それらが苦手な方やそれぞれの作品のイメージを大事にしたい方にはあまりお勧め出来ません。
・♯.10『WAR GAME side:red』その6からの続きです。
先にそちらを読むことをお勧めします。
目が覚めれば闇が広がっていた。どこまでも深い闇が。
どの程度眠っていたかも分からない。
だが一つだけ思い出せたことがある。
―――――――桜華―――――――
私の大切な名前だ。
それだけわかったなら十分だろう。
後は意識が仮初の身体に馴染むまで休むだけでいい。
そうすれば続きができる。
この愛しい世界を元に戻す大事な仕事の続きが…。
だから今は寝よう…。
何も考えずに、ただ……。
――――――――――――――――――――――――――――
「はいはい参式で御座るよ~!」
素早い身のこなしで機械化兵の追撃をかわしつつ、目の前の少女は札を取り出した。
「ふむふむ、そちらの状況は終了で御座るか……なるほど、ありがたい」
交戦中だというのによくもまあ平然とあんな事ができるものだと思う
「……承知で御座る、では」
どうやら終わったらしい。
彼女は札を忍者装束の懐に突っ込み、かわりに取り出した炸薬付きのクナイを前後に放った。
「にとり殿、これから助っ人が来るそうで御座るよ!」
そう言った直後、彼女の周囲の敵が爆散した。
「そいつは助かるね。でも、どうしたもんかな、この状況…」
今の状況に正直混乱していた。どうしてこうなってしまったのだろう。
ここは妖怪の山。大自然が作り出した難攻不落の天然要塞。
しかし今、現在進行形でこの場所は進攻されつつある。
それも同胞である妖怪達によってだ。
まったくついてない。今日はせっかく客人を招いたというのに……。
彼は大丈夫だろうか。
あの場所にいるのなら安全だとは思うが、なかなかに心配だ。
―――はじまりは今朝―――最高の日になると思っていた今朝―――――
●
朝。
わずかに明るくなった空には残月が浮かび、太陽はまだ昇らない。
鳥達もようやく眠りから覚めるころ、香霖堂に一人の訪問者が来ていた。
「……きてよ。ねえ、起きてよ、トニー」
だるさと眠気の隙間から声がすると彼は思った。
しかし、今優先されるのは睡眠だ。この三大欲求の一つにはどうしても逆らえない。
「ね~、朝だよ……むぅ、仕方ない。全自動尻子玉回収機を起動しようか」
なにか不穏な単語の羅列が聞こえる。だが眠い。
「テストはダミー盟友甲型で試したし、多分大丈夫だよね。これを逆にセットして…」
一人で盛りあがる少女の声に、彼の第六感が危険のアラームを鳴らす。
しかし眠い。
「よし!いい感じ、いい感じ。さて、後はトニーのズボンを…」
布団が剥ぎ取られ、朝の涼しさが身体を包む。
ここまできたが、どうしても眠い。
「さすがに男の人は重いね。サブアーム、ON!」
体が何かに掴まれて浮いている。
大事なものを失いそうな気がするが、眠いので身を任せてしまおうと彼が思った瞬間、
「ちょッ!にとり、何してんの!?どうしてズボン下げようとしてるわけ?
あと、その怪しい器具でなにを!?」
場に割って入ってきた店主の叫び声でようやく目が覚めた。
「……おはよう…今は何時だ?」
客間の柱に掛けられたゼンマイ式の時計の針は4を指していた。
――――――――――――――――――――――――――――
軽い朝食の後、二人は香霖堂を出発した。
今は妖怪の山に向かっている。
「ははは、あんまり起きないもんだからさ」
荷台が連結された大型スクーターを走らせながら、河童の少女は笑った。
「だからといって、あのマシンを本気で私に使うつもりだったのか?」
トニーはまだ眠気が残る頭で先程見た機械の事を思い出していた。
やたらに大きく不安になる形状のそれを彼女は残念そうに仕舞ったが、
仮にあのまま寝ていればどんな悲劇になっていたかわからない。
「うん。なんで?」
真顔で不思議そうに返されたので、彼は別の話題に話を切り替えた。
「……まあいい。しかし、これを装着したままというのは窮屈だ」
トニーは今、荷台に座っている。ただしMk-Ⅰを着けて。
「ごめんね。でも生身だと警護隊に止められちゃうし、もう少し我慢してね」
彼女の工房に行くには山の警護隊の検問を突破しなくてはいけないらしく、
その為にMk-Ⅰを着てくれと彼は頼まれた。
妖怪の山という場所は基本的に人間が立ち入れる場所ではなく、
厳重な警備体制が敷かれている。
そもそも〝妖怪の山〟とは通称であり、その本当の場所は山の内部に作られた都市である。
そこには、かつて人類が想像し夢見た『21世紀』のような光景が広がっているらしい。
「そろそろかな。じゃあさっき言ったとおり動かないように」
「善処しよう」
小さな小屋の手前でトニーは仰向けになった。
「はいはい止まって……なんだ、にとりか」
検問所から聞こえたのは女性の声だ。
「おはよう。毎朝ご苦労さんだね」
にとりが挨拶をした。
「仕事だからな。で、その鎧みたいなのは?」
「新しい発明品だよ。その名も『アイアンさん1号』!」
適当な名称だと思いつつ、彼が薄目で周囲を覗いていると、
声の主と思われる犬耳の女性がこちらを見てウィンクをした。
瞬間、冷や汗が噴き出す。
「毎度奇天烈なもんを作ってるな。よし、通っていいよ」
「はいどうも。じゃあ、よろしくね」
スクーターは再び走り出した。
しばらくしてから荷台の上のトニーが聞く。
「なあ、ニトリ。彼女にばれていたんじゃないか?」
「元から話を通してあったんだよ。カメラと式神を誤魔化すのにMk-Ⅰが必要だったんだ」
「なるほど買収済みか……なかなか用意がいいな」
「まあね。さて、この先にある地下に降りるリフトに乗るよ」
荷台付きのスクーターは山の奥の洞窟へと進んでいく。
――――――――――――――――――――――――――――
リフトに乗りながらトニーはMk-Ⅰを脱いだ。
その間にもリフトはどんどんと地下に降りていく。
そして軽いブザー音と同時に目的の場所に到着した。
「はい!ここが妖怪の山の最深部、河童工房だよ」
「こんなに大きなスペースが地下にあるとは驚いたな。それにこの機械の山も凄まじい」
まず目に飛び込んできたのはいくつものライトに照らされた巨大な空間だった。
そこには形容しがたい機械類の山がいくつも連なっており、
その下ではにとりと同じような格好の人々が様々な作業をしている。
「さあ、こっちこっち」
手を引かれトニーは歩き出す。
そこで彼の視線はあるものに釘付けになった。
巨人、全長約20mの鋼の巨人だ。
あちこちが損傷し地面に横たわっているそれは、胸の部分が大きく抉られたようになっている。
「おい、ニトリ。あの人型の機械は一体…」
「そいつは
後ろから突然声がした。
振り返ってみれば、腰に工具をぶら下げたツナギ姿の老人が立っている。
彼はオレンジのゴーグルを着けており、顔には皺が刻まれていた。
「あなたは?」
そこでにとりが割って入った。
「オヤジさん、おはよう」
「おう、おはようさん。お前さんが一緒ってことは、こいつが今回の異邦人てわけか」
「そうだね」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はここを仕切ってる〝
まあただの年寄りなんでよろしくな」
河童の老人はそう言って微笑んだ。
「オヤジさん、最高責任者なんだからもう少し固くいけない?」
「へへ、馬鹿野郎、俺は堅苦しいのは嫌いだって知ってんだろ。
それに一番長くここに残ってるから責任者ってだけなんだぜ」
なかなかにフランクな人物だと思いつつトニーは聞く。『今回』という意味を。
「よろしく。私はトニー・スターク。ところでMr.カンペイ、今回とはどういう意味ですか?」
「ん?ああ、その事か。ちぃとばかり昔に会ったんだよ。
お前さんと同じように結界の外から呼ばれた連中とな」
懐かしそうに勘平は言う。
「初耳だけどそれいつの話?」
「まだ俺がガキで、にとり嬢くらいの頃だったぜ」
「それはちょっとじゃなくて、大昔だと思うなー、あたし」
「細けぇことはいいんだよ」
わいわいと騒ぐ二人を尻目に、トニーは軽い咳払いをする。
「よければその話を聞かせてもらえますか」
「いいけどよ、長くなるぜ」
「かまいません。是非」
「あたしも聞きたい!」
少し考えてから勘平は答えた。
「ふむ……まあとりあえず座ろうや。話はそれからだ」
それはかつての昔話、滅びと激動を生き抜いた青春の日々。
はい、そんな感じで久々の投稿です。
相変わらず遅いのが反省点ですね。次回は九月中に上げられる予定なのでがんばります。
そんなわけで次回。