VSダークザギの激闘、
全部書き切りました。
よろしくお願いします。
※サブタイトルを修正しました。
今度こそ――絵里たちは、リヒトを救い出すために動き出した。
目的地は、つい先ほどΣズイグルと戦ったあの場所。そこには、あの怪物が通り抜けたワームホールが、いまだぽっかりと口を開けていた。
希――正確に言えば、その内に潜む“のんちゃん”を連れ去るために現れたΣズイグル。その帰還を待つために、ワームホールが開いたままなのだろうか。あるいは、Σズイグルの敗北、アグルの復活など全てをわかった上で、こちらが乗り込んでくるのを待っているのか。
ダークザギが考えなしにワームホールを残しているはずがない。何か考えているはずだ。
絵里は首を振った。考えたところで、わかるはずがない。
「……待ってて、リヒトくん」
絵里はアグレイターにそっと手を添える。
その横で、奉次郎が頷いた。
「では、頼むぞ。わしはアグルに言われたように、ワームホールが閉じぬよう手を施す。帰還の時も迷ったらわしを道標にしてくれ」
「ありがとうございます、奉次郎さん」
絵里は目を閉じ、心の奥で覚悟を固めた。
『行くぞ』
低く響くアグルの声。
絵里は頷き、右腕を突き出す。
手首に巻かれたアグレイターのブレードが展開し、淡い光を点滅させる。
回転とともに、光が一気に開放された。
一方、希はギンガライトスパークを使い、ウルトラマンティガのスパークドールズをリードする。
『──ラ、イブ! ──ティ、ガ──!』
通常とは違う反応が起きたが、それに気づくものはいない。
ギンガライトスパークからあふれた光が希を包み込んでいく。
海未はその手に握った“イージスの破片”から溢れたオレンジ色の光に包み込まれ、希を包んだ光がさらにそれを包み込む。
二柱の光が天へと昇り、ワームホールの中心へ吸い込まれていく。
まるで彼女たちの突入を歓迎しているかのようにワームホールは静かだった。
――そして、出口を抜ける。
ワームホールを抜けた先は、かつて絵里が囚われた“異形の海”に似た、あの不気味で静かな空観が広がっていた。
海(と表現できるか不明だが少なくともそう見える)の上にぽつんと浮かぶ孤島。その中央には一本の柱がそびえ、そこにリヒトが磔にされていた。
二柱の光が孤島へと降り立ち、ウルトラマンアグルとティガの姿へと変わった。
「……リヒトくん!」
絵里の視線の先──磔にされたリヒトは力を失い、糸の切れた人形のようにぐったりと垂れ下がっている。
黒い触手じみたものが四肢を絡め取り、まるで鎖のように肌へ食い込んでいた。
だが、絵里の目を最も強く引いたのは頬の色だ。
──黒。
胸がざわりと揺れる。このままではいけない。あの黒がリヒトの全てを上書きした時、この世界から“一条リヒト”という存在が消滅する。そんな感覚が、確かな警鐘として絵里の心を叩いていた。
一方、アグルは隣に立つティガを一瞥し、
『その姿……どういうことだ?』
と言った。
つい、絵里は聞き返す。
「え? ティガの姿がどうかしたの?」
『あれはウルトラマンティガ本来の姿ではない。何か……歪められている』
確かに、ティガの姿はどこか異様だった。
スパークドールズで見た時とおおむね同じ姿ではある。だが、顔と胸のラインの色が異なっている。
本来のウルトラマンティガは、顔が銀色で、胸のラインは金色のはずだ。
しかし、いま隣に立つティガは、顔が黒銀色に、胸のラインは黒へと変わっていた。
神秘性と同時にどこか不気味な雰囲気が漂う。
『お前はウルトラマンか? それとも別の何かか?』
アグルがティガに問う。
『ティガブラスト。この姿を私はそう呼んでいる』
のんちゃんからの返答が聞こえてきた。
『でも──今それを追求する暇はないんじゃない?』
その警告の意味をアグルたちはすぐに理解する。
肌を刺すような空気の変化。
──ローブ男が、目の前にいた。
ポツリと空中に浮かぶ人型の影。
だが、それはダークザギの姿ではない。
あの漆黒の怪物ではなく、いつものローブを纏った人の形──銀髪の青年の姿だ。
欧米人の顔つき、銀髪碧眼。見た目は普通の人間なのに、その存在感はとても冷たく、異様だった。
『いつの間に』という疑問は意味をなさない。
ここは奴の
いつ、どこに現れてもおかしくない。
「よくきたね、ウルトラマンアグル。あの戦いぶり、と言うべきかな」
声は穏やかだった。
しかし冷たいナイフで刺されるような鋭さがある。
「それと、やっぱり君が変身するとその姿になるよね。中身はないけど、ティガである以上は純粋な光に代わりはない。だからこそ、
アグルたちに緊張が走る。
ローブ男はそんな反応を楽しむように肩をすくめてみせる。
その仕草はあまりに自然で――だからこそ、底知れぬ恐怖を掻き立てる。
「でもまさか、本当にやってくるなんて驚いたよ。君たちは知っているはずだ。僕の強さをね」
口元に微かな笑み。
『ああ。知っている』
「パワーアップと同時に気も大きくなった? それとも、僕がのんちゃんを殺せないから前線すればいいと思った? ひどいね君は」
視線を細め、冷ややかに笑う。
「まあ、ちゃんとして策はあるようだけど」
──やはり、気づかれている。
当然か。絵里と海未が闇の位相空間から逃げる時に、“イージスの破片”の力が発動していた。“ティガ伝説”の戦いにおいて、敗因となった力の一部をダークザギが見逃しているはずがない。
「ガイアは呼んでこなくていいの? 君の相棒でしょ? ティガに浮気?」
『…………』
「復活させてないんだ。てことは君たちを倒せば邪魔者はもういなくなる。そうなれば、のんちゃんは嫌でも僕のそばに来てくれるよね? やった。全部に入る」
ローブ男の声が冷たい笑みと共に響く。
「どうして、のんちゃんにこだわるの?」
絵里が疑問を投げかける。
「人間の感覚で言うなら、愛してるから。かな」
ローブ男はティガブラストを見る。
「のんちゃん。僕は君のこと、傷つけたくないんだ。君の持つ力はとても美しい。僕は君が欲しいんだ。今ここで、僕と一緒になってくれるなら、優しくもてなそう。どうかな? いま一度君に問いたい。このまま僕のそばに来る気はない?」
「ないよ。ここであなたの言葉を受け入れたら、あの時私を助けてくれた“ウルトラマンティガ”を裏切ることになる。だから、私はあなたのものにはならない」
「そっか……」
のんちゃんの返答を聞いたローブ男は、心の底から残念そうに肩を落とした。
それは嘘偽りのない本音のように見えた。
「なら、仕方ないね。殺しはしないよ。好きだから。でも、痛い目にはあってもらう。とても痛いだろうから、先に謝っておくよ」
穏やかな声。
しかし、それは開始の合図となる。
「──ごめんね」
言葉の終わりと同時に、その姿が闇に溶けた。
膨張する黒。
重圧が世界を押し潰し、空気が鉛のように重くなる。
やがて、そこに立っていたのは――ダークザギ。
大地が呻く。地響きとともに、漆黒の巨影が降り立つ。
血のように赤い瞳。稲妻のように奔る紅のラインが、黒き体を閃かせた。
その姿は、まるで災厄そのもの。
ティガブラストのインナースペースに立つ海未の身体が、恐怖に震える。
――数時間前の記憶が、鮮やかに蘇る。
暴力の嵐。押し寄せる絶望。無力さの痛み。
(あんなのに矢を当てるなんて、無理です……絶対に無理です……!)
覚悟が一瞬にして霧散する。
生命としての本能が、危険信号を鳴らし続ける。
アレに矢を当てるなど不可能。絶対に無理だと思ってしまう。
「──大丈夫」
しかし、その震える方に希の手が置かれた。
「大丈夫。うちも、アグルも、エリチも、みんな一緒だよ」
希の手も震えているのが、肩越しに伝わってくる。
当たり前だ。ここにいるのは、アグルを除けばみんな普通の少女だ。戦いなんて無縁のごく普通の女子高校生。
死をもたらす化身を相手に平静を保てるはずがないのだ。
「必ずチャンスを作ってみせる。だから、海未ちゃん。お願いね」
「……わかりました」
まだ恐怖は抜けていない。
しかし、やるしかない。
必ず成し遂げて見せると、海未は心の中で覚悟を新たにするのだった。
☆★☆★☆★
──咆哮。
まるで獣のごとく吠えるダークザギ。
それは空気を震わせ、ダークザギという存在が音の暴力となって世界へと叩きつけられる。
空気が、世界が揺れる。重圧が上からのしかかるなんてレベルではない。叩きつけられると言ったほうがいい。身体中から悲鳴が上がりそうになるのを堪える。
──ダークザギが動く。
それはおおよそ地を蹴ったという表現で済むものではない。
その場を捨て、次の場所へ移り変わったという前進? 否、ダークザギが移動したのではなく、世界が移動した。そんな出鱈目。それが人間が理解できるダークザギの動きだった。
その黒い軌道へアグルが引き寄せられるようにして、距離という概念が融解していく。
点と点がぶつかる直前、間に入る点がひとつ。
移動する世界よりさらに早く移動する点──ティガブラストが世界に割り込む。
結果、アグルの予想していた通り、ダークザギの殺気は濁る。
ダークザギの手刀がティガブラストのガードを叩く。
「──くっ」
「希!」
痛みを堪える声と悲鳴。
覚悟はしていた。しかし戦場の痛みはその覚悟を容易くへし折りにくる。
苦痛に表情を歪める希。
海未もティガブラストのインナースペースにいるが、あくまでティガブラストに
そのため、海未にダメージフィードバックはない。海未にできるのは、その身を挺して作られる一瞬のチャンスを待つことのみ。
ティガブラストの背後から青の刃──アグルセイバーが突き出される。
死角を突く一撃。人間でいえば心臓がある位置へと正確に伸びる軌道。
だが、ダークザギは後ろへ跳躍──否。またしても世界が離れていく。
アグルセイバーの剣先は、惜しくも空を裂いた。
着地の瞬間を狙って、ティガブラストがハンドスラッシュを放つ。
ダークザギは着地の流れで叩き落として見せた。
すでにアグルは走り出していた。
どれほどの怪物であっても、着地から次の行動へ移る瞬間だけは、わずかな“間”が生まれる。
アグルセイバーの突き。
頭部を狙っては、僅かな首の動きで躱される可能性がある。
だから狙うは上半身の中心。胸部の真ん中。大きく動かさなければ回避は不可。たとえ躱されても、どこかしらにアグルセイバーは届く。
ダメージを与えられるはずと考えた一撃を、ダークザギは右手で掴んでみせた。
掴んだままザギは腕を動かし軌道を変える。
アグルセイバーはダークザギの胸部にあるエナジーコア。その向かって左端に刺さった。しかし、完全に刺さったわけではない。切先が当たった程度。
『この一撃はもらってあげる』
そんな声が聞こえてきそうな余裕が、ダークザギにはある。
ダークザギの左拳が握り込まれ、赤い光が灯る。
危険を察知したアグル。アグルセイバーを消し、すぐに回避行動に移る。
しかし間に合わない。
突き出される拳──“ザギ・シュート”がアグルの胴体を射抜く。
火花を散らし、後退するアグル。
“ザギ・シュート”は続けて何発も放たれ、全てアグルに着弾する。
飛びかかりの勢いを利用して放たれる拳がアグルを叩き、出鱈目な暴力がアグルを襲う。
そして、両腕を前に突き出し放たれる“グラビティ・ザギ”がアグルを撃ち抜く。黒色の超重力光線を受け、アグルは体から火花を散らしながら後方へ大きく吹き飛んだ。
追撃へ移動するダークザギ前に、ティガブラストが立ちはだかる。
『はぁ』
ため息があった気がした。
紳士的だった人間態とは異なり、ダークザギの姿の時は荒々しい。
だからため息なんて気のせい。
しかし、殺気だけは相変わらず燻んだまま。
黒い影が飛ぶ。まるで踏み潰すかのような蹴り。
しかし見切れない速度ではない。
ティガブラストは身を捻って回避し、すかさずミドルキックを返すが、容易くガードされてしまう。
ダークザギの腕がティガブラストへ伸び、その首を掴む。そのまま持ち上げられる様がありありと想像できるほどの力。ティガブラストはすぐに体を捻り、背負い投げへと動きをつなげる。
──が、ダークザギは転がるように背中を預け、その力を殺した。
着地した黒い影がミドルキックを放つ。
ティガブラストの胸部を捉え、耐え難い衝撃が襲ってくる。
よろめくティガブラストへ、横殴りの拳。
かろうじてガードはできるが、すぐに崩される。
その緩みをザギは逃さない。
黒い腕が蛇のようにガードの隙間へ滑り込み、首元を掴むと──胸部へ重い拳が次々と叩き込まれた。
「カハッ!」
希の口から、詰まった息が漏れる。
ダークザギはティガブラストの頭部を掴み、そのまま地面へ叩きつけるように投げる。
視界が回る。世界が回る。身体がただの質量に成り果てる。
立ち上がったところに、ダークザギのドロップキック。
沈むティガブラスト。立ちあがろうにも、痛みで体が言うことを聞かない。
しかしダークザギは容赦なくティガブラストの身体を引き起こし、膝蹴り、手刀、裏拳を連続で叩き込む。
反撃の拳は、あっさりと沈み込むように躱され、逆に腹へボディーブローが刺さる。
──あしらわれている。
赤子の手どころではない。
“戦闘”と呼ぶには、あまりに片側へ傾いた構図だった。
だが、明確な違和感がある。
ティガブラストへの攻撃には、アグルへ向けたあの殺意の鋭さが欠落している。
狙いう場所も、急所ではなく、生存を許す部分ばかり。関節や急所を狙っては、変身者の希の命が危険になってくる。それはザギの目的ではない。
戦いとは無縁の少女へ痛みを与え続ければ、いずれ戦意は消える。
ティガブラストの内部にいる少女を、“死なせず、痛ませ、心を折り”目的へと運ぶための暴力。
──これは戦闘ではない。
徹底した“痛めつけ”という儀式だった。
「ぐっ」
希は悲鳴を押し殺す。
痛い。痛いに決まっている。
東條希は女子高生だ。霊感が強く、“のんちゃん”というもう一つの魂を宿してはいるが、それ以外は普通の女子高生だ。戦いなんて知らない。喧嘩の仕方なんて知らない。争い方なんて知らない。拳の握りからなんて知らない。
本当は泣きたい。
けど泣いてはいけない。
泣いてしまったら、隣で不安そうにしている後輩をもっと不安にさせてしまう。
一緒に戦う親友を不安にさせてしまう。
何より、親友の好きな人をこのまま死なせてたまるか。
「……あまり、ウチを……なめんといて!!」
見ているだけじゃ始まらない。
希の意思を持って振るわれるティガブラストの拳が、ダークザギの頬をとらえた。
殴られたザギは数秒停止。ゆっくりと殴られた頬を指でなぞる。
まるでその一撃に、何か思うところがあるかのような動作。
ぐらりと、首だけを動かし、ティガブラストを見る。
ぞわりと、冷たい恐怖が希と海未に走る。
ダークザギが次の動作に出る前に、青き光球“リキデイター”が炸裂する。
「希! 大丈夫!?」
絵里の声が聞こえてくる。
ティガブラストの隣にアグルが立った。
「大丈夫」──と返したかったが、希の喉は声を発しなかった。ただ荒い呼吸だけを繰り返す。
さっきまでの攻撃の濁流が、希の体に確かなダメージとして植え付けられていた。
汗が顎の先から落ちる。体中が痛いと叫んでいる。
アグルの読みどおり、ダークザギの攻撃は加減されていた。急所は外され、あくまで希の戦意を喪失させるための攻撃だった。
それでも、これほど消耗をしてしまう。
もしも、あれが本気だったならと考えるだけで、希の思考に冷たい予感が走る。
早く海未が矢を放つ機会を作らないといけない。
そうしなければあっという間に敗北してしまう。
『いくぞ』
アグルの声。
今度は同時に攻めると言う意味の声だった。
ティガブラストは短く頷き、アグルと同時に駆け出す。
待ち構えるダークザギ。
先に踏み込んだのはアグル。
右足を蹴り上げる。ダークザギはそれをかわす。
反撃の拳がアグルへ伸びかけた瞬間、阻むようにティガブラストが掴みかかる。
だが魔人の力はいとも簡単に振り解く。ティガブラストの胴体へ黒の拳がめり込み、ティガブラストがよろめく。
ダークザギは再びアグルの正面へと身を返した。
アグルの打撃が闘気の雨となって降り注ぐ。ダークザギは的確に捌く。
その合間に放たれる青き光球の技“リキデイター”。
ダークザギは腕を盾のように掲げガード。
そのまま返す刃のように腕を振るう。
アグルはガードするが、力任せに叩き崩される。
続けざまに“ザギ・シュート”が放たれ、アグルの体が大きく弾けて後方へ倒れ込んだ。
その横で走る光──ランバルト光弾。
ティガブラストが放った青い光がダークザギを撃ち、追撃の“ティガスライサー”がヒットを告げる。
アグルは身体のバネだけで跳ね起きる。
右腕を頭上へ伸ばし、頭部に蒼白のエネルギーを集中させる。
必殺の一撃——“フォトンクラッシャー”。
蒼光のエネルギーがダークザギを撃ち抜き、三度目の衝撃が闇の体を軋ませた。
ここが好機。
ティガブラストは迷いなく“ティガフリーザー”を放つ。
ダークザギの頭上に放たれた冷凍光線。
舞い落ちる冷気が、ダークザギの動きを封じる。
「海未ちゃん! お願い!!」
「はい!!」
海未は“イージスの破片”を握りしめた。
そして、ティガブラストの
「…………」
間近で見るその巨人の姿に海未は息を呑む。
脳裏にアグルの言葉が思い浮かぶ。
『射程距離は考えなくていい。矢さえ放てば、あとはまっすぐ飛ぶ。まあ、狙いを定める必要はあるがな』
そういえば、ダークガルベロスの時も距離なんて考えていなかった。けれど、放った矢はダークガルベロスに届いていた。人間の常識なんて、神秘の前では無意味なのだろう。
なので、そんなことは考えないことにする。
右手にはギンガライトスパーク。これを矢とし、弓となる“イージスの破片”と組み合わせてダークザギを撃ち抜く。
園田海未へ託された大仕事。
その重さに、膝が笑い、震えが背骨を伝う。
標的は五十メートル級の巨体。加えて、神秘のアイテムにより外す心配などいらない。そう頭では理解しているのに、恐怖は理屈を融解させる。
(アグルの話では胸の“エナジーコア”を狙うほうがより確実だと……そう言っていました……)
ダークザギに当てるだけでも効果はある。
だが胸部の“エナジーコア”を射抜ければ、確実に大ダメージを与えられる──作戦の概要を説明された際に、アグルはそう付け足していた。
ダークザギの強さを考えれば、確実性が欲しい。
(……落ち着きなさい、私……大丈夫です、深呼吸です……)
これまでの人生で感じたことのないほどのプレッシャー。
呼吸が浅くなり、心臓が早鐘のように脈打つ。
名もない重石が落ちてきて、押しつぶされてしまいそうな感覚に、思わず視界が揺れる。
『──落ち着け。大丈夫だ。君ならできる』
ふいに、どこからか声が流れ込んできた。
アグルの声ではない。希の声でも、のんちゃんの声でもない。
けれど——確かに聞いたことがある声。
(……この声……)
ダークガルベロスとの戦い。
初めて“イージスの破片”を使い、矢を放った、あの瞬間。
あの時聞こえてきた声と全く同じ声。
とても穏やかで、優しい声。
そして海未は、ゆっくりと息を吸い込む。
名のない重石が消え、体から不要な力が抜けていく。
海未は、まずは深く息を整えた。それから静かに構える。
左手に握る“イージスの破片”が青い光を放つと、その光が形を変え、弓を象る。
右手にはギンガライトスパーク。握り込む指先に、確かな重みが宿った。
イメージする。
ここは慣れ親しんだ弓道場。木の香りと静寂が支配する、あの場所だと。
いま握る弓と矢は、これまで何千回と扱ってきた、自分の道具そのものなのだと。
放つ矢が、確かに標的へ届くのだと。
実際には巨人の掌の上。いつもの弓道場とはまるで違う。
それでも海未は揺らがなかった。いま自分にできる最高の一射を放つだけ——その思いだけを胸に置く。
彼女は半身の姿勢を取ると、
光の弦が、きりきりと張り詰める音を立てる。
その瞬間、海未の五感から音が消え、周囲の世界が静寂に包まれた。
そして──
『待て!!』
その無音を破り、鋭く差し込んだアグルの声が海未を現実へ引き戻す。
直後、バリンッ!! という甲高い音が響き、ダークザギを覆っていた氷が一気に砕け散った。
死を運ぶ死神の手が園田海未に伸びる。
(……あ……)
海未は、自分の死を悟った。
劇的な衝動ではなく、とても静かに終わりを悟る。
逃れようのない終焉。
先ほどとは違う意味を持つ無音無色の世界。
園田海未という存在が、この世界からふっと掻き消える、そんな冷たく静かな感覚。
しかし次の刹那、世界が色と音を取り戻す。
ティガブラストが間一髪のタイミングで彼女を引き戻した。
本当に紙一重。あとほんの少しでも遅ければ、海未は戻れなかっただろう。
海未は強制的にインナースペースへ戻される。戻った瞬間、どっと汗が噴き出す。全身が震え、心臓だけがやけに生々しく、生を主張するように脈打っていた。
一方、死神の手は標的を失ったことでティガブラストの腕を掴んでいた。
逃れようとしても、ぎりぎりと締め上げられるような握力にティガブラストの腕はびくともしない。右腕をつかみ返そうとした瞬間、強引に引きずり寄せられ、そのまま地へと叩きつけられた。
息を整える暇もない。すぐさま腕を引き上げられ、また地へと叩き落とされる。
二度、三度——容赦のない打ち付けが続き、地が震えた。
アグルが救援に向かう。しかし、ダークザギはその気配を逃さない。
ティガブラストの巨体を、まるで投擲物のようにアグルへ向けて放り投げた。
あまりにも突然の動きに反応できるはずもなく、二体は激しく衝突し、そのまま地に倒れ込んだ。
上空へ飛んだダークザギ。拳にエネルギーを溜め、“ザギ・シュート”を放つ。まるで雨のように、無数の光弾が降り注ぐ。
地に倒れるアグルとティガブラストは回避できず、光弾の雨に晒される。
やがて光の雨が止むと、ダークザギが流星の如く落下し、二体をまとめて踏み潰す。
衝撃で大地が一段深く沈み込み、クレーターが生じる。
そして、アグルのライフゲージとティガブラストのカラータイマーが点滅を始める。
それは体力と変身時間の限界を知らせる警告音。
ギンガライトスパークを用いての変身には、ウルトラマンギンガへのウルトライブと同じく制限時間が存在する。その時間が切れれば、変身は解けてしまう。
ウルトラマンアグルの場合、変身時間ではなくエネルギーの残量を知らせるらしい。それが点滅したと言うことは、
どちらにせよ、残り時間は少ない。点滅が止まれば、二体の変身は解けてしまう。
ダークザギは足を上げ、再び踏みつける。クレーターがさらに抉れ、世界が低く蠢き揺れる。一撃一撃が絶望を植え付けてくる。
ティガブラストの中にいるのんちゃんのことなど考慮しない。ただ敵を砕き、沈め、消す。そのためだけに振るわれる、圧倒的な質量。先ほどまでとは違う。濁りのない“殺意”の名を持つ攻撃が放たれる。
踏みつけていた足が離れ、ダークザギは両の拳をゆっくりと組み合わせた。
頭上へ掲げられる両拳。
まるで巨大な鉄槌かの如く、それを振り下ろそうとしている。
この拳が落ちれば、この戦いに幕が下りる。
少女たちの敗北という名の幕が。
しかし、それよりも先に
ダークザギが一瞬驚いたような反応を見せた。
その一瞬の反応が、攻撃への対処を遅らせた。
ダークザギの顎を撃ち抜く
そこに立っていた
紫色だったはずの体のラインが、黒に染まっている。
殴り返されるという事実以上に——その色の変化こそが、ダークザギに驚愕をもたらしていた。
「少しだけ体借りるよ、希ちゃん」
「……希?」
インナースペースに立つ東條希の雰囲気もまた変わっていた。
戸惑いの声を上げる海未と驚くダークザギに向け、少女が言葉を発する。
「ティガトルネード。私が戦おうとすると、この姿になるみたい」
ティガブラスト改めティガトルネード。
そして、東條希の体を借りたのんちゃん。
役者が交代した。
「海未ちゃん、まだ諦めないで」
「え?」
「光は闇を打つだけじゃない。思い出して。アグルがあの時それをどう使ったか」
それだけ言って、のんちゃんはダークザギを見据える。
姿が変わっても、カラータイマーは点滅したまま。故に長い会話は避けたいと思ったのだろう。ギンガライトスパークを構え、のんちゃんは戦闘へ意識を集中させた。
『……お前、その姿』
ティガトルネードを見るアグルは、その胸の内にとある疑念を抱きつつあった。しかしそれを追求している暇はない。
ティガトルネードがダークザギに向け駆け出したのだ。
放たれる右ストレート。両腕をクロスしてガードしたダークザギ。防がれた次の瞬間には中段蹴り。ダークザギの脇腹を叩く。
攻撃に移ろうとするダークザギだったが、その手が鈍い。先ほどは、のんちゃんなんて構わないと言わんばかりの攻撃だったが、ティガトルネードになった途端に再び鈍り始めた。
ティガトルネードのタックルを受け、ダークザギが大きく後退する。
深くは攻め込まない。すぐに距離を取り、ハンドスラッシュを放つ。
ダークザギからの攻撃を前転で躱す。距離を保ちつつ、横に移動しながら攻撃の機会を伺う。
そんな攻防が繰り広げられる中、園田海未はのんちゃんの言葉の意味を考えていた。
『光は闇を打つだけじゃない。思い出して。アグルがあの時それをどう使ったか』
彼女は何を言いたかったのか。
当初の作戦は失敗に終わった。同じ手が通用するとは思えない。一度方法を知られた以上、ダークザギは警戒するはずだ。
もうこの手は使えない。
何より、時間の限界が近づきつつあった。制限時間ではないアグルはエネルギーの回復ができればまだ戦えはするだろう。だが、制限時間を迎え変身が解けてしまったティガがいなくなると、一人で戦うことになる。そうなれば加減する必要がなくなり、殺意のこもった攻撃がアグルへ向けられる。
そうなれば、変身者である絵里の命も危ない。
と、考えたところで。
(……エネルギーの、回復?)
海未の中で引っ掛かりがあった。
アグルが告げた言葉を今一度思い出す。
『“イージスの破片”には微量ながらも“イージスの力”──つまり“ウルトラマンノア”の力が宿っている。それをザギに向かって打ち出せば、勝機を見出せる。ザギにとって、ノアの力は劇薬と言っていいからな』
『ギンガライトスパーク……詳しくはわからないが、そいつも光を宿したアイテム。以前俺の力をそいつに注ぎ込み、ギンガの援護をしたことがある。それと同じことをするんだ』
『ギンガライトスパークを“イージスの破片”でダークザギに打ち込む。ギンガライトスパークにも光が宿っているからな。わずかだが与えるダメージの上乗せを期待してもいいはずだ』
思い出した三つの言葉。
それらの意味を噛み砕き、つなげていく。
そして──海未はハッとなって顔を上げる。
ティガトルネードの戦い方。それはまるで。
結果を予測し、決断する。
「のんちゃんさん!!」
「のんちゃんでいいよ! いける!?」
「はい!」
「よし! アグル! ラストチャンス!! お願い!!」
のんちゃんの叫びを聞き、アグルは頷く。
『行けるか? 絢瀬絵里』
「当然よ! 私の覚悟を舐めないで! 遠慮しないで!!」
少女の覚悟の返答。
絢瀬絵里の身を案じ、無意識にセーブしていた己の力を全力で発揮させる。
右手に灯す青の刃。ティガトルネードとダークザギの戦闘に割って入る。
アグルセイバーを振るう。先ほどとは違い気迫のこもった攻撃。
しかし、それでもダークザギには届かない。ダークザギはアグルセイバーを右足を軸に回転して躱す。そのまま裏拳を叩き込む。
アグルがよろめく中、ティガトルネードはデラシウム光流を放つ。
ダークザギは両腕を使って弾く。
続いてアグルから放たれるフォトンクラッシャー。
ここでダークザギは“ザギ・リフレクション”を使用した。円形のバリアを張り、それを防ぐ。
アグルはそれを破ろうと、エネルギーをさらに込める。
一方、ティガトルネードはデラシウム光流を放った体勢を維持したまま、その掌を上に向けた。先ほどと同じく海未が姿を表す。
海未はすでに矢を放つ体勢をとっている。あとは手を離すだけ。
気づいたダークザギ。だが、フォトンクラッシャーの濁流はまだ終わっていない。
──海未の手から矢が放たれ飛翔する。
“イージスの破片”に宿っているノアの
“ザギ・リフレクション”はフォトンクラッシャーの防御に使用している。他の防御手段は確認できていない。このまま矢はダークザギを撃ち抜く、と誰もが思っていた。
しかし、
矢が空を過ぎていく。
『まあ、わかってたけど』
どこからか、ローブ男の声が聞こえた。
次の瞬間――ダークザギの姿が、フォトンクラッシャーを受け止めていた位置とはまったく異なる場所へと存在していた。
まるで“ダークザギの背景だけがすげ替えられた”ような、そんな出鱈目の回避。
誰もが言葉を失うが、それはダークザギが引き起こした現象にではない。
作戦の要であるギンガライトスパークが躱されたことにだ。ギンガライトスパークはひとつしかなかった。それが躱された以上もう打つてはない。作戦は失敗した。勝機は完全に消えた。
その事実に言葉を失ったのだった。
「──ええ、
──少女の声が静かに、しかし芯をもって響く。
むしろ信じて疑わなかった結果になり、歓喜しているようにすら見える。
ダークザギが疑問で首を傾げ、矢の飛翔先を見てその理由を知る。
矢の行き着く先は──
瞬時にこの場の全員が海未の狙いに気づく。
「立ち回りに気をつけながら位置を調整するの大変だったよ。でも、気づいてくれてよかった」
発案者であるのんちゃんが、してやったりといった表情をして告げた。
「この作戦は、ギンガライトスパークにノアの力を込め、あなたを射抜くというものでした。ですが、対面して理解しました。あなた相手に“当てる”など、到底できません。たとえ、ゼロ距離であっても――きっと避けられてしまうでしょう」
海未は努めて淡々と語る。
「アグルが言っていました。かつて、ギンガライトスパークに自分の力を込め、ギンガを援護したと。では……もし今回、あなたを撃つのではなく、その時と同じようにギンガを援護するために力を使ったらどうなるのでしょうか。しかも――込められる力が、
放たれた矢は失速することなく、むしろリヒトへ引き寄せられるように軌道を伸ばす
「──ああ、心配なさらずとも。私は弓道部で“外すほうが難しい”と言われておりますので」
──もちろん、ハッタリだ。
海未の視界に映るリヒトはあまりにも小さい。そもそも放った時、ダークザギが間にいるのだから、リヒトの姿なんてほとんど見えるはずもない。
ほぼ勘。
不安をダークザギに悟られないように、のんちゃんと共に100%の見栄を張っているだけだ。
しかし、海未には確信があった。
──必ずリヒトに届く、と。
光は光を引き寄せ合う。
それが絶対の原則であるかのように、矢はまっすぐリヒトに向かっていく。
「――目を覚ましてくださいっ!! リヒトさん!!」
海未の叫びは祈りであり、命令のようでもあった。
放たれた青い矢は、迷いなく一直線にリヒトを穿つ。
その瞬間、世界は眩い光に覆われた。溢れ返る眩耀が世界を照らしていく。
一条リヒトの輪郭が、光へと呑まれていく。
誰もが、その消失の行方を見守っていた。
祈るように、息を呑むように。
彼の帰還を待つかのように――。
故に、ティガトルネードに伸びるダークザギの手に反応が遅れた。
「──!!」
ダークザギの手はまっすぐ海未へと伸びてくる。
たとえリヒトが目覚めたとしても、一人の少女の命が失われていれば精神的ダメージを与えられると考えたのか。
しかし、その手が海未──その前のティガトルネードに届くことはなかった。
光の手がダークザギの頭を掴み、押し飛ばした。
ダークザギが吹き飛ぶ。
ティガトルネードの前に生まれた光の塊――それは、徐々に輪郭を取り戻すように輝きを収めていく。まるで世界が、その姿の顕現を許すために光量を調整しているかのように。
──ウルトラマンギンガが、そこにいた。
「ウルトラマン、ギンガ……」
海未は思わずその名を呼んだ。
ギンガは緩やかに振り返り、海未を見た。そして、ゆっくりと頷いた。まるで礼を言っているような仕草だった。受け取った海未の心が熱くなる。
ギンガは自分の胸元に手を当てると、そのまま海未へと伸ばす。手のひらから一つの光が飛び、ティガトルネードの掌に止まる。その光が解けるようにして、リヒトの姿となった。
「え? リヒトさん!?」
海未の腕の中で眠るリヒト。
素肌の一部は未だ黒い闇に侵食されたままで戻ってはいない。
だが、確かに脈はある。彼は死んではいない。気を失っているようだった。
『すまないが、彼を頼む』
ギンガの声が聞こえた。
困惑する海未をよそに、ギンガは先ほどダークザギを飛ばした方角を見る。
『あとは、私が戦おう』
吹き飛ばされ、地へ叩きつけられていたダークザギが、地を踏みしめるように起き上がった。
低い姿勢のまま、ギンガの姿を見る。そして腹の底から――いや、存在の中心核から雄叫びを上げる。何度も世界を揺らしてきたダークザギの咆哮。
次の瞬間、紫色のオーラがダークザギの全身を包み込むように噴き上がった。
ひと目で理解する。これは“本気”などという生易しい段階ではない。その次の段階。空気が震えるのではなく、世界そのものが彼の出力に耐えかねて悲鳴をあげる。
対するギンガもまた、青の光を纏いはじめる。
荒々しいダークザギのオーラとは違い、明鏡止水かの如く静かで、しかし確かに熱を持って燃え上がっている。
そして。
オーラを纏った二つの巨人が動いたのは、ほとんど同時だった。
青と紫が激突。
空気が震えて、世界が揺れる。
青と紫の光束は、互いを焼き切らんとするように衝突を繰り返し、その残滓を引きずりながら天へと昇っていく。
やがて――二本の光は、ふっと掻き消えるように消滅した。
「──え? 消えた?」
海未の呟きだけが残された世界に響く。
アグルもティガトルネードも、理解を求めるかのように周囲を見回す。
だが返ってくるのは、ただの無音。
まるで世界に“自分だけ取り残された”のだと感じるほどに、世界はとても静かになった。
☆★☆★☆★
──ギンガとダークザギの激突は、次元を超えて繰り広げられていた。
ギンガはマッハで飛行しながら、ギンガファイヤーボールを放つ。
ダークザギはそれを回避──否、その次元から己の存在を移動させることで、ギンガファイヤーボールを空を撃たせた。
その直後、ギンガも次元を超える。
豪雨が吹き荒れる世界にたどり着くギンガ。ダークザギの気配を探ると、背後にワープしてきたダークザギに踏みつけられる。そのまま地へと押し込まれるが、衝突の寸前で次元移動の回避。
ダークザギも後を追う。
今度はダークザギが砂漠の世界に先にたどり着いた。
直後、ギンガの放った光線が直撃する。落下するダークザギだが、底から持ち直して飛行を続ける。
ギンガは光線を連続して放つが、ダークザギはそれらを全て回避する。初撃のみヒットしたが、二撃目以降は全て回避された。
三度の次元移動。
そこでは正面から激突したのち、“ザギ・ギャラクシー”を発動。無数の隕石群を出現させ、ギンガに向かって放つ。
それに対し、ギンガもまたギンガファイヤーボールで応戦。
隕石同士がぶつかり合う。
全てが相殺し合い、ダークザギは再びギンガの背後にワープする。
しかし、ギンガはそれを先読みしたのか瞬時に反応してみせた。
拳を叩き込み、ダークザギが怯む。
ダークザギは次へワープ。
マグマが燃える世界。吹き上がる火柱を目眩しに使い、“グラビティ・ザギ”を放つ。
しかし、ギンガは全て回避してみせた。
おかしい、とダークザギは感じていた。
最初に戦った時と戦闘力が違いすぎる。
いくらノアの力を授かり復活したとはいえ、ここまで桁違いになるものなのか。
次元跳躍を何度も繰り返し、必殺技も多数使用している。それなのに息切れ一つ起こさず、こちらについてきている。
何より、一条リヒトの体は闇に蝕まれているはずだ。その影響が全く見られないと考えたところで、この戦いを始める前にリヒトと分離していたことを思い出す。
『お前が思っている通りだ。私は今、私自身が戦っている』
ダークザギの考えを見透かしたかのように、ギンガが答えてきた。
『リヒトの体は闇に侵食されている。とても戦える状態ではなかった。だから、私が戦っているのだ。これ以上彼を傷つけないために』
ダークザギは知る由もないが、ギンガはリヒトの過去を見たのだ。
アメリカの地で起きた彼の戦い。
友との訣別の戦い。その果てに記憶を無くしたという戦いを。
その戦いはあまりに悲しすぎた。全てを救えず、己さえもなくしてしまった戦い。
一条リヒトをこれ以上傷つけないために、今、ギンガ自身が戦っているのだ。
『決着をつけよう。ダークザギ』
ダークザギは吠えた。
その現実を否定するために。
ダークザギは両腕を広げ、エネルギーを集中させる。ウルトラマンギンガを消し飛ばすための、自身の全エネルギーをこめる。
ギンガもまた、ノアから授かった力と己のエネルギーを両腕に集約させる。
“ギンガクロスシュート”と“ライトニング・ザギ”が激突。
光線同士がぶつかり合い、やがて両者はゼロ距離でせめぎ合う。
引けば負け、押し通すしかない。
両者は次元を超えながら、一歩も引かない。
やがて、元の次元へと戻ってきた。
アグルとティガトルネードが空を見上げ、ぶつかり合いの果てに青と紫が落下してくるのを見た。
両者は互いに背をむけ立っている。
どうなった? と全員が見つめる中、
パキンッと、何かが壊れることが響く。
ダークザギのエナジーコアがひび割れたのだ。
漏れ出していく闇のエネルギー。
ダークザギは己の敗北を悟った。
故に、最後の天に向け雄叫びをあげる。胸から漏れる闇のエネルギーはその量を増していき、天へと昇っていく。
それに嫌な気配を感じたギンガは、すぐにアグルとティガトルネードへ向かって走り出した。
その瞬間、ダークザギが大爆発をする。世界全てを巻き込むかのような爆発は、その被害を拡大させていく。
その場にいた全員の視界が白く染まったのだった。
☆★☆★☆★
「────……? ここは?」
園田海未が目を覚ました時、そこは不思議な空間だった。
あたりは白一面の世界ではあるが、その中央にオレンジ色に輝くY字型の巨大な建造物があった。
その前にウルトラマンギンガが立っている。
「ギンガ……?」
海未の声に気づいたのか、ギンガが振り返る。
「園田海未……そうか。“イージスの破片”を持つからか」
ギンガは海未がいることに驚いた様子だったが、すぐに納得した様子となった。
疑問ばかり浮かんでくる海未だったが、Y字型の建造物にリヒトが沈んでいくところを目撃した瞬間全ての疑問が吹き飛ぶ。
「リヒトさん!?」
駆け寄ろうとしたいが、体は一歩も前に進まなかった。
「安心するんだ。彼は今、“イージスの力”の中に入って行っただけだ」
「イージスの力……? それって」
「そう。神田明神の下に眠る“イージスの力”だ。どうやら君は、“イージスの破片”を持っているから、この場に来ることができたのだろう」
ギンガは海未の近くに来て、共に“イージスの力”の中に沈んでいくリヒトを見守る。
「先ほどの戦いでリヒトの体はひどく闇に侵されていた。その闇を祓うためには、膨大な光のエネルギーを持つ“イージスの力”を頼るしかない。だからこうしているんだ」
「……助かるんですか?」
「ああ、助かる。だが、彼が目を覚ました時、無事でいられるかはわからない」
「どういうことですか?」
不穏な言い回しに、語気が強くなる海未。
「おそらく、リヒトは自身の失った記憶をすべて見たはずだ。もし目を覚ました時、その記憶を全て思い出したのならば、彼の精神がどうなるか不安なんだ」
「……ギンガは見たんですか? リヒトさんの記憶を」
「見てしまったに近い。あまり良いものではなかった」
ギンガはそれ以上続けなかった。
それは、リヒトの失った記憶がそれほどまでに酷いものだったからなのか。
そんなことを考えていると、ギンガがこちらに正面を向けてきた。
少し驚く海未。
「園田海未。君にいくつか頼み事をしたい」
「なんですか……?」
「まず、リヒトがイージスの力の中で眠りについていることを他言無用にしてほしい」
「え? どうしてですか?」
「詳しくは言えないが、一つ疑念を抱いてしまったからだ。それが晴れるまでは秘密にしておいてほしい」
その疑念を話して欲しいと思う海未だったが、おそらく答えてはくれないんだろうと思った。
「それに合わせて、ギンガスパークは君に持っていてほしい。“イージスの破片”と合わせれば、矢の連射が可能だ。もし敵が攻めてきた時、アグルの援護をできるようにしておきたい」
「それはいいですけど」
「そして、もしリヒトが目を覚ました時、彼の精神状態が不安定であれば、みんなで支えてほしい」
「あの、それはどういう──」
「──頼んだぞ」
そう言って、視界が真っ白に染まる。
結局、ギンガに頼まれるだけ頼まれ、その理由を聞けずに返されることになった。
当然、次に目を覚ました時は現実世界に帰還した状態。目に入ってきたのは、身の安全を確認する奉次郎と、リヒトがいないことに疑問の声をあげる絵里。
せっかく助けたのに、その結果が不明では絵里がかわいそうだ。せめて絵里には答えてあげたほうがいいのではないだろうか。
そんなことを考える海未だったが、幸いなことに全員体力と気力の限界を迎えていた。立っているのも限界と言った様子で、絵里に至っては気を失ってしまうほど。
無理もない。ウルトラマンアグルに変身し、ダークザギと戦ったのだ。希に対しては加減されていたが、アグルには本気だった。精神的、肉体的ダメージは半端ないはず。
そういう海未も、プレッシャーから解放されたからなのか、意識が段々と遠のいてく。
全ては体力と気力を回復させてからでもいいだろうと、そう思いながら意識を手放すのだった。
第18話:絶望を撃て
第二部:復讐の闇編
─完─
◯あとがき
以上を持ちまして、第18話並びに2020年より開始していた第二部が終了となります。
お疲れ様でした。
また、2025年11月20日を持ちまして、本作品が連載を開始して10年が経ちました。
10周年というやつです。
途中、3年間更新止まっていたのですけどね……。
書き始めて10年が経過していること。
第二部を書き切るのに5年かかっていることに、震えが止まりません。
更新速度が遅すぎますね。
それでも、10年前に考えていた物語を書き切れて良かったと思っています。
次回から第三部が始まります。
敵は前回書いたので言ってしまうとゾグです。
ガイアも出ます。
リヒトはしばらく出ないと思います。
なので、下記のコラボ先で暴れてもらっています。
よろしくお願いします。
◯お知らせ
現在、山形りんごをたべるんご様の作品「RAINBOW X STORY」にて本作品とのコラボ編が投稿されております。
私の作品の他に星宇海様の作品「Sunshine!!&ORB」との3コラボとなっております。
なんと、ひと足さきに記憶を取り戻した一条リヒトの活躍が見ることができます。
下の作品リンクより、ご覧ください。
作品リンク
https://syosetu.org/novel/224442/