ギンガ・THE・Live!   作:水卵

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 第三章になります。



第三章:光の戦士VS闇の魔獣

 [3章]

 

 

「……んっ……ここは?」

 

 気づくと希はうつ伏せで倒れていた。腕に力を入れてゆっくりと起き上がり、周囲を見回す。

 

「ここって……学校の屋上?」

 

 希はすぐに自分がどこにいるのか把握することができた。

ここは、自分が通っている音ノ木坂学院の屋上だ。屋上への出入り口である扉、生徒が落ちないように高く作られた頑丈なフェンスなど、見慣れたものが目の前にあった。

 しかし、見慣れたものがあったとしても、目に映る光景はまったくの別物と化していた。

 空には太陽も雲も何もなく、ただ赤黒く不気味に光っているだけ。地面は紫色に変色し、緑色の発光物がガラスの破片の様に散らばっている。肌をなでる風は冷たく、とても嫌な感じがする。

 希は、数日前にこれと似た光景を見たことがあるのを思い出した。

ウルトラマンギンガとサイコメザードⅡの戦い。その時広がった光景は、オレンジ色のオーロラに青く光る発光物。

だが、この空間はその反対だった。

あの時の空間は命を感じるとても暖かい空間だったのに対し、この空間は命を感じないとても冷たい空間。その冷たさは『光』さえ飲み込んでしまいそうな感じがした。立っているだけで精神が疲弊していく、そんな感覚がするこの空間に長居するのはいいことではないだろう。

 希はすぐこの場から去りたかったが、それよりも先に一つの可能性が思い浮かんだ。

――自分の考えが正しければこの空間に穂乃果達もいるはずだと。

早くあの子たちのもとに行かなければ、そう思い希はすぐさま屋上から出て行こうとするが、ドアノブに手をかける前に先に扉が開かれた。

 

「っ!?」

 

 音を立てて勢いよく開かれるドア。先ほどの黒ローブ男が来たのかと思い体に緊張が走る希だったが、現れたのは茶髪の外跳ね少年――一条リヒトだった。

 

「希?」

 

 驚いた表情でこちらを見る希に、同じく驚いた様子で返すリヒト。リヒトの登場に安心感が湧いてきた希は、緊張で固まった体がほぐれていくのを感じた。

 

「りっくん、どうしてここに……」

 

「どうしてって、お前が俺を──そうだった、人違いだったんだ」

 

「?」

 

「いや、こっちの話。俺は──」

 

『きゃああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!』

 

 突如、リヒトの言葉をかき消すかのように少女達の悲鳴が響いた。明らかに恐怖の色が混じった悲鳴に、リヒトと希の表情に緊張が走る。

 

「今の声って──」

 

「──穂乃果ちゃん達や!!」

 

 リヒトの後に続きフェンスへと駆け寄る希。声は下の方から聞こえてきた、それはつまり穂乃果達も外にいるということ。二人は必死に視線を動かし穂乃果たちを探す。

 

「いた! あそこや!!」

 

 先に見つけたのは希だった。リヒトは希が指さす方へと視線をごかし、目を見開く。そこには、ライブへの衣装に身を包んだ穂乃果達三人が、クラゲ型の怪獣──メザード三体に取り囲まれていた。

 

「穂乃果っ!!」

 

 穂乃果たちを見つけ叫ぶリヒト。しかし、距離が遠く穂乃果達には聞こえていない。

 メザードの外観は、以前リヒトがギンガとなって戦ったサイコメザードとに似ている。その不気味な顔で穂乃果達を威嚇している。身長は二メートルとサイコメザード程ではないが、あの不気味な生物が自分の近くで威嚇しているとなれば、恐怖を感じられずにはいられない。

 ことりは穂乃果に抱き着き、恐怖で体を震わせ、穂乃果はことりを庇いながらメザードを睨んでいる。海未はその手に持つ竹刀でメザードを牽制するが、竹刀をふるったところで幻影のようにメザードの姿がぶれるだけで、すぐに元の姿に戻ってしまう。

 

「くそっ!」

 

 リヒトは穂乃果たちを助けるべく屋上を出て行こうとしたが、不意にポケットの中のギンガスパークが反応し立ち止まる。

 リヒトはフェンスの向こうの虚空を見つめる。

 

「……りっくん」

 

 希も何かを感じたのか、不安そうにリヒトの名を呼びながら近寄ってくる。リヒトは先ほどとは別格の緊張に息を飲み、頬を一滴の汗が伝った。

 そして──、

 

 

 

 青黒い火炎が、虚空に灯った。

 

 

 

「希っ!!」

 

 リヒトはすぐさま希を抱き寄せ、ポケットから取り出したギンガスパークを前へと突き出す。

 ドンッ!! とフェンスを破壊した火炎が、ギンガスパークより展開されたバリアにより防がれる。防いだ際の衝撃がリヒトを襲う。歯を食いしばって耐えるが、自分の身の丈より数倍もの大きさのある火炎を防ぐのは、そう何度も続かなかった。

 

(間違いない! この火炎はアイツのだ。でもなんで? アイツは()()()()()()()()()!)

 

 リヒトはその可能性を否定する。『ヤツ』の放つ火炎の色は青ではなく赤かった。だが、その青黒い火炎から感じる殺気が、奴の放った火炎と同じだった。数発も食らったのだ、その手から感じる衝撃がリヒトの感覚を刺激する。

 青黒い火炎は連続して放たれ、豪雨のようにリヒトと希を襲う。ギンガスパークが展開するバリアで防いでいるものの、リヒトの体が徐々に後ろへと下がっていく。

 もしこの火炎を放っている奴がリヒトの想像通りの相手だとすると、あの時以上に火炎の威力が上がっていると感じる。ギンガスパークが展開するバリアで防いでいるものの、リヒトの腕がしびれはじめ、あと数発でリヒトの腕は吹き飛ばされるだろう。

 ──限界は近かった。

 

「りっくん」

 

 希がその恐怖からリヒトの腕にしがみつく。フェンスの先の下では、海未がその手に持つ竹刀でメザードに応戦しているが、幻影のように竹刀をすり抜けるメザードに苦戦している。

 ことりはその恐怖から涙を浮かべ、穂乃果に抱き着き、穂乃果はそんなことりを鼓舞している。海未は、その顔に苦悶の顔を浮かべながらも必死に幼馴染を守るべく戦う。

 リヒトは、希を一瞥する。

 希は恐怖から震えていた。

 

「……」

 

 そして──、覚悟を決めた。

 リヒトはギンガスパークを一度引き、バリアを解除する。だが火炎は容赦なく二人を襲う。迫る青黒い火炎を、リヒトはギンガスパークで切り裂いた。

 

「希」

 

 二つに分かれた火炎はリヒトと希の左右を通り過ぎる。

 

「待ってろ」

 

 希はリヒトを見上げる。

 リヒトは希の瞳を見つめ言う。

 

「すぐに終わらせる」

 

 リヒトはギンガスパークを天へと伸ばした。

 

 

 

 ☆★☆★☆★

 

 

 

 園田海未は恐怖で動かなくなりそうな体に、自ら渇を入れ竹刀をふるう。もしここで自分が引けば、後ろにいる幼馴染はどうなる? 

 

「大丈夫だよ! ことりちゃん! 絶対に来てくれるから!」

 

 ことりはその瞳に涙を浮かべ穂乃果に抱き着く。穂乃果も恐怖で震えそうになる体を必死に鼓舞し、誰かの登場を待っている。

 

「────!! ──―!」

 

 メザードは決してこちらに危害を加えるわけでなく、ただその不気味な顔で笑っている。青い目を光らせ。まるで無力な自分をあざ笑うかのように。

 穂乃果はその手に持つ赤い輝石を握りしめるが、あの時のような光は発せられない。

 

「どうして!? あの時は光ったのに!?」

 

 海未も竹刀を振る腕に疲れが現れ始めた。何度切り付けても、蜃気楼のように揺れるだけで、手ごたえがない。加えて、赤黒く光る不気味な空間が海未の体力だけでなく精神力をも削っていく。

 

「くっ」

 

 このままではらちが明かない。このままでは、二人を守れない。押し寄せる恐怖から諦めかけたその時。

 

 

 

 ──―諦めるな!! 

 

 

 

「──え?」

 

 

 

 ドンッ!! と轟音を立てながら、巨大な光が海未たちのもとに舞い降りた。

 

 

 

 その光は周囲のメザードを消し去り、海未が対峙していた一匹を、その巨大な光をもって消滅させる。その光の眩しさから、海未は腕で顔を覆う。何が起こったのか、それを理解する前に、海未の目の前に巨大な拳が現れた。

 

「……え、これは──!?」

 

 海未はその拳を辿り視線を上げていく。そこには、水色に輝くクリスタルが特徴の巨人がいた。巨人の出現に海未は驚きで言葉を発せない。ことりも、突然出現した巨人に目を見開き驚いていた。

 しかし、この場にいる穂乃果だけが、待ちくたびれたヒーローの登場に歓喜の声を上げる。

 

「やっぱり来てくれた!」

 

「穂乃果、この巨人のことを知っているのですか?」

 

「うん、この巨人さんはウルトラマンギンガ! 私たちを守ってくれる光の戦士だよ!」

 

「ウルトラマン……」

 

「……ギンガ」

 

 海未とことりが巨人の名を呼ぶ。

 巨人──ウルトラマンギンガはその顔を上げ、三人の少女を見る。

 

「もうっ! 遅いよギンガさん!! 穂乃果怖かったんだからね!!」

 

 穂乃果はギンガの登場が遅いことを、大声をあげ指摘する。何ともその穂乃果らしい行動に、二人はつい苦笑いをしてしまう。

 ギンガは穂乃果の指摘に特に反応をすることもなく、己の左手を少女達の近くへと寄せる。拳が開かれると、生徒会副会長の東條希が現れた。

 

「希先輩!?」

 

 穂乃果が驚きの声を上げる中、ギンガの拳から降りた希は穂乃果たちの元へ駆け寄る。

 

「君達、無事!?」

 

「ええ、ケガはありません。みんな無事です」

 

 近くにいた海未が答える。それを聞いて希は安心し息を吐く。それからギンガを見上げ、

 

「お願い」

 

 ギンガは希の言葉を受け頷き、立ち上がる。

 そして、振り向きざまにクリスタルを紫色に光らせ、頭部から放たれる光線――ギンガスラッシュを虚空へ向け放つ。放たれた光弾は、火花を散らし不可視の敵の正体露わにする。

 青黒い体に三つの頭。少女達は知る由もないが、その怪物は以前リヒトが初めてギンガとなった日に戦ったガルベロスの強化体『ダークガルベロス』だった。

 

 ──やっぱり倒せていなかったんだな。

 

 リヒトはあの時の不思議なダークガルベロスの消え方に違和感を覚えていた。その正体がやっとわかった。

 

 ──なら、今度はしっかり倒させてもらうぜ!! 

 

 ギンガはダークガルベロスへと駆け出す。右こぶしを振り上げ、ダークガルベロスの中心の頭を殴る。続いて左拳、両手でダークガルベロスの頭を掴むと、顎に膝蹴りを叩き込む。ダークガルベロスは怯むも、ギンガは攻撃の手を止めない。右、左と拳を叩き込む。左頭部を掴み、投げ飛ばす。

 地面を転がるダークガルベロス。ダークガルベロスが起きかけたところを、頭部を掴み、持ち上げ拳を放つ。

 ジャンプをし、ダークガルベロスを飛び越えながら、自身を回転させ威力を上げた手刀を右頭部めがけて振り下ろす。火花が散り怯むダークガルベロス。

 着地したギンガは、クリスタルを再び紫色に変化させ、ギンガスラッシュを放つ。

 再び倒れるダークガルベロス。ギンガはダークガルベロスへと駆け出していき、両者がぶつかり合う。零距離で行われる攻防。ギンガの繰り出される拳が、ダークガルベロスを捉えていく。

 まさに嵐のような攻撃。

 怒涛の攻めを続けるギンガ。

 ダークガルベロスに反撃の余地を与えないほどに叩き込まれる攻撃、穂乃果もギンガの好調な攻撃を見て声を上げて応援する。

 だが、その攻撃とは裏腹にリヒトは違和感を感じていた。攻撃は確かに当たっている。ダークガルベロスの体力は確かに削れているはずだ、それなのにダークガルベロスは一向に弱った気配を見せない。幻想空間で対峙した時よりパワーアップしている気がする。

それに加え、リヒトはサイコメザード戦で感じた外からの恩恵が弱く感じていた。まさか、この赤黒く光る不気味な空間が関係しているのだろうか? 

 そういえば、あの不思議な空間で出会った希にそっくりな少女は『奴らに「位相変異」の力』があるみたいなことを言っていなかったか? もしこの空間が敵の張った空間だというのならば、敵に有利な空間だということだろう。

 だとしたら、早めに決着をつけるべきだ。

 ギンガはダークガルベロスの腹を蹴り、後ろに吹き飛ばす。両腕を胸の前でクロスさせ、クリスタルを黄色に光らせる。

 左腕を上へと伸ばしていき、黄色い電撃を集める。そして、ギンガサンダーボルトを放つ寸前、ダークガルベロスが()()()()()()()

 

 ──なっ? 分裂した!? 

 

 突然の出来事にギンガサンダーボルトがキャンセルされる。

 二体に分裂したダークガルベロスは双頭の口を開け、青黒い火炎を放つ。火炎弾は二発はギンガの足元に被弾し、煙で視界を奪われところを残りの二発が襲う。左肩にとてつもない衝撃が走り、体がわずかに後ろに下がる。

 そこからは、ダークガルベロスの反撃だった。二つの体が重なり一体に戻ると、その体を使ってギンガへとタックルをし、怯んだところを、その鋭利な爪で引き裂く。ギンガの体から火花が散る。

 

「ギンガさんっ!!」

 

 穂乃果が悲痛な声を上げる。

 先ほどまでの状況とは逆転。快調に攻めていたギンガの攻撃の手が減り、次第にダークガルベロスの攻撃がギンガを襲い始める。

 ギンガは振り下ろされた腕を受け止め、蹴りを放ち反撃。拳を振るいダークガルベロスを怯ませるが、再び突進してくる。受け止めるギンガ、ダークガルベロスの頭を振り払い、左足を振る。さらに一歩踏み込み、蹴りを放つも受け止められる。乱暴に払われ、バランスを崩したところを鋭利な爪が再びギンガの体を引き裂く。ダークガルベロスはその攻撃の手を止めず、ギンガの体を引き裂き、体当たりをする。

 ギンガはダークガルベロスの体当たりを受け止め、ジャンプをすることで威力を増したチョップを放つ。頭を掴み、後ろへと投げ飛ばす。うつ伏せで倒れるダークガルベロスの背中目掛けてダッシュをするが、右頭部がグルリとこちらへ向く。

 ひぃっ、とことりが小さく悲鳴を上げる中、放たれた火炎弾がギンガを大きく吹き飛ばす。

 土煙を上げ倒れるギンガ。ダークガルベロスは立ち上がると、穂乃果たちの方へ向き、喉を鳴らす。

 

「ちょっと……、嘘ですよね……」

 

 ダークガルベロスに睨まれ、背筋が凍る四人。双頭より放たれる青黒い火炎弾。絶望の光が四人の少女たちに迫る。

 人は自分に『死』が迫ると、周りの風景がゆっくり見えるというが、まさにその通りだった。ゆっくりと迫る『死』の塊。逃げなければ、体を動かさなければ、死んでしまう。それなのに、体は言うことを聞かず、動く気配はなかった。四人は、知らずのうちに死を覚悟した。

 だが、

 

 

 

 間一髪のところで火炎と少女たちの間に滑り込んだギンガが、自らの背を盾に少女たちを守った。

 

 

 

 ギンガの背には火花が飛ぶ。ギンガは倒れそうになる体に力を入れ、衝撃に耐える。地に手を突き、少女たちを見るギンガ。ダークガルベロスの強力な火炎弾は、確実にギンガの体力を大きく削った。

 

「危ない!!」

 

 ことりが叫ぶのと、ギンガの後ろからダークガルベロスの叫びが聞こえたのは、ほぼ同時だった。振り返ったギンガは振り下ろされた爪を受け止め反撃に出るが、逆に左腕を掴まれる。そしてダークガルベロスはギンガの腕を捻ると、左頭部を動かしギンガの腕に噛みつく。振り払おうにも、ギンガは膝たち状態であるため、上から圧力をかけられ逃げることができない。

 さらに、右頭部が零距離でギンガの右肩に火炎弾を放つ。その火炎と噛み付きがギンガの体力を確実に削っていく。

 呻き声を上げるギンガ。ダークガルベロスの牙はギンガの皮膚に深く突き刺さっていき、次第に血のように光が漏れ始める。

 

「ギンガさんっ!!」

 

「穂乃果!!」

 

 ギンガに向かって駆け出そうとする穂乃果を、海未は止める。

 

「離して海未ちゃん! このままじゃギンガさんが!!」

 

「バカを言わないでください!! あなたが行ったところでどうにもなりません!! 死ぬ気ですか!?」

 

「でもっ!!」

 

 このままギンガがやられるところは見たくない。そう思う穂乃果だったが、海未の言った通り自分にあの怪物と戦う力はない。その手に持つ輝石が、あの時のように光を発してくれたのならば、少しは援護できたのだろう。だが、その肝心な輝石は反応を示してくれなかった。

 

(お願い! ギンガさんを助けたいの! もう一度光って!!)

 

 穂乃果は奇跡に向かって願う。もう一度光って、ギンガを助けてほしいと。

 だが、それより先にダークガルベロスの右頭部が穂乃果達を捉えた。

 

「穂乃果ちゃん! 海未ちゃん!」

 

 ことりが二人に危険を知らせるべく叫ぶ。

 二人はハッとなってダークガルベロスを見上げる。ダークガルベロスの目が赤く光り出し、再びメザードの群れが出現する。『絶望』が、再び少女たちの前に現れた。

 消え去ったはずのメザードの群れ、しかも先ほどの倍以上の数の出現に海未の体に緊張が走る。青い目を光らせ、不気味に笑う怪物に、今度こそダメだと感じてしまう。

 

「無理です、……もう」

 

 海未の心は折れかけていた。いや、海未だけではなくことりもそうだろう。こんな現実離れをした光景を前に、もう正気を保てなかった。

 最初は夢だと否定していたが、押し寄せる恐怖が本物だと語っていた。夢なら覚めてほしい、早くこの悪夢から解放されたい。そう願うも、光景は変わらずメザードがあざ笑うだけだった。

 

「もう──」

 

「諦めちゃダメ!!」

 

 希は海未の肩を掴み、瞳を見ながら言う。

 

「ここで諦めたら『奴ら』の思う壺! お願い、諦めないで!!」

 

 ──諦めるな。先ほども諦めかけた時に海未の耳に聞こえてきた言葉、希は必死になって叫ぶが、海未を奮い立たせるほどの効果は見られない。

 少女達の絶望に追い打ちをかけるように、ギンガの叫びが聞こえた。振り下ろされた爪がギンガを引き裂いたのだ。

 その一撃はギンガの皮膚を文字通り引き裂き、光が血のようにあふれ出す。ギンガの体から力が抜け、噛み付きからは解放されるも、横に蹴飛ばされる。

 地に倒れるギンガは、そのダメージからすぐに起き上がることができず、膝立ちの状態にとどまる。さらに胸で青く輝いていた光──カラータイマーが赤く点滅を始める。

 

「そんなっ、時間が!」

 

 カラータイマーが赤に変わること、それはギンガにライブできる制限時間を意味していた。ギンガへのライブは約三分間が限界、それ以上のライブはリヒトの命にかかわることになってしまう。つまり、残り少ない時間内でダークガルベロスを倒さなければならない。

 その意味を理解している希は、焦りの声を上げる。

 ギンガは点滅を始めたカラータイマーを確認し、体に力を入れ立ち上がる。

 構え、ダークガルベロスの出方を探るが、その両目が赤く光り、噛み付かれていた左腕が痛み始める。

 左腕を押さえるギンガ。おそらく、このまま赤く光る瞳を対処できなければ、時間切れとなって負けてしまう。

 すでに、半分勝負が決まったようなものだった。

 

「嫌だよ……」

 

 その圧倒的絶望感の中、穂乃果がポツリと漏らす。

 

「嫌だよ、こんなところで終わるのは。まだ何も始めていないのに、スタートすら切っていないのに、こんなところで終わるなんて嫌だ!! 諦めたくない!!」

 

 穂乃果はその拳を強く握りしめる。

 

「私たちは学校を守りたい! 学校の廃校を阻止したい! 海未ちゃんとことりちゃんとステージに立ちたい! 今までの練習の成果をみんなに見てもらいたい!! リヒトさんのように大勢の人を楽しませたい!! スタートを切る前に諦めたくない!! 今までの練習を、ライブに向けて頑張ってきた努力を、こんなことで諦めたくない!!」

 

 穂乃果の握る輝石が、輝き始める。

 

「だからお願い! ギンガさんを助けて!! 私たちの『夢』をあざ笑う『闇』を追い払って!!」

 

 グルルル、と唸り声を上げるダークガルベロスは穂乃果の叫びが気に食わないのか、こちらに顔を向け火炎弾を放とうとする。

 だが、穂乃果は恐れない。その強い瞳でダークガルベロスを睨み返す。

 

「逃げないよ。こんな『絶望』に私たちは逃げたりなんかしない!! あなたがどんなに強くても、私たちを恐怖させようとしても、ギンガさんがいる限り諦めない!! 最後には、ギンガさんが勝つって信じてる!! 私は、希望の光(ウルトラマンギンガ)を信じてる!!」

 

 親友の、大好きな親友の心の叫びを聞き、海未は、ことりは諦めたくないと思った。

 その通りだ。まだ自分達はスタートすら切っていない、始めてすらいない。今日この日まで努力をこんなことで諦められるほど、簡単な覚悟は決めていなかったはずだ。

 スクールアイドル活動で学校の廃校を救う。それは成功確率一パーセントもない無謀な挑戦だろう。成功するなんて確証はない、逆に大失敗して、恥ずかしい思いをするかもしれない。

 だからどうした。その方が面白いに決まっている。無謀だからこそ、誰も成し遂げないことだからこそ、『あの人』は面白いと言って挑戦するのだ。可能性を掴むために。

 どうやら自分は、『あの人』の影響でこんなにも挑戦心が高められたらしい。

 そして同時に、海未は情けなくなった。常日頃から武道などで鍛えていた『心の強さ』が、こんなことで揺らぐなんて、大好きな親友が恐怖に打ち勝つために叫んだというのに。自分はここで脅えているだけか? 違う、共に立つんだ。親友が信じる希望の光を信じるんだ。

 

「私だって……」

 

 そして、海未は叫ぶ!! 

 

「諦めたくない!!」

 

 瞬間、海未は己の胸が温かいことに気が付いた。正確にはそこにしまっておいた宝石、朝家を出る時に父親から『お守り』として渡された赤いY字型の宝石。それがいま、輝いているのだ。

 海未は紐を手繰り寄せ宝石を掴む。

 

 ──諦めるな。

 

 また声が聞こえた。

 

 ──光を繋ぐんだ!! 

 

「穂乃果!!」

 

 海未は叫んだ。呼ばれた穂乃果は海未へと振り返りアイコンタクトを交わす。二人のとった行動はいたってシンプルだった。互いに近づくと、穂乃果が海未の肩に手を置く。

 赤い輝石の僅かな光が海未へと伝わる。

 ダークガルベロスはすでに火炎を口の中に溜め終えていた。後は、その火炎を少女たちめがけて放つだけだ。

 だが、それよりも海未の方が早かった。

 宝石を握る左手を前に出し、右手を引く。その構えはまさしく、慣れ親しんだ弓道の構え。海未の視線が鋭くなり、ダークガルベロスを見据える。宝石は赤色から青色に色が変わる。

 

「──────っ!」

 

 一瞬、海未の集中力が極限まで高められ、引いた右手を開く。

 放たれた青い光は、尾を引いて飛翔する。

 そして──―、ダークガルベロスを撃ち抜いた。

 

『────!!』

 

 少女たちから来るはずのない攻撃を受け、動揺するダークガルベロス。怪しげに光っていた瞳は光を失い、ギンガは腕の痛みから解放される。同時に、少女たちを囲んでいたメザードの群れも消滅した。

 

 ──海未……。

 

 ギンガは──リヒトは海未の方を見た。矢を放ち終えた海未は、ゆっくりと息を吐く。ギンガの視線に気が付いたのか、海未は穂乃果と共にギンガに向き合う。

 

「私たちは諦めません、あなたの勝利を信じてます。ですから、必ず勝ってください!」

 

 海未の隣で穂乃果が力強くうなずく。

 リヒトは海未の言葉を受け、小さく微笑んだ。

 

 ──ったく、女の子にここまで応援されて負けちゃ、かっこ悪いよな。

 

 リヒトは──ギンガは立ち上がる。ダークガルベロスに引き裂かれた体に手を当て、己の光をもって傷を癒す。だが、腕の方の傷は深く、未だに光が漏れている。手を当て光で傷を癒そうとするものの、深い傷跡は修復されず、わずかな光が漏れ痛みが残る。

 体力は、戦いのダメージにより限界が近い。

 カラータイマーは点滅している。

 ライブ解除までの制限時間、敵に有利な位相空間。

 ダークガルベロスは海未の放った矢を受けても、わずかに怯むだけで大きなダメージにはなっていない。

 条件はこっちが圧倒的に不利。

 だが負けるわけにはいかない。世界のためではなく、少女たちの『夢』を守るため、少女たちに迫る『闇』を振り払うため。

 そして何より、

 

 

 

 女の子に応援されて負けるなんて、リヒトのプライドが許さない。

 

 

 

 ギンガは、四肢に力を入れ立ち上がる。

 ダークガルベロスはギンガの闘志が再び燃えたことを受け、瞳を光らせる。

 ギンガの左腕が痛みだす。

 

 ──それが、どうしたっ!! 

 

 ギンガは痛みに耐えながら、右腕を頭部に持っていきクリスタルを紫に光らせる。放たれるギンガスラッシュはダークガルベロスの体から火花を散らせる。ギンガスラッシュを食らったダークガルベロスは怯むものの、すぐさまギンガを睨みつけ瞳の光を強くする。

 ギンガの左腕の痛みに加え、自らを三人に分離させ、ギンガを襲う。放たれる火炎弾がギンガの周囲に着弾し、爆炎を上げる。ギンガは襲い掛かる火炎弾に負けずに立ち上がるも、豪雨のように放たれる火炎弾に苦戦する。右手を前に突き出しバリアを展開しようにも、痛む左腕を押さえているため、展開できずにいた。

 海未はギンガを援護するために矢を構えるが、光る瞳が少女たちの視界にいくつものダークガルベロスの姿を映す。

 

「どれが本物なの!?」

 

「くっ」

 

 ダークガルベロスの幻影に翻弄され、どれを撃てばいいのかわからずにいた。

 このままでは、マズイ。どうすれば……。

 その時──、

 

 

 

「海未ちゃん!! 今矢を向けているところから左に向けて!! それが本物!!」

 

 

 

 後ろから聞こえた幼馴染の力強い声に、海未は迷わず狙いを変え、矢を放つ。

 青い尾を引いて放たれた矢は、再びダークガルベロスを撃ち抜き周囲の幻影を消し去る。

 

「ことりちゃん、ナイスアドバイス!!」

 

 穂乃果はこの窮地を打破するための『光』をもたらした幼馴染に向け、サムズアップを送る。その言葉を受けた幼馴染──南ことりはその瞳に涙を浮かべつつも、笑顔でサムズアップを返す。

 

「ことり……」

 

「ごめんね、海未ちゃん、穂乃果ちゃん。私には二人みたいな『力』はないから、どうすることもできなかった。でも、やっぱり私も諦めたくない! 私も穂乃果ちゃんと海未ちゃんとステージに立ちたい!! だから私もギンガさんを信じる!! 私たちでギンガさんを助けよう!!」

 

 ことりの力強い言葉に、二人は頷き返す。

 だが、後ろから聞こえた叫び声にハッとなって振り返る。そこには、ダークガルベロスが立っていた。

 ダークガルベロスは再び攻撃してきた少女たちを襲うとするも、接近してきたギンガの蹴りを食らい吹き飛ぶ。

 ギンガは少女たちを見る。

 少女たちは、ギンガに向かって頷く。

 ギンガは──、少女たちの思いを受け取り頷く。

 そしてダークガルベロスへ構える。

 

 

 

 勝負はまだ決まっていない、少女達が覚悟を決めた今、本当の戦いが始まる。

 

 

 

 




 第四章へと続きます。
 
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