内容の関係上、幕間として投稿します。
無茶を承知の作戦は決まった。
無茶を成功させるための覚悟も決まった。
あとは勇気と覚悟を持って行動に移すのみ──といったところで、
『絢瀬絵里。悪いが、東條希と話をしたい。少し移動してくれ』
アグルが落ち着いた声でそう告げた。希と二人きりになれ、という提案だ。疑問はあるが、それを聞き返す時間が惜しい。絵里はすぐに希に声をかけ、二人で廊下に出た。
「話って何かな〜?」
と言ったのち、くすっとイタズラっぽく笑う。
「なーんてね。アグルの提案でしょ?」
「ええ、アグルが希に確認したいことがあるらしいの。アグレイターに触れてほしいって」
絵里は右腕を前に差し出す。希はその腕に巻かれたアグレイターに手を置く。
瞬間──世界が変わる。
先ほどまで榊家の廊下だった景色が深い青の空間に変わる。どこまでも続く、まるで海の中のような景色。
「ハラショー……ここは……?」
「精神世界だと思えばいい」
「きゃっ!? アグル……!?」
世界の変わりように驚いていると、隣にアグルが立っていることに気づく。
「こうして共鳴できたということは……やはりお前は、ただの人間ではないな」
アグルの視線の先には東條希。そしてその後ろから同じ顔の人物が現れる。
三度の衝撃に襲われる絵里。
「希が二人!?」
「どういうことか、説明してもらおうか」
希は苦笑しながら説明する。
「ふふっ、実はね、ウチの中にはもうひとつ魂がいるの。『ティガ伝説』の時代に生きていた子で“のんちゃん”っていうんだよ」
「絵里ちゃん、はじめまして。アグルは久しぶり……かな?」
絵里は二人の顔を交互に見つめ、声を絞り出す。
「……え、えーっと……全然わからないんだけど……どういうことよ……」
「どういうことと言われてもな。今言った通りやで」
「???」
疑問符が浮かぶ。
とはいえ、今更疑問に感じても仕方がないのかもしれない。
ウルトラマン、なんて摩訶不思議を目の当たりにしたのだから、その言葉通りに飲み込むしかない。
「……わかったわ。希の中にもう一つの魂が本当にいるとして」
「本当のことなんやけど」
「……どうして希は平然としていられるのよ」
「受け入れるしかなかったからかな」
「いやいや、軽く言い過ぎでしょ!?」
「まあ、最初は戸惑うことが多かったけど、ウチ昔から霊感が強かったからな。その理由が『のんちゃん』かもって思ったら、すんなり受け止められたんよ。それに今は仲良くやっとるし。ね、のんちゃん」
「ねー、希ちゃん」
「……ハラショー」
あっけらかんと笑う希。絵里はその光景を見て、思わず手で口を押さえた。頭がついていけず絶句する。
アグルは腕を組み、少し不満げな態度をとる。
「説明になっていない」
アグルの指摘に、希とのんちゃんは顔を見合わせ苦笑する。
「説明と言われても、私もどうしてここにいるのかわからないんだよね。気づいたらここにいたっていうしかない」
「…………」
アグルも戸惑いを隠せない様子。
“ティガ伝説”の時代は今から遥か昔。その時代に生きていた人間が、今生きているはずがない。矛盾が生まれている。
「お前は“イージスの力”から“治癒の力”を授かっていた。当時の人間たちが怪我をした時、その力を使いお前が治癒していた。力を持っているということは、普通の人間という括りからは外れた存在だ。それが関係しているのか」
「“イージスの力”から力を授かった人は他にもいた。でも、私たちと同じような境遇の人は他にはいない」
アグルが可能性をあげてみるが、のんちゃんはそれを否定した。
「なぜ断言できる?」
「全国、あるいは世界を探せばいるかもしれないけど、それならこの町に怪獣が出た時、行動するはずだよ。私のようにね。でもいなかった……だから他にはいないと思う」
のんちゃんは一度希を見る。
「それに希ちゃんの両親の中に、私の両親の魂はなかった。だから“治癒の力”が関係しているとも思えない。本当に理由は不明なんだ」
少し寂しげに語るのんちゃん。
のんちゃんが本当に『ティガ伝説』の時代に生きていたのならば、その時一緒に過ごしていた両親、友人、周囲の人々はもうこの時代にいない。
ひとりぼっち。その寂しさなのだろう。
なぜのんちゃんだけか、“東條希”という器の中にいるのか。
「……理由はお前たちにもわからないんだな」
アグルの確認に二人は首を縦にふる。
「そうか……ザギはお前のことに気づいているのか?」
「気づいていると思う。だからさっき狙われたんだよ」
さっき、と言うのはΣズイグルのことだろう。
どうやら、先ほどのΣズイグル襲来の本命は『のんちゃん』の捕獲だったようだ。絵里から見れば、のんちゃんの魂を宿す希が狙われ、あと一歩のところで連れ去られてしまう事態となった。結果的にはアグル復活へと繋がったが、なぜ敵はのんちゃんを狙ったのだろうか、と絵里の中に疑問が生まれた。
「
「ふふっ。相変わらず合理的に考えるね。普通は言葉にするのを少しは躊躇うものだと思うけど」
「躊躇ったところでどうなる。勝つには打てる手を全て打つまでだ」
「いまの時代はリアリストっていうんだっけ?」
「俺が知る訳ないだろ」
あはははとのんちゃんは軽く笑った。
そして希のほうを申し訳なさそうに見る。
「ごめんね。私のせいで怖い思いさせちゃって」
「ええよ。こうなる覚悟はできとったから。運命共同体、一蓮托生や」
「ありがとう」
どうやら、ダークザギは個人的な理由でのんちゃんを狙っているようだ。のんちゃんは「参った参った」といった様子ではいるが、そのせいで希にまで危害が及んでいることに申し訳なさを感じている。
一方で希はそれを承知の上でいるようだ。
「けど大丈夫だよ。アグル、口は悪いけどちゃんと人間を信じてるし、私たちを前衛にするって言いながら任せっきりにはしないから」
と、どこかイタズラをする希に似た表情を浮かべ、そんなことをのんちゃんは言った。
「おい」とアグルが釘を刺すような声を上げるが、のんちゃんは止まらない。
「きっと、絵里ちゃんにも申し訳ないって思ってるよ。普通の女の子を危険な目に合わせるんだから。本当なら自分だけで戦いたいのに、人間と一体化しないと戦えないいまの状況に憂いを──」
「──確認したいことは確認できた。戻るぞ」
と、のんちゃんの言葉を遮るようにアグルが言った。
すると、世界は元の榊家の廊下に変わっていた。
まるで照れ隠しのように強引に世界を戻したアグル。自分の用事は終わったようだが、絵里は新たな疑問が生まれてくる結果になった。
戦いの直前にパンクさせるようなことはしないでほしい。
ジトっとアグレイターを睨んでみるが、何も反応を示さなかった。