バドリュードを撃ち抜く
撃ち抜かれたバドリュードの体は爆散し、スパークドールズへと姿を変え、希の元へと落ちた。
同時にエネルギーを使い切ったギンガの体が光となって霧散する。
リヒトの姿に戻ると、どっと押し寄せてきた疲労感に膝をつく。荒い呼吸を繰り返していると、
「りっくん!」
希の声が聞こえた。顔を上げると走ってくる二人の姿が見えた。
大きく息を吐いて、体に力を入れて立ち上がる。
二人がちょうどリヒトの元へやってきた。希は心配の表情を浮かべて、真姫はどこか難しい顔をしている。
呼吸を整え、片目を瞑って真姫を見る。
「……ま、西木野が訊きたかったことの答えは見られたかな?」
重い空気を少しでも変えようと、軽い調子で言ってみた。
けれど、側から見ればそれが振り絞って出した空元気だと見てわかる。大技を連発して、早期の決着をつけなくてはいけなかった。それほど疲弊しているリヒトが無理をして軽い調子で言っていることは真姫の聴力を持ってすればすぐにわかる。
「……ええ、そうね」
その声音は納得したものか。それとも納得していないものか。今のリヒトに真姫の心情を読み取るほどの余裕はない。
「急いで別荘に戻ろう。絢瀬たちが心配だ」
こっちが襲われた以上、別荘組の安否も気になる。
「でも、どうするん? ギンガの力は使い果たしてもうたよ?」
「…………」
希の言う通り。ウルトラマンギンガへのウルトライブはしばらくできない。ギンガスパークを握り、力の感触を探ってみるも無反応。クールタイムが必要なのだろう。
(ここから走っても、別荘まではまだ距離がある。最短で辿り着くには、ウルトラマンティガにウルトライブするしか──)
そこまで考えた時、ギンガスパークが反応を示した。
リヒトたちの周囲に敵がまだいたのか。
いいや違う。ポケットにしまっていたリヒトのスマートフォンが着信音を鳴らし、すぐに切れた。
それは事前に絵里と話して決めていた、緊急時のコールサイン──『リヒトのスマホに電話をかけ、すぐに切る』こと。
「まずい! 絢瀬たちが危ない!」
その言葉の意味を真姫もすぐに理解したのだろう。焦りの表情が浮かび上がる。
「希、ティガのスパークドールズを貸してくれ。一気に行く」
希は頷き、取り出したウルトラマンティガのスパークドールズを渡す。
受け取ったリヒトはすぐにギンガスパークでリードするのだった。
『ウルトライブ! ウルトラマンティガ!』
☆★☆★☆★
別荘では、まさに生死が隣り合った状況にあった。
運が良かったのは状況の変化にことりがいち早く気づいたこと。夕日が沈む瞬間の『グリーンフラッシュ現象』を見ようと、窓から外を見ていたのが幸いした。
少女たちが目にしたのは待ち焦がれた『グリーンフラッシュ現象』ではなく、赤黒いオーロラが空を覆う光景。
ことりはすぐに、それがファーストライブの日に見たものと一緒だと理解した。
つまり、これから怪獣が現れるのだと。
「みんな!」
ことりが叫ぶのと同時。
雄叫びあげ出現する怪獣。そのサイズはこれまで見てきた巨大なものとは違った。
等身大のサイズ。しかし二メートルはある生物。白い二つの眼がこちらを捉えている。
『凶暴エイリアン ボーダ星人』それが怪物の名称。
少女たちは戦慄する。間違いなくアレは自分たちを狙っていると。
絵里はリヒトから言われていた通り、すぐにスマートフォンを取り出す。恐怖で震え、押し間違えそうになるボタンを必死で押す。
ワンコール、その後すぐにボーダ星人が襲いかかってきた。
逃げる。それしか選択肢はなかった。
窓を破り、室内にやってくる怪物。恐ろしいほどまでのパワーを持っている。あんなもの、生身の人間が受けたらどうなってしまうのか、考えるまでもない。
雄叫びが体を震わせ、足を震わせ、恐怖が体を固める。二メートルはある怪物だが、パワーだけでなく俊敏さも兼ね備えているらしい。ひとっ飛びでボーダ星人は花陽の目の前に現れた。
一歩、逃げ遅れた花陽をボーダ星人は見逃さなかった。
「かよちん!!!!」
凛の悲鳴が聞こえる。運動神経が良い凛は先に動いていた。咄嗟に親友の手を掴めなかったことに途方もない後悔が押し寄せてくる。
しかし、位置の関係でそれは仕方のないことだった。
隣であればすぐにその手を取っただろう。だが、凛は窓へ、花陽は窓から離れた位置にいた。
普段一緒にいるはずの二人が、たまたま離れていた。それは神様のいたずらか。
「──!!」
目の前に映る怪物は『死』。死の具現化。振り下ろされる鋭利な爪は花陽の体など容易く切り裂くだろう。
「花陽!!」
そんな彼女のために、持てる勇気を振り絞ったのは絵里だった。絵里はかつてワロガにダークライブした経験、そして生贄となる一歩手前までの恐怖を経験している。その経験があってか、それとも彼女の性格か。
とにかく、絵里の足は動いた。その手にはリヒトより託された『ギンガライトスパーク』がある。それをかむしゃらに振るう。
ガンッ!! と音。
一瞬、腕が繋が千切れたのではないかと錯覚する。
──大丈夫。腕は繋がっている。骨も折れていない。肉片に変わり果てていない。無事な腕がそこにあった。
ボーダ星人は攻撃が来るとは考えていなかったのか。ギロリとその白目で絵里を見る。
「────」
絵里は死を悟った。
間違いなく、これは死ぬと。
花陽は助かったのか。
みんなは逃げ切れたのか。
しかし、死よりも先に、首にかけている青い輝石が光を放つ。
目眩し。ボーダ星人がバックステップで距離をとった。
「花陽! 大丈夫!?」
「え、絵里ちゃん……」
花陽は腰が抜けている。すぐには行動に移せない。
どうする? と考える。
一方で、背後では穂乃果と海未がなんとかしようと奮闘している。穂乃果の持つ赤い輝石の光を海未の持つ『イージスの破片』で矢に変え応戦しようと考えているのだ。
ボーダ星人は絵里からの追撃がないと判断したのか、慎重にこちらを伺っていた体勢から一転。こちらへ再び迫ってくる。
「──っ」
絵里は戦慄する。
しかし、
──窓から新たな光が絵里の前に飛び込んできた。
ボーダ星人はその光に弾かれ、吹き飛ぶ。
光はやがて収まると、光の戦士の姿が顕になる。
ウルトラマンギンガとは違う、パープル一色の戦士。
その名はウルトラマンティガ。そしてパープル一色の姿はスピードの特化したスカイタイプ。
「エリチ! みんな! 無事!?」
「希!? それに真姫も!?」
ティガと共に希と真姫が現れる。
そして同時に、目の前のティガに変身しているのがリヒトであることに気づく。
ティガは一度こちらを、そしてみんなを見る。
無事を確認しているのだろう。そして、改めてボーダ星人へと向き直る。ボーダ星人は現れたティガを睨み、体勢を低く構えていた。
戦闘準備万端といった様子。
先に駆け出したのは──ボーダ星人だった。
突進攻撃をティガは正面から迎え撃つ。回避はできない。背後にはμ’sのメンバーがいる。ボーダ星人の突進はほぼ頭突きのような攻撃だ。ティガはそれを受け止めるが、体が後ろへのけぞる。倒れそうになるのを右足を後ろに下げたえる。
二度目の突撃。近距離での攻防が始まる。頭突きを抑え込むように止めると、スカイタイプの持ち味を生かした連続の打撃を頭部に打つ。肘打ち、そしてアッパー。ボーダ星人も後ろにのけぞるが、すぐに三度の激突。
頭部を掴んだところで、乱雑に振られ、ティガの体が窓の方へと飛ぶ。ティガはそのまま床を転がり、体勢を立て直す。
ボーダ星人の追撃。
ティガは後ろに大きく跳び、室外へと戦場を移そうとする。
着地したティガは構え、前に出した右掌を上に向け、指を内側に何度か折ってみる。『こっちへ来い』というジェスチャーは、果たしてボーダ星人にも通じたようだ。
先ほどまでの突進と違い、ジャンプで一気に距離を詰めてきた。そのスピードは速い。飛びかかりに近い。
ティガはそれを回避し、背中に蹴りを叩き込む。二撃、三撃。しかしボーダ星人はすぐに体の向きを変え、四撃目の蹴りを叩き落とす。
再びの突撃。頭部を掴んで止めるが、それを無理矢理押し込んでこようとする。ティガは自分の体ごとドリルのように回転させ、ボーダ星人ごと地に倒れる。
すぐに起き上がり、追撃の前にボーダ星人が掌から赤い光弾を放った。胸部から火花を上げ倒れるティガ。
そこへ、のし掛かろうとするボーダ星人。転がって回避するティガ。
「あの怪獣、動きが速い……」
室内から戦いを見ていた絵里がポツリと言った。
「あのウルトラマンと同じくらい?」と同じく近くで見ていた真姫が言った。
「そうやね。あのウルトラマンも今の姿はスピードに特化した姿なんやけど、それと互角やね」
スカイタイプはティガの姿の中でスピードに特化した姿だ。そのティガと互角の速度で戦っているボーダ星人の戦闘力がいかに高いかわかる。
「……勝てるわよね?」
「…………」
絵里の問いかけに希は答えない。代わりに戦況を難しい目で見つめていた。
回避したティガは膝をついたまますぐに立ち上がらない。
──リヒトのスタミナが限界に近い。先ほどギンガのウルトライブが解除された時も、膝をつき荒い呼吸をしていた。
音ノ木町を離れた時から、敵の襲撃を警戒し、ウルトラマンギンガに変身しての戦闘。そして、ティガにウルトライブしてスカイタイプが出せる全力のスピードで別荘へと帰還し、そのまま第二の戦闘が始まった。疲労はピークに達しているはずだ。
それを見逃さないボーダ星人は飛びかかった。
回避は間に合わない。
両手でティガの首を絞める。
ティガはそのまま背中から倒れてしまう。逃げ道を失い、そしてついにカラータイマーが点滅を始める。
「ちょっと……あれまずいんじゃないの!?」
「海未ちゃん! ほら早く弓矢だよ!」
「無茶を言わないでください!」
にこの言葉に急かされるように、穂乃果が海未の肩を揺する。
ティガのスカイタイプはスピードに特化した分、パワーが劣るのだ。ボーダ星人はスピードもスカイタイプに迫るほどの力を持ち、加えてパワーもある。スカイタイプでは太刀打ちできない。
つまり、ティガが取る選択は一つだった。
右の拳を握り締め、額のクリスタルの前に構える。
クリスタルが赤く輝き、腕が振り下ろされると、パープル一色からレッド一色に変わる。
──瞬間、ボーダ星人の腕を掴んだティガの手に力が籠る。
グググ、とボーダ星人の手がティガの首から離れていく。そのままボーダ星人の腹部に右足を当て、押し上げる。背後へ飛んでいくボーダ星人。
「姿が赤くなってる……!」
「ほんとにゃ!」
起き上がったティガの姿の変化に、花陽と凛が声を上げる。
拳を構え、ティガはボーダ星人に迫る。パンチの一撃一撃が、速度こそ落ちているが威力は格段に上がっている。
拳がボーダ星人の体を捉えていく。
大きく吹き飛ぶボーダ星人。
ティガは再びクリスタルの前に両腕を持っていき、その姿をパープルとレッドの二色に変える。
パワーとスピードのバランスが取れた、マルチタイプ。
そして両腕を前に突き出し交差。大きく横に広げていき、エネルギーを溜めていく。
腕をL字に構え、放たれる
ゼペリオン光線はボーダ星人の体を撃ち抜き、爆散。スパークドールズへと姿を変え、地面へと落ちた。
戦いに決着が付いた。
ティガは最後にμ’sメンバーの方を見る。
そして、空へと飛び去って行った。
☆★☆★☆★
ティガの力を使い切った。
これで、残り手元にあるのは怪獣のスパークドールズだけ。戦力としてはウルトラマンと比べると落ちるが、それでもウルトライブに制限時間がないことと、手数での勝負はできる。
だがそれよりも問題なのは体力だ。限界が近い。もしこれが敵の狙い通りなのだとしたら、まさに陥ってしまった状況。
最悪だ。
(けど……これで襲ってくるだろ。迎え打てばいいだよ)
強気な言葉を使って、闘争心を奮い立たせる。
ここで、リヒトのスマホが震えた。画面には希の名前。
「どうした?」
『その声、かなり疲れてるみたいやね』
「……まあな。けど問題ねえよ。それよりどうしたんだ? 電話なんて」
『みんな、りっくんがいないこと心配しとるよ。早くしないと、女の子のピンチに駆け付けなかった情けない男の子になっとしまうよ』
「それは困るな。一番頑張ってるのに」
『だからなんとか誤魔化しとるよ。けど、もうみんな知っとる感じしない?』
確かに、リヒトがウルトラマンだと知らないのは穂乃果、海未、凛の三人。曖昧なのが花陽、と言う状況だ。九人の内五人は知っているこの状況で、果たして誤魔化す必要があるのか。
ちょっとだけ疑問が湧いてくる。
「まあ、知らないなら知らない方がいいだろ」
『……けど、りっくん。状況はかなり悪いよ。ウルトラマンの力がない以上、どうするつもり?』
「なんとかするさ。あ、それよりそろそろ別荘に着く。また後でな」
変身を解除する以上、バレないように少し離れた位置にいた。
そこから歩いて数分。ようやく目の前に別荘が見えてきた。
疲労はかなりある。けれど、それを隠すように深呼吸して、リヒトがドアノブに手をかけるのだった。
第15話・完
○登場怪獣
・ヴァイロ星人
・生物機械兵器 バドリュード
・凶暴エイリアン ボーダ星人
◯あとがき
これにて第15話終了です。
次回からは第二部のラストエピソード。
いよいよこの作品を描き始めた時に考えていた対戦カードが描かれます。
頑張りますので、どうぞ、よろしくお願いします。
◯次回予告
μ’sの合宿を終え、音ノ木町へと戻ってきたリヒト。
そんな彼の元にひとつの小包が届く。
それは決して開けてはいけない禁断の⬛︎⬛︎⬛︎が──。
⬛︎⬛︎が──られて──た。
動きだ──⬛︎⬛︎……ぁ……。
次回 第16話「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎襲来」