ギンガ・THE・Live!   作:水卵

7 / 75
あらすじでの注意書きで、ラブライブ!側の設定をほとんどアニメベースと言っておりましたが、設定整理後、『アニメをベースに改変あり』とさせていただきました。
変わっていないメンバーもいますが、保険も兼ねています。

今回はほとんどが世界観説明です。


第二章:ティガ伝説

 [2章]

 

 

「疲れたー」

 

 ジムから帰宅したリヒトは、運動のために使ったTシャツなどを洗濯機に放り込み、ベットの上に倒れ込んだ。

 ジムに通い始めてまだ三日。運動不足の体ではないが、奉次郎から課されたメニューをこなすと、それなりの疲労が襲ってくるものだ。

 ベットの上に倒れこんだリヒトは、しばらく天井を見上げていた。

 ふと、何か飲み物が欲しいと思いキッチンへと向かう。

 

 

 榊家のキッチンは居間と隣り合わせになっているため、必然的に居間を訪れることになる。そこでリヒトは、テーブルの上に置かれたモノに目が入った。

 一冊の古文書。それは奉次郎の所有物だとすぐにわかった。神田明神にて、少々特殊な立ち位置にいる奉次郎ならばこのようなものを持っていてもおかしくはない。何より、ここ最近奉次郎がよく本を読んでいる姿を目撃していたのが、よりこのモノの所有者が誰であるかを連想させた。

 おそらく、片付け忘れたのだろう。

 そう思いながら、リヒトは冷蔵庫からお茶の入ったボトルを取り出した。コップに注ぎ、そして、やはり気になった古文書を手にとってみる。

 

「『ティガ伝説』……か」

 

 リヒトはポツリと、古文書に書かれた文字を口にする。

 コップをテーブルに置き、古文書を開いてみる。

 色あせた和紙に墨字で書かれた文。一文一文に目を通していくリヒト。

 そこには、遥か昔にこの地で起きた『光』と『闇』の戦いの記録だった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 遥か昔。

 この地にて人類は、宇宙より飛来した『大いなる闇』の危機に瀕した。

 始まりは、この地に降り注いだ『闇の波動』。地球を守護していた守り神の巨人は、闇の波動を受け闇の戦士となってしまう。

 本来、地球と人類を守護する役目だった光の戦士は、闇の力に侵され人類に牙をむいた。大きな力を持つ巨人を前に、人類は持てる限りの力をもって立ち向かうも、全く歯が立たなかった。唯一の頼みの綱だった『一族』も、闇の力を得て暴れる巨人の前では赤子同然だった。

 人類は絶望の淵立たされた。

 だが、『光』は人類を見放さなかった。

 天空より飛来した『神秘の光』。その光の戦士は闇の戦士となってしまった巨人と戦い、『闇の波動』を追い払うことに成功する。

 しかし、光の巨人は自らの力と相反する力の反動から、消えてしまう。

『神秘の光』によって人類はつかの間の平和を得た。

 だが、それは『大いなる闇』が動き出した序章に過ぎなかった。

『大いなる闇』の侵略はこれから始まるのだった。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 書き出しはそう書かれていた。

 遥か昔に起きた、『光』と『闇』の戦い。その序章と表現された出来事は、人類の守り神であった巨人が、闇の力に呑まれるということだった。

 守り神であった巨人が、敵となり人類に牙をむく。もし、リヒトが出会ったウルトラマンギンガが『光の戦士』ではなく『闇の戦士』で、人類に牙をむく存在だったら。そう考えるだけで恐ろしかった。

 その強力な力が敵となって人類に立ちはだかる──。考えるだけで嫌だった。

 

(この戦い、一体どうなったんだ?)

 

 リヒトはこの先の展開が気になり、ページをめくろうとしたところで一番後ろのページが厚紙になっていることに気付いた。

 厚紙の方を見ると、そこには文字ではなく六角形の紋章が描かれていた。

 

「この紋章……」

 

 その紋章に見覚えのあったリヒトは、立ち上がり自室へと足を運ぶ。机の上に置いておいたギンガスパークを手に取ると、持ち手の下部分にちょうど同じマークがあるのを見つけた。

 両者のマークは大きさが違うだけで、あとはすべて同じだった。

 そして、一瞬だがギンガスパークを持つ右手の甲にも、同じような紋章が浮かび上がった。

 ギンガスパークが光り出し、古文書の紋章と共鳴を始める。リヒトはギンガスパークを古文書の紋章へ近づける。共鳴はより大きくなった。

 

「……」

 

 リヒトは、息を飲む。意を決し、ギンガスパークの先端を古文書の紋章へとあてた。

 ギンガスパークが反応し、光がリヒトを包み込む。

 リヒトの頭に膨大な光景が流れてきた。

 現代の街並みとは違い、緑が多く、藁や木々を使い作られた家。人々が纏う服も今のようなものではなく、歴史の教科書などで見るものだった。

 おそらく、縄文時代、いやそれより以前なのかもしれない。とりあえず、歴史の苦手なリヒトにとって今の光景が遥か昔の、とある村の光景だと理解した。

 

「なんだ、この映像は」

 

『これは「ノアの記憶」』

 

「ギンガ!?」

 

 目の前に広がる光景に驚きを隠せないリヒトだったが、隣に等身大で現れたギンガにさらなる驚きに襲われる。

 

「ノアの記憶って」

 

『正確には「イージスの力」に秘められた記憶だろう。かつてこの星を訪れた「ウルトラマンノア」が、未来に起こる災厄を予期し自らの力の一部をこの地に留めた。そして、ノアの予期した通りに「災い」が人類を襲った』

 

 ギンガは静かに語る。

 その先の光景では体が紫、赤、銀色のカラーリングをした光の戦士が、闇の波動を受け漆黒の巨人になり、人類を攻撃している映像に切り替わった。

 放たれる紫炎が、漆黒の光弾が、村を破壊していく。悲鳴を上げる人間の声など聞こえないのか、又は虫けらにしか思っていないのか、無残にも足に踏みつぶされていく家。爆炎に飲み込まれる木々、そして、瓦礫の下敷きになってしまった母親の横で泣き叫ぶ少女。

 

「待てよ、あの巨人って……」

 

 リヒトには、その巨人に見覚えがあった。ギンガスパークを手にしたときに、リヒトの前に現れた二体の光の巨人。その片方の巨人と姿が同じだったのだ。胸のプロテクターに走る二本の黄色いライン、間違いなくリヒトが出会った光だった。

『人類の未来に「光」を』、そういってリヒトにギンガスパークを託したあの光の巨人が、村を破壊していた。

 

『ウルトラマンティガ』

 

「え?」

 

『あの光の巨人の名前だ。正確に言うであれば、あの姿は「ティガダーク」と言うのだろう』

 

「ティガダーク……」

 

 人類を守るべく生まれた『光』が、『闇』に飲まれ人類を襲っている。その光景がとても信じられなかった。

 漆黒の巨人──ティガダークは泣き叫ぶ少女のもとによる。泣き叫ぶ少女を見て、ティガダークは頭を押さえた。

 おそらく、まだかすかに残っている『光』の部分が、必死に抵抗しているのだろう。その手が、瓦礫に埋もれた母親を助けようとその手が伸びる。

 だが、ティガダークはその頭を大きく振ると、拳を握りしめ──。

 

「やめっ──―」

 

 

 無残にも、その拳が振り下ろされた。

 

 

「……う……そ……だろ……」

 

 リヒトは目の前で広がる現実が信じられなかった。

 ティガダークは静かに立ち上がると、再び殺戮を開始する。特殊な力を持った人々がティガダークに立ち向かうも、全く歯が立たない。

 人々は聖獣を呼び出し、ティガダークと戦った。背中にクリスタルが生えた白い聖獣は、ティガダークを止めるべく立ち向かう。

 だが、聖獣はティガとは戦いたくないのか、必死に呼びかける聖獣の努力空しく、光弾が聖獣を襲う。

 一人の少女が、ティガダークに向かって叫んだ。

 

「希っ!?」

 

 その少女の姿は、リヒトの知る人物、()()()()()()()をしていた。希に似た少女は必死にティガダークへと叫ぶ。だが、無慈悲にも少女に光弾が放たれる。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおお」

 

 光弾が直撃する寸前、空より黄色い光が落ちた。

 少女に迫る光弾を弾く。

 光は、ティガダークと同じ黒いカラーリングをした戦士だったが、黄色に輝くV字型のクリスタルが特徴だった。

 

「ギンガと同じ、クリスタル」

 

『ウルトラマンビクトリー、それがあの戦士の名前』

 

「知っているのか? ギンガ」

 

『いいや、私が知っているのは名前だけだ』

 

 古文書に記された『神秘の光』──ウルトラマンビクトリーは人類を守るように立ち上がり、ティガダークと戦った。

 ビクトリーはティガダークと激しい攻防を繰り広げる。

 ビクトリーの放った一撃がティガダークの膝を地に着かせる。そしてビクトリーは取り出した青いフルートのような武器を手にし、音色を奏でる。その音色がティガダークの闇を追い払い、元の姿に戻した。

 

「これって、古文書に書かれてた『大いなる闇』の侵略の序章と同じ──」

 

 

「そうだよ」

 

 

 少女の声が聞こえた。

 リヒトは驚いて振り替えてみると、先ほどティガダークに向かって叫んでいた希そっくりな少女が立っていた。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 ガタン、という音と共に、東條希はその手に持っていた資料を落としてしまう。

 

「希、どうかしたの?」

 

「……ん? なんでもあらへんよ」

 

 心配して声をかけてくる親友に、笑顔で答える希。すぐに落ちた資料を拾うと、これから始まる新入生歓迎会のため講堂へと向かう。 

 その後ろ姿を首を傾げつつも、きっちり自分の仕事をこなそうと、意識を切り替えた親友が後を追う。

 

(りっくん、出会ったんだね)

 

 希は、親友に気付かれないように、そっと笑った。

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

「……の、希?」

 

 リヒトは、目の前に突如現れた少女の姿に驚く。その姿はまさに東條希と同じだった。違う点を挙げるとすれば、髪を結んでいないことと、服装だけだろう。それ以外は完全に東條希とそっくりだった。

 

『いや、おそらく「イージスの力」が彼女の姿を借りているだけだろう。こちらとの意思疎通は不可能なはずだ』

 

 リヒトの考えを読んだのか、ギンガが説明を加える。

 つまり、目の前にいる少女は『イージスの力』が希のご先祖様の姿を借りたものか、となんとか状況を飲み込むリヒト。

 ギンガの言った通り、意思疎通はできないのか希にそっくりな少女は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「これが始まり。人類は、これから『大いなる闇』の危機にさらされる」

 

「大いなる、闇?」

 

 少女の言葉についオウム返しをしてしまうリヒトだったが、少女は答えず周囲の光景が切り替わるだけだった。

 そこには、数多くの怪獣が蹂躙している光景だった。雄叫びを上げ、本能のままに暴れる怪獣達。ティガダークが暴れた時以上の被害が起きていた。

 ウルトラマンビクトリーは怪獣軍団の進行を止めるべく戦うも、数の暴力には勝てず、苦戦する。聖獣が加勢に加わるも、二対多数では形勢を逆転させることは不可能だった。

 

「『大いなる闇』はその力をもって怪獣軍団を送り込み、人類を滅ぼすべく襲来した」

 

 おそらく何のために人類を滅ぼすのか、そこに理由はないのだろう。ただ何となく、やってみただけ、みたいな理由だろうか。理由なき暴力が人類を襲ったのだ。

 それでも、リヒトは「なんで」と呟くことを止めれなかった。

 

「『大いなる闇』の力は絶大だった。ビクトリーは聖獣と共に立ち向かったが、負けてしまった」

 

 目の前に広がる光景では、ビクトリーと聖獣が地に倒れ伏してしまっていた。すべての力を使い切ったのか、その瞳からも、クリスタルも、光が失われていた。

 

「人類は再び絶望に襲われた。信じていた『光』が敗れ、立ち向かう『光』がいなくなってしまった」

 

 少女は語る。

 

「でも、彼は光を信じた。自分の中に眠る『光』を」

 

 少女の言葉が続く中、一人の少年が映像の中を走っていた。

 

「え? 俺?」

 

 映像の中を走る少年の顔は、リヒトにそっくりだった。希に続いて、まさか自分にそっくりな人物が出てくるとは思っていなかった。唖然とするリヒトは、ただ映像を見ていることしかできなかった。

 少女の瞳は、少年を見つめていた。

 

「彼は『光』を信じ、『光』を取り戻した」

 

 少年は天へと光を掲げ、纏った。

 空へと伸びる光の柱。そこには、元の『光』の力を取り戻した『ウルトラマンティガ』が立っていた。

 

「ティガとなり、再び戦うことを決意した彼は、人類に希望の光となった。そして、その希望は広がるように『希望』を呼ぶ」

 

 突然、空に大きな穴が開くと二人の戦士が降り立った。ティガと同じく三色カラーの戦士、片方の戦士は頭部に二つの武器を備えている。

 二人の戦士は、地に倒れるビクトリーに光を与え蘇らせる。

 ビクトリーの復活を確認すると、二人の戦士も怪獣軍団に向け駆け出す。

 

「彼らの登場で形勢は逆転した。復活したビクトリーも加勢し、怪獣軍団を倒して行く。だが、そんな彼らの希望を再び奪うかのように、『大いなる闇』が本格的に降臨した」

 

 そこで少女は一呼吸置いて、告げた。

 

「──漆黒の魔人を従えて」

 

 空は厚い黒い雲に覆われ、雷鳴が鳴り響く。その光景だけで、これから降臨する『何か』が強大だということがわかる。映像だというのに、リヒトは自分の体に緊張が走るのを感じた。

 曇天の中から降臨したのは、巨大な翼、漆黒の体、鋭利な爪、獰猛な牙、大蛇のように唸る尻尾、黒光りする鱗、すべてが禍々し化け物。見ているだけで『恐怖』が襲い掛かってくる。

 そして、その隣に立つのは人型の巨人。全身が黒く、赤いラインが血管のように体中を巡っており、胸には赤いコアが埋め込まれている。表現するならまさしく悪魔と魔人。

 リヒトは自分の両腕が震えていることに気付いた。額には嫌な汗が浮かんでおり、実際に体験をしているわけでもないのに、映像越しに二体から感じる『威圧』が尋常ではなかった。

 リヒトの呼吸が荒くなる。悪魔と魔人は未だ空中に漂っているだけで、その地に足をつけてはいない。だが、魔人がその手をゆっくりと上げていく。その動作を見るだけで、リヒトはマズイと予感する。あの腕が降られれば、間違いなく破滅する。悪魔の口が開き、青白い光が集まり始める。

 そして、破滅の光が放たれる寸前で、映像が途切れる。

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

『……………………』

 

 映像は途切れた。それが意味することは何か。リヒトもギンガも、言葉を発することはなくただ沈黙を貫いていた。

 

「『大いなる闇』と『漆黒の魔人』の降臨により、人類は再び絶望の淵に立たされた。集いし光の戦士たちも、『大いなる闇』と『漆黒の魔人』に倒された。人類は再び『闇』に飲まれかけていた」

 

 少女は淡々と語る。リヒトもギンガも、少女の方を見るしかなかった。映像は途切れ、この先のことを知るには、少女の口から語られる言葉を聞くしかない。

 リヒトはその手に持つ古文書を開くのも忘れ、少女の言葉を待つ。

 

「このままでは人類が滅ぶのも時間の問題だった。ティガは最後の賭けに出た。禁断の力『ダークスパーク』を使うことを」

 

「ダーク、スパーク……」

 

『「すべての命の時を止める、禁断の力」と言われる伝説のアイテム。だがそれを使うには、「光」の力ではなく「闇」の力が必要となる。あの場にいるのはすべて「光の者」達。もし「光の者」がダークスパークの力を使えば、ただでは済まないはずだ』

 

「ダークスパークの力を使い、ティガは『大いなる闇』の力を怪獣達と共に小さな人形、『スパークドールズ』に封印した。これにより、『大いなる闇』の力は大きく削がれ、同時に『闇の力』も弱まった。そして、再び立ち上がった光の戦士達は『大いなる闇』との最終決戦に挑んだ」

 

「……戦いはどっちが勝ったんだ?」

 

 訊かずにはいられなかった。意思疎通ができないわかっていても、自然と問いかけてしまうリヒト。

 

 

「新たに次元を超え現れた『友情の戦士』と『最強最速の戦士』、そして、『イージスの力』が人類の諦めない心に反応し生み出した『絆の戦士』、闇の力が弱まったことで強まった光の力が、地球の意思となり『大地』と『海』の戦士を呼び覚まし、『大いなる闇』と『漆黒の魔人』を倒し、人類は救われた──ティガの犠牲と共に」

 

「──え?」

 

 少女の口から放たれた衝撃の一言。

『大いなる闇』に勝利したというのに、ティガが犠牲となったこととはどういうことか。

 

『やはり、ダークスパークの影響か』

 

 少女ではなくギンガがリヒトの問いに答えた。

 

『ティガは「光の戦士」、おそらく一度闇の戦士になったことでダークスパークの使用はできたのだろう。だが、いくら闇の戦士になったとはいえ、元は光の戦士。体が無事で済むはずがない』

 

「ティガはダークスパークの使用した反動と『大いなる闇』との戦いのダメージが深く、大地の戦士と海の戦士に人類の未来と『スパークドールズ』を託し、光となって消えた。その戦いの決戦の地となったのが、『音ノ木町』。そしてこの戦いが『ティガ伝説』の概要」

 

「音ノ木町で、そんなことがあったなんて……」

 

「そして、私がこの話をしているということは、新たな『闇』が襲来し、『光』を継ぐ者が現れたということ」

 

 少女が続いて発した言葉に、リヒトは顔を上げた。

 そうだ、確かに今この場にはウルトラマンギンガ()を受け取った人物がいる。そしてギンガは言っていた、『少女たちの背後に「邪悪な魔の手」が迫っている』と。

 

「『闇』の目的は間違いなく『大いなる闇』の復活」

 

「『大いなる闇』の復活って、そいつは倒されたんじゃないのか!」

 

「『大いなる闇』はまだ生きている。完全には倒されておらず、別位相の空間でその傷を癒している」

 

 リヒトは信じられなかった。あの映像で明らかに『大いなる闇』が出現した瞬間に場の空気が変わったのだ。抗えない絶対的な『闇』とでも言うか。ティガがその身を犠牲に、総勢九人もの光の戦士が挑み、倒したのではなく、深手を負わせるレベルにとどまった強敵。

 もしそんな奴が復活した場合、リヒトは戦えるのか? 勝てるのか? 

 ──答えは『no』だろう。勝てるとか、そもそも勝負になるのかも怪しい相手である。相手の一方的な殲滅になるのではないのか、とリヒトは考える。

 

「『闇』はすでに『大いなる闇』の力の源である『スパークドールズ』の大半を、大地と海の戦士から奪い去っている。残るは人間が抱える『心の闇』、そして『生け贄』。一度は失敗した奴らだが、おそらく、再びそのチャンスをうかがうことだろう」

 

『なるほど。それで高坂穂乃果が狙われたのだな』

 

「ちょっと、待てよ。穂乃果が狙われたのが『心の闇』を利用するためだってことは、あのまま放っておいたら……」

 

『おそらく、あのまま怪獣が高坂穂乃果を飲み込めば、「大いなる闇」復活の生け贄になっていたのだろう』

 

「──!」

 

 リヒトは戦慄した。もしあの戦いに負けていたら、穂乃果は『大いなる闇』の生け贄として殺されていたということになる。

 あの戦いは、ただ『高坂穂乃果』と言う少女の心の『夢』を守るための戦いだと思っていた。だがそこには、もっと大きな理由が隠されていた。それを考えるだけで、リヒトは己の体が大きく震えるのを感じた。

 

「奴らは、スパークドールズを解き放ち、人間の心の闇と共にその『闇』を、位相を伝い『大いなる闇』に送っていると思われる。幸い、私が奴らより先に『位相空間』を張っているため、それほど多くの『闇』が伝わることはない。だけど、もし奴らに『位相変異』の力があったとなれば、『大いなる闇』に伝わる『闇』は膨大となるだろう。そしてもし『大いなる闇』が復活したとなれば、この世界は確実に滅びる」

 

 少女は断言した。

 断言したうえで、リヒトを見る。

 

「光を継ぐ者よ、どうか世界を守ってほしい。『闇』に陰謀を阻止し、『大いなる闇』の復活を阻止してくれ」

 

 リヒトはすぐに答えれなかった。 

 世界を守る──、そんなアニメや漫画の世界でしかない言葉を、自分に向けて言われるなど思ってもいなかった。もしギンガとなってあの怪獣との戦いが無ければ、夢だ、なんだと言ってバカにしていたかもしれない。

 だが、今は違う。映像にて『大いなる闇』の恐ろしさを知り、自分が戦うことに『世界の命運』が本当にかかっている。そんなこと知って簡単に頷けるのか。今回はたまたま近くの少女が標的となったが、だがもしそれが赤の他人で、しかもアメリカなどの海外となったらどうだ? リヒトは守れるのか? その場に駆け付けた時、すでに時遅かったにならないか? 

 リヒトの中を様々な感情が巡る。戦うことへの不安、負けることへの不安、勝てるはずのない大きな存在への恐怖。もし自分が負ければ、少女たちの『夢』だけでなく『世界』が危機に瀕する。ここで戦うことを決意すれば、またあのような怪獣と戦うことになる。でもそれは、決して『負け』が許されない戦い。だがここで戦う決意をしなければ、少女たちの『未来』に危機が訪れる。

 少女たちの『夢』と世界の『運命』。それはあまりにも大きすぎた。

 思考の渦に溺れそうになるリヒトに、ギンガは静かに語り開けた。

 

『──大丈夫だ、リヒト』

 

「……ギンガ」

 

『君は、「世界の運命」なんて大きくとらえる必要はない。君はあくまで「少女達の夢」を守るために戦えばいい』

 

「でも」

 

『それに、彼女たちの未来に「邪悪な魔の手」が迫っているのも事実だ。おそらく、この「邪悪な魔の手」は「大いなる闇」復活を目論む存在と同じだ。ここ音ノ木町は決戦の地、ここでの位相変異が最も「大いなる闇」に「闇」の力を送れる場所なのだ。君が少女たちの『夢』を守ることは、必然的に「世界の未来」を守ることに繋がる』

 

「……」

 

『奴らは必ず再び少女たちの「夢」を思う「心」を利用するはずだ。君はそれでいいのか? 世界の命運以前に、少女たちの「夢」が奪われて』

 

 ギンガの言葉を受け、リヒトは目を見開く。

 そしてリヒトは──、

 

「……俺には、記憶が無い」

 

 リヒトはその手に持つギンガスパークを見る。

 

「アイツらと楽しく過ごした記憶も、自分が誰なのかも、自分の『夢』も」

 

 その手に、力が入り始める。

 

「世界の命運とか、そんな大きなものは考えられない。でも!」

 

 リヒトはその強い瞳で少女を見る。

 

「俺はギンガに、『一条リヒト』に誓った! アイツらの『夢』を守るって。だから俺は『夢』を守るために戦う。『夢』を笑うやつを、『夢』に向かって歩みだしたあいつ等の心を、そんなことに利用させはしない!!」

 

 リヒトは、その強い意思を少女に向ける。

 ()()()()()()を受け取った少女は、安心したように微笑む。

 

「君ならできるよ。一度奴らの野望を阻止したんだもん。君に、任せる」

 

「一度、阻止した? 俺が?」

 

「うん──、だって君は──―」

 

 少女の言葉は続かなかった。

 正確には、彼方に響いてきた雄叫びがあたりの音をかき消した。そして、少女はその叫びを聞くと、ギョッと目を見開き、明後日の方を見る。

 

「そんな……、位相が、変異している……? まさか──!?」

 

「おい、どうしたんだよ」

 

 突然少女の雰囲気が変わる。一人で何やらブツブツと言い始め、ぐるりとリヒトの方を見る。

 

「今からきみを、直接位相移動させる。どうやら、もう奴らが動いていたみたいだ」

 

「な、ちょっと、待てって」

 

 リヒトに説明する気はないのか、少女は右手をリヒトに向けると、その眩い輝きがリヒトを包みわずかな浮遊感がリヒトを襲う。

 

「おわあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 叫び声をあげその場から消えていくリヒト。

 パサリ、とリヒトの持っていた古文書がその場に落ちる。

 少女は、リヒトのいた場所を見ながら言う。

 

「頼んだよ、早くしないと、あの子たちが危ない」

 

 緊迫した声で少女は願った。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 ──音ノ木坂学院。

 無事に新入生歓迎会も終わり、中庭ではすでに数多の部活が一年生を誘っていた。

 現状、廃校の域にある音ノ木坂学院は三年生が三クラス、二年生がニクラス、そして今年入学した一年生は一クラスと非常に少ない。その為、各部活は後輩確保に全力を注いでいる。

 その中で、高坂穂乃果も声を張りビラを配っていた。

 この後はいよいよ本番だ、今までやって来た練習のすべてが試される。それを多くの人に伝えるためにも、準備時間までこうして他の生徒に声をかける。

 

「穂乃果、そろそろ時間ですよ」

 

「わかったー!」

 

 海未に呼ばれ、穂乃果は講堂へと向かう。その片隅に更衣室を用意してもらい、穂乃果達はそこでことりが作った衣装へと着替える。

 衣装へと着替えながら、穂乃果は深呼吸をする。

 

(大丈夫、『不安』はもうない。落ち着いて、全力を出すだけ)

 

 数日前、とある事件に巻き込まれ、自分が少し落ち込んだせいで周囲から心配されたことを思い出す。

 リヒトに励まされた翌日、復活したテンションで学校へ向かうとみんなして穂乃果の心配に来た。みんなして『何があったの?』『お腹壊した?』『変なもの食べた?』『勉強のやりすぎ?』などの質問を受け、周りに心配させたことを謝った。

 そして、一番自分を心配してくれたであろう幼馴染二人に心配をかけてごめんと言い、再びライブに向けての意気込みを語った。

 その後は一人で西木野真姫のもとに向かい、自分の心を素直に打ち明け、作曲をお願いした。後日届いた曲はそれはもう素晴らしかった。リヒトも、目を輝かせていたのを今でも思い出す。

 曲が完成すれば、あとは練習のみだ。基礎体力作りに加え、ダンスのステップも覚えていく。歌に関してはリヒトの父・一条一輝のアドバイスもあり、日に日に上達していった。問題のダンスの方も、リヒトとたまにリヒトの母・一条美鈴のアドバイスもあり問題なくこなしていった。ただ、今でもダンス練習時になったリヒトの鋭い視線を思い出すだけで、足が震えるのは内緒だ。プロを目指していただけあって、おそらく知らず知らずのうちに厳しく見ているのだろう。

 思い返すだけで、いろんなことがあった。自分はこんなにも多くの人に支えてもらったんだという気持ちが、穂乃果の心に火をつける。

 シャー、とカーテンを引き、先に着替えていたことりと合流。後は海未の着替えを待つのみ。

 

「いよいよだね、穂乃果ちゃん」

 

「そうだね。頑張ろうね」

 

「うん」

 

「まったく、一時はどうなるかと思いましたよ」

 

 カーテン越しに海未の声が聞こえた。おそらく、一時的に落ち込んだ穂乃果のことを言ってるのだろう。

 

「あはは、ごめんね」

 

「別に気にしていませんよ。こうやって間に合ったのですから」

 

 着替え終わったのか、カーテンを引き姿を現す海未。

 そして穂乃果とことりの前に姿を現し──堂々と言う。

 

「あとは、全力で楽しみましょう」

 

 ──―ジャージのズボンを穿いて。

 

「「…………」」

 

「……なんですか? その目は」

 

「「海未ちゃん……」」

 

 穂乃果とことりは、半ば呆れるしかなかった。

 元々ことりの考えた衣装のイラストを見た時点で、海未はスカートの丈が短いことをすごく気にしていた。幼少期よりマシになったとはいえ、元々海未は極度の恥ずかしがり屋である。今回の衣装も『最低でも膝下でなければ穿きません!』と言うほどに。

 だが、出来上がった衣装はもちろん膝上。学校の制服のスカートと同じくらいだ。それを見た海未は『自分だけ制服で踊ります!』と衣装を着ることを拒否。リヒトに制服のスカートと何が違うんだよと指摘された際は、曰く『学校のスカートは衣装とは別物』らしい。それを聞いたリヒトの、何とも言えない表情は今でも忘れられない。

 そして、海未は本番であるこの日に最後の抵抗として、衣装の下にジャージのズボンを穿くことで逃れようとしてるのだ。

 

「何その往生際の悪さ!」

 

「いや、これは、その……」

 

 穂乃果に指摘され、口ごもる海未。昨日のリヒトのおかげで、ライブへの緊張はほぐれたとはいえ、衣装への恥ずかしさは拭いされていないようだ。

 穂乃果はじれったくなったのか海未のジャージに手を掛けると、勢いよく下へと下した。

 

「──ひゃっ!?」

 

 慌ててスカートの端を抑える海未。

 

「隠してどうするの? スカート穿いてるのに」

 

「で、ですが……」

 

「海未ちゃん、可愛いよ」

 

 ことりの感想に「え?」と言う海未。

 穂乃果に手を引かれ、出入り口近くにある大きな鏡の前に移動させられる。その大きな鏡には、ことりの作った青い衣装を着た自分が映っていた。

 

「海未ちゃん、一番似合ってるんじゃない」

 

 穂乃果に言われ、改めて自分の姿を見る。青いノースリーブの衣装、幼い頃から海未のイメージカラーとしてよく青色のものが周りに多くあった。今回の衣装も、自分の好きな色である青色。『海』のような青い衣装は自分で見ても似合っているという感想が素直に出てきた。

 

「どう? こうして並んで立っちゃえば、恥ずかしくないでしょ?」

 

 そういって穂乃果は海未の隣に立つ。その隣にはことり。ただそれだけで、海未の中の恥ずかしさが和らいでいく。

 そうだ、リヒトが言っていたではないか。恥ずかしい時こそ大胆に動いてみろ、と。自分の周りには仲間がいる。一緒にいてくれる幼馴染がいる。

 ──すでに海未の中に緊張や恥ずかしさはなくなっていた。

 

「さ、最後にもう一度確認しよう」

 

 本番まであと数十分、ダンスのステップを確認するには十分な時間だ。三人は互いのダンスの邪魔にならないように距離をとる。

 そして、いざ最終確認をしようとしたところで、コンコンと部屋がノックされる。

 

「誰だろ?」

 

 ことりが言う。

 

「ヒデコたちかな?」

 

 ヒデコ、フミコ、ミカの三人は今回のファーストライブにて音響や照明などの手伝いをやってくれている。そのことでこちらとの連携を確認するために、こちらに来たのだろうか? 穂乃果はおそらく訪れたであろう三人を迎えるため、ドアノブに手を掛ける。

 そして──―。

 

 

 

 ──悪夢の時が、少女達を襲った。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 新入生歓迎会を無事に終え、進行係を務めた生徒会副会長である東條希は、反省会も終え荷物をまとめていた。

 希がるのは生徒会室。すでに他のメンバーは退室しており、今この部屋にいるのは自分と生徒会長のみ。

 希は親友である生徒会長を見る。窓の外を見つめている親友、思っていることはおそらくただ一つ。

 

(まったく、素直やないなぁ)

 

 不器用で、心の底では応援したいのに、自分の心を縛る『鎖』が本心を隠してしまっている。そんな不器用な親友に、声を掛けようとしたところで、

 

「──っっ!?」

 

 ──ゾワリ、と嫌な感覚が全身を巡った。

 

「? どうしたの、希?」

 

 希の異変に気が付いたのか、親友はこちらに振り替える。だが、希は親友の声に答える気配はなく、一人虚空を見つめていた。

 

「そんな、……まさかっ!?」

 

 希は、カバンを手に取るのも忘れて生徒会室を飛び出した。

 

「希っ!?」

 

 親友が突然部屋を飛び出していたことに驚きの声を上げる生徒会長。

 希はそんなことを気にせず、一人走り続ける。向かう先は三人の少女たちがファーストライブをする講堂。

 希は右手で制服のリボンを握る、正確にはその下にある『勾玉』を。普段は何も感じない勾玉は、小さく震えていた。

 流れる光景の中では後輩を必死に勧誘する部活の生徒達の姿が見えるが、講堂に行くにつれ、その()()()()()()()()()()()

 希は講堂のある建物に入ると、『勾玉』が感じる鼓動を頼りに辺りを見回す。おそらく準備をしている部屋だろうか? とにかく今は穂乃果たちのみが心配だった。もしこの鼓動が確かなのなら、おそらく今頃──。

 

 

「やっぱり来たんだね」

 

 

 突如、希の耳に滑り込むように男の声が聞こえた。

 バッ! と希は勢いよく声の聞こえた方へと振り返る。そこに立っていたのは、黒いローブに身を包んだ男。フードを深くかぶっているため、その素顔を確認することはできないが、男から感じる異様な気配が、希の警戒心を高める。

 

「誰?」

 

「そう睨まないでよ。まぁ、無理もないか。なにせ君の『光』を殺した存在だしね」

 

 ローブ姿の男は飄々の語る。

 希は男を睨み返し威嚇する。

 

「……」

 

「あれ反応なし? つまらないなぁ〜、せっかく会いに来てあげたのに。ねぇ、()()()?」

 

「っっ!?」

 

 男が自分の名を読んだ瞬間、恐ろしいほどの寒気が希を襲った。瞳は大きく開かれ、呼吸が苦しくなる。男から感じる威圧(プレッシャー)が先ほど以上に大きく感じる。胸が苦しくなり、()()()()()()がこの男に恐怖しているのを感じた。

 

「ぁ、ぁ、ぅ」

 

 呼吸がうまくできない、足は震え、この場から走り去りたいのに、地面に縫い付けられたかのように動かない。

 男から感じる圧倒的な恐怖に、希は両手を胸の前で強く握り、耐えるしかなかった。

 

「あれ、少しやり過ぎちゃったかな? でも、感動の再会だし、仕方ないよね」

 

 男はゆっくりと希に近づく。男との距離が縮まるにつれ、希が感じる恐怖が大きくなる。距離をとろうと一歩足を引こうとするも、足は動く気配を見せない。

 男との距離が徐々に縮まっていく。そして、男の手が希の頭へと伸びたところで、

 

「……来ないで」

 

『希』が声を発した。

 

「へぇ」

 

 男は感心したかのような声を出し、自分を睨みつける『希』を見る。

 

「たとえ、君が何をしようと『光』は負けない。()()()()()()()()()()必ず守ってくれる」

 

『希』は男を見上げて言う。未だに体は恐怖で震えているものの、その瞳には強い意思が込められており、恐怖に屈しないという姿勢が見て取れた。

 そんな『希』の姿を見た男は、伸ばしていた腕を引き戻し、フードの下で薄く笑う。

 

「まぁ、今回は挨拶に来ただけだし。それに、この姿で君に触れるのもなんか嫌だから今日はやめとくよ。でも──」

 

 男はパチン、と指を鳴らす。

 瞬間、周囲の光景が歪みはじめ、希は激しいめまいに襲われる。立っていることが困難となり、次第に意識が薄れていく。

 自分が今立っているのか、それとも寝ているのか、平衡感覚を失われ、意識が途絶える寸前、男の声が聞こえた。

 

「君の信じる『光』は、この戦いに勝てるかな?」

 




勘のいい人なら『ティガ伝説』に出てきた戦士と怪獣が誰なのかわかるかもしれませんね(笑)。
それでは後半完成まで今しばらくお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。