2話同時更新をしています。
こちらは後半パートです。
[02]
ひとまず、今の状況を整理することはできた。敵がどういった存在なのかも、この町に起きてることも、自分たちが置かれた状況も、飲み込むことはできないが整理はできた。
しかし、整理をしたところで解決策は何もなかった。
そもそもダークザギは絶対に敵わない相手なのだ。そんな相手に仮に戦えるとしても、今の手にあるのはリヒトから託されたウルトラマンティガのスパークドールズのみ。怪獣のスパークドールズは、全て敵の手に渡ってしまった。
ティガの力だけで勝てるわけがない。
「……どうすればいいんですか」
海未はポツリと言った。
無理もない。いくら考えても、脳裏に焼きついたダークザギの強さが全てを塗りつぶす。勝てる光景が想像できなかった。
そんな中、古文書を手にしていた絵里がハッとした様子で言う。
「この古文書に記されている『ダークスパーク』は今どこにあるんですか? 古文書ではこれを使って、ダークザギの力をスパークドールズにしたんですよね? それなら、今回も同じ方法をとれば」
「不明なのじゃ」
しかし、奉次郎はすぐに言葉を返した。
「え?」
「ダークスパークは『ティガ伝説』の時代に登場したのみで、その後の行方は全く分かっとらん。記録には残っておるが、その時に消滅したのか。それとも、今もどこかに存在しているのか。何もわからないのじゃ」
「そんな……」
「それにダークスパークは『禁断の力』とあるじゃろ。『ティガ伝説』でも使用したティガが最後には消えてしまったとある。人間が使用できるのか、使用した場合どうなるのか……ティガのスパークドールズも、それが本当にウルトラマンティガなのか、ティガの力を形にしたスパークドールズなのかわからんことじゃしな」
一瞬だけ見えた希望はあっという間に消え去ってしまった。
いよいよ手がない。
希望は潰えた──に見えた。
「──!」
「エリチ?」
絵里がふと顔を上げたのだ。何かに反応をするかのように。
「今……何か、声が……」
と、絵里が言ったとき、希と奉次郎が同時に表情を強張らせた。
ただ一人、何も感じ取れていない海未だけが困惑している。
「よもや、この事態で……!」
「ウチが行きます。奉次郎さんは二人をお願いします」
希がギンガライトスパークとティガのスパークドールズを手に飛び出そうとする。
奉次郎は首を縦に振り、
「気をつけるのじゃぞ」
と言った。
絵里と海未は二人の様子から、怪獣が出現したのだと理解した。
普段であればリヒトが対応に行くのだが、リヒトがいない以上希が行くしかないのだ。リヒトから託されたティガのスパークドールズを手に迎撃に向かう。
外へ飛び出した希は、内なるもう一つの魂『のんちゃん』へ語りかける。
(りっくんを無力化したから、一気に攻めてくるってこと?)
(わからない。けれど、この気配……間違いなく来る)
(案内をお願い)
幸い、小雨に変わっている。
のんちゃんの案内の元、小雨の中を走る希。
気配を感じた方角へ走っていくと、雨は止んでいた。
代わりに、大きく開いた穴から金属片が降り注いでいる。
あまりに現実離れした光景に足が止まる。
すると、
「希!」
「エリチ!?」
後ろから絵里の声が聞こえ、希は驚きの声をあげる。
予想外の人物が自分の後を追いかけてきている。
「なんできたん!? 危険や! もう理解してるやろ! これから起きること」
「ええ、分かってるわ。けれど、私を呼ぶ声が──」
そこで、絵里の声が止まった。
驚きで目を見開いている。その先は希の背後。振り返れば、空から降り注いでいた金属片が1箇所に集まり、怪獣の姿を成す。
少しだけ、ロボットのような雰囲気を感じるその怪獣はしばらくそこに佇んでいる。
その怪獣の名前は『Σズイグル』。中心に目と見て取れる赤い丸がある。それがこちらをしっかりと捉えていた。
「エリチは逃げるんや。ここはウチが──」
その瞬間、Σズイグルの胸部にあったシャッターが開く。
放たれる光弾が希へと向かう。
「──!?」
回避なんて間に合うはずがない。
七十五メートル級の相手から放たれる光弾。
それは確かに、希を捉えるのだった。
☆★☆★☆★
Σズイグルの攻撃は、果たして希の命を奪うことはなかった。
放たれた光弾は希を直撃したものの、命を奪うのではなくその両手に張り付くだけにとどまった。
「?」
希も自分が想像した結果と異なる現象に困惑する。
「希!! 大丈夫!!」
絵里が血相を変えて希の詰め寄る。
その表情は不安一色。リヒトに続いて希まで失いかけた恐怖。その両手が震えている。
「大丈夫や。それより、ウチは今から行かんといけないから」
そう言って、ギンガライトスパークとティガのスパークドールズを構える。
希は絵里を安心させようと微笑む。絵里も分かってはいる。リヒトがいない以上、出現した怪獣を倒すためには誰かが戦わなくてはいけないということを。そして、その力を希が持っているということも。
「──っ」
絵里は苦渋の決断の末、希の方から手を離した。
「──帰ってきてね」
「安心せや。ウチもそれなりに戦えるんやから」
希は視線をΣズイグルへと向ける。
戦うためにアイテムを構え──しかしそれがリードされることはなかった。
「──え」
バチンッ! と稲妻が走った。
希の両手の甲。そこに見たことものない金属片が張り付いていた。
「なんや……これ」
困惑する希をよそに、手の甲の金属片は突然起動を始める。まるでそれらに引っ張られるように両腕が引っ張られる。水平に伸ばされる腕。何が起きているのか、と考えるより先に──
「エリチ!! 今すぐうちから──」
絵里への警告。しかしそれが最後まで届くことはなかった。
ガシャンと、希の言葉を遮るように機械的な音が響く。
金属的なナニか──箱と言い表せられるものが希の体を覆っている。
十字架の箱。
まるで棺のようだと、絵里は思った。
「……のぞ、み……?」
目の前で起きたことが理解できない。処理が追いつかない。
希が棺のようなものに捕えられた──そう理解した時は、すでにその棺がΣズイグルの胸部と考えられる位置に吸い寄せられていた。
ドクンと、絵里の心臓が大きく跳ねた。
「……あ」
Σズイグルの胸部へと固定される棺。そして己の役目を果たしたのか、垂直立ちのような姿勢になると、ゆっくりと上昇を始める。
その行き先にはこちらに出現した時に通ってきた穴──『ワームホール』がある。
元いた場所へ帰るつもりだ──希を連れて。
「──ッ!!」
息を呑み、戦慄し、絶望に染まりながらも絵里は走り出した。
咄嗟に体が動いただけ。それに意味はない。ちっぽけな人間の無意味な抵抗。
否、抵抗とも呼べない愚かな行動だ。どう足掻いても、絢瀬絵里はΣズイグルを止められない。人間である絢瀬絵里はどう足掻いたって、70メートル以上の巨大ロボを止められるはずがないのだ。
それは考えるまでもない当然の事。
だが、絵里の体は動いた。
湧き上がる感情に体が突き動かされる。
「──っ!」
悔しい。
悔しい。
自然と涙がこぼれ落ちる。
(──嫌)
ギリっと歯が音を鳴らす。
絵里がどれだけ走っても、嫌だと思っても、Σズイグルは止まらない。
(嫌!!)
大好きな人に続いて、親友まで奪われようとしている。
どうにかしたい。
なんとかしたい。
助けたい。
止めたい。
感情は内から溢れ出してくるのに、手段がない。無力な人間にできることはない。
力の限り叫ぼうと。
どれだけ願っても。
足掻こうとしても。
Σズグイルは無情に進んでいく。
何かにつまづいて転んでしまった。アスファルトの上を転がる。
痛みが走る。表情を歪めながらも、顔を上げ、Σズイグルを睨む。
睨んだところで止まらない。
何も術がない。
「嫌ああああああああ!!」
悔しさのあまり、喉が裂けるほどに叫ぶ。
そして。
──絵里の時間が止まった。
否。比喩ではない。
彼女の周りの時間が停止している。
困惑する絵里をよそに、己の胸に熱を感じる。
熱の発生源は『青き輝石』。いつも首から下げている、お守りのようなもの。それが今、熱を持って青く輝いている。
海のような深い青。
絵里の意識はその輝きに引き寄せられる。
『──聞こえるか』
「……え?」
頭の中に声が聞こえてくる。
それは先ほどから聞こえていた、自分を呼ぶ声に似ている。
いや、ずっと呼ばれていたのだ。この輝石に。
青い輝石の輝きが増していく。
『聞こえるなら返事をしろ。お前たち人間の言葉で聞こえているはずだ』
「き、聞こえているわよ!」
やや乱暴な口調。
なんだ、と困惑する襟をよそに声は続く。
『手短に聞く。力が欲しいか?』
ドクン、と絵里の心臓が鼓動を打った。
この声はいま、なんと言った?
『力が欲しいかと訊いている』
チカラ。
遅れてその言葉を認識する。
チカラ──力ということか?
それはどんな力だ?
『どんな力なのかなのかは、お前次第だ」
絵里の心の内を読んだかのような返答。
『お前の願い次第で、この力は変わる。破壊する力。復讐する力。もしくは──守る力。共に戦う力。お前次第でこの力は変わる。千差万別。その意味はお前が決めろ』
「────」
突然の声に困惑しつつ、しかし絵里は考える。
──私の願い次第で、意味が変わる力。
「その力で、希を助けられる? リヒト君を助けられる?」
『さあな。言っているだろ。お前次第だと』
「なら。私に力を頂戴! 希を、リヒト君を助けるために!!」
『そうか。なら──合わせろ』
その返答の意味を聞き返す前に、絵里の視界を光が覆う。
やがて光が落ち着くと、絵里は海の中にいた。
正確には海のような空間。海そのものではなく、海をイメージした青い空間と言えるだろう。深い青色をした不思議な空間だ。以前、リヒトと共にウルトラマンギンガとなった時があったが、その空間とは違う。しかし、どこか似た雰囲気を感じる。
そんな絵里の目の前に、青いウルトラマンがいた。
「青い、ウルトラマン……?」
『アグルだ。人間にはそう呼ばれていた』
「アグル……」
その名は先ほど読んだ『ティガ伝説』に記されていた。
地球が生んだ光。海の力を元に地球の守護神として『大いなる闇』と戦った巨人。
その名がアグルであった。
絵里とアグルの間に、絵里が首から下げていた『青き輝石』が浮いている。
『掴め』
ただ一言、アグルが言う。
絵里は頷き、手を伸ばす。
光が絵里を包み込み、そしてアグルと一体化する。
☆★☆★☆★
自分がどう言った状態なのか。
それを理解するのには、さほど時間はかからなかった。
最初にΣズイグルから受けた光弾。あれが原因だ。手の甲に打ち込まれた金属片。それによって、まるで十字架の磔のように囚われてしまった。
このまま自分はどこかに連れ去られる。
「ウチ……どうなるんやろ……」
(ごめん。狙いは私。希は巻き込まれただけ)
「…………」
(本当にごめんね……)
のんちゃんから謝罪の言葉が何度も告げられる。
敵の狙いはのんちゃんなのだろう。希の体にあるもう一つの魂。だから希は巻き込まれただけ。しかし、こうして連れ去られることには恐怖がある。
「──!」
ふと、希の視界に青い光がこちらに向かって登ってくるのが見えた。
「……ねえ、あれ」
(……嘘。どうして……なんで……)
のんちゃんも驚きが隠せていない。
光はやがて巨人の姿となる。
その名を希も知っている。
今の時代に合わせて言うのであれば『ウルトラマンアグル』。
海力を持つ守護神が、いま復活したのだ。
[03]
もし、『ティガ伝説』の時のアグルを見たことがある者がいれば、その姿が異なっていることに疑問を抱くだろう。
当時は群青色とも言える深い青色をした体に、縁がシルバー色をした黒いラインが走る姿だった。しかし今は体色の青がより鮮やかな色に変わり、胸元の黒いラインの縁は金色となり、体には縁のないシルバーのラインが走っている。
その変化の理由を知るのは、アグル本人のみだ。
元々、アグル自身の力は『とある理由』からとても弱まっていた。巨人の姿となるなどできるわけなく、戦うことすらできない。輝石の姿となり、力の回復を待つばかりであった。それ故、カオスワロガに囚われる絵里を守ることもできず、生け贄になる時間を稼ぐ程度のことしかできなかった。
そんなアグルがこうして巨人としての力を取り戻せたのは、一条リヒトによるものだ。嘗て絢瀬絵里がカオスワロガとなり『大いなる闇』の生け贄にされかけた際、一条リヒトがギンガスパークを使った際、偶然絵里の首にかかっていた『青き輝石』に突き刺さったのだ。そこからウルトラマンギンガが持つ膨大な光のエネルギーが投げれ込み、力を取り戻すだけでなく
まさにその姿はウルトラマンアグルV2と言える。
以前に比べて、途方もない力をその身に宿するアグル。
アグルはその力を発揮し、上昇していたΣズイグルに迫って行った。
追いつくことは容易だった。しがみ付き、その軌道を下へと向ける。
だがこのままでは捕えられている希の身が危険に晒される。アグルは落下した際の衝撃を全て自分で受けるために、体の位置を変えた。
自分を下にし、落下。
地を転がり、可能な限り衝撃を緩和していく。
転がる勢いが収まらず、その手が離れてしまう。Σズイグルはさらに転がっていき、やがて止まった。
アグルは立ち上がる。両者の距離は開いてしまっている。
絵里の意思を汲み、優先事項としてまずは希の救出がある。
──さて、どうやって助けたものか。
その方法を考えようとして、しかし先にΣズイグルが動く。再び上昇を始めようとしたのだ。すぐに看破したアグルは走り出す。おそらく、両肩にあるパーツが飛行能力を有しているのだろう。このまま掴みかかっても、飛行能力がある限り向こうは『逃げる』という手段をとり続けるだろう。
──ならば、と走り出した勢いをそのままに右足を振り上げた。狙いは正面から見て左側のパーツ。アグルの右足は正確に左にあるパーツを蹴り飛ばした。火花をあげ、破壊される肩パーツ。
──これで飛行能力を失ったと願いたい。
その願いは正しかった。明らかに大きなダメージを受けた様子で、グラグラと体を揺らすΣズイグル。距離を取るが、飛行手段に出る様子はない。
──好機はここ。アグルは続いて己の右手に光を集約し、細長い刀身を作り出す。
その刀の名は『アグルセイバー』。かつて『アグルブレード』という名の光剣だったが、ギンガの力を受けたことで強化されたのだ。
アグルセイバーを構え、囚われた希を見つめる。
希はアグルが何をしようとしているのか理解したのか、それともただ単に目を瞑っただけなのか。
一呼吸の間の一閃。
アグルセイバーの切先がΣズイグルの胸元に突き刺さり、希を捕らえた十字架の棺の下に刺さる。引き抜けば、刀身の先に棺が乗っている。
曲芸じみた方法で、希を救出。
安全圏へ切先を突き刺し、棺をおろす。
──これで、もう容赦無く倒せる。
アグルセイバーを納め、Σズイグルを見れば戦闘不能と言える状態に近い挙動をしている。元々拉致を目的に送り込まれたため、戦闘能力は有していないのだろう。
アグルは己の光を腕を使い収縮させていく。胸元に収縮されていくエネルギーは球体となり、放たれる。
必殺の『フォトンスクリュー』。
球体は一直線に進み、Σズイグルの胴体を撃ち抜いた。
アグルはそれを見届けると、ゆっくりと振り返りその場を去り始める。
たった一撃で勝負は着いたのだ。
[04]
背後で起こる爆発を見送り、ウルトラマンアグルは静かに立ち去った。
静かに、しかしはっきりと、ウルトラマンアグルの勝利が紛れもない事実として告げられる。己の勝利を喜びもせず、ただ事実として受け止め歩くその姿は、東條希に強烈な印象を与えた。
やがて、アグルは希の近くまでやってくると、その姿を人間サイズにする。先ほどまで巨人だったアグルが180センチほどの大きさになっているギャップに面を食らっていると、アグルは極力威力を弱めた『アグルスラッシュ』を放ち、希を捕らえている棺を破壊する。
一部が壊れれば、希の力だけでも脱出することができた。手の甲を見れば、そこにあった銀色のチップのようなものは無くなっている。
アグルは希の無事を確認すると、その体が光に包まれ始める。
眩しさに目を細めると、次第に光は絢瀬絵里の姿を作り出す。
その姿がはっきりすると、
「……エリチ」
希は静かに親友の名前を呼んだ。
絵里は驚いた様子で、何度か瞬きをする。
「……私、今……ウルトラマンに……」
自分の両手を見つめて、それが先ほどまでは光の巨人の腕であり、今は人間の腕になっていることに自分でも信じられないといった様子だった。
先ほどまで自分がウルトラマンアグルに変身し、怪獣と戦っていた。そんな事実をすぐに受け入れられるはずはない。
しかし事実として、絵里はウルトラマンアグルとなり怪獣と戦った。親友を守るために。二度と目の前で大切な人を失わないために。
その証拠として、絵里の右腕には海の守護神の光を宿すアイテムがあった。
それに目を止めた絵里は、やがて力強い意志を瞳に宿しこちらを見る。
「希」
その声はとてもはっきりとしていた。怯えも、恐怖もない。あるのは確かな覚悟のみ。
希の予想通り、絵里ははっきりとその言葉を告げた。
「助けましょう。リヒトくんを」
第17話:立ち上がる勇気 ─完─
・あとがき
以上第17話でした。
絵里がアグルに変身するのは、この物語を書くことを決めた初めの構想からあったものです。ようやく書けました。
『海』繋がりで海未じゃないのかと思うかもしれませんが、それはもう一つの種明かしをした時に説明できればなと思います。
次回は第二部ラストのエピソード。
逆転目指して頑張ります。
・次回「絶望を撃て」