ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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これ以上待たせるのも悪いかと思いまして、前半部分を先に上げさせていただきます。ほとんどが世界観の説明になりますが、よろしくお願いします。




第3話 決意と誓い
第一章:始まりの朝


 [序章]

 

 

 そこは異様な空間だった。

 空は赤黒く光り、地面はどこまでも続く紫色。そこに緑色に発光する物体が、ガラスの破片のように埋め込まれていた。

 もしもこの場に常人が立った場合、その不気味な風景と肌を撫でる君悪い風に体力だけでなく精神面を削られるだろう。

 つまり、おおよそ常人が立っていられるような空間ではないと言うこと。

 

 ならば、そんな空間に立っているひとりの男。彼が常人ではないと容易に説明できる。

 

 背丈はおおよそ一八〇センチ近く。しかしその全身が黒いローブで覆われているため、はっきりとした体格はわからない。フードを深く被っているため、表情も見えない。

 ローブの男はその場に立っているだけ。時折、まるで体の調子を確かめるかのように、掌を開いたり閉じたりしている。

 

『おい、そろそろいいだろ』

 

 男の耳に少女の声が聞こえてきた。

 ローブ男はゆっくりと振り返る。

 同時に、今まで広がっていた空間が男を中心として収縮されていく。まるで男の足に吸い込まれているようだった。

 数秒後、周囲の光景は真夜中の公園となっていた。

 ローブ男は声の主を見つけると、驚いた声で言う。

 

「なんだ、随分と可愛らしい姿になったね」

 

 男の前に立っていたのは、腕を組みやや不機嫌そうにしている少女だった。

 身長は一五〇近くだろうか。小柄な体格で腕を組み不機嫌そうにしている姿はとても可愛らしかった。

 だが、その少女の纏う雰囲気が異様だった。長く背中まで伸びる髪は月の光を照り返し輝く白色。肌も雪のように白く、纏うワンピースには汚れなんか一つも目立たない程に真っ白。『純白の少女』がそこにはいた。唯一の例外は、その赤い瞳だろう。

 少女は鈴のような声音で言う。

 

「仕方あるまい、その男の記憶で一番印象に残っている女の体をコピーしたのだ。その男にとって『コイツ』がよほど印象強かったのだろう」

 

「それはそうだよ。()()()()にとって、その女の子は彼女だったんだから」

 

 ローブ姿の男に言われ、眉間に皺が寄る少女。

 

「まったく、利用する人間を間違えたか」

 

「それは無理な話だ。君がこの世界にとどまるには、この体を利用するほかないんだから」

 

 確かにその方法でしか、少女がこの世界にとどまることはできない。自分で選んだ方法とはいえ、この姿になるとは少々予想外だった。なぜ自分が()()()()()()姿()をしなければならないのか、非常に不服だった。

 

「……まあいい。さっさと支配者様を呼び起こせば済む話だ。それで、そっちの調子はどうなんだ?」

 

 ムスッとしながら言う少女。対してフード男はあっけらかんとした態度で答える。

 

「あれぐらいかな。本格的に行動するのは無理だ。だから、またしばらくは()に任せるよ」

 

「一つの体を二人で共有、か。何とも面倒なことだな」

 

「仕方ないさ、ボクの方はまだ完全に力を取り戻せていない。それに、この体の主要権はアイツにある。ま、かくいうアイツも、まだ万全みたいじゃないけど」

 

 フードを深くかぶっているため、男の表情は見えない。だが、声のトーンから今の自分の状態を不憫だと感じていることがわかる。

 

「それもそうだ。奴はまともに『光』とやり合ったんだ。相打ちにしただけ大したもんだ」

 

「それは向こうが満身創痍だったからだろ。万全の状態じゃ勝ち目はないよ。おっと、この話は奴にとってご立腹らしい」

 

 もう片方の奴が動いたのか、体内から抗議の衝撃が来るのを男は感じた。

 

「それで、次はどうするんだ? せっかく仕掛けたエサも、倒されたみたいだが」

 

「ああ、それに関してならすでに策は考えてある。ガルベロスはまだ生きてるかね」

 

「なに?」

 

「それに、本格的には無理だといったけど、そうでなければ動ける。今回は動かせてもらうよ。会いたい奴もいるし」

 

 男はそのフードの下で不気味な笑みを浮かべる。フードから見える口が、三日月のように歪むのを、少女は目撃した。

 

「まあよい、あまり無理はすんじゃないぞ」

 

「君が心配だなんて、珍しいね」

 

「バカを言うな、貴様の力は絶大だ。それを得る前に死なれては困る」

 

「君にボクの力は毒なんじゃないのか?」

 

 男の言葉に少女は鼻で笑う。

 そして少女はクルリと男に背を向け歩みだす。肌も、髪も、その身にまとうワンピースでさえ白い少女は、夜の風景には不釣り合いではっきりと浮かんでいる。しかし、そんなことを気にさせる様子もなく白い少女は闇に溶け込む。

 

「耐えて見せるさ。貴様ほどの『闇』の力と私の『光』の力が合わされば、支配者様は大きく進化なされる。そのためにも力を十分にためることだ。『────』」

 

 少女の姿は消え、黒フードの男だけがその場に残される。

 最後に呟かれた自分の名前。男は静かに笑い、夜の町に消えた。

 

 

 [1章]

 

 

 一条リヒトは朝に弱い。

 これは記憶を失う前からそうだったらしく、母親である一条(いちじょう)美鈴(みすず)は、リヒトがなかなか起きてこない時、布団ごとリヒトを畳むという荒技で起こしていたらしい。そのこともあって学校へは遅刻ギリギリに到着していた。

 本人も朝早く起きようと目覚ましをセットしているのだが、止めても二度寝に入る、例え上半身を起こしたとしても、そのままの体勢で寝ている、なんてことがあるらしい。

 そして、記憶喪失後もこれは継続されており、高坂穂乃果をはじめとして東條希や園田海未、南ことり、祖父である榊奉次郎に起こしてもらうことで、穂乃果たちの朝練習に参加できている。

 そして今日、穂乃果たちのファーストライブ当日。今日は本番であるため朝練習はない。ダンスのステップも昨日の夕方練習で確認を終えているため、本日はリヒトにとって久しぶりに誰にも邪魔されず寝ていられる日だった。

 ……そのはずだった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

「…………………………」

 

 灰色のスウェットに身を包み、寝癖でとんでもないことになっている髪を風に靡かせながら、一条リヒトは仁王立ちで少女たちのダンスを見ていた。

 その瞳は真剣そのもの。先ほどまでの寝ぼけ眼はどこへ行った、と言いたくなる。

 対して、リヒトの視線の先にいるのは笑顔でダンスを踊る少女たち。穂乃果、海未、ことりの三人だ。

 本来ならば朝の練習はないことになっている。それなのになぜ三人はダンスを踊っているのか。

 理由は単純。不安や緊張から早起きしてしまった三人がリヒトの元にやって来て、最後の最後の確認をしてほしいと頼んだのだ。リヒトとしては最終確認を終えているため、踊らなくてもいいと言ったのだが、穂乃果にどうしてもと頼まれ一回だけ見ることにした。

 ダンスが始まれば、寝ぼけ眼だったリヒトの雰囲気も変わっていく。

 

 

 ダンスは終盤へと差し掛かる。海未の体力づくりメニューのおかげか、最初に比べて終盤の乱れは少なくなってきている。

 ダンスを踊り終え、三人の眼差しがリヒトへと向かう。

 

「……まあ、いいじゃないか。後半の乱れも少なくなったし、息も合ってる。後は本番の緊張の中、最高のパフォーマンスをするだけだな」

 

 簡単な感想を言い、背伸びをするリヒト。穂乃果たちもリヒトの言葉を受け安堵の息を吐く。

 やはり当日と言うこともあってか、三人とも見た目によらず緊張していたらしい。海未の場合、弓道部の部活で試合に出ることもあるため、緊張には慣れているものだと思っていたが、どうも人前だということが恥ずかしいらしく、昨日もそれで少々手を焼いた。

 それでも、思うところはあったのかリヒトは口を開く。

 

「でも、昨日も言った通り、穂乃果の場合、少しステップが雑になる時があるから慌てずしっかりやること。海未の場合は動作が小さくなる時があるから、少し大胆を意識すること。ことりは安定してるけど、二人の様子を気にし過ぎ。視線はアイコンタクト以外は基本観客の方を向く。それと、やっぱり後半は体力がなくなって全体的にパフォーマンスが落ちてる、最後まで気を抜かないこと。それと──」

 

 記憶喪失前、アメリカに留学してまでダンスを学んだからなのか、一度口を開くと止まらなくなるリヒト。

 記憶喪失であるリヒトにとって、ダンスをどう教えればいいのかわからない部分が多い。その為、こういった小さな指摘をすることしかできなかった。本来ならば、アメリカで学んだ知識をもとに、もっと効率よく穂乃果達にダンスを教えて上げられたかもしれないのに。そう考えると何とも歯がゆかった。

 

「一番は、自分が楽しむこと。最悪、観客を楽しませるとか、ステップをちゃんとしなきゃとか、そんなもんは忘れていい。自分が楽しく踊っていれば、自然と笑顔になる。そうすれば、その笑顔が観客にも伝わるはずだ」

 

 ──人を楽しませるには、まずは自分が一番楽しめ。

『一条リヒト』がダンスをする上でいつも言っていたことらしい。まさにその通りだとリヒトも思った。自分が楽しくなければ、他人を笑顔になんて絶対に出来ない。

 そしてリヒトは、満面の笑みを浮かべ三人の少女へエールを送る。

 

「可能性を感じたんだ。後は後悔しないために前へ進め。全力で楽しんで来いよ」

 

 自分のお気に入りの曲『ススメ→トゥモロウ』の歌詞の一部を拝借し、エールを送るリヒト。

 

『はい!』

 

 リヒトのエールを受けた三人は、元気よく答える。

 一通り確認し得ると穂乃果たちは学校へ向かうための支度を始める。といっても、四月であり本日は割と涼しい気候だったので、ダンスは制服のままで踊ってもらった。その為、穂乃果たちの準備は置いておいたカバンとブレザーを取りに行くだけだ。

 大きなあくびをし、三人を見るリヒトは海未がブレザーを持ち上げた際にポケットから何か落ちるのを見た。

 

「海未、なんか落ちたぞ」

 

「え? ああ、ありがとうございます」

 

「海未ちゃん、何それ?」

 

 海未はしゃがんで落としたものを拾うと、何を落としたのか気になったのか穂乃果が声をかける。海未は特に隠すような物でもないのか、手の平に乗せたソレを穂乃果に見せる。

 

「今朝お父様からもらったものです。お守りって言ってましたけど、どういう物なのか私にもよくわかりません」

 

 海未の手の平に乗っていたのは、紐で繋がれた赤いY字型をした宝石だった。深紅に輝く孫宝石の形に見覚えのあったリヒトは、わずかに目を見開く。

 

(あれって、確か、あの空間で出会ったウルトラマンの胸のマークと、似てる? 同じものなのか?)

 

 初めてウルトラマンギンガと出会った時、リヒトは同時にもう一体の巨人と出会った。その時の巨人の胸にあったのが、海未が持つものと一緒のものに見えた。

 

「綺麗な宝石」

 

「私も似たもの持ってるよ」

 

 感嘆の声を漏らすことりの隣で、ブラウスの第二ボタンを開け始める穂乃果。突然の行動にリヒトは慌てて顔をそむける。少ししてから、視線を戻してみると、穂乃果は首に下げていた赤い輝石を取り出し、海未の持つ宝石と見比べていた。

 

「私の方は石みたいだね」

 

「そうですね。私のはY字型をしてますけど」

 

「いいなあ~、穂乃果ちゃんと海未ちゃん。ことりは持ってないよ」

 

 穂乃果と海未が互いの奇跡と宝石を見比べている間、三人の中でそういったものを持っていないことりが少し寂しそうに、羨ましそうに二人を見る。

 

「奉次郎さんに頼めば貰えるんじゃない?」

 

「呼んだか?」

 

『わっ!?』

 

 穂乃果が奉次郎の名を言った途端、まるでタイミングを待っていたかのようにひょっこり現れる奉次郎。

 

「奉次郎さん、ことりちゃんにもこれと同じようなもの上げれないんですか?」

 

 穂乃果は己が持つ輝石と、海未の手の平で輝く宝石を示しながら奉次郎に問う。

 奉次郎は、海未の手に乗る宝石を見たとたん、わずかに視線を細めたのをリヒトは見た。だが、すぐにいつもの表情へと戻ると、少々バツが悪い顔をして答える。

 

「すまんが、ないのう」

 

 奉次郎の答えに落胆の色を見せることり。それほど、幼馴染二人が持っている輝石と宝石が羨ましかったのだろう。

 聞くところによると、可愛いものが好きだったことりは、よく親の服を着ておしゃれをしていたり、コスプレをしていたらしい。その時にアクセサリー系を使うこともあったのか、普段は身に着けないだけであってたまに身に着けるらしい。そのことから、三人でおそろいのアクセサリーがほしいと思っていたのだろう。

 奉次郎も、落胆したことりがかわいそうだったのか、狩衣の袖に手を入れ、一つの白い勾玉を取り出す。

 

「手持ちにあるのはこれくらいじゃが、欲しいか?」

 

「いいですよ。また三人で買い物行った時に買いますから」

 

「そうか。……、いいや、上げるよ」

 

 そう言って奉次郎は白い勾玉をことりに差し出す。差し出された勾玉を見て戸惑うことりだったが、奉次郎が「遠慮せんでええ」と言うと、素直に受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

「ええってことよ。ワシからのプレゼントじゃ。ライブ、頑張るんじゃよ」

 

「はいっ!」

 

 弾けるような笑顔を向けることり。

 喜びを分かち合う三人だったが、海未が時間を確認するとすでに登校開始の時間となっていた。三人は奉次郎とリヒトにお礼を言うと早々と学校へと向かった。

 行ってらっしゃい、とリヒトは言うと大きなあくびと共に背伸びをする。さて、あとは家に帰ってのんびりしようか、と予定を立て家へと向かうリヒトだったが、後ろにいる奉次郎から声を掛けられる。

 

「そうじゃ、リヒト。お主もさっさと準備せい」

 

「……今日も行くの?」

 

「当り前じゃ。一〇時にワシんとこに来るように」

 

 伝えることだけを伝え終わると、奉次郎は仕事へと戻って行った。

 一人取り残されたリヒトは、一つため息をつくと家へと戻って準備を始めた。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 時刻は午前十時、リヒトが奉次郎と共に訪れたのは、町の中にあるジムだった。

 若い頃から運動家だった奉次郎が、今なお『老い』と戦うために体を鍛えている場所でもあり、ここ数日リヒトも半ば強制的に連れてこられた場所でもある。

 奉次郎はここの常連なのか、すでにトレーニングを始めている人たちと楽しげな会話をしつつ自分に課したメニューをこなしていく。

 一方、リヒトの方は記憶喪失になってからまともな運動をあまりしていなかったためか体力の衰えを感じていた。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 ランニングマシンを使い走るリヒト。体力は落ちていても根性はあるのか汗をかきながらも必死に走っている。

 リヒトにも奉次郎が考えたメニューが渡されており、主に持久力と腕や足の筋力アップのメニューが並んでいる。記憶を取り戻すために来たといえど、家でぐうたらしていては意味がない、と奉次郎に言われ、このジムに来ている。

 確かに、リヒトはここ数日穂乃果たちのコーチのほかにやっていることと言えば、アルバムを見ているほか、パソコンで他のスクールアイドルのことを調べたり、穂乃果たちの練習メニューに生かせそうな情報を集めたり、奉次郎に呼ばれなぜかお祓いを受けるといった日々だった。

 家から出ることは少なかったので、リヒトにとってもこのジムは有意義な時間になりつつあった。

 

「……?」

 

 リヒトの使っているランニングマシンは部屋の隅に置かれており、目の前はガラス張りで外の光景が広がっている。加えて、このジムは建物の五階にあるため高所恐怖症でなければそれなりに眺めがよいともいえる。

 そんな人込みを見ているリヒトの視界に、一人の人物が映った。 

 全身を黒いローブで覆い、上を見上げる謎の人物。その特徴的な複素にもかかわらず、周囲の人間はまるでその男に気が付いていない。

 最初はドラマの撮影かと思ったが、周囲にカメラマンはいない。となると、なんかのパフォーマンスかと思い、それ以上その人物を見ていると、気味が悪い気がして視線を前に戻す。

 そしてしばらくして、ふと視線を下げてみると、そこにローブの姿はなかった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 そこはビル地ビルの間の狭い路地。先ほどリヒトが目撃した黒いローブ男がそこにはいた。

 

「見つけたぜ、やっぱり来ていやがった、この町に」

 

 フードの下で獰猛に笑う男。

 

「今すぐ行って、殺してやりたいぜ」

 

 殺意のこもった声音で告げる男。今にもリヒトの元へ駆け出し殺しかねない殺気を放つ男だったが、その内から聞こえる声に従い、渋々引き下がる。

 次の瞬間に男の纏っている雰囲気ががらりと変わった。壁に寄りかかっていた状態から、スッと背筋を伸ばすと、リヒトのいるビルに視線を向ける。

 

「彼が、『光』なんだ。へえ、運命って面白いものだね」

 

 男は、フードの下で不気味に笑うのだった。

 




第二章へ続きます。
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