今回は元々は一話だったのですが、予想以上に長くなると判断して分割。この際だからと、久し振りに三話分の連続投稿に挑戦したのですが……普通に一話ずつの方が良かったかも知れません。
一夏に関しては今後の展開の伏線の為に、『鎧武』の葛葉紘汰と駆紋戒斗みたいな要素を入れようとしたのですが……感想を見る限りそう思われなかったようで、まだまだ表現力が足りないんだと思い知らされます。
何はともあれ、まずは一話目です。
朝から二組の教室を訪れてみると、昨日の試合で凰が専用機を『第二次移行【セカンド・シフト】』させたと誤解されているようで、凰の周りにそれなりに人が集っていた。
『W』においてフィリップは、「ガイアメモリに心を奪われた人間は倒すしかない」と言っていたし、実際にメモリの精神汚染が進んだ人間はメモリブレイク以外に対処方法は無いだろう。しかし、このメモリブレイクは最終手段だ。
あまり描写されていないが、ドーパントがメモリブレイクされた場合、メモリユーザーは大きなダメージを負い、ほぼ例外なく(警察)病院送りになる。またメモリブレイク後の後遺症と言うものも存在し、これは体質によって軽かったり重かったりするらしいが、メモリユーザーは毒素後遺症や記憶の欠損に苦しめられる事になる。
また、バード・ドーパントの事件で、園崎琉兵衛は「子供の方がより良いデータを得られ、メモリも急速な成長を遂げる」と言っていた。確認出来る限り、凰がメモリを使用したのは対王戦の一回だけ。一度の使用で身体能力があそこまで上がっているのは、恐らくそれが原因だろう。
同様にメモリの禁断症状も懸念材料であり、凰からメモリを取り上げる事で、凰がメモリを求めて暴走する可能性もある。
理想としてはジーン・ドーパントの事件の様に、メモリユーザー自身が自らメモリを手放す事。そうなれば肉体的にも精神的にもダメージが少なく、社会復帰も早い。
凰の様子を見る限り、メモリの精神汚染は進んでいないように見えるし、今なら説得も可能かも知れない。なにわの美少女仮面こと、鳴海亜樹子の様に上手く出来るかどうかは分からないが、試す価値はある。
「……何? 早速ご機嫌取りにでも来た訳? まあ、アンタに勝てる可能性があるのはあたしだけで、あたしはアンタを追い出せる力を持ってるんだから当然よね?」
……訂正。凰は織斑先生に一泡吹かせた事で完全に増長していた。しかし落ち着け。まずは会話が成立するかどうか確認だ。
「……いや、お前と一夏の事について話したくてな」
「へぇ、ちゃんと分かってるじゃない」
一夏の事を話題に出したらあっさりと釣れた。織斑先生に「一夏を守る」と宣言していた凰だ。一夏に関することなら多少は警戒が緩くなると踏んで、事前に一夏から色々と聞いておいて良かった。ちょっとチョロ過ぎる気もするが。
「……で? 一夏はどうなのよ。あたしと仲直りしたいな~とか、悪かったな~とか言ってた?」
「……いや、『俺は凰との約束をちゃんと覚えていたんだから、凰も俺との約束を守らないなんて不公平だ』って言ってた」
「はぁ!? 約束の意味が違うのよ! 意味が! 自分はちゃんと約束守ってない癖に、あたしに約束守れなんてアンタ何様よ!?」
「……俺に言っても仕方ないだろ」
一夏はなんで凰が怒っているのか全く理解できず、むしろ凰が約束を守らなかった事に怒っていた。俺としては、まずは凰が決闘の約束を果たすべきだと思うので一夏に賛成だ。有耶無耶にするのは良くない。
しかし、凰の気持ちも理解できない訳ではない。俺が凰の立場で、一世一代の告白がそんな風に相手に解釈されていたとしたら、正直ファントムが生まれるか、魔法少女から一気に魔女化するレベルで絶望する。
「……お前が千歳先輩と生身の一夏に、ISの武装を展開した事を謝れば解決すると思うんだが……」
「はぁ!? あんなのあんな女とベタベタしてた一夏が悪いに決まってるじゃない!!」
『……嫉妬に狂って国防に使う兵器を生身の人間に向けるか。そんなことすりゃ普通死ぬぞ。もしかしてあの馬夏をサイボーグか何かと勘違いしてんのか?』
ごもっともな意見だ。そのお蔭と言って良いのか悪いのか、アンクの中で一夏に対する評価が少し上がった。曰く、「生身の人間にISの武装を使わないだけ中華娘よりマシ」だとの事。
問題の一夏はと言うと、「頭を下げる事に躊躇は無いが、納得できないまま謝罪するのはお断り」との事で、日本人の味噌汁プロポーズのアレンジである、凰の酢豚告白の詳細を説明すれば、一夏は曲解していた事を謝るだろう。
しかし、だからと言って正しく理解されなかった愛の告白の解説など、凰はやりたくないに決まっている。そんなのは惨め以外の何物でもない。
ちなみに一夏はその後、「男たるもの有言実行であれ」とか、「行動の伴わない言動は詭弁か詐欺だ」とか、「誠意とは不断の行動の果てに生まれるものだと、男として証明する必要がある」とか、俺に男らしい男の生き様をやたらと熱く語った。言いたい事は分かるが、多少は融通を利かせて欲しい。この手の問題は謝った者勝ちだから。
「なんなのよアイツ! 幼馴染の癖になんで分かんないのよ! 馬鹿! アホ! 間抜け! 朴念仁!」
「だから、俺に言っても仕方ないだろ……最悪、俺から説明するか?」
「……そんな事したら、アンタを殺すわ」
俺に対してISを部分展開して脅しを掛けてきた凰の両目には、明確な殺意が込められていた。やると言ったらやる凄味がある。
まあ、俺だってそんな事は正直やりたくないのでむしろ良かったが、この行動によってアンクの凰に関する評価が更に下がった。
これは凰よりも一夏を説得した方が望みはあるだろうか? 凰がメモリを手放す突破口になるかどうか分からないが、取り敢えず二人に仲直りして欲しいものだ。
●●●
あれから一週間が経過し、一夏は予想以上の難敵だと思い知らされた。凰が怒っている事情を説明しない限り、絶対に謝らないと一歩も譲らない。
凰の方はここ一週間の間で、ISの模擬戦を何人かの一年生と行なっているのだが、あれ以降メモリの力を全く使っていない。それと言うのも、凰のISの戦闘能力そのものが、メモリを使う前よりも高くなっていたからだ。
考えられる理由としては、ISの装着者に適合し能力が最適化していく特性が発揮され、メモリの毒素の影響で怪力を得た凰に、専用機が適合した結果ではないかと思う。
もっとも、こんな短時間でスペックが一気に上がるのも不自然な気がするので、これもメモリがISに及ぼした影響と捉えられなくも無い。
兎に角、訓練機を使う並みの相手ではメモリを使う必要が無い位に、凰は強くなっていた。そしてある意味でソレは幸運だと言えた。
訓練機相手にメモリの力を振るった場合、確実にシールドエネルギーを貫通し、再起不能に追い込まれる危険がある。現に王鶴華は命に別状は無かったものの、深刻なダメージを負って入院した。その為、仮に凰がメモリの力を使ったらその時点で武力介入し、最悪そのままメモリブレイクを狙うつもりだった。
また、凰が因縁のあるマドカに戦闘を仕掛ける可能性も考え、マドカに警戒を呼びかけていたのだが、凰の方から全く接触がないらしい。「あの織斑先生より強くなった」と言う実感から、わざわざ相手にする程でも無いと思っているのかも知れない。
もっとも、一夏に対するストレスは相当溜まっている様で、最近では俺との会話は八つ当たりによる罵詈雑言と暴言の嵐で、何かにつけて手が出る足が出る。まあ、ISを展開しないだけまだマシだ。
そんな凰の様子を見て、アンクは「メモリの毒素に脳がやられたんじゃないのか?」と言ったが、一夏が言うには凰は昔から、口より先に手が出る性格らしいので判断に困る。オータムの時もそうだが、どうして判断に困る人間ばかりがメモリを手にするのだろうか。
結局アテは外れ続け、一夏と凰の関係に進展がない毎日が続いていた。
そんな今日は『DXオーズドライバーSDX』とアンクのメンテナンスをする日であり、クロエもそれを手伝うとの事で、最近では珍しく完全に一人で寮の部屋に戻った。ただし、何時もと違うのはそれだけではなく、俺が寮の部屋に帰ってきた瞬間、一体のバッタカンドロイドが飛びついてきた。
そして、そのバッタカンドロイドの映像ディスプレイには、包帯を巻きつけた上でサングラスを掛けた、不気味で見慣れた女が写っていた。
「シュラウド……」
『久し振りね、ゴクロー・シュレディンガー』
「……凰にやったメモリは『バイオレンス』か?」
『そうよ。あの娘が望む力を与えてあげたの。ちゃんと忠告もしたわ。「悪魔と相乗りする覚悟が有るのか」……とね』
シュラウドはメモリを渡す時にそんな事を言ったのか。しかし、魔法少女を量産する白い契約モンスターの様に、シュラウドが凰を唆している姿がイメージされるのは気のせいだろうか。
『ずっと見ていたわ。織斑一夏が「流石は織斑先生の弟」と言われて喜ぶ思考が、貴方には全く理解できないみたいね。でも、貴方の生き様を考えれば、当然と言えば当然かしら。
貴方は「ゴクロー・シュレディンガーとして生きる事」を、つまりは「ゴクロー・シュレディンガーとして見てくれる事」を求めていた。そんな貴方なら、「流石はライトのクローン」と言われたら、むしろ怒りを覚える。理解に苦しむのは当然よね』
何を話したものかと考えていたら、シュラウドの方から興味深い事を話しかけられた。シュラウドは俺が疑問に思っていた事を、一夏がそう思う様になった理由を知っているように思える。
今までに会ってきた、クロエ、箒、マドカ、簪と言った、姉妹にコンプレックスを抱えている連中は、「優秀な姉妹に関係なく、ただあるがままの自分を見て欲しい」と言った、俺と同じ様な思考を持っていた。
しかし、「優秀な姉の弟として見られたい」と言った、一夏の様なタイプは正直未知との遭遇に近い。周りから「流石は織斑千冬の弟」と言われて嬉しい気持ちが、俺には全く理解できなかった。
『例えば、火傷をした経験のある子供とそうでない子供では、炎を見た時の思考が違う。つまり人間の思考とは、それまでの体験によって形成されるものよ。
逆に言えば、相手の思考を理解するには、相手と同じか似たような体験が必要になる。それでも相手と分かり合えるとは限らないけどね』
「……つまり、一夏には『流石は織斑先生の弟』と言われて嬉しいと思える様な体験……いや、過去がある?」
『織斑一夏が世界で初めての男でISを起動した時に、様々な団体から執拗なバッシングを受けている事を知っているかしら?』
「ああ。IS大戦が起こった辺りでピタリと止んだらしいな」
『それなら、その団体についてどこまで知っているかしら?』
「確か、『ISは女性のものである』と主張する団体だったと記憶している」
俺の眼から見れば、アレは今の女尊男卑の社会の根幹になった『ISは最強の兵器であり、女性にしか使えない』と言う、絶対的なルールが破られた事によって、居心地の良い社会が崩壊する事を恐れての行動だろう。
他にも世間一般には公開されていない情報を何処から嗅ぎ付けたのか、『織斑一夏は織斑先生の大会二連覇を妨げた存在である』と的外れな批評をしていた気がする。
ただ、ISの国際大会『モンド・グロッソ』は、各国がどれだけ優秀なIS操縦者を育成し、どれだけの戦力を持っているのかを国内外にアピールする場でもある。
織斑先生の大会二連覇によって国力を誇示し、権威を大きくする事で物事をより有利に運ぶ事ができると、皮算用がご破算になった逆恨みもあると思われる。
『その織斑一夏に対するバッシングに、『織斑一夏は織斑千冬の弟として相応しくない』と言う意味の誹謗中傷があるのは知っているかしら?』
「相応しく無いも何も、一夏は織斑先生の弟で、織斑先生は一夏の姉だろう」
『……子供にとって親は神も同然の存在。ならば織斑一夏にとって、親の代わりの織斑千冬はこの世界において神も同然。その神の偉業を自分が阻んでしまったと感じているなら、自分を責めるのは自然な事。
もっと言えば、人間は社会全体や大多数の人間から、非難され弾劾されたら、それがどれだけ理不尽で不条理な事だとしても、それが正しいと思い込んでしまうものよ。それが“自分と同じ”織斑千冬を肯定する人間の言葉なら尚更ね』
「……ちょっと待て。一夏は理不尽に対して戦いを挑むタイプの人間のはずだ。箒や凰の事を考えても、そんな理不尽や不条理を正しいと思う訳が無い」
『……貴方、織斑一夏が戦った理不尽は全部“拳で言う事を聞かせられる相手や状況”だった事に気が付いていないの?
思い出してみなさい。篠ノ之箒や凰鈴音に関する理不尽も、セシリア・オルコットから受けた理不尽も、全部実力行使で解決できる状況や相手だった……違う?』
……確かに一夏は箒と凰の二人の場合、二人をいじめたりからかったりしていた相手を、実力行使で撃退していたと聞いた。セシリアの時はISを使った決闘と言う名の模擬戦。確かに“拳で言う事を聞かせられる相手や状況”と言えなくも無いが……。
『でも、相手が拳を振り上げてもどうしようもない類の存在。例えば、世界や社会そのものを敵に回した場合、一個人が戦った所で勝ち目が無い。敵の力が大きすぎて戦う気さえ起こらないし、負けてもそれは仕方が無いと思うのが普通よ。
普通の人間は常に、世界の残酷さには屈服する他無く、ルールに縛られて戦う事しか出来ない。その結果、自分の弱さと折り合いをつけて生きていく。織斑一夏が誘拐事件の後で、アルバイトだけでなく受験勉強に精を出していたのはそう言う事よ』
……なるほど。一夏の「織斑先生に楽をさせてやりたい」と言う思いは、一夏なりに自分の弱さと折り合いをつけた上での答えだったのか。
そして一夏は正規雇用と安定収入が見込める上に、僻地へ飛ばされる心配の無い地域密着型の優良企業への就職を求めたと言う訳だ。
『でも誰だって本当は、自分の弱さと折り合いなんて付けたくない。どれだけ取り繕っても、本心では納得も理解もしていない。しかし、弱さと折り合いをつけない為には力が要る。それが何かと戦う事なら、最低でも相手と同等の力を欲するものよ。力が無ければ何も出来ないのだから』
「……ISを手にした事で、一夏が自分の弱さと折り合いをつける必要が無くなったとは思えないが……」
『そうでもないわ。だって「白式」は唯のISじゃない。“織斑千冬と同じ武器を使えるIS”よ。周りの人間はどうしても織斑一夏に織斑千冬を重ねる。誰もが織斑一夏を通して織斑千冬を見ている。
織斑一夏が「自分が情けないと織斑千冬が低く見られる」と考えていると言う事は、「自分が結果を出し続ければ、それが織斑千冬の功績になる」と考えていると言う事。織斑千冬に与えてしまった汚点を、自らの手で雪ぎたいと思っている織斑一夏にとって、それはまたとない贖罪のチャンスと言う事よ』
「……それが一夏の「『織斑先生の弟』として周りから見られる事が嬉しい」と思う理由であり、「織斑先生の名前と誇りを守りたい」と言う思考の根源だと?』
『私はそう考えるわ』
正直、シュラウドの推測はアンクの推測よりも、一夏がそうしたいと思う理由としてしっくりときた。
しかし、シュラウドの「思考は体験により形成される」と言う理論が人間以外の存在にも当て嵌まるのなら、あの時の一夏に対するアンクの推測も、アンクの体験に基づいている事になる。
つまり過去にISを手にした事で、自分と織斑先生を同一視していた様な人間が居たという事。もしかしたらその人物は、“アンクがISコアだった頃”の、アンクの使い手の話なのかも知れない。
……待てよ? 確かシュラウドの復讐相手だったテロリストは、『白騎士』に憧れてテロを起こしたんじゃなかったか? まさかとは思うが同一人物か?
「しかし、なんでこんな事を教える? 慈善事業って訳じゃなさそうだが」
『今からでも遅くは無いわ。こちら側に戻ってくるつもりは無い?』
「……何?」
『貴方はその学園で常々感じている筈よ。自分と自分を取り巻く世界とのズレを。自分が全くの異分子である様な感覚を』
「……この学園の居心地はそんなに悪くは無い」
『それは自分を肯定してくれる人間がそこに居るからでしょう? でもそれは、彼女達が「普通から外れた人間」だからよ。貴方は「普通の人間」には決して理解されない』
「……何か根拠でも有るのか」
『例えば、凰鈴音は貴方自身の事を良く知らなかったわよね? それなのに、中国の高官から「オーズが対IS兵器である」と言う一元的な情報を聞いただけで、貴方をIS学園から排除すべき敵だと激昂し、貴方を非難した。
アレがこの世界を肯定する「普通の人間」の反応よ。実際にどんな人間か知らなくても、社会にとって悪とされる要素が一つでもあると知れば、簡単に凶悪な人間だと断ずる事ができる。簡単に義憤を燃やし、簡単に怒り、簡単に憎む事ができる』
……シュラウドの言う事は理解出来る。実際、俺が対ISを掲げる組織で造られたクローン人間で、『オーズ』が対IS兵器だと知れば、大半の生徒が掌を返すだろう。「よくも今まで騙してくれたな」と罵声を浴びせ、石を投げつけるだろう。
『そもそも貴方は、本当は自分が彼等に受け入れられない存在である事を理解している筈よ。対ISの為に造られた存在である自分が、ISで成り立っている世界からどう思われるか分かっている。生きるだけで、存在するだけで悪だと罵られ、生態系を破壊する外来種の様に扱われると』
……なるほど。『世界の破壊者』に成りうる自覚はあったが、外来種とは言い得て妙だ。
俺はISを打倒する為に、この世界で生まれたモノを駆逐する為に、全く別の世界から呼ばれた存在で、今はそれができる力がある。
言ってみれば生態系を破壊する『時空を超えてやってきた侵略的外来種』。インベスか、オーバーロードか、はたまたヘルヘイムの森そのものであると言う訳だ。
『凰鈴音の様な人間にとって、今の世界は非常に生きやすい世界よ。誰だって一度完成した天国が天国である程に、それを破壊される事を良しとはしない。天国が外来種によって破壊されるかも知れないと知れば、躍起になって排除しようとする。外来種はただそこで生きているだけで、危険はあっても悪意は無いとしてもね』
「その外来種を持ち込んだのはミレニアムだがな。それに、在来種が危険も悪意も無い存在だとは限らないぞ」
『そうね。どの国でも力を持った為政者達は、誰もが『オーズ』がISに敗北することを。『オーズ』の力の根源を手にする事を考えている。
結局、貴方はどう足掻いても、この世界を肯定する誰かと戦い続ける事になる。世界を自分の意のままにする為に、『オーズ』の力を求める者達と戦い続ける事になる。
どれだけ被害を最小限に抑えても、貴方はこの世界を破壊し続けることでしか、何かを駆逐し続ける事でしか生きていけない。この世界で貴方が平和を手にする事は無い』
「……俺に平和は創れないと?」
『だってそうでしょう? 貴方は「仮面ライダー」の在り方や生き様を語り、「仮面ライダー」としての答えを出す事はあっても、貴方が自分を「仮面ライダー」と名乗る事はしない。人類の自由と平和を守る戦士の称号を自称しない。
それは、『オーズ』の存在自体がこの世界の平和を乱す要因である事を、貴方が身をもって知っているから。
そして、「誰かの自由と未来を守る」と言っても、“「守る」と言う思考はそれを害する敵がいる事を前提としたもので、実は平和とは程遠い思考なのではないか?”と言う、貴方の昔からの疑問の答えがまだ見つかっていないから……違う?』
「………」
『例え、その答えが見つかったとしても、貴方が取れる選択肢は、二つに一つしかない。
自分を傷つけるだけで自分を受け入れない世界を切り捨てるか。或いは、その強大な力を使って自分を受け入れない世界を破壊し、自分を受け入れる新しい世界を創り出すか』
まるで『禁断の果実』を手にした始まりの男だ。実際、オリジナルのオーズドライバーも新たな世界の王を、新世界の神を生み出す為に錬金術師が造り出した物なので、あながち間違いでもない。
『よく考えて。「世界の破壊者」である貴方には、そちらの世界は極めて生き辛い世界よ。それなら世界を破壊する事を肯定する、こちら側の世界に戻ってきた方がよっぽど有意義のはず。
何よりもミレニアムが壊滅した今、私以上に貴方を理解できる存在はいない。貴方の疑問に納得のいく答えを提示する事ができる』
「……そのミレニアムの壊滅にアンタが絡んでいるとしてもか?」
『ミレニアムの壊滅は少佐の意思よ。貴方も知っているでしょう? 彼等が「戦って死にたい」と願っていた事を、「自分が死ぬに足る理由」をずっと探していた事を』
少佐の意思を俺に問いかけて誤魔化しているつもりなのかは知らないが、シュラウドはミレニアムの壊滅に関与している事を否定しなかった。この時、俺はシュラウドがミレニアム壊滅に関わっていると確信した。
「……シュラウド。アンタの復讐を俺は否定しない。だが、アンタがこれ以上『誰かの未来と自由』を奪おうとするなら、アンタは俺にとって戦うべき敵だ。例え、あんたがこの世界で誰よりも、俺を理解できる存在なのだとしてもだ」
『……凰鈴音はこの世界を肯定する普通の人間よ。仮に助けたとしても、自分の手に入れた力を奪った貴方を批難し、心の底から憎悪する。助けたところで貴方に何のメリットも無い、力に溺れる部類の人間よ。それとも、そんな敵まで助けるのが格好良いとでも思っているのかしら?』
「……違う。俺は『ミレニアム』のメンバー全員と心を通わせたわけじゃなかった。どうしても理解できない、心底ムカつく嫌いな奴も居た。
それでも『ミレニアム』が壊滅した時、そいつが死んだと知ったら……凄く嫌な、ドス黒い気分になった」
『それは人間の持つ生物としての善性によるものよ。せっかく増えた同種族の個体数が減る事を良しとしない、生物としての本能がそうさせるだけよ』
「……そうだとしても、俺は凰を助ける。欲望に負けたとしても、生きている限り人間はやり直せる。変わる事が出来ると信じている」
そうだ。生きている限り、誰だって変身する事ができる筈だ。そして、命が失われると言う事は、同時にその人が持つ可能性も失われてしまうと言う事。それが俺は嫌なのだ。
確かに人間は色々な悪性を持っている。そんな事はとっくに分かっている。俺はそれらを知った上で、人は変われる事を信じている。
『……一つだけ良いことを教えてあげるわ。凰鈴音に渡したバイオレンスメモリは、エターナルメモリの力で破壊する事も、停止する事も出来ない。
他のガイアメモリの力でも、コアメダルと併用したとしても、バイオレンスメモリのメモリブレイクは不可能よ。その所為で自爆させる事も出来ないけれどね』
「……何?」
『どう足掻いても無駄なのよ。貴方にも、誰にも、凰鈴音の自由と未来を守る事は出来ない。そして、力に溺れた凰鈴音には、もはや誰の声も届かない。彼女はいずれ孤独な存在へと成り果てる。成って、果てるのよ』
「……俺はアンタの暴走を止めると決めた。愛深き故に闇に堕ちた、可哀想な普通の母親のアンタを」
『……可哀想? 可哀想なのは貴方の方よ。やれるものならやってみなさい。貴方は疑問の答えが出ないまま、貴方の考える「仮面ライダー」たる資格を失って「世界の破壊者」に、或いは「侵略的外来種」になるのよ』
シュラウドは捨て台詞を吐いてから通信を切り、バッタカンドロイドは俺の手を離れると爆発した。
「………」
爆発したバッタカンドロイドを片付けながら、ずっとシュラウドが言っていた事を考えていた。最終手段であるメモリブレイクが不可能であるとすれば、どうすれば凰を助けられるのか考えていた。
いい案が思いつかないので、一つ気分を変えてみるかと食堂でちょっとお高めの夕飯を食べたり、熱めのシャワーを浴びたりしたが効果は無く、消灯時間が過ぎて今はベッドの中にいるが全く考えが纏らない。
「どうする……」
「あぅぅ……駄目です、兄様ぁ……束様に、見つかってしまいますぅぅ……」
「………」
隣のベッドを見ると、クロエは妙にモソモソ動きながら、どんな夢を見ているのか気になる寝言を言っている。明日になったらコイツをネタにからかってやろう。
時間経過に伴って徐々に艶っぽくなるクロエの声をBGMに、頭を回転させ続け、思考し続ける。アンクが居れば迷わず相談するのだが、生憎今はメンテでいない。明日の朝には終わるらしいが、間の悪い事だ。
また、それとは別に一つ気がかりな事もある。
それは「許せない奴はぶん殴る」と言う一夏の思考と行動は、一体何処から来ているのかと言う事。以前は一夏の割と実力行使に出る理由は、守る事に執着している一夏は「誰かに自分の持っている力を振るう事で『自分が何かを、誰かを守っている』と言う実感が得られるからではないか」と推測した。
しかし、今回のシュラウドとの会話で、『子は親の鏡』という言葉を思い出した。これは「親の考えや言動が、そのまま鏡の様に子供に映し出される」と言う事から生まれた言葉だ。そして織斑先生は一夏の親代わり。つまりは……。
「思ったよりも根が深い問題かも知れないな……」
正直な話、俺の考えが外れているなら、それはそれで良い。むしろ、全て正解だった場合の方が問題だ。
「はぁ……ふぅぅ……に、兄様ぁ……」
「………」
そのまま一睡もせずに凰への対処方法と、一夏の思考について一晩中考え続け、とりあえず凰については策が一つ思いついた。いや、正確には思い出したと言うべきか。しかし、凰は色んな意味で手強い上に、懸念事項も多々ある。正直賭けに近い方法だ。
そして、昨日シュラウドから接触があった事を、アンクに話したら思いっきり殴られた。
○○○
ゴクローの所にシュラウドのバッタカンドロイドが襲来した翌日。クラス対抗戦まで残り一週間になったこの日、事態は大きく動いた。
今日も朝から「そろそろいい加減に、鈴に何か話しかけてやってくれないか」と、ゴクローが何時も通り一夏に頼んでいた。何時もなら自分の言った言葉は決して曲げない一夏だが、この日のゴクローは目の下に隈を付けていた。
一夏はその顔を見て「俺と鈴の事で眠れない位悩んでいるのか!」と思い、流石に悪かったと心の中で反省した末に、鈴を第三アリーナに呼び出した。悩んでいる内容は一夏の想像と違うのだが、大体合っている。
一方の鈴はと言うと「女の子をどれだけ待たせるんだ」と思いつつも、「漸く一夏も自分の間違いに気付いたか」と大目に見ることにした。
流石にそろそろ一夏と話したいし、今日がクラス対抗戦前に生徒がアリーナを使える最後の日だった事もあり、鈴は快く一夏の誘いに乗った。
「全く、間違いに気付くのになんでこんなに時間が掛かるのよ」
「ああ。俺が意固地になった所為で、ゴクローにあそこまで負担を掛ける事になるなんて思わなかった」
「……アンタ。あたしを怒らせて申し訳ないな~とか、仲直りしたいな~とか思って呼び出したんじゃないの?」
「いや、ゴクローが顔に隈作っててさ。俺と鈴の事で相当悩んでるんだって、漸く分かったんだよ」
「……ふぅん。じゃあ、アンタは別に仲直りしたいんじゃないのね?」
「いや、仲直りしたいのは本当だぜ? でもその前に俺との約束はちゃんと守れよ?」
「……へぇ、アンタがそれを言うんだ?」
「なんだよ? 俺は約束をちゃんと覚えてただろ?」
「……そう。そうね。アンタがそう思うならそうよ。アンタの中ではね」
鈴の脳内選択肢には、「嘗ての自分がやった決死の告白を、今の自分が詳しく説明する」と言うルートは無い。一夏が鈍感なのは分かっていたが、「自分が何で怒っているのか位は幼馴染なら言葉にしなくても察する事くらいは出来て当然」と、鈴は割りと本気で思っている。
「な、なんだよ。俺、なんか変な事言ったか?」
「……さっさと始めましょ。アリーナを使う時間は限られてるんだから」
本当の事を言えば、自分の告白が全く別の意味に解釈されていた時点で、鈴は一夏が自分を異性ではなく、友達として認識している事を理解していた。一夏の三年生の先輩と、自分を見る目が違う事で、半ばそれを確信していた。
でも、認めたくない。先に一夏を好きになったのは自分だ。告白だってした。だからこそ、精一杯振り絞ったあの日の勇気が届いていなかったなんて、鈴にはとても受け入れられない事だった。
「悪いけど、今度は手加減もハンデも無しよ。泣いて許しを請うても知らないんだからね!」
「へっ! 何ならあの『第二次移行』って奴を使っても良いんだぜ!」
「それなら使わせてみなさいよッッ!!」
お互いにISを展開し、片や一振りの日本刀を両手で握り、片や二振りの青龍刀を両手に握る。ブレードを用いた格闘戦を得意とする二人は、何度も空中で互いの得物をぶつけ合い、その度に刃から火花が飛び散り、金属音がアリーナの中に響き渡った。
その様子を上空から、腰をやたらとクネクネ動かしながら見ていた者がいた。ISコアに人格をダウンロードしたフェイスレス……ではなく、『京水メモリ』の力でISの体を手に入れた変なおっさん……もとい、レディーの京水だ。
「やってるやってる~♪」
鈴にガイアメモリを渡し、何もかもがシュラウドの思い通りに事が運んでいる……と言う訳ではない。シュラウドの最大の誤算は、鈴がガイアメモリを最初の一回以外全く使用していない事だった。
未成年の鈴にメモリを使わせる事で、メモリの毒素による肉体及び精神の侵食は短時間で驚異的なものになり、それによる肉体強化と精神汚染のデータ収集と同時に、織斑千冬の排除を狙っていた。
しかし、その鈴が思いがけず織斑千冬を投げ飛ばした事で、鈴が現状の力で満足してしまった。それだけ、彼女にとって織斑千冬が絶対的な存在だったと言う事なのだろうが、それでは困る。
更にメモリの毒素による肉体強化に『甲龍』が適合した事で、ISのスペックが底上げされて普通に強くなった事も、メモリの使用頻度が極端に少なくなった原因だった。
そこで予定を変更し、京水を鈴に当てる事で、鈴にバイオレンスメモリを使わせる事をシュラウドは考えた。ついでに、以前から考えていた実験の実験台に使うつもりでもある。
「一夏ちゃんってまだまだ伸び代がありそうね! 成長性のあるイケメン! 嫌いじゃないわ!」
さて、それとは全く別の話になるのだが、特定の人格をガイアメモリに封印する実験において、他ならぬゴクローの手によって『京水メモリ』に奇妙な現象が人知れず起こっていた。
ゴクローの言う京水とは、『W』の登場人物である死者蘇生兵士『NEVER』の副隊長である泉京水の事であり、彼はフィクションの世界人物である。それはすなわち、人間が想像し創造したユニコーンやペガサスと同じ“想像上の生物”であると言う事。
その結果、ゴクローがメモリに「京水」と名前をつけた時点で、ゴクローも全く予想していない事が二つ起こった。
一つは『京水メモリ』に「この世界の実験台になった、ブッ刺されてオカマに目覚めたヤクザの記憶」に、「ゴクローの頭の中にある、想像上の人間である泉京水の記憶」が混合されてしまった事。
もう一つは、それによってルナ・ドーパントの能力も「想像上の人間である泉京水の記憶」として一緒にメモリに込められてしまった事。
これらはシュラウドが、ISコアの人格を上書きする為に『京水メモリ』を使用するまで、誰一人として気がつかなかった事実であるが、一つのメモリに複数の記憶が込められていること事態はおかしい事ではない。
現に『トリガーメモリ』は「銃撃手」の他に「銃火器」の記憶を内包しているし、『オヤコドン・ドーパント』なる「エッグ」と「チキン」の二つの記憶を持つガイアメモリで変身するドーパントも存在する。
「それじゃあ、私もそろそろ――」
『COMMANDER!』
「行こうかしらぁ?」
そんな京水が取り出したのは、指揮官の記憶が込められた『コマンダーメモリ』。ルナ・ドーパントの様な見た目の体にそれが挿しこまれると、さながら黄色い火星人の様な見た目の体が、首の無い鋼鉄の巨人と言った体へと変化する。
奇しくもその姿は本来の世界のクラス対抗戦で、束がIS学園に送り込んだ無人機ISとよく似ていた。
「キタキタキタキタキタァアアアアアアアアアアアアアアッッ!! さあ、いってらっしゃぁあああああいッッ!!」
京水が絶叫と共に腕を振るうと、マスカレイド・ドーパントとコマンダーの仮面兵士が混ざったような姿の分身体が、京水の周囲に大量に出現する。
京水は分身体の半分をゴクローの居る生徒会室に、残り半分をIS学園の重要施設。ISとIS用武器の保管庫に向かわせる。理想としてはゴクローとアンクの鹵獲だが、本来の目的が達成されるまでの足止め、そして戦力の分散が目的だ。
「無理はしないで! でも出来るなら無傷でお願いね! もしも、ゴクローちゃんとアンクちゃんを生け捕りに出来たら、私が一晩中愛してあげるわ!」
愛してあげるも何も自分の分身体である。突っ込み所が多いが、相手は京水なので仕方が無い。
「突撃ぃぃいいいいいいいいいいいいいっっ!!」
一人その場に残った京水は全身のブースターを全開にして、一夏と鈴の戦うアリーナに向かって突進する。そのまま体当たり……と言うか頭突きで第三アリーナの遮断シールドを破壊し、京水は一夏と鈴の戦いに乱入した。
キャラクタァ~紹介&解説
5963&一夏
マンネリを嫌う作者は、原作二巻のVTラウラ戦で『仮面ライダーエターナルRX』と『白騎士化した白式』の戦いを予定しており、大まかな所は『乱舞Escalation』を聞きながらある程度書いてある。一夏と5963に歌わせたら、一夏が紘汰のパートを、5963が戒斗のパートを歌う。……ルート次第では一夏が闇ッチの様になるかも知れない。
シュラウド&京水
この作品のシュラウドは、『鎧武』の戦極凌馬やDJサガラに近い部分があるかも知れない。ルート次第では一夏にも接触し、ヨモツヘグリロックシード的なアイテムを授けるかも知れない。しかし、京水は書いていてやたらと楽しかった。何故だ。
C コマンダーメモリ
指揮官の記憶を内包するガイアメモリ。京水にそのままルナを使わせても面白くないので、このメモリを使うことでより戦闘向けの体になってもらった。但し、左手首に時計の様な装置はついていない。