前回投稿した日からちょっと調子が悪かったのですが、翌日になって本格的に体調が悪化。幸いインフルエンザではなかったのですが、数年ぶりに引いた本格的な風邪は中々強力で長引きした。
そして、体がツライとネタも文章も禄に思いつかないのだと言う事を理解しました。読者の皆さんも体調管理にお気をつけ下さい。
2020/10/29 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
楯無を待機していた通路で医療スタッフに預けて、体の力を抜いて変身を解除する。担架に乗せられて運ばれていく楯無を見送り、皆が待っているだろうピットへ向かう。これで俺の試合は終わった。次は一夏とセシリアの試合だ。
『ドイツ、アメリカ、そしてロシア。IS先進国の内、三ヶ国の代表操縦者を撃破した訳だが、気分はどうだ?』
「……正直、少し怖い」
コンボを使った時に、体の奥底から圧倒的で超常的な力が湧き上がる高揚感。今まで抑圧していたモノを一気に解き放ったような解放感。何でも出来ると思えるような全能感。それは、今までで一度も感じた事がないほど強烈だった。
『コンボの力を、自分の手に入れた力の大きさを知って、戸惑っているのか?』
「違う。コンボの力がどれだけ大きいのかは理解していたつもりだ。俺が怖いと思ったのは、その力を得た事で俺がおかしくなってしまうんじゃないかって事」
大きな力は人をおかしくさせる。強大なコンボを使って戦う度に、自分が取り返しのつかない所に向かっているのではないかと不安になる。
その所為か、コンボを使って戦った後にやってくるのは、勝利の余韻でも達成感でも無い。何時もの何かに打ちのめされるような無力感でもない。得体の知れない喪失感だった。
『オーズ』とは本来、『800年前の王』が新世界の神に至るための手段であり、他国への侵略兵器でもある。その為、『800年前の王』は『オーズ』の力を他国への侵略に容赦なく使った。
使い手である王自身の性格も相まって、タジャドル・ガタキリバ・ラトラーター・サゴーゾ・シャウタの5つのコンボを、原作では考えられない程スケールのデカい使い方をしていた。仮に紫のメダルが完成し、プトティラコンボを使えていたら、『アカメが斬る!』のエスデス様の様な使い方をしていただろう。
この世界の『オーズ』はそれを模倣して造られた対IS最終兵器。それもガイアメモリやパッケージを加える事で強化されている。そんな魔改造が施されたハイブリットライダーなら、専用機を圧倒する事も不思議では無いとは思う。
だが、各国からIS操縦者に貸し出される専用機とは、各国が研究と実験によって油断無く積み上げてきた最新技術の塊。それを苦も無くあっさりと倒せる圧倒的な強さと、溢れるパワーに何か得体の知れない恐怖を感じるのだ。
『かつて「力に恐怖しているのは、手にした力がどんなものなのかを理解している」と言ったお前なら大丈夫だ……と言いたいが、お前の場合はそう簡単にはいかない。
奪われる恐怖は欲望を増幅させる。失ってしまう事の想像が自分を奮い立たせるからだ。そして、コアメダルは欲望に強く反応する』
「……ちょっと待て、つまりこういう事か? 俺が強大な力と引き換えに何かを失う事を恐怖すれば、コアメダルの力が更に強くなる?」
『失う恐怖こそが、欲望の原点。だからこそ、「誰よりも強い欲望を持っている人間は、誰よりも失う事を恐怖している」と、俺は思う。
お前は強くて優しい人間を目指し、強くなる度に優しさを失っていく可能性を恐れている。優しさを捨てずに強くなりたい。それはある意味、誰よりも強い欲望だと思わないか?』
言われてみればそうかも知れない。大抵の人間は強い力を持てば傲慢になり、強い自分に酔いしれ、その姿に執着する。その結果、他人を取るに足らないものとして考え、他人に対する優しさを忘れていく。
俺の強くて優しい人間になりたいと言う欲望は、そんな人間になってしまうかも知れない恐怖から生まれたと言っても過言ではないだろう。
『分かっているとは思うが、今更引き返せないぞ。それこそ、世界を自分の色に染め上げるまで、お前は戦い続けなければならない』
「……分かっている。ただ、今までは大きな力について、理解しているつもりになっていたって思い知っただけだ。引き返すつもりは無い。最後まで戦い続ける覚悟はもう出来ている」
『仮面ライダー鎧武』において、「力に善悪は無い。だからこそ、強大な力を持った人間はそれ相応の責任を持たなければならない。力の使い方次第で、その人はヒーローにも怪物にもなる」と阪東さんが葛葉紘汰に語ったが、実際に強大な力を手にして使った事で、その言葉の重みが改めて理解できた。そんな気がする。
「それでも、コンボの力は多用したくないな」
『ふん。そう思うなら公式ルールでも、亜種形態で国家代表を倒せるようにしろ。ただし、他のコンボも必ず習得してもらうぞ。いざというときに縋るモノが無いと困る』
次のコンボか。経験値が必要なコアメダルがまだまだ多いが、今後の事を考えるとどのコンボを狙うべきか……。
そんな事を考えながらピットに戻ると先ほどいた5人の他に、織斑先生がいた。一夏の『白式』の準備は終わったようだ。
「やったねゴッくん! でも体が水になって一度バラバラになったから、一応後でちゃんと検査しようね。頭のてっぺんからつま先まで、体の至る所を隅々まで丁寧に……ね?」
非常に検査を拒否したくなる台詞を、両手をワキワキさせながらのたまう束。心配しているのだと思うが、妙な悪寒がする。
「随分と派手な試合だったな。お蔭でクラス代表決定戦は明日に延期だ」
「? どう言う事です?」
「お前と更識の最後の撃ち合いの余波で、アリーナを覆っているバリアーが破壊された。幸いそれ以外に被害は出ていないが、今日の所は使えん」
織斑先生曰く、俺がやったブラスタークリムゾンスマッシュもどきと、楯無がやったオーガストラシュもどきの激突で生まれたエネルギーの余波は、アリーナのバリアーを破って外に少し漏れたらしい。
劇場版『パラダイス・ロスト』のロケ地になった、さいたまスーパーアリーナ……もとい、スマートブレインの闘技場の様にアリーナに天井が無かった為、アリーナを横に真っ二つにするような事態は起こらなかった。しかし、せっかくの晴れ舞台を台無しにしてしまったか。
「セシリアと一夏に悪い事をしたな」
「いや、これからクラス代表決定戦中止のアナウンスを流すが、既に観客の多くが退席している。その心配は無用だ」
……それは気楽かもしれないけど、それはそれで残念じゃなかろうか。やはり、多少無理してでも二人を先に戦わせるべきだったかも知れない。
●●●
クラス代表決定戦が中止になった為、『NEVER』の拠点に戻って『DXオーズドライバーSDX』を束に提出し、先程の戦闘をアンクと共に見直している。
「俺から見て今回の戦闘は、『オーズ』のエネルギー量が少ない事から全体的に焦りがあったと思うが……ゴクロー、お前はどうだ?」
「俺は全体的に手加減と言うか、ケチケチしてエネルギーを使っていた感じがある」
IS大戦の際は敵から幾らでもエネルギーが補給できた上に、そもそも『オーズ』のエネルギー容量が他のISと比べて桁違いに多い。考えてみれば、エネルギーを相手と同量に設定して戦うなんて、ある意味ボクシングや柔道なんかと同じなのではなかろうか。
公式戦における『オーズ』は、さしずめ減量苦によりスタミナが不足しているボクサーと言ったところか。もっとも、俺自身が減量するわけじゃないから、モスキート級の減量に挑戦したフィリップの様にはならないが。
「『ミステリアス・レイディ』は装甲が少ない分、ISの中でも特にコンパクトな機体だったこともある。こちらの狙いも能力も分かっていた上に、お前も攻撃も何時もより大振りだった」
「確かに……」
セシリアとの模擬戦は決して無駄ではなかったが、殆どエネルギーを消費する事なく勝利した事もあって焦った事は無かった。考えてみれば、楯無が前半戦から殆どその場から動かなかったのもその為か? 移動のエネルギーも全て後半戦に回す為に節約していたのだろうか?
「公式戦ではネコ女に一日の長があった。粘って相手のガス欠を狙うのも立派な戦術だ。実戦と公式戦は違うと分かったな」
「相手に攻撃させて疲れるのを待って、最後に超高出力モードで一気に仕留める作戦だったと」
「それでも『ラトラーター』には負けていたがな。だからこそ、撃ち合いに応じた。奥の手以外に打開する方法がネコ女には無かったからな。とりあえずコレで学園最強になった訳だが、どうだ? 王様の椅子の座り心地は?」
「そんな実感は無い」
「即答か……まあ、明日になれば嫌でも分かるだろう」
「ゴッく~ん。こっちにおいで~。検査するよ~」
今回の試合の反省が終わったところで、俺を呼ぶ束の声が聞こえる。気は進まないが、メディカルチェックは必要だと思っているので大人しく束の指示に従った。
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翌日。メディカルチェックによって、骨密度や筋肉の具合など、知りたいことから知りたくも無い事まで束に知られ、俺に教えられたが、特に体に問題は無かった
それよりも、昨日の楯無戦の影響が想像以上に凄い。教室の前の廊下の野次馬の数は明らかに入学した時よりも多い。教室に入ってもクラスメイトがやたらと話しかけてくる。
『色々と派手だったし、魅せる試合展開をした事もある。普通は「ミステリアス・レイディ」の最終奥義を真っ向から打ち破るなんて馬鹿な真似はしない』
確かに。しかし、仮に俺が最初から『ラトラーター』を使ったら、ワンサイドゲームどころか、一方的な殺戮の様な試合だったと観客は語ったことだろう。一進一退の試合展開から、お互いに強化形態を出し、最後は必殺技同士の激突と言う展開が良かったのだろう。
『セルメダルは稼ぐどころか赤字だが、ファイトマネーは結構儲けただろう? これで車が買えるぞ』
そう。実は楯無と公式ルールで戦う事を受けるにあたって、アンクからの提案で国際IS委員会に対してファイトマネーを要求してみろと言われた。
それで言われた通りに「俺はお前らの考えはお見通しだよ~ん」と言った態度で、「こんなに高く言っちゃって悪いなぁ~」と思う位の金額を、試合に勝った時だけ貰うと言う条件吹っ掛け……もとい、要求してみたら、一日経って要求した金額の2.5倍の金額が向こうから提示された。しかも、前金まで用意して。
『明確な鎖の無い俺達が、連中の言う事を気前良くタダで引き受ける義理は無いからな。
向こうにしてみればそんな俺達を、金である程度まででも手懐けておけるならそうしておきたいし、自分達の器の大きさをアピールできる。
そして、試合に勝った時だけもらうって条件と、金の吹っ掛け方からそれだけの価値がある大きな力を俺達がまだ隠していると思ったのだろう』
確かに俺が国際IS委員会の言う事を聞く義理は無い。IS由来の技術を使っているが、『オーズ』も『エターナル』もISではない。そもそもこれからの事を考えると、わざわざ手札を公表して不特定多数に見せるリスクを負う必要は無い。何が出来るかを教える事は、弱点を教える事に他ならないからだ。
『他には俺達が連中の弱みを一通り握ってる事もあるが、何よりも俺達の機嫌を損ねてどこかに雲隠れされれば最悪だ。もしも包帯女がウサギ女の居場所が分からんからと、狙いを他に向けたらどうする?』
なるほど、都合のいい的がここにあるから、お偉いさん方は安心できるって訳ね。
『相手の弱みと自分の利点は出来る限り利用した方が得だって事だ。まあ、こーゆー事は任せろ。お前には不向きだからな』
……何だか、アンクが『NARUTO』の卑劣様の様に見えてきた。キャラ的にはアンクの方がずっと好みだが。
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放課後行なわれる、一日延期されたクラス代表決定戦。観客席には一年一組以外の生徒が結構いる。もう一人の男子であり、織斑先生の弟である一夏の腕がどれほどのものか見たいのだろう。
今回はアリーナ・ピットで一夏とセシリアの双方に声を掛けてから、観客席に移動して観戦する。アンク、箒、マドカ、クロエの何時ものメンバーの他に、楯無が何故か俺の隣に座っている。生徒会の仕事はどうした。
「それで? 貴方達はどっちが勝つと思うのかしら?」
「セシリア」
「オルコットだ」
「オルコットさんかと」
「オルコット」
「馬夏の負けだ」
楯無が勝敗の予想を聞いてくるが、全員セシリアが勝つと予想した。決して、一夏に良い所が無い訳では無い。実際、一夏の練習風景を見てバトルセンスはかなり高いと思った。しかし、セシリアもレベルアップしており、正直一夏が勝てる要素は少ない。
「ところで、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
「何だ?」
「ゴクロー君って簪ちゃんに手作りドリンク貰ったじゃない? それで、それからどうなの?」
「? あれから特に何も無いが?」
「そうなんだ……。いや、簪ちゃんってちょっとネガティブって言うか、そんなに積極的な子じゃないから、気になってね……。それで、その、簪ちゃんの事で一つお願いがあるんだけど……いい?」
「なんだ?」
「簪ちゃんは代表候補生なんだけど、専用機が無いのよ。本当なら入学にあわせて倉持技研から譲渡される筈だったんだけど、一夏君の『白式』の方に人員が全員割かれちゃって、未完成なのよ」
「? 一夏の『白式』は束が造って、倉持技研に渡した筈ですが?」
「だから、束博士が造ったISだって事で、一夏君に譲渡されるまでの限られた時間で解析する為に、研究所の人員が全員そっちに割かれちゃったの。もしかしたら、男性でも使えるISが造れる可能性だってあったんだから尚更よ」
いや、どちらにせよ全員割かれるってありえないだろ。幾ら世界でも類をみない希少なケースとは言え、仕事をほったらかすなど研究員の正気を疑う。
「それで、簪ちゃんは一人でISを組み立てようとしてるの。多分、私がそうしたから、意識しちゃってるんだと思う。私は結構、虚ちゃんや薫子ちゃんの力を借りたから、完全に一人で組み立てたって訳じゃないんだけど……」
「……つまり、俺に簪のISを組み立てるのを手伝って欲しいと?」
「ふざけんなネコ女。ゴクロー、お前が何かしてやる義理は無いぞ」
「……お願い! 簪ちゃんに力を貸してあげて! ちゃんとお礼はするから!」
「……ゴクロー、私からも頼む。受けてやってくれないか? できる事があるなら私も手伝う」
アンクはそんな事をする必要は無いと言うが、それでもめげずに楯無は手を合わせて頼み込んでくる。箒が一緒になって頼んでくるのは予想外だったが、箒としては楯無よりも簪に何か思うところがある感じだ。
「……分かった。やれるだけやってみよう」
「! ありがとう!」
パァァっと笑顔になる楯無。しかし、簪の事をよく知らないので、アンクと束に簪の情報収集を頼もう。それに目を通して、早ければ今日の夕食後にでも簪に接触してみよう。アンクは盛大に舌打ちしているが。
『それでは両者、試合を開始して下さい』
そうこうしている内に試合開始のブザーが鳴り、一夏VSセシリアの試合が始まった……のだが、一夏は開始直後にセシリアに速攻を仕掛け、セシリアは突進する一夏をひらりとかわしてミサイルとレーザーを一夏に撃ち込んでいた。一夏は「かわしたぁあああああッッ!?」と言わんばかりの表情をしている。
「「「「「「………」」」」」」
……なんと言うか、大相撲で相手力士の突進をひらりとかわして、後ろから土俵の外に押し出したような感じだ。試合が開始されて10秒も経ってないのに、一夏は結構なダメージをセシリアから貰っている。
「長期戦は不利と見て開幕直後の速攻か。狙いは悪くないな」
「だが直線的な動きの突撃など、相手の意表を突けなければカウンターの餌食だ。『瞬時加速』もまだ使えないのによくそんな選択をしたものだな」
「スペック上の出力では『白式』の方が『ブルー・ティアーズ』より上ですし、兄様の模擬戦を見た事が原因ではないかと思われます」
そう言えばセシリアとの模擬戦では、セシリアは開幕直後の速攻に弱かった気がする。一夏は俺とセシリアとの模擬戦を見ていたらしいから、情報収集するにあたってそれが弱点だと思ったのかも知れない。
「その思い切りの良さは見習いたいところだな」
「うむ。一太刀に勝負を賭けるとは、一夏も男らしい所があるではないか」
「それはどうだろうな。ビギナーは勝つか負けるか分からない不安定な状況を嫌う。だから直ぐに腹を括って、一か八かの手段を取りたがる。その方が楽だからな」
「一撃入れれば勝負を決められる力が自分にある事を自覚している事もあるだろうな」
俺と箒が一夏の選択を高評価した一方で、アンクとマドカは安易な選択だと意見が分かれる。ビギナーが経験者に挑むのだから、ある程度機体の能力に頼った戦い方になるのは仕方が無いと思うのだが……。
そんな一夏は、奇襲が失敗したと見るやアリーナの壁に向かい、地面すれすれで壁を背にして、常にセシリアに目を向けて常に移動している。
「攻撃方向を限定させるつもりだな」
「そうね。背面と下方向から攻撃できないようにしているわね。素人の一夏君が思いついたとは思えないから……彼にISを教えた人が教え上手なんじゃないかしら」
アンクに調べて貰って分かった事だが、一夏にISを教えた三年生は、IS学園に居る20人程度の代表候補生の一人で、名前は『千歳燕【ちとせ つばめ】』。専用機持ちではないが、一夏の戦いぶりを見ると、確かに人にモノを教えるのが上手いのだろう。
攻撃方向を前方に集中させた一夏は、本体から離れたレーザービットから放たれるレーザーをブレードで弾いて、4基のレーザービットとセシリア本体を狙っているが、中々上手くいかないようだ。それでも、我武者羅に動いて消耗するよりはマシだろう。
「あのBT兵器とやらは、スピードもあるみたいだな」
「いえ、移動速度自体はそんなに速くはないわ。彼女はビットと相手の距離を一定に保っているのよ。所謂、『何があっても対応できる距離』ってやつね。それにしても彼女、上手く動かしているわ。ゴクロー君、彼女に何を教えたの?」
「……色々と」
箒のBT兵器の感想に楯無が詳しく解説するが、俺に対してセシリアに何をやったのかと質問が飛んでくる。ほんの一週間程度だが、セシリアにはコツと言うかアドバイスと言うか、言葉の通り色々と教えておいた。
何度か模擬戦を繰り返した後の休憩時間の事。余りにもビットのレーザーが当たらないので、セシリアがその理由を聞いてきた事があった。
「直線的な軌道とは言いましても、レーザーは光速ですわ。どうして、そんなに避けたり弾いたり出来るのですか?」
「俺は飛び回るビットよりも、セシリアの目を見て判断してる」
「わたくしの目、ですか?」
「そう。格闘技と同じだ。相手の目や表情を見て相手の狙いを読む。そして撃ってくるタイミングや隙を判断する。幾ら数が多くても攻撃命令を下すのは司令塔のセシリアだから、セシリアに注意すればいいってこと。慣れるまで難しいが、コツを掴めばなんとなく分かる様になる」
「……そうは言いましても、ゴクローさんはフルフェイスで、表情が分かりませんわ」
「その場合は、相手の姿勢や動き、癖を見つけて先読みするとか、工夫する必要がある。兎に角、相手を見続けて考え続けることが大事だ。そうすれば突破口が見えてくる」
こうして、セシリアに観察眼を養う事をアドバイスした。だからこそ、セシリアは一夏の目や姿勢を見て、一夏が開幕直後の速攻を狙っている事を読み、迎撃する事ができたのだろう。
セシリアは一夏をレーザーとミサイルの弾幕で寄せ付けず、一夏は攻撃を被弾する事無く捌いている。すると、4基のレーザービットの内、1基だけ動きが鈍くなっている事に気が付いた一夏。それをチャンスと見て、一夏がそのレーザービットを破壊した……と思ったらそれは囮だったらしく、またもやレーザーとミサイルの集中砲火を喰らっていた。
「あからさまな罠だな。私と『青騎士』なら今ので決まっていたぞ」
「いや、マドカの場合は囮を使う必要がないだろ」
レーザービットが8基ある上に、『偏光制御射撃』が使えるマドカなら、開始一分以内に一夏を蜂の巣にしてしまうだろう。一夏は再び、アリーナの壁を背に距離をとってセシリアと戦っている。
「ビットを破壊して相手の手数を減らすつもりだったと思いますが、余計に追い込まれてしまいましたね」
「逆に言えば、罠を使わなきゃ一夏君に有効打を与えられなかったとも言えるわね」
「しかし、馬夏の動きは逃げ惑うような動きじゃない。何か狙ってやがるぞ」
アンクの言葉通り、一夏は3機のレーザービットがエネルギー切れを起こし、エネルギーを補給する為に本体へ戻る時を狙って、セシリア本体へと突撃していった。
これまでレーザービットが本体へ戻りエネルギーを補給する間、セシリアはビームライフルとミサイルで一夏を攻撃・牽制していたが、ミサイルは弾切れのようで今はビームライフルのみで対応している。
「弾幕が薄くなるタイミングを狙っていたようね」
「不味い! 馬夏が勝っちまうぞ!」
「どうかな……」
必殺の『零落白夜』を発動し、逆袈裟払いの体制でセシリアに突撃する一夏を見てアンクが騒ぐ中、俺はセシリアの表情を見て何かあると確信していた。
セシリアと何度か模擬戦をしてから、俺が思った事をセシリアに指摘していた。
「セシリアに決定的に足りないと感じるのは二つ。一つは意外性だ」
「意外性ですか?」
「ああ。セシリアは基本に忠実で、セオリー通りの戦い方をする。中・遠距離戦のお手本と言っても良い。教科書で販売されたら、即日完売するレベルだ」
「そ、そうですか。ま、まあ、わたくしならそれ位当然ですわ!」
「だが、セオリーに沿ったやり方って事は誰でも知っている戦い方だって事。つまり、ああすればこうする、こうすればああするって感じで、相手に自分の次の手を先読みされるリスクがある」
「……ま、まさか、それで接近を許してしまいましたの?」
「それでも手数が多いから、普通ならそれでカバー出来る。だが、相手の強さによっては、キレイ過ぎるやり方はむしろ弱点になる。それと、近接装備を一切使わない事も問題だ。じゃんけんで相手がグーとパーしか出してこないと分かれば、とりあえずパーを出しておけば引き分けに持ち込める。逆に此方がチョキを出さないと相手が油断しているなら、それは付け入る隙になる」
「………」
「更に、お前には勝利への渇望が足りない。勝ちに飢えていないとでも言うのかな」
「あの、それはハングリー精神と言えばよろしいのでは?」
「……そうだな。兎に角、お前がISの世界で上を目指すなら、今よりもずっと、今よりももっと、誰よりも気高く、勝つことに対して飢えなければ勝てない。
この世界では上に行けば行くほど、理不尽な連中がうようよいる。それらの理不尽に勝利する事が一流の条件だ。ブレード一本で世界を制した織斑先生がその典型だな。その点で言えば、織斑先生は誰よりも勝利に飢えている人間だと言える」
特に『零落白夜』などその理不尽の最たるモノだろう。なにせ、生きている限り相手に一撃入れるだけで、試合の勝敗をひっくり返せるのだから。
そして、織斑先生は文字通り、勝つことで色々なモノを手に入れた人間だ。織斑先生の勝利への渇望は並大抵のモノではない。
「勝利への渇望……」
「そう、気高さを兼ねた勝利への渇望。それを持てば、セシリアはもっと強くなると俺は思う」
セシリアは急接近する一夏に向かって手にしていたレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を投げつけた。唯一の武器を投げ捨てた事で一夏は驚きの表情を見せるが、回転して向かってくるレーザーライフルを逆袈裟に切り裂いて真っ二つにした。
しかし、それこそがセシリアの狙い。セシリアは武装名を宣言し、近接ショートブレード『インターセプター』を召喚。一夏に向かって突撃し、両腕を下から振上げてがら空きになった胴体にショートブレードの一撃を叩き込んだ。セシリアの一撃を受けた一夏は地面に落下。『白式』のシールドエネルギーはゼロになり、試合終了を告げるブザーとアナウンスがなった。
『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』
「驚いたな。近距離なら一夏に分があると思っていたが」
「だから油断して漬け込まれた。明らかに勝利を確信した顔をしていたぞ」
「確かに、落された時に『そんな馬鹿な』って感じの顔してたわね」
「……まあ、一夏も結構、善戦したと思うぞ」
傍から見ればセシリアの完全勝利だが、代表候補生のセシリアが一切油断していなかったにも関わらず、たった一週間の訓練であれだけ粘れたのだから、一夏も大したものだと思う。
「そうですね。始めて一週間にしては上出来かと」
「ふは、ふはははッ! これでアイツは馬夏のままだ!」
試合の感想を各々が述べる一方で、心底面白そうにアンクが笑う。俺としては事故が起こらなくて何よりだった。
●●●
今日の束の晩御飯はクロエと箒が担当しているので、珍しくマドカと二人。食堂で二人用のテーブルで向かい合って食べている。考えてみれば俺とマドカの二人と言うのは、かなり稀なシチュエーションだ。
「それで? どうするつもりだ?」
「とりあえず簪を部屋に呼んでIS大戦の映像データを見せて、俺の事を正確に知ってもらおうと思う。後から真実を知って、騙されたって思うかも知れないし」
アンクと束に頼んだら、簪の情報は直ぐに集った。相手は更識だというのに、この手腕は流石の一言だ。それから判断するに、悪に対する価値観が楯無とは違う様に思える。
簪は勧善懲悪系のヒーローアニメの類が好きで、特撮系も大好物らしい。つまりは、簪は俺と同じ趣味を持った人間だった訳だ。そう考えると『変身一発』を渡した理由は、ヒーロー然とした『オーズ』をそれらと重ねているのではないだろうか。
実際、簪の俺を見る目が何かに似ていると感じていたが、その事を知って織斑先生を見るクラスメイトと同じものだと気が付いた。つまり簪には憧れがあるのだ。
正直言ってコレは不味い。『BLEACH』のヨン様こと藍染惣右介は「憧れとは理解から最も遠い感情である」と言っている。確かに、憧れとは下手をすれば自分の理想を他人に押し付ける行為になりかねない。『Pumpkin Scissors』のハーケンマイヤー三等武官がその典型だろう。そう考えると簪には『オーズ』を、俺という人間が何をしてきたのかをしっかりと理解してもらう必要がある。
もっとも真実を知って、『仮面ライダー鎧武』の闇ッチの様に「アンタにヒーローの資格なんて無い!」とか言うかも知れんが……。
「……私も一緒に居た方が良いか?」
「いや、その場に居ない方が良いと思う。場合によってはお前の事も話すことになるが、それでも良いか?」
「それは構わん。だが相手は更識の人間だ。油断するなよ」
「……まあ、警戒はしておく」
どう見ても簪が荒事に慣れているようには見えないが、マドカなりに心配してくれたのだろう。
「そ、それとだ……」
「?」
「わ、私は、お前の味方だからな!」
うん。やっぱりマドカは良い子だ。
食べ終わるとマドカと別れ、一人で簪の部屋を訪ねた。「見せたいものがあるから部屋に来て欲しい」と言うと、「準備して部屋に行く」と言われて追い返された。そこで部屋に戻ると、セシリアが部屋の前にいた。
「セシリア? 何か用か?」
「あ、えっと、実はお話したい事がありまして……」
「……分かった。お茶でもシバこうか」
「お、おじゃましますわ」
部屋にはコーヒー、紅茶、日本茶、ココアとお茶菓子が常備されており、今回は紅茶を選んだ。カップとポッドを温め、お茶菓子を用意しているうちに、簪と本音がやってきた。本音は簪の付き添いか、はたまた監視役か。
「あ、セッシーもいる~」
「え? オルコットさん?」
「あら? 更識さん?」
簪とセシリアの二人は怪訝な表情をしているが、本音の方は紅茶とお菓子に目を光らせている。虚とはえらい違いだ。
「はいどうぞ」
「……お上手ですわ」
「……うん、虚さんと同じ位、美味しい」
「ん~~うまうま♪」
「誇り高き英国紳士のバトラーのおじいちゃんから教わったからな」
「それは執事としての教育を受けた、と言う事ですの?」
「そんなところだ」
お蔭で俺は、最終的に『少佐にバンホーデンのココアを淹れる』と言う超重要任務を任されるまでになった。その気になればヘルシング家でもやっていけると思う。……多分。
「そ、それで、見せたいものって、何ですか?」
「簪に見せたいものは『篠ノ之束奪還作戦』の全貌だ。これを知っているのは、当事者である『NEVER』のメンバーを除けば、IS学園では織斑先生と山田先生、楯無と虚の四人だ」
「! お姉ちゃんに、何か言われたの?」
「違う。簪に俺を知ってもらう為に呼んだんだ」
「…………本当に、お姉ちゃんは、関係無いの?」
「無い」
あまりにも堂々と即答した所為か、先程まで簪の目に宿っていた警戒の色が抜けた気がする。実際、楯無に頼まれたのはISの組み立てだけだ。俺を理解してもらう必要など無い。だから少なくともこの事に関して楯無は関係ない……と、思っておく。
「わたくしは一旦席を外した方がいいのでしょうか?」
「……いや、丁度いいからセシリアも見た方がいい。本音もついでに見ておけ。そして、ここから先の事は口外しない方が良い」
気を使ってくれたのか、セシリアが退室しようとするが、セシリアにもいずれ知る必要があるだろう。セシリアを制し、俺はかつて織斑先生達に見せた映像データを三人に見せた。リアクションはそれぞれ違うが、三人とも『篠ノ之束奪還作戦』の全貌に明らかに混乱していた。
更に、映像データを見終わった後で、俺が造られた『ミレニアム』について、そしてIS学園に来るまでの『NEVER』の経緯をゆっくりと教えた。
「――以上が、俺が、そして『NEVER』がIS学園にいる理由だ。何か質問はあるか?」
まだ頭が混乱しているのか、戸惑っている雰囲気が感じられる中、簪がおずおずと手を挙げた。
「えっと……いいですか?」
「どうぞ」
「三組の織斑さんは、『亡国機業』のメンバーだったんですよね? どうして、織斑さんを受け入れたんですか? また、テロリストになるって思わなかったんですか?」
簪の言う通りマドカを危険視、もしくは不安視する声は確かにあった。生かしておけば、再びテロリストになるでは無いかと懸念するのは当然だろう。
「俺に言わせれば、マドカがテロリストになる確率はかなり低い」
「なんで、ですか?」
「マドカが心から求めていたのは、自分を『織斑マドカ』として認めてくれる、同じ痛みを共有できる誰かだった。そして、それを手に入れる為に戦っていた」
「同じ痛み?」
「そう。自分と同じ『造られた人間であると言う痛み』。それを共有できる存在が欲しかったんだ」
その言葉で三人はマドカの正体を察した。『造られた人間』としての痛み。そして、目の前のゴクローがクローン人間である事。そして同じ痛み共有できる存在……。
「今のマドカにはそれがある。それがある限りマドカは絶対に裏切らない」
「織斑先生によく似ているとは思いましたが……そう言う事ですのね」
逆に言えばそれを失った場合、マドカがどう言う行動をとるか分からない。その事をアンクに相談した事があるが、「仮にお前が死んだらマドカは元より、『NEVER』の連中は高確率で暴走するか、後追い自殺すると思うぞ」と恐ろしい事を断言した。
「それじゃ……もしも、そのシュラウドさんが捕まったら、『NEVER』はどうなるんですか? この学園から、いなくなっちゃうんですか?」
「それはどうだろうな。多分、保険として確保しておく可能性が高いと思う」
「保険……ですか?」
「それまでの価値観や常識を覆すような、常識の範疇で図れないような事態は突然に、そしてどんな時代でも必ず起こる。その時に正しさだけでは守れない場合、裏側の人間や非人道的な力を借りる必要がある。排除するよりも、適度に飼いならして確保しておいた方が、お互いの為になる」
簪は楯無ほどこの世界の裏側を知っている訳ではない。それでも更識家に生まれた彼女にそれは理解できた。もっとも、正しさだけでは守れないものがある事を知っているからこそ、簪は完全無欠のヒーローに憧れを持っていたわけだが。
「私からもいい?」
「どうぞ」
「シュレりんは、シュラウドさんの子供のクローンだから止めようとしてるの?」
「……違う。俺はシュラウドみたいな、理不尽に大切なものを奪われた人達の憎しみを何とかしたかったんだ」
実際、シュラウドに対して母親の様な感情を抱いた事は一度も無い。そんな風に接すると、逆にシュラウドが辛くなると思ったからだ。
俺は全ての人間を救えるなんて思っていない。この世には救い難い愚か者がいる事も、救わなくていい人間がいる事も知っている。しかし、そこに何かしらの事情があるなら、出来る限り救われて欲しいと思っている。
「でも、理不尽に大切なものを奪われた人間は、ずっとその不幸を抱えて生きる。そしてその原因を作ったものを憎んで、それが滅ぶ事を心から望んでいた。それ以外に悲しみを慰める方法が無いのだと言わんばかりに。俺はそれをなんとかできないかと色々な事を考えて、色々な事をやってきた」
「……それでも、止められなかったのでしょう? それなのに、どうして貴方は諦めないのですか?」
家族を失う痛みは知っているセシリアにとって、シュラウドの境遇は同情すべきものだと思う。それが人為的に引き起こされたのだとしたら、その原因を恨まずにはいられないと思う。現に両親の死で陰謀説が囁かれた時、その可能性が否定されるまで、セシリアはその架空の犯人を心から恨んだ。
「……もしも自分のやった事が全て無駄に終わるとしても、それが絶対に変えられない未来なのだとしても、それは諦める理由になるのか?」
「え……」
「確かに、この世にはどうにもならない事がある。どう足掻いても変えられないものもある。それでも、町で親子連れを寂しそうに見ていたシュラウドや『ミレニアム』の仲間に対して、何もしないと言う選択肢は俺には無かった。
それが無駄かどうかなんて問題じゃなかった。例えその結果が無駄だと知っていても、俺は自分に出来る限りの精一杯やると決めた。それが俺の決めた生き様だ」
「生き様……」
「ああ、生き様だ」
今やシュラウドはISによって造られた社会を、この世界そのものを憎み、心から憎んだ相手と同じ存在になろうとしている。出来るならそうならないで欲しい。だが、もしもそうなったなら、戦うしかない。
誰かの自由と未来を守る為に戦う、『仮面ライダー』としての道を選んだのだから。最後までシュラウドに関わると決めたのだから。
しんみりとした空気が流れる中、その空気を変えようと思ったのかどうかは分からないが、本音が予想外の爆弾を投下した。
「シュレりんは、しののんと付き合ってるの?」
「「!!」」
「……なんでそう思った?」
「だって、『彼女キター』って言ってたから」
そこに注目するのか本音。織斑先生達も触れなかった俺の黒歴史を。
「ゴ、ゴクローさん、ど、どうなんですの!?」
「う、うん! どう、なの!」
迫るセシリアと簪に対して、俺の「彼女キター」発言は極限状況で錯乱していたのだと懇切丁寧に説明した。すると、クロエが部屋に戻ってきた。後30分くらいで消灯時間だと言う事で、お茶会はお開きになった。
「しかし、意外だったな。罵声の一つでも浴びせられると思ったんだが」
資料を見た限りでは、セシリアにとってISは両親の財産を守る為の手段で、簪にとっては姉である楯無に並ぶ為の手段。
そのISを打倒する為に作られた力が『オーズ』だ。『800年前の王』の様に新世界の創造主を目指し、旧世界の破壊神となるつもりは無いが、それを使う自分を良く思うとは考えられない。しかも、俺自身は悪の秘密結社が造り上げた最強の改造人間。忌み嫌われて当然だと思っていたのだが……。
『……お前、本気でそう思ってんのか?』
「いや、普通は悪の組織の改造人間が味方だって言っても、簡単には信用しないだろ?」
具体的にはチェイスに対する詩島剛みたいに敵対心バリバリになると思うのだが。
『普通ならそうだろうが、あの二人……いや、三人もこの世界の汚い部分をそれなりに知っている。そこら辺の人間と同じ価値観を持っているとは思えんが』
言われてみればそうかも知れないが……。兎に角、当初の目的である、俺を知ってもらう事には成功したと思いたい。
○○○
私は本音と別れた後、寮の自室で彼と『オーズ』を目にした日の事を思い出していた。
入学して一週間後に、一年一組のゴクロー・シュレディンガーさんと言う男の人が、ロシアの代表操縦者であるお姉ちゃんと戦うと聞いて、一体どんな人なのだろうと思った。
その人は入学初日から噂になっていた。なんでも、イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんが、不用意な発言で篠ノ之束博士を怒らせたらしく、それを上手く立ち回って円満に解決したらしい。
翌日の昼休みになると、ゴクローさんが篠ノ之束博士をテロリストから一人で守った事。そして『NEVER』の人間だと言う事が噂になっていた。そんなゴクローさんが、オルコットさんと模擬戦をやると聞いて、興味本位でアリーナへ見学に行った。
無数の飛び道具を持つ相手に対して、一本の剣だけを使って自分よりも大きな相手と戦うその姿は、まるでアニメや特撮のヒーローの様だった。クラスメイトが『ブリュンヒルデ』に憧れたように、私は『オーズ』に憧れた。
だから、お姉ちゃんに勝って欲しくて、試合の前に特性のドリンクを作って手渡した。一人では怖くて、本音に一緒に来てくれるようにお願いしたら、本音は快く引き受けてくた。
もし、いらないって断られたらどうしようと不安だったけど、ゴクローさんがちゃんと受け取ってくれて嬉しかった。
そのゴクローさんから語られた話は、私にとって、とても衝撃的なものだった。
対ISを掲げるナチスの残党で構成された悪の秘密結社。ISを打倒する為に造られた対ISの為の兵器。様々な奇妙な実験で生まれたクローン人間。篠ノ之束博士奪還作戦の真実。『亡国機業』との因縁。シュラウドと言う復讐鬼の存在。
そして、正義の為ではなく、人間の自由と未来の為に戦う『仮面ライダー』と言うヒーロー。
「仮面ライダー……。仮面ライダーオーズ……仮面ライダーエターナル……」
確かに彼は悪と同じ存在なのかも知れない。
確かに彼は悪から生まれた存在なのだろう。
それでも私にとって、『仮面ライダー』は間違いなく、私の理想を体現するヒーローそのものだった。
……でも、本当は戦いたくない相手と、助けたかった相手と戦っているのだと分かってしまった。大切な人を失った痛みから生まれた憎しみを何とかしたい。復讐と言う正義に駆られて生まれる憎しみの連鎖を何とかしたい。
しかし、それを何とかできなかった場合どうするのか。その時は戦ってでも止めるしかない。そう言う覚悟が無ければ、憎しみに向き合うことなど出来ないんだと思った。
『シュレりんの中はずっと雨が降ってるんだね』
部屋に戻る途中で本音は彼をそう評した。その通りだと思う。心の中ではずっと雨が降っているんだと思う。他に何か方法は無かったのかって、ずっと後悔しているんだと私は思った。
そんなヒーローの力になりたい。でも、私にはその為の力が無い。どうしても戦う為の力が、ゴクローさんが出来るだけ傷つかないで済む為の力が欲しいと思った。
「……お姉ちゃん。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
私はその為に、今まで頑なに拘っていたプライドを捨てた。
○○○
お礼を兼ねて夕食後に素敵なティータイムを……そんな事を思っていたのですが、そんな優雅な時間を過ごす事は叶いませんでした。しかし、予定を狂わされた不快感は無く、わたくし、セシリア・オルコットは物思いに耽っていました。
「………」
思えば初日に初めて見た時から何処か気になっていた。外交問題に発展しかねない自分の失態を収め、尚且つ自分のやる気を評価し、自分がクラス代表になる手伝いをすると言った男性。
あれから色々な事を教えてもらった。模擬戦においてブレード一本で戦っていたのも、明らかにわたくしの対織斑一夏戦を想定してのもの。どこから情報を得たのかは知りませんが、あそこまで真摯に付き合ってくれた人間がいたでしょうか。厳しい事も言われましたが、その対応がどこか母を思い出させるのも気になりました。
クラス代表決定戦が終わった後で部屋を訪ね、都合よく二人きりで話し合いが出来ると思ったら、予想外の珍客が二人。どうやら、ゴクローさんは更識さんと面識があって、何か見せたいものがあったようでした。
その見せたいものは『篠ノ之束奪還作戦』の全貌。そして、彼がIS学園に来るまでの過去。映像の中で、絶体絶命のピンチの中にいても決して諦めない、激しく燃える赤い炎の様な強い意志を感じさせる瞳は特に印象的でした。
しかし、良いお話ばかりではありません。対ISの為に造られた存在と、祖国からISを奪取した組織の元テロリスト。国防に関する重大な過失を隠蔽した祖国と、迫りくる脅威に対抗する為にそれらを受け入れた国際IS委員会とIS学園。
何が正しくて、何が間違いなのか分からなくなってしまいそうです。
ただ、お二人が生きる為には、それ以外に選択の余地が無い『抜き差しなら無い状況』にあった事は理解できます。両親の財産を守る為に、テストパイロットになる他なかった、わたくしのように……。
そして束博士と織斑先生を、このIS社会を憎むシュラウドについてのお話で、シュラウドを止められなかったのに、どうして諦めないのかと聞いた時、「無駄かどうかなんて関係ない。自分の決めた信念や思いを生き様として貫き通す」と語るゴクローさんの瞳は、映像の中とは違う、静かに燃える青い炎の様な強固な意思が感じられました。
それはかつて、父が一瞬わたくしに見せた深く悲しい眼差しを、どこか母を見る父を連想させました。
母は強い人だった。ISが登場する以前から、幾つもの会社を経営し成功を収めた憧れの人。ISが登場して女尊男卑の社会になったことで、母はより強い力を得た。
しかし、その事で、ゴクローさんが言う『強くなる度に優しさを忘れていく人間』に母がなっていたのだとしたら?
その事が当時のわたくしには何よりも誇らしかったが、父はもしかしたらそんな強くなっていく母を心配していたのでは無いだろうか?
わたくしが気付かなかっただけで、母は少しずつ、どこかおかしくなっていたのでは無いだろうか?
思えば、母は段々と父を鬱陶しそうにしていたが、果たしてそれは父の態度だけが原因だったのだろうか?
三年前に列車の横転事故で亡くなった時。どうして別々に暮らしていた二人が一緒に居たのかずっと不思議に思っていましたが、もしも、もしも父と母が和解していたのなら、父のそんな思いが母に届いていたのだとしたら……。
「……きっと、きっと届いたはずですわ」
名家へ婿入りし、多くの引け目を感じていたであろう父。それでもきっと、父は自分の信念を、自分の生き様を、そして母への思いを貫いたのだと思う。ゴクローさんが自分の信念を、自分の生き様を、シュラウドへの思いを貫こうとするように。
生まれて初めて、父が秘めていた強さを知ったような気がしました。
○○○
翌日の朝。楯無が寮の部屋に物凄い勢いで突撃してきた。
「簪ちゃんが! あの簪ちゃんが、私に専用機を組み立てるのを手伝って欲しいって、昨日の夜に私に言ってきたの!」
やたらハイテンションで嬉しそうに語る楯無を、寝起きで捌くのはとても大変だった。俺は『ソウルイーター』のエクスカリバーを特にウザイと感じず、面白おかしく見ていたクチだが、今の楯無はぶっちゃけ超ウザイ。クロエも鬱陶しいのか、楯無をジト目で見ている。しかし、空気が読めないのか、楯無はそんな事はお構い無しだ。
「本当に、本当にありがとう! 早速今日の放課後から始めるから! 詳しくは本音に聞いてね!」
言うだけ言って楯無は嵐の様に去っていった。言われた通り休み時間の内に本音に、昼休みに簪本人に聞いておこう。後、念の為に虚にも聞いておこう。
「クラス代表はオルコットさん。代表補佐はシュレディンガーくんに決定しました」
朝のSHRで山田先生が嬉しそうに、昨日のクラス代表決定戦で決定したクラス代表を改めて告げる。クラス代表を決めるのにこれだけ時間が掛かったのは一組位だから、漸く終わったという感じなのかも知れない。
「セシリア、改めて一年間よろしくな」
「ええ、宜しくお願いしますわ」
一週間前はぎこちない動きでやった『友情のシルシ』を、今度は流れるような動きでセシリアとやる事が出来た。
キャラクタァ~紹介&解説
596&マドカ
クローン人間コンビ。お互いの境遇がよく似ている所為か、結構仲が良い二人。しかし、二人で組ませる機会が中々思いつかなかったのが作者の悩み。クラス対抗戦の前に、マドカの専用機『青騎士』を登場させたいところ。
楯無&簪
更識姉妹コンビ。普通に簪の専用機開発に596が関わっても面白くないので、そこに楯無達を加えてみた。簪からの自分を頼る電話を貰うという予想外の結果に、楯無は喜びの余りコロ助と化し、「はじめてのチュウ」を歌いながら虚の部屋に突撃した(3秒後、虚の冷たい視線で正気に戻った)。
束&箒
篠ノ之姉妹コンビ。仲の良い所を書く予定は結構あったのだが、基本的に『NEVER』の拠点から動かない束と箒を絡ませるのは思ったよりも大変だと最近気が付いた。
束の世話は、596とクロエと箒がローテーションを組んでやっている。マドカや千冬もそれなりの頻度でやってくる。そう考えると、この作品である意味一番ハーレムしているのは束。主に女王蜂的な意味で。
コアメダル
欲望の結晶。恐怖により欲望の力が増す設定は、小説版『仮面ライダーオーズ アンクの章』の800年前の王の台詞から引用。596にとっては無限回廊の様な罠ともとれる仕様だが、逆に言えば失う恐怖の無い人間ではコアメダルを強くする事は不可能。
クラス代表決定戦
参考資料としてアニメ第一期を見たわけだが、セシリア戦よりもその後の一夏と箒の会話の方に衝撃。一夏が「束さんの妹だからISに詳しいだろうし」としっかり発言したのに対して箒がかなり嬉しそうにしていたのを見て、作者は「つまり、どう言う事だってばよ!」状態になった。