ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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第三章:忘却の罪

「──ハロウィンの日にね、セラが行方不明になったの」

 

 店を出てしばらくし、キャスは英語でそう言ってきた。

 赤信号に足を止め、周囲に配慮してか英語で飛んできた単語。

 リヒトはキャスの少し後ろを歩きながら聞き返す。

 

「行方不明?」

「そう。最初に気づいたのはもちろんクラウス。セラがいなくなったことに気づいたクラウスはすぐにメッセージを送った。けど返信なし。次に電話をかけてみたけどこれにも反応なし。すぐにおかしいと思ったわ。さっきまで一緒に盛り上がっていたのに突然と姿を消した」

 

 信号が青に変わる。

 二人は歩き始め、キャスの説明が続く。

 

「みんなでセラを探した。セラのお気に入りの場所、学校、自宅、練習場所、とにかくセラの行きそうなところ全部探したわ。でも、全然見つからない。結局、私はセラを見つけることができなかった。できないまま一日が終わった。でもね、後から聞いた話だとその日のうちにクラウスとライトはセラのことを見つけていたの。ひどいわよね、私には連絡ひとつ入れてくれなかったんだもの。思わず怒っちゃいそうになった」

 

 クスッと笑うキャス。

 言葉とは裏腹にあまり怒っていないように見えた。

 

「それにね、ライトはその日のこと曖昧にしか覚えてなかったの。セラを見つけたところまでは覚えているのに、その後に何があったのか覚えていない。気づいたら家に着いてたんだって。記憶喪失になる前から記憶を忘れるのが得意だったみたいね」

「それは──」

「冗談よ。思い出したらちょっとむかっときたから、ねっ。

 ……でも本当は、話したくなかったんでしょうね。今思い返せば、もうその時からライトとクラウスの様子がおかしかったのよ。ライトは私に何か隠しているのをなんとなく感じた。だって、セラを見つけたっていうのに、私はセラを一度も見なかったんだもの。何より、見つかったんならクラウスがあんなに荒れない。

 それから数日して、ライトがすごく落ち込んでいるところに遭遇したの。短い付き合いだったけど、それでも、あの時のライトの様子は異常だった。私は訊いたわ。どうしたのって。そしたら──」

 

『──ごめん……本当にごめん」

 

「──ただ謝るだけだった。私にはライトが何に謝っているのかまったくわからない。説明を求めても、説明をしてくれない。

 そして、次はクラウスが行方不明になった。セラとクラウス、二人もいなくなれば自然とチームでいることもなくなっていく……ライトの帰国も近づいてきた。私は何としても、せめてもう一度みんなでダンスを踊りたかった。そんな時だったわ。クラウスから連絡が入ったの」

 

 キャスは何の変哲もない広場へとやってきた。

 そこで足を止める。

 

「久しぶりに会ったクラウスは何だか怖かった。セラがいなくなって、正気じゃいられなかったのに、怖いくらいに落ち着いてた。そして、彼はある話をしてくれたわ」

 

 キャスがリヒトの方を向く。

 その目で、リヒトを正面から見る。

 そして、

 

 

 

 

「ライト、あなたがセラを殺したって」

 

 

 

 

 と、言った。

 

「──えっ」

 

 突然のワードに一瞬息が詰まった。

 翻訳間違いか? 聞き間違いか? と思ったが、もう一度、今度は日本語でキャスは言った。

 

「あなたがセラを殺した。あなたがクラウスの目の前でセラを殺した。そうクラウスは言ってたわ」

「俺が……殺した……?」

「そう。遅れてやってきたあなたに確認したけど、私の耳はしっかり聞いたわ。ライト、あなたはこう答えた──」

 

『──ああ。俺がセラを殺した』

 

「正確には()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()らしいけどね。

 腕を十字に組んで、放った光熱エネルギーでモンスターを撃ち殺したと、クラウスは言っていたわ」

「…………」

 

『緑色のモンスター』というワード。

『銀色の巨人』というワード。

 そして『腕を十字に組む』。

 それらのワードがリヒトの脳を打った。

 だって、それに近いものを知っている。

 今のリヒトは十字ではなくL型だが、そこに大きな違いはないだろう。『ティガ伝説』の古文書の中に登場する『光の戦士』の中にも、十字に組んで光線を放つ戦士がいた。だから知っている。そういう技があると。

 そして、何度も頭の中に流れてくるビジョン。そのうちの一つに、緑色の化物に変貌した少女の叫びがあった。涙を流して『撃って!』と懇願する少女。そして『やめろ!』と叫ぶ少年の声。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……あれ?)

 

 ふと、何かが引っかかった。

 ビジョンは一瞬しか流れてこないため、鮮明には覚えていない。だからあまり思い返すことはしなかった。

 だが、今思い返してみて感じた引っかかりは、何かとてつもなく重要なことだ。何か、見てみぬふりでもしていたような、何か重要なことを見ないでいたような感じ。

 それは、少年と少女の顔だ。

 リヒトはその顔を知っているはずだ。

 

「おれ、は……」

 

 信じられない、と言う心。

 信じられる、と言う心。

 二つの感情が同時に湧く。

 キャスの言っていることが理解できる思考と、理解できず拒絶する思考。

 失っているはずなのに、その光景は今のリヒトの記憶にはないはずなのに。

 頭のどこかで何かが呼び起こされようとしている。

 無意識に避けていたのか。それとも意識的に避けていたのか。だが、一度引っかかった感覚は次第に大きくなっていく。

 

「ライトはセラを殺したことを事実として認め、そして『崩壊』が始まった。私たちの関係。私たちの日常。私たちの生活、価値観。すべてが崩れる最初の合図。それは、クラウスがモンスターに姿を変えたこと。その瞬間、すべてが崩壊した」

 

 ドクン、とリヒトの心臓が脈を打つ。

 知らない情報。だけど知っている。

 

「モンスターとなったクラウスは私たちを襲い始めた。そしたら今度はライト、あなたが姿を変えた。私の目の前で巨人に。クラウスは自分を『サタンビゾー』、あなたを『ウルトラマン』と呼んでいたわ」

「──は?」

 

 リヒトの思考がショートしかけた。

 ウルトラマン、という単語がキャスの口から出てきた。なぜその単語を知っている? リヒトがその単語を知ったのは今年の四月。その時に初めて聞いた。アメリカにいるときは知らないはずだ。

 だが、キャスの説明ではアメリカでもリヒトはウルトラマンの力を持っていたということになる。

 混乱する思考。リヒトの持つ情報が、今出された情報と結びつかない。点だけで存在する中、キャスは意図せず更なる事実を突きつける。

 

「ねえ、ライト。これを見て」

 

 そう言って差し出されたのは一枚の写真。

 男子が二人、女子が二人写っている写真。

 無論、それがリヒトとキャスなのは見間違いがない。

 しかし、問題はもう一組の男女。そこに写っている少年は銀髪であり、少女は至って普通のメキシコ系アメリカ人。とても楽しそうな笑顔で写っている。

 

 

 

 ──二人の容姿が『ローブ男』と『白い少女』と一緒でなければ普通の写真と認識できた。

 

 

 

「…………」

 

 言葉を失うとはまさにこの事。

 リヒトは目の前に差し出された写真に、完全に思考がショートしていた。

 

「二人とも、すでに死んでるはずなの。それなのに、私日本に来る前に二人に会ったの」

 

 リヒトも会っている。この写真に映るクラウスとセラと同じ容姿をした『ローブ男』と『白い少女』。

 なぜ今まで気づかなかったのか。ビジョンの中に何度も流れてきたのに、『ローブ男』と『白い少女』とは何度も遭遇しているのに、その姿に気づくことがなかった。

 

「クラウスは雰囲気が完全に違っていた。セラは真っ白になっていた。二人ともまるで人間じゃないみたい」

「…………」

 

 ゆっくりと、思考を働かせようとするがノイズが走る。

 キャスの顔もまともに見れていない。

 

「ねえ、ライト。あなたは今もウルトラマンなの?」

 

 キャスの声が遠くに聞こえる。

 耳鳴りがする。

 思考が追いつかない。

 一体何が起きているのか、何かが起こったのか。理解、整理、できない。

 

「私たちが記憶をなくしたのはね、ウルトラマンとなったライトとモンスターとなったクラウスの戦いが原因。あなたは戦いのダメージで、私はその戦いの余波に巻き込まれて記憶喪失になった。これがあなたが記憶喪失になった原因」

 

 しかし、キャスは続けて首を横にふる。

 

「ううん、私は記憶だけじゃない。ダンスも踊れなくなったの。私が大切にしてたもの全部がなくなっちゃったわ」

 

 キャスの手がリヒトの手を握る。

 リヒトの手は自分でもわかるほどに震えていた。それを解きほぐすかのように、キャスはゆっくりとリヒトの手を握る。

 

「あーあ、だから私言ったじゃない。本当に過去を知りたい? って。

 ……デートをすれば少しは気がまぎれるかと思ったけど、全然そんなことないね。無理だったわ、抑えきれない」

 

 キャスは苦笑いを浮かべた。

 

「私は記憶喪失になって、ダンスが踊れなくなって、黄色い光が苦手になって、パニックを起こすようになって……そしてね」

 

 キャスの手がリヒトから離れる。

 離れていく手を追いかけるリヒトの手。

 しかし、

 

 

 

 

「──私も死んだの」

 

 

 

 

 残酷な一言が告げられた。

 

 

 

  ☆★☆★☆★

 

 

 

 最初に来たのは激痛。

 そしていつも通りのビジョン。しかし今回はそれがはっきりと見える。

 銀髪の少年、クラウスが怒りと共に姿を変える。黒い体に頭部から腹部あたりまで黄色い発光部がある。

 左腕の長い爪でこちらに襲いかかってくる。

 リヒトは『何か』を持った右手を空へと伸ばす。

 光がスパーク。

 そして自分の体が銀色のものへと変わる。

 ビジョンはそこで途切れた。

 戻った思考で感じたのは腹部の激痛。

 

「ガハッ」

 

 喉に迫り上がってきた感触が口から吐き出される。口元を抑えた掌に赤い血液が付着する。

 

「え?」

 

 視界に映るのはキャスの手。

 キャスの手は何かを握っている。握られた手はリヒトの腹部へと伸びている。

 銀色の刃物が数センチ、リヒトの腹部に突き刺さっていた。

 

「このままドアノブを捻るようにすると、血がいっぱい出るのよね」

 

 平然と言って、キャスは手首を捻った。

 激痛と共に血が溢れ出る。ビチャビチャと地面を赤く染めていく。

 

「────」

 

 激痛に悲鳴が喉を鳴らす。膝を着くリヒト。

 再びビジョンが脳裏に流れる。

 

 

 

 ──ハロウィンの日にとある館でセラを見つけた。

 セラの他にも大勢の人がいて、人々は大きな両開きの扉の中へと消えて行く。

 リヒトとクラウスに気づいた老婆が襲いかかってきて、リヒトは老婆の持つ杖に胸を貫かれ血の海に倒れた。

 ゆっくりと命の灯火が消えて行く中、眩い光と出会う。その光の中には、銀色の巨人が立っており……。

 

 

 

 流れてきたビジョンはまた鮮明さを失っていく。

 リヒトは刺された腹部に手を当てると、その傷はすでに修復されていた。

 

「……ライト、あなたも人間じゃなくなってるのね」

 

 キャスに刺された。

 そう理解するのに時間を有した。

 

「キャ、す……」

「ごめんね。でも、あなたのせいで私のすべてが壊れたの。だから、これくらいはいいでしょ。死なないんだから」

 

 先ほどとは打って変わって冷たい声音。

 そこでリヒトは、ようやく周囲の人がいなくなっていることに気づいた。

 途端、視界に映る景色が変わる。空には赤紫色のオーロラ。地面は紫色に変色し緑色に光る破片が散りばめられている。

 闇の異空間。そうなのだと判断できるのだが、同時に思考は未だ混乱状態。傷は治っても痛みは消えない。腹部に残っている激痛に表情を歪めながらも、リヒトはすぐにギンガスパークを取り出そうとして、キャスに蹴飛ばされた。

 

「あなたとクラウスの戦いで、私は記憶とダンスを失った。私にとって一番大切なダンスをあなたは奪ったの。黄色い光を見ただけでパニックを起こすようになって、以前のように生活ができなくなった。

 ある日ね、学校で喧嘩してる男子グループを見たの。そしたら、それで一気にあの夜の戦いがフラッシュバックして、気づいたら車に轢かれてた。ああ、死ぬんだなって思ったわ。そんな時だった、クラウスとセラに似た子が現れたの」

 

 それが『ローブ男』と『白い少女』だということは言うまでもないだろう。

 

「私がこんな風になったのはすべてライトが原因なの。あなたがその力でセラを助けていれば、クラウスがモンスターになることもなかった。そうなれば、私もダンスを失うことがなかった。死ぬこともなかった。クラウスもセラも私も死んだ。なのにあなたはそうやって生きてる。なんで? 何であなたは記憶だけなくして生きてるの? そう思ったら、セラが奇跡を起こしてくれたの。私を生き返らせてくれた。そしてクラウスがあなたに復讐する力をくれた」

 

 キャスの手にダークダミースパークが握られている。

 しかし、ギンガスパークは反応を示さない。目の前に闇の力があると言うのに、その力を前にして何も反応を示さない。『白い少女』の時と同じだ。

 

「ライト、あなたは今死ぬことはない。だから、私の気がすむまで何もしないでね」

 

 キャスのもう片方の手には怪獣のスパークドールズが握られていた。その足先にダークダミースパークを押し当てる。

 

『ダークライブ! バルタン星人!』

 

 その身が闇に包まれ、宇宙忍者と呼ばれる姿に変貌していくが、その闇が途中で変化する。より深く、より濃く、『ローブ男』よりキャスの体に込められた闇のエネルギーがキャスの心と同調し増幅。

 その姿は本来の姿より細身に、鋭利なものへと変わっていく。燻んだメタリックブルー、両腕の鋏はより長く、より鋭利に洗礼されその場に君臨した。

 その名は『パワードバルタン星人』。

 リヒトはすぐにギンガスパークを構えようとする。

 しかし、無造作に振り上げられた足がリヒトを蹴飛ばす。体が塵となって消えてしまうのではないかと錯覚。近くの建物に衝突し、しかし五体満足であった。普通の人間であれば、怪獣に蹴飛ばされた時点で肉片へと変わり果てるだろう。

 リヒトの場合、ギンガスパークを手にしていたからだろうか。それとも、傷を修復させる力のおかげか。四肢が霧散することなく無事でいられた。

 いや、この場合は無事でいることを不審に思うべきか。先日の件からだが、自分の体が人間のソレとは決定的に違うと認識させられる。

 

「あ……ぁ……」

 

 しかし、傷が治るだけで痛みは消えない。激痛にのたうち回っていると、パワードバルタンが追撃を仕掛けてくる。

 逃れる術はない。たとえ死ななくても、激痛に身を焼かれるのはご免だと思いながら歯を食いしばる。

 

 

 

 

 パワードバルタンの追撃は、彼方より飛来した光弾によって遮られた。

 

 

 

 

 リヒトが視線を上げると、一体の巨人が降り立つ。

 パープルとレッドのカラーを持つ巨人──ティガ。

 一瞬、ウルトラマンティガかと思ったが、胸に走るラインが黒。

 つまり、あの姿の名は『ティガブラスト』。

 今、ウルトラマンティガのスパークドールズを持っているのは東條希。彼女がウルトライブした姿である。

 

「の、ぞみ……」

 

 喉から漏れる声は掠れている。

 ティガブラストにその声は届いたのか定かではない。しかし、一度こちらに視線を向けた後、パワードバルタンへと向き直る。

 駆け出すティガブラスト。

 それを迎え撃つパワードバルタン。

 最初の一撃はティガブラストの拳。右のストレート。

 パワードバルタンはそれを左手の鋏で弾く。反撃に振るわれる右の鋏。それはティガブラストの顔を捉える。

 大きく後ろへよろめくティガブラスト。そこへパワードバルタンの追撃が迫る。

 ティガブラストはそれにいち早く反応。掴み取ると、背負い投げの要領で投げ飛ばす。追撃のため、地に倒れるパワードバルタンに向け、ティガブラストはダイブ。

 しかし、パワードバルタンは脱皮をすることでこれを回避。

 立ち上がったパワードバルタンは“フラッシュ念動波”で迎撃。数撃受け、後ろへ吹き飛んだティガブラストはビルを巻き込んで倒れる。

 追撃の赤い光球“バイオビーム”を放ち、ティガブラストを爆炎の中に沈める。

 黒煙が空へと昇る中、パワードバルタンはその腕を下ろした。

 数秒後、黒煙の中からこちらに向け飛んでくる光線。ティガブラストが放った“ランバルト光弾”だ。

 撃ち抜かれるパワードバルタン。しかし決定打にはならず、その巨体を飛ばすにとどまった。

 

 

 黒煙の中で立ち上がるティガブラスト。一度、その両手を見て、拳を握ったり閉じたり。まるで調子を確かめるような動作を行う。

 やがて、パワードバルタンが起き上がり、再度戦闘状態へと移行する。それを見ると、ティガブラストは額のクリスタルのところで拳をクロスさせた。

 クリスタルが赤黒く光る。

 振り下ろされる腕。すると、その体のカラーリングが黒と赤の二色に変わる。

 ティガブラスト改め『ティガトルネード』。それが今の姿の名前だ。

 そのティガの姿を前に、ギンガスパークが一度大きな反応を示した。

 

「……?」

 

 取り出したギンガスパークを見る。ティガブラストの時は何も反応を示さなかったのに、ティガトルネードの姿になった途端に反応を示した。

 ギンガスパークが反応を示す時は、闇の力に対してだ。それをティガに対して行ったということは、あの姿に闇の力があるということ。

 そもそも本来は『ウルトラマンティガ』の姿に変身するはずなのに、なぜ『ティガブラスト』の姿なのか。その疑問が脳に浮かぶ。

 だが、今はそれについて考えている暇はない。もう少しで体が動くようになる。そうなったら、すぐにギンガに変身して戦いに参戦しなくてはいけない。

 参戦しなくては、キャスを救えない。

 

「キャス……」

 

 リヒトはもう一度名を呼んだ。

 しかし、それよりも先にティガトルネードとパワードバルタンの激突が再開する。

 ティガトルネードになったことで、スピードと引き換えにパワーが上昇。先ほどの拳より重い一撃がパワードバルタンの胴体を打つ。

 力強く握られた拳がパワードバルタンの胴体を何度も打ち抜き、確実にダメージを与えていく。

 パワードバルタンはティガトルネードの拳から逃れるために飛翔。ティガトルネードも後を追い飛び立つ。

 先行するパワードバルタン。飛行速度では有利に立った。闇の異空間を飛ぶ二つの影。

 体が動かせるようになったリヒトは、、立ち上がりギンガスパークを構えようとする。しかし、視界に赤い光が映り込む。その正体がパワードバルタンが放った“バイオビーム”だと気づいた時はすでに着弾。直撃はしなかったものの、爆風によって体が飛ぶ。

 飛行中に攻撃を仕掛けてきたのだ。キャスの目的はあくまでリヒトであって、ティガトルネードではない。飛行速度で優っている以上、その最中でリヒトに攻撃すればいいと考えたのだろう。

 ティガトルネードもその考えに気づいたのか、“ハンドスラッシュ”で牽制。

 着弾し速度が緩んだところで、ティガトルネードが一気に掴みかかる。両者もろとも墜落。

 一足先にティガトルネードが立ち上がると、両腕を大きく開いた。そのまま上へと大きく回しながら、エネルギーを両手に溜めていく。凝縮された赤いエネルギー球が形成され、それを──

 

「──待てっ! 希!!」

 

 リヒトの声を遮るように、必殺の“デラシウム光流”が放たれる。

 放たれた赤い光球はパワードバルタンに炸裂。爆炎を上げ、その体を消し飛ばした。

 爆風がリヒトの体を叩く。

 

 

 

 

  ☆★☆★☆★

 

 

 

 

 キャスリン・ライアンは力が抜けていくのを感じながら考えた。

 自分の人生はどうだったのだとうか、と。

 一種の走馬灯のようなものだ。自分の命が尽きようとしている。だから考えてしまう。自分の今までの人生を。

 楽しかったか、と問われれば楽しかった。

 だけど、まだ足りない。

 まだ生きていたい。

 どうしてこうなってしまったのか。どうして今自分は死のうとしているのか。

 

「キャス!」

 

 リヒトの声が聞こえる。

 でももう声がする方を見る力すらない。

 一条リヒト。彼との出会いが間違いなく人生の分岐点だっただろう。ダンスが上手く、楽しい人間性をしていた少年。

 彼との出会いが不幸の始まり、とは思いたくない。だけど、結果的に親友が、自分が、全てがなくなってしまっている。

 クラウスに至ってはモンスターになってしまっている。そして、リヒトは光の巨人となった。その戦いに巻き込まれ、記憶をなくしてダンスも踊れなくなった。

 

「……うん」

 

 ダメだ。違うと思いたいのに、結果がこの考えを肯定してしまう。

 リヒトが駆け寄ってきた。ぼやける視界に映るリヒトの顔。彼に抱えられる。

 

「キャス! 大丈夫か!? 生きてるよな!」

 

 生きているか、か。それは無意味な質問だ。

 だってすでにキャスリン・ライアンは死亡しているのだから。

 さっき直接言ったのに、と内心で笑ってみる。

 キャスリン・ライアンは死亡している。原因は車に轢かれてだ。校内で見かけた男子生徒の喧嘩。それが巨人とモンスターの戦いと重なり、フラッシュバックしたのだ。その時の恐怖が蘇り、校舎を飛び出し、道路に出たキャスの体は鉄の塊によって宙を舞った。

 人が車に飛ばされれば、それはそのまま死を意味するか奇跡的に生きられるかの二択。残念ながらキャスの場合は前者だった。

 すぐにわかった。自分はここで死ぬと。

 だけど死ぬ直前、クラウスとセラが現れた。

 その時はもちろん驚いた。だって二人とも死んでいるのだから。だからすぐに、ここは死後の世界なのだと思った。

 だけど、それは違った。自分はまだ死ぬ直前で、完全に死んではいない。その一歩手前で選択肢を与えられたのだ。

 ローブを着たクラウスに「こうなった原因は全て一条リヒトにある」と言われ、「復習したくはないか?」と問われた。

 初めはわからなかった。だけど、記憶を思い出した今ならわかる。リヒトがセラを助けなかったから、こうなった。『力』を持っていたのに、今は怪獣になった少女たちを元に戻せているのに、なぜセラの時は助けられなかったのか。

 そんな小さな怒りが、クラウスによって増幅させられ、そして白いセラによって仮初の命を与えられた。

 

「……ねえ、ライト……」

「キャス!? よかった……生きてるよな」

「私ね……みんなで、ダンスをしてた日は……本当に、楽しかったの……」

 

 そうだ。これは偽りのない気持ち。四人でダンスを学んだあの日々は本当に楽しかった。

 

「だからね……どうしても、許せないんだ……どうして、セラを、助けられなかったの……?」

「…………」

「あなたがセラを助けていれば、こんなことにはならなかった……クラウスもモンスターにならなかった……あなたも記憶を失わなかった……ねえ」

 

 そこまで言って、視界の端に光を見た。

 ああ、どうやらあの白いセラがくれた奇跡ももうすぐ終わるようだ。

 

「今は、助けられているよね……あの子たちの中にいた、怪獣になった子を、助けられてる、よね……」

 

 リヒトの息を飲む音が聞こえた。

 

「ああ……私は、思い出したくなかったな……思い出さなければ、よかったなあ……」

 

 そうだ、いいこと思いついた。

 ちょっとした意地悪をしよう。でもこれは、禁句なのだろう。この先リヒトを苦しめる楔となる。

 

「ねえ、ライト……きっとあの子たちも、私たちみたいになるかもしれないよ……だから──」

 

 最後まで言えたのだろうか。

 わからない、今はもう、とても、眠い……。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 リヒトの腕の中で、キャスは光となって消えた。

 光が空に登っていく。

 すでにティガトルネードの姿はない。この空間ももうすぐで元の位相に戻るだろう。

 

「…………」

 

 知りたかった『一条リヒト』の過去。

 だがそれはあまりにも残酷な過去だった。いや、これは過去ではない。

 一条リヒトの罪だ。記憶喪失となって忘れたというのは、あまりにもひどすぎる。忘れてはいけない、罪なのだ。

 

「俺は……」

 

 その両手が震える。

 確かにキャスの言う通りだ。なぜ今は救えている。怪獣になった真姫、花陽、にこ、絵里。彼女たちは救えたのに、なぜセラという少女は救えなかったのだ。

 そもそも、リヒトはアメリカでもウルトラマンの力を手にしていた。今はその力はどこにある? どうなっている?

 

「──っ、ローブ男!! 見てるんだろ!? どこかにいるんだろ!? 答えろ!? 出てこい!! お前は何か知ってるのか!? キャスに何をしたんだ! お前はクラウスなのか!? セラに似たやつは誰なんだ!?」

 

 ただ叫んだ。叫んだところで何かがあるわけでもない。

 だが叫ばなければ気が済まなかった。

 わからない。このぐちゃぐちゃの感情をどう吐き出せばいいのか、リヒトにはわからなかった。




第14話・完


○登場怪獣
パワードバルタン星人


○あとがき
これにて第14話が終了。概ねここで判明したリヒトの過去は事実です。彼が手にしていた『力』はなんなのか。それは第3部にて明かしますのでお待ちいただければ。
第2部は残すとこあと4話。もうすぐで構想初期からの戦いを描けるとなると、書き手もワクワクしてきます。頑張りますので、何卒よろしくお願います。


○次回予告
キャスから語られた『一条リヒト』の過去。それは『罪』と言い表せるほどのものだった。
そのせいで穂乃果たちともまともに向き合うことができない中、気分のリフレッシュも兼ねて海への合宿を提案される。
乗り気ではないリヒトだが、彼女たちが闇の魔の手に狙われている以上一緒に行くしかない。
合宿の中、リヒトは今一度彼女たちと向き合うのだった。
次回、「狙われたμ’s」
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