パソコンに向かう一人の女性。名をうちは、旧姓春野サクラという。
彼女はパソコンと向き合い、ムムムと唸り声を上げる。火影であり、彼女の班員でもあったうずまきナルトから命じられた医療班の班編成に頭を悩ませている彼女は、後ろからそっと近づく影に気が付くことはなかった。
彼女の肩に手が置かれる。
「少しいいか?」
「キャッ! びっくりしたァ。あ、どうしたの、サスケくん?」
彼女の肩に右手を置いたのはサクラの夫であるうちはサスケであった。先日の“後に来る者”との戦いを終えた彼は、今は里で一人の忍として、火影の友として働いているが今日はたまたま任務が入っておらず家でゆったりとした時間を家族と過ごしていた。
「……」
「ん?」
サクラの視線から少し顔を背けるサスケ。このような場合、彼は話したいことがあっても何かしらの理由で話し難いのだとサクラはこれまでの経験から知っていた。なので、サクラはサスケの言葉を引き出すために笑顔で続きを促す。
「……アレを」
サスケがサクラの肩から離した右手で指し示す先にあるのはサクラが今まで使っていたパソコンだった。
「パソコン?」
サクラは今までのことを反芻する。夫であるサスケがパソコンを使っていたのを見たことがない。尤も、サスケは多くの時間を長期任務で留守にしていたので仕方のないことではあるが。そんなサスケがパソコンを指したことに対し、疑問を覚えたサクラの口からは意識せずとも疑問符が出てしまっていた。
サスケは静かに頷く。が、いつもは変わることのない表情が羞恥に赤く染まっている所を見ると、どうやら彼は勇気を振り絞って妻に教えを乞いているらしい。子どもの時、常に優秀であり周りに教えを乞う経験がなかったサスケにとって、このように誰かに教わるというのは中々に恥ずかしいものということである。
「ああ、パソコンだ。ナルトに子どもたちの写真を自宅で現像できると聞いてな。プリンターというものを買ってきた」
「あ、ホントだ」
サスケの後ろに置かれていた箱を見てサクラは納得する。
サスケくんったら……カワイイ所を見せてくれちゃって。つまり、これはアレよね? 私とサラダと一緒に写真に撮って家族写真を増やしていこうってことよね? しゃーんなろー!
思わずダラしない笑みがサクラから零れる。彼女の師であった五代目火影綱手が今のサクラの表情を見ていたら『自来也のようなヘラヘラした顔をしおって! 腑抜けているぞ!』と怒鳴られたであろうが、今は綱手はここにいないので彼女を表情を叱責する者はいなかった。
「確かに、今までは写真を家族で撮ることもなかったから必要ないと思っていたけど、サスケくんの任務も終わったし里に居れるんだよね?」
「ああ。これまでお前とサラダには寂しい思いをさせてきたと思う。済まない」
「謝らなくてもいいのに。サスケくんは木ノ葉、ううん、世界を守るために旅を続けてくれていたから一緒に居ることができなかったのは仕方ないよ」
「サクラ……」
「自慢の旦那様だよ」
そうやって笑いかけるサクラを見たサスケの頬は僅かながらも再び赤く染まる。
「サスケくん、こっち来て座って」
「ああ」
サクラは自分が座っていた椅子を引いてサスケにそこに座るように促す。次いで、彼女はプリンターの箱を開け、中身を取り出した。
「まずは接続ね。ドライバーはっと……CDを入れてパソコンの本体にインストールするタイプね。サスケくん、できる?」
無言で顔を横に振るサスケ。その背中には哀愁が漂っていた。
「ごめんね、教えるから。そんなに落ち込まないで」
慌ててサクラは椅子に座るサスケに駆け寄り、パソコン用語の説明を行っていく。その様子をソファに座りながら眺めていた女の子は口元を緩ませる。
「夫婦の時間を邪魔しちゃダメだよね」
クールに去る女の子、サスケとサクラの娘であるうちはサラダの夢は里長である火影になること。火影とは皆に認められなければ成ることができない。そのためには、皆の気持ちを理解し、寄り添うことが何よりも重要だ。
少しの時間ではあるが、七代目火影と共に居た彼女はそのことを教わらずとも理解していた。そして、彼女に灯った火の意志はやがて木ノ葉隠れの里を照らすことになるだろう。今は小さな火種であろうとも彼女が人を理解しようと精進を続ける限り、その意志は燻ることはない。
自室へと向かうサラダの顔には優しい笑みが浮かんでいた。