DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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お気に入り件数が800件を突破しました。読者の皆様のご愛読、本当にありがとうございます。今回の話からオリキャラタグをつけました。

話のタイトルは最後まで悩む事が結構多いのですが、今回と次回のタイトルはかなりあっさりと決まりました。ちなみに次回のタイトルは「復讐のV/仮面ライダーの流儀」です。



第16話 復讐のV/猟奇的な彼女

「おはよう、シュレディンガーさん。私もう、昨日までの私じゃないの……」

 

朝の挨拶をしただけなのに、何故か昼ドラの雰囲気を醸し出しながらそんな台詞をのたまうのは、2組のクラス代表の惣道紫(そうどう ゆかり)。

1組のクラス代表がセシリアに決まった時に、二人で各クラスに挨拶しに行った時に知り合った子だ。

 

「……もしかして、二組に転入生が来る事が関係しているのか?」

 

「あれ? 知ってたんですか? えへへ、実はそうなんです」

 

俺が原因をズバリ言い当てると、舌を出して「バレちゃった♪」と言わんばかりのお茶目な笑顔になった。俺をからかうつもりだったようだが、心臓に悪いから止めて欲しい。

 

「中国の代表候補生で専用機持ち。確か凰鈴音って言ったっけ?」

 

「うん。実は一組、三組、四組って専用機持ちがクラス代表だから、ぶっちゃけクラス対抗戦とか勝ち目ないじゃないですか。だから、ウチのクラスとしてはむしろ渡りに船って感じでして」

 

確かに、専用機持ちの生徒は下地から他の一般生徒とは違う。そして一般生徒は、IS学園から訓練機を借りてISの訓練をしている為、ISを使える時間も機会も専用機持ちに比べてかなり限られている。

 

その為、三年生と二年生ではこうしたイベントに関して「どうせ専用機持ちのいるクラスの勝ちでしょ」と言った感じらしい。

 

実際に去年の二年生ではダリル・ケイシー先輩のいるクラスが、一年生では楯無がこうしたイベントへの出場を禁止されているので、フォルテ・サファイア先輩のいるクラスが優勝するのが何時もの事なのだとか。

 

「それにしてもシュレディンガーさんって歌が上手なんですね。三組の織斑さんと一組の篠ノ之さんも歌が上手でびっくりしちゃいました」

 

「ははは、ありがとう」

 

昨日のパーティーで平成仮面ライダーの歌を歌ったのだが、これが思った以上に受けた。マドカの『NEXT LEVEL』とか、箒の『Circle of Life』とか、楯無やクロエを加えての『Last Engage』とか……。今度機会があれば『咲いて』を歌ってもらいたい。

 

そのお蔭か、昨日のパーティーでマドカにクラスメイトが何人か話しかけていた。『フォーゼ』の如月弦太朗は、『歌は心の壁を砕く特大ハンマーだ』と言っていたが、案外その通りなのかも知れない。

 

 

 

一組の教室の前で惣道と別れ、教室に入ると二組の転入生について、早速クラスメイトが噂していた。

 

「ねえ、シュレディンガー君は知ってる? 隣のクラスに転入生が来るって話」

 

「知ってる。今、二組の元クラス代表と話してきた」

 

「元? もしかしてその転入生が二組のクラス代表になったの?」

 

「ああ。中国の代表候補生で、凰鈴音って奴だ」

 

「!! 凰鈴音!? ゴクロー!! それ本当なのか!?」

 

「ああ。一年前まで日本に居て、それから一年足らずで中国の代表候補生、それも専用機持ちになっている。なんでも、お前と接点がある事がここに転入した理由だそうだ」

 

「え!? 織斑君と接点ってどう言う事!?」

 

一夏が噂の転入生と知り合いだと知ったクラスメイトが、わらわらと一夏の下に集っていく。そんなクラスメイト達を他所に、セシリアが俺に近づいてきた。

 

「ゴクローさん。先程の一年足らずで専用機持ちになったと言う話は本当ですの?」

 

「本当だ。来月のクラス対抗戦では手強い相手になるかもな」

 

「現時点で三組の織斑さんと、どちらが手強いと思いますか?」

 

「マドカ。データを見る限り、専用機を使いこなしているとは言い難い。正直、付け入る隙は幾らでもある」

 

「も、もう情報を掴んでいますの!?」

 

「まあな」

 

昨日の段階で、アンクから凰鈴音の情報を一通り教えて貰っている。セシリアは戦慄しているが、これ位はアンクにとって造作も無い事だ。

 

「そ、そう言えば簪さんの専用機もまもなく完成すると聞きましたが、そちらはどうなのですか?」

 

「簪が言うには、今週中にも完成するって話だ」

 

「えっと、その、それで、お手隙でしたら、来月のクラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をお願いしたいので、よろしかったら今日の放課後に二人っきりで……」

 

「悪いが、今日の放課後は箒に渡される専用機の性能テストに付き合う約束がある」

 

「せ、専用機ですか!?」

 

「ああ。大分遅くなったけどな」

 

「ふっ。まあ、そう言う事だ」

 

何時の間にか箒が俺達の近くに居て、セシリアに対してドヤ顔を決めていた。しかし、簪とほぼ同じタイミングで箒に専用機を渡すあたり、束には何か対抗意識みたいなものがあるのだろか?

 

「まあ、クラス対抗戦に向けたトレーニングに関してはちゃんと協力する。セシリアには優勝して欲しいからな」

 

「セッシーが勝てばクラスの皆がハッピーになるからね~。がんばって~」

 

何時の間にか俺にひっついている本音の言う通り、クラス対抗戦で優勝した一位のクラスには、優勝商品として学食デザートの半年フリーパス券が配られる。

生徒のやる気を出す為との事だが、どの学年も1クラス当たり約25人の生徒がいる。クラス対抗戦が各学年別で行なわれる事を考えると、最終的にIS学園の約75人の生徒にフリーパス券が配られる訳だ。正直、太っ腹だと思う。

 

「でも、これで一組から四組までのクラス代表全員が専用機持ちって事になるね」

 

「専用機持ちって二年生は二人で、三年生は一人だけなんだよね? そう考えると一年生でこれだけ専用機持ちが揃うって凄くない?」

 

「四人の専用機持ちの四つ巴か~。それはそれで面白くなりそうだよね~」

 

正直な話、一学年で専用機持ちがこれだけ揃うのは、珍しいと言うよりも異常事態なのだが、専用機持ちのクラス代表が四人もいるこの状況は、傍目から見ればどのクラスが勝つか分からない、過去に類を見ない面白い状況なのだとか。

専用機持ち同士のハイレベルな戦いが見られる期待も手伝って、今年の一年生はIS学園でかなり話題になっている……と黛先輩が言っていた。

 

「そう! そしてクラス対抗戦を征するのはこの私って訳!」

 

「ん?」

 

妙に自信に満ち溢れている声がした方に目を向けると、勝気そうなツインテールの小柄な少女が一組の教室の入り口に立っていた。

 

「鈴! やっぱりお前なのか!」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。久しぶりね一夏」

 

「……何カッコつけてんだ? すっげぇ似合わないぞ?」

 

「んな!? なんて事言うのよアンタ!」

 

……一夏。知り合いの高校デビューを潰してやるなよ。あっさりとメッキが剥がれてしまったが、そーゆーキャラでやって行こうとしていたのかも知れないじゃないか。

しかし、それよりも問題なのは、凰が一夏に集中していて、背後から接近する織斑先生に全く気がついていない事だ。

 

「おい」

 

「何よ!?」

 

何たる事ぞ。背後に居る人物が織斑先生と気が付かない凰は、迂闊にも強気に出てしまった。容赦ない出席簿の一撃を頭に貰い、ここでようやく相手が織斑先生だと知った凰は、調教済みのワンコの様に萎縮し、すごすごと一組を去っていった。反応から推測するに、凰は織斑先生の手によってエラい目に遭った過去があるに違いない。

 

「シュレディンガー。何か失礼な事を考えていなかったか?」

 

「……織斑先生の学生時代について少々」

 

何故か織斑先生は出席簿を俺の頭に振り下ろした。解せぬ。

 

『暴力でしか自分を表現できない人間もいる。だから世界は平和にならない。永遠にな』

 

アンクの一言は実に深く重かった。

 

 

●●●

 

 

平和的に午前の授業が終わり、珍しく一夏に誘われて一緒に食堂へ向かった訳だが、付いてくるクラスメイトの人数の多い事多い事。大方、一夏から噂の凰の事を聞きだそうと言う腹だろう。

食堂に入ると、入り口で凰がラーメンを持って待ち構えていた。明らかに一夏待ちだが、一夏はマイペースに対応している。しかし、凰はやたらと強気と言うかツンツンしている。中々素直になれない性格なのだろう。

 

そんな話題の中心である二人は、自然と一つのテーブルに二人きりで、和気藹々と話をしながら昼食を楽しそうに食べている。そんな二人の話に興味津々なクラスメイト達は、二人のテーブルの周りでしっかりと聞き耳を立てていた。相川とか谷本とか岸原とか鷹月とか本音とか……まあ、気持ちは分からんでもない。

 

「大分会話が弾んでいるみたいだな」

 

「そうだな。しかし、幼馴染と言うより女友達って感じのフランクさを一夏に感じるな」

 

「ええ。それにしても一夏さん、普段より饒舌ですわね」

 

凰と一夏に気を使った結果、俺、箒、セシリアの三人で昼食を食べている。皆が一夏と凰に注目している所為か、俺達に向けられている視線が普段より少ない気がする。

 

「兄様、ご一緒してもよろしいですか?」

 

「ああ、良いぞ。……ん? 簪も一緒か? 何時知り合ったんだ?」

 

「ああ、簪とは昨日のパーティーで妙に気が合ってな。一組に行く前に四組に寄ったんだ」

 

「こ、こんにちは……」

 

そんな俺達三人のテーブルにやってきたのは、クロエ、マドカ、簪の三人。マドカは気が合ったと言っているが、簪にシンパシーを感じたと言う方が正しいのではなかろうか。所謂、姉を超えようとする妹同士みたいな。

 

そして6人になった俺達のテーブルに、今度は昼食を食べ終わった一夏と凰がやってきた。

 

「お、いたいた。ゴクロー、箒、紹介するよ。俺の幼馴染の凰鈴音。鈴、コイツが前に言ってた、小学校からの幼馴染で剣術道場の娘の箒。コッチが一組のクラス代表補佐で、こないだ生徒会副会長になったゴクローだ」

 

「凰鈴音よ、よろしく……って、え!? 千冬さん!?」

 

「……織斑マドカだ。二度と間違えるな」

 

凰の発言に「またか」と言わんばかりに一気に不機嫌になったマドカ。やはり、織斑先生と間違えられたのが非常に不快だったようで、ギロッと鳳を睨んでいる。その気持ちはよく分かる。

 

「うっ! な、何よ! 言っとくけどあたしって結構強いんだから! 戦ったらあたしが勝つわよ!」

 

「……ふん。お前程度の強さの人間など、鮭の卵と同じだ」

 

「どういう意味よ?」

 

「「イクラでもいる」」

 

俺とマドカの答えが重なった。フッと満足気に不敵な笑みを浮かべたマドカとハイタッチする。

 

「本当にマドカはジョークが上手くなったな」

 

「……ああ、挑発目的のジョークばかり上手くなっているな」

 

……そう言われればそんな気がしてきた。イイ性格になってきたと言うべきか。

 

「い、言ってくれるじゃない……そう言えば、千冬さんに似たクラス代表が一年生にいるって聞いたけど、アンタがそうなのね! 今度のクラス対抗戦で力の差ってやつを思い知らせてあげるわ!」

 

「ほう、それは楽しみだ」

 

「ッッ!! ほ、ほら! さっさと行くわよ一夏!」

 

「え!? お、おい! 引っ張るなよ! あ、それじゃまたな!」

 

どこか織斑先生を髣髴とさせる余裕綽々な態度と鋭い視線を持つマドカに萎縮したのか、凰は一夏を引っ張って食堂を出て行った。なんとなくだが、今度のクラス対抗戦は色々と波乱を呼びそうな気がする。

 

 

●●●

 

 

放課後の第三アリーナのアリーナピット。箒に渡される専用機の性能テストがここで行なわれる。

 

「それじゃ~フィッティングとパーソナライズを始めよっか。束さんが補佐するから直ぐ終わるよん♪」

 

「お、お願い、する」

 

「もう、まだ固いなぁ、箒ちゃんは。でも~~、お顔を真っ赤にして、束さんにどう接するか悩んで、おどおどしてる箒ちゃんも可愛い――ぶふっ!」

 

「よ、余計な事は言わないで早くやってくれ!」

 

「あ~~ん、箒ちゃんひど~~い! ゴッくん。束さんの頭、ナデナデして~」

 

「ゴクロー! 撫でなくていいからな!」

 

「やれやれ……ほら、痛いの痛いの飛んでけ~~」

 

差し出された頭を撫でながら、棒読みの声で泣き付いてきた束をあやす。普段はIS学園内の『NEVER』の拠点で引き篭っているが、箒の専用機の性能テストと言う事で外に出てきたのだ。相変わらず誰にも何にも感知されずに、IS学園を自由に闊歩している。

 

「えへへ~~、やっぱりゴッくんは束さんに優しいね~~。――はい、フィッティング終了。流石私、超早いね。だからもっとナデナデして♪」

 

「はいはい。パーソナライズはどれ位で終わるんだ?」

 

「ん~~大体三分位で終わるよ。だからそれまで♪」

 

「良いけど、箒の専用機について教えてくれないか?」

 

「ん~~~♪ えっとね、箒ちゃんに合わせて近接戦闘を基礎にした万能型で、量産を前提にした、第三世代相当のISだよ。基本スペックからして第二世代の量産型よりもずっ~~と高性能なんだな~~」

 

俺と束を見て「ぐぬぬ……」と言った表情の箒が纏っているISは、赤と黒を基調としたカラーリングで、『打鉄』と同じく戦国武将の甲冑を髣髴とさせる形状をしている。

 

「なんだか簪の『打鉄弐式』よりも『打鉄』の後継機って感じの見た目だよな」

 

「まあね。実は『打鉄弐式』とは異なる『打鉄』の発展系ってコンセプトで造ってみたんだ~。あっちは機動性重視だけど、こっちは防御力重視で全体的に『打鉄』のスペックを上げた感じだね~。武装は『ミレニアム』が造ってた武器を参考にした束さんお手製だよ~」

 

「……ちょっと待て。『ミレニアム』が造った武器って、お前何を参考にした?」

 

「えっとね『アームズチェンジシリーズ』を基本に色々だね。『鎧武』とか『斬月』とか、なんだか和風な所が箒ちゃんに似合いそうだったから、不採用でポイされてたヤツを束さんがIS用に新規作成したのだ~」

 

そう言われてよく見ると、装甲の形状が「仮面ライダー鎧武」のカチドキアームズにどこか似ている気がする。色違いで背中にカチドキ旗は無いけど。

 

「つまり、これはアームズチェンジが使えるISなのか?」

 

「ううん。武器のアームズウェポンだけで、鎧の換装は出来ないよ。だって、鎧と武器がワンセットになっていて、他の武器を使うのに一々鎧を換装しないと駄目なんでしょ? しかも、鎧を換装する時は素体の状態で隙だらけになるんじゃ危なくて使えないよ。まあ、破損した鎧を交換できるって考えればメリットもあるけどねぇ」

 

束の言う通り、アームズチェンジによる鎧の換装の際に生まれる隙はかなりでかい。素体の状態で背後から「一撃! イン・ザ・シャドウ!」されればあっさりとやられてしまう事を『鎧武』本編で葛葉紘汰が証明している。

 

「それと、こいつは『青騎士』みたいにガイアメモリ対応型じゃないんだな」

 

「うん。マドっちの『青騎士』が『プロト・ティアーズ』のISコアを使ったお蔭で思ったより上手く造れたからさ。箒ちゃんにも先ずは普通にISを使ってもらおうと思ったの」

 

「なるほど」

 

「それに、箒ちゃんは先ず普通のISを使って力に慣れた方が良いと思ったの。ガイアメモリ対応型も造れたけど、それだと箒ちゃんが逆に不安になっちゃうと思って」

 

「姉さん……」

 

どうやら、ガイアメモリ対応型でないのは、箒の心境を汲んでの選択だったらしい。その事を知った箒は束の言葉に感動している。……まあ、ガイアメモリなしの、第三世代相当ならまだ、許容範囲か。

 

「ところで、このISの名前は?」

 

「勿論決まってるよ~。束さんが『NEVER』に所属してから初めて造った第三世代の量産型IS。その名も――『黒柘榴【クロザクロ】』!」

 

「!? な、なんでその名前にした?」

 

「? 束さんの類稀なるインスピレーションだよ? あ、三分経ったね。カップラーメンでも作れば良かったね」

 

名前を聞いて『トガリ』を描いた夏目義徳先生の『クロザクロ』を思い出したが、束に他意はないらしく、首を傾げていた。

 

「んっん! ゴクロー! 早速テストを始めようではないか!」

 

「ん、そうしようか」

 

「む? あぁ~~終わっちゃったかぁ……まあいっか! それじゃゴッくんも箒ちゃんも頑張ってね! ゴッくん、箒ちゃんが頑張ったらご褒美に頭ナデナデしてあげて!」

 

「ね、姉さん! 一体何を言って――」

 

「え? 箒ちゃんはゴッくんに褒めて欲しくないの? 頑張ったねって言われて、優しく頭撫でて欲しくないの?」

 

「え!? あ、いや、褒めて欲しくないと言えば、欲しくない訳でもないですが……」

 

からかわれてアワアワしている箒と、からかってニヤニヤしている束。この二人が一緒に居る時よく見る光景だ。こうなると決まって長い。

 

「……先に行っているぞ。アンク、変身だ」

 

『そうだな。とりあえずコレで行ってみろ』

 

「分かった……変身!」

 

『シャチ! ウナギ! バッタ!』

 

ドライバーのコアメダルをスキャンしてシャウバに変身し、ピットから飛び出してアリーナへと降り立つ。パッケージは『Type-ZERO』で、メモリは防御力強化のメタルを選択した。

しかし、基本的に未知の相手にはタトバコンボを選ぶアンクが、初めから亜種形態と選ぶとは珍しい。

 

『言っておくが、俺達は制限付きで戦う。セルメダルは10枚まで。エネルギー量も「黒柘榴」と同量に調整しておいた。早く公式戦のエネルギー配分に慣れないとな』

 

なるほど。俺達も日々成長しなければならないか。アンクと会話して時間を潰していると、ピットからようやく箒が出てきた。

 

「ま、待たせたな」

 

「いや、そんなに待ってない。早速、『黒柘榴』の性能テストと行くか」

 

「ああ、宜しくお願いする」

 

箒はペコリと一礼してから、無双セイバーと大橙丸を模した二本の剣を両手に召喚する。どちらもIS用に造られている為、オリジナルよりかなり大きい。

とりあえずメタルシャフトを召喚し、メタルシャフトにウナギアームから発生する電撃を纏わせる。

 

『しかしあれはウサギ女が造った武器だ。オリジナルと同じ力を持っているとは限らん。常に気を張っておけ』

 

「よし……行くぞ、ゴクロー!」

 

「……来い!」

 

「はぁあああああああああ!!」

 

気合の篭った声と共に、二刀流による接近戦を仕掛けてくる箒を、メタルシャフトの棒術で捌いていく。正直な話、初使用とは思えない程に箒の動きが良い。機体の性能もあるだろうが、箒の高い身体能力と剣道で培ってきた技術が、ISの操縦技術の拙さと経験不足を補っているのだろう。

 

「むぅ! やはり、手強いな! ならば!」

 

「甘い」

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

二刀をメタルシャフトで押さえつけた鍔迫り合いの状態から、箒が左手の大橙丸を収納して無双セイバーの後部スイッチを引いたのを確認した瞬間、メモリスロットをタップしてメタルのマキシマムドライブを発動。体が銀色に輝き、銃口から発射されたエネルギー弾を防ぐ。

 

「オラァッ!」

 

「うわぁああッッ!!」

 

「流石に接近戦は強いな。それなら遠距離戦はどうだ!」

 

お返しとばかりに高圧水流をシャチヘッドから放って箒から距離を取り、トリガーマグナムを右手に召喚。腰のメモリスロットのメモリをジョーカーからサイクロンに変更し、秒間240発の疾風を伴った弾丸を箒に対して連射する。

 

「くっ! 来い!」

 

それに対して箒は左手に盾を召喚して風の弾丸を防ぐ。ふむ、防御もそれなりに出来るみたい……あれ? 箒が手にしている盾って、よく見れば下の方にガトリング砲が付いてないか? あれってもしかして『天・下・御・免!』の方じゃなくて、『乱れ玉! ババババン!』の方か?

 

『だろうな! コレに変えろ!』

 

「ええい! 今度はコッチの番だ!」

 

『シャチ! カメ! タコ!』

 

シャウバからシャカタにチェンジすべく、俺が銃撃を止めた途端ガトリング砲の銃口が此方に向けられ、轟音と共に大量の銃弾が放たれる。

先ずはコンボチェンジで発生するメダル状のエネルギーで銃弾を防ぎ、それが収まる瞬間カメアームの両腕を合わせ、今度は『ゴーラシールデュオ』で銃弾を受け止める。更にタコレッグの吸盤でしっかりと足を地面に固定した。

しかし、ガトリング砲の攻撃力は予想以上に高く、銃弾を受けた傍から衝撃で後ろに下がっている。もっとも、元々命中精度が低いのか、箒の技術的な問題なのか、結構的を外している様にも感じる。

 

『いや、どうやら反動がデカ過ぎて扱いきれてないらしいな』

 

アンクの言う通り、元ネタ同様に本体に掛かる負担がかなり大きいのか、攻撃していた筈の箒が膝を付いた。

 

「うっ! ぐぅぅ! ISの反動制御があってこれか! なら!」

 

ガトリング砲付きの盾を格納し、次に箒が左手から取り出したのは、弓のリムの部分が刃になっているソニックアローを模した黒い弓矢。左手で構え、右手で弦を引く箒の姿は、なんと言うか様になっている。実家の神社で巫女をやっている所為だろうか。

 

『オイ! ぼーっとするな! ポイントされてるぞ!』

 

「はぁっ!」

 

おっと、確かに見入っている場合ではなかった。オリジナルと違って連射性能があるのか、一本ではなく複数本の矢が此方に向かってくる。左右に移動しながら矢を回避し、とりあえず思いついた事を試したいので、レッグをワニに変えてくれるようにアンクに頼む。

 

『ああ、経験値稼ぎだな』

 

『シャチ! カメ! ワニ!』

 

シャカタからシャカワニにチェンジし、メモリもジョーカーに変更する。今度は次々と放たれる矢を、足の動きに合わせて発生するオレンジ色のワニの頭を模したエフェクトを使って噛み砕いていく。

 

……うん。大分慣れてきた。そろそろ試してみるか。

 

「オラァッ!」

 

「なあっ!?」

 

今度は放たれた矢の一本をワニのエフェクトで砕かずに挟み、そのままクルリと一回転して挟んだ矢を投げ返した。予想外のカウンター攻撃に箒は矢の直撃を受けて大きく仰け反る。

これでワニレッグの噛筋力……と言って良いかどうかは分からないが、少しはワニレッグの力をより細かくコントロールする事が出来たと思う。次はデスロールに挑戦したい。

 

「むぅ……分かっていた事だが、滅茶苦茶にも程があるぞ!」

 

「それほどでも」

 

『いや、褒めてないぞ』

 

「そろそろエネルギーも底をつく……はぁああああああああッッ!!」

 

箒は再び無双セイバーと大橙丸を模した大小の二刀を召喚すると、それぞれの柄を合体させた。箒の気合を込めた声に呼応する様に、ナギナタモードの無双セイバーと大橙丸の刀身に、赤色のエネルギーが充填されていく。

 

「こっちも決めるか」

 

『ダブル・スキャニングチャージ!』

 

左手に召喚したメダジャリバーにセルメダルを二枚装填し、右手のオースキャナーでセルメダルをスキャン。メダジャリバーの刀身にセルメダルのエネルギーが充填される。

 

オレンジロックシードを使っていないし、「オレンジ・チャージ!」の音声も無いが、恐らく箒の放とうとしている技は「ナギナタ無双スライサー」だ。

無双セイバーからエネルギー刃を標的に放ち、オレンジ型に展開したエネルギーで拘束、接近して大橙丸で一閃する必殺技。ならば、初撃の拘束目的で放たれるエネルギー刃をなんとかすればいいと見た。

 

「セイヤァアアアアアアアアアッッ!!」

 

右下から左上へ斜めにメダジャリバーを振るい、刀身からエネルギー刃を放つ先制攻撃。コレに対して、箒もエネルギー刃を放って俺の攻撃を相殺するのか。それとも、俺の攻撃をかわしてから俺にエネルギー刃を放つのか。

 

前者なら、攻撃が相殺された際の爆発に紛れて接近し、メダジャリバーにセルメダルを再装填して接近戦。後者なら右手にダミーメモリを装填したメタルシャフトを召喚し、放たれたエネルギー刃に投げて俺の身代わりにしてから、同じ様にメダジャリバーで接近戦を仕掛ける。

 

「はぁっ!!」

 

箒は上空に飛んでエネルギー刃を回避。早速、メタルシャフトを召喚しようと思ったのだが、ここで箒は無双セイバーを振り下ろさずに後部スイッチを引き、銃口からエネルギー弾を一発だけ撃ってきた。

ここで反射的に右手を上げ、カメアームの「ゴウラガードナー」で防ごうとしたのが不味かった。

 

「! コレはッ!」

 

『何ッ!?』

 

「ゴウラガードナー」に着弾したエネルギー弾は、俺の予想に反して弾かれる事なく、黄色いエネルギーネットとなって俺の体を拘束した。

しまった! 只の「ナギナタ無双スライサー」ではなく、「カイザスラッシュ」の要素が加わっていたのか! しかし、元ネタになった武器の所為か、黄色く光るフルーツキャップに拘束されている気分だ。

 

「貰ったぁあああああっ!!」

 

空中でナギナタモードを解除し、エネルギーが充填された大橙丸を両手持ちで構えて上空から箒が迫る。

 

『ちっ! 油断しやがって! 何とか振り切れ!』

 

「こんのぉぉぉおおおッッ!!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ロックされている所為なのか、左手に握ったメダジャリバーを収納できない。メダジャリバーを握ったままで左手を何とか動かし、メダジャリバーの柄尻でメモリスロットをタップ。ジョーカーメモリに宿る「切り札の記憶」を解放する。

 

ところで、「切り札」とはトランプにおける特別強い力を持つカードであり、転じて「他の全てを抑える事ができる、とっておきの手段」と言う意味だ。これを俺は「切り札とは、あらゆる逆境を跳ね返す力」であると解釈した。

 

そんな思想の元で使われ続けたジョーカーメモリは、「ピンチの時ほど強い力が出せる」と言う、どこぞのピンク色のツンデレツインテールの持っている帝具みたいな能力を獲得した。つまり……

 

「オオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ピンチによって真価を発揮した切り札の力で、エネルギーネットを無理矢理に引き千切る。拘束が解かれた瞬間、右手に握っていたオースキャナーを捨て、振り下ろされた大橙丸の刀身にライダーパンチを叩き込む。

お互いの必殺技が激突した衝撃で、俺と箒はその場から大きく飛ばされたが、俺は空中で体制を立て直して両脚でしっかりと着地した。一方の箒は背中から地面にぶつかった。

 

「ぐ、うぅぅ……」

 

『はぁ~~い! 二人ともそこまでだよ! それ以上は「黒柘榴」が大破しちゃうからね! 少し休んだら二人ともちゃ~んと束さんの所に来てね! ところで、ゴッくん。箒ちゃんはどうだった?』

 

「あぁ……初陣にしては上出来だな」

 

「ほ、本当か!?」

 

「おいゴクロー、初めから甘やかすな。弱点だらけで、力を使いこなしているとは言えないんだからな」

 

「うっ……」

 

箒が『黒柘榴』を解除し、俺も『オーズ』を解除すると、ドライバーからアンクが飛び出して箒に厳しい評価を下す。そう言えば、成長させる為にはあえて厳しい事を言う事も必要だと聞いた事があるが、俺は相手を褒めて伸ばすタイプなんだよなぁ……。

 

「ま、何にせよお前はこれから……いや、ここからスタートだ」

 

「う、うむ…………ハッ! か、勝手に頭を撫でるな!」

 

「じゃあ止めるか?」

 

「え!? う……も、もう少しだけ、撫でても良いぞ……」

 

「じゃあ、もう少しだけ」

 

「んぅ……」

 

これまでの付き合いから、箒の抗議が照れ隠しだと分かる。本気で嫌な時とは声色が違う。頭を撫でられている時の束と同じ表情をしている箒を見て、やはり俺は褒めて伸ばす方向でいこうと決意した。

 

 

 

一方その頃、別のアリーナではセシリアとマドカの二人がクラス対抗戦に向けてISの訓練をしていた。何故この二人が一緒に訓練しているのかと言うと、昼休みにセシリアがゴクローに提案した事が原因である。

 

「『偏光制御射撃【フレキシブル】』を教えて欲しい?」

 

「はい。クラス対抗戦に向けて、是非ともわたくしに教えて頂きたいのですが……」

 

「……難しいな。『オーズ』の偏光制御射撃と、BT兵器の偏光制御射撃は仕組みが違う。セシリアの技術力を向上させるとなると、俺が教えた事とは別の訓練が必要だ」

 

『オーズ』の「偏光制御射撃」はBT兵器のそれと違い、ルナメモリの力によるものなので、あまり参考にならないだろう。

 

「? 技術力でしたら、ゴクローさんのおかげで向上しましたわよ?」

 

「いや、俺がやったのは、セシリアの戦い方や考え方、後は悪癖を直しただけだ。セシリアの技術力自体は前と大差ない」

 

「はあ……それでは、どうすればいいのでしょうか?」

 

「まずはBT兵器で『偏光制御射撃』が出来る奴に話を聞く。そしてココに出来る奴がいる。マドカ、セシリアに『偏光制御射撃』を教えてやってくれ」

 

「……良いだろう」

 

こうして、意外にあっさりとマドカがセシリアのトレーニングを引き受けた事で、マドカとセシリアは早速放課後のアリーナを使って『偏光制御射撃』の特訓をしていた。

 

もっとも、マドカは何も素直に言う事を聞いたわけではない。ゴクローとはクラスでも部屋でも一緒になれなかった事で、なんとなく自分が割りを食ってる気がするマドカの腹の底では、満たされない欲望がとぐろを巻いていた。

 

(コイツを成長させれば、丁度良い言い訳になる……くふっ)

 

素直に甘えるのは恥ずかしい。大義名分が必要だ。頑張って結果を出したからご褒美が欲しいと言えば、ゴクローが大体の我が侭を聞いてくれる事は、束とクロエの件で分かっている。チャンスとは待つものではなく、自ら作り出すものなのだ。

 

(な、なんですの!? あの邪悪な笑みは!? わ、わたくしに一体何をさせるつもりなんですの!?)

 

傍から見れば「悪事を働きご満悦」と言った感じで、ニタァと笑う欲望全開なマドカの笑顔を見て、セシリアは底知れぬ恐怖を感じるのだった。

 

 

○○○

 

 

世界で初めてISが使える男子が幼馴染の一夏で、その一夏がIS学園すると聞いた時、あたしが何でIS学園に入学できないのかを軍部に抗議しに行った。軍部のおじさまが言うには、IS学園に入学する話を持ってきた時に、あたしが入学を断ったのが原因だと言っていた。

 

そんな事知った事じゃない。今のあたしにとって重要なのは一夏に会う事だ。あたしは何時の通り、優しいオジサマ達に“優しくお願い”してIS学園に転入できるようにしてもらった。

 

そうして一年振りに再会した幼馴染は一年前とあんまり変わっていなかったが、多少は男らしくなったと思う。お互いの空白の一年間と、中学時代の思い出話に花を咲かせて、首尾よく今日の放課後に、あたしが一夏のISの操縦を見る約束を取り付けることに成功した。

 

「なんとなく分かるでしょ? 感覚よ、カ・ン・カ・ク。はぁ!? 何で分からないのよ! この馬鹿!」

 

「ああ、もう! だから全然分かんねぇんだって!!」

 

放課後のアリーナでは、一夏とあたし目当てのギャラリーがそれなりにいた。食堂でもそうだけど、ここでも仲の良い所を見せつければ、学園の女子の間で噂になる事間違いなし。そして噂には尾ひれが付き物と相場が決まっている。

あたしが一夏の彼女だって噂が広まって、なし崩しで一夏と彼氏彼女の関係になると言う、あたしの作戦は完璧に思えた。

 

「はぁ!? こんなに分かりやすく教えてやってるのに何で分からないのよ!」

 

「いや~、それじゃ絶対に分からないと思うな~」

 

一夏と二人っきりであたしがISについて教えている所で、見たことの無い女があたし達に近づいてきた。

 

「燕先輩?」

 

「あのね。人にモノを教えるって言う事は、相手が分からなかったり、苦手だったりする事を、分かるように、出来るようにするって事なの。分からない事を分かるようになりたい相手を馬鹿にするなんてナンセンスよ」

 

「……誰よ、アンタ」

 

「ああ。鈴、紹介するよ。三年生の千歳燕先輩。日本の代表候補生で、IS学園に来てから俺にISを教えてくれた人なんだ」

 

なるほど。何も知らない一夏に対してISについて親切に教えて、一夏の好感度を上げていた訳ね。一夏は代表候補生だって言ってたけど、専用機持ちじゃないみたいだから、実力は私の方が上よね。

 

「ふぅん。実はあたしって専用機持ちなんですよね~。どっちが優秀なのか一目瞭然だと思いませんか?」

 

「名選手が名コーチだとは限らないんじゃないかな?」

 

どうやら引く気はなさそうね。それなら分かりやすく専用機持ちの実力ってヤツを教えてあげるしかないわね! そうすれば一夏も、あんな女よりあたしの方が良いって分かるし、一石二鳥ってやつね!

 

「それじゃこうしませんか? これから模擬戦をして勝った方が一夏にISを教える。分かりやすいと思いませんか?」

 

「そうね。中国の第三世代機にも興味あるし、丁度良いわね」

 

随分と自分の腕に自信があるのか、余裕のある表情であたしの提案を受けた。纏っているのは、第二世代の量産型IS『打鉄』。IS学園が保有している訓練機だ。

あたしは専用機持ちの代表候補生だ。訓練機ごときに遅れをとるようなやわな腕はしていない。……まあ、確かに油断してちょっと危なかった所もあったけど、燃費と安定性を第一に造られた、実戦モデルの『甲龍』を相手に、訓練機で敵う訳がない。

 

「これで分かりましたよね? 格の違いってヤツが? そして、これで終わりッ!!」

 

所々の装甲が破壊されている『打鉄』に対して、『甲龍』に搭載された第三世代型空間圧兵器・衝撃砲『龍砲』の最大出力攻撃で止めを刺す。訓練機のアーマーが相手なら、一撃で沈めることが出来る砲撃だ。そんな『龍砲』の直撃を受けて、女のISが解除される。文句無しにあたしの完全勝利だ。

 

「見なさい一夏! あたしの方が――」

 

「燕先輩! 大丈夫ですか!?」

 

……なんで? 勝ったのはあたしなのよ? なんでその女の所に行くの?

 

「ちょっと一夏! そんな奴よりあたしの――」

 

「あはは……カッコ悪い所、見られちゃった……」

 

「喋らないで下さい。動けますか?」

 

「………」

 

何で? 何で負けたアイツに一夏が手を差し伸べて、なんであたしには何も無いの?

 

「!! 一夏君、後ろ!!」

 

「え? いぃぃッッ!!」

 

あの女から一夏を引き剥がす為に、両手に『双天牙月』を呼び出し、連結させてから投擲する。それに対して、一夏はあの女に覆いかぶさる様にしてかわした。何で!? 何で余計にくっついてんのよ!?

 

「何すんだ鈴!」

 

「何すんだも何も、勝負はあたしが勝ったのよ! なんでそんな奴ばっかり構うのよ馬鹿!」

 

「馬鹿はお前だ馬鹿!」

 

「馬鹿とは何よ馬鹿! 朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタの方よ!」

 

「うるさい、貧乳!」

 

一夏が言ってはならない言葉を言ったその瞬間、私の中で決定的な何かが切れた。

 

「あ、いや、その……」

 

「……もういいわ。決闘よ一夏! あたしが勝ったら、アンタあたしに謝りなさいよ!」

 

「お、おう、良いぜ。俺が勝ったら、さっきの事謝ってもらうからな!」

 

そう言って、一夏は『白式』を展開する。正直、機体のエネルギーが残り半分程度で心許無いけど、一夏はつい最近になってISを操縦するようになったって言うし、これで充分だと思った。

 

ところが、一夏はあたしの予想を超えて強かった。いや、しぶとかった。

 

「くっ! いい加減にやられなさいよ!」

 

「おいおい! 冗談だろ!」

 

一夏の『白式』は近距離武装しかないから、すぐに距離を詰めての接近戦を選ぶと思ったのに、さっきから常に動き回って回避行動ばかりしている。目に見えない衝撃砲を警戒しているんだと思うけど、それにしたって一度も攻撃してこないのは奇妙だ。

 

「さて、そろそろ決めないと不味いわね」

 

予想以上に一夏が粘る所為で、機体のエネルギーが底をつきそうになっている。残りのエネルギー量を考えると『龍砲』はもうあまり使えない。そこで、連結させた『双天牙月』を手に一夏へと接近戦を試みる。

 

「! ここだぁっ!」

 

そんなあたしに、「この瞬間を待っていた」と言わんばかりの表情をした一夏が急接近する。まさか『瞬時加速【イグニッション・ブースト】』!? 嘘でしょ!? ISを操縦してまだ一ヶ月かそこらの筈なのに!!

 

「うおおおおおっ!」

 

「きゃああああっ!」

 

『白式』の「雪片弐型」ですれ違い様に斬られた事で、『甲龍』のシールドエネルギーは一撃でゼロになり、あたしのISが解除された。

 

「う、そ……嘘、でしょ……」

 

「凄いわ一夏君! 『瞬時加速』をちゃんと使いこなせるようになったのね!」

 

「あ、いや、『白式』って近距離装備しか無いから、出し所を考えて一撃で決めないといけないって思ってずっと練習してたんで……」

 

とても信じられない事だが、たった一ヶ月程度で一夏はあたしを倒せる位に強くなっていた。原因は誰がどう考えてもあの女だ。

 

「……何よ。あたしの時とその女の時と違うじゃない」

 

「は? 何言ってんだよ、鈴? ほら、俺が勝ったんだから、約束はちゃんと守れよ」

 

約束……そうだ。あたしは一夏と大切な約束をしてたんだ。

 

「……ねえ、一夏。昔あたしと約束した事、覚えてる?」

 

「約束? 約束って言うのは……ああ、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――」

 

「そ、そう!」

 

「奢ってくれるってやつ」

 

「…………え?」

 

「だから、俺に毎日飯をタダでご馳走してくれるって約束だろ?」

 

一夏が約束を覚えてくれていた喜びも束の間、一気に奈落の底に落された気分になった。あの日したあたしの精一杯の告白は、一夏にちゃんと伝わっていなかった事を知った。知ってしまった。

 

「正直、こんなにありがたい事はないよな。いやしかし、俺は自分の記憶力に関心――」

 

その後も間抜けな事を言い続ける一夏に腹が立って、感情のままに平手で思いっきり一夏を引っ叩いた。殴られた一夏は何で殴られたのかが分かっていないようで、しきりに目をパチクリさせていた。それが余計にあたしの神経を逆撫でさせた。

 

「最っっっ低! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないわね! 犬に噛まれて死ね!」

 

心が怒りで満ちていたあたしは、一夏を背にアリーナを駆け足で抜け出した。寮の自室に戻ると、ベッドに頭から飛び込んだ。時間と共に心が落ち着いてくると、今度は目から涙が出てきた。

 

どうしてこんな事になったのだろうか。

 

一夏があたしと見る時と、千冬さんを見る時の目が違う事を、子供心に気が付いていたあたしは、一夏は千冬さんみたいな強い人が好きなんだと思っていた。

 

だから、あたしが千冬さんみたいに強くなれば、一夏はあたしを千冬さんと同じ様に見てくれるんだと思っていた。両親の離婚が原因で中国に戻った時、遅まきながらもISの世界に入ろうと思った理由はソレだった。その一心で、一年足らずで専用機持ちの代表候補生にまで上り詰めた。

 

あたしは強くなった。強くなって、なんでも出来る様になった。これで一夏に守られる立場じゃなくて、あたしが一夏を守れる立場になれたのだと思っていた。

 

でも、一夏はISであたしに勝った。そんな一夏があの女を見る目は、一夏が千冬さんを見る時の目にどこか似ていて、あたしが欲しかったモノをあの女が手に入れている事が、悔しくて気に入らなかった。

 

きっと昔のあたしが一夏より弱かったから、一夏はあたしの告白をちゃんと理解してくれなかったんだ。

 

きっと今のあたしが一夏より弱いから、一夏はあたしを相手にしてくれなかったんだ。

 

「欲しい……力が、欲しい……千冬さん、みたいに……強い、力が……」

 

誰よりも、何よりも強くなりたい。

 

そうすれば、今度こそ一夏はあたしの言葉をちゃんと理解してくれると、この時のあたしは信じていた。

 

 

○○○

 

 

IS学園に侵入させたエクストリームメモリから送られてきた映像データ。シュレディンガーと篠ノ之箒の新型ISの性能テストと、凰鈴音と織斑一夏の戦い。この二つを私達は何度も見ていた。

 

「まさか中国の代表候補生を倒しちゃうだなんて! 一夏ちゃんってイケメンで強いのね! 嫌いじゃないわ!」

 

「………」

 

シュレディンガーが言っていた、ルナドーパントに酷似したデザインの私が造りだした無人機IS。名前は京水。彼のISコアの中には、個人の人格と記憶を封印した試作型ガイアメモリが入っている。

 

『死神博士メモリ』なるガイアメモリの話を参考に、日本で見つけた死に掛けのヤクザを実験台にして造ってみたのだが、どう言う訳かガイアメモリに封印した人格は何故かオカマになっていた。

 

シュレディンガーが『京水メモリ』と名づけて封印されていた失敗作だが、無人機ISと組み込ませる事に成功し、今ではISとガイアメモリを用いたサイボーグとでも言うべき元人間だ。

 

「イケメンで強い! 嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわ!」

 

『ミレニアム』にいた頃に比べて、人手が圧倒的に不足している私にとって、彼は従順で使い勝手も良く、非常に助かる存在なのだが……彼はイケメン、それも強いイケメンが好みらしく、織斑一夏の戦闘データを見て興奮し、ひたすら同じ台詞を連呼している。

 

「ねぇ、プロフェッサー。私もそろそろ、ゴクローちゃんやアンクちゃんに挨拶した方が良いと思うんだけど、どうかしら~?」

 

「心配しなくても、そろそろ貴方をIS学園に向かわせるつもりよ」

 

かつて、世界各国は『白騎士事件』によってISの驚異的な戦闘能力を目の当たりにし、軍事利用を目的としてISを我先にと取り込み、今では各国が独自の力でISに関する数々の新技術を造り出した。

 

しかし、それら新技術は果たして本当に必要なものなのだろうか。

 

新しい発明や技術が正しく社会に組み込まれるには、それが可能か不可能かをひたすらに試行錯誤し、空想の中でしかない存在を現実世界の存在へと昇華し、それが社会に出る事で人々に評価され、淘汰される取捨選択を受ける必要がある。

 

しかし、今の人間は新しい発明や技術を、正しいかどうかなど判断せず、何の疑いも無く享受する。ISの本来の用途を無視し、ISが自分達の社会にどんな影響を齎すか深慮せずに取り込んだ結果、今の女尊男卑の世界になった。

 

世界各国が『オーズ』の力を目の当たりにした今、その力の根源であるガイアメモリやコアメダルを提供すれば、深く吟味する事無く取り入れ、簡単にその強大な力に魅入られ、欲望に飲み込まれるだろう。

 

「それで、この一夏ちゃんに近づく、この小生意気な小娘をどうするつもりなのかしら?」

 

「ガイアメモリを一本渡すわ。上手くいけば織斑千冬を倒してくれる」

 

流石に7年間も一緒に居ただけあって、私の行動はある程度シュレディンガーに読まれていた。めぼしい生徒や教師は、更識の手の者によって監視されている。

 

それ以外で使えそうな人間を探していたのだが、この中国代表候補生は何者よりも強くなる力を望んでいる。また、彼女の抱える欲望を鑑みれば、いずれは織斑千冬を打倒する事を考えるだろう。

 

何者をも超える力を手に入れた事で、織斑一夏を求める余り、その力を欲望のままに織斑千冬に向ける事は容易に想像できた。

 

「適合率が高いのは……これね」

 

『VIOLENCE!』

 

暴力の記憶が封印されたガイアメモリ。これはドライバーの使用を前提に造られたガイアメモリを、ドライバーを使う事無く直挿しで使える様に改造したもの。

そして、前回のスパイダーメモリが破壊された際に得られたデータから、エターナルメモリの力で停止させる事は不可能な仕様にしてある。

 

「さて、どうやって渡そうかしらね……」

 

確か、以前シュレディンガーが「強化アイテムは手渡しの他に『天井から落ちてきたモノ』と『宅急便で送られてきたモノ』がある」とか言ってたけど……エクストリームメモリを利用して、天井から落してみましょうか。

 

「あたしの方がッ! おっぱいおっきいわぁああああああああああああッッ!!」

 

モニターに写る凰鈴音を見て、また訳の分からない事を絶叫する京水を無視し、早速準備に取り掛かる。

 

ああ、そうだ。渡す時に一つ聞いてみよう。

 

『悪魔と地獄の底まで相乗りする覚悟はあるのか』……と。




キャラクタァ~紹介&解説

京水(きょうすい)
 本作のメインヒロイン。





 嘘です。

 性格は『W』の京水だが、見た目は中の人の須藤元気ではなく、完全にルナドーパント。『ミレニアム』の行なったガイアメモリの実験では失敗作扱いされていたが……実は元々そんな素質があっただけで、立派に成功例だった。

ニクミー
 作者的に鈴がISの世界に入った理由は、「ISの世界で強くなる事で、千冬に近づく為」だったんじゃないかと推測。「一夏は千冬さんばかり見ている」と言うのは、原作におけるヒロイン達の共通認識の様だし。原作二巻で鈴が起こす行動が、原作一巻の時間軸で起こっている。全ては彼女から何かあれば「よし、殺そう」な思考を無くする為。
 元々、箒を除いた初期ヒロイン4人の内、最低でも誰か一人に『W』のドーパントや『フォーゼ』のゾディアーツの役割をやってもらう事は決定していた。そしてマンネリ気味な展開を嫌う作者は最終的に鈴を選んだ。もしも、箒の竹刀を受け止めて「今の生身の人間なら危ないよ(キリッ)」のままだったなら選ばれなかったかも。

ワンサマー
 ぶっちゃけ、原作のクラス対抗戦は、束の無人機が襲撃しなきゃ一夏は鈴に勝っていたと思う。そんな訳で、鈴の方にハンデがあったとは言え、鈴に勝利したバージョンを書いてみた。
 原作における「酢豚」と「貧乳」の二つのイベントは、本来なら数週間の時間が経過して起こるはずだったのだが、この世界では二つとも同じ時間で起こっている。アニメでは「貧乳」イベントが無い事に作者は地味に驚いた。

惣道紫(そうどう ゆかり)
 原作にもアニメにも登場しないが、確実に存在する鈴にクラス代表を譲った二組の元クラス代表。名前は今回も例によってアナグラム。漢字はパソコンの変換機能で適当に振った。
 今回からオリキャラタグを付けることになった原因。しかし、今回以外にコイツの出番があるのだろうか?

 クラス代表
 →KURASU DAIHYOU
 →HUSADOU YUKARI
 →惣道 紫
 →『惣道紫【そうどう ゆかり】』



黒柘榴【クロザクロ】
 束が造った『NEVER』の量産型第三世代機。平成仮面ライダーで例えるなら、『555』におけるライオトルーパー。『鎧武』で言えば黒影トルーパー。
 近接メインの万能型で、装備はアームズウェポンをIS用に束が新規作成したもの。武装はかなり充実しており、『鎧武』で例えるなら「極アームズの能力が使える、色違いのカチドキアームズを纏った黒影トルーパー」。倉持技研の篝火ヒカルノ涙目。
 こうして書くと、箒よりもシャルの方が上手く使いこなせる気がする。カラーリングをオレンジ色に変えれば、見た目がよりカチコミ……もとい、カチドキアームズっぽくなる。これは吹っ切れたシャルが、デュノア社に「いざ! 出陣! エイエイオー!」っと、カチコミするフラグ……ではない。多分。
 名前の由来は漫画『クロザクロ』。上位種のザクロが「欲望こそ生物のチカラ」、「もっと自分を解放しろ」と、主人公の桜井幹人に迫っていたり、人間を使って自身の糧になる存在を作り出したりと、『オーズ』のグリードとヤミーに似た様な部分がある気がする。ISコアの人格及び姿形のイメージは子供ザクロ。
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