『そこの人間。お前は、あのダークザギを相手にその生身のまま立ち向かう勇気はあるか? もちろん死ぬ可能性はあるぞ』
アグルは告げた。
海未を示しながら。
「──どういうことアグル!?」
脳に響いた声を聞き、一拍遅れて絵里はアグルに問い返す。
『まずは俺の言葉をこの人間に伝えろ』
話はそれからだ、と言わんばかりの勝手さ。
仕方なく、絵里は先ほどの言葉を海未に伝えた。
もちろん、驚くしかないだろう。
アグルは改めて説明を始める。
『この人間が持っている輝石が逆転の可能性を秘めた鍵だ。その輝石は紛れもない“イージスの力”が宿っているもの。“イージスの破片”といえばわかりやすいか』
「イージスの破片……」と絵里が言う。
「イージス……そこ言葉、どこかで見たような」
「“ウルトラマンノア”が地球に残していった力のことやね。ティガ伝説の最初に描かれとるよ」
希に促され、海未は古文書のページをめくる。
“イージスの力”とは有史以前、ウルトラマンノアが地球に残した力とされている。現在は神田明神の地下に眠っており、神田明神にて働く者はその管理を任されることになっている。
その一文を見た海未が驚いて奉次郎を見る。
「うむ。わしはその仕事をしとる。そして海未ちゃんが持つソレには確かに“イージスの力”の一部が切り離されたもの。とは言っても、“イージスの力”程の効力はないがの。できることは限られとる。例を挙げるとすれば、矢を放つことくらいじゃろ」
「そういえば海未ちゃん、前にそれを使って矢を放っとったね」
希が言っているのは、海未たちがファーストライブをする日のこと。ダークガルベロスの襲撃に巻き込まれた際に、ウルトラマンギンガを援護するために海未が“イージスの破片”を使って矢を放ったことだ。ちょうど希もその場にいたため、海未が矢を放ったことを知っていたのだ。
『“イージスの破片”には微量ながらも“イージスの力”──つまり“ウルトラマンノア”の力が宿っている。それをザギに向かって打ち出せば、勝機を見出せる。ザギにとって、ノアの力は劇薬と言っていいからな』
「あの時のように、矢を放て──ということでしょうか」
海未の問いにアグルは「そうだ」と返す。
『“ギンガライトスパーク”もあればいいんだが……東條希。ギンガライトスパークは今いくつある?』
「ギンガライトスパーク?」と絵里が疑問の声を出すと、
「これのことやね」
と、希が懐から取り出した。それは形こそギンガスパークと一緒だが外観が違う。綺麗な水色をした透明なギンガスパーク──それが“ギンガライトスパーク”というもの。
「アグルが、それはいくつあるのか聞いているわ」
「にこっちから借りてきたものと、花陽ちゃんを助けた時に回収したものの合計で二つ」
『二つ……運が良かったな。これには素直に感謝だ』
アグルの言葉に絵里は「え?」と声を漏らす。
しかし、アグルは無視して続ける。
『ギンガライトスパーク……詳しくはわからないが、そいつも光を宿したアイテム。以前俺の力をそいつに注ぎ込み、ギンガの援護をしたことがある。それと同じことをするんだ』
アグルの言葉を聞いて、絵里はその時のことを思い出す。
オープンキャンパス前日のメザードの件──その時の戦い、クイーンメザード戦において、戦いの場が闇の位相空間であることなどの影響でギンガは苦戦を強いられた。その時、ピンチに陥ったギンガを援護するべく、絵里は謎の声の指示に従いギンガライトスパークをウルトラマンギンガに向けて投げた覚えがある。
ギンガライトスパークの援護を受けたギンガは、無事にクイーンメザードを倒すことができたのだ。
(あの時聞こえてきた声があったけど、アグルの声だったのね)
『ギンガライトスパークを“イージスの破片”でダークザギに打ち込む。ギンガライトスパークにも光が宿っているからな。わずかだが与えるダメージの上乗せを期待してもいいはずだ』
クインメザード戦では援護として使った方法を、逆にダメージを与える方法として使う。それがアグルの言う僅かな勝機を生み出す策だというのだ。
『もちろんリスクはある。一つ目は園田海未が矢を放つ以上、生身で戦場にいてもらうことだ。ダークザギを前に正気でいられるか、五体満足でいられるか、だから聞いたんだ。勇気はあるか、とな』
「……海未にギリギリまでティガに変身してもらうわけにはいかないの?」
『それは無理だ。園田海未が矢を放つ場合、ザギを抑える必要がある。そのためには東條希にティガにライブしてもらい、お前は俺に変身してもらう。だから、二つ目のリスクというのは、俺に変身するお前の体が保つかだ。ザギと戦うからな。お前の覚悟も必要になってくる』
「…………」
『お前が変身した俺と、ティガにライブした東條希でザギを抑える。その間になんとか園田海未が矢を放ち、ダークザギを弱体化させる。それが策だ。矢は死ぬ気で当てろ』
「…………」
策を聞き終えた全員は沈黙した。
なんともリスクの大きな──いや、無謀すぎる策だ。成功する可能性が限りなく低く、失敗すれば全員が死ぬ。そしてこっちの可能性の方が高い。
「海未ちゃんの代わりにわしが行くことはできんのか」
『“イージスの破片”は使用者に園田海未を選んでいる。榊奉次郎を使用者として選んでいない以上、園田海未がやるしかないな。そもそも、榊奉次郎には別のことを頼む予定だ。戦いの場に行くのは、榊奉次郎以外しかいない』
「…………」
アグルの返答を伝えると、奉次郎は目を閉じた。
再びの静寂。
『加えて言っておくと、“イージスの破片”の光を使ってガイアを復活させるよりも、ダークザギに射った方が勝率は僅かだが高い。一条リヒトを助けたい、もしくはこのまま破滅するのが嫌で足掻きたければ、選択肢は他にない』
「……勝てるの?」
『さあな。そもそも復活させてはいけない相手だ。わずかな勝機を見出しただけでも褒めて欲しいものだ』
その言葉は絵里の脳内にとどめた。
だが、アグルの言う通りなのだろう。ダークザギは『ティガ伝説』においても圧倒的存在として記されている。敗北寸前まで追い込まれ、
ウルトラマンギンガが手も足も出なかった光景がフラッシュバックする。
何もできていなかった。反撃も、体制を立て直すことも。完膚なきまでに倒された。
そんな相手に自分たちだけで挑まなくてはいけない。
リヒトを助けるためには、倒さなくてはいけない。
策は海未が持つイージスの破片のみ。
絶望的。
しかし。
「……可能性はゼロじゃないのよね」
『ゼロに近いけどな』
「でも、ゼロじゃない……」
絵里は海未を見る。
「私はリヒトくんを助けたい」
絵里の思いは変わらない。
可能性がゼロじゃないなら、絵里は諦めたくない。
諦めることの辛さを知ってしまったから。
夢を。
約束を。
自分自身を。
全てを諦めて、彼の隣に立つことを諦めた。
彼と共に夢に向かうことを諦めた。
諦めたのと同時に彼を裏切ってしまった。その罰として、本当の気持ちを押し殺して生きてきた。
だから、もう二度と諦めたくない。わずかにでも可能性があるなら、最後まで足掻いて、やり切りたい。
──自分の心に正直になれ。
カオスワロガに囚われた時、リヒトに言われた一言。それがあるから、絵里はもう諦めない。
たとえ無謀でも、可能性がある以上諦めることはしない。
「……強いですね、絵里は」
海未はポツリと言った。
「もう諦めてくないだけよ」
「……私は怖いです。ダークザギという存在の怖さと、わからないことが多すぎて何をどうすればいいのかわからない怖さ」
「…………」
「でも、諦めたくないには賛成です。ここで諦めたら、リヒトさんとはもう会えないんですよね?」
「ええ。二度と会えないわ」
「それは嫌です。わからないことだらけですが、諦めてはいけないことだけははっきりとわかります。だから、アグル。勇気はあります」
そう答える海未の目は力強い意志が灯っている。
きっと、全てを飲み込めてはいないだろう。本人が言った通り、恐怖を完全に克服したわけでもない。何せ、今知ったこと、目にしたことが多すぎる。それらを全て理解する、飲み込むには時間が足りない。
だがそれでも、一つだけははっきりとしていることがある。
諦めてはいけない。
元々海未は意志が強いという長所がある。一度決めてしまえば、そう簡単に折れることはない。
『……諦めたくない、か。人間は何も変わっていないな』
だが、とアグルは言う。
『人間というのは諦めが悪い。だからこそ、奇跡を起こせる生き物なんだ』
アグルは知っている。人間という生き物がどういったものなのか。
だからこそ、信じているのだ。
『行こうか。人間の力を見せてやれ』
──続く。
◯お知らせ
現在、山形りんごをたべるんご様の作品「RAINBOW X STORY」にて本作品とのコラボ編が投稿されております。
私の作品の他に星宇海様の作品「Sunshine!!&ORB」との3コラボとなっております。
なんと、ひと足さきに記憶を取り戻した一条リヒトの活躍が見ることができます。
下の作品リンクより、ご覧ください。
作品リンク
https://syosetu.org/novel/224442/