・♯.9『ROCKY&POCKY』その3からの続きです。先にそちらを読むことをお勧めします。
「静かになったが、執事はどうなったかのぅ」
テーブルの空になったボトルを見ながら、レミリアは背後に控えるメイドに聞いた。
「なんとも言えません。今回も駄目なら、重症で部屋の前に転がっているだけでしょうし、
仮に無事だとしても精神をやられて使い物にならないかもしれませんし…
…そもそもが無理なのではないのでしょうか?」
「まあ、あくまでも可能性があるというだけだしなぁ、奴もこれまでの候補達も皆」
今まで何人が地下に降りて行ったかレミリアは憶えていない。それは咲夜も同様だ。
フランの専属の従者、
それが彼女達が求めた人材であり、多くの者が現れては消えていった。
「私自身に問題がなければよかったのですが、
あちらが出てきてしまってはお世話どころではありませんしね」
言葉と同時に、咲夜は申し訳なさそうな表情をする。
彼女の主はそれを察したのか、気にするなというように振り向いた。
「辛気臭くなるからその話は止めじゃ。毎度毎度言うとるが、仕方あるまい?
昔は昔、今は今!お前は十六夜 咲夜じゃ!胸を張って生きよ」
「はい、ありがとうございます……ところで次のワインはどうされますか」
気分を変えるようにメイドは注文を聞いた。
「そうだのぅ~、次は白を飲むのも悪くない。
確か『白い悪魔』とかいうトリコロール色のラベルが……」
そこでノックが響く。
「失礼します。ただいま戻りました」
聞こえた声にレミリアの表情が変わった。上げるのは感心と喜びが交じり合ったような声だ。
「ほぅ、ようやく当りを引いたか。入ってよし!」
「では」
開かれた木製のドアから入室してきた人物を見て、咲夜は驚きを隠さずに彼の名を呼んだ。
「ウォルター?」
長身痩躯の青年は頷き、軽く頭を下げた。改めて挨拶するように。
「ええ。少し見た目は変わりましたがこれも私です。それと……」
言葉の後にドアから小さな影がゆっくりと出てくる。
フランだ。
彼女は愛用の熊の縫いぐるみを抱き、緊張した様子で執事のベストの端を掴んだ。
「アイエエエエ!妹様ナンデ!?あ~、その、ええと…タルトはどうでした?」
驚くことが続いているせいか、メイドは妙なテンションで聞いた。
「…うん……おいしかったよ…ありがと」
笑顔の返事に、なぜか咲夜はサムズアップで返す。
「やってくれるのぅ。当りは当りだったが、こりゃ予想外……で、なんなんじゃ」
そこでようやく紅魔館の主は口を開いた。
執事に向けられた視線と声はなんとなく不機嫌そうである。
「フラン様がレミリア様にどうしても直に伝えたいことがあるというので、
私の独断でお連れしました」
「フランが自分から…珍しいのぅ」
そして移す視線の先は彼女の妹、フランだ。
睨まれた彼女は握った手に力を込める。
「あ、あのね…お姉ちゃんにお願いがある…の…とっても…大事な…」
「大事なお願いとな?う~む、とりあえず言うてみぃ」
少しの間があり、小さな少女は勇気を振り絞るように言った。
「フランは…フランは勉強したい……勉強して…一人ぼっちじゃなくなりたい!
フランは下から出たい!!」
その叫びは、誰が聞いても心からの願いだと分かるほどに切実に聞こえた。
だが姉の口から出てくるのは否定だ。
「無理じゃな」
「どうして!フランは…ただ……」
次の瞬間、空気が淀んだ。
メイドと執事は警戒し動きを作ろうとするが、それを制するように声が飛ぶ。
「お主らは過保護が過ぎる。
まったく、この程度で心が乱れていては話にならんぞ。
また暴れるのか?いつかのように、あの時のように」
「う、う……」
返す言葉がないのかフランは何も言えずに黙ってしまう。
そこで彼女の代わりというようにウォルターが一歩前に出た。
「恐れながらお嬢様、私がフラン様をサポートします。ですから許可を頂きたい」
「随分自信があるようだのぅ、ウォルター。
お主も地下で奴の力を知ったはずじゃ……だったら分かるであろう、あれがどれほど危険か」
言われなくとも理解できている。
実際、一歩でも選択を誤ってれば今頃はどうなっていたか分からない。
それに、あの破壊の嵐が解き放たれれば、どのような惨状が広がるかも容易に想像できた。
しかし、それでも彼は可能性を信じてみたいと思う。
白紙に限りなく近いあやふやな少女を。
「だからこそ必要なのです。力そのものに善い悪いがあるわけではありません。
扱う者がそれを決定する……確かに今のフラン様では無理でしょう。
しかし経験し、体験し、学習すれば可能なはずです。お嬢様、どうかお願いします」
一心に願い頭を下げた。理由などはない。ただそうしたかった。
「お嬢様……私からもお願いします」
咲夜の声に吸血鬼はなんとも渋い顔で頭を掻いている。
「しかしじゃな…」
「まったく、いい加減素直になったら、レミィ?」
聞こえた声はテーブルからであり、いつの間にか魔法使いが座っていた。
彼女の前には空の皿とフォークがあり、本も置かれている。
「パチェ、お主、わざわざ魔法まで使って盗み聞きか」
「おかわりを貰いにきたら、取り込み中のようだから気を使ったのよ。まあ、それはそれとして、やっぱりあなたのタルトは
「感謝の極みです」
言われてメイドは会釈した。
「それでどうするのかしら?当主様」
魔法使いの言葉に、まったく面白くないというようにレミリアは席を立つ。
「ちッ、好きにせい、どうせ長続きなどせんわ!咲夜、わしはもう寝るぞ!」
「かしこまりました。すぐに用意をします」
嬉しそうに咲夜は部屋を出て行く。
ウォルターとフランは顔を上げレミリアを見ている。
「ありがとうございます」
「ふん!知らん!!」
ヤケクソのように吐き捨て後ろを向いた姉に、妹は勢いよく抱きついて叫んだ。
「お姉ちゃん!大好き―――――――――!!」
がっちりと腰に手を巻かれたレミリアはSOSを求める。
「ぐ、ぐおおおお~!!ちょ、ヤバい!折れる、背骨が折れる!!
これッ!笑ってないで誰か止めんか!!
兄弟のスキンシップなんて生易しいものじゃ済まんぞ!!さッ、咲夜~!!」
静かな夜、館に破砕音と悲鳴がこだました。
これから賑やかな日々が始まるのだろうか……。
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そして気がつけば三年だ。
あの日から始まった授業は着実に成果を上げている。
不安定だった彼女はある程度安定して生活しているし、
時々だが一人で屋敷内を歩くようにもなった。
「鶴!鶴だよ、ウォルター!」
それにフランはとても優秀だ。一度憶えた事は忘れず、常に何かを探求している。
これほど教え甲斐のある生徒はなかなかいないだろう。
「…さっきからどうかしたの?」
不思議そうな顔で彼女は自分を覗き込む。
手にしている紙の鳥はきっちりと折られており、間違いなく私より彼女の方が上手い。
「いえ、何でもありません。ただ少しだけ昔を思い出していました」
少し曲がった鶴の羽を広げながら私は言う。
「そうなんだ。でも僕は今がいいな」
「何故です?」
「だって、みんなと一緒にいるって感じられるし、地下でもそんなに寂しくないし、
…それにウォルターも居てくれるから」
恥ずかしそうに言う表情は明るい。そんな顔を見ているとこちらも優しい気持ちになる。
しかし私は思うのだ。
この穏やかな日々はいつまで続いてくれるのかと。
不安にも似たこの感覚は日増しに強くなっている。
それは近頃幻想郷で起こっている様々な異変のせいなのかもしれないし、
裏切り者には過ぎた役だという後ろめたさがあるせいかもしれない。
だが私は望みたい。
「強くなりましたね、フラン」
この日常が続くことを。
この役を続けることを。
運命というものが許す限り、その日まで。
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七人が揃い、第二幕のベルが鳴る
終わりの始まり、
始まりの終わり、
いつかの願いを叶えるために……
次回、『WAR GAME』
そんなわけで紅魔館篇前半終了です。
次回より後編+第二部的な感じになります。
それでは次回。