結局本編第一幕はまだ完成していないのですが
なんとか今週末には掲載したいところですね...
それではリライト版プロローグ終章をお楽しみください!
結論を言おう、彼女の適合試験は無事に終了した。わざわざ俺が神機を持ち出したのが無駄になって良かったと思う。支部長にリンドウ達の悪事の報告がてらどちらが新型なのかを聞くと、後に適合試験を行った彼女が極東初の『初めから新型の神機使い』なのだそう。
いずれにしたって、新兵はほぼ必ずと言っていいほど俺が指揮する第一部隊へ回ってくるのである。理由はうちの隊だけ、部隊員の生還率が90%オーバーしているというありがたーい数字の記録を持っていることによる。
が、他にも理由があるのだ。
第三部隊にいる
一方第一部隊は一部
と、先に適合試験を終えた彼と彼女のこれからの展開を軽く見据えた上で、先ほど出会った時とは違いデカイ赤の腕輪を装着して目の前に立つ少女に話しかける。
「お前さんもとりあえずは適合試験の無事通過おめでとさん。さてこっからいよいよお前と、先に行ったあの少年は新人の神機使いとして仕事をしてく訳だ。
がまずは、新人の教練担当との顔合わせやらメディカルチェックやら・・・。要は今日のうちにやらなきゃならん事が山積みになってるんでサクッと済ませるぞ。とりあえずは俺がここから教練担当との顔合わせ場所(必ずエントランス受付前のロビーである)にお前を案内してやる。そっから先は教練担当にお前の先導をバトンタッチ、以降は担当者の指示に従うように。良いな?」
「はい!よろしくお願いしまーす」
「んじゃ、行くぞ」
少女を先導しながら神機保管庫への道を進んでいく。金属で出来た硬い床を踏むたびにコンコンと音が鳴り、周囲に反響する。しばらく歩き神機保管庫にたどり着くと、神機がぞろっと並んでいる光景が珍しいのだろう。付いてきた少女があちらこちらと目を向けるのがわかる。
「ふふ、生きていればそのうちこの光景も慣れてくるよ。新入りクン」
「おーリッカ。仕事ついでに悪いんだが俺の相棒を仕舞っといてくれないか?」
今回は普段の作業時の服装をしているリッカ。相変わらず油の付いた手袋でそのまま頰を拭う癖が取れていないのか、可愛らしいほっぺが油で汚れている。あのほっぺはプニプニしていて柔らかく、触り心地は最高なんだがなぁ。ん?ちょっと待てよ?
「リッカ、お前ってもう高校は卒業してるよな。前に俺の神機の柄がポッキリ逝ったあんとき、なんでお前制服着てたんだ?」
「うっ!?」
「しかも格好は手袋つけてゴーグルつけて。正直言うとあのジャンルの違う服装とアイテムを、いくら仕事中だからといって混ぜるのはちょっとガサツ過ぎると思うぞ?」
「べ、別にいいじゃない!レイン兄に見て欲しかったなんて、これっっっっぽっちも思ってないんだから!!」
「へぇ〜?そうなのかぁ」
「ニヤケ顏でからかうんじゃないよ!」
顔を真っ赤にして腕をブンブン回しながらうろたえるリッカ。ちなみに今自爆した事を彼女はおそらく気付いていないだろうが、俺にはこの後ろにいる新人を教練担当まで引き継ぐという仕事があるので、この場はこれにて失礼させてもらうとする。
「んまぁいいや。とにかくリッカ、相棒の収納を任せるわ。俺はこれから新人を連れてかなきゃならんから、また後でな〜」
「んもぅ...」
頰をプクーっと膨らませて抗議の視線を向けてくるが、お前がそれをやっても嗜虐欲を煽るだけである事に彼女は気づく日が来るだろうか?
「行くぞ〜新人」
「あっ、は〜い。では失礼しま〜す」
新人もリッカに一礼した後テクテクと俺の後ろにつく。神機格納庫にあるエレベーターのコンソールを操作して行き先をエントランスに指定する。扉が開くとエレベーターには誰も乗っておらず、そのまま新人と二人で乗り込み扉を閉じる。しばらくしてガコンと揺れるとエレベーターが止まり扉が開く。フェンリル極東支部、通称アナグラのエントランスへの到着だ。
エントランスで駄弁っていた何人かの神機使いが新人に目を向け、ヒソヒソと話をし始めるがスルーする。
新人をヒバリがいるエントランスの一階にあるソファーに座らせる。既にここへ来ていた赤みがかった茶髪の少年も、足をブラブラさせながら暇そうに座っていた。
「さてお前たち、女の方にはさっき話したが改めて説明をザクッとするぞ。これからお前らには、腕輪との適合率やら体の調子を測定するメディカルチェックを受けてもらう。
それが終わったら今度は訓練場にて、実際に神機を適合させた状態での実働訓練だ。その次の基礎知識を叩き込む講習を経たら訓練と座学を繰り返し、その後は教官の判断によっていよいよ実戦配備...だ。ここまででお前ら、何か質問はあるか?」
「特にありませーん」
「俺も、今のところは...」
少年の方は俺を前にして若干緊張している様子だが、少女の方は少し慣れてきたのかね。だいぶ間延びした能天気っぽい話し方に口調が戻りかけている。
「じゃあお前らはここで待機してるんだ。何かあったらそこのカウンターにいるあの女の子に指示を仰ぐように。
ちなみにお前ら新人の教練担当者は既に引退した神機使いだが、自他ともに甘さを許さない鬼教官だ。腑抜けた態度を取ってると本気でシバかれるから、その辺は十二分に気に留めておくこったな。つうわけで、俺は仕事があるんでこれで失礼するぞ。頑張れよ?」
「「はい!!」」
「よぅし、いい返事だ」
新入りの威勢の良い声に死ななければ良い神機使いになりそうだと感心しつつ、カウンターにいるヒバリへミッションの受注をする。
ヒバリから提示されたのは俺には少々難易度の低い任務であったが、わけを聞くと
しかも、報酬をケチったのか同行人数は一人だけのようだ。報酬は人数に応じて山分け分配される方式のため、多い人数で任務を受注すれば手取り分の報酬金額は減るというわけである。だがな...
「...あのバカは一遍本気でシバき倒してやらねえと分かんねえか?」
「えーっと、私からはコメントは差し控えさせていただきますね...」
そういって乾いた声でアハハハハ...と苦笑するヒバリを見て思わずため息をつく。どうやらお互い苦労をしているようである。
「ヒバリ、今度またあいつが身の丈に合わねえ任務を受注しようとしたら問答無用で拒否してくれて構わん。グチグチ文句いって引き下がらねえ場合は俺の名前を出していい。そこまでやってもまだ引き下がらない場合は、ツバキちゃん召喚だ、できるな?」
「了解しました!」
「うし、じゃあ頼んだぞ。ヘリの手配を回しといてくれ」
「はい!」
オペレーターとしてのヒバリに要件とシュンへの対策案を伝えた上で、再びエントランスのエレベーターに乗りこむ。10分も経たない内に神機保管庫へ現れた俺を見たリッカは、先の件のことが原因なのか少々ふくれっ面をしているが、気にせず要件を伝える。
「悪いな、急の簡単な任務が入っちまったんで相棒が入り用になった。さっき一応取り出した時に軽くチェックはしたが、メンテは万全だよな? リッカ」
「...ふふっ、もっちろん♪ どれだけレイン兄の神機を診てきたと思ってるのさ!」
「そうだな、悪い悪い。じゃあ神機を取り出したらちょっくら行ってくるわ。いつもの礼といっちゃあれだが、冷やしカレーあとで奢ってやるよ」
「約束だかんね?」
「おう」
話しながらも保管庫の機器を制御する機械をリッカはタカタカ操作する。あっという間に丁度俺の真横に来る位置に俺の相棒が収納されたケースが展開される。展開されたケースから神機を取り出して腕輪と接続、軽く一降り二振りして神機そのもののコンディションを確認するがどうやらバッチリなようだ。
刀身パーツの反りの部分(俺の神機の刀身はロングの刀シリーズだ)を肩にかけながら、神機保管庫とアナグラの外へ通じる通路を隔てる隔壁へと進む。
「レイン兄、行ってらっしゃい」
「おう」
後ろを振り返ると、満面の笑顔を浮かべたリッカの姿があった。こちらも笑顔で返しつつ背を向けてからのサムズアップで答える。
さあて、あの
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「チックショウ...こんな任務は俺一人でも出来る筈だったってのに...!」
ここは贖罪の街と呼ばれる場所。
アラガミたちの『食べ残し』である現代の世界においても比較的過去の建造物を残しているエリアである。周りにはまーるく抉られた穴の空いた高層ビルなどが乱立するなど、過去の人間が思い浮かべる自分たちの未来とは到底信じられないような無茶苦茶な光景も含まれてはいるが。
そんな場所にアナグラから派遣されてきた神機使いが二人いた。一人は第一世代の遠距離型スナイパー使いのジーナ・ディキンソン、一人は第一世代の近接型ロング使いである小川シュンである。
この任務を受注したのは彼・・・小川シュンなのだが、もともと彼はこの任務を一人でこなすつもりであった。なぜか? 答えは参加人数が増えれば増えるだけ自分の報酬の取り分が減るからである。だがオペレーターのヒバリが言う分には、この任務には最低でも二人以上四人以下であたれという規定が設けられているとのことで、シュン一人での任務報酬の独り占めは出来ないというわけであった。
なら別の任務にすれば良いと思うだろうが、実はこの任務、討伐対象の難易度の割に報酬の額が破格レベルで高い。
具体的に言うと、オウガテイル・コクーンメイデン・ザイゴートの所謂小型アラガミを一定数討伐し、コアを回収してくるというもの。
中型種であるコンゴウやシユウなどがそこに加わると少々状況は変わってくるが、現時点で小型アラガミしか確認されていないという事であるならば、それは神機使いとしてそれなりのキャリア(ただし時間だけ)を積んだシュンにとっては楽チンな任務であるように感じられる。つまりは楽して荒稼ぎができる美味しい仕事という訳だ。
彼が任務概要に書かれている”ある一文”をきっちり見逃していたから、そういう結論に至ってしまったとも言えるのだが...
彼が受注した任務の概要欄には以下のように記述されている。
”贖罪の街に出現した無数の小型アラガミ群を撃破しコアを回収せよ。討伐対象はオウガテイル・コクーンメイデン・ザイゴートの三種類である。
ただし対象は地中に無限とも呼べるべき膨大な反応が確認されている。討伐者は『一定数の目標の撃破とコア回収を終えた時点で帰投せよ』”
ようするにエンドレスよろしくアラガミが次から次へと出てくるぞ〜という訳である。
なので、討伐任務に出向くものはいつ囲まれても良いように対策をすべしと言外に概要欄に書いてあったのだが、報酬の額に目が眩んだ彼は当然この最も大事なポイントをスルーした状態で任務を受注。
それなりに付き合いのあるスナイパー使いのジーナを連れて二人で現場に出向いたところにいきなりアラガミの軍団に囲まれた挙句、対策を怠ったために反撃もままならなくなり止むを得ず救援要請を送ったのである。
「シュンッ、よそ見するんじゃないの!この数は幾ら何でもキツ...い!!」
「分かってるってのっ!クソッ邪魔だこの
目の前にただ動きもせずその場で攻撃をするアラガミ、コクーンメイデンをぶった斬る。ブレード型の神機がコクーンの体を袈裟懸けに深く切りつけ鮮血が飛び散ってゆく。
おそらくコアまで斬ってしまったかもしれないが、今の彼らに一体ごとのアラガミのコアをいちいち回収している余裕も時間もありはしなかった。
「シュンッ、伏せなさい!!」
「うぉっ!?」
突然の言葉に慌ててかがむと同時に自身の背中を硬いものが掠った感覚が走る。ほぼ同時にオウガテイルの断末魔が聞こえ、声のした方へと振り向くとオウガテイルが今まさに命を終えようとしている姿があった。というよりも...
「危ねえじゃねえか!?俺のいたところをブチ抜くとか正気かよ!」
「ゴチャゴチャ喧しいのよッッ! いいから少しでも数を減らしなさいよ!!」
「あぁッ!?」
口喧嘩に発展しそうになるところで視界に、ジーナに飛びかからんとするザイゴートの姿を捉える。ジーナの死角になる位置にいるザイゴートに彼女は気付く訳もない。
「くそっ...」
舌打ちをしながらジーナの後ろにいるザイゴートに向かって全速力で駆け出す。
「ジーナ!しゃがめ!!」
「はぁ!?何を言って---
「いいからしゃがめってんだ!」
ジーナは思いっきり怪訝そうな表情を浮かべながらもとりあえずは屈み始める。真後ろにいるザイゴートを一直線上で再び視界に捉える。ザイゴートは既に飛び掛かりを始めており、普段滞空する高さよりも高い場所にいた。
(まずいっ!!)
ジーナを踏み台にしてザイゴートのいる高さまで跳躍する。同時に後ろに構えていた神機を、目の前の敵を薙ぎ払う勢いで全力で振り抜く。
神機はザイゴートの卵の殻のような本体を真っ二つに切断し、ジーナを喰らわんと飛びかかっていたその体は落ちる勢いこそそのままに、しかしジーナの体を食らうことはなく彼女に降りかかる。
しかしそこはそれなりのキャリアを(こちらは経験も含めて)積んだ神機使い、シュンに踏み台にされたことを感じさせない華麗な動きで前転をして降りかかる血しぶきを躱す。
「ふぅ...まさかこの私が踏み台にされるだなんて...ねっ!」
前転をしたあとすぐに態勢を整え直したジーナは、そのままバシュンとさらに一体を撃ち抜く。
「しっかたねぇだろ!? 四の五の言ってる余裕はなかったんだから...な!」
シュンも負けじと近づいてきた一体を斬り伏せる。撃ち抜いては斬り伏せ、撃ち抜いては斬り伏せを繰り返し、やがて二人は互いに背中を預ける格好になる。
「...ねぇ?もしかしたら私たちって...」
「...意外とお似合いってか? 冗談じゃねえっての!」
「あら?ツレないのね..」
フフフと微笑を浮かべながらもこちらに飛んでくるザイゴートを撃ち落とす。続いて他のアラガミに照準を合わせ引き金を引くが、なんの反応もない。
「シュン、弾が切れちゃったわ。サポートお願い...ね?」
「お、おう!リロード中のサポートは俺に任せとけよ!」
そう言うとシュンは少しジーナから離れて神機を構え直す。
自分から積極的に突っ込んで良い状況でないこと位はさすがにわかる。今の自分がやらなければならないことはジーナにアラガミを近付けさせないこと、ジーナに近寄ろうとするアラガミを優先的にぶった斬れば良い。
「...へっ、結構簡単なことじゃねぇか」
シュンの言葉を合図にアラガミの何体かがジーナに突っ込む。アラガミたちの動きを冷静に見ると、自然と奴らがどう動いてジーナの元へ行こうとするか、何故だか頭に鮮明に思い描ける。思考演算の結果得られた、最もジーナに危険を与える可能性の高い個体の元へ神機を構える。
(へっ、こうなったらやってやろうじゃん?)
最も重要度の高いアラガミが自分の間合いに入った瞬間、シュンはステップで一瞬にして距離を詰め、その勢いのままに神機を横殴りに振り払う。断末魔の叫びをあげながらアラガミが倒れるのを確認しつつ、残る数体のアラガミにも気を張り巡らせる。
状況整理からの再度の危険性と敵アラガミ討伐の優先度の再確認を瞬間的に行うと、シュンはバックステップでジーナのそばに詰めて神機を構える。そして自分の間合いにアラガミが踏み入れると同時に距離を詰めてからの一瞬での攻撃を当てる。撃破を確認次第、状況と危険性の再把握を行いジーナの元へと戻り、次の対象が間合いに入った瞬間命を刈り取るべく攻撃を仕掛け、着実に一体一体を殺しジーナに危険が及ばないように戦う。
シュンの性格を知っている人間からして見れば普段の彼なら決して取らないであろう行動、しっかりと自分の頭脳で状況を把握し戦況を読み、確実に敵を滅し効率的に戦いを進める姿に驚くだろう。
しかし、今回の任務ではシチュエーションが悪かった。最初にジーナを狙わんと仕掛けてきたアラガミたちこそ数体であれど、それがここに残る全てのアラガミというわけではない。ましてや、”地面に無数とも取れる反応が存在しているという
刹那、ボコッと無数のアラガミたちが一斉に地表に姿を現した。
「なっ...」
「くっ、リロードがまだ終わってないのに...!」
しかも今まで減らしてきた数をそっくり補充するどころかさらに上回りそうな勢いである。
これはどう考えてもまずい、マズすぎる状況だ。新たに出現したアラガミたちはジーナの元へと一斉に襲い掛からんと突撃を始める。
「さっせるかよぉぉぉぉォォッッッッッッッッ!!!!」
がむしゃらでも何だって良い。とにかくジーナの元へ突っ込もうとするアラガミたちを、少しでも減らさんと神機で薙ぎ払う。
リロード中でありかつ装甲を持たない遠距離型神機のジーナは本当に無防備である。しかし先ほどとは変わって四方八方からやってくるアラガミに対して、思考がいくら働いてもそれに対抗しうる手段を己の体が実行できない。
(クソっ、クソッ!クソッ!クソッ!クソッッ!!!!)
自分の実力不足によって、いやそもそも自分がこの任務をよく確認しなかったせいでこのような状態に陥っているのだと再認識して悔しさがこみ上げる。
この任務、自分のミスで自分が死ぬのならまだ納得出来る。それは言い方は悪いが『自業自得』というやつであるからだ。
だが、それに巻き込まれて道連れなんてのは、巻き込まれた方は堪ったもんではない。せめてジーナだけでも絶対に生かしてやらなきゃならない...!
今のシュンに普段の子供っぽい内面は一切なく、その瞳は決死の覚悟を決めた『男』のものだった。だからシュンは、迷いなく自分の覚悟を口にした。
「俺がここで死ぬのは別に構わねえけどよぉ...」
そこで息を大きく吸い、
「俺のせいでジーナが死ぬことだけは絶対にあっちゃいけねぇんだよっっ!!!」
シュンはがむしゃらに振っていた神機を再度構え直す。その表情は不敵な笑みを浮かべているが、凛々しい覚悟も感じられるものだった。
「ダメよっ、シュン! 私のことは良いからアンタだけでも・・・!」
「へっ、そいつは聞けねえ願いってやつだぜ?ジーナ。まあカレルに言っといてくれよ、借金借りパクして悪いってよ」
「ふざけんじゃないわッ!自分で言いなさいよ!!」
「おいおい、そりゃ冷てーんじゃねぇか?」
「ッ!? シュン!避けて---」
ジーナの方に振り向いていた彼は再度顔を正面に戻すと、自分に飛びかかってくるオウガテイルがまさに
(へヘッ、なんか呆気ない死に方だなぁ...俺)
シュンは来る衝撃や痛みを覚悟し、静かに目を閉じて自分の命が絶たれる瞬間を待っていたが、その瞬間自分の真後ろからバシュンという狙撃の音が聞こえると同時に、生暖かいドロリとした液体らしき何かが顔に飛沫となって付着するのを感じた。驚いて目を開けると、狙撃によって体をぶち抜かれ肉片と化したオウガテイルの姿があった。
「...えっ?」
周囲を見やると、ジーナよりさらに後ろに見覚えのある姿を見つける。銃形態から近接形態へと神機の姿を切り替え、自分たちに襲いかかるアラガミをまとめて斬り払ってゆく金髪に黒いコートをまとった自分たちの上官...アークレインの姿に、シュンたちは思わず泣きそうになる。
「なにボーッとしてやがんだッ、さっさとブッ殺しちまえ!!」
レインからの言葉にハッとする。そうだ、自分達はアラガミに囲まれながら戦闘している真っ最中なのだ。せっかく拾って貰えた命を再びぶん投げるなんて事は絶対にしたくない。
「シュン、ジーナからあまり離れすぎるな! お前が斬り漏らしたアラガミは俺がフォローしてやる! 今はジーナのリロードが済むまでの時間を稼げれば良い!リロード完了次第遊撃をしつつヘリまで後退っ、良いな!?」
「りょ、了解!!」
「了解です!」
元々旧型スナイパー型神機使いだったのもあってか、瞬時にジーナがどういう状態にあるのかを判断したレイン。
レインの指示を受けてシュンは前衛に、レインは少し後ろに離れた所で神機を構え、シュンが倒しきれなかったアラガミを倒す用意を整える。ジーナはさらに後ろで神機のリロードを続ける。シュンが目前のアラガミへ斬りかかるのを合図としたアラガミの群れが、一斉にシュンは勿論その後ろに構えるレインやジーナへ向けても突撃する。
シュンは一匹でも多く狩らんと、神機を力強く薙ぐように振るう。数こそ多くとも、個体ごとの強さはアラガミの中では最弱に位置付く種族である。冷静な思考で常に戦い続けていれば決してどうにもならない相手ではない、だからこそ油断をすることなく一体一体を確実に倒していく、そんな意志がシュンの瞳には宿っていた。
(絶対にこんなとこでジーナを死なせてやるもんかよ!)
ただその意志だけで感情を奮い立たせ、けれども思考は冷静に。余計な思考を一切削ぎ落とした故の動きは機敏で鋭く、しかし柔らかさも兼ね備え、一切の無駄なく流れるように綺麗にアラガミの命を狩ってゆく。
「うらっしゃあッッ!!」
シュンが神機を振るう。刃に薙ぎ払われたアラガミ達は断末魔ともとれる叫びを上げながら倒れてゆく。シュンの薙ぎを運良く避けられたアラガミはジーナ達のもとへ行かんとするが、これもまた彼の後方に控えるレインの刃の餌食となってゆく。
一方、シュンの動きを後ろから見ていたレインは、シュンに起こった変化に気を向けていた。この任務へ来る前と今とでは、明らかに内面的な部分に変化が生じている。それもとても良い方向に。
(後ろに控える無防備なジーナを守ろうと全力で神機を振るっている...。それ自体はおかしい事じゃないが、ただ闇雲に正面から突っ込むのではなく一体一体を着実に倒す為に動いている。
しかも、周囲の状況も知覚しながら最優先で排除すべき脅威を常に把握し、かつ俺の援護射撃が来たときにも射線を妨げない位置を認識しながら戦闘をする...。明らかに今までには無かった行動だ。この任務のピンチを切り抜けなきゃならん状況下で、精神的に大きく成長を遂げたということか?)
なんにせよ、歓迎すべき変化であることには違いない。今までは『守銭奴の可愛くねえガキ』という感想をシュンに抱いていたレインは、目の前で起こっているシュンの大活躍劇にその認識を改めていた。
そしてシュンの元々の意識へ変革をもたらした|女性(ジーナ)を見やると、顔にニヤリとした、リンドウ曰くの気持ち悪い笑みを浮かべ叫ぶ。
「シュンっ、前衛と中堅を交代だ!」
「なんでだッ、まだ俺はやれる!!」
シュンの反応を見て益々笑みを(気持ち悪い方向で)深めたレインは、シュンの防衛線を突破したアラガミを両断しながらシュンの元へ近付き一言。
「お姫様の近衛はお前の仕事だろう?」
ようはジーナの近くで守ってやれ、という意味を理解したシュンは瞬時に顔を真っ赤にするが、凛々しくも意気のこもった表情に変わる。
「そういうこった!騎士様の役目は任せるぞ!」
「了解!!やってやる!」
シュンに近付くために前へ出ていたレインはポジションをそのままに、シュンはまさに騎士様の様にお姫様を守らんとジーナの元へと駆ける。レインはシュンがジーナを守りきれる位置についたのを確認すると、今度は怒りを含めた真剣な表情を浮かべアラガミ達と相対する。
「シュン! 絶対に斬り漏らすなよ!!」
「分かってる!!」
互いの掛け合いを皮切りとして三度一斉にアラガミが突撃を掛ける。そのなかで最もシュン達に近いアラガミに狙いを定め、数歩のステップで一気に距離を詰める。
「遅えんだって」
アラガミが気付く間もなく、振るわれた神機はその首を切り落とす。シュンとは違い、長年に渡る経験からくる破壊的な一撃は、アラガミの首に見事な切断面を残している。
「次はお前だッ!」
ロング型神機使いの基本、ゼロスタンスの構えをとり、なお無数に存在する周囲のアラガミに相対する。
直後、神機の下部にある遠距離型の銃口から大量のオラクル弾が発射される。ロング型と遠距離型の二つを持つ新型神機のみが使える攻撃法『インパルスエッジ』を用いて、周りのアラガミ達を爆発で吹き飛ばす。
近辺のアラガミをざっと倒したところで神機を変形し、遠距離型のスナイパーを構え直す。
本来であればスナイパー=狙撃手である神機使いは前線で遠距離型神機を構えるのは愚策とも呼べるべき行為だが、レインという男においてはその常識は当てはまらない。
当たれば確実に大ダメージを与える代わりに、消費するオラクル量も大きいスナイパー型神機だが、レインは神機を構えたまま四方八方に走りながら銃撃を始める。
走り回る事でグラグラと揺れ動く銃身から射出された狙撃用の弾は、まるで吸い込まれるの如く一切の擦りすらなく確実にアラガミたちの体を射抜くばかりか、複数並んでいたアラガミをも一直線上にまとめて串刺しにしてしまうようなものであった。
「すげぇ...あんな芸当まで出来んのかよ...っとオラァッ!」
前衛で起こるレインの蹂躙劇を前にして思わず感嘆の声を漏らすシュンだが、次の瞬間、自身の間合いにアラガミが入ったのを察知した瞬間、神機を袈裟懸けに振るい迎撃をする。続いて間合いに侵入してきた別のアラガミも同様に斬り伏せ、再度いつでも飛び出せるよう構える。
とその直後、
「リロード完了っ!戦闘に加わります!!」
というジーナの声が戦場に響いた。
近距離型に神機を変形させ、アラガミを斬り伏せながらレインが叫ぶ。
「よしっ、さっきも言った通りこっからは撤退戦だ! 無茶をするなよ。とにかく全速力でヘリのいるA地点まで後退する!! 行くぞッッ!!」
「「了解!!」」
最後尾のジーナに寄り添う形でシュンが布陣し、レインがその先を先陣を切る形で行動を始める。突如ボコッと、またもやアラガミの増援が大量に地中から湧き出てくるが、レインは自身の道を妨げる少数のアラガミだけを斬り伏せるとこう命令する。
「大方気付いているだろうが、この地中には無数とも呼べるアラガミの反応がある。こいつらと戦えば戦うだけどんどんジリ貧になってく以上、必要最低限、倒さなきゃこっちが危ねえ状況になる個体だけを倒せ!全部狩ってる暇も体力も無いんだ!」
「分かった!」
とにかく全部のアラガミを相手にしていられない。今はまず自分たちの避難が最優先である。レインはシュン達の返事に一度頷くと、袈裟懸けからの横薙ぎで道を邪魔するアラガミ達を一掃しながら前進する。
「うざってえんだよッッ!!」
シュンも負けじと自分の間合いに入ってきたアラガミ達を捌きつつ、目標地点へと歩みを進める。そのすぐ隣でバシュンバシュンと着実にトドメを刺していくジーナ。ふと視線をやると目が合う。彼女は普段は見せない本当に純真な笑みを浮かべ一言、
「私をお城まで導いて下さいませ、騎士様?」
ジーナからもたらされた謂わば
「お任せください、お姫様?」
と負けじと
が、前からバシュンという音が聞こえると同時に、自分の腹部に何かが突き刺さる痛みを受けた。
「痛ってぇッ!?」
「ラブロマンスはアナグラに戻ってからにしやがれってんだこのクソガキども!! 爆撃するぞ!?」
今は戦闘の真っ最中だということを忘れるな、そう言わんばかりに道を切り開いていくレインの姿を見て再度気を引き締め直す二人。お互いがお互いを支え、守る。二人の表情からはそんな思いが感じられた。
「ジーナっ、行こう!」
「ええっ!」
レインが作ってくれた通り道を妨げようとするアラガミに向けて斬りかかるシュン。オウガテイルが顎を大きく広げて食らいつこうとするが、それが果たされることもなく体を横薙ぎに両断され息絶える。宙に浮かぶザイゴートもまたシュンに食らいつこうと飛びかかる。しかしどこかから放たれた狙撃弾によって体が丸々はじけとぶ。
「シュン!」
「おう!サンキュ!」
今までは必要以上には関係を築かなかった二人が、即席とは思えないコンビネーションでアラガミを着実に一体一体倒して行く。
(こいつら、本当に綺麗なコンビネーションを発揮してやがるな...。いくら状況が吊り橋効果染みたものだったとしても、普通ここまで顕著に表に出るか?)
クイック捕食と呼ばれる、近接武器での攻撃の最中に瞬間的に捕食用の形態を具現化することで自身のステータスのバースト化やオラクルバレットの獲得が出来る
捕食が終わるとすぐさま次のアラガミに向かって神機を振り下ろしながら目の前を見やる。自分たちの目標であるA地点はもうすぐそこまで来ていた。ここまできたらもう戦う必要はない。全力疾走でスタコラサッサとおさらばするだけだ。
「お前ら、一気にスパートかけるぞ!! 1、2の3で猛ダッシュだ!」
「「了解!」」
「それ、1、2の、3だ!走れッッ!!」
言うか早いかレイン達は本気で駆け抜ける。無論、途中で攻撃を仕掛けてくるものには容赦なく銃撃を浴びせながら。
崖を勢いつけてなんとか登りきり無事にA地点へとたどり着いた3人は、肩で息をしながらもホッと一息ついていた。
だが、そんな中に憤怒のオーラを発する男がいた。戦いが終わった今、彼には上官としてやらなきゃならないことがある。
上官としての責務と役目を背負いながら、彼は静かに拳を握りしめた...。
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なんとかシュン達を救出し、無事にヘリの待機地点すぐ近くまで逃げることができた。シュンを目視で捉えた時、頭からオウガテイルにがぶりと食われる直前で本当に肝が冷えたが、なんとか狙撃によるフォローが間に合い、しぶとく生き残ることが出来て良かった。
だが、この非常事態はそもそもシュンの軽率な行為による結果。
その事実を俺は奴に突きつけ、学ばせるという責務がある。なにしろ同行者であるジーナを死の淵に立たせる愚を犯した、それは立派な罪であり、シュンにはその責任を取りつつ償ってもらわなければならん。内から滾る怒りを隠すことなく表に出しながら、シュンに然るべき対応をする為に近づく。
「さて、シュン。言いたいことは山ほどあるがとりあえず...歯ぁ食いしばれよ!!」
拳を強く握りシュンの顔を思いっきり殴る。
「ぐほぁっっ!」
踏み込みの効いた強力な右ストレートが決まり壁に飛ばされるシュン。突然のことにジーナが対応できない中でシュンが口を開こうとした時、
「お前は一体何をしたか分かってるのか!?」
その言葉とともに胸ぐらを掴んで引き寄せながら叫ぶ。
「お前の軽率な行動のせいで、自分の同僚が死にかねない状況に巻き込まれた! もしここで彼女が命を落としていたら、どう責任を取るつもりなんだ!?」
その言葉に対し、過去に自分のとった行動を心から悔いながら自責の表情を浮かべるシュン。
彼の表情にはただただ自身の軽率さ、それによって起こりかけた自分の死や危険に巻き込んでしまった自身の同僚へ対する申し訳なさ。それらが合わさった複雑なものとなっている。
今までとは明らかに違う、精神的に成長を遂げたシュンは今日の自分の行いを振り返っているかもしれない。
今までならば適当にハイハイと言うだけで同じことを繰り返していただろうが、今のシュンならちゃんと理解してくれる、そう思えるだけの感情をシュンから感じられた。
「小川シュン上等兵、上官としてお前に一週間の懲罰房での謹慎を命じる。また罰則として、許可があるまで任務には如何なる理由があろうと、受注は勿論、他の部隊の応援要員としての参加も許さん。
・・・一度自分のことをよく見つめなおせ。今日ここまで成長できたんだ、まずはよく考え、反省し、そして学ぶんだ。以上だが、何か質問は?」
「・・・ありません。謹慎命令、了解しました。謹んでお受けします」
「シュン...」
ジーナがシュンを切なそうな表情で見つめるが、シュンは彼女に対して申し訳なさがあるのか、顔を俯かせたままで目を合わせようとはしない。
「じゃあ帰るぞ。ジーナ、暫くシュンのことは放っておいてやれ。時には考える時間も必要だ」
「...了解です。すみません...」
とにかく、多少の怪我こそあれど無事で良かった。
神機を肩に担ぎながらヘリに向かう中で、俺は心から思った。可愛い後輩たちが自分より先に死ぬのはやはり辛い。アラガミが出始めた当初から散々人が死ぬのを間近で経験してきたが、人として感情がある以上はどうしても慣れることはない、いや出来ない。彼ら二人が餌食にならなくて本当に良かった。
本当に、良かった...
無情にも人が生きていくのが困難な環境となってしまったこの地球、神はなぜ我らにこれほどの試練を与えるのか?
その答えを求めても、返してくれる存在はいない...。ただ俺にできることは一つ、神が与えたもうた
さぁ、アナグラへ帰ろう。無事だった可愛い後輩たちと一緒にな。
Prologue... end.