第二部佳境。
スタートです。
第一章:◼️◼️◼️◼️
[00]
頬を叩く大粒の雨。
鼓膜を震わす雨音。
空は厚い雲に覆われ、夏の季節には似合わない大雨が降っていた。
漂う空気はどんよりと重く、まるでこの場にいる二人の少女の心象風景のようだ。
言葉を発さず、指先すら動かさず、少女たちは雨に打たれている。
少女たちは先ほどまで嵐の中にいた。暴力が乱舞する。轟音と烈風が襲いかかる。まさに嵐のような世界。そこから抜け出して戻ってきた。
一人の少年の命と引き換えに。
園田海未は目の前で起きたことが未だに理解できない。理解しようと頭を働かせるが、理解するための情報がない。故にわからない。何をどう見て、どう考えれば答えに辿り着けるのか。問題を解こうとしても、解き方がわからない以上考えは進まない。
絢瀬絵里は何が起きたのか、海未に比べれば理解している。理解しているからこそ、目の前で起きてしまったことが如何に絶望的なのかわかってしまう。
震える手を伸ばしても、そこに彼の背中はもうない。
「……ぁ」
絵里の口から漏れるのは言葉ではなくただの音。
思考がままならない。思考は雨に流されていく。
二人の持っている情報は圧倒的に違う。違うからこそ、それぞれの感じ方も異なっている。
やがて、海未は答えは出せなくても状況の整理はできるかもしれないと、先ほど起きたことを一つ一つ考えることにした。
その上ではっきりとしたことは、幼い頃からの友人が暴力の嵐に飲み込まれ、赤い海に沈み、そして自分たちを助けるために消えたということ。
彼は帰らぬ人となった。
自分たちを逃すために、暴力の嵐に飛び込んだのだ。
もう二度と戻っては来れないのだと、覚悟していただろう。別れの言葉はひどく簡素だったと、今になって思い出した。
──その途端、海未もまた膝から崩れ落ちた。
少ない情報で答えを探し、導き出したものは、絵里には及ばないがそれでもショックを受けるには十分だった。
──その手に握るY字型の結晶が熱を帯びているが、それが示す意味を海未は知らない。知っていれば、いや、知っていたとしても材料が足りない。
雨の音だけが響く。
そこへ、
「──エリチ、海未ちゃん」
二人の名を呼ぶ声。
声の主は東條希。奉次郎とともに傘をさして現れた。
「──」
絵里は希の名を声にしたはずだが、あまりにも細い声は雨音にかき消される。
希は目を細めて、視線を逸らした。まるで傘で己の顔を隠すように、目の前の光景を遮るように、傘で顔を隠した。
「まずはウチに来なさい。このままじゃと風邪を引いてしまう」
努めて冷静に言っているのだろうと感じられた。
二人は奉次郎に連れられ、榊家へと向かった。
[01]
──時は遡る。
μ’sの合宿二日目は、一日目とは打って変わってほぼ練習に充てられた。海未が予定していた通り、砂浜で基礎体力向上のメニューを中心に練習が行われ、曲を使ってのダンス練習は最小限にとどめられた。そのおかげか、二日目の夜は皆ぐっすりと眠っていた。敵の襲撃もなかったため、その光景は一日目とは真逆だったと言えるだろう。
二日間の合宿が終えたことで、予定通り音ノ木町へと帰ってきた。ここから二日間は練習がお休みとなっている。無論、合宿での疲れを癒す目的もあるが、もう一つ少女たちにとって重要な理由がある。
それは夏休みの宿題だ。μ’sは『スクールアイドル』、すなわち学校のアイドル。学校という場に通っている以上、当然長期の休みにはそれなりの量の宿題が出る。当初の予定では合宿中に勉強時間を設けることになっていたのだが、練習の疲労から誰一人として課題に手を出すことはなかった。出せなかった、とも言えるほどに二日目の練習は過酷だったのだ。
そのため、本来一日の休みを二日設けることとなったのだ。無論、メンバーの中には夏休みの宿題を最終日にやる者もいるため、それを回避する意味も込められていた。
☆★☆★☆★
「ねえ、本当に大丈夫?」
絵里から心配の声をかけられた。そんなにか? と疑問が湧くが、鏡に反射して見えた自分の顔に、その疑問は当然かと思った。
鏡に映る自分の顔は、ひどく危ういものだった。目の下にはクマが浮かんでおり、顔色も良くない。二日間寝ないだけで、こんなにも酷い顔になるんだなと、頭の片隅で思った。
「……大丈夫だ」
自分の口から出たはずの言葉が遠く聞こえる。
こうなった原因は理解している。ここ二日間ろくな睡眠をとっていないのが原因だ。元々こうなることは覚悟していた。音ノ木町を離れるということは、敵の襲撃を受けやすいということ。
実際、一日目は敵の襲撃があった。それをウルトラマンギンガとウルトラマンティガに
特に指導しているときは、最近の不甲斐なさを払拭するためより集中して彼女たちの指導にあたったのだ。もちろん、睡眠を取っていないことを隠す意味も含まれている。
そして、皆が寝静まった後、再びカフェインをお供に襲撃の警戒にあたる。その生活によって体力、精神共に限界が来ていた。
「嘘言ってんじゃないわよ。あんた今ひどい顔よ」
と、矢澤にこの声が飛んできた。
今リヒトは他のメンバーたちとは別の場所に移動している。音ノ木町に戻ってきたことで、『イージスの加護』の範囲内に入ったのだ。もう敵からの直接的な襲撃を警戒しなくて良い。その安心感から集中力が途切れ、一気に睡魔などがやってきた。
そんな姿を少女たちに見せるわけにはいかない。少女たちにいらない心配をさせないためにリヒトは一度距離を取ったのだ。
しかし、どうやらそれが逆に要らぬ心配をかけてしまったらしい。絵里だけでなくにこが来たことで、そう思わされた。
「矢澤……」
「わかってるわよ。あんたが私たちのために起きていてくれたことくらい。でもね、大丈夫じゃないのに『大丈夫』なんて言うんじゃないわよ」
にこは自分が怪獣になった時のことを鮮明に覚えているらしく、その影響でリヒトがウルトラマンギンガであることを知っている。だからリヒトがこの二日間、眠らずに敵の襲撃を警戒していたことも察していた。
「あんたはこのままタクシーにでも乗って、さっさと家に帰りなさい。あいつらには私から説明しといてあげるから」
「……ちなみになんて?」
「『体調が優れないからタクシーで先に帰らせた』ってね。心配しなくても、あんたがウルトラマンだってことは話さないわよ。というか、誰が知ってて、誰が知らないのか私知らないし」
「…………」
「何よ」
「……いや、矢澤って結構面倒見いいんだなって。見た目によらず」
「誰が小さいですってぇ?」
「小さいなんて言ってないだろ……」
つい出てしまった言葉に思いの外強く反応されてしまった。慌てて訂正をするが、リヒトの様子を考えてくれてなのか、これ以上追及はされなかった。ただ「今度覚えてなさいよ」と釘は刺されたが……。
「んじゃ、お言葉に甘えて先に帰るわ」
リヒトは荷物を担ぎ直すと、
その背中に向け絵里から声をかけられた。
「ちょっと、タクシー乗り場はそっちじゃないわよ」
「わかってるよ。タクシーは使わねえ。俺にはこれがあるからよ」
そう言って、ギンガスパークを取り出した。首を傾げる二人をよそに、ウルトラマンティガのスパークドールズをリード。ティガにウルトライブすると、テレポートで一気に榊家まで移動した。
☆★☆★☆★
振り返ってみれば、敵の襲撃は一日目の夕方のみだった。二日目に入ってから、ギンガスパークが反応を示したことは一度もなく、夜は嫌なくらいに静かだった。ギンガスパークが感知できない『白い少女』についても、希に何度か確認をしたがいずれも首を横に振るだけ。
終わってみれば、リヒトだけが消耗している状況。これが敵の狙いだったのか。もしそうなら、今のリヒトは精神的にも肉体的にも限界を迎えている。狙い通りの結果になってしまっている。今はいち早く回復に努めなければならない。
(限界だ。寝たい)
玄関のドアを開ける。
家の中はシン……、と静まり返っていた。
「……じいちゃん?」
声をかけてみるも、返答はない。
どうやら家の主である
……眠りについて、どれぐらい経っただろうか。
──ピンポーン、とチャイムの音が玄関に鳴り響いた。
チャイムは一度で終わらず、2度、3度と続けて鳴らされる。まるで急いでいるかのように、間の感覚が短い。
これが自室だったら気づかなかっただろう。しかし、今リヒトは玄関にいる。音がダイレクトに鼓膜を揺らす。
(マジか……)
無視をしようにもチャイムは鳴り止まない。というか、無視できないレベルでなり続けている。その音からは、どうしても誰かに出てきて欲しいと、切羽詰まっているように感じる。
リヒトは渋々出ることにした。
「今、出ます……」
他人とはいえ、せめてマシに見えるように表情筋に力を入れた。
しかしその表情はすぐに崩れた。
「──え」
ドアを開けると、ボロボロの男が一人立っていた。
一瞬で頭が真っ白になる。
男の体には切り傷や痣が痛ましく刻まれており、唇の端には固まった血痕が見られる。肩が上下に激しく動いており、浅い呼吸を何度も繰り返す。その表情は危機迫るものであった。
眠気を飛ばすには十分すぎる光景。一体何が、と疑問を感じていると、ボロボロの男が口を開いた。
「ほ、奉次郎さまは……いら、っしゃい、ます、か……」
奉次郎、とはリヒトの母方の祖父の名前。この家の主。そういえば今は外出中、と頭の中で言葉を整理する。
「祖父は今、いません」
リヒトがそう答えると、男は落胆した。その表情にあった焦りと不安がより強くなる。
「……いつ頃、お戻りに……なられるので、しょうか」
「すみません……僕もさっき帰ってきたばかりなので、祖父がどこに行っているのか、いつ帰るのか、まったくわかりません」
「……そう、です、か」
男は立っているのがやっとといった様子。
突然の光景にリヒトの思考が追いつかない。真っ白の頭はなにも導き出してくれない。
「リヒトくん? ……っ!?」
そこへ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
絢瀬絵里の声だ。先ほど別れたばかりの絵里が、今家の前にいる。
「絢瀬? なんでここに……」
「そんなこと後で! この人どうしたの!? 救急車は呼んだ?」
「いや、まだ……」
「なら急いで! 大丈夫ですか?」
絵里の言葉でリヒトは弾かれるようにスマホを取り出した。画面をタップして、救急車を呼ぶ。
「いや、呼ぶ、必要は──っぐ、それより、これを、奉次郎様、に……」
男はもっていた小さな小包を差し出そうとして、限界を迎えたのか倒れ込んでしまった。
ぐったりと倒れる男を受け止めるリヒト。
「ちょっと! 大丈夫ですか!?」
リヒトは男に何度か声をかけるが、意識を失った男が目覚めることはなかった。
☆★☆★☆★
あのあと、男は救急車に乗せられ西木野総合病院へと運ばれた。容体はひどいものではあったが、命に別状はないと看護師から告げられた。
しかし、男の素性がわからない、という問題があった。榊家を訪れてきたのだから、面識のある人間なのだろうと考えることはできるが、過去に面識があったとしても、記憶喪失である今のリヒトが覚えているはずがない。奉次郎に連絡を取ってみるも、スマートフォンの電源が切られているため繋がらなかった。
これでは、男が一体どこの誰なのかがまったくわからない。少なくとも、奉次郎を訪ねてきたのだから、完全に知らない相手ではないだろう。
いずれにせよ、男の意識が戻るのを待つか、奉次郎と連絡がつくのを待つか、そのどちらしかなかった。
よってこれ以上ここにいても仕方がないと思い、リヒトは西木野総合病院を後にすることにした。受付のロビーで待っていた絵里は、リヒトの姿を見つけると、
「さっきの人、大丈夫だった?」
と、言ってきた。
「命に別状はないって。ただ、俺もあの人が誰かわからないし、じいちゃんにも連絡がつかないから、身元不明って感じ」
「そう」
「ここにいても仕方ないし、俺は一旦帰るけど、絢瀬はどうする?」
「見送るわよ」
「誰を?」
「リヒトくんを」
俺? と疑問を浮かべると、
「リヒトくん、今自分がひどい顔してる自覚あるのかしら」
と、ジト目を向けられた。
「……そんなにひどいか?」
「自覚がないならここでリヒトくんも診てもらった方がいいわ」
なぜだろう、少し絵里の言葉に棘を感じる。きっとここで「大丈夫」だと言っても、信じてもらえないだろう。というより、リヒトが何を言ってもそれを無視して見送りに来るに違いない。
リヒトの雰囲気から観念したと感じ取ったのか、絵里が得意げな笑みを浮かべて後を付いて来た。
「そうだ。さっきは助かったよ、ありがとう。絢瀬が来てくれなかったら、何もできなかったから」
「気にしなくていいわよ」
「でもなんでウチに来たんだ?」
「……リヒトくんが心配だったからよ」
と、少し頬を赤めながら絵里は言った。
「…………」
その表情に多少面を食らっていると、恥ずかしさが優ったのか、絵里は慌てて次の言葉を続けた。
「ところで、その手に持っているのは何?」
「ああ、これな。あの人がじいちゃんに渡すために持ってきた、らしい……」
「らしいって」
「仕方ねえだろ。本当かどうか確認する前に意識失っちまったんだから」
リヒトの手には男が持っていた小包がある。意識を失う前、男はこれを奉次郎に届けに来た様子だった。しかし、あいにく奉次郎は不在にしている。そのため、リヒトが代わりに預かって来たのだ。これなら家に奉次郎が帰ってきた時、状況の説明と同時に渡すことができる。
しかし、中身の詳細については不明。訊く前に意識を失ってしまったため、わかるのはこれが奉次郎宛ということだけだ。
小包はとても小さな箱だった。茶色一色の無地の箱。テープで封はされているが、運ばれている途中で何度も落としたのか、かなりボロボロだった。テープが剥がれかけていたり、角が凹んでいたりと、乱雑に運ばれていたのがわかる。軽く振ってみるが中から音はしない。中身は無事のようだ。
「ちょっと、振って大丈夫なの?」
「たぶん……変に動いている感じしないし」
(それにしても、あの男の人の感じからかなり重要なものだよな……? 何が入ってんだ?)
好奇心から中身を開けてみたくなる。
しかし、奉次郎宛のものを勝手に開けていいものだろうか。何か、奉次郎が受け取るようなものを考えてみるが見当もつかない。
これ以上考えても仕方なさそうだ。
と、そこで病院の外から出たタイミングで、また見知った相手に遭遇した。
「? 海未?」
「リヒトさん!? それに絵里も……」
その相手は園田海未だった。彼女は驚いた表情でこちらを見ている。
「どうして二人がここにいるんですか?」
「俺は……」
と、言いかけて考えた。先ほど起きたことを正直に話して良いものかと。
冷静に考えれば、奉次郎の知人らしき人物が病院へ運ばれるほどの大怪我を負ってやって来た、など穏やかなことではない。これがまだ相手の素性がわかればなんとかなったかもしれない。しかし相手の素性は不明。かといって、何か代案が思い付く訳でもなかった。
「……ま、なんだ」
「リヒトくんの様子が気になって家に行ってみたら倒れてたの。だから、様子見のため病院にね」
リヒトが言葉を放つ前に、絵里がまっすぐな声音で説明をした。
嘘と真実が混ざった絶妙な嘘。思わずリヒトがぽかんと口を開けてしまうくらい。
「そ、そうですか……やっぱり、無理してたんですね」
哀れみの目を向けてくる海未。
「そうなのよ」と絵里が一押しする。
そうだ。海未は押しに弱い。根が真面目、加えて合宿中の先輩禁止も人一倍慣れるのに時間がかかった。先ほどから絵里のことを呼び捨てで呼べているとはいえ、彼女の奥底ではまだ『絵里=先輩』が残っている。
だから絵里が屈託のない笑みで言えば、当然信じてしまう。
「……まあ、な」
違う、と否定したい気持ちを押し殺す。ここで否定しても話が難しくなるだけだ。なら、絵里がついた嘘に乗るしかない。なぜかリヒトは心に少しばかりのダメージを負った。
「それより、海未はどうしてここに来たんだよ。まさか合宿中に怪我してて、それを隠してたとかじゃないだろうな?」
「違います。その……」
少しだけ語気が強くなってしまった。申し訳ないと思いつつ、しかし言い淀む海未に眉を顰めた。海未がここへ来る理由に見当もつかない。
「実は──」
と、海未はその手に持つものをこちらに見せてきた。
「これなんですけど」
海未の掌にあるのはオレンジ色のY字型の鉱石のようなもの。紐で繋がれ、よく海未が首にかけているものだ。父親からお守りとしてもらったものだと、以前聞いたことがある。
そしてリヒトの記憶には、それがとあるウルトラマンの胸にあるものと同じもののように見えた。
「私の勘違いかもしれませんが、さっきから何かに反応しているみたいなんです。それで、その反応の行き先に向かっていたらここに」
海未の言う通り、鉱石のようなものは何かに反応しているかのようにほんのりと光っている。もっとよく見ようとリヒトが近づいた時、その光はより早く、はっきりと点滅を始める。
「リヒトくんに反応した?」
「え? 俺?」
「だってリヒトくんが近づいたら早くなったわよ」
「絢瀬だって近づいただろ」
「私に反応するわけないじゃない」
「なんで」
「なんでって」
ムスッとした表情でリヒトを見てくる。
なんでそんな表情をされるかわからない。
「心当たりなんて──」
『──リヒト』
と、突然あたりの視界が真っ白に染まると、ギンガの声が聞こえてきた。
「うお!? びっくりした……急になんだよ」
『彼女が持っているのは「イージスの破片」だ』
「イージスの、破片……?」
とても聞き覚えのある単語が含まれていた。
「それって神田明神の地下で眠っている『イージスの力』のことか?」
『そうだ。「イージスの力」から産み落とされたもの。わずかだが「イージスの力」と同い効力を発揮する。そして、その破片が反応を示しているのは君が持っている小包に対してだ』
「え? これに?」
『その小包には「封印」が施されている。気にはしていたが、「イージスの破片」が反応していると言うことは、とても危険なものが封印されているのだろう。急いで神田明神へ戻るんだ。これが奴らの手に渡る前に』
そこまで言われて、視界に広がる世界が現実のものへと戻った。
「リヒトさん?」
「え? 何?」
「急に静かになったので……どうかしたんですか?」
「いや……」
先ほどのギンガの言葉が気になり、小包を胸の前に持ってくる。
すると、ちょうど高さが『イージスの破片』と近くなり、輝きがより強くなった。
「小包に反応している?」
と、絵里が言った。
「…………」
リヒトは、ふと剥がれかけているテープに目が入った。
少し剥がれかけているテープ。そのテープが
「──!?」
ゾワリ、と何か嫌な予感がリヒトの背中に走る。
「……悪い、用事思い出したから神田明神に行くわ」
「急にどうしたんですか?」
「何か、何かすごく嫌な予感というか……うまく説明できねえんだけど。とにかく神田明神に行く」
そう言って、リヒトは歩き出した。
☆★☆★☆★
走り去るリヒトの後ろ姿を見送る人影があった。
『白い少女』。
彼女はその背中を見つめながら、
「流石に漏れてはいないか。よほど厳重に封をしたようだな。面倒だが、仕方ない。手伝ってやるか」
と言って、その場から消えた。