当方が描くリッカさんはレインさんとは
何かと縁のある人物だったりします。
その辺はまたいずれ書きますが
本編の最新話をお楽しみください。
act:04 アークレインとリッカちゃん
飛鳥の実戦前に無茶苦茶な内容の訓練の達成を要求した日より2日後。ついに飛鳥の初実戦の日がやってきた。
とはいうものの、初めての実戦を引率するのは実は俺ことレインではなくリンドウだったりする。ん?なんで同じ新型なのに一緒に行かないのかって?俺は未明から『デート』があったんでものすごく疲れているんだよ。
というわけで今はエントランス2階にあるソファーに思いっきりグダーっとしている。もう腰があと少し前に出れば椅子からずり落ちるというくらいにはグダーっとしてるが、この体勢は背もたれが丁度頭の下にくるので中々気持ちが良い。
それにどうせこの〇八〇〇なんて朝早い時間からソファーに座ってグダろうなんて輩は、俺のように『デート』帰りの奴でもない限りはいやしない。というか、ツバキちゃんに見つかると色々とエライことになるのでやらないのだ。今は後輩を率いてる奴ですらもツバキちゃんには頭が上がらない位だし、つまりはそれだけ鬼教官としての印象が強く持たれてたりもするのだが。ちなみにツバキちゃんに見つかると結構な量の反省文を書かされるらしい。
新入り2号こと新型神機使いの蒼皇飛鳥は、エントランス受付の前にあるソファーに座りながら引率する教官を待っている。
疲れた体を伸ばすつもりも含め、ソファーの背もたれから頭を逆さまに垂らして彼女の様子を伺ってみるが、なんだかちょっとだけ楽しそうな雰囲気を醸し出している。
(ダミーとはいえ、ヴァジュラを時間こそかかっても殆ど一人で片付けちまうような奴だしな...さっすが
頭をふたたび背もたれの上に乗せると同時に、区画移動用のエレベーターが開く。中から出てきた茶色のコートを着た男は、俺を見ると途端に破顔しながら近づいてくる。
「ようレイン、朝っぱらから随分とお疲れみたいじゃねえか。ここまで伸びきってるお前の姿を見んのもひっさびさだなぁ」
少しだけ・・・いや、かなり癪にさわる言い方だ。今回の相手がどれだけ滅茶苦茶だったと思ってるんだ。
「うるせえな。バカにしに来たんなら俺のために’レジェンドサイダー’でも差し入れろ」
「おう。新人の教育が終わったらな」
「今よこせ」
「や・だ・ね」
「今度の『デート』の書類はどうすると言ったら?」
「ごめんなさい。それは本当に冗談抜きで勘弁してください」
デスクワークの苦手なお前を手伝わないぞ、という
「ほらよ、昔この辺で売られてた三つ矢ブランド継承のレジェンドサイダーだ。おめえに一本だけくれてやるよ」
「おーう、俺の手に手渡してくれや。もう体が動きたくないと駄々を捏ねるぐらいには動けねえ」
「ったく、ほら」
手渡しで受け取ったレジェンドサイダーを早速プルタブを開けて口に含む。今は殆ど失われてしまった自然の清涼な水を使い、ほんのりと香り付けをしたこのサイダーはやっぱり格別な美味さを持つ飲み物だ。
俺が子供の頃、まだアラガミなんざいなかった頃には親が日本から態々取り寄せてたのを、一日1本だけという条件で飲んでいたりもしたものだ。今はアナグラ付近にたまたま人も飲める水の流れる場所があるために、このサイダーもレジェンドサイダーと名を変えて存続してはいるものの、なにせオラクル技術ではない純粋な水を利用して作られている製品のため、350mlのプルタブ缶のクセして新兵にはとても手が出せない高級飲料でもある。
しかも、その採取ポイントがいつアラガミがやってきて汚染されてもおかしくはない。ということで、希少性と採取をするチームの危険性を加味した二つの理由で、これ一本だけでなんと1万フェンリルクレジットも取られる。新人が受けられる初任務の報酬が数百フェンリルクレジットであることからも、このサイダーがどれだけボッタクリ級のお値段なのか分かると思う。
「レイン、わかってると思うがコレ一本でクソ高いんだからな。次の『デート』の時も頼むから助けてくれよ?」
「この借りは後日お前に現金で返してやるから。それでチャラな」
「なぁっ!?オメェ汚ねえぞ!!金払ってお終い、俺を助けないってか!」
「別に俺は、お前の報告書の始末を助けることを条件に買ってこいと契約したことはねえぞ?あくまで『次のデートの報告書はどうするんだ?』と聞いただけだ。詳細な内容まで詰めたわけじゃなし」
「ぐっ!ちっくしょぉぉぉぉぉぉ」
リンドウは頭を抱え、数分前の自分に対し「このバカ!ど阿呆!」と喚いている。26になる男がこうやって若い頃の黒歴史をほじくり返されたみたいに一人で勝手に騒いでいるのも中々シュールな光景だ。
「いいからさっさと残りのもん持って新入りとヒバリに挨拶してこいや。俺はもう少しここで静かにダラっとしてるから」
「へいへい..ったく、んじゃあ行ってくるわ」
「死なすなよー」
「初っ端からフラグ建てるの止めてやれよ!?」
もう応える気力も無くなった俺はサイダーを口に含みながら、階段を下りていくリンドウに対し腕をフリフリと振る。程なくして受付の方から聞こえて来る声を聞きながら、またさっきと同じように首から上だけ背もたれを超えて逆さまに彼らの方を見やる。
「ほら、レインのやつに頼まれたお使いついでにお前らにも買ってきたやったぞ〜。新人時代は飲みたくても飲めない超高級飲料、その名もレジェンドサイダーだ。350mlしかねえから、味わって飲めよ?」
「あ、ありがとうございます!リンドウさん!」
「おぉ〜、これがあの噂に名高い伝説のサイダーってやつですかぁ」
リンドウから貰ったサイダーを味わうヒバリと飛鳥のなんとも嬉しそうな顔を見て、なんだかリンドウをパシリに行かせたのが少しだけ罪の意識が湧いてきた。しかし、自分の意思で彼女らの分まで自腹を切って差し入れたのだ。なんだかんだ言いつつも後輩の心を掴むのは上手いやつだ。
と思いながら見てるとふとリンドウがこちらに顔を向ける。そしてニヤリと笑いながら唇だけ動かしてメッセージを放った。
”あとで後輩二人の分の代金はしっかり請求しますんで”
このやろう。
帰ってきたときに俺がここに居合わせたら一発シメてやろうか。
俺がその意思を表情に出して伝えると途端にリンドウはくるりと俺に背を向ける。
「どうしたんですかー?リンドウさん」「いんや、なんでもねえよ?」
と楽しげに談笑を始めた。あの野郎、逃げたな。
首を再び背もたれの上まで戻すと再びエレベーターの扉が開き、中からものっそい露出面積の大きい衛生狙撃兵こと『橘サクヤ』が姿を現した。
「あら?もう仕事は終わったの?」
「あぁ、なんとか今日も五体満足で無事に帰投しましたよー。おかげさんで体とメンタルの方は疲れでボロッボロだけんど」
「本当にいつもお疲れ様ねぇ。ただでさえこれなのに、リンドウがくっついてくるときはリンドウの分のデスクワークも肩代わりしたり、本当にご苦労様...」
「第三者が労ってくれるだけでも全然違うんだなぁと今、物凄く実感できた」
「でしょ?人間ってそういうものよ」
ちなみにリンドウの幼馴染みであり、リンドウといずれ結婚も視野に入れた男女の付き合いをしているサクヤだが、その実年齢は俺よりも9つも下である。俺が今年30になったので彼女は俺の歳マイナス9の21歳。だが何かと頼れるお姉さんオーラを出し、適合できる神機が見つかる前はオペレーター、つまりヒバリの前任として仕事をしていただけあって事務を始め処理能力も高い。何かと仕事のサポートに頼ったりという有能な人材なわけだ。
まあそのなんでもソツなくこなす能力の高さが、リンドウというデスクワークのポンコツ野郎を生み出したとも言えるのだが。というか、この会話だけを聞いていたら俺の方が年下にも見えてしまうくらい頼れるお姉さんモードが炸裂している辺り、一種の貫禄も感じられる。
「んで、これから用事があったんじゃないのか?」
「あっそうだったわ。それじゃあレイン、今日はゆっくり休んでね!」
「おーう。Thank you」
最後は日本語ではなく英語で感謝を言いながら、いつもと変わらないアナグラの天井を見上げる。
シミの数が増えているわけでもない。特に変化が起こったということもあるわけじゃない。
未明の朝っぱらにハードな仕事を終わらせたとはいえ、このあとは明日までに提出する報告書だけ纏めておけばそれ以外は自由。だが、変な時間に寝てしまうと自身の生活習慣を大きく乱すことに繋がるのでできる限り眠気には抗い寝ないようにしなくては。しかしそうなると娯楽の少ないこのご時世、特にやることも無いのだ。
「あー...どうすっかなぁ...」
階段を上って来る音が聞こえる。リンドウと飛鳥の二人の声がするので、いよいよこれから実戦に出向くのだろう。しかしあれだ、朝の2時に出撃できるように動いたせいか物凄く眠い。20時に寝て1時頃にアラームがなって飛び起き、2時にヘリで飛び立ち、その後は朝8時10分前にここに辿り着くまで実に5時間近くも『デート』で相手とランデブーしてたことになる。
いや、要するに並の神機使いには任せられない超弩級であったり、接触すること自体が ”厳禁を通り越して禁忌”とされているトンデモアラガミ達とガチの殺し合いをしていたんだが...。
正直自分がこんだけ疲れてる程度で済んでるのが奇跡と思えるくらいには、敵さんの戦力は中々えげつないものだった。明らかに一人の神機使いに対して配分する戦力量を間違えてるとしか思えない。
あの、失礼ですけど人数間違えてません?
いや?これで合ってるぞ。んじゃ早速者共かかれ〜。
え、いや、ちょっ!待てこら!
こんな感じだ。
実際には何の予備動作もなくいきなり攻撃仕掛けてきたりと、もうモラルもクソもねえことばっか敵がやってきたりするもんだから、こっちは何度ヒヤリとさせられたか分かったもんじゃない。
おかげさまで、整備部で働く俺の神機の専属エンジニアたるリッカは今頃、俺の神機の状態を見て悲鳴をあげた後憤怒に体を震わせるのだろうが...。神機殺しと呼ばれる俺の異名よろしく、本日も相棒の状態は悲惨の一言に尽きる。
あぁ、考え事をしたら益々眠気が酷くなってきた。もうここで寝ちまおうか。寝てたって誰にも文句を言われる筋合いはねえし、相手の言い分を論破する自身もある。と思いながらも、なんだかんだここで寝てしまうと迷惑を掛けることには変わりないので、首を背もたれから上げて自分の体勢を整え自室に向かおうとするが...
「ちょっとレイン兄ッッ!!あの神機は何をどうしたらああなるのッッ!?」
エレベーターが開き、案の定リッカが俺の元へとすっ飛んできたがダメだもう、俺には彼女の問いに対して答える気力が無い。
「あぁダメだ...リッカ、眠い...」
「えっ?ちょ、ちょっとレイン兄!?」
部屋へ向かおうと姿勢を正したのが悪かったらしく、気がつけば俺は目の前のテーブルに頭突きしそうになっていた。が、ぶつける直前で見覚えのあるオイルまみれの灰色の布の生地が受け止めてくれた。
「悪い...もう、ダメ...」
「あ...」
その瞬間を最後に、俺は意識を手放した。
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今日の未明からついさっきまで特務(本人は『デート』と呼んでるけど)に出撃していたレイン兄が戻ってきたのを聞いたのは、私が目を覚まして顔を洗っている時だった。
実は私の部屋は、昔お父さんがサカキ博士に無理を言って整備室に部屋を作ってもらったのを、そのままお下がりで作業場兼自室という形で使わせてもらっている。だから、部屋の防音レベルを(アナグラのどの部屋も、壁と壁の間にある空間の空気を抜くことで、音を遮断するという機能がある)通常にしている間は、整備機器が立ち並ぶファクトリー区画の騒音であったり部屋の近くで仕事をする作業員たちの談笑も聞こえてくる。
中でもレイン兄は特務の帰りだと毎度毎度とんでもない壊れ方をした神機を持ってアナグラに帰還してくる(当の本人は擦り傷程度でケロっとしてる)からか、アナグラ所属の整備員の間で『神機殺し』などという不名誉な呼び名で呼ばれてたりもする。そしてそんな悪名とも呼べる伝説を持ってる事もあって、特務帰りのレイン兄が戻ってくるといっつもこの整備部のファクトリー区画はちょっとした騒ぎになる。
「ふぁーあ、なに?どうしたの...?」
寝ぼけ眼をこすりながら、作業場の窓の外に映る光景をなんとなく眺める。すると、神機を運ぶための専用の担架(神機も人工のアラガミなので、基本的に素手で触れるのは厳禁)を使って運ばれる『凄惨な壊れ方をした』神機が目に入る。途端に眠気など吹き飛んだ私はすぐさま担架の元へとすっ飛んでいく。
「ちょっと!?これって誰の神機!...って、聞くまでもないね?コレ。だってつい1週間前にも私すごい壊れ方した、コレとよく似た神機見たもの」
「あっはははは...ご想像の通りですよ、リッカさん。ちなみに、その神機の相棒さんからの伝言なんですけど『やっちまったもんは仕方ないってことで、いつものように頼むわ。期待してるぜ』だそうです」
「あの野郎ッ! アタシを舐めてんのかぁぁぁぁぁッッッ!!?」
毎度毎度反省の兆しが見られないどころか機会を経るに従って、だんだんと壊れ方が過激になっていくレインの神機。いつも丁寧に扱えと片手にバールを持ちながらあれほど口すっぱく言ってるというのに。これはなにか?神機整備士たる私に対する挑戦なの?私を舐めてんの?
もう頭にキた。
心配ばかり掛けさせるあのバカな大人にいっぺん一言物申さなければ気が済まない。
それと、もう本当に何回かバールでぶん殴ってやろうかな。再三にわたるお説教を無視してるわけだし、口で言って聞かないならもう実力行使に出るしかないよね?そうだよね?
とにかく、まさか寝巻きのままエントランスに出るわけにもいかないから、(特務からの朝帰りの場合、レイン兄は大抵の場合自分の部屋に戻らないでエントランス二階のソファーに座ってるのは、割とアナグラで有名だったりする)さっさと普段の作業服に着替えてレイン兄を問い詰めてやらなきゃ。
と思って、着替えてすぐにエントランスに向かったのは良いのだけれど...
「ちょっとレイン兄ッッ!!あの神機は何をどうしたらああなるのッッ!?」
自分でも滅多に出さない凄い剣幕で怒りながらレイン兄に歩いてくが、立ち上がったレイン兄の体がふらつき、テーブルへ頭をぶつけそうになるのを見て咄嗟にテーブルの上に飛び乗り、頭を受け止める。
なんとかレイン兄の頭がテーブルへぶつけるのを阻止することはできたものの(そのかわり私のお腹にちょっと鈍い衝撃が走ったけど...)、「悪い...もう、ダメ...」という言葉を最後になんと眠ってしまったのだ。それはもう、死んだように寝てると言って良いくらい。
「あ...」
どうしようか、レイン兄の部屋は機密情報をやり取りしても問題ないように、普通の部屋とセキュリティーのシステムが異なっている。本人の意識がある状態じゃないとロックが解除できない仕様になっていて、私一人では部屋の前までは運べても部屋の中までは運べない。
じゃあ私の作業場に寝かせる?ムリムリムリムリムリムリ!!そんなの考えただけでも恥ずかしくて出来ないよぅ...。だって、レイン兄を...自分の生活してる空間に寝かせるなんて...
(アカンアカンアカーン!!)
頭を一生懸命横に振って雑念を振り払う。今自分のお腹のあたりで寝息を立てている12歳も年上の男のせいで、今日は朝っぱらから心をかき乱されっぱなしだ。最初は壊れた神機の姿をみて憤怒の感情に、現在はちょっとピンクな感情に。
18にもなればそれなりの青春というかまぁ、こういう色恋沙汰ってのも経験するんだろうけどさ。それにしたってなんで自分はこんな男に心を
ってなんてこと考えてる場合じゃない。私にもこれから仕事があるんだから、こんなところでジッとしてられない。でも...。
もしこのまま一緒にいれば、レイン兄を膝枕しても良いよね?と思った。いや、一瞬そういう考えが浮かんでしまった。もうこうなっては恋する乙女、自分の惚れた男を膝枕している図を妄想してしまう。
「...ゴクリ」
(ごめん、今日はレイン兄が目を覚ますまでお仕事はお休みします!)
レイン兄の体を一旦ソファーに横にした後、眠るレイン兄の頭の隣に腰を下ろす。そして、自分の太ももの上にレインの頭を乗せる...。
「...はぁっ」
なんだろう、すごく幸せな気分に包まれるのが分かった。ふとした瞬間、無意識にレイン兄の髪に触る。立場上上層部の人間とも顔を合わすことが多いせいか、意外にきちんと身だしなみや人の目につく点は女性並みに気を配っているかもしれない。まるで抵抗を受けることもなく、本当にサラサラとした髪質なのだ。もしかすると白人であり日本人よりも髪が細いことも関係あるのかも。
(下手すると私よりもサラサラかも...?)
しかしそんなことは今はどうでも良いのだと言わんばかりにまた髪を梳きはじめる。
(好きな人を膝枕して、頭を撫でて髪を梳いて...どうしようっ!今たぶん私ものすごく変な顔してるかも!?)
けれどもその考えはすぐにまたどっかへ消えてしまった。今は目の前にある幸せを感じていればいい。だって、普段彼は神機を壊しては私に迷惑を掛けてるのだから(私が好きでやってるから別にいいんだけど。というか他の人には任せたくないのもあるんだけど...)たまにはこんな幸せを受け取ってもバチは当たらないと思う。いや、そうなのだ。
(もういいや、幸せだから...)
ちなみに外から見たリッカの表情は本当に幸せそうな顔をしていたそうな。
頑張ったために少しの眠りにつく兄と、それを膝枕しながら優しく見つめる妹、
まるでそんな家族のようなほんわかとした光景に、見た者たちは心がホッコリしたそうだ。