彼は立っていた、目の前の丘の頂上には自身が敬愛した聖処女の後ろ姿があった
ーージャンヌ‼︎ーー
彼の狂気に満ちた目から一雫の涙が流れて、聖処女の元へ進もうとする、しかし
ーー進めないーー
彼が歩んでも一向に進む気配は無く彼の額に汗が表れる、そして目の前の聖処女は消えて暗闇となった。
ーーッ!
次の瞬間、彼は民衆の中に紛れて立っていた、その真ん中には聖処女が十字架に架けられ火刑に処されようとしている。
ーーやめろ!やめてくれ!
彼は絶叫し走るが前には進めない、遂に聖処女の足元に火が付き燃え盛る。
ーーああ、あああ…
彼は座り込んでしまった、彼の世界は灰色に染まった。
ーー魔女め!
ーー魔女よ!滅びろ!
ーー消えるが良い!
ーーやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!
彼は民衆の声を聞き、涙を流しながら耳を塞ぎ幼子の様に叫んだ、しかし彼の耳には聖処女を魔女と呼ぶ民衆の声しか入らない。
ーーああ!やめてくれ!彼女は魔女などではない!
ーー彼女は、彼女は!
彼は顔を上げると、聖処女の身体は火に包まれようとしていた。
ーーー主よ、この身を委ねます
聖処女は閉じていた目を開き、そう言うと二度と目を開ける事はなかった。
ーーー神は彼女を見捨てた。
彼は彼女を見捨てた神を恨んだ、彼女は神に身を委ねていると言うのに神は彼女を路傍の石の様に棄てた。
ー聖処女が死んだその時から彼は変わってしまった
少年少女を集めて嬲り殺し、神を冒涜する作品の中を作り上げた。
時には盟友から受け取った黒魔術の書を使う為の贄へと変えた。
それは彼が死ぬまで続けられた、神を冒涜する為でもあり聖処女を生き返らせる為でもあったのだ。
そして彼は召喚された、全ては聖処女の復活の為にこの地の幼子を使ってでもする気でいた。
しかし、彼の願いは既に叶っていたのだ、忘れはしないあの髪や表情は間違いなく聖処女その物だった、しかし彼女は否定した、知らないと。
ーー神は記憶まで操っているのかッ!
彼は激昂した、聖処女を棄てただけではなく、記憶を弄り外に放ったのだ、神の何処までも身勝手な行為に怒りを覚える。
そして今宵、彼は聖処女がいるアインツベルン城の門の前に立っている、彼の周りには今宵の宴の為に用意した贄達が立っている。
ーーーさあ始めましょうジャンヌ、貴女の復活の宴を
彼は結界を破り贄達を引き連れて中へ入り込んだ、上から監視されている事も気づかないまま
ーーー
「ビャクヤ、アインツベルン城に入った様だ、直ぐに入れるぞ?」
「落ち着け、バーサーカーも近づいている様だな…マスターも共にだ」
アインツベルン城の上、入道雲の中に浮島と称してもおかしくない庭園に二人の男がいた。
「お前はサーヴァントの方へ行け、俺はマスターの元へ行こう」
「わかった、それでは開始しよう」
男二人は庭園から姿を消し、地上へ向かった。