ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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10月に入ってしまうということで、一章分更新。
久しぶりのアニメベースのストーリーです。


第15話 狙われたμ’s
第一章:合宿開催


 蒸し暑さに目が覚めた。

 時刻を確認してみれば夜中の二時半過ぎ。ちょうど設定したエアコンのタイマーが切れる時間帯だった。

 今は八月。連日真夏日を記録する時期だ。そんな時期ともなれば、エアコンが止まった瞬間部屋の中は熱帯空間へと急速に変化していく。蒸し暑さで目が覚めてしまうのは当然のこと。この暑さをどうにかしないと寝ることすらできない。

 大人しくエアコンのリモコンを手に取る。ボタンを押そうとしたところで、この暑さで熱った体に冷たいものを流し込みたいという欲が湧いた。キッチンへと向かい、冷蔵庫から水の入ったボトルを取り出す。コップに注ぎ、喉へ流せば、冷たい水が体の中へと流れ込み、熱った体を冷やしていく。

 

 

 ふと、キッチンに置かれた包丁に視線が向かった。

 

 

「…………」

 

 一条リヒトはこれまで怪我を負った時、それが治る過程で様々なビジョンを見てきた。

 大きな扉に向けて歩き出す大勢の子供たち。

 緑色の怪物へと姿を変える少女。

 泣き叫ぶ少女。

 バケモノへと姿を変える友人。

 どの光景も悲惨なものすぎて、最初はなんのビジョンなのかまったくわからなかった。

 だが、この光景がキャスリン・ライアンの語った『一条リヒト』の過去と一致した。となれば、一つの仮説が立てられる。

 

 

 ──傷が治る際のビジョンは『一条リヒト』の失った記憶ではないのだろうか。

 

 

 ()()としたが、半ば証明されているようなものであるため、間違いなくこのビジョンは『一条リヒト』の過去と言えるだろう。

 傷が治る原理は不明。

 なぜ傷が治る時にビジョンとして過去の記憶を見るのかは不明。

 だが、それでも確かなのは()()()()()()()()()()()()()()ということ。ならば今ここでこの包丁を使って──。

 

 

 

「リヒト」

 

 

 

 名前を呼ばれ、気づけば辺りは光の空間に変わっていた。

 振り返ればウルトラマンギンガが立っている。

 

「ギンガ……」

 

 なぜギンガが現れたのか。

 そんな理由、考えずともすぐにわかった。

 

「……わかってる。こんな馬鹿な真似はしない」

 

 深呼吸を一度、そして、ふと珍しいギンガからのコンタクトに気づいた。ならばこの際に聞いておきたいことを聞いておこう、と思った。

 

「なあギンガ。俺とギンガが出会ったのは四月が初めてだよな?」

 

「ああ。私と君が出会ったのはあの時が始めてだ」

 

 ギンガからの肯定。

 ならば、と一番の疑問を投げかける。

 

「じゃあ、キャスが言っていた……アメリカで俺が変身したウルトラマンは誰なんだ?」

 

 キャスは言っていた。

『一条リヒトはアメリカでもウルトラマンに変身していた』と。

 ギンガと出会ったのが今年の四月だというのなら、アメリカにいた時はまだ出会っていない。ならばその時に変身したウルトラマンはギンガではないということになる。

 ギンガとは別のウルトラマン。そのウルトラマンは誰なのか。今その力はどうなっているのか。

 それらを込めた問いかけに、ギンガは首を横に振った。

 

「それは私にもわからない」

 

 そっか、とリヒトは思った。

 とは言え、これは予想していたこと。さすがにリヒトと出会う前のことをギンガが知るはずもない。逆にもしここで『知っている』と答えられたらどうしようかと思っていた。

 しかし、続けて放たれたギンガの言葉にリヒトは驚かされる。

 

「だが君と一体化した時、君の体の中に私とは別の光があるのを感じた」

 

「え? 別の光?」

 

「そうだ。その光が私と共鳴し、君と私を巡り合わせた。おそらくその光が、かつてウルトラマンだった光なのだろう」

 

「ウルトラマンだった光……」

 

 右手で、自分の胸で撫でる。

 

「その光には、もう君をウルトラマンにする力はないようだ。ウルトラマンの力は失われている。だがどういうわけか君の体の中に光となって残り続けている。アメリカでどのような戦いがあり、どのような結末を迎え、君がそのとき変身していたウルトラマンがどうなったのかはわからない」

 

 リヒトはこれまで見てきたビジョンを思い出す。

 しかしその中にウルトラマンとして戦い、どのような決着がついたかの映像はなかった。

 

「今君の体の中にあるのは、ウルトラマンの力の残滓とでも言おう。その光にできるのは、傷を治すことだけだ。その光の素であるウルトラマンに変身することはできない。故に私の光と干渉することもない。だから君はウルトラマンの光の残滓と言えるものをその身に宿しながら、私にウルトライブすることができる」

 

「え? 傷が治るのはギンガのおかげじゃなかったのか?」

 

「私の力ではない。君の傷が治るのは、君に宿っている光の影響だ。私が感じている限りでは、その光は君ととても密接な関係にある。まるでその光こそが君の命だと思うほどに、君の体に深く宿っている」

 

「…………」

 

 ギンガの言葉にリヒトは言葉を失った。ずっと傷が治るのはギンガのおかげだと思っていた。

 しかしそれをギンガは否定した。傷が治るのはギンガの力ではなく、リヒトの体の中にある光が治している。

 では、ビジョンを見るのはなぜだ? その光が関係している?

 ふと、脳裏に浮かぶ言葉。

 

「俺は……人間、なのか……」

 

 以前『白い少女』が言っていた。

『お前は人間ではない』と。

 右目をえぐられておきながら、それはものの数秒で治るのは異常だと。

 傷が治る理由はわかった。だがなぜそんな力がリヒトの体の中にあるのか。力がありながら、リヒトはその力がなんなのか知らない。ウルトラマンなのか。それとも人間ではない存在なのか。

 

「君の体は、本質的には人間だ。だが……」

 

 そこでギンガが言葉に詰まった。

 続く言葉を言い淀んでいるのか、しばらく待っても続きの言葉は出てこない。

 

「だがって? 俺はどっちなんだ」

 

「君は人間だ。それは間違いない」

 

 今度は力強い言葉だった。

 その言葉に気圧され、リヒトは言葉をなくす。

 だがそれでも『白い少女』の言葉が頭に引っかかった。

 

 

 気づくと、元の光景に戻っていた。

 白い空間ではなく、榊家のキッチン。

 ギンガとの会話は唐突に終わってしまった。

 

「…………」

 

 リヒトはもう一度水を飲むと、自室へと戻った。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 八月はまさに夏本番。いつの間にか蝉の鳴き声を耳にするようになり、10分でも外を歩けば汗をかく。

 熱中症に注意せよ、水分補給はこまめに、といった情報が連日テレビで囁かれていた。

 本日も太陽が燦々と輝き、まさに炎天下。音ノ木坂学院の屋上のアスファルトは、まるで熱々の鉄板のように熱されている。

 

「暑い……」

 

 と、矢澤にこが言えば隣の高坂穂乃果が、

 

「そうだねぇ……」

 

 と続けた。

 

「──っていうかバカじゃないの!? この暑さの中練習とか!!」

 

「そんなこと言ってないで、早くレッスンするわよ」

 

 日陰の少ない屋上での練習は太陽の下で踊るようなもの。連日熱中症が囁かれていることを考えれば、にこの言う通りだろう。

 しかし絢瀬絵里からの厳しい声に、にこと穂乃果は「え? 正気?」と視線を送る。

 一方で、絵里の声に唯一返事をした小泉花陽は怯えるように星空凛の背後に隠れた。それを見た絵里は、内心「やってしまった」と思いながら慌ててフォローを入れる。

 

「花陽、これからは先輩も後輩もないんだから……ね?」

 

「……はい」

 

 ぎこちなく返事をする花陽。

 無理もない。二つも年齢が上。加えて同じ学校の生徒会長なのだ。そう簡単に距離を縮められるはずもなかった。

 そんな中「そうだ!」と、穂乃果が声を上げる。

 

「合宿行こうよ!」

 

「はあ? なに急に言い出すのよ」

 

「なんでこんな良いこと早く思い付かなかったんだろ!」

 

 突然の提案に驚くメンバーたち。

 にこの言葉も無視して名案を思いついた自分に笑顔を見せる穂乃果。

 

「合宿か……面白そうにゃ!」

 

「そうやね、こう連日炎天下の練習だと体もきついし」

 

 凛と東條希からも賛同の意見が出る。

 

「でもどこに?」

 

「海だよ! 夏だもの!」

 

 花陽の問いに即答する穂乃果。

 確かに夏といえば海。海水浴が定番だ。合宿の行き先としてあげられるのは当然のこと。

 しかし、海にした場合いくつかの問題点が浮上する。

 

「費用はどうするんです?」

 

「そ、それは……」

 

 園田海未の言う通り、タダで海に行けるわけがない。海までの交通費はもちろん、合宿となれば止まるところや食費など諸々のお金が発生する。

 当然、思いつきで発言した穂乃果はそれに対する回答に詰まってしまう。

 すぐさま南ことりの手を取り、彼女にバイト代がいつ入るかを聞いてみるが、

 

「ことりをあてにするつもりだったんですか」

 

 と海未に呆れられてしまった。

 もちろん返す予定ではあるが……と思ったところで新たなひらめき。

 

「そうだ! 真姫ちゃんちなら別荘とかあるんじゃない?」

 

「え? あるけど……」

 

 突然呼ばれ、驚きつつも言葉を返す西木野真姫。

 すると、目を輝かせた穂乃果が急接近。

 

「本当!? 真姫ちゃん! おねが〜い!」

 

「ちょっと待って! なんでそうなるの!?」

 

「そうよ。いきなり押しかけるには行かないわ」

 

「……そう、だよね……」

 

 絵里からの叱咤が飛び、引き下がる穂乃果。

 しかし、真姫を見つめるその目には言葉とは裏腹に期待の色がある。

 

「…………」

 

 ふと、周りを見てみれば全員が真姫を見ている。

 その目は全員同じ色を宿している。

 期待。

 初めて向けられる同年代からの視線。

 

「……仕方ないわね。聞いてみるわ」

 

 その瞬間、歓喜の声が上がる。

 なんだかんだ、みんな海に行きたかったのだろう。

 海での合宿が決定となる中、新たに穂乃果が言う。

 

「そうだ! りーくんも誘っていい?」

 

「へ?」

 

 承認したはずの真姫の口からすっとんきょんな声が上がる。

 穂乃果が『りーくん』と呼ぶ人物はひとりしかいない。

 

「リヒトさんを誘うのですか?」

 

「うん。だって私たちのコーチだし」

 

 海未からの問いに当然かのような表情をする穂乃果。

 

「そうね。私は賛成よ。コーチとして全体の指導をしてもらうためにも、リヒト君についてきてもらった方がいいと思う。みんなはどう?」

 

 そう言って、絵里は一度全体を見回す。

 μ’sメンバーにとって、一条リヒトの存在は大きい。ラブライブ出場を目指す以上、リヒトの力は必要不可欠だ。

 しかし、問題が一つある。

 

「私は構わないわ。だけど、一条の方は大丈夫なの? 今の様子から考えると、とても指導なんて出来なさそうだけど」

 

 問題。それは最近の一条リヒトの様子だ。以前に比べてダンス指導をしている時、視線が虚空を見ていること、そして的確だったダメ出しが曖昧になっていることが多いのだ。練習をしっかり見ていないとわかる。

 加えて先日、キャスリン・ライアンというアメリカからリヒトの過去を思い出したと言う少女がやってきた。彼女との間でどのようなことがあったのかはわからないが、あの日以降、その様子が著しく変化していた。もちろん悪い方にだ。

 これらのことから、にこの言う通り『今のリヒトを合宿に誘ったとして意味があるのか』と言うのが、少女たちの間で今浮かび上がっているのだ。

 

「うん。だからだよ」

 

 にこの言葉に、穂乃果はそう返した。

 その視線を空へ向け、まるでリヒトの姿を思い浮かべるかのように。

 

「最近のりーくんなんだか元気がないから。だから、一緒に海に行けば元気出るかなって。そう思ったんだ。りーくん、海とか行くの大好きだから」

 

 穂乃果と『一条リヒト』の付き合いは長い。だから彼のことを色々と知っているし、今の様子が異常だということもわかる。知っているからこそ心配なのだ。

 彼があのような姿になってまうのは初めてかもしれない。それこそ、穂乃果が知っている『一条リヒト』であれば『落ち込む』、『元気がない』なんて言葉とは無念と言ってもいい。だから、友人としてリヒトの元気を取り戻したい。そんな純粋な思いが穂乃果から感じられた。

 

「……わかったわよ。引っ張ってでも連れて行くわよ。あんな調子じゃ、見られる方だっていい気分じゃないわ」

 

 仕方ない、と言った様子で述べるにこ。

 そんなにこに向けて、穂乃果は「ありがとう」と言うのだった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 その日の夕方。

 穂乃果、絵里、にこの3人は榊家を訪れていた。

 理由はリヒトを合宿に誘うためである。穂乃果は発案者として、にこは部長として、絵里は交渉をスムーズに進めるための役割を担う形で同行している。

 リヒトには事前にメッセージを送っており、あとは直接交渉するのみ。さすがにメッセージだけでやり取りを完結させるのには無理があると判断しての結果だ。

 榊家に到着すると、穂乃果はチャイムを鳴らす。

 やってきたリヒトに合宿のことを話すと、

 

「……いや、俺はいいよ」

 

 と、案の定というか、予想通りの答えが返ってきた。

 しかし、穂乃果が粘る。

 

「そんなー! 一緒に行こうよ! 海だよ? 絶対楽しいよ!」

 

「別に俺がいなくても合宿はできるだろ。それに……」

 

「今の自分が行っても意味がない、そう思ってんでしょ?」

 

 にこの言葉にリヒトは頷いた。

 彼自身、今の自分が指導者に向いていないと理解している。

 

「そうね、確かに最近のあんたの様子じゃ、指導してもらう身としても頼りないわね」

 

 はっきりと告げるにこ。

 その横で絵里が釘を刺そうとする。しかしそれよりも早く、にこが言葉を続けた。

 

「けど、あんたはμ’s(私たち)指導者(コーチ)。私たちは絶対に『ラブライブ!』で優勝したい。そのためにはダンスの実力がある一条の指導が必要なの」

 

 にこからの真っ直ぐな言葉にたじろぐリヒト。

 その視線を一度絵里に向けつつ、言った。

 

「絢瀬がいるんだから大丈夫だろ」

 

「絵里が一緒の時のフォーメーションを見てもらわないと困るでしょ。それに付き合いは短いけど、最近のあんたのことみんな心配してんのよ。いいから気分転換だと思って付き合いなさい。それに、こーんなにかわいいスクールアイドルと海に行けるのよ? その幸せを噛み締めなさい」

 

「…………」

 

「なによその目」

 

「……いや」

 

 ぎろりと睨んでくるにこの視線を避けるリヒト。にこのどの発言になにを思ったのか、大方の予想はつくが今はそれについて突っかかる必要はない。

 にこの言葉を受けて、リヒトは一度考えるそぶりを見せる。

 やがて、

 

「…………わかった」

 

 長い沈黙の後にそう答えた。

 

「言ったわね?」

 

「ええ、言ったわよ」

 

「言いました」

 

 にこが後ろの二人に振り返りながらリヒトの言質を確認する。

 

「んじゃ、詳しい日程はまた後で送るわ。しっかり気分転換しなさいよ」

 

「海、楽しもうね。りーくん」

 

「なあ、穂乃果」

 

「なに?」

 

「合宿なんだよな? 海で遊ぶのが目的じゃないよな?」

 

「…………もちろん!」

 

 明らかな間があったことに対してにこも絵里も目を瞑るのだった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 合宿に誘われた時、考えたことは二つ。

『今の自分が行くことの意味』と『音ノ木町から離れる』ことだ。

 前者はにこに指摘されたことであり、今の自分の精神状態がどういった状態なのかは理解している。日々の練習の時点でまともな指導ができなくなっているのだから、合宿に着いて行ったとしても意味がないだろう。

 

 ──そしてこの精神状態が修復されるのに時間を要することもわかっていた。

 そもそも、南ことり一人に対していた後ろめたさがあった状態で、それが解決しないうちにキャスリン・ライアンとの一件で判明した『一条リヒト』の過去がさらなる深傷を負わせた。

 

 

『一条リヒト』の過去。それは友人を手にかけた記録だった。

 

 

 

 無論、そこには『理由』があったはずだ。無差別殺人を犯すほど狂っている訳ない。

 しかし、記憶喪失である今のリヒトはそこにある『理由』がわからない。

 だから結果だけが突きつけられる。

『一条リヒト』は親友の恋人を殺した。

 親友はその復讐心から怪物となり『一条リヒト』が変身したウルトラマンと戦った。

 戦いの結果として、リヒトは記憶を失った。

 そして、先日やってきたキャスリン・ライアンは不慮の事故で亡くなり、リヒトに対する復讐心から死者の人形となって目の前に現れた。

 そんなキャスもまた、パワードバルタンにダークライブし、ティガトルネードとの戦いの後光となって消えた。

『一条リヒト』と共にダンスを学んだ友人が全員この世から消えたのだ。しかも己の手が罪で汚れていたと知り、まともな精神状態を保てるはずがない。

 さらに、

 

 

 

『ねえ、ライト……きっとあの子たちも、私たちみたいになるかもしれないよ……だから──』

 

 

 

 キャスが消える前に残したひと言。それがずっと脳に残り、忘れることができないでいる。まるで呪いのようにリヒトを蝕むその言葉は、いずれμ’sメンバーもこの世から消えてしまうのではないかと連想させるのだ。

 現に一人、リヒトの知る少女がこの世から消えている。

 助けられなかった命。それがいつμ’sメンバーになるかわからない。

 もし、再び彼女たちが怪獣となった時、もう一度助けることができるのか。

 

 

 友人を手にかけた自分が、彼女たちを二度も救えるのか。

 彼女たちと一緒にいていいのか。

 

 

 そんなことが頭の中を反芻している。

 誰かに胸の内を言えたらいいだろう。

 しかし、誰にも言えるはずがない。己の手が罪で汚れていることを、果たして誰に言えようか。

 だから、合宿に誘われた時断った。こんな精神状態では行きたくなかった。

 けれど、同時に思った二つ目のことが合宿に行くと言う選択肢を選ばせたのだ。

 もう一つの理由。それは『音ノ木町を離れる』こと。

 音ノ木町から離れるということは、この地に眠る『イージスの力』の加護を受けなくなる。つまり、『ローブ男』や『白い少女』からの襲撃を受けやすくなるということ。

 合宿で音ノ木町を離れた場合、そのリスクは大きいものだ。

 だが、同時に考えたのは『狙われやすくなる』=『ローブ男と戦う機会がある』ということ。

『ローブ男』がすべての元凶であることはわかっている。ならば倒して仕舞えば全て解決するということ。

 今のところ、こちらから『ローブ男』に会いに行くことはできない。だがもし、敵側にとって邪魔な存在であるリヒトが『イージスの加護』から外れている場合、襲ってくる確率は通常に比べてはるかに高いだろう。

 ならば、リスクを逆手に取り『ローブ男』との決着をつける。そのために、リヒトは合宿に参加することにしたのだ。

 

(けど……俺は……)

 

 もちろん、それは同時に穂乃果たちを囮にするという場面も含まれている。

 自分の目的のために彼女たちを利用する。彼女たちを危険に晒す。全く矛盾のことをしようとしているのだ。余計に自分が嫌になってくる。

 もう全てがぐちゃぐちゃになりそうな中、気を張って耐えるしかない。

 今更まともぶっても、すでにその手が汚れているのだから。

 

「りっくん」

 

 希がやって来た。

 その表情はどこか後ろめたさを秘めている。

 理由はわかっている。

 キャスのことだ。キャスがダークライブしたパワードバルタンと戦ったのはティガトルネード。その元であるティガのスパークドールズは、今は希が持っている。

 つまり、あのティガトルネードは希が変身したもの。

 パワードバルタンを、キャスを倒したのは希なのだ。

 

「…………」

 

 希は続く言葉に迷っていた。 

 なんと言えばいいのだろう。

 何を言えばいいのだろう。

 だからリヒトが先に口を開いた。

 

「……あのままだったら、俺は殺されてた。それはお前にとっては最悪の結果につながることだ。だから、お前がやったことは正しい」

 

 正しい、正しくないでいえば『正しい』のだ。リヒトが死ねば穂乃果たちに迫る『邪悪な魔の手』都戦える者がいなくなる。それは『大いなる闇』復活へとつながり、やがてこの世界が滅ぶこととなる。

 それはなんとしても阻止しなくてはいけないこと。

 だから、希のとった行動は『正しい』のだ。

 彼女が行ったのは、怪獣を倒す。それだけのこと。

 

「キャスは元々死んでいた。最後に消えたのはお前のせいじゃない。きっと俺が戦っても結末は変わらなかった」

 

 元々死人だった相手。

 今まで戦ってきた怪獣は、変身者が『生きている』状態で怪獣にライブしていた。

 だがキャスは違う。キャスは死人だ。『死んでいる』状態で怪獣にライブしていた。だから例えリヒトがウルトラマンギンガに変身して戦ったとしても、結果は変わらなかっただろう。

 ウルトラマンは神ではない。

 すでに死亡した人間を、なんの対価もなく救えるはずがないのだ。

 

「……行こう、待ち合わせに遅れるのは嫌だからな」

 

 このまま会話を続けても無意味だと判断。

 無理やり話題を変え、待ち合わせ場所へと足を運ぶ。

 このまま二人でいても尾を引きずるだけ。すぐにでも第三者と合流し、話題を変えようと思った。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 しばらくして、待ち合わせ場所に全員が集合する。

 そして、絵里の“とある提案”に穂乃果が声を上げた。

 

「先輩禁止?」

 

「前からちょっと気になっていたの。先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っている時にそういうの気にしちゃダメだから」

 

 絵里の提案はこうだ。

 

 

 部活内での『先輩』を禁止するということ。

 

 

 もちろん、上下関係というのはこの先の社会を経験する上で大事なことであるが、それが返って逆効果を生んでしまうこともある。

 絵里が懸念していたのはその逆効果によって生まれてしまう『フォーメーションへの影響』だった。

 例えば本来自分がいなくてはいけない位置に先輩がいたとする。本当ならそのタイミングでそこにいなくてはいけないのは自分だ。だが相手が先輩となれば、遠慮が生まれてしまい、本来の位置とは違う位置に行ったとする。そうなると、そこのズレから徐々にフォーメーションが崩れていき、結果全体のクオリティに影響が出てしまう。歪みがあるパフォーマンスは良い結果を生み出さない。

 それを回避する手段として、メンバー内の上下関係をなくそうと絵里は考えたのだ。

 特に絵里と希は三年生であるのと同時に生徒会でもある。純粋な先輩・後輩だけに留まらないからこそ、このような手に打って出たのだろう。

 他のメンバーから反対の声が上がるはずもなく、この合宿から先輩の禁止がされた。

 

「でも、一条さんはどうするにゃ?」

 

 全員の視線がリヒトに向けられる。

 凛の言う通り、リヒトはμ’sメンバーではない。立場的にはコーチだ。今回の絵里は『チーム内の結束力を高める』のが目的。ならばメンバーではないリヒトには敬語を継続か、それとも同じく先輩を禁止するか。

 

「…………」

 

「ちょっと一条、聞いてるの?」

 

「え? あぁ……悪い、ちょっとぼーっとしてた」

 

 そんなリヒトをにこは呆れた視線を向ける。

 

「しっかりしなさいよ。話聞いてた? あんたに対しても先輩を禁止にするかって話なんだけど」

 

「俺は別にどっちでも。好きにしてくれたかまわない」

 

「あんたねえ」

 

「だって、別に俺に対してまで先輩禁止をする理由がないし、どっちでも変わらないって。それより、そろそろ出発しようぜ。時間が勿体無い。ほら、矢澤。部長として意気込みでも言ってくれ」

 

 強引にことを進めるリヒト。

 突然の返しに戸惑うにこだったが、リヒトはお構いなしににこを中心に立つように急かす。

 

「えーと……しゅっぱーつ!」

 

「え? それだけ?」

 

「あんたがいきなり振るからよ!!」

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