前回の投稿でワンサマーに対して色々感想を貰っていますが、全ては『NARUTO』が大好きな作者がこんなワンサマーを書きたかったからです。
目が醒めると日が暮れていた。見慣れた天井は『NEVER』の拠点、二階の鳴海探偵事務所を真似た部屋に用意してあるベッドから見える景色だ。
「今何時だ……」
「午後6時を回ったところです。兄様」
声の方に目を向けるとクロエがいた。ずっと傍に居てくれたんだろうか。
「大分苦しそうでしたが、お体は大丈夫ですか?」
「……ああ、だるいだけだ」
「そうですか。ちょっと早いですが、食事を用意しますね」
「頼む。アンクと束にも起きた事を知らせてくれ」
「分かりました。兄様」
クロエが去っていくと、すぐに束とアンクがやって来た。
「いや~『オーズは同色同系統のコアメダルを、三種類三枚揃える事で真の力を発揮する』って聞いていたけど、実際に目にすると凄いね!
でも、コンボはあまり使わない方が良いよ。確かにメモリの力でコンボの力をある程度まで制御したり、弱点を克服する事は出来ると思う。でもそれだけなの。コンボの負担そのものは減らないし消えない。メモリとコンボの組み合わせによっては、むしろ負担が増えるかも知れない。
でも、今回の戦闘で『ラトラーター』のデータは取れたからもう大丈夫! 若干の改造は必要だけど、束さんなら12時間もあれば完成するよ! いえい! やったぜ!」
「……ちょっと待て、何がやったぜなんだ?」
初めてコアメダルの本当の力を見て興奮しているのか、マシンガンの様に一気に喋る束にストップをかける。若干の改造が必要と言う台詞も気になる。
「? アンくん、ゴッくんに言ってないの? ラトラーターコンボ専用パッケージの話。トライドベンダーを一台改造して作るんだけど?」
「ああ、そう言えば言ってなかったな」
もしかして、ライドベンダーが二台あったのはその為だったのか? 俺に言わなかったのはアンクにはアンクで考えがあるのかも知れないが、せめて一声かけて欲しかった。
そんな事を考えていたら、クロエが夕食を持ってきた。今晩のメニューはパンとシチューに野菜ジュースか。本当に料理上手くなったな……。
少し休んだとは言え、体の疲労感が半端じゃない。それでもなんとか体をベッドから起こす。近くのテーブルにクロエが置いてくれたトレイからスプーンを取ろうとして、床に落してしまった。指に上手く力が入らないのだ。
「……まだコンボの疲労が抜けてないようだな」
「それじゃ、食べれないよね。そうだ! くーちゃんが食べさせてあげればいいんだよ!」
「え!? そ、それは……」
「心配しなくても大丈夫! 束さんがお手本を見せてあげる!」
クロエが床から落ちて洗ってきたスプーンをひょいっと取り上げた束が、シチューを掬ってフーフーして適度に冷ましたものを俺の口の近くに持ってきた。
「はい、ゴッくん。あ~ん♪」
「あ、あ~ん」
「美味しい? 熱くない?」
「ん。美味しい。大丈夫」
「んふ~、いい子いい子~。さ! くーちゃんの番だよ!」
満面の笑顔で俺の頭を撫でつつ、スプーンをクロエに渡す束。クロエはそれを受け取ると、同じようにシチューを掬ってフーフーした。でも、ちょっとフーフーしすぎだ。俺はどこぞの赤い救世主の様に猫舌じゃない。
「あ、あ~んです!」
「次はまた束さんね。あ、それともパンが欲しいかな?」
大分、いやかなり照れくさかったが、束とクロエに全部食べさせてもらった。美味しかった。
●●●
今日は『NEVER』の拠点に泊まることにした。束曰く、「コンボを使った事で体にどんな影響が出ているか分からない」との事。確かに何かあっても困るからそうする事にした。クロエも今日はここで束の手伝いをするらしい。
食べてから歯を磨いて直ぐに寝てしまったせいか、午後11時に目が醒めた。喉が渇いたからジュースを買いに行くと束とクロエに言って、学生寮の自販機に向かった。クロエがついて行くと行っていたがやんわり断った。すると、自販機の前で一夏に会った。
「お、一夏。お前もか?」
「お、おお。ゴクローもか?」
「まあな。……心配しなくてもマドカはいないぞ」
「そ、そうか」
妙にそわそわと言うか、キョロキョロしていたから試しに言ってみたが、やっぱりまだマドカが苦手か。
「な、なあ、少しいいか? ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」
「ああ、いいぜ。但し、腐女子の間で悪い噂にならない程度で頼む」
「ぷっ! ああ、そうするか」
緊張がほぐれたのか、表情が柔らかくなった。実際に腐女子な連中が一×5とか5×一とか言っているのを俺は知っているので、あながち冗談ではない。自販機からちょっと離れた外のベンチに二人で座って、俺は一夏が話してくるのを待った。
「それにしてもゴクローって強いんだな。セシリアと戦ってるの俺も見たんだけど、ブレード一本で戦える奴なんて千冬姉だけだと思ってた」
「これでも7年は対ISの訓練を積んできた。その努力の結果だ」
「7年!? そ、そうか。それ位、頑張らなきゃ駄目なんだよな……」
お互いに缶ジュース片手に話し合っているが、一夏はどこか歯切れが悪い。何か言いたいけれど、言い出せない感じ。この後も当たり触り無い話題が何度か続き、やっと決心がついたのか、憂いを帯びた瞳で語り出した。
「……俺さ、正直IS学園に来るの嫌だったんだよ。本当なら藍越学園って所に行って、いい所に就職して、千冬姉に楽させてやりたいって思ってた。その為に中学時代は俺なりに一年間必死で勉強した。普通に受験してりゃ普通に合格できる筈だった。それがこんな事になるなんて思わなかった」
……耳が痛いな。一夏がIS学園に来る原因は束の仕業だ。何でもそうなるように仕向けていたらしい。ただ、一夏の『藍越学園とIS学園って似てる』と言うのは、ちょっと同意しかねる。
「ここに入学するまでに何かしら準備する時間はあった。それでも、なんだか言われるままにするのが嫌で、勝手に俺がやってきた事全部駄目にされた感じがして、つい突っ張っちまった」
「……男なんだから、自分の人生は自分で決めた道を歩きたいって感じか?」
「そう! そんな感じだ! でも、俺は流されるままで何も準備も対策もしなかった。ISの事を簡単に考えてた。一週間もあれば基礎くらい大丈夫だろうって思ってたし、簡単に動かせたからなんとかなると思ってた。
でも、IS学園の生徒は小学校からISを頑張って勉強してきた奴が殆どだって聞いてさ。そう考えたら、俺の事認めてない奴って確かに結構いると思う。ISを動かせるだけで、ISについて何も知らない俺をズルイって思っても仕方無いんだよな……」
どこか達観した雰囲気で一夏は自分の過去と今を語る。どことなく懺悔しているようにも見える。
「それで何とかしようと思って今から頑張ってるんだけど、学園の皆って俺のこと『千冬姉の弟』って感じで見てるんだよ。千冬姉がISで世界最強だからそれは仕方ないんだろうけど、それだと俺が情けないと千冬姉が迷惑するだろ?」
「なんで?」
「え!?」
「お前がセシリアに負けたところで、お前が弱いってだけで別に織斑先生が弱いわけじゃないだろ?」
一夏としては予想外の答えだったのか、あっけにとられたような顔をしている。
「いや、なんて言うか、俺が弱いと千冬姉の誇りが傷つくみたいな……」
「お前の弱さと織斑先生の誇りは関係ないだろ。この場合の『誇りを傷つける』って言うのは、自分の欲望の為に誰かの信念や生き様を利用する事だと俺は思うぞ?」
具体的には『仮面ライダーW』で『仮面ライダー』を名乗って悪事を働く、元アバレッドのアームズドーパントとか。
「……兎に角さ。俺を『千冬姉の弟』って見る奴はこの学園に大勢いるんだよ」
「他には『希少な男のIS操縦者』って所か?」
「ああ。それで俺は、千冬姉の名前を守りたいって思った。そんでもって、この学園の全員に俺の事を認めてもらうって決めたんだ。」
なるほど。個人的には「千冬姉の名前を守る為に、千冬姉を超える」位は言って欲しいが、一夏はそう決めたのか。そして一つ分かった事がある。
箒は『篠ノ之束の妹』として見られていた経験があるが、一夏には『織斑千冬の弟』として見られた経験がIS学園に来るまで無い。箒と違い、一夏はずっと『織斑一夏』でいられる環境にいたのだ。
織斑先生は一夏が誘拐された目的と理由について、自分の身内だからと理解していたようだが、一夏は誘拐に関して詳しくは知らないのではないだろうか。少なくとも『織斑千冬の弟』だから誘拐された事を知らない。だから、誘拐事件の後も普通の生活を送っていた。間の悪いタイミングで誘拐されたとしか思っていないのではないだろうか。
しかし、そんな一夏もIS学園に入学した事で、『織斑一夏』ではなく、『織斑千冬の弟』として見られる事で、「『織斑一夏』として見られたい」と言う欲望が生まれた。つまりは……。
ハッピバァァァァァァスデイ!! 新しい織斑一夏の誕生だ!! おめでとう!!
……と言う訳だ。
「それじゃ、一つ。もしも、試合に勝てたら褒美をやろう」
「? どんな褒美だ?」
「アンクにお前を『馬夏』呼ばわりさせるのを止めさせる」
「おっ! いいなそれ!」
鴻上会長の様な事を考えていた為か、一夏に条件付だがバースデープレゼントを一つ提案した。お蔭で一夏はクラス代表戦に向けてますますやる気が出てきたようだ。
「やっぱり、男同士っていいな。それに年上ってのもあるのかな。余裕って言うか、落ち着いた感じがして、一緒に居るとなんか楽でいい」
「……ちょっと待て、それはどう言う意味だ?」
「いや、だからさ。年上っていいなって最近思ってさ。今、三年生の先輩からIS教わってるんだけど、先輩から毎日ISの事教えてもらうのがすごく楽しいんだよ」
妙に引っかかる言葉に質問をぶつけると、予想外な返事が返ってきた。とりあえず、女より男が好きと言う意味ではなさそうだが、一夏は俺に別の意味で衝撃を与える台詞を言った。
「分からないところがあったら分かるまで丁寧に教えてくれるし、暴力振るわないし、グイグイ引っ張ってくれるし、明るいし、料理も美味いんだ。
この間、試合までの時間が惜しいからって弁当作ってもらって、昼休みの間もISについて教えてもらったんだ」
「……そうか」
「それで何かお礼がしたいって言ったら、『もしも試合に勝ったら付き合って欲しい』って言われてOKしたんだけど……」
「OKしたのか!?」
「ああ、世話になりっぱなしだからさ。俺だってそれ位の甲斐性はあるぜ? むしろ幾らでも付き合うぜ。買い物くらい」
「!?」
それって世間一般で言う男女の付き合いとか、デートってやつじゃないのか? いや、本当に買い物に付き合う程度なのかもしれないが……。
それにしても一夏って、お姉さん系や年上が好きなタイプなのか? 幾ら叩かれても織斑先生を「千冬姉、千冬姉」って性懲りも無く言ってるし。
しかし、さっき言った事は織斑先生には合致しないモノばかりのような気がする。恋愛において自分に無いモノを恋人に求める傾向がある人間は知っているが、一夏は織斑先生に無いモノを恋人に求めるタイプなのだろうか?
「あ! もちろん、箒にもなんか奢るって言ったから、試合が終わったら何か奢ろうと思うし、お前にも何か奢るぜ! 真面目に俺の話聞いてくれたし、おかげで試合にやる気が出てきたしな!」
「……気にするな。『友情のシルシ』を交わした仲だ」
「! おう! それじゃ、そろそろ戻るか。あまり夜風に当たると体に触るからな」
……今、障るじゃなくて、触るってニュアンスで言ったか? 『お体に触りますよ』ってか?
「……そうだな。頑張れよ」
「ゴクローも頑張ってくれよ! 応援してるぜ!」
「ああ、お休み」
「お休み!」
一夏は爽やかな笑顔で学生寮の部屋に戻って行った。俺は箒になんて説明しようか考えていた。
●●●
翌日。決戦を明日に控える日曜日。妙な感触を感じて目を醒ますと、束が頬っぺたを突いてニマニマしながら俺を見ていた。
「おはよう、ゴッくん。よく眠れた? 体は大丈夫?」
「ああ、体は大丈夫だ」
ラトラーターコンボ専用パッケージ『トライド』は先程完成し、それから俺の寝顔をずっと見ていたらしい。
肉体の疲労は完全に抜けたが、精神テンションは最悪に近い。それでも俺は、昨日の夜に一夏が語った事と、俺の考えを全て箒に話した。
「そうか。一夏がそんな事を……」
「……俺が憎くないのか? 俺が与えた情報が原因で、お前は一夏に失望していたんじゃないのか?」
箒には『ミレニアム』が収集した一夏の情報を教えているから、誘拐の理由も黒幕も知っている。もしかして箒は、俺から教えられた情報の所為で一夏も自分と同じだと思い込んでしまったのでは無いだろうか?
「お前を憎んでなどいない。私は元々思い込みが激しい性格で、自分にとって都合のいい事ばかり考えていたんだ。だから、罪があるとすればそれはお前じゃない。私だ。
それに、自分が可愛い女じゃないって分かってるんだ。自分勝手で、人に教えるのが下手で、ガサツで、短気で、カッとなると直ぐに手が出る。剣ばかり振るって、料理もしたことがない」
「そんなに自分を卑下するな。まだチャンスはあるだろ」
「……なあ、ゴクロー。私の幸せは一夏でも、ゴクローでも、他の誰でも無い。私が決めることなんだぞ?」
「………」
「人を愛する事と、その人から愛を要求する事は違う。私はずっと寂しくて、ずっと何かに縋りたくて、色々な事をごちゃ混ぜにした。それで姉さんの事や、色々な大事な事を見落としていたんだ」
過去を回想するような顔で語る箒。昨日の一夏を髣髴とさせる。デジャビュか?
「それと、一夏の言う先輩についてだが、多分ゴクローが思っている通りだと思うぞ。アイツは昔からその……朴念仁なんだ」
「そうなのか?」
「……例えば、私がゴクローと一緒に映画を見に行きたいとか、一緒に夏祭りに行きたいと言ったらゴクローはどう思う? 私が何を求めていると思う?」
「? そりゃ二人で一緒にお出かけしたいって事なんじゃないのか?」
「……一夏は『大勢の方が楽しいだろう』と言って、友達を連れてきたりするんだ。何の連絡も相談も無く、当日にそれが分かる。その上で、私が何を怒っているのか分からないんだ」
「…………嘘だろ?」
「本当だ」
にわかには信じられないが、箒の目は真剣そのもの。もしかして箒の実体験なのだろうか?
「そうなると、どうしてもイライラしてしまうんだ。それでつい手が出てしまう。そんな女が男に好かれる訳ないだろう?」
「……いや、それも箒の可愛らしさの一つなんだと思うケド」
一夏にとって、それは良かれと思っての行動なのだろうが、状況を考えれば箒がイライラしたりするのは仕方無いと思える。そう思って、俺なりにフォローを入れる。
「そ、そうか?」
「ああ。俺は可愛い嫉妬だと思う」
「ッ! ま、まあ、その、つ、つまりだな! 一夏は私を受け止められんし、私は一夏を受け止められんと言う事なのだ!」
……? 何がおかしいか分からないが、何かどこかおかしい気がする。強引に話を終わらせたい様に感じられるが、とりあえず箒の中で一夏に対して決着がついたと考えていいのだろうか?
「ほ、ほら! パッケージの最終調整があるのだろう! 早く行かないか!」
「あ、ああ。分かった。行ってくる」
「ああ、行って来い! 今日の夜はカレーだ!」
子供か俺は。しかも昨日はシチューだったんだけど。
しかし、逆に箒から教えられるとは思わなかった。人を愛する事と、その人から愛を求める事は違う……か。そんな事を考えていたらアンクが飛んできた。
「話は終わったようだな。早速、専用パッケージ『トライド』を試すぞ。最後のパワーダイザーをスクラップにしてやれ」
「分かった。それと一つ提案があるんだけど、いいか?」
「なんだ?」
「タトバコンボ以外の、同色同系統の統一コンボ。例えば『ラトラーター』を使う時に、『超変身!』って言おうと思うんだけど、どう思う?」
せっかくのコンボと言う特別な変身だというのに、何も無いのはアレだなとずっと考えていた。そこでコンボの特別感を出す為に『仮面ライダークウガ』こと五代雄介のアイディアを使わせて貰おうと思う。
脚本家の小林靖子さん曰く、『仮面ライダーオーズ』は「21世紀のクウガ」をイメージしており、火野映司は五代雄介の性格を元にしたと言うから問題ないハズだ。
「勝手にしろ」
「………」
相変わらずアンクは趣味全開の会話にはドライだ。せめてフィリップみたいに「君に任せる」位は言って欲しかったが……まあ、いいか。
●●●
月曜日の昼休み、昼飯を済ませて俺は職員室に向かっていた。
今回の公式戦の為に選んだコアメダルは、タカ・クジャク・コンドル・クワガタ・バッタ・ライオン・トラ・チーター・ゴリラの9枚。
ガイアメモリは、ジョーカー・メタル・トリガー・ルナ・アクセル・オーシャンの6本。
パッケージは『Type-ZERO』と『トライド』だ。
これらを昼休みのうちに申請しておこうと思ったのだが、独特なのんびりとした声に呼び止められた。
「お~~い、シュレり~ん」
「……本音か」
呼び止めたのは布仏本音。布仏虚の妹にして、常に体全体から癒し系オーラを全開で垂れ流しており、周囲に『のほほん』と呼ばれている。
「どうした? 何か仕事か?」
「ん~そうじゃなくて。シュレりんにどうしても会いたいって人がいるの」
クラス代表が決まるまでの間、代表補佐の俺がクラス代表の仕事をする事になっているので、生徒会の本音が仕事を持ってきたと思ったのだが、そうではなかった。
本音の後ろから現れたのは、水色の髪に小動物チックな雰囲気を醸し出す少女。日本の代表候補生にして、更識楯無の妹。更識簪だった。
最近、『仮面ライダーフォーゼ』の野座間友子(仮面ライダー部入部前)みたいに、物陰から俺をじっと見ているのは知っているが、なんだろうか。
「ほら、かんちゃん。勇気出して」
「う、うん。えと……更識簪です」
「初めまして、ゴクロー・シュレディンガーだ」
「は、はい! その……こ、これ!」
目を瞑って突き出された簪の両手に何かが握られている。受け取ってそれが何なのか確認してみるが……。
「へ、『変身一発』!?」
彼女が持っていたのは紅白のラベルが貼られ、『変身一発』と書かれたドリンク剤。
劇場版『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』に登場する、カイザギアの不適合者でも服用すれば一度だけ変身できる代わりに死んでしまう(もしかしたら、死なないかもしれない)という恐るべき発明品。
実際は、使用者が灰化するのではなく、カイザギアが灰化する。まさに『変身一発』な代物だったが、それでも充分に凄い。
「それ……私が作った、栄養ドリンク試作1号『変身一発』。貴方の模擬戦……見て、作ったんです」
「そ、そうか」
まあ、友子がJKこと神宮海蔵に「褒美をとらす」と言って渡した、ムカデの文字とイラストが書かれたドリンク剤よりはマシかもしれない。思い切って飲んでみる。強烈な味と風味に思いっきりむせた。
「ごはっ! か、かなり効く……でも、癖になるかも」
「う、うん。あの、今日の試合の相手、私のお姉ちゃんなんです。お姉ちゃん、凄く強いけど……その、が、頑張って下さい」
「ああ。応援ありがとう」
「ど、どういたしまして」
「よかったね、かんちゃん」
「う、うん。本音も、ありがとう」
「うん。それじゃ、シュレりんもがんばってね~」
強烈な味と風味に苦戦するも何とか飲み切り、二人はトテトテと去っていった。
『……オイ、大丈夫か?』
「ああ、ドクが作った『IS一発』よりマシだ」
不適合者でもカイザギアが使えるようになるドリンク剤と言う設定がドクの興味を引いたらしく、話を参考にドクがそんなモノを作っていた。アレは今飲んだ『変身一発』よりも酷い味だった。死にはしなかったが、ISも動かせなかったけど。
懐かしい思い出に浸りつつ、気を取り直して職員室に向かった。
「……ズルイ! ズルイ! おねーちゃんには何にも無いのに、ゴクロー君だけ簪ちゃんの手作りドリンク貰うなんてズルイ!」
「会長、落ち着いてください。ただの差し入れですよ」
「こうなったら、本気で行くわ! 簪ちゃんに近づく悪い虫は許さない! 悪い虫は……許さない……ッッ!!」
物影から一部始終を見ていたシスコンのカリスマおぜうさまは、放課後の模擬戦で切り札を使う事を決めた。
●●●
放課後。遂に更識との決戦の時がやってきた。服装は『NEVER』の大道克己コスだ。
「お気をつけて、兄様」
「ふん。軽く捻ってやれ」
「ま、なんだ。必ず勝って来い」
「もしもゴッくんが負けたら、ネコ耳メイド服で皆に御奉仕して貰うからね!」
クロエ、マドカ、箒、束から激励の言葉が贈られる……と、思いきや束だけ何か違う。
「俺のネコ耳メイド姿って誰が得するんだ?」
「ガクガクブルブルニャーニャーなのです♪」
質問に答えてない。それと声は同じだけどそれは違う作品。仮にその姿になっても、俺がライアードーパントの事件で女装したフィリップみたいになるとは思えない。いずれにせよ末代までの恥となるだろう。
「一夏の方はどうなんです?」
「織斑君は先程専用ISが到着しまして、今は織斑先生とフォーマットとフィッティングの真っ最中です」
山田先生からこの場に居ない一夏の現状を聞かされる。フォーマットとフィッティングが終わるまでとなると約30分と言った所か。
「それじゃ、行ってきます」
今回の公式戦ではカタパルトデッキを使わずに、アリーナ・ステージの地上部分で『オーズ』に変身する事を提案している。ピットから歩いて決戦の舞台へと歩を進める。
『ゴクローさん。聞こえますか?』
「ああ、セシリアか」
『その……お、応援していますわ!』
「ありがとう。セシリアも頑張れ」
『はい! 必ず勝利しますわ!』
セシリアからプライベート・チャンネルを使った激励の言葉が送られる。応援してくれる人がいる事が結構嬉しい。アリーナに続く薄暗い通路を歩いていくと、出口から何かを呼ぶような声が聞こえる。
『オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ!』
……なんだ? アンキロサウルスヤミーでも居るのか? それにしては助けを求めるような声ではない。どちらかと言うと、仮面ライダーオーガが登場する時のオーガコールに近いような……。
アリーナに出てみると観客席は満席。一年生から三年生までの全校生徒と教師陣。国のお偉いさんらしき姿も見える。いい気なものだ。
そして、俺が通ってきた出入り口に近い観客席に、一組のクラスメイト全員が座って腕を振上げながらオーズコールをしていた。一組以外の生徒もいる。俺ってこんなに人気あったのか? あ、本音と簪みっけ。
『なんでもいい。やれよ、ゴクロー。変身しろ』
アンクに促され、俺はオーズコールの中で『仮面ライダーオーズ・タトバコンボ』へと変身する。
「変身!」
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』
変身が完了すると歓声が一際大きくなる。個人的には、木場勇治をリスペクトして「俺が生きていく道は一つしかない……俺は『仮面ライダー』として生きていく!」とでも言いたい気分だ。
「うふふふ。とうとう来たわね、この時が!」
「随分と楽しそうだな」
「それはそうよ。だって私って何時も学園の警備に回されるし、強過ぎて学園の大半のイベントに出られないのよ? だから、私がIS学園の試合で戦うなんて中々ないのよ?」
なるほど。この公式戦は俺にとっても更識にとっても晴れ舞台って訳か。
『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』
アナウンスに促され、専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏った更識と空中で対峙する。
タカの目で確認すると、周囲にナノマシンが散布されているのが分かる。ナノマシン散布型と言えば、『ARMS』のパンダースナッチやマーチヘアを想像するが、散布されているのは起爆性ナノマシンで、冷凍攻撃もレーザー攻撃も出来ないらしい。
『それでは両者、試合を開始して下さい』
試合開始のブザーが鳴るが、一歩も動かず悠然と構える更識。とりあえず周囲に散布されたナノマシンがどれほどのものか調べるか。
スロットのメモリをジョーカーからルナに変更。トリガーマグナムを召喚して、自由に湾曲するエネルギー弾を乱射する。
開始直後に遠距離攻撃。それも『偏光制御射撃【フレキシブル】』を使用した事で観客席から驚きの声が上がる。IS学園に来てから、メダジャリバー一本しか使っていなかったからだろう。
対する更識は慌てず騒がず、湾曲するエネルギー弾を大型ランス『蒼流旋』と、ナノマシンで構成されたアクア・ヴェールで全て防ぐ。
「うふふ。その程度じゃあ、このドレスは破れないわよ?」
更識のからかうような口調は相変わらずだ。防がれたが仕方無い。通常使用ではマキシマムドライブと比べて威力はかなり低い。更識が反応しにくい場所や、死角があるかどうかを判断したかったのだが、アクア・ヴェールにも更識本人にも特に死角は無い様に見える。
『ある程度攻撃力があれば突破は可能だ。コレに変えろ』
「さあ、コッチもガンガン行くわよ!」
『クワガタ! クジャク! チーター!』
『蒼流旋』に搭載されている四門のガトリングガンから放たれる弾丸を、タトバコンボからガタジャーターへのコンボチェンジで発生するメダル状のエネルギーで防ぐ。メモリもルナから、射撃能力強化のトリガーに変える。
ガタジャーターへのチェンジが完了すると、即座にチーターレッグの高速移動に入る。チーターレッグの高速移動と、クワガタヘッドの電撃が加わったタジャスピナーの火炎弾で攻める。
コレに対して更識は殆ど動かず、螺旋状の水を纏った『蒼流旋』と、水の刃を纏った蛇腹剣『ラスティー・ネイル』の二刀流で、電撃付き火炎弾を防ぐ。
更に此方の動きを先読みして、ガトリングガンと超高圧水流弾で遠距離攻撃を仕掛け、隙を見て接近戦を仕掛けようとする俺を牽制してくる。
手数より破壊力を優先したが、立ち回りを見るに逆に対処しやすくなっている様な気がする。
『チッ! 埒が明かないか。コレに変えろ!』
『クワガタ! ゴリラ! チーター!』
ガタジャーターからガタゴリーターにチェンジ。メモリもメタルに変更して防御力を上げる。多少のダメージは覚悟の上で接近戦だ。
「コッチもそろそろ行こうかしら? 必殺・楯無ファイブ!」
指パッチンと共に四人の更識が新しく現れ、合計五人の更識が並んだ。確か、ナノマシン・レンズを使って作った幻影と、アクア・ナノマシンの自爆分身のあわせ技だったか?
『違う! 全部がアクア・ナノマシンで作った分身だ!』
全部が自爆分身!? 随分と奮発したな。どっちにせよ、触れずに倒せば問題ない。
クワガタヘッドの電撃を纏ったゴリバゴーンを分身二体に向かって放つ。ゴリバゴーンの直撃で分身二体が爆発するが、両腕のゴリバゴーンが無くなって一気に貧相になった瞬間を狙って、残り二体の分身と本体が此方に向かってくる。
左手にセルメダルを3枚装填した状態のメダジャリバーを召喚し、右手にオースキャナーを手に取りセルメダルをスキャンする。
『トリプル・スキャニングチャージ!』
「あら? その技は確か――ッッ!!」
何かを察した更識本体は、『オーズバッシュ』の軌道から急いで離脱。『オーズバッシュ』は空間ごと分身二体を切り裂き、分身二体は爆発した。分身ごと本体を仕留めたかったのだが、勘のいい奴だ。
「な、何よ今の!? おねーさん聞いてないんだけどッ!?」
「今初めて見せたからな」
この必殺技は空間ごと対象を切り裂く関係上、防御は不可能。距離に関係なく当たれば勝てる技で、剣の軌道から回避する以外に対処方法は無い。
流石に搭乗者を殺さないように非殺傷に設定してもらったが、それが初見でバレてしまった。更にセルメダルも一気3枚を消費した。セルメダルが10枚しか使えない事は更識も知っているのでコレは不味い。
『今ので仕留められなかったのは痛いな。何とかセルを稼げ!』
分かっている。ゴリバゴーンを両腕に戻し、新しく召喚したエンジンブレードにアクセルメモリを装填。トリガーを引いてアクセルメモリのマキシマムを発動する。
『ACCEL・MAXIMUM-DRIVE!』
エンジンブレードを更識に向かって思いっきり投擲。動力を宿したように更識に向かって加速するエンジンブレードを、更識は正面に散布したアクア・ナノマシンと『蒼流旋』で受け止める。
「オラァッ!」
「ぐぅっ!」
受け止められながらも前に進もうとするエンジンブレードの柄尻を、チーターレッグの加速を加えて思いっきり蹴りこむ。その衝撃で更識は『蒼流旋』を手放した。そのまま格闘戦に突入。クワガタの電撃を纏ったゴリバゴーンで殴りかかる……が。
『クソッ! セルメダルを補給できない様に戦ってやがる!』
アンクの言うとおり、更識は此方の攻撃を『ラスティー・ネイル』で受けるか、自前の体術で受け流して極力受けないようにしている。直接攻撃を受ければ自身のシールドエネルギーを削られた上に相手の糧にされるのだから、当然と言えば当然の対処方法だ。
「やはり強いな!」
「お互いに、ねッ!」
至近距離から放たれる高圧水流を、ゴリバゴーンを楯にして受ける。せっかく詰めた距離を離されてしまった。
「仕切り直しか」
「それはどうかしら?」
『!! 後ろだ!!』
アンクに言われて背中を確認すると、『Type-ZERO』にクリスタル状の物体がくっつけられていた。それが何なのか理解すると、即座にメモリをメタルからオーシャンに変え、間に合う事を願ってスロットをタップする。
「かちん♪」
『OCEAN・MAXIMUM-DRIVE!』
更識のスイッチを押すような動作と連動して、くっつけられたアクア・クリスタルが爆発した。
……オーシャンのマキシマムが微妙に間に合わず、『Type-ZERO』は完全に破壊され、爆発によって体がバラバラになってしまったが、とりあえず、更識に接近する事ができた。
『狙いはパッケージだったんだろう。「オーズ」は飛行能力をパッケージに頼っているから、破壊すれば制空権が取れる』
なるほど。そして、更識が『蒼流旋』を取りに行かずにその場から動かないのは、姿の見えなくなった俺の次の手が奇襲だと分かっているから……と言った所か。
『まさか、こんなに近くで隠れているとは思わないだろうがな』
「……え!? どう言う事!?」
ナノマシンを使って周囲をサーチする更識の動揺する声が聞こえた所で、俺はアクア・ヴェールの中から飛び出した。
「なッッ!!」
驚く更識の顔を見て、奇襲が成功した事を確信する。
大洋の記憶を持つオーシャンメモリの能力は二つ。水の精製能力と肉体の液体化。爆発の際に液体化し、爆発で体がコレでもかとバラバラになった後で『ミステリアス・レイディ』の水を操る能力を利用して更識の近くに移動する事が出来た。使った感想としては、バイオライダーと言うより、『ターミネーター2』のT-1000型の気分だった。
装甲を掴み、チーターレッグのリボルスピンキックを叩き込む。しかし更識の対応は早く、数発蹴りこんでシールドエネルギーを減らした所でまたも爆発。今度は周囲に散布したナノマシンを起爆させたようだ。
先程よりも威力は低いが爆発で飛ばされ、飛行能力を失った俺は地面にスタッと着地する。
「体を水に変えるとはね……油断したわ」
手放していた『蒼流旋』を回収した更識が不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。さっきの爆発で全体的に煤けている。
「見せてあげるわ、私の本気。そして、ワンオフ・アビリティーをね!」
そう宣言した更識の『ミステリアス・レイディ』の背中に赤い翼を広げたユニットが展開され、アクア・ヴェールが青から赤に染まる。
『専用パッケージ「麗しきクリースナヤ」! 赤くなったのは超高出力モードに切り替わった証だ! 次に来るのは――』
「もう、遅いわ! 貴方はチェスで言う所のチェックメイトに嵌ったのよ!」
足を動かそうとするが、空間ごと足が沈んで拘束されている。テラードーパントのテラーフィールドか?
『超広範囲指定型空間拘束結界「沈む床【セックヴァベック】」! 拘束力は眼帯娘共のAICよりも強い!』
身動きの取れない俺に、更識が赤く染まった『ラスティー・ネイル』を振り下ろし、無数の赤い高圧水流弾が雨霰と迫る。
『対抗するにはコレしかない! やれ!』
確かにここが使いどころだろう。黄色に統一されたオーカテドラルのコアメダルをスキャンし、特別な変身を示す言葉を叫ぶ。
「超変身!」
『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
猛獣の吼える声と共に、『ライオディアス』を発動。『沈む床』と共に赤い高圧水流弾も全て蒸発した。メモリをオーシャンからルナに変更し、ラトラーター専用パッケージ『トライド』を呼び出す。
胸部にトライドベンダーのフロントカウルから作られた装甲が装着され、前から見た姿は『仮面ライダービーストハイパー』に似ている。そもそも『仮面ライダービースト』は、ラトラーターコンボの没デザインを流用したものらしいから、尚更そう思うのかもしれない。
背中にライドベンダーの後輪とトラカンの前輪を材料にして作ったマルチユニットが装着される。此方は『仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム』の『フォトン・フィールド・フローター』を意識して作ったものだろう。アレよりもかなり大型で、カラーリングも違うが間違いない。
また、トラカンに組み込まれていたOSをそのまま余剰エネルギーの制御に使用しており、『トライド』を装着すると、トラカンのOSはアンクと同様の状態になる。
「それが噂のコンボってやつね」
「――最初に言っておく!」
「あら? 何かしら?」
「胸の顔は――カザリだッッ!!」
「…………はい?」
『……お前、何言ってんだ?』
『GAO?』
「いや、一度言ってみたくてな」
実際、胸部装甲は飾りでもカザリでもない。衝撃吸収と余剰エネルギーの制御装置だ。噛み付き攻撃と衝撃波を撃てない事がちょっと残念だったが。
「よく分からないけど……いくわよ!」
「さあ、振り切るぜ!」
『GAON!』
『ヘマするなよ、忠犬獅子公!』
『GAO!?』
アンク、お前も何か違う。赤い翼を纏った本気モードの更識から放たれる、上空からのガトリングガンと超高圧水流弾の弾雨。それに対して真っ向から受け止め、全て蒸発させる。
「ッ――!! この超高出力モードの攻撃を全部かき消した!?」
トライドベンダーは本来、ラトラーターコンボの余剰エネルギーを吸収して自らの動力へと変換する事で爆発的な走行能力とパワーを発揮する。
その吸収した余剰エネルギーを、別の事に使う事は出来ないかと『ミレニアム』が参考にしたのが、『仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム』のスーツ全体にエネルギーを纏うと言うアイディア。
ラトラーターコンボの固有能力である『ライオディアス』は、半径数kmを瞬時に蒸発させる事ができる強力な熱線であり、『ゴールデン・ドーン』の『プロミネンス・コート』とは比べ物になら無い出力を持っている。
そして、「安定したコンボの運用を図りつつ、余剰エネルギーを使って『ライオディアス』の様な熱線のバリアを、常に身に纏った状態にする」と言うコンセプトの元で作られたのが、ラトラーターコンボ専用パッケージ『トライド』だ。
コレは『亡国機業』のスコールに対抗する為と言う側面もあり、少佐の「『ゴールデン・ドーン』以上の高スペックで真正面から物理攻撃して、あばずれスコールをヒーヒー言わせたい」と言う願望が多分に含まれていたらしい。
「今度は俺達のターンだ」
両腕のトラクローを展開し、猫科の猛獣の様な動きで翻弄しながら、空中の更識に向かって行く。余剰エネルギーを使用している関係上、纏っている熱線のバリアの出力は『ライオディアス』の半分程度だが、赤いアクア・ヴェールは熱線のバリアを纏ったトラクローに容易く切り裂かれ、『沈む床』も簡単に振り切ることが出来る。
猛攻の中、更識が『ラスティー・ネイル』を使い拘束しようと試みるが、蛇腹剣が纏っていた赤いエネルギーは腕に巻き着いた瞬間蒸発し、蛇腹剣本体はトラクローで砕いた。
更識の攻撃は俺に一切通らず、俺の攻撃は更識に通る。こちら側の一方的な試合展開になっていた。
「オラァッ!」
「うあああああっ!」
右ストレートが更識に決まる。地面まで殴り飛ばされた更識は立ち上がろうとするが、片膝をついた。しかし、こちらもエネルギーの消費が激しく、余力は殆どない。俺も地面に降りて、更識に一つの提案をする。
「……出してみろサーガ。光の神を葬るヤドリギを。激情の神が相手をする」
「!!」
北欧神話において、『オーズ』と言う激情を意味する神がいる。愛の女神フレイヤの夫だが、実際にどんな活躍をしたのかは語られる事は無く、ラグナロクの到来時にどのような最期を迎えたのかも不明の神だ。
そして、ミストルティンはヤドリギを指し、オーディンの息子である光の神バルドルを死に至らしめたアイテムとして登場する。このバルドルの死をきっかけに世界から光が失われ、神々の最終戦争ラグナロクへと突入する。
この場合、俺が言ったヤドリギとは、『ミステリアス・レイディ』が誇る一撃必殺の大技『ミストルティンの槍』の事。
通常時はISの防御に使っている水を前方に集中、更に制御下にある水を全て攻撃に回し、水を高速で振動させることであらゆる装甲を粉砕する破壊の槍。
アクア・ナノマシンの熱エネルギー変換を利用した小型気化爆弾4個分に相当する大爆発を叩き込むことも出来る、正に奥の手と言える最終奥義。
それを真っ向から打ち破る……と言う意味で俺は言った。
「言ってくれるじゃない……! どうなっても知らないわよ!」
立ち上がった更識は両手で『蒼流旋』を構える。『ミストルティンの槍』は発動まで時間がかかり、その間更識は隙だらけになってしまう弱点があるのだが、それを気にする事なく更識は発動準備に掛かる。
『ミステリアス・レイディ』の全身から集めた超高出力エネルギーによって赤く染まった水は、『蒼流旋』を中心に攻撃成型した赤い輝きを放つ巨大な赤い槍と化した。
「コレで決まりだ!」
『負ければ洒落にならんがなぁ!』
『GAON!』
『スキャニングチャージ!』
オースキャナーを右手に構え、残った力を全て注ぎ込むつもりでコアメダルをスキャンする。通常とは異なり、前方ではなく頭上に黄色い三つのリングが展開され、マルチユニットを使って急上昇。黄色いリングを一つ潜り抜ける度に、全身から発せられる黄色い輝きとスピードが増していく。三つ目のリングを潜り抜けたところでメモリスロットをタップ。ルナメモリの最大出力を発揮させる。
『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』
全身を駆け巡っていたエネルギーが、ラインドライブを通って右足に一点集中される。黄色に輝く右足を突き出し、地上の更識に向かって急降下する。
「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
更識が上空から突っ込んで来る俺に『ミストルティンの槍』を突き出し、お互いが持つ最大威力の必殺技がアリーナの空中で激突した。
それによって生まれた膨大な黄色いエネルギーの余波は渦を巻いて、巨大な竜巻のようにアリーナから見える青空を覆いつくさんと展開された。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
渾身の叫びに応えるように、赤い光を放つ巨槍の穂先に亀裂が入った。両者の拮抗は崩れ、『ミストルティンの槍』はまるで赤いガラス細工を砕くように黄色い輝きを放つ右足に粉砕されていき、両手で『蒼流旋』を握る更識へと真っ直ぐに向かっていく。
真正面から『ミストルティンの槍』を打ち破った右足はそのまま『蒼流旋』へヒット。『蒼流旋』は爆発し、更識はその場から弾け飛んで背中から地面に叩きつけられた。
仰向けに倒れ、力尽きた更識のISが解除されると同時に、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
『試合終了。勝者――ゴクロー・シュレディンガー』
湧き上がる喚声。俺は倒れている更識の元へ向かう。ボロボロだが何時もの何か隠したような雰囲気は無く、心から楽しそうな顔で笑っていた。これが楯無としての心からの笑顔なのだろうか。
「……負けちゃった。でも……本当に、楽しかった」
「それは良かった……動けるか?」
「あははは。駄目。全然力が入らない。……運んでくれない? お姫様抱っこで」
「やれやれ……」
楯無は思いのほか元気だった。倒れている楯無の膝裏と首に腕を回して抱き上げる。本当に力を出し切ったようで、体を預けるように大人しくしている。そのまま変身を解除する事無く、俺が入ってきた地上部分の出入り口に向かってゆっくり歩いていく。
「……ねえ、知ってる? 『オーディン』の若い年代の名前が、『オーズ』なんじゃないかって話」
「ああ、『オーディンとフリッグの若い年代の名前が、オーズとフレイヤだったのでは無いか』って言う説だな?」
「ふふふ、そっか。知ってたんだ」
何時も通りのいたずらっ子みたいな顔で楯無は笑った。
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なお、傍から見れば最後の光景が、完全にヒーローとヒロインの絵柄だった事で、本人の与り知らぬところで、楯無は簪に猛烈に嫉妬されていた。
「ズルイ……お姉ちゃん、ズルイ……ッッ!!」
「ううぅ~~、目がチカチカするぅ~~」
「……本音、自分で歩ける?」
それでも「メガマブシー!」な必殺技の打ち合いを見て、目を開けるのが辛そうな本音を気遣える簪は優しい良い子だった。
ICHIKA-イチカ-
マドカの『サスケェ!』な自己紹介は実は伏線なんだってばよ。直情的で暴走形態を持つISだったから、これはいけると思っていたんだってばよ。何時の日か、終末の谷でマドカと一騎討ちするかも知れないってばよ。原作での楯無の評価を見る限り、女の好みは年上で、千冬の逆パターンだと思うんだってばよ。
三年生の先輩
オリキャラではないが、原作・アニメ共に名前が分からないモブキャラ。アニメにおいても声優さんがテロップに出ない。何のヒントも無く、仕方がないので『フォーゼ』流にアナグラムで一応名前は決めた。
三年生
→SAN NEN SEI
→SEN SAI ENN
→千 歳 燕
→『千歳燕(ちとせ つばめ)』
こんなんでどうでしょう?
更識簪
ヒーローアニメが大好きな596の同族。模擬戦で余りにもヒーロー的な『オーズ』の姿を見てから、596に話しかけたい一心で特性ドリンク『変身一発』を開発した。最後の最大威力の必殺技同士の激突に、これ以上ない位に簪の小宇宙コスモは熱く燃えた。
専用IS『打鉄弐式』は現在製作中。このまま596に絡み続けると、『パンツァーユニット』のマルチロックオンシステム(複数のISを撃破した実働データ付き)を筆頭とした、『ミレニアム』の技術を応用した恐るべきハイスペックマシンが完成する。
布仏本音
通称のほほん。原作において二日目朝の食堂で『お菓子よく食べるし!』の台詞を言ったのはこの子だと、作者はアニメ第一期を見て知った。596はシュレりんと呼ばれて、『シュレック』と『グレムリン』のキメラモンスターみたいだと内心思っている。
ラトラーターコンボ
猫系メダルの統一コンボ。これにより只でさえ強い『オーズ』が真っ先にパワーアップすると言う、『鎧武』のメロンニーサンを髣髴とさせる状況になった。高火力の不安定なコンボだが、専用パッケージによって安定したコンボの運用が可能になる。
固有能力は、半径数kmを瞬時に溶解、蒸発させる熱線放射『ライオディアス』。800年前の王は『ライオディアス』で湖を蒸発させ、自軍の進軍スピードを上げると言う荒業を使った。冷静に考えればMAP兵器どころか、侵略兵器と言える能力。
トライド
ラトラーターコンボ専用パッケージ。『ミレニアム』が開発していたモノを、アンクが束とクロエに造ってもらった。トライドベンダーを改造したモノで、トラカンに搭載されていたOSはそのまま余剰エネルギーの制御に使用される。
今回出番は無かったが、メダル型のエネルギー弾を発射する武装と、ルナメモリとの組み合わせで熱線を竜巻状に形成して飛ばす事が出来る。つまりこれを使うと、ラトラーターは完全復活したカザリに近い能力を持つようになり、最初に言った事はあながち間違いでもない。
ミステリアス・レイディ
更識楯無のアクア・ナノマシンで水を操る能力を持った第三世代IS。能力の特性故か、他のISと比べてもかなり多彩。今回の公式戦では原作9巻の専用パッケージまで使って、制限付きの『オーズ』はコンボ無しじゃ勝てない程度に強くしてみたつもり。
今回の話は『パラダイス・ロスト』を結構意識して書いた。上手く表現できているのか不安だったが、最後のファイズVSオーガを再現できるのはコイツしかいないとずっと思っていた。