・♯.6『機械化兵迷う』その3からの続きです。先にそちらを読むことをお勧めします。
「あら、お帰りなさい」
永遠亭に帰り着いた三人を出迎えたのは永琳だった。彼女は玄関を掃除していたらしく手には竹箒が握られている。
「ただいま戻りました。本日のパトロールは終了です、はい」
「ご苦労様。で、藤原さんはどういう用件かしら?」
鈴仙の報告を聞いた彼女は三船の後ろにいる少女に視線を移す。
「バイト募集中って聞いたんだが…」
なんとも微妙な様子で妹紅は永琳に言った。それを聞いて彼女は、
「なるほど。まあ人数不足だし、三船さんも帰る予定だから丁度いいわ。即採用で」
軽く答えて彼女は右手をサムズアップしてみせる。その様子に妹紅は安堵のため息を吐いた。
「背に腹は変えられない状況なんでね。悪いけど世話にならせてもらうよ」
まったく金がないのは厄介だと彼女はしみじみ思う。
「これで一人警備隊は避けられますよ!いやーよかったです、はい」
「彼女なら問題ないな」
「とりあえずOKかしら。詳しい内容はお茶でも飲みながらにしましょう」
その時、突然玄関の戸が開き、普段着の輝夜が出てきた。
「ね~ね~、誰か来てるの?あ、もこっちだ」
「げえぇー!蓬莱山!!」
顔を合わせた二人は対照的な表情を作りお互いを見る。
輝夜は心底嬉しそうに。
妹紅は心底嫌そうに。
「なになに、遊びに来たの?」
顔をギリギリまで近づけてくる輝夜を押し返しながら、妹紅は今さっき呼ばれた名前について抗議する。
「ちげーよ。それと『もこっち』はやめろ。なんか嫌な響きだ」
「ええ~、いいじゃない。それに『もこたん』が嫌だって言うから新しいのを見つけてきたのに」
「どっちも願い下げだ。普通に呼べ、普通に」
言われて輝夜は、顎に手を当てながらうーんと目を閉じ数秒考えた。そしてああと思い出したように呟く。
「じゃあ、哀れな藤原の娘?」
「それは前の呼び方だ……怒るぞ」
不満そうな目で睨まれた彼女は、再びうーんと考え込んでから妹紅を指差して、
「怪奇もんぺ女?」
と真顔で答えた。
それを聞いた妹紅は、右手を握り拳にしてさらに強く輝夜を睨む。
「…適当に今考えただろ。殺すぞ」
対して彼女は、両手をひらひらとさせてから深くため息を吐く。
「はあ~、まったく分かってない、分かってないわ~。愛称っていうのはね、なんつうか、その、あれよ、あれ」
「あれって何だよ」
そう言われて輝夜は叫んだ。
「察しなさいよ!あれよ!!」
「だからあれじゃわかんねえよ!!」
ついに怒りが抑えられなくなったのか妹紅も叫びだした。
二人が獣のように吼える横で、永琳と鈴仙は呆れた様子で状況を見ている。
三船はなんともいえないので無言だ。
「またこのパターンですか、はい」
「とりあえず無言で殺し合われるよりましね。鬱陶しいけど」
永琳の言葉に三船が反応する。
「何か物騒な単語が出たな」
「三船さんは知らなくて当然ね。あの馬鹿二人はつい最近まで冷戦&殲滅戦状態だったのよ、これが」
「彼女達が?」
驚いた彼は二人に視線をやる。確かに今も喧嘩のようなことにはなっているが、本気ではないのは誰の目で見ても明らかだ。そんな二人が殺し合いをしていたとは到底思えない。
「信じられないな。どう見ても仲のいい友人同士だが…」
彼の疑問に答えたのは永琳だった。彼女は遠い目で二人を見つめ、懐かしそうに語る。
「もうかなり昔だけどね、ある理由で藤原さんは姫を憎んでいたの。結果的にそれが彼女の人生を歪めたわ。長く、とても長く苦しいものにね」
「……」
「そして多くの季節と年月が過ぎて再び彼女と姫は出会ったのよ…この幻想郷で。お互いにとって予想外ではあったけど、二人とも多分喜んでいたでしょうね。なにせ、家族も友人も世界もすべて変わって取り残されて、逃げるように彷徨っていたんだから。それから二人はただ殺し合ったわ。無言で形振りかまわず、何かを求め合うかのように延々と…」
「それがどうしてああなったんだ?」
「そこまでは本人達じゃないから分からないわよ。まあ、人生色々っていうしね。時間が解決してくれる問題もあるって事じゃないかしら」
永琳の言葉に三船は再び沈黙してしまう。彼女が長く生きているというのは、先日てゐと鈴仙から聞いてはいた。だが今の話を聞く限り、不老不死というのはただ残酷で無常なもののように思えてならない。だから彼は何も言えず、嬉しそうに話す二人を見て黙ってしまう。
「しょうがないわね。じゃあ妹紅で我慢するわ」
「最初からそうしろ」
「そのかわり…」
「何だよ」
「あんたも私のことは『蓬莱山』じゃなくて『輝夜』って呼びなさい」
「どうしてだ」
「決まってるじゃない。フェアじゃないからよ。友人は対等でなければいけないわ」
「やっぱり面倒なやつだな、お前」
「あんたも同類でしょ?妹紅」
「分かったよ、輝夜」
ようやく落ち着いた二人に永琳は声をかける。
「さて、改めてお茶にしましょうか。それじゃあ行くわよ」
そして全員が玄関に向かおうとしたのだが、そこで別の声が聞こえた。
「ただいまっと」
見ればてゐが後ろから歩いて来ている。それを目にした鈴仙は眉を上げて強く言う。
「ちょっとてゐ、どこに行っていたんですか。今日は屋敷で待機していてって言ったのに」
パトロールに出かける前、彼女は確かにてゐに頼んでいた。自分達が帰ってくるまで永遠亭から出かけないようにと。しかしてゐはそれを無視して普通に出歩いていたようだ。
「まったく!いつも適当でいい加減なんですから!!」
怒っている鈴仙に対しててゐは面倒くさそうに口を開く。
「うるせえな。仕事だよ、仕事。せっかくお客を連れてきたってのに、あ~あ、真面目さんは融通がきかねえから困るぜ」
「客?」
「そうだよ。ここに用があるんだとさ」
よく目を凝らすと、てゐの後ろに人影がある。それはてゐよりも少し背の低い少女だ。
「あら、スキマの式神の式神ちゃんじゃない。イメチェンでもしたの?」
少女は服装こそ普段のものとは違ったが、確かに八雲紫の式神である八雲藍が使役する式神の『
彼女はいつも、赤い服に緑の帽子という姿であるのだが、今は青い大き目の洋服に黒のスパッツ、頭には赤いベレー帽という格好をしている。
「服装は別として、いつもと雰囲気が違いませんか、はい」
「そういえばそうね。なんていうか無表情だし、瞬きもしないし…前はもっと明るくて無邪気な感じだったわよね、あなた」
永琳と鈴仙に問われた橙は一息置いて口を開いた。その話し方はひどく事務的で感情は一切篭っていない。
「どうやら根本的な間違いをしているようですね。皆様には申し訳ないのですが、私はオリジナルではありません。御用の場合は弐式もしくは二型とお呼び下さい」
「え?」
「はい?」
「あ?」
「あー…」
「………」
その言葉に一同が首を傾げる中、輝夜だけはおおと唸り、興奮した様子で意味不明な動きをしだす。
「はッ!さてはあなた、闇の声に導かれて絶賛中二ってわけね!負けないわよ!こうなったら『
「ちょ!おま!止めろ!!人前で恥ずかしいだろうが!!!」
弐式は一瞬だけ妹紅に止められている輝夜を見たが、すぐに視線を戻して何事もなかったかのように言う。
「…さて、本題ですが」
「せめてツッコミなさいよ!!!」
叫ぶ輝夜を無視して彼女は言葉を続けた。彼に向けて。
「三船敬三様、あなたをお迎えに参りました」
「俺を?」
「はい。時間がありませんので説明はマスターの家にて。永琳様もご同行願います」
「え?私も?」
驚く二人を気にする様子もなく、淡々と話をした弐式は、最後に鈴仙とてゐに一礼して、服のポケットから取り出した札を空に掲げた。
「それでは二人をお借りします」
次の瞬間、永遠亭の玄関付近が一瞬だけ光に包まれる。
そして目を開けてみれば、今さっきまで立っていた人影の数が三人分綺麗に消えていた。
残された四人は呆然としている…一人を除いて。
「三船さんと師匠がいないです、はい」
「本当に連れて行ったんだな」
「ぐぬぬぬ…次は負けないわ!待ってなさい、弐式!!」
「どういう基準で負けたんだよ…」
竹林には静かな風の歌と鳥の囀りだけが響いている
舞台は移り、町の喧騒がすべてを飲み込んでいく……。
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永遠亭に八雲の来訪者が訪れた頃、
人間の里では騒ぎが起きていた。
次回、『覚悟完了』
気がついたら一週間も経ってしまいました。ゲームもほどほどにしないと駄目ですね。
これで残党兵篇は終了になります。そして次回より覚悟のススメ篇に突入です。
そんなわけで次回。