今回の話を書いて、改めて「終わらない怖さ」を感じました。
遂に一夏が動いてくれた。これで漸く二人の関係に何かしらの進展があるはずだ。
一応、万が一の事態に備えてタカカンとバッタカンで監視し、今日は生徒会副会長としての仕事をこなす。相変わらず仕事をしているのは俺と虚だけで、本音は何時も通り寝ている。
そんな生徒会の日常は、マスカレイド・ドーパントと仮面兵士が合体したような見た目の連中が、生徒会室の窓をぶち破った事で終わりを告げる。
見た目と行動から敵と判断し、頭脳労働のやる気スイッチから、肉体労働の殺る気スイッチに切り替える。
机の上に乗っている書類や筆記用具を無視し、机を思いっきり蹴り飛ばす。机によって敵と間に壁を作り、横に座っている虚と目を醒ました本音の手を引いて、生徒会室から脱出する。
しかし廊下にも相当数の戦闘員が待ち構えており、簡単にはいかない。それにしても、シュラウドはどうやってコレだけの数の人間を集めたのだろうか。
『コイツ等は人間じゃない。メモリの能力で作った分身体だ』
なるほど。容赦しなくて良いのは助かるが、問題は変身する隙が無い事。『オーズ』の最大の弱点であり、ISと違って部分展開が出来ないのも痛い。
それでも武装の呼び出しは出来るので、トリガーマグナムを召喚して戦闘員を次々と撃ち抜き、蹴り飛ばして包囲網を突破していく。
「ふにゃぁああああああ! お姉ちゃん、シュレりん、どうしよ~~!!」
「下手に逃げると一般生徒にも被害が出ます! 屋外、いえ屋上の方に!」
「ホラー映画のお約束だな……」
多分映画の演出なのだろうが、どうしてわざわざ逃げ場の無い場所へ避難するのかと何時も思う。もっとも俺達の場合、飛行する事が出来る道具があるので全く問題は無い。
ゾンビの大軍から逃げるスクリームヒロイン宜しく、本音と虚と共に階段を駆け上がり、屋上に逃げ込むとISを展開した箒とマドカが待っていた。
『俺が呼んでおいた。生徒会室に襲撃してきた時点でな』
「本音と虚さんはコッチだ!」
「ふん。間抜けが」
本音と虚は箒の方に駆け足で向かい、俺達を追ってきた戦闘員達は罠だと知らずに屋上に躍り出た所を、マドカによって殲滅された。
「ありがとう、助かった。しかし、さっきのだけか?」
「いや、他にも同じヤツが別の場所で確認された、そっちの方は楯無と簪とセシリアの三人が向かっている」
『馬夏と中華娘の所に大本と思える奴がいる。全身装甲のISで得体の知れないオカマ……と言うか、どうもソイツも人間じゃないみたいだな』
……人間じゃない戦闘員を操る、得体の知れないオカマ?
非常に気になる説明から、バッタカンから送られたであろう映像を見てみると、一夏と凰の二人と一緒に、どこかルナ・ドーパントの面影を残しつつも巨大な両腕が印象的な、クネクネと奇妙な動きをしている全身装甲のISが写っていた。……うん、仕草が物凄く『W』の京水っぽい。
その京水(仮)は此方の監視の目が分かっていたのか、映像は京水(仮)からレーザーとミサイルが放たれた場面を最後に真っ暗になった。多分、タカカンとバッタカンは犠牲になった。
「箒は本音と虚を頼む。マドカは俺と一緒に第三アリーナに行くぞ。……変身!」
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』
タトバコンボに変身し、屋上からマドカと共に目的地へ飛んで向かう。その途中で織斑先生からプライベート・チャンネルを用いた通信が入ってきた。
『シュレディンガー。現在、第三アリーナの遮断シールドがレベル4に設定され、第三アリーナに通じる扉も全てロックされている。現在、束とクロニクルがシステムクラックを――』
織斑先生の状況説明の途中で、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するワムウの神砂嵐を彷彿とさせる二つの黄色い竜巻が、レベル4の遮断シールドを突き破り、アリーナの外を破壊するのが見えた。
「……強行突入だな」
『スキャニング・チャージ!』
『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』
『セルバースト!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
最大威力の「タトバキック」を遮断シールドに全力で叩き込む。遮断シールドがガラスの様に砕け、その勢いのままアリーナに突入する。すると、空中で見覚えの無い怪人と鉢合わせになり、タトバキックがその怪人に命中した。
幸いと言って良いのかどうか分からないが、遮断シールドを破る時に大分エネルギーを消費していた事と、「タトバキック」を怪人が頑丈そうな翼で咄嗟にガードした事で、怪人に大したダメージは無さそうだ。
「……遅かったか?」
「いいや、ぴったりだぜ」
「あらやだ。もう来ちゃったの~?」
取り敢えず一夏は無事で、京水(仮)も健在。両者とも対してダメージは負っていないように見える。
問題は俺が蹴り飛ばした怪人。見た目は、劇場版『将軍と21のコアメダル』に登場する錬金術師ガラの怪人態と巨大ガラの中間と言った、言わば龍人の様な姿をしており、『龍騎』のダークレイダーみたいなかなりゴツい翼が生えている。
タカの目で怪人を更に詳しく調べてみると、なんと中身は凰だ。大量のセルメダルを全身に纏い、中にはバイオレンスメモリの他に、見たことのない意匠が彫られた、コアメダルらしき15枚の色とりどりのメダルが確認出来る。
『そこのオカマの仕業だろうが、厄介な事になったな。ガイアメモリどころか、コアメダルとセルメダルも取り込んでいる点を考えると……アレはドライバーの無いオーズと考えた方が良い』
そうか。俺はガラよりもコアメダルの枚数が少ないが、ISをベースにしている上にガイアメモリを取り込んでいる事で、ガラと一体どれ位の差があるんだろうと考えていたんだが。
「ナイスタイミングだ! 一緒に鈴を――「ムゥチッ!!」ぐぁっ!」
「刃物は絶対に駄目ッ!! そしてあんたの相手は私よッッ!! 楽しみましょ~~~~~~~~!!」
「は、放せコラァアアアアアアアアアッッ!!」
京水(仮)は、一夏の唯一の武器である『零落白夜』を伸縮自在の腕で叩き落とし、一夏に抱きつくと、勢い良くロケットの様に飛び出して遮断シールドを破り、一夏を連れてアリーナから脱出した。
「……持って行かれたな」
「ああ。追いかけたい所だが……そう簡単には行かないみたいだな」
出来れば直ぐに追いかけたいが、その前に俺達をココから逃がすつもりは無いと言わんばかりに殺気を向けている凰を何とかしなければならない。
「『オーズ』……アンタのメダルとメモリを戴くわぁああああああああああッッ!!」
凰は両腕を鋭利な爪を生やした熊手の様な形状に変化させ、猛然と俺に襲い掛かってくる。体内にある黄色いメダルの一枚が輝いている所を見れば、恐らくコアメダルの力だろう。メダルの意匠から察するに……白くないけど、パンダか?
「マドカ! 変身しろ!」
「分かっている!」
『NASCA!』
マドカが『拡張領域』からナスカメモリを取り出すと同時に、青色と銀色のカラーリングのロストドライバーがマドカの腹部に装着される。
「変身!」
『NASCA!』
マドカがナスカメモリを装填しメモリスロットを傾けると、『青騎士』が遠距離特化の射撃形態から、近距離特化の高速格闘形態へと変化する。
ナスカの地上絵の様な模様が刻まれた、口元だけを露出した青い騎士の様な全身装甲。両肩から長いマフラーが伸び、背中のブースターからナスカの地上絵の様なエネルギー翼が発生している。
「ハァアアアアアアアアアッッ!!」
『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアッッ!」
マドカが変身している間に、此方も作戦の仕込みを実行する。重さと鋭さを兼ねた凰の猛攻をトラクローで防ぎつつ、メモリをジョーカーからイエスタデイに変更。マキシマムドライブを発動し、エネルギーを纏った右フックを凰の左わき腹に叩き込む。
「? 何? その程度? 痛くも痒くも無いわよ?」
マキシマムドライブの攻撃を受けたにも関らず、特に大きなダメージが無い事に余裕綽々な様子の凰。しかし、失敗ではない。何故なら攻撃を当てた部分に、砂時計を模したマークが刻まれている。
「気を付けろマドカ。気を抜くとやられるぞ」
「……お前よりはまだ弱そうだがな」
『とりあえず仕込みは完了だ。だが、中華娘は予想以上に手強いぞ』
「ああ。分かってる」
見た感じ凰はコアメダルの力を引き出す際に、わざわざメダルをスキャンする必要が無く、自分の意志一つでコアメダルの力を引き出し、肉体を変化させる事ができるようだ。
パターンはコアメダルの枚数と同じ15種類に限られると思われるが、これでは『真のオーズ』と言うより『究極生物カーズ』を相手にしている様な気がする。
「凰、お前の『運命【さだめ】』は俺が決める」
「ハッ! アンタに決められるほど弱くは無いわ!」
凰が繰り出す加速を加えたパンダクローの一撃を、俺はメダジャリバーで受け止めた。
○○○
一夏との模擬戦の途中で、突然アリーナに大きな衝撃と轟音が響き、もくもくと煙が上がった。ISのハイパーセンサーが、所属不明のISを感知したとあたしに警告している事で、その原因は直ぐに分かった。
「い、一体何が起こって……」
「こっちよ、こっちよ! ここよ~~!」
「……へ?」
突如聞こえてきたのは、オカマ口調の男の声。一体何処から聞こえてきたのかと思えば、煙の中からだ。
その煙の中から現れたのは、異形としか言いようの無い姿の全身装甲のIS。でも、見た目が男っぽいのに、動きがやたらとクネクネしていて、姿と仕草のギャップが半端じゃない。
「あ、あんた一体何者!? 何が目的なのよ!!」
「ド素人の小娘はお黙り! アンタなんかにねぇ、私の崇高な目的と純粋な恋心は、分からないわっ!」
「分かるわけ無いでしょ! 変なおっさん!」
「そう、変なおっさ……って! 変なおっさん!? 言ったわね! アンタ、レディーに対して最大の侮辱をッ! ムッキィィィイイイイイイイイイイッッ!!」
訳の分からない事を言うオカマの変なおっさん(多分)にイライラして、思ったことをそのまま口に出して言ったら相当気に障ったみたいで、オカマは奇妙な動きをしながら奇声を上げた。
「ブッ飛びぃぃいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」
「うおりゃああああああああああっっ!!」
怒れるオカマはあたしに向かって、両腕から高出力のエネルギーのレーザーを、背中からミサイルを同時に発射した。
でも一夏が突撃した事で、オカマが一夏を回避してレーザーの軌道が変わったから、あたしはミサイルだけを対処した。
「……ちょっと一夏。一体何のつもり? あんたは弱いんだから、あたしが相手してる間に逃げなさいよ」
「何言ってんだ。逃げるって、女を置いてそんな事できるかよ」
「……あのね。これからはあたしが一夏を守るの。守れるだけの力があるの。あたしはもう昔のあたしを超えたの」
「俺だってもう昔の千冬姉に守られてた頃の俺じゃない。お前の背中くらいなら守ってみせる」
「……って」
「? どうした鈴?」
「あたしが守るって言ってんでしょうがぁあああああああああっっ!!」
『VIOLENCE!』
一夏を守る筈のあたしが一夏に守られるなんて、そんなの絶対に我慢できない。こうなったら何が何でもあたしが一夏を守れる事を一夏に認めさせてやる!
「手ェ出すんじゃないわよ一夏! コイツはあたしが一人でやるわ!」
ガイアメモリを使って『甲龍』を強化したあたしは、オカマに向かって牽制と本命を織り交ぜた衝撃砲をひたすら放つ。
「く~ね~くね~くねくね~~♪ 来なさぁ~い?」
「ぐっ! このっ!!」
「ぬ~るぬる~ぬるぬる~♪ 効かないわよッ!!」
意外な事に、このオカマは奇妙な動きで見えないはずの衝撃砲を全部回避して徐々に、そして確実にあたしに接近してきた。
でも残念だったわね! 近距離はあたしの土俵よ! こないだの王とか言う代表候補生を倒した攻撃をお見舞いする為に、右腕を巨大な鉄球に変える。
「さあ、自分が砕ける音を聞きなさいッッ!!」
ズドンと、見事にあたしの右ストレートがオカマの胴体に決まった。
よし! ISのシールドエネルギーを貫通して、本体に大ダメージを与える攻撃力を持った必殺の一撃だ。これで――
「んぁぁ……今日は、カレー、だったのぉ! モンゴリアンチョップ!」
!? 効いてない!? 確かに殴った感触はまるでゴムみたいな弾力があったけど、それでもノーダメージなんて信じられない!
それから何度も右腕の鉄球で殴りつけたけど、ダメージを受けている様子がまるで無い。しかも、このオカマは近距離の格闘能力が高く、徐々にあたしの方が押されてきた。打撃系の技は効果が薄いと判断して、「双天牙月」を使った二刀流に切り替える。
「アーーーーーッ! アァーーーッ! アァァァーーーッッ!!」
「ッッ~~~~!! 止めなさいよその声っ!」
予想通り、オカマは奇妙な動きで巧みに回避するけど、徐々に攻撃が当たるようになってきた。でも攻撃が当たる度に喘声の様な悲鳴が上がる。はっきり言って気持ち悪い。
「やだぁ、この子思ったより強いわ! でも……これでどうかしら?」
オカマが取り出したのは、何かに嵌める感じの銀色の機械。でも何に使うものなのか、ちょっと分からない。
「これは『ガイアメモリ強化アダプター』って言ってね。これをガイアメモリと併用する事で、メモリの能力を3倍まで増幅させることができるのよ。こんな風にねぇ!」
『COMANDER・UPGRADE!』
え!? このオカマ、ガイアメモリを持ってるの!? オカマが自分のガイアメモリに強化アダプターを装着すると、メモリのイニシャルと「DOWNLOAD COMPLETE」の文字が浮かび上がるのが見えた。
そして強化アダプターを付けたメモリを体に突き刺すと、ギザギザの歯車の様なリングを中心とした追加装甲を纏い、全体的に銀色から黄色い姿になった。
「キタキタキタキタキタキタァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! さあ、太陽に代わってお仕置きよっ! ぶっ飛びぃぃいいいいいいいいいッッ!!」
もしかしてあのリングって、歯車じゃなくて太陽だったのかしら? そんな事を考えていたら、さっきとは比べ物になら無い数のミサイルとレーザーが発射された。
「ちっ!! でも、この位どうって事……」
「いただきますっ!!」
「!!」
回避は不可能と判断して、ミサイルとレーザーの弾幕を耐えるあたしに、異常に伸びたオカマの右手が『甲龍』に差し込まれた。その間、あたしの体の中から何かを探すように、右手が『甲龍』の中で蠢いている……そんなおぞましい感覚が体中を走っていた。
そして、右手が何を探しているのかを、あたしは察していた。
「ちょ、ちょっと、待って!」
「待つわけ無いじゃないッッ!!」
オカマの右手があたしから引き抜かれた瞬間、『甲龍』の姿は元に戻り、今までに感じた事の無い脱力感と、筆舌しがたい喪失感があたしを襲った。ガイアメモリが、あたしが手に入れた力が、オカマの右手に握られていた。
「私のメモリが……力が……」
「おい! 鈴! 大丈夫か!?」
「……返して! 返しなさいよ! それは私の物よ!」
「おい、鈴! 少しは落ち着いて……」
「邪魔すんじゃないわよ! あたしは新しい自分が! 強い力が欲しいの!」
「だから落ち着けって! 幼馴染の俺の言う事が聞こえないのか!?」
「……幼馴染?」
あたしが欲しいのはそんな言葉じゃない。そんな関係じゃない。告白までしたのに、なんでそれを分かってくれないんだ。
……ああ、そうか。あたしが弱いからか。それならちゃんと一夏があたしの言葉を聞いてくれる為には、もっと強い力が必要なんだ!
「下らない!! 今のアタシに必要なのは力よ!!」
「それなら……お上がりなさいっ!!」
『VIOLENCE!』
何を思ったのか、今度はオカマがあたしから取り上げたメモリを、あたしに投げつけてきた。メモリが『甲龍』に命中して機体に吸い込まれると、『甲龍』は強化された姿に戻った。
……でも、足りない。……こんな力じゃ、全然、足りないっっ!!
「力……力よ……! もっともっと……力が欲しいッッ!!」
○○○
メモリを取り戻して尚、更に強い力を求める鈴の様子を見て、京水は『拡張領域』から15枚のコアメダルが入ったメダルケースと、大量のセルメダルが入ったタンクを複数召喚した。
「良いわ! あげるわ! 私が力を貸してあげるわぁあああああああああ!!」
ガイアメモリの毒素は精神を汚染し、使用者を欲望のままに暴れる怪物へと変化させる。
そこで、精神が汚染された状態でガイアメモリを取り上げ、手にしていた強大な力が失われる恐怖をわざと与える事で、使用者の欲望を最大限まで増幅させる。
使用者をそんな精神状態にしてから、新規作成した15枚のコアメダルと大量のセルメダルを与え、力を喪失する恐怖と、それから生まれる欲望によって、コアメダルを一気に成長させる事がシュラウドの目的兼実験であり、京水が受けた任務だった。
「さあ、貴方のイケナイ欲望をッ! 思いっきりッ! 解放しなさぁああああああああああああああいッッ!!」
15枚のコアメダルと大量のセルメダルは鈴の欲望に大きく反応し、意思を持ったかのように動き出して『甲龍』諸共、鈴を飲み込んだ。
○○○
カチャカチャとメダルの擦れ合う音が徐々に収まっていくのに比例して、どんどん自分の中で抑えきれない位に大きな力が膨れ上がっていくのを感じる。まるで自分が神様になったような高揚感と全能感だ。
これがコアメダルの力。これがあらゆるISを凌駕する、『オーズ』の力の根源!!
メダルが生み出す不快な金属音が完全に収まると、あたしの全身は強固な装甲に完全に覆われていた。正直、あのオカマよりも強そうだ。
「鈴!? おい、鈴!?」
「……アハ、アハハハハハハハ!! 凄いわ一夏!! あたし、今なら何だって簡単に出来そうよ! 見て!」
基本的にISの操縦は勘でやるあたしは、取り込んだコアメダルの力がどんなものか、本能的な部分で何となく分かる。直感だけど、あたしにはこの黄色のメダル3枚が合いそうだ。
試しに黄色のメダル3枚に意識を集中させると、『龍砲』を搭載した『非固定浮遊部位』を取り込んで出来た左右の翼から、二つ大きな黄色い竜巻が放たれる。放たれた黄色い竜巻は一つに混ざり合い、軌道上にあるもの全てを破壊して、アリーナの遮断シールドを楽々と貫通した。
「アハハハハ! どう、一夏! あたし、こんなに強くなったのよ!」
「……何だよ、どうしちまったんだよ、鈴」
? なんでそんな顔するのよ一夏。あたしは今、この世界で一番強い力を手に入れたの。全てを制する事ができる力があたしにあるのに、何でそんな顔するのよ。
「てめぇ! 鈴に一体、何しやがった!」
「あら? 私達はその小娘が求める力をあげただけよ? 感謝されこそすれ恨まれる覚えは無いわ」
「そうね……感謝してるわ……昔のあたしじゃ絶対に超えられなかった壁を、一気に超えられる力をくれたんだから……」
「そんな化物になってまで、一体何を超えたって言うんだよ!」
……化物? 可愛い女の子に酷い事言うじゃない。でもあたしの次の台詞にはきっと一夏も驚くわ。
「千冬さんよ! 絶対に超えられないと思っていた人を、超える事が出来たの! あの時の千冬さんの表情は……見ていて本当にスカッとしたわ……」
「……はぁ!? 千冬姉を!?」
「信じられないかも知れないけど本当よ。あたしは千冬さんよりも強くなったの」
「信じられるわけ無いだろ! 千冬姉が鈴に負けるなんて!」
「……そう。それじゃあ、あんたの目の前で千冬さんをボコボコにして証明してあげる。よぉうく、見ててね。アハッ! アハハハハハハハッッ!!」
そうだ。一夏の目の前で千冬さんを完膚なきまでに叩きのめしてやろう。そうすれば、あたしの強さを証明できる。ここに千冬さんを持ってこようと飛び立ったあたしに、予想外の邪魔が入った。
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
『オーズ』が必殺技でアリーナの遮断シールドを破って、ここに突入してきたのだ。咄嗟に翼でガードしたけど、両脚蹴りをまとも受けて吹き飛ばされてしまった。
その後マドカもやってきて、オカマが一夏をアリーナの外に連れ去ったけど問題ない。今のあたしなら、あんなオカマなんて幾らでもどうとでもできる。そう思えるだけの力があたしにある。
でも……まだ足りない。更に強大な力を得る為に、更なる全能感を感じる為に。もっと、もっと、アタシには力が必要なの。その為に……。
「『オーズ』……アンタのメダルとメモリを戴くわァアアアアアアアアアアッッ!!」
なんとなく、フィーリングの合いそうなコアメダルに意識を集中させて、コアメダルの力を引き出すと、両腕が巨大なクローに変化した。中々使い勝手が良さそうだ。『オーズ』のコアメダルをクローで抉り取るつもりで、あたしは『オーズ』に襲い掛かった。
「ハァアアアアアアアアアッッ!!」
『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアッッ!」
あたしの攻撃を爪で防ぎながら、隙が出来た左わき腹にエネルギーを纏ったパンチが叩き込まれる。マキシマムドライブの音声が鳴ったから、これはメモリを使った必殺技だろう。でもパンチを叩き込まれた部分はなんとも無い。
「? 何? その程度? 痛くも痒くも無いわよ?」
正直、あたしは優越感に酔っていた。コレなら幾らでもやれそうだ。ただ、マドカもガイアメモリを持っている事は予想外だったけど、それでもコアメダルを手に入れたあたしの敵じゃないだろう。
「凰、お前の『運命【さだめ】』は俺が決める」
「ハッ! アンタに決められるほど弱くは無いわ!」
加速を加えたクローの一撃を今度は剣で受け止められたけど、衝撃までは殺し切れなかったみたいで、『オーズ』は大きく後ろに飛んだ。
ここから追撃するため、さっきの「黄色の竜巻」を撃ち込んでやろうと思った瞬間、マドカがエネルギー弾を何発もあたしにぶつけてくる。エネルギー弾は全て命中したけど、全然大した事無い。コレは楽しい。今のあたしには、どんな強大な力も足元に及ばない気がする。
「喰らえッ!!」
『クワガタ! ゴリラ! チーター!』
マドカを無視して『オーズ』に向けて翼から「黄色の竜巻」を発射する。でも、『オーズ』は高速移動するチーターの力を使って回避し、一気に距離を詰めて此方に接近する。
接近する『オーズ』に対して、あたしはアルマジロのコアメダルの力を引き出し、防御力を強化して電撃と加速を加えた一撃を受け止める。
「ふふん。この程度――」
『ROCKET・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアアアッッ!!」
「! キャァアアアアッ!」
受け止めたと思ったら、直後にゴリラの手甲の後ろにブースターが現れて、その勢いで殴り飛ばされた。
油断したわ。流石にメモリやメダルの使い方は、『オーズ』に一日の長があるみたいね。受け止めた部分の装甲が砕けちゃったけど、メダルが砕けた装甲を瞬く間に修復した。
「無駄よ。大人しくメダルとメモリを渡しなさい。それなら少しだけ痛めつけるレベルを下げてあげるわ」
「……凰。俺が前に言った事を覚えているか? カバの牙には小鳥が止まる。だが、ライオンの牙に小鳥は止まらない」
「はぁ!? だから何よ!? アタシがのろまで間抜けなカバだとでも言うつもり!?」
「違う。お前はライオンだ。どこか勘違いした、馬鹿なライオンだ」
「誰が馬鹿ですってぇ!!」
今度はカブト虫のメダルに意識を集中させる。頭にカブトムシの角が生え、翼に緑色の電気が走ると、緑色の雷で出来た弾丸が連続発射される。黄色のメダルほどじゃないけど、この緑のメダルも中々使い勝手が良さそうだ。
『クワガタ! クジャク! チーター!』
『QUEEN・MAXIMUM-DRIVE!』
「ちっ! 思った以上に厄介だな!」
『オーズ』がメダルをスキャンして装備を交換すると、左腕の赤い盾とエネルギーシールドで攻撃を防ぐ。あのエネルギーシールドは映像資料でも見た。生半可な攻撃では突破できないだろう。それなら……。
「はぁああああああああああああっっ!!」
あたしが『オーズ』のエネルギーシールドを破る事に集中していると、マドカが高速でジグザグに移動している。動きで撹乱してから手にしているブレードで斬りかかるつもりだろう。
でも甘いわ。今度は自分の周囲に電撃を撒き散らして、どの方向から来ても対応できるように電撃のバリアーを張る。
「ぐぁああっ! な、何ぃ!?」
「ふん! さあ、自分が砕ける音を――」
『クワガタ! クジャク! チーター! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
電撃のバリアーに捕まって動きが止まったマドカに対して、渾身の一撃を叩き込もうとしたあたしの背中に、高出力の火炎弾が直撃した。
火炎弾の威力は予想よりも大きく、翼でガードしたにも関らず吹き飛ばされた。翼の損傷は激しいが、これも直ぐに修復されるだろう。
マドカはと言うと、電撃のバリアーから脱出して『オーズ』の傍らにいた。
「やはりドライバーが無い分、メダルの力を引き出しやすくなっているのかもな」
「分析はいい。それよりもまだなのか?」
「もう少し時間が掛かる。それまで何とか凌いでくれ」
「何か企んでるみたいだけど、その前にアンタ達は負けるのよぉ!!」
今度はリクガメのメダルを意識し、右手に鎖付きの鉄球を召喚した。メモリを使った時よりも巨大な鉄球をぶんぶん振り回し、二人に向かって叩きつける。
「……使ってみるか」
『XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』
『STEAM!』
『オーズ』が取り出したのは、メモリを装填して力を引き出す銃剣。その銃剣から尋常じゃない量の蒸気が発生して、アリーナが白一色に染まる。叩き付けた鉄球に手ごたえは無い。
二人は一体何処に居るのかと探していると、『オーズ』がメダルをスキャンし、装備を変える音声が聞こえた。
『クワガタ! トラ! コンドル!』
「ララララララララララララララララァッ!!」
「あっ! ぐぅ! このっ!」
「ココだっ!!」
「んあっ!」
このホワイトアウトにも似た視界最悪の状態の中で、どうやって居場所を特定しているのか分からないが、『オーズ』が真空波を纏った連続キックと電撃を纏ったクローで攻め立て、あたしが『オーズ』の攻撃に集中する事で、意識していない角度からマドカがブレードで斬り付ける。
「あぁぁっっ!! もう! 調子に乗ってんじゃないわよぉぉおおおおおおおッッ!!」
アリーナに充満する大量の蒸気を「黄色の竜巻」で吹き飛ばし、隠れ蓑の無くなった『オーズ』に両手のクローを使った攻撃を繰り出す。
「! ここだ!」
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』
『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
すると『オーズ』は最初の姿に戻り、さっきの痛くないパンチを繰り出したガイアメモリの必殺技を、さっきと同じ様に同じ場所に打ち込んだ。やっぱり痛くも痒くも無い。
「凰。お前の『運命』は俺が決める」
「アンタ馬鹿ぁ? だから言ってるでしょ? アンタに決められるほどあたしは弱くないのよ」
「……俺がお前に言った事を考えろ。ライオンの牙に小鳥は止まらない」
「何を言って……」
そこで何か違和感がある事に気付いた。さっきと同じ様な状況で、まるでデジャビュだが、決定的な部分で何かがおかしい。そんな気がするが、その正体が分からない。
その違和感の正体を考えていたら、マドカが再びエネルギー弾を放ってきた。
「ふっ!」
「はっ! 何度も同じ手を喰らうと思ってんの?」
マドカが繰り出すエネルギー弾は回避するまでも無い。意識を黄色のメダル3枚に集中し、『オーズ』へ必殺の「黄色の竜巻」を放つ準備に掛かる。
「無駄よ! そんなんじゃあたしは倒せない!」
「倒すつもりは無い。倒すつもりはな」
『XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』
『STEAM!』
何発も撃った事で軌道を見切ったのか、「黄色の竜巻」を最小限の動きで回避した『オーズ』は、再び大量の蒸気で身を隠した。また蒸気に紛れての奇襲ね。流石に手の内が読めるわ!
すかさず、もう一回「黄色の竜巻」を放って蒸気を吹き飛ばし、視界をクリアにしたと思ったら、またもや『オーズ』が当たっても痛くない必殺技を繰り出した。
『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
さっきと同じ左わき腹に、痛くも痒くもない拳が刺さる。それにしてもまた同じ所に打ち込むなんて、学習能力が無いのかしら? それとも何か狙ってる?
「凰。お前の『運命』は俺が決める」
「だから、何度言えば――!!」
その時、あたしが感じていた違和感の正体に気づいた。
あたしが最初に違和感に気がついた時、あたしはそれまでに「黄色の竜巻」を合計三発撃った。一発目は一夏に見せるため、二発目は『オーズ』への攻撃。そして三発目は蒸気を吹き飛ばす為に撃った。
そしてその度に、「黄色の竜巻」はアリーナを破壊していた。だから、アリーナの「黄色の竜巻」による破壊の跡は、あの時点で三つあるはず。しかし思い出してみれば、あの時のアリーナの「黄色の竜巻」による破壊の跡は一つだけだった。
そして、これまでに「黄色の竜巻」を合計五発撃った筈なのに、確認出来るアリーナの「黄色の竜巻」の破壊の跡は一つしかない……。
「……あんた。あたしに一体何をしたの?」
「お前は今、『昨日と言う名の監獄』に囚われている」
「だから、ちゃんと答えなさいよっっ!!」
加速を加えたクローの一撃を『オーズ』は剣で防ぎ、その勢いのまま後ろに飛んだ。こ、これもさっきと同じ!?
何か恐ろしい事が起こっている気がする。そんな恐怖心を振り払うように、「黄色の竜巻」を放とうとして、またもやマドカが撹乱目的の高速移動を始める。同じ展開が繰り返されている事に、段々と恐怖心が募っていく。
「だったら!」
さっきと同じカブトムシのメダルの電撃ではなく、今度はバイソンのメダルの力を使う。地面を叩く事で限定的に重力を操作し、マドカの機動力を奪い動きを止める。
「これで……」
『タカ! クジャク! バッタ! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
! そうだ! さっきもマドカの動きを止めて攻撃しようとした時、『オーズ』は火炎弾を撃って来た! 何時の間に装備を変えたのか分からなかったが、コレもさっきと同じ展開だ!
「うわああああああああああああああっっ!!」
今度は火炎弾に「黄色の竜巻」をぶつけて軌道をずらす。黄色の竜巻はアリーナを破壊し、火炎弾は軌道から大きく逸れて地面に着弾した。火炎弾の爆発により、アリーナの中は爆風によって舞い上がった土埃に覆われた。
視界が最悪なのは同じだが、今度は蒸気じゃなくて土煙だ。そう思ってホッとしたのも束の間、二度と聞きたくないガイアメモリのガイダンスボイスが聞こえた。
『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「!?!?!?!?!?」
全身から鳥肌が立った。さっきまで何も脅威に感じなかった痛くも痒くも攻撃が、とてつもなく恐ろしい攻撃に感じられた。
攻撃を受けた後で恐る恐るアリーナを見渡すと、さっき「黄色の竜巻」で破壊した筈の場所が元に戻っており、「黄色の竜巻」の破壊の跡は一つだけだった。
「な、何がどうなって……」
「言った筈だ。お前の『運命』は俺が決める。お前はこの『輪廻【ループ】』から逃げる事は出来ない」
や、やっぱりあたしはさっきから、ずっと同じ時間をぐるぐる回っている!? コレもガイアメモリの力なの!? こんなゲームの世界みたいな事まで出来るなんて……いや、それよりコレは何時まで続くの? まさか……無限に!?
「この無限ループから抜けたいのなら、自分の失敗を見つめ直せ。ライオンの牙に小鳥が止まらない理由を考えろ。それ以外に方法は無い」
その言葉で混乱してゴチャゴチャしていた頭の中が、怒りと否定の色に染まる。
……失敗? 失敗ですって!? あたしの何処に失敗があるって言うのよ!!
あたしはただ、無力な弱い自分が嫌だった!
強くなって一夏に千冬さんみたいに、見てもらいたかっただけだった!
弱い自分に戻りたくないだけだった!
あんたはその為に力を求める事が、失敗だって言うの!?
「……認めない……そんなの、絶対に、認めてやるもんですかぁああああああっっ!!」
あたしはループを抜ける為に『オーズ』に戦いを挑んだ。
何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、――。
キャラクタァ~紹介&解説
究極生物 凰鈴音
どれだけ『オーズ』と戦っても無限ループから抜け出せないので、その内鈴は考えるのを止めた……と思いきや、しょっちゅう5963が話しかけてくるので、考えるのを止める事さえ許されなかった。
新規作成コアメダル
シュラウドがミレニアム壊滅後に作成したコアメダルで、元ネタは原作『オーズ』のヤミー達。能力もそれに準じて決定。鈴が使った「黄色の竜巻」は、カザリが使っていたものと、ワムウの神砂嵐。コンボの固有能力みたいなものです。
使用されたコアメダルの内訳は下記の通り。作者は、「鈴は猫っぽいから鳥系と水棲(魚)系は相性が悪そうだな~」と思って、今回使わせなかった。
鳥系……フクロウ・シャモ・ハゲタカ
昆虫系…カブト・クロアゲハ・オトシブミ
猫系……シャムネコ・パンダ・ジャガー
重量系…バイソン・リクガメ・アルマジロ
水棲系…ピラニア・イトマキエイ・イカ
Y イエスタデイメモリ
昨日の記憶を持つガイアメモリ。二次小説を書くにあたり、「原作では活躍の場の無かったメモリやメダルを活躍させよう」と言う、作者の欲望の影響を最も受けたであろうメモリ。散々悩んだ末に、「イザナミだ」に落ち着いた。
疾風伝のイザナミ回における、うちは一族の名前の適当さ(ライ、バル、ナカ、ナオリ)は、恐らくマザーこと薬師ノノウが、スタッフが名前を考えている時に「考えすぎない事が一番です」と言ったに違いない。
一度書いてみたかった無限ループを実際に書いてみたが、予想以上にややこしい事が分かり、作者は鈴以上に混乱していたりする。もう二度と書かない。