「いったー! あーんもう! 動けんの!? もう少し寝ててよ!!」
マイマイは『ギンガクロスシュート』によって撃ち抜かれた右腕を押さえながら、ギンガを睨みつける。
ギンガはL字に組んでいた腕を解くと、すぐに走り出す。クリスタルを紫に輝かせ放つ『ギンガスラッシュ』と共に接近。『ギンガスラッシュ』を受けていながら、しかしザムリベンジャーは僅かに肩が揺れるだけ。
「そう、完璧に倒さないとダメってこと」
ザムリベンジャーはギンガを迎え撃つべく両腕を構え、
「──!?」
そのクリスタルが赤色に輝いていることに気づく。
(今度は『赤』ね!)
先ほどの二度の攻撃でなんとなくわかった。ウルトラマンギンガは大きな技を使う時、そのクリスタルが水色から別の色に変化する。
青、紫ときて今度は赤。
ギンガの周囲には火炎弾が生成される。
警戒すべきか。いや、ザムリベンジャーの装甲であれば多少は防げる。防御する必要はない。
しかし、ギンガの拳は未だ前に出されない。
ギンガの拳が、射程距離内に入る。
(……まさか!?)
そう思うのと同時、ギンガは『ギンガファイヤーボール』と
「うぐっ!?」
インパクトと同時に爆炎。
さすがにゼロ距離での攻撃は、ザムリベンジャーの装甲だけでは防げなかった。
爆炎と共に発生した熱風は、この戦いを見ていたことりたちにも及ぶ。
「ちょっと! 今のは無茶しすぎよ!!」
「けど! 今のは結構効いたみたいだぞ!」
攻撃の余波に巻き込まれた涼とアスカがそれぞれ声をあげる。
一方で、ことりたち同様戦いを見ていたハットさんが、眉間に皺を寄せながらポツリとつぶやく。
「……おかしい」
「なにがですか?」
ハットさんのそばにいた涼にはその呟きが聞こえた。
問われたハットさんは荒い呼吸を落ちつけながら説明する。
「君たち、今この空間がおかしなことになっているのには、気づいているね?」
「はい。空にはオーロラなんて光ってますし、地面もなんか上から赤土色を被せたみたいになってますし」
「摩訶不思議空間って感じっすね」
ハットさんの問いに、涼とアスカがそれぞれ答える。
「ミナリンスキー、君は以前、ここと似たような空間に行ったことがあるだろう」
「……はい。その時はこんなに暖かく、綺麗じゃなくて……もっと寒くて、暗くて、苦しい空間でした」
「それは闇の異空間だからだ。ここは光の異空間。ウルトラマンが怪獣と戦う際に位相が変異し──っと、難しいことはいらないな、簡単に言おう。ここは、ウルトラマンが有利に戦える空間。その認識で問題ない」
「ウルトラマン……あの巨人のことっすか?」
「そうだ。彼の名は『ウルトラマンギンガ』」
アスカの問いに答えるハットさん。
そこで、涼がハッとなった様子で顔を上げる。
「ちょっと待って。この空間がウルトラマンにとって有利なら、なんであんなに苦戦してるんですか?」
「そこなのだよ。私がおかしいと感じたのは。本来、この空間であればザムリベンジャー、あのロボット相手にあそこまで苦戦などしないはずだ。それなのに、ギンガの攻撃が全く効いていないと見える。これがおかしいと思った点だ……君の仕業だね?」
ハットさんの視線が、とある方向へ向かう。
そこにいたのは、瓦礫の中から出てきたというのに、白い服を全く汚していない『白い少女』だった。
ことりたちの体に緊張が走る。
「別に特別なことはしていない」
「それはないだろう。この空間において、怪獣がウルトラマンの力を上回るなど考え難い。君の力添えがなくては成立しないのだよ」
「想像にまかせよう」
「……第一、私は疑問なのだよ。なぜ光の勢力である君が、闇の勢力に加担してるのかがね。何が目的だ?」
「貴様たちに問う。闇とはなんだ、光とはなんだ」
「……なに?」
少女は、歌うように言葉を発する。
「光と闇。白と黒。善と悪。相反する存在。混じり合うことのない力。だが、本当にそうか? 双方は対極か? 表裏か? 別物か? 似たものか? どちらが正義でどちらが不義か決まっているのか?」
その赤い瞳でハットさんを、ことりを、涼を、アスカを見る。
少女の問いに答えられる者はいない。
無論、少女も答えが返ってくると思っていない。
少女の視線がハットさんを捉える。
「ふん、その様子だと次は耐えられないな」
「耐えて見せよう。私はマイマイを助けなくてはいけないからな」
「そうか。だが、それは無理なことだ。奴は時期に闇に染まる。復讐を遂げたとしても、遂げられなかったとしてもな」
「……どういうことだ?」
「言葉通りの意味だ」
その言葉と共に、少女は右腕から光を放った。
ハットさんは持てる力全てを振り絞り、立ち上がる。
少女からの攻撃をその身をもって受け止める。
「──っぐ!?」
しかし、反属性の攻撃は例え不正だとしても完全には防ぎきれない。元々ダメージを負っている体だ。このままでは後ろにいることりたちも守れない。
今出せる力全てを出し切る。
「──ハッ!!」
そうして、少女の攻撃を防ぎ切った。
しかし、ハットさんの息は荒い。大きく肩を揺らしている。次の一撃は防げない。
「無様だな。裏切りなどしなければ良かったのもを」
「……ハッ。かもしれないな。だが、私は見つけたのだよ。私の中の闇を照らす、光の存在を。君にはわからないだろうね」
「そうか……ふむ、貴様をここで消滅させるより、奴が闇に染まるところを見せた方が楽しそうだな」
「……なに?」
『白い少女』は獰猛な笑みを浮かべると、攻撃をするのではなく歩み始める。
ハットさんは身構える。そして同時に悟った。
「……ミナリンスキー。おそらくあのロボットはマイマイの心の闇に比例して強さを発揮している」
「え?」
突然名前を呼ばれ、困惑することり。
「彼女の心の闇が何なのか突き止め、それに対して言葉を投げ掛けることができれば、きっと彼女の心の闇は弱まりウルトラマンの勝利へ繋げることができるだろう。そして、彼女の心の闇はきっと君に関係している。かけるべき言葉はすぐに見つかるだろう」
「あの……」
「私はもうここにはいられない。だから、マイマイを助けてほしい。そして、彼女は元に戻った時、暖かく迎えてほしい。頼んだぞ」
「…………」
「最後の言葉は終わったか」
「ああ」
その言葉と共に、ハットさん──メトロン星人は走り出す。
少女も動き出す。
少女とメトロン星人の激突。
おそらく、すぐにでも決着がつくだろう。そしてどちらが勝つかも、何となくわかってしまっている。
それでも、マイマイを助けてと頼まれた。
ことりは視線をウルトラマンとザムリベンジャーの方へ向ける。
両者の激突は続いている。しかし、どれだけギンガが拳を叩き込もうと、ザムリベンジャーに効いている様子はない。
「ことり」
涼の声が聞こえた。
そちらに振り返る。
「マイがあんたにこんなことした理由……もしかしてだけど」
「うん……涼先輩の思った通りです」
「……なるほどね」
「うん? どういうことなんだ?」
アスカはふたりのやり取りの意味がわからず、つい声を挟んでしまう。
「多分……あんたに近い理由よ」
「俺に?」
「そう。野球部でエースを取られたあんたと同じ。そこで立ち上がれたのがあんたで、立ち上がれなくて変な道に行っちゃったのがマイ」
「…………」
アスカが目を見開く。涼の説明でなぜマイマイがこんなことをしたのか理解できたからだ。
マイマイと同じようなことを自分も経験した。自分が一番だと思い込んでいた時、新人がやって来た。そしてその新人に、自分が一番だと信じて疑わなかったことを奪われた。
なるほど、気持ちはわかる。わかってしまう。自分の中の『絶対的自信』が砕かれる。それはさぞ辛いことだろう。
そう、思ったのと同時。ぞくりと背中が震えた。
一歩間違えれば、自分もマイマイと同じことをしていたのかもしれない。誰かを傷つけ、怪獣となり、ウルトラマンギンガと戦う。そんな最悪のルートがあったのかもしれない。
「……ったく、ふざけんな」
気づけば、そんな言葉を口にしていた。
☆★☆★☆★
インナースペースで、リヒトは唇を噛んでいた。
『光の異空間』であるにも関わらず、ザムリベンジャーの装甲が硬すぎる。どういったカラクリがあるのか、それを解明しなければザムリベンジャーを倒すのは難しい。
『ギンガサンシャイン』であれば、あの装甲に関係なく戦いに決着をつけられるかもしれないだろう。しかし、『ギンガサンシャイン』は『ギンガクロスシュート』のようにいつでも撃てる技ではない。闇そのものを吹き飛ばす効力を持つ『ギンガサンシャイン』を放つには、それ相応の光のエネルギーが必要なのだ。初めて放った時は絵里と共にウルトライブしていたから、前回はギンガライトスパークによるエネルギーの補填があったから。
リヒトひとりでウルトライブした状況では、エネルギーが圧倒的に足りない。
もう一つの手として『ギンガコンフォート』による浄化がある。しかし、マイマイの精神状況を考えると、今はまだ心の闇を完全に浄化することはできないだろう。
(エネルギーをフルチャージして『ギンガクロスシュート』を決めるしかないか)
加えて『ギンガファイヤーボール』の時のように、ゼロ距離で放てば大ダメージとなり、この戦いに終止符を打てるだろう。しかしその場合、ギンガ自身も巻き込まれる、捨て身の一撃となる。倒せなかった時のリスクがあまりにも大きい。
どうする……と考えていると、
「マイマーイ!!」
アスカの叫び声が聞こえてきた。
「聞こえてるか!! 聞こえてたらこっちを向け! ん? 向いてくださいの方がいいのか? いいや、とにかく! 俺の声聞こえてるかー!! 聞こえてたらこっち向けー!!」
全身を使ってアピールをしているその横では、涼がギョッとした目でアスカを見ていた。
いくらマイマイの狙いがことりだけとはいえ、もし琴線に触れるようなことがあれば、アスカの命などザムリベンジャーの攻撃で簡単に散る。
加えて、すぐそばにはことりがいるのだ。あまりにも危険しかないその行動に、リヒトもつい叫びたくなる。
「なに、あいつ」
マイマイの方も、アスカの突拍子もない行動に唖然とした様子。
しかし、結果アスカの望み通りこちらに視線を向けさせることには成功した。
「お、こっち向いた。ってことは聞こえてるな、よし。いいか! マイマイ! よく聞け! お前がミナリンスキーにナンバーワンの座を奪われて、悔しかったのはわかった! けどな、だからと言って、こんな馬鹿なことしてんじゃねえよ!」
ザムリベンジャーの右腕がアスカへと向けられた。
「あ、やべ」
命の危機を感じるアスカ。
すぐさまギンガが間に入りバリアを展開。
レーザー光線をなんとか防ぐことに成功。
「ちょっと邪魔」
「お前な……っ!」
とてつもなく冷たい目で、マイマイは言った。
おそらく、他人の命を奪うことに対して何も感じていなかった。なんの躊躇いもなくアスカを撃とうとした。
アスカの方も、命を狙われた感覚に冷や汗をかいている。
「っ!? だ、だよな! 怒るよな! ……自分が一番だって信じてたのに、ポッと出の新人にその座を奪われるのは、辛いよな。自分がめちゃくちゃ努力して、やっとの思いで身に付けた技術を、まるで最初から持ってましたっての、ムカつくよな!!」
「…………」
アスカの言葉に思うことがあったのか、ザムリベンジャーの構えが解ける。
「俺もだ! 俺も、ナンバーワンの座を簡単に奪われた! 年下の後輩にな! ……そいつが来るまで、俺は野球部のエースピッチャーだったんだ。『エース』って響きに憧れて、ずっと努力してきた! そのおかげかガキの頃からずっとエースだったんだぜ! 中学の時も一年からレギュラー! 三年間エースを務めた! だから高校も一年からレギュラーだったんだぜ? すごいだろ! ……なのによ、途中で転校してきた後輩がよ……バケモノで、本物の天才だったんだよ。……もう、なに? 一目でわかんだよ……こいつとは次元が違うって。俺が長年努力して掴んだものを、最初から持ってやがった。それはもう妬んだね。なんで名門じゃなくてうちなんかに来たんだよって。もう、ホントうめえの」
「アスカ……」
その事情を知る涼が彼の名を呼んだ。
アスカは一度涼の方を向いて、笑って、続ける。
「そこからはもう酷かったぜ。なんせ初めての挫折だ、立ち直り方なんて知らねえ。簡単に落ちぶれて……わり、詳細は省かせてくれ。死にたくなる……だから、お前と似たようなもんさ。後から来たやつに自分の位置を奪われた。だからお前の気持ちはよくわかる。似たようなことを経験したんだ。お前がミナリンスキーに向ける気持ちは痛いほどわかるさ。俺だってそうだったんだから。でもな、だからってこれは違うだろ。お前がやるべきことは、そこで復讐心に任せて暴れることじゃねえだろ。もう一度立ち上がって、ミナリンスキーに勝つことだろ! 奪われたナンバーワンの座を、もう一度自分のものにすることだろ! 恨みで暴れてんじゃねえよ!」
「うるさい……うるさい!!」
ザムリベンジャーが動く。怒りのボルテージがマックスといった様子。
間にいるギンガなどお構いなしの進行。
その進行を止めるべく、ギンガは立ち塞がる。
「──っ!?」
飛ばされそうになる体に力を入れ、踏みとどまる。
しかし、徐々にギンガの体が押され始める。
加えて、カラータイマーが点滅を始める。
(くそっ! 時間が!)
残された時間はもうない。リヒトに焦りが生まれる。
「怒ったよな。ああ、怒るよな。俺だって同じこと言われたらキレるわ。『お前になにがわかるんだ!』ってな。でもよ、さっきも言ったけどわかるんだよ。だってお前、すげえ努力してナンバーワンになったんだろ? 同じ努力家だ、それぐらいわかるさ。だって、マイマイに一目で惚れたんだぜ? 一目で『この人が一番』って感じるなんて、相当の努力をしたやつに決まってる。そうじゃなきゃできねえ芸当だ。それによ、あのメイド喫茶で一番輝いていたのはマイマイだ! それはミナリンスキーがきてからも変わらねえ! 俺の中で絶対の一番はマイマイだ! 腐った俺の心に、もう一度努力の炎を燃やさせたのはマイマイだ! ほら、ハートが熱いやつを見ると、感化されて自分のハートも燃えることあるだろ? それと同じだ! 俺はお前に救われたんだよ! だから、腐らないでくれ。俺を救ってくれた笑顔を、壊さないでくれ……」
ずずっと、鼻の啜るアスカ。
「……俺も、一歩間違えたらそこにいたかもしれねえ。俺がウルトラマンと戦ってたかもしれねえ。けどよ! 俺はお前に救われたんだ。だから今度は俺の番だ。俺を救ってくれた礼として、今度は俺がお前の腐った心をもう一度燃やしてやる!!」
アスカの声が続く。
踏ん張っているリヒトには半分も頭に入ってこない。ザムリベンジャーの進行を止めることに全力だ。
だが、ふと、ザムリベンジャーの力が弱くなっていく事に気づいた。
見れば、インナースペースに佇むマイマイは俯いていた。
アスカの言葉の効果だろうか。
「大丈夫だ! マイマイならすぐにミナリンスキーを追い越せるって!」
「いやアンタ、それ本人のそばで言う?」
「いや、それは……ほら! 涼もなんか言ってやれよ!」
「はあ!? ここで私に振る!?」
「あ、つい……って、なんか動き止まってね?」
ザムリベンジャーの動きは完全に停止していた。先ほどまで押さえ込んでいたギンガも、様子見のためか少し距離を離している。
「マイマイ……」
リヒトが名前を呼んだ。
「……ハットさんも、アンタが一番に戻れるって信じてる。だから、復讐はやめるんだ」
「…………」
「あんなにアンタを一番だって叫んでるファンがいるんだぜ。その声に応えないわけにはいかないよな」
「……そうね。ファンの声には応えなきゃ……けど、もう」
「大丈夫だ。お前の闇は、ここで俺が撃ち抜く」
「…………」
マイマイは無言のまま。
ギンガのカラータイマーの点滅が続く。
アスカは自分の言葉がマイマイに届いたのかわからない。
インナスペースで対峙するリヒトもまた、マイマイの様子を伺っていた。アスカの声が響いてほしい。それが正直な気持ちだが、俯いているせいでマイマイの表情がわからない。
今なら『ギンガコンフォート』で浄化できるか? と考えた時、
「……ねえ、ご主人サマ。アタシ……もうわかんないや」
と言って、辛そうに笑って、ダークダミースパークを己の胸に突き刺そうと構えた。
「──っ!?」
その行為がなにを意味するのかリヒトは知っている。知っているからこそ、それを止めなくてはいけない。
すぐさまクリスタルを青く輝かせ、全身のエネルギーを右腕に集中させる。
放たれる『ギンガクロスシュート』。
両者の距離は近いと言っていい。だがリヒトが危惧していた捨て身の一撃になることはない。
それは、マイマイの戦意に揺らぎがあったからだろう。『ギンガクロスシュート』は今までの装甲の硬さが嘘のようにあっさりと、ザムリベンジャーを撃ち抜いた。
☆★☆★☆★
[エピローグ]
マイマイこと、浅見舞は自身が働くメイド喫茶に足を運んでいた。
気分は重い、体も重い。全てが重い。心が壊れそうで、泣き叫びたいほどの衝動があるのに、それとは反対に全てを投げ出したいと思うほど無気力でもある。
多分、表情は死んでいるだろう。それでも、精一杯に足を動かしてやってきた。店長に退職の意思を伝えるために。
「……本気?」
事務室に店長と二人。
舞は申し訳なさそうに頭を再度下げる。
それを受け取る店長は、少し困ったような、それでいてどこか心配そうな表情を浮かべた。
「申し訳ありません。勝手なのは重々承知しています」
「……何かあったの? 今のあなた、とても辛そうよ」
「……言えません。ただ、もうアタシにはここで働く資格がないんです」
「資格って……」
なんと言えばいいのか。店長は困った表情を浮かべる。なんせ、舞の表情が今まで見たことないほどにやつれているのだ。
今にも壊れてしまいそうなほど、とても危ない。
「本当にすみません」
頭を上げる気配が一向にない。
むしろその言葉は謝罪よりも懇願に近かった。
「……わかったわ。でも、残りの一ヶ月は頑張れるの? 今の様子だととてもできなさそうだけど」
「………」
舞は答えない。
ただ苦しそうに表情を浮かべるだけ。
「……今日はもう帰りなさい。そしてゆっくり休むこと。いいわね」
「……はい。すみません」
そう言って、倒れそうになる体を動かしてなんとか退室できた。
裏手から外に出る。
夏の日差しが眩しいほどに輝いている。
ふと、誰かの気配を感じた。
「あ、えっと……」
そこにいたのは『ご主人サマ』と呼んでいた少年。名前はなんだっけと思い出そうとして、そういえば知らないことに気づいた。
「名前、聞いてなかったね……確か、リヒトって呼ばれてたっけ?」
「ああ。一条リヒト。それが俺の名前」
「リヒト……アタシは浅見舞」
自らの名を名乗り、そして深く頭を下げた。
「ごめんなさい──なんて言って、許してもらえるなんて思ってない。アタシはそれだけのことをした。あなたの友人を、殺そうとした」
「それは、闇に心を操られてただけだ」
「違うわ。アタシがやったこと。アタシは確かにミナちゃんを妬んでいた。だから、アタシがやったことに変わりはない」
「…………」
ことりを妬んでいたことは紛れもない本心。たとえ心の闇に操られていたのだとしても、その心と自分が『行った』ということに変わりはない。
だから、もう元には戻れない。
あのお店で働くことも、ましてやことりと一緒にいることなど、罪悪感がひどくできない。
「……ミナちゃんとは付き合ってないんでしょ。それを勘違いして……バケモノ呼ばわりして……本当、最低ね。ごめんなさい」
「…………」
リヒトが何か言おうとする。
きっと『大丈夫か』と言おうとしたのだろう。しかし、今の自分は誰の目から見ても大丈夫じゃない。自分が一番理解している。だからその声かけは意味がない。
「…………」
なんと声をかけたらいいか迷っているのだろう。
卑怯だが、好都合。
舞はリヒトに背を向けて歩き始める。
「あ」
「あなたがウルトラマンだってことは絶対に言わない。せめてもの罪滅ぼしとして誓うわ。それから、もうミナちゃんにも会わない。それがきっと、一番いいことだから」
リヒトが何かを言いかけ、遮るように矢継ぎ早に口を動かした。
そして、追いかけてこないで、と言葉の外に意味を込めた。それが通じたのか、リヒトは追いかけてこなかった。
どれほど歩いただろうか。
ふと、気づけば暗い道を歩いていた。
目の前に『白い少女』が現れる。
「今の気持ちを当ててやろう。『生きているのが辛い』。そうだろ?」
「…………」
「自分の好きなものを自分の手で汚し、居場所をなくし、他者を殺めかけ、応援してくれた者の声に応えようにも、もう戻ることのできない場所に来てしまっている。もう壊れる一歩手前だ」
「…………」
「楽になりたいか?」
それは悪魔の囁き。
「その身を委ねれば、楽になれる。苦しまずに済む」
「…………それは、本当」
がさり、とどこかで何かが動く音がした。
「ああ。本当だ。お前が望めばな」
「…………」
ぐるぐると頭の中が回り始める。
これは悪魔の囁き。それに乗って本当に楽になれるわけがない。
でも、もし今このぐるぐるとした感情から解放されるのなら、誘いに応えたい。
好きなものを、もう好きと言えないのなら。
「……うん、楽になりたい……」
ニヤリと、『白い少女』が笑った。
一人の人間が、闇の中に沈んでいく。
もう二度と戻ることのない、深い闇の中へ。
「ふむ、貴様のその顔、なかなかに愉快だな。ああ、気分がいい」
『白い少女』は振り返る。
絶望し、体から力が抜けきっているメトロン星人の姿がそこにあった。
「言っただろう。奴が復讐を遂げようと遂げまいと、闇に染まると」
「なかなか面白いことをするね」
おもしろそうに笑いながら、ローブ男が姿を現す。
「貴様も似たようなことをしていただろう」
「いやいや、ボクの場合はお恥ずかしながら失敗したからね。しかし、うまく行ったようでよかった。闇だけでなく、光でも心の闇を動かす。そうすれば、闇は消されても残った光で堕とすことができる。君にしかできない芸当だ」
「…………」
「おっと、光だの闇だのは口が滑った。すまない」
ちらり、とローブ男はメトロン星人へと視線を向ける。
救いたかった人物が目の前で闇の中へと消えたのだ。その絶望は途方もないもの。電源の切れたロボットのように、メトロン星人はただその場にいるだけのものとなっている。
それを一瞥した後、ローブ男はサッと右手を振るい、メトロン星人の中に残っていた闇を抜き取った。
人形に戻るメトロン星人。
それと摘み上げ、
「いや、食べる価値もないか」
あっさりと握りつぶした。
そして、全てのことを終えたふたりは、再び暗闇の中に姿を消すのだった。
第13話 伝説のメイド! その名はミナリンスキー!! (完)
○あとがき
構想当初は違ったエンディングでした。
ウルトラマンガイア第31話のように、メイド喫茶に行っている事がμ’sメンバーに知られて、奢ることになってリヒトが叫んで終わり。なんならアスカを巡ってマイマイと涼のバトルで終わり。
……なんてことを考えていたんですが、プロット組んだらμ’s出てこないし何より「ここまでやったら(マイマイが)普通に戻るとこが想像できない……」となってしまいこのような終わりに急遽変更。
でもその分しっくりはきてるのでいいかなと。全く良くない結末ですが。
さて、次回はリヒトの過去に触れていきます。
なぜ記憶を失ったのか、失った記憶はどんな記憶なのか。
リヒトはアメリカで一体何に巻き込まれたのか。
この物語を書き始めた時から描いていたエピソード。それがいよいよ近づいていることに高揚感を得つつも、しっかり書いて行きたいです。
○次回予告。
夏のある日。一条リヒトと共にアメリカでダンスを学んでいたキャスリン・ライアンが来日する。突然の来日に驚くリヒトだったが、キャスリンは「あの日」の出来事を思い出したという。
それは、リヒトが記憶を失った日の出来事。一体何に巻き込まれたのか。早く知りたいリヒトだが、キャスリンは条件としてデートを申し込んでくるのだった。
次回、第14話「ロストメモリー」