うちの子のボイスは女性18番を想定しております。
「そういやお前、今度の適合試験は目玉の新人が来るって話聞いたか?」
「人を目玉商品のように扱うなよ。それとそんな話は俺は聞いてねえけど、どんな新人が来るってんだ?」
ロビー2階にあるソファーで炭酸飲料を片手に、俺ことアークレインとリンドウはつかの間の休息を楽しんでいた。
「それがよ、何でも適合審査の段階でのデータベースの照合の最中に『新型』と適合する候補者が見つかったんだと」
「へぇ?あの恐ろしく適合しにくい『新型』にとうとう型の合う奴が現れたってか...」
新型神機、正式には第二世代型神機と呼ばれるそれは、現状主流となっている第一世代型とは異なり遠近両用型の汎用性の高い神機である。
ただしその複雑な機構を制御する上で神機使いに投与するP53偏食因子になにやら少々特殊な培養を施さなければならないらしく、その影響で適合できる候補者が一気に絞られてしまう。
俺はその記念すべき第一例として現在も相棒片手に戦っているわけだが、本部にいた頃から研究者たちに口を酸っぱくして『絶対死ぬなよ(貴重な研究対象だから)』と言われていたものだ。
要するに、俺が初めてこの第二世代型に適合して以降、新たに量産型の新型に適合できたのは本当に指で数えられる程しかいないのである。それがここにきてまさかの極東で適合者発見だというので少々驚く。
だが、俺の元にそんな情報は届いていない。果たしてリンドウはどっからこの情報を仕入れたんだ?
「(しかもこの話、あんまり大きな声で言えねえけど、ヒバリちゃんから直で聞いたネタだからな)」
...士官として破ってはいけない守秘義務を堂々と無視して話していることが判明。しかもオペレーターまで、一体何をしていやがるんだお前たち。
「(...お前ら二人とも後で支部長室送りにしてやらなきゃならんようだな)」
「「なんでだ(ですかっ)!?」」
息もぴったりのタイミングでリンドウとヒバリが同時に声を上げる。というか、ヒバリは地獄耳なのか?幾ら俺たちのくつろぐソファーのすぐ真下に受付があるとはいえ、1フロア上での小声の会話の内容をバッチリ掴むとは。
「当たり前だ!」
「そんな!横暴です!!」
「そうだそうだ!」
「...軽度とはいえ情報漏洩は問題だと思うが?特にヒバリ、お前の行動は尚更だぞ」
「うっ...」
竹田ヒバリ、極東支部のオペレーターを務める17歳の若き戦友の一人。例え直接戦わなくたってサポートをしてくれるのだから俺にとっては戦友なのだ。
彼女は普段の仕事ぶりは文句なしのキッチリした物で、たまにミスこそあれどそれを部隊員がフォローに回る様子を見せるなど、周りや実働隊員との信頼関係も築けている。
が、どうも時たまノリが良すぎることがある。その結果が例えば今のような情報漏洩だったりする。ましてや、この3人の中では最も階級が高い俺にその情報が回ってきていない(ヒバリは適合候補者のデータベースと支部が管理する神機のデータを閲覧・照合する権限があるため例外だが)所を見るに、おそらく漏洩してはダメな情報ではと思う。
「とりあえずこのことは支部長に報告な・・・っと、電話?誰からだ?」
二人に刑罰を加えることを宣言したと同時に俺の携帯端末が着信を告げる。発信者を見ると画面には
「喜べお前ら、ちょうど支部長からお呼び出しがかかったぞ。はいもしもし?」
『突然ですまないね。実は今から行われる適合試験に、君にも参加してもらいたい。なに、いつもの神機への適合失敗の際の介錯を頼みたいんだ』
「あー了解いたしました。それと支部長、それが終わったらご報告したい事があるので少しで構いませんからお時間をください」
『分かった、手短に頼むよ。では、第三訓練場に至急神機を持って来てくれたまえ』
そういうと支部長の方からブツッと一方的に通話を切られる。相変わらず事務的で可愛げのない野郎だと思いながら端末をポケットにしまうと、リンドウの方を向いてニヤリとしてやる。
「つうわけでお前らの行動の報告決定な。そんな重い処分じゃねえだろうが・・・まぁ覚悟しとけ」
「「ガァーーーーーン」」
「...お前ら何か打ち合わせでもしてるのか?」
再び息の揃った絶望のリアクションをとる二人を尻目にエレベーターヘ向かう。神機保管庫へ行き先を指定し、しばらく待っていると扉が開く。
入れ替わりにツバキちゃんとすれ違うが、特に話す事もないので目線だけで挨拶をして乗り込む。他にエレベーターへ乗る者もおらず、俺一人を乗せて神機保管庫へと下っていく。
(ったく、支部長も適合試験をやるのに人手が要るってんなら前もって連絡くらい寄越せっての。こちとら、テメエが次から次へと発注かける『デート』のせいでクタクタになった体を休めてたってのに...)
バレると実にいい笑顔でさらに仕事を増やされるのは目に見えているので、決して口には出さないが。
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ヴィーンとエレベーターのゲートが開き、神機格納庫へと到着する。誰もいない無人の格納庫に備え付けられたターミナル端末をタカタカと操作をして、対アラガミ装甲に使われる素材でコーティングされた神機収納ケースを取り出す。
「にしても、神機使いの介錯ってのも嫌な役回りだな。適合に失敗した場合、取り込んだ神機固有の偏食因子を体に適合される前に”絶命”させる...。俺って絶対に呪われてるんじゃねぇのか?」
なんて一人愚痴りながら格納庫の出撃ゲートへ歩みを進める。
ところで神機使いが扱う相棒ともよべる神機。実はこれ、誰もが扱えるわけではない。
”武器が”装備する人間を選ぶなんていうような、まるでアラガミが発生する前にそこら中の先進国で流行ったファンタジーみたいな要素がある。
もちろん魔法や呪いといったようなオカルティックな要因ではなく、現在のオラクル技術できちんと説明できる科学的な根拠によるものだ。
というのも、神機使いは自らの体にオラクル細胞から抽出した”偏食因子”という一種のアラガミを構成する素となる細胞を投与している。
さっき言ったP53偏食因子というのも、数ある偏食因子の中から比較的人体への投与を行った際にも危険性が少ないとされる偏食因子であり、現在の神機使いは一部の例外を除いたほぼ全てがコレを体に有している。
で、この偏食因子というのがどんな役割を果たすのかというと。
大雑把に言えば『人為的に調整されたアラガミ』である神機が、装備者であるパートナーの神機使いを喰わない様にするための誘導装置だ。なに?なに言ってるのか全く訳わからんって?
そもそもアラガミを構成するオラクル細胞というのは、考え捕食する、それを実行していく一個の”単細胞生物”である。
単細胞なのになんであんなデカイ生き物がそこら中を闊歩してるのかというと、単細胞が他の単細胞と強固かつしなやかに結合しあってあの形を生み出している。つまり、オラクル細胞という生き物自体は”単細胞”だが、オウガテイルやザイゴートといった俺たちが目にするあのアラガミは”単細胞が集った”多細胞生物”と言える。
厳密には多細胞生物とは全く異なるんだが、とりあえずはそういうことで理解してくれ。いわゆる似て非なる者ってやつで、その辺の説明はややこしくなる。
でだ、全てのオラクル細胞に共通する要素があり、それが俺たち神機使いが『ゴッドイーター』と呼ばれる所以でもある”捕食本能”というやつだ。それは人間に作られたアラガミである神機も全てに例外なく有している本能であり、もちろん、外を闊歩している野生?のアラガミたちも全てが有する本能である。
だが捕食本能とは別にもう一つ、オラクル細胞が持つ性質がある。それが『偏食』という性質、つまりは食わず嫌いの特性だ。
全アラガミに共通する要素として、自分と姿や形質が似ている存在はよほど自分の空腹が酷く他に食べられる様なものもない状況でない限り、基本的に捕食しないというなんとも変な性質を持っている。
ここで最初の話が繋がってくる訳だが、P53偏食因子を始めとする人体へ投与されている偏食因子というのは、これまた大雑把に言うと装備する人間を獲物として食いたくなくなるよう神機に思わせる因子である。というか、偏食の傾向をコントロールしてそうなるように調整したのが偏食因子という細胞なのである。
そしてここが最も厄介なポイントなのだが、”神機は人を選ぶ”というのはつまり、神機一つ一つによってわずかに”偏食”の傾向が異なっているということ。おかげさまで、偏食因子もその神機に合うように培養や調整の仕方を変化させなければならない。
ようするに、神機の数だけ神機を扱うのに必要な偏食因子の調整パターンは増える。
だが、偏食因子というのは先も言った通り謂わば細胞の一種であるため、人間それぞれの個体全てに適応できうるかといったら決してそんなことはない。
偏食因子を投与しても体がそれを拒絶するか、あるいは偏食因子自体が投与された新たな依り代を受け付けず捕食するか。
人間が偏食因子に適応できなかった場合、そのどちらかのプロセスを経て最終的には人体を依り代としたアラガミと化してしまう。
ゆえに、偏食因子に適応できる人間は限られているし、その性質から神機もまた基本的に一人につき一本しか使えないのだ。先ほどの呪われているのか? という独り言も、このことが理由である。
人体を依り代としたオラクル細胞は、原因は分からないが非常に多種多様な変異を遂げる傾向がある。
これもまたややこしくなる話なのだが、またまた大雑把に言うと、人体をベースとしたアラガミはオラクル細胞の強固な細胞結合が他の自然発生したアラガミと比較して、『より硬く、よりしなやか』になると思えばいい。
つまり、他の神機やアラガミによる『オラクルが食い裂く』という過程を経た攻撃は、人間を依り代としたアラガミに対しほとんど意味のないものになってしまう。まさに『無敵のアラガミ』の誕生となるわけだ。
そしてそれは、神機の適合に失敗した人間に起こりうる現象であり、その場合、既存の神機で倒せなくなる...。
つまり、オラクルが特異な変異を遂げる前に迅速かつ確実にアラガミを抹殺する必要性がある。適合失敗から抹殺までの一連の流れのことを、フェンリルでは『介錯』と呼ぶ。
そんなお仕事を俺は支部長から任されたのだ。
もっとも、昔と違って現在はコンピューターによる適合候補者の選定精度はとても高い基準を維持しているため、適合失敗が起こる可能性は非常に稀だ。
しかし万が一適合に失敗した場合、ぐずぐずしているとあっという間に誰も勝てない無敵のアラガミへと変貌してしまうので、適合試験の際はかならず裏で神機使いがいつでも飛び出せるように待機するのだ。
さて、神機も取り出せたし、訓練場へと向かうとしようか。訓練場と格納庫はエレベーターではなく通路で直接歩いていける。自分の相棒の入ったケースを片手に持ちながら、少々早歩きで第三訓練場へと向かう。
訓練場の扉へ近づくと共に、支部長の何を考えてんのかを読ませない”不敵な”とでもいうか、俺にとっては聞いてて実に不愉快な声が聞こえてくる。
『少しリラックスしたまえ。その方が良い結果が出やすいからね』
どうやら今回適合試験を受ける新入り君はもう既に訓練場へ入ったようだ。というか、まだ俺の準備が出来てない段階で新入りを入れるなよと言いたい。
介錯をさせるにしても実行するのは俺なわけで、準備が整っていなければ出来るもんも出来ない。急いでケースから神機を取り出し接続を行う。うむ、この間は柄の部分がポッキリ逝ってたのにも関わらず相棒はご機嫌な様子。さすが楠家のメンテナンス能力は頼りになるなと感心する。
ポケットから携帯端末を取り出して支部長の番号をコールする。するとすぐに訓練場の中から『すまない、業務連絡というやつだ。くれぐれも『そのまま待機』してくれたまえ』という支部長の声が聞こえるとほぼ同時に通信がつながる。
「あー支部長、お待たせしました。現場配置完了『
『うむ。そのまま神機を構えたまま待機、必要な際にはすぐにコールをかけるよ』
「了解いたしましたよー」
ブツッと通話が切れると同時に「このクソ野郎」と忘れずに付け足しておく。
「さぁーって、それじゃ俺も適合失敗が起きねえように祈っておいてやるかね」
あくまで直ぐに飛び出せる体制を崩さずに、そんな不幸な事故が起きないように神頼み位はしてやろう。としようとしていた所で...
「おっかしーなぁ、第三訓練場って多分この辺なんじゃないかと思うんだけど...あっ、ここの関係者さん見っけたから聞いてみよう! おーい、そこの神機持ってる金髪のお兄さーん!!」
「ああん??」
能天気そうな可愛げのある声に、いかにも能天気そうな喋り方、あんまりにも訓練場という場所に似合わない、無邪気という印象がぴったりな女の声が後ろから聞こえた。
しかも神機を持った金髪のお兄さんというのは、どう見たって俺しか有り得ない。
声のした方に振り向くとフェンリル支給の制服を着た少女がタッタッターとこちらに駆けてくる。
若干色素の抜けた金髪のセミロング、日系の顔つきに白人のように色白な肌に綺麗な碧眼を持つ少女。右腕に赤い腕輪が装着されていないので、今日適合試験を受ける新入りの一人なのだろう。しっかし、まだ正式に
とりあえずまずは彼女の相手をしてみよう。
「よう、神機持った金髪のお兄さんってのはもしかしなくても俺のことだな。さて新入り、ここフェンリル極東支部へ来るにあたり案内を務めていた関係者はどこに行ったんだ?」
「えーっとですねー、途中でなんか緊急の招集が掛かったみたいでして。代わりを寄越すって言われたので待ってても全然こない内に適合試験の時間になっちゃって、それで仕方がないので自力で適合試験を行う第三訓練場を探してた所なのでーす」
やっぱりマズかったですかね? てへっ☆という感じで話す新入り。
(コイツの案内役を任された奴には説教だなこりゃ)
ちなみに案内役本人がこの瞬間、体をブルリと震わせたのはここだけの話である。
「ああ、本来ならお前は銃で射殺されても文句は言えねえことをやってるんだが...。今回のはお前の言い分を聞いた限り明らかにこちらの不手際だから、特に気にするこたぁない。さてと、お前が目的地としていた第三訓練場ってのは、この扉の奥だ。この奥で、ゴッドイーターになるための試験が行われる手筈になっている、そうだな?」
「あ、は、はい!私は事前の説明でそう伝えられました!」
「ふむ...」
とその時中にいる新入りのものであろう激痛に叫ぶ少年の声が響き始める。
『うあぁぁぁぁぁぁぁァァッッッッッあああアァァァァッッッッ!?!?!?!?!?』
「ひっ...」
「始まったか...」
少年の悲痛な声を聞いて思わず怯えた様子を見せる少女。それも無理はない。
現状世界で唯一放送されている公共放送網において、神機への適合試験というものはあくまで『アルコールパッチテスト』と同じくらい簡単なものだと表現されているが、実際は中にいる新入りの少年がこんな叫びをあげているように、そんな生易しいもんではない。
何しろ自分の体に”異物”である偏食因子を『腕輪の接続と同時に無理やり』押し付けて固定するのだ。新入りが叫びをあげるのは、異物であるはずの偏食因子が体に無理やり文字通り”侵食している”から。それがどれほどの激痛を生み出すのか、それは経験した者にしか分からないが壮絶な痛みなのは確かだ。
もちろん、そんなことを大々的にオープンしてしまっては、志願して神機使いになろうという存在が減少してしまうことが多いに予想できるため、適合試験の実態は公には伏せられているのである。
目の前で怯える少女は今、その現実を知ったというわけだ。
本来ならば、この叫び声が聞こえない控え室に隔離して待機させておくことで、こうした現象による不安や苦痛、また、それによって生じる適合率の低下からの神機による捕食を防ぐためのタイムテーブルが組まれているはずなのだが...。
その予定が狂ってしまったことにより、少女に要らん不安要素を植え付けてしまったようだ。
「新入り、怖いか?」
「は、はい...怖い、です...」
「そうか。まあ普通こんな状況になったら誰だって怖い。ただ、もちろんそりゃ最初は悶えたくなる程には無茶苦茶痛いが、それに耐えられれば神機使いになれる。一番まずいのはここで心を不安一色に染め切っちまうこと。自分は必ず試験をパスするって思ってれば大丈夫、きっと神機使いになれるさ。っておっと、お前さんは神機使いになりたくなかったってことはないか?」
「い、いえ、これも仕方の無いことだって分かってますし納得もしてますよー?」
「ふっ、そいつは結構。では、多分これが終わったら次はお前さんの番だ。新入り、頑張ってこいよ」
「はい!ありがとうございます!」
どうやら多少は緊張を解せたようだと少女の顔を見てホッとする。
さきほど何故神機使いになりたくなかったのでは?と聞いたのか。答えはこの世界の現状の権力の縮図にある。
アラガミが出現した時以来、当時はただのフィンランド発祥の穀物産業資本であったフェンリルは、アラガミを構成するオラクル細胞の研究に文字通り全身全霊を懸けて尽力してきた。その結果として、今俺が持っている神機であったり、地球上の資源がほとんど壊滅した現状を支えるオラクルを利用した技術であったりを生み出し、現在の世界を支えている。
ターミナルからアクセスできる電子資料にも(思わず自分で書くなよとツッコンだが)『フェンリルは事実上の世界の盟主である』と表記しており、そしてそれはまぎれも無い事実である。
外部居住区で日々アラガミに怯えながら暮らす人々への無償の配給であったり、電力の供給であったり、フェンリルがいなければある基準以上の生活自体がもはや成り立た無い。
しかし一方で、配給の生産が需要に対してどうしても追いつききれていないという点も問題としてあり、ときどき外部居住区住民による配給の増量や質の向上を訴えるデモが起きたりもしている。
そんな彼らからしてみれば、命をかけてアラガミと戦っているとはいえ、その見返りにある程度の資材や食料を優先的に受け取れる神機使い達はいわば『特権階級』と呼べる。
ゆえに神機使いのことを快く思わない人も現実として存在するのだが、ここで思い出してほしいのは、フェンリルは無償での配給を行っているということ。それ自体はこのご時世に当然だと思うだろうが、それは裏を返せば世間では”フェンリルによって管理されることを承諾した”という風に取られる。
つまり、フェンリルによって配給はもちろんながら、自分のパーソナルデータも全てフェンリルに提供し、フェンリルから何らかの招集があった場合には従わなければならない。『配給をして助けてやっているんだから、お前が必要な時には必ず役に立ってもらう。拒否権は無い』という大前提が、フェンリルの庇護下に入る全ての人物に当てはまるわけだ。
その招集の最も一般的な例がこの”神機への適合試験”である。これが来た場合、よほどの代わりとなる何かをフェンリルに『税』として納めない限りは拒否出来ない。たとえその者が、フェンリルに対して良くない感情を抱いていたとしても関係はないのだ。
以上のような背景があることから、上官としてはこうした精神的・内面的な要素もしっかり配慮をしてやらなければならない義務があるので、彼女に先ほどの問いをしたのだ。彼女自身はパッと見て話してみたところ、この手の話題について特に気にしている様子はなさそうだ。
と、しばらくしていると少年の叫び声が聞こえなくなり、同時に、
『おめでとう、君もこれで晴れてゴッドイーターの仲間入りだ。用意が整うまで、控え室で待っていてくれたまえ。気分が悪いなどの症状がある場合はすぐに申し出るように。君には期待している、頑張ってくれたまえ』
支部長の声が聞こえた。
「お前の同期はどうやら無事に試験をパスしたみたいだぞ」
「そうみたいです..ね」
訓練場の扉が開き、先ほど適合試験を終えたであろう赤みがかった茶髪の少年が訓練場から出てくる。
「よう新入り、適合試験お疲れさん。所でさっき待ってろと言われた控え室の場所をお前さんはわかってるか? 分からないならすまんが俺と一緒にここで待機だ。もう一人のこの新入りの試験が無事にパスしたら一緒に案内するが」
「あ、はい!いえ問題ないです、ちゃんと場所は伺ってまいりましたので!」
「お、そうか。んじゃあ頑張ってくれよ新入り。さっきも言われたと思うが、気分が悪くなったら遠慮をせずにすぐに周りの人間を呼べ。これは大事なことだからな? 分かったか?」
「了解です!そ、それじゃ俺、し、失礼します!」
「おー迷うなよー」
一瞬少年の肩がピクンと跳ねたが気にせずそのまま歩き去って行った。事前に地図は渡してあるはずだし、気にしなくても問題ないだろうと結論付けて、目の前に立つもう一人の新入りを訓練場へと誘導する。
「大丈夫だ、自分を信じろ。そうすればちゃんと試験はパス出来るはずだ。俺はここでお前を待つことしかできねいが、ここでちゃんと待っててやるから、行って来い」
「そうですよね...ここで止まっててもダメですよね!」
「おう、その心意気で試験も乗り越えてみせてくれよ」
「はい!それじゃ先輩、行ってきまーす!骨は拾ってくださいねー」
「おーう頑張れよー」
『骨は拾ってください』ねぇ...。もし彼女が適合に失敗した場合、本当にそういう事態になりかねないので洒落になっていない。が、そこにツッコンでまた不安にさせるのは愚の骨頂なので適当に手をフリフリしながら返す。
そういえば、リンドウ達から聞いた極東初の『初めから新型神機使い』というのは、あの二人のうちのどちらなのだろうか?情報ソースが全適合候補者リストを閲覧できる権限を持つヒバリであるからには、情報そのものの信憑性はかなり高い。
なんにせよ、後で支部長に二人の立ち振る舞いの報告がてら問いただせばいいだけの話だ。
支部長の二言三言の言葉の後に響く激痛に苦しむ彼女の悲鳴を聞きながら、呑気なことにぼんやりとそんなことを考えていた。