「それでぇ~お嬢様はぁ~……」
「……うん。大体分かった」
楯無から言われた通り、本音から詳細を聞いてみた。独特な超のんびりとした説明はかなり時間が掛かった。
「それで~シュレりんも~、かんちゃんのこと手伝ってくれるの~?」
「まあな。箒も手伝える事があるなら手伝うって。虚も手伝うのか?」
「ううん~。お姉ちゃんは生徒会のお仕事~。でもでも~、お嬢様がお姉ちゃんの代わりになる整備課の人を呼ぶって~」
虚は整備課のエースであり、『分解の虚』と呼ばれているそうだ。是非とも『溶解』と『理解』を習得して、二つ名を『三解の虚』にグレードアップしてもらいたい。
……あれ? 考えてみれば、束なら既に『三解』が出来そうだな。キャラ的にも「束さんは君達の造物主だよ~ん」とか言って世界中のISを『理解』させる事が出来そうだ。
「本音は生徒会に行かなくていいのか?」
「私はね~、いない方がお姉ちゃんの仕事が捗るんだ~」
「……そうか」
本音からとても生徒会役員とは思えない台詞が飛び出してきた。……まあ、気兼ねなく簪に協力できる立場にあるのだと思っておこう。
●●●
そして昼休み。本音曰く、『基本的に昼は教室でパンを食べるタイプ』の簪に会うべく、箒と本音の三人で四組へ向かう。その為、今日の昼飯は購買から買ったパンとコーヒー牛乳だ。
四組の教室に入ると、一番後ろの窓側の席で空中投影ディスプレイを見ながらキーボードを叩く簪がいた。しかし、簪の雰囲気がどこか違う。例えるなら、プライドを吹っ切って鴻上ファウンデーションに出戻った5103みたいだ。
「かんちゃ~ん。みんなで一緒にお昼にしよ~」
「……本音? あ、ゴクローさん……」
「よっ。今日の放課後について話したいんだけどいいか?」
「は、はい……」
「私とは初対面だな。篠ノ之箒だ。宜しく」
「う、うん。更識簪です。宜しく……」
箒と簪がそれぞれ自己紹介し、適当に椅子を調達して簪の机の周りに陣取って、早速簪のIS『打鉄弐式』についての詳細を聞き出す。
「それで『打鉄弐式』はどこまで出来てるんだ?」
「外観は大丈夫……でも、武装と稼動データがまだ……だから、実戦は無理なんです……」
「武装は?」
「連射型荷電粒子砲『春雷』と……マルチロックオンシステムを使った、独立稼動型誘導ミサイル『山嵐』……その二つが問題で……」
ふむ。マルチロックオンシステムなら『パンツァーユニット』に搭載されている。しかも、実際に専用機を含めた複数のISに対して使用し、撃墜した実稼動データ付きだ。
そして連射型では無いが、荷電粒子砲は『バーサークユニット』に搭載されている。『バーサークユニット』は全パッケージの中でも最後に造られたモノで、高速回転ドリル、高出力ビーム砲、エネルギーシールド、そして荷電粒子砲が一つになった攻防一体の武装「バスタークロー」が背面に二基装備される。
本来「バスタークロー」には荷電粒子砲が搭載されていない筈なのだが、俺が少佐達に「玩具のパッケージとかスペックデータ見ても全然書いてないんですけど、アニメ版だと『バスタークロー』からも荷電粒子砲が撃てる様に見えるんですよね~」と言ったのが原因かも知れん。
この荷電粒子砲はセルバーストを用いたエネルギーで起動し、射程と攻撃力を重視した「集束式」と、攻撃範囲と命中率を重視した「拡散式」の切り替えが可能になっている。
おまけに「バスタークロー」をビットの様に本体から切り離し、遠隔操作でドリル状に回転し敵に向かって突撃させる事も出来る。開発が最後期とは言え、ドク達は色々と頑張り過ぎている気がする。
別にプトティラコンボ専用パッケージと言う訳でもなかったので、IS大戦が起こる前に束のラボで居候していた時期に練習目的で一回だけ使ったが、どう贔屓目に見ても元ネタ以上に殺る気満々なパッケージに仕上がっている為、実戦でも模擬戦でも一切使っていない。
余談だが荷電粒子砲の試し撃ちの際、俺は「戦いの神ガタック」に酷似したデザインのクワガタヘッドを使い、『ARMS』で「戦いの神」を自称するキース・シルバーの様な気分で「本当の砲撃と言うものを見せてやる! これが我が破壊の力! 『ブリューナクの槍』だあああああッッ!!」と叫んで撃った。カナリアは飼ってないけど、赤い鳥ならいるし。
もっとも、後で録画映像で見たその姿は、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』のイリスを髣髴とさせたが。
「マルチロックオンシステムはあるが、コッチは固定砲台として使用するコンセプトになっている点が『打鉄弐式』と異なるな。それと荷電粒子砲もあるが連射型じゃない。出力制御や特性把握のサンプルには使えるが……それでもいいか?」
「は、はい……その、むしろ、いいんですか?」
「問題ない。近接装備は?」
「対複合装甲用超振動薙刀『夢現』。こっちは、完成してます」
「ふむ。『シュナイダーユニット』に似たようなのがあるけど、完成しているならいいか」
「あの……その、興味本位で聞くんですが、『シュナイダーユニット』について教えてもらっても、いいですか?」
「ああ、近接格闘戦用のパッケージでな……」
興味津々な簪に『シュナイダーユニット』について説明する。
『シュナイダーユニット』は武装として、両脚の太腿部分にショートブレードが二本。背面にビームソードが二本。両腕の二の腕部分に高速振動する電磁コンバットナイフが二本。尻の位置に可変大型ブレードが一本の合計7本の剣が新しく追加される。元ネタのセブンブレードと言うより、『ガンダム00』のセブンソードの方がニュアンス的にも近い気がする。
電磁コンバットナイフは『仮面ライダーG3-X』の左腕に装備されている『GK-06〈ユニコーン〉』を、尻の可変大型ブレードの形状はゼロガッシャーを想像してもらえれば分かるだろうか。
また、背中に高出力イオンターボブースターとエネルギーシールドジェネレーターが搭載され、高出力のエネルギーシールドが貼れる。
ただし、使用すると猛烈な勢いでエネルギーを消費するパッケージであり、長時間の戦闘が不可能と言う致命的な欠点を持っている。制限が多い公式戦で使用した場合、速攻でガス欠になりかねない。
この問題は『オーズ』が対戦相手のエネルギーをセルメダルに変換して奪う事で解決するのだが、アンクとしては「稼いだセルメダルが稼いだ傍からガンガン消費されていくのが我慢ならない」との事。結果、かなり強力なパッケージであるにも関わらず使う機会に恵まれないのである。
「ふむ。一夏の『白式』みたいなものか?」
「似て非なるものだ。『白式』に似ているのはむしろ『エターナル』の方だ」
「……全然違います。それに、『仮面ライダーエターナル』……です」
俺としては『エターナル』の兄弟機とまではいかないが、『エターナル』のデータを一部流用して造られている事もあり、『白式』には色々と思う所があるのだが、簪は簪で『白式』に並々ならぬ思いがある模様。まあ、気持ちは分からんでもない。それから昼休み終了のチャイムが鳴るまで四人で『打鉄弐式』について話し合った。
●●●
放課後。箒、本音、簪の四人で第二整備室に向かった。きっと、楯無がこれでもかと首を長くして待っているに違いない。
到着した第二整備室は、それなりの数の生徒がいて中々騒がしい。和気藹々としているグループがあれば、怒号が飛び交うグループもある。
「結構人がいるのだな」
「あっちが、三年生のアメリカ代表候補生……ダリル・ケイシー先輩と、専用機『ヘル・ハウンドver2.5』……。向こうが、二年生でギリシャ代表候補生の……フォルテ・サファイア先輩と、専用機『コール・ブラッド』……」
「上級生の専用機か。初めて見るな……」
箒が専用機を興味深そうにキョロキョロと見ている傍で、簪が説明している。この二人は割りと相性が良いのかも知れんと思いながら、俺も専用機持ちのグループにチラリと視線を向ける。
このIS学園には、代表候補生の生徒は全学年で20人程在籍している。この内、専用機を持っているのは、三年生では、アメリカ代表候補生のダリル・ケイシーのみ。二年生ならば、ギリシャ代表候補生のフォルテ・サファイアと、ロシア代表操縦者の楯無の二人。一年生では、イギリス代表候補生のセシリアと、日本代表候補生の簪の二人で合計5人。
代表候補生は各国に複数人存在するが、専用機を与えられると言う事はその中でも特に優れている事の証明であり、各国が開発した最新技術と国防に関わる重要人物であると言う事でもある。
つまり、各国から専用機を渡されている代表候補生は、十中八九『オーズ』に関する情報を持っていると考えていい。それ故か、アンクは基本的に「専用機持ち=仮想敵」として認識しているとの事。
実際に第二整備室に入ってきた俺に対して、専用機持ちの二人はどこか警戒した目をしている。
「簪ちゃん! こっちこっち!」
「……お姉ちゃん」
絶好調な楯無を見て、若干テンションが下がっている簪。身内のテンション・フォルテッシモな姿が恥ずかしいのだろう。そんな楯無の周りに何人か生徒が集っている。リボンの色を見るに2年生のようだ。
「虚ちゃんがいないから、代わりに整備科の人達を集めておいたわ! このメンバーで簪ちゃんを全力でサポートするからね!」
「……うん。その、お姉ちゃん、ありがとう」
俺を含めて、簪のIS『打鉄弐式』を造る為に集ったのは全部で7名。知らない顔もいるので、初めにお互いに自己紹介していく。その中でも、俺が特に気になったのは……。
「二年の黛薫子です。新聞部の副部長やってまーす。これ名刺です」
「なら此方も名刺をどうぞ」
二年生の整備課のエースにして、楯無の『ミステリアス・レイディ』の制作にも関わっていた黛薫子先輩だ。ジャーナリストの卵って感じで、将来は『OREジャーナル』か『ATASHIジャーナル』にいるかも知れない。
「『2000の技を持つ男 ゴクロー・シュレディンガー』? まぁいっか。それと、良かったら後で特別インタビューさせてくれない?
たっちゃんを倒して学園最強になった話題の新入生にして『NEVER』のリーダー。それに『オーズ』についても色々聞いてみたいんですよ」
「……違います。ゴクローさんは、『仮面ライダーオーズ』で、『仮面ライダーエターナル』……です」
「『仮面ライダー』? それに『エターナル』? どう言う事?」
何故かやたらと「仮面ライダー」に拘り訂正する簪に、怪訝な顔をする黛先輩。しかし、どう説明したモノか。
ミレニアムにとって「仮面ライダー」とは対ISを目的として造られた兵器だ。それは開発コードの様なもので、『仮面ライダーオーズ』においてバースシステムが「仮面ライダーバース」の名称で造られていたのとあまり変わらない。馬鹿正直に話して良い内容ではない。
一方、俺にとって「仮面ライダー」とは一つの生き様であり在り方。そして一つの称号だ。とは言うものの、それを説明するのは自分の出自に関わるので、これもやはり馬鹿正直に話す内容ではあるまい。
ちなみに、名刺が『クウガ』の五代雄介スタイルなのは、『龍騎』の佐野満スタイルだとトラウマ必至の悲惨な最期を迎えそうだからだ。ちなみに2000の技はしっかり習得したから嘘ではないし、2000番目の技は当然『オーズ』への変身だ。
『そんなのは良いから適当に濁して説明しておけ』
「……『仮面ライダー』とは開発コードだ。今から約7年前に始まった『仮面ライダー製造計画』。『オーズ』はその計画で生まれたから『仮面ライダーオーズ』って訳だ」
「それじゃ、『エターナル』って言うは?」
「その計画で造られた試作品の仮面ライダー0号の事だ」
「0号。えっと……良かったらそれ見せてもらえると嬉しいかな~なんて。あ、写真でも動画でも何でも良いんですけど……」
写真どころか現物が常に手元にあるのだが、どうするべきか? 正直ここで変身した方が手っ取り早い気がするが、変身してもいいのだろうか?
『問題無い。お前がドライバーを二つ持っている事はIS委員会にバレてる』
それもそうだな。結論が出たところで、早速ロストドライバーとエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを装着。久しぶりに『仮面ライダーエターナルRX』への変身を決意し、エターナルメモリのスイッチを入れる
『ETERNAL!』
「え!? な、何!?」
「変身!」
『ETERNAL!』
ロストドライバーにエターナルメモリを装填し、払いのける様にメモリスロットを倒す。すると体の周りで風が巻き起こり、赤い炎のエフェクトの発生と共に『仮面ライダーエターナルRX』への変身が完了する。
しかし、少佐が言ったように「仮面ライダー! エターナッ! アーエーッ!」と言う気にはなれない。RX的なポーズも却下だ。
『おぉ~~~~~~~~~~~~!』
「やっぱり……カッコイイ……」
「うむ。特にあのマントが良い」
「うわぁ、なんか『オーズ』とは全然イメージが違う……」
「なんか『白騎士』より『白騎士』って感じがするわよね」
『仮面ライダーエターナルRX』に変身した事で、第二整備室の全ての人間の視線が俺に対して向けられている。そこら中から感嘆する声が聞こえ、携帯電話を取り出して写真を撮っている奴も見える。
「ね、ねぇ! 何か決め台詞とかあったりするの!?」
黛先輩にそう言われて、左手にプリズムビッカーを召喚。プリズムメモリを柄に突き刺してプリズムソードを右手で引き抜く。そして目の前に敵がいるつもりで、プリズムソードの切っ先をその敵に向けて、決め台詞を言ってみる。
「さあ、お前の罪を数えろ!」
『きゃああああああああああああああっっ!!』
「…………」
「簪ちゃん!? どうしたの!? しっかりして! まさか、気絶してるの!?」
……イカン。収拾がつかなくなってきた。しかし、ケイシー先輩がビクンッと大きく反応していたのは何故だろうか?
猛烈な写メの嵐を乗り切り、気を取り直して簪のIS『打鉄弐式』の制作を開始する。俺と箒は機材室から必要となる機材を第二整備室へ運ぶ肉体労働が担当だ。
「箒ちゃん! そっちのケーブル全部持ってきて!」
「はい! 只今!」
「シュレディンガーさん。こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて下さい」
「よし来た!」
「ふゆぅ。液晶ディスプレイ8個と小型発電機をお願いしますぅ」
「よし、液晶ディスプレイは俺に任せろ!」
「なら私は小型発電機だな!」
俺と箒は簪をサポートする先輩達の指示の元、機材室と第二整備室を全力で往復していた。一人で運べないと判断した時は、二人で協力して機材を運ぶ。
「あふぅ。篠ノ之さん、超音波検査装置をお願いしますぅ」
「分かりました!」
「シュレディンガーさん。髪留め、付け直して下さい」
「任せろ!」
「篠ノ之! ダッシュでデータスキャナー借りてこい!」
「はい! 全速力で!」
「わはぁ。シュレディンガーさぁん。お菓子食べさせてくださぁい」
「よし来た!」
「篠ノ之さん! こっちにレーザーアーム!」
「これですね!」
「シュレディンガー! こっちにジュース飲ませろ!」
「了解だ!」
「……ちょっと、待て。何かおかしく――」
「ゴクロー君! 生徒会の副会長になって!」
「任せろ!」
…………ん?
「今何かおかしな事を言わなかったか?」
「え?」
「え?」
「いや……むしろ……ハァ、もっと前から……おかし、かったろ……」
俺の方がおかしいと言わんばかりの雰囲気の中で、肩で息をしている箒がツッコミを入れる。そう言われてみれば、途中から箒ばかりが機材室に行かされていた様な……。
「ほら、IS学園の生徒会長とは、『全ての生徒の長であり最強』って事で、生徒会長を倒した人は次の生徒会長になれるんだけど……正直、生徒会長になりたい?」
「……辞退したいところだな」
「でしょうね。でも、そうかと言って野放しにする訳にもいかないのよ。学園の各部活から『ゴクロー君をうちの部活に入れて欲しい』って生徒会への陳情がこの二日で一気に凄い事になってるし。それで、ゴクロー君の救済処置として生徒会に入らないかって話」
「部活に関しては『仮面ライダー部』を新しく作ると言うのはどうだろう?」
「却下。そんな事したら余計に混乱するに決まってるじゃない」
駄目か。いいと思ったんだけどな、IS学園仮面ライダー部。しかし、生徒会か……全員が知り合いだし、居心地も悪くなさそうだ。
仮に生徒会を『キバ』のチェックメイトフォーに例えるなら、キングが楯無で、クイーンが俺。ビショップが虚で、ルークが本音と言ったところか。常識で考えればチェスのキングがクイーンに勝てるはず無いんだが……まあ、気にしない。
『真面目な話どうする? 生徒会に入ってネコ女の手下になるのか? 俺としてはネコ女を蹴落として生徒会長になった方が得だと思うんだが?』
アンクは俺が副会長になるのが不満のようだが、俺は副会長になった方が得だと思う。むしろ俺が生徒会長になった場合、反乱が起こる気がする。まあ、只ではならないけどな。
『ほう、少しは成長したか』
「副会長になるにあたって、一つ条件がある」
「あら。それは一体何かしら?」
「お前が持っている『学園最強』の扇子を貰おう」
「…………え? それだけ?」
「それだけ」
『期待した俺が馬鹿だったか……』
拍子抜けしたらしい楯無と、期待外れだと言うアンク。俺、そんなおかしい事を言ったか?
「もう。私とお揃いの扇子が欲しいなら、素直にそう言えばいいのに」
「今のお前が持っても『学園最強(笑)』ってディスられるのが関の山だ」
「あら、私の事心配してくれるの?」
……こりゃ何と言っても上手く返されるな。そんな訳で、副会長になる代わりに楯無から扇子を一本貰った。どこぞの馬面……もとい、ペガサス・ゾディアーツだった落語家の高校生みたいに、扇子を取られて逆恨みはしないと思う。多分。
●●●
日曜日。休息のために使う者がいれば、自己鍛錬のために使う者もいる。俺は休息と言うか、家族サービスと言うか、社員の慰安旅行と言うか……兎に角、束とクロエの為に今日と言う日を使う事になった。
ちなみに簪と楯無は、一緒に第六アリーナで『打鉄弐式』の飛行テストを行なうとの事。楯無と簪の姉妹仲はかなり回復したように思える。
「よし。忘れ物は無いな」
「大丈夫です、兄様」
「うん! 箒ちゃん、マドちゃん、行ってくるね!」
「えっと……き、気をつけて」
「ゴクロー。そのネコ耳はなんだ?」
「束が付けてくれって……」
俺達三人の見送りは箒とマドカの二人。俺個人としては、今日は束と二人で出かけて、次の休みにクロエと二人で出かけると思ったのだが、束はクロエと三人で行きたいらしい。クロエはクロエでそれで文句は無いとの事。
そして箒は触れなかったが、マドカが言うように俺はネコ耳を頭に付けている。これは少佐の形見で物凄く気は進まなかったが、見つけた束がやたらとしつこく付けて欲しいと頼み込んでくるので、仕方なく付けた。
「ピコピコ動いてる上に、髪の毛と一体化している様に見えるが、どうなっているんだ?」
「ああ、何と言うか自然な感じがするな」
「『ミレニアム』の脅威の科学力が成せる業だ」
「そ、そうか……」
「それにしても、いっくんの方は大丈夫かな?」
「……大丈夫だと思いたい」
「……ああ、大丈夫だと思いたいな」
一夏の事を考えて不安になる俺と箒。実は一夏は今日、世話になった千歳先輩と二人で『買い物』に出かけるのだ。
時間は昨日の昼に遡る。珍しく一夏が二人で話があると、昼飯に誘ってきたのを俺は微塵も疑いもせずにホイホイと着いて行った。
食堂で日替わり定食を頼み、二人用のテーブルに座る。すると一夏は日曜日の予定について語り始めた。
何でもクラス代表決定戦が終わった後で、三年生の千歳先輩に「世話になったから買い物くらいなら幾らでも付き合う」と言ったらしく、俺にどこか良い店を知っていたら参考までに教えて欲しいとの事。どう考えてもそれはデートだと思うが、一夏が買い物と言うなら買い物なのだろう。
「それで先輩と一緒に着る物を適当に見て回って、せっかくだから先輩に昼飯を奢ろうと思ってる」
「なるほど。それで、何処で昼飯にするか俺の意見を参考にしたいと?」
「いや、中学の友達の実家が料理屋で、そこに行こうと思ってる」
「……それはもしかして大衆食堂の類か?」
「ああ。『五反田食堂』って言う定食屋だ。鉄板メニューは『業火野菜炒め定食』ってヤツなんだ。ああ、あと魚料理が美味い。カレイの煮つけとか最高だ」
嬉々として『五反田食堂』の魅力を語る一夏だが、相手が自分と同じ男子高校生ならまだしも、女子高校生相手に大衆食堂を選択するのは個人的にどうかと思う。ただ、『業火野菜炒め定食』はどんなものなのか、個人的に非常に気になる所だ。
「それで安くて良い物がある服屋があったら教えて欲しいんだけど……」
「……あのさぁ。そーゆー場合って、隠れ家的なお忍びムードがある店とか、イタリアンな小洒落た感じの店とか、そう言う雰囲気の店の方が良いんじゃないか?」
「『五反田食堂』だって知る人ぞ知るって感じで、雰囲気も悪くないぞ。まあ、隠れ家的ってなら、電車の高架下にあるとっておきのラーメン屋台の方が良いかな?」
「それは雰囲気が良いじゃなくて、居心地が良いって言うんだと思うが……ちゅーか、普通は女と二人連れで大衆食堂やラーメン屋には行かねーぞ」
「そうか?」
「そうだ」
俺達の会話に聞き耳を立てていたのだろう。周りの女子生徒達が同じタイミングでウンウンと頷いている。
どうやら一夏にとって、飲食店を選ぶに当たって雰囲気等の要素は二の次三の次らしく、その辺りの感性はあまりアテにならないようだ。アンク、検索を始めろ。キーワードは……まあ、適当で。
『何も思いつかなかったのか。それじゃ、適度に当たりをつけてやってみるか』
こうしてフィリップの『地球の本棚』……もとい、アンクのネットサーフィンによって高校生でもお財布にあまり負担の掛からない、シャレオツな雰囲気の店を探し出す事に成功した。口コミの評判も良いし大丈夫だろう。
「それじゃ、出発する前にこの車に束さんが付け加えた三つの新機能を見せてあげるね! 準備は良い?」
「ああ」
俺達が乗っている車は、先日の楯無戦で稼いだファイトマネーを束に渡して、束に適当な車を買って貰い、束が好きな様に改造したもの。束が言うには核爆弾の爆心地にいても無傷で耐えられる仕様になっているらしい。本当だろうか。
なんとなく形状がトライドロンに似ている気がするが、カラーリングは青を基調とし、シートベルトはラリー用の五点式じゃない。後部座席もナンバープレートもある。よって、元の車は『ホンダ・NSX』ではないだろう。
「1つ! 『DXオーズドライバーSDX』をここにくっつけると、アンくんが車を操縦する事ができるの! カーナビもアンくんがやってくれるよ!」
「ほぅ。では早速」
束の指差す先には『DXオーズドライバーSDX』がカチッと嵌りそうなスペースがある。要するに『ドライブ』のベルトさんと同じ理屈らしい。この世界にロイミュードはいないが、自動運転機能は良いな。
束の言う通りに、『DXオーズドライバーSDX』を取り出してカチッと嵌めてみる。しかし、特に何も変化は起こらなかった。ちょっとつまらん。
「2つ! これで好きな数字を選んで、黄色いボタンを一回だけ押してみて!」
次に束が指差したのは、普通なら灰皿やシガーライターがある場所に設置してある謎のマシン。試しに「07」を選んで黄色いボタンを一回だけ押す。
すると、『オレンジスカッシュ!』とアンクの声でコールが鳴り、紙コップが出てきた。予想外の攻撃に吹いてしまったが、もしかしてドリンクバーかコレ?
「コーヒーメーカーが搭載された車は見たことがあるが、ドリンクバーは初めてだ」
「いいでしょ~? こんな感じで100%ジュースが出てくるの! ちなみにボタンを二回押すと牛乳割りで、三回押すと炭酸割りね!
種類も豊富でオレンジの他には、パイン・イチゴ・バナナ・メロン・ブドウ・マツボックリ・ドングリ・ドリアン・マンゴー・クルミ・スイカ・キウイ・リンゴ・ザクロ・レモン・チェリー・ピーチ・マロン・ドラゴンフルーツの全19種類が好きな様に選べるんだよ!」
……ちょっと待て。今、ラインナップの中にマツボックリとドングリがなかったか? マツボックリとドングリの100%ジュースって飲めるような物なの? あと、ドリアンも危険な香りがする。
「おい! ウサギ女! なんで俺の声で登録した!」
「この数字だけが表示されたロシアンルーレット的な仕様にした理由は?」
「私の趣味だよ。いいでしょ?」
二カッと笑顔で言ってのける束。この数字がロックシードのナンバー順なら、ある程度までどれが何番なのか把握できるが、コレを造ったのは他ならぬ束。油断できない。
「三つ! ハンドルについてるオレンジ色のボタンを……あ! その前に箒ちゃんとマドちゃんは車から少し離れて!」
箒とマドカが車から離れてから、ハンドルについているオレンジ色のボタンを押すと、『タイヤフエール!』とやはりアンクの声のコールが鳴り、タイヤ4輪全てにオレンジ型のタイヤがセットされ横向きに変形。車が空中に浮いた。
「こんな風に空が飛べる様になるの! ボンドカーも真っ青だね! 更に! アクセルを強く踏むと、タイヤから大量のオレンジの果汁を撒き散らす攻撃も出来るんだよ! ねぇねぇ凄いでしょ!」
「……その果汁攻撃に何か意味があるのか?」
「知らないの? ISを含めた機械は果汁に弱いんだよ?」
「本当か!?」
「ウ・ソ♪」
出発する前から束に振り回されながらも、遊園地へと出発した。ただ、個人的には『D-LIVE!!』に出てくるような改造車を想像していたんだけどな……。まあ、こんな改造を施された車は斑鳩悟でも乗らない……いや、乗れないだろう。
そんなゴクロー達を乗せた車を見送った箒とマドカ。手にはそれぞれ、ゴクローから受け取った『メロン・スパーキング!』と『ピーチ・スパーキング!』な飲み物が入った紙コップが握られている。
「……マドカ。これから二人で遊園地に出かけないか?」
「断る。奴等は別にゴクローと二人きりと言う訳でもないだろう」
「むぅ……マドカは気にならないのか?」
「気にならないと言えば嘘になるが……ここで私達が尾行すれば、自分達の時の免罪符をあの二人に与えかねないんじゃないか?」
「……なるほど。我慢した方が得か」
「それでもその時に尾行されない保証は無いがな。まあ、せっかくの休みだし、私達も何処か買い物でも行くか?」
「そうだな。買い物にでも行こうか」
二人は紙コップのジュースを飲み干して、モノレールで買い物に出かけた。
●●●
「しかし、こっちの世界で遊園地なんて初めてだ。大人の遊園地とコミケなら少佐達と一緒に行った事あるけど」
「私はどっちも行った事ありません」
「とりあえずアトラクションは全部乗ろう! 全部乗るまでIS学園の土は踏まないから!」
「何の決意だ」
ジェットコースターから始まり、メリーゴーランド、コーヒーカップ、観覧車、etc……。テンション高めの束が俺とクロエの手を引っ張って乗りたいアトラクションを選び、三人で一緒に乗ると言う流れで次々と制覇していく。
最後の締めはお化け屋敷。ここは他のアトラクションと比べてやたらと巨大で、この遊園地の目玉なのだという。
ただ、俺個人としては、登場するクリーチャーが『彼岸島』の邪鬼に良く似ていて別の意味でビビッた。ついさっき出てきたクリーチャーはアマルガムのまり子みたいな奴で、思わず「ヒィイイイイイイイイイ!」と言いそうになった。しかし、ここには豚肉も日本刀も丸太も自生してない。
「メ゛ェエエエエエェェェ!」
「きゃ~~~~! オバケこわ~~~い!」
「ッッ!!」
今度は斧神だった。そんなクリーチャー達が出現する度に、束は大声を出して勢いよく抱きつき、クロエは声を出すのを堪えて手をぎゅっと握ってくる。
しかし、束の方はもはや当たり屋に近い。ここに入る前に小声で「このラッキースケベ偶発地帯なら、ビビッた振りすれば合法的におさわりできるねぇ……」と年頃の女の発言とは思えない事を言っていた。
『いや、お前も結構楽しんでるだろうが』
確かに。俺としても「ヒィィィィィ! 束の禁断の果実がぁああああああああ!! フォビドゥンフルーツがぁああああああああ!!」と言った感じで、『彼岸島』の萌えキャラである隊長の真似をしながら……あれ? なんかクロエの手を握る力がいきなり、そして猛烈に強くなった気がする。
「う゛う゛ぅぅぅぅ~~」
気になってクロエを見てみると、クロエは涙目で頬を膨らませている。可愛い。そしてゴメンねクロエ。
お化け屋敷を30分位かけてクリアした後、約束通り二番目にクロエを助手席に乗せて、IS学園の『NEVER』の拠点に帰った。流石に遊び疲れた様で、束とクロエは車で眠ってしまった。起こすのもアレなので、お姫様抱っこで二人を運んだ。
そして、せっかくなので寝ている二人を並べて、同時に二人の頭や頬っぺたを撫でてみた。
「ん……ふぅ……」
「うにゃぅ……」
クロエはくすぐったそうな反応をして、束はウサギなのにネコみたいな声を出した。キャワイイ。
このまま膝枕に移行して、起きた時の反応を見てからかってみようかなんて思いながら二人の反応を楽しんでいると、箒とマドカがやって来た。そこで二人から手を離そうとしたら、二人同時にガシッと手を掴んできた。コイツ等、起きてやがる。
「……お帰り。そして何をやってるんだ?」
「二人を撫でてる」
「「………」」
「……お前らも撫でてみるか? このネコ耳モードの俺の頭を」
束とクロエは知らん振りし、俺は無言で厳しい視線を向ける二人にネコ耳をピコピコ動かしながら、敢えてそんな提案をしてみる。
「い、良いのか?」
「構わん」
「で、では私は右、マドカは左だ」
「い、良いだろう……おぉうぅ。これは中々……」
「ああ。良い肌触りだな……」
「そうか」
こうして、俺の右手で束を撫で、左手でクロエを撫でる。そして右のネコ耳付近を箒が触り、左のネコ耳付近をマドカが触ると言う、奇妙な状況が誕生した。むぅ。二人の手がくすぐったいが、そう悪くない。
「ところで、そっちは今日と言う一日をどう過ごしたんだ?」
「いや……それがな……」
「箒と二人で買い物に出たんだが、偶然にも馬夏と千歳先輩を見つけて尾行してみた」
歯切れの悪い箒に対して、悪びれる事無くチェイサーしていた事を告白するマドカ。実に素直でよろしい。しかし、箒のリアクションから見て何かあったのは間違いない。
「それで?」
「下着売り場に馬夏の知り合いが居たらしくてな。それからは三人で買い物をしていたぞ」
「…………は?」
ちょっと待て、それは何かおかしくないか?
「……信じられないかも知れないが、一夏とはそう言う奴だ。大方、『買い物は大勢の方が楽しい』とでも思ったんだろう」
「イヤイヤイヤイヤ! ありえないだろ! 幾ら久しぶりに男友達に会ったからって――」
「ああ、説明不足だったか。その知り合いは男じゃない。見た感じ中学生位の女だ。ほら、コイツだ」
「なん……だと……」
マドカの持つスタッグフォンの画面には、一夏と千歳先輩の他に赤髪の女の子が一緒に写っていた。ちゅーか、下着売り場って女物の方だったのか。
他にも、アンクが見つけてくれたシャレオツな店で、千歳先輩と赤髪の女の子にそれぞれ「あ~ん」をしている一夏の姿が写っていた。し、信じられねぇ……。
「それと、お前の『DXオーズドライバーSDX』の玩具が売られていたのを見たぞ。CMも見たが、何時の間にこんなモノを作っていたんだ?」
「楯無会長との試合映像も流れていたな。かなりの盛況だったぞ」
ああ。そう言われてみれば、今日が発売日だったな。今日よりこの世界で、「多々買わなければ生き残れない」と言わんばかりの、本編より過酷なメダル争奪戦が開始されると言う訳だ。ガイアメモリも発売されているけど。
それから束とクロエが満足した事で奇妙な状況は終末を迎え、今回は箒とマドカの三人で夕食を作り、5人で仲良く食卓を囲んでクロエと共に寮に戻った。
しかし、束にはもう一つ、この日の内にやっておきたい事があった。実はバットショットやカンドロイドを利用して、遊園地で遊ぶ自分達三人を撮影していたのだ。そして、束が向かった先は……。
「見て見てちーちゃん! 今日ね、ゴッくんとくーちゃんと一緒に遊園地に行ったの! それでね~」
「…………」
束の口からマシンガンの様に語られる作り立てホヤホヤの思い出話を聞かされ、実に楽しそうな三人の写真と動画を見せ付けられる千冬。
自室でのんびりと休んで時間を消費していた今日を振り返り、千冬は地味に精神的ダメージを受けた。そして、束が満足して去った後、千冬は普段よりも多めに酒を煽って寝た。
●●●
月曜日。楯無戦から一週間が経過した今日の午後から、ISを用いた実技訓練が始まる。
「それではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。ISを展開して飛んで見せろ」
クラスメイト全員がISスーツに身を包んで実技訓練を受けているなか、俺だけが織斑先生と山田先生の二人と同じように、ジャージ姿で授業を受けている。
それと言うのも、昼休み中に織斑先生からISスーツを持っているのかどうか聞かれたのが事の発端だ。
「持ってないですよ。そもそも必要ありませんから」
「だがここはIS学園だ。実技訓練では原則としてISスーツを着用する事になっている。もしも忘れた場合は水着。それも無ければ下着姿で授業を受けてもらう事になる」
「じゃあ、織斑先生公認と言う事で、午後の授業はパンツ一丁で受ければいいんですね」
「おいッ!!」
つまりは、ド派手なパンツ一丁の火野映司スタイルで実技を受ければいいと解釈したのだが、他ならぬ織斑先生に止められた。解せぬ。
千冬としては、自分も束と同じシュラウドに狙われる立場にありながらも、毎日をIS学園の教師として頑張り、充実した毎日を送っていると自負している。
しかし、そんな自分に対して、ひきこもりで社会不適合者の束は、毎日の様に手作り弁当を自慢しまくり、昨日は遊園地でこれでもかと楽しく遊んでいた事を自慢しにきた。
いや、もちろん、束もちゃんと仕事をしている事は分かっている。
だから、束のキャラ弁と自分の弁当を見比べて羨ましいとか。
食堂でマドカと二人で食べているのを見て妬ましいとか。
私にも酒の誘いとか、そんな日々の潤いみたいなモノがあってもいいんじゃないかとか。
ゴクローがISスーツを持っていない事を知っていて、ちょっとだけ困らせてやろうとか。
そんな事を千冬は全然考えていない。
「お前は束と違ってまともだと思っていたのだがな……」
「人間なんて何時死ぬか分からないから、俺は常に一張羅のパンツを履いているんですよ。見られた所で何も恥ずかしい所はありません。それが何か問題でも?」
「大アリだ! ここは本来女子校なんだぞ! お前はそれ位のマナーが分からん訳でも無いだろう!」
「織斑先生がそう言ったんじゃないですか」
「ぬぅぅぅ……」
何も恥ずべき所は何一つ無いと説明したつもりだったが、織斑先生はお気に召さなかったようだ。最終的に実技訓練の時はジャージ姿で、織斑先生と山田先生の補佐に回る事を命じられた。色々とそれらしい理由を付けていたが、そこまでして火野映司スタイルを否定するか。
『俺はお前のそんな所を見る度に、相棒を間違えたのかも知れんと思ってるぞ。それとお前、段々と良い様に使われ始めてないか?』
……そう言われればそうかも知れん。楯無から生徒会の副会長になるように言われ、織斑先生から補佐を命じられ、段々と仕事が増えている気がする。
『気を付けろ。この程度ならまだマシだが、その内IS学園の教職員にされるんじゃないか?』
それはかなり面倒だな。そんな会話をアンクとしている中で、ISを展開して上空に飛んでいったセシリアと一夏が織斑先生から急降下と急停止を命じられ、セシリアは見事にクリア。そして一夏の番なのだが……あれってちょっとヤバくないか?
『ああ、地面に激突するな』
それなら早く言え! 初めての実技訓練で事故なんて洒落にならんぞ!
『チッ! ほら! コレで行け!』
「変身!」
『タカ! ゴリラ! チーター!』
大急ぎでタカゴリーターに変身し、メモリはアクセル、パッケージは『イエーガーユニット』を選択する。チーターレッグとアクセルメモリ、そして大型イオンブースターによる超加速で、地面に向かって突撃する一夏の着地地点……と言うか、着弾地点へと全速力で向かう。
「一夏キターーーーーーーッッ!!」
両手をクロスして激突に備えていた一夏を、横から掻っ攫う様に受け止める。急停止によってグラウンドがガリガリと削られ砂埃が舞い上がる。ようやく停止して一夏を確認するが、特に怪我は無いようだ。
「……あ、あれ?」
「おい一夏、怪我は無いか?」
「え!? あ! 助けてくれたのか! ありがとうな!」
「ああ。それよりも早い所、この体勢を何とかしたいんだが……」
「この体勢?」
しかし、時既に遅し。砂埃は思ったよりも早く収まり、一夏をお姫様抱っこで抱きかかえる『オーズ』の姿をハッキリと見られてしまった。
『ウホォオオオオオオオオッッ!! キィィィタァアアアアアアアアアアアアッッ!!』
嗚呼。クラスメイトの腐ったお嬢様方が、とても女の子が上げてはいけない様な喚声を上げている。
「い、い、い、一夏ぁ! 何時までそうしてるつもりだ! 早く降りろ!」
「そうですわ! そんな羨ま……いえ! そんな格好で恥ずかしくありませんの!」
「お、俺ぇ!?」
……うん。それもこれも「織斑一夏って奴の仕業なんだ」って事にしよう。
その後、一夏とセシリアが武装展開を命じられた後、織斑先生から俺に武装展開のお手本を見せるように命じられた。
言われた通りに、メダジャリバー、メタルシャフト、トリガーマグナム、エンジンブレードと、次々と武器を瞬時に展開し、瞬時に収納していく。
「前から思っていましたけど、ゴクローさんは武装展開が一番凄いですわ」
「ああ。なんて言うか、『何時の間にか持ってる』って感じだよな」
「うむ。これを理想として、各人これ位の速さと精密性を目指す様に。それでは解散!」
ふむ。俺としては平成ライダー特有の「どこからともなく武器を取り出す」をひたすら練習しただけなのだが、思わぬ事が人の役に立ったものだ。こうして初めての実技訓練は終わった。
●●●
アンクはその日の夕食後に開かれる『ゴクロー・シュレディンガー 学園最強&生徒会副会長就任パーティー』に出席せず、ゴクローとクロエの部屋で調べ物をしていた。
「中国の代表候補生。『凰鈴音【ファン リンイン】』か……」
本日付でIS学園に転入する事になった中国の代表候補生。この女については、馬夏について調べた際に名前だけは確認していた。しかし、この時期にIS学園に転入するとなると、その不自然さから何かあるとしか思えない。
そこで詳しく調べてみたのだが、わずか一年足らずで専用機持ちの代表候補生になっている。これはハッキリ言って異例な事だ。
「日本への滞在経験と、馬夏との接点がある事からIS学園へ転入となっているが……どうやら無理をしたようだな」
元々はIS学園に入学する予定だったようだが、軍部が入学を薦めた時はそれを断った。しかし、馬夏がIS学園に入学すると聞くとあっさり掌を返し、ISを展開して軍人を脅してIS学園に転入している事が判明した。
「気に入らないが、こうした奴は珍しくもない。特に代表候補生の中ではな」
そう。こうした人間は特に珍しくない。問題なのはこうした人間は「男の力など児戯。女のISこそ正義」と考えている者が大半で、今の女尊男卑の社会は相当に居心地が良いと思っている事。そんな人間からすれば、『オーズ』は世界を破壊する悪魔、もしくは自分達の天国にやって来た侵略者だ。
世界を破壊する悪魔を倒し、世界に秩序と平和を齎す。この世界でこれ以上の正義が果たして存在するだろうか。
そして、正義を確信した人間こそが、最も残酷になれる人間だ。何故なら、どれだけ理不尽で残虐な事をしようとも、それは彼等にとって“正しい”事なのだから。
「アイツは『正義の為になんて戦ってやるもんか』と言っていたが……大体の人間は正義を求める。正義は我に有りとな。
しかし、コイツはなんでIS操縦者になろうとしたのか。考えられる理由は幾つかあるが、どれも決定打に欠ける」
人間の行動や心理的なモノの9割は欲望。何かを欲するから人は行動する。そして、この女がISに関わった時期は、両親の離婚で中国に帰国した時とピタリと重なる。
その時にこの女が失ったモノは、自身の父親や馬夏と言った人間との繋がり。それまで当たり前の様に自分の傍にいた人間達。
離婚による経済状況の変化も理由として考えられるが、今の世界はどの国も女に対して有利な法律が多く、世界中の何処にいても女の方が男よりも立場は上で待遇も良い。離婚に関する法律もその例外では無い。
「その為に悪党の筈の母親が得をして、善人の筈の父親が悲惨な目に遭う事も珍しくない。そんな父親を守る為に、代表候補生の特権を目指してIS操縦者の道に入る人間もいるが……コイツは違う」
どんな悪も法的に勝ちさえすれば正義。故に、そうした背景のあるIS学園の生徒が居た場合、包帯女が接触する可能性があるとして、ネコ女が注意・監視している。しかし、この女の両親に関しては、特にそうした背景は無い。
「その上で親権が母親にあり、経済的な問題からその道を選んだとは考えにくい。残る可能性は……」
あくまで可能性の一つだが、馬夏の経歴を調べた際、小学5年生から中学2年生の間で起こした暴力事件には、大体この女が関わっている。つまり、馬夏が敵と言う脅威に対して、それよりも強大な力で捻じ伏せる光景を近くで見てきた可能性が高い。
もしも馬夏のいない環境下で、自身を脅威から守る手段として、我を通し他者を捻じ伏せる為の力として、ISによって齎される強大な力を、そして権力を求めたのだとしたら……。
「アンク、ただいま~」
「アンク様。ただいま戻りました」
「……遅かったな」
そろそろ、包帯女も攻めてくる筈だ。あの復讐鬼にとって、IS操縦者は自身の復讐を成し遂げる為の捨て駒。スパイダーメモリに自爆機能を付けていた事から、例えそれが自身の復讐の協力者なのだとしても、それは変わらないだろう。
前回の蜘蛛女の時の事を考えるに、ゴクローの心をへし折るような、粉々に砕く様な作戦を考え、それを実行するだろう。そして、このお人好しはあの時と同じような事が起きたなら、きっとまた「誰も死なせたくない」と言って無茶をするだろう。
だが、何時だって自分の思い通りに上手く行くとは限らない。どんな結末を迎えたとしても、ゴクローの心が折れも砕けもしなければいいのだが……。
「かなり激しく歌っていましたが、喉は大丈夫ですか?」
「今回は大丈夫だ。問題ない」
アンクには夢がある。今よりもずっと強い体を手に入れ、何時の日か宇宙へ行く。
それはISが持つ本来の用途であり、ISコアだった頃の記憶がそうさせるのかも知れない。いずれにせよ、その為には『オーズ』の力が、ゴクロー達の協力が必要だ。
「しかし、『Supernova』を歌った時の簪の反応が凄かったな。楯無が空気を読まずに簪に話しかけた時は凄い顔してたけど」
「まるで別人の様でしたね……」
ゴクローとクロエの会話を聞きつつ、ふと窓ガラス越しに夜空を見る。今日は綺麗な満月だった。
「何時の日か、必ずあそこまで行こう。その次は太陽だ」
夢に見た光景を、必ず手に入れると心に誓った。
●●●
その頃、学生寮の一角で二人の女子生徒が向かい合っていた。
「アンタが二組のクラス代表? 一つお願いがあるんだけど、アタシとクラス代表代わってくれない?」
その光景を、黄色と黒を基調としたカラーリングの鳥型ロボットが、窓の外からじっと見つめていた……。
キャラクタァ~紹介&解説
ダリル・ケイシー
チョイ役その1。アメリカ代表候補生かつ『亡国機業』のスパイなので、他の代表候補生と異なり、『亡国機業』経由の情報網でIS大戦の詳細を知っている。しかし、「例え、俺が悪と同じ存在なのだとしても~」の下りについては、個人的に思う所がある模様。別に「今更数え切れるか!」と言える程の罪は持っていない。
五反田蘭
チョイ役その2。話の中では名前さえ出ていない。現在、彼女の名前を知らない5963は、『クウガ』の「バラのタトゥの女」みたいに、「赤い髪の少女」と呼称している。本来ならば原作6巻の時間軸で起こる出来事が、原作1巻の時間軸で起こっている。
鳳鈴音
中国代表候補生。そして、今回投稿するまで時間が長引いた原因。第一期アニメや原作第一巻と第三巻の箒とのやりとりと見ると、割と自分の立場や力の使い方を分かっている……と思いきや、改めて原作を読むと「女のISこそ正義」なんて思っているわ、参考までに読んでみた赤星健次先生の漫画版では、ISを部分展開して軍人のおっさんを脅しているわで、トライアル・ドーパントは「つまりッ! どう言う事なんだってばよおおおおおおッッ!!」な状態になり、予定していたこの中華娘の立ち位置や今後の展開を考え直す羽目に。
今後の展開として幾つかのルートを考えているが、中華繋がりで『鎧武』のミッチの様になるルートも考えている。要するに殺気スイッチ→病んだ闇ッチ→綺麗なミッチみたいな。
596&束
遂にネコ耳を付けてしまった男と、常にウサ耳をつけている女の二人。ボケとツッコミがしっかりしている所為か、この二人は割りと絡ませやすく書きやすい。たまに逆になるけど。かまってちゃんなウサギと、それをしっかりと相手するネコと言った感じか。
更識家姉主従&妹主従
作者的には、どちらのコンビもキャラ的にもネタ的にも結構書きやすい。姉主従の二人はキャラ崩壊させた時が書いていて楽しく、妹主従の二人は独特な口調で台詞が割りと書きづらいと言う共通点がある。
パーティーで平成仮面ライダーの歌を歌う5963を見て、簪は喜びの余りチョロ松と化すが、空気を読まないおそ松な姉の所為でリヴァ松と化した。その後、楯無はライダーソングの音楽データが一通り入ったフロッグメモリとフロッグポッドを5963から購入。天使松な本音を介して簪にプレゼントし、なんとか許してもらった。
作者としては、IS学園の生徒会メンバーは『ディケイド』における「ファイズの世界」のラッキークローバーよりも、『キバ』のチェックメイトフォーの方が似合っている気がする。だから、アンクがタイガーオルフェノクになったりはしない。
本音「私は私にご褒美を与える~♪」
楯無「私も私にご褒美を与える~♪」
596「……何時もこんな感じか?」
虚「はい……」
世界の破壊者
仮面ライダーディケイドの代名詞。ディケイドがこう呼ばれるのは、「それぞれの並行世界には決められた秩序が存在しており、ディケイドが行動を起こすことでその世界の秩序が狂い出すことが理由である」と、『HERO SAGA』の「ストロンガーの世界」で、自称預言者のプリキュア大好きおじさんが言及している。一例を挙げれば「クウガの世界」で蘇るはずのなかった、究極の闇を齎すマダオが復活した事。
本人の意思に関わらずその存在が悪と同類とされながらも、誰かの為に戦う事が出来ると言う点は、世間ではグロンギと同類の未確認生命体として認識されながらも、誰かの笑顔の為に戦う『クウガ』の五代雄介に近い気がする。士に同行したのは雄介じゃなくてユウスケだけど。
5963はこれに加えて小説版『仮面ライダーディケイド 門矢士の世界~レンズの中の箱庭~』も読破している為、自身の存在そのものが『世界の破壊者』足りえると自覚し、やがては実体を無くして怪人になるのでは無いかと懸念している。もっとも、二次創作の主人公は設定上、ほぼ例外なく『世界の破壊者』と言える存在なのだが。