DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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読者の皆さん、お久し振りです。

感想は作品を読んでくれてるからこそ……と思っていた作者ですが、作者は思いの他メンタル弱めでした。ネタは思いつくけど文章が思いつかない……そんなどっかの眼魔の様な状況を打開するべく、しばらくパソコンに手をつけなかったり、二次を書いている友人と話して見たり、DVDを借りて映画を見たりしてました。まあ、4月になって状況が大きく変わった事もありますが……。

とにかく、ようやく書き上げましたので投稿します。今回も三話連続投稿です。合計で45000字を超えた……。

それと、お気に入り登録が900件を突破しました。ご愛読ありがとうございます。

……ゴールデンウィーク? 仕事とブッ○オフ……。


第21話 EGO ~eyes glazing over

あれから意識不明の凰を医務室に運んだものの、猛烈な頭痛と吐き気が嘗てない激しさで自己主張していた。

 

ガタキリバコンボの副作用だと思うが、『NEVER』の拠点に辿りついた所で遂に耐えられなくなり、トイレに駆け込んで盛大に吐いた。腹の中身が無くなるまで吐き出したら大分楽になったが、トイレから出た瞬間、真剣な顔をした束とクロエの二人に拘束された。体力を消耗していた俺は抵抗する間も無く、二人にあれよあれよと処置を施され、今は点滴を打たれた状態で寝かされた。その後束は『DXオーズドライバーSDX』と、今回の戦闘で回収したバイオレンスメモリと3枚のコアメダルを取り上げると研究室に引きこもり、クロエは俺の傍で待機している。

 

ブラカワニコンボの超再生能力と、ガタキリバコンボの分身の体力共有。これにサイクロンメモリのスタミナ回復を利用する事で、ガタキリバコンボの副作用を精神面のダメージのみに抑えると言う目論みは成功した。しかし極度の疲労によって気絶し、意識を飛ばす事が出来ないのが逆にキツイ。

 

「随分と辛そうだな? まあ、アレは通常の50倍の負荷が掛かるコンボだしなぁ」

 

「アンク様、今まで何を?」

 

「メダル集めだ。大漁だったぞ」

 

その後も続くクロエとアンクの会話によると、アンクは撃破した『巨大甲龍』の肉体を構成し、爆発でばら撒かれた大量のセルメダルを、全てのカンドロイドを出動させて一枚残らず回収していたらしい。アンクが大漁と言う位だから、セルメダル1000枚の消費を勘定に入れても充分な稼ぎになったと言う事だろう。

 

それから少ししたら、ナスカメモリの力を使った事による肉体的な負担と疲労からか、体調が悪そうなマドカがやって来た。

 

「……わたしも結構体がキツイのだが……お前はそれ以上に物凄く気持ち悪そうだな。顔色が真っ青だぞ」

 

「……正直余り喋りたくない」

 

「そうか……しかし、報告はさせて貰う」

 

「ああ、報告しろ。そこで寝ながらでも構わん」

 

アンクにそう言われたマドカは、部屋の隅にあるソファに横たわると、第六アリーナでの戦闘について話し始めた。あの京水(仮)は最後に一夏を巻き込んで自爆し、核であるISコアは粉々に砕け散った。その時ISコアから飛び出してきたガイアメモリを、黄色と黒のツートーンカラーの機械鳥が取り込んだのを見て、通常形態に戻した『青騎士』の偏光制御射撃で撃ち落したのだが、回収されたメモリは何処にも無かった……と話した。

 

それから間もなく救援に駆けつけた教師陣に、京水(仮)の自爆で気絶した一夏を渡し、今回の戦闘で回収したコマンダーメモリと、銀色のアダプターの様なパーツ。そして機械鳥ことエクストリームメモリの残骸を、『青騎士』と一緒に束に渡したと言う。

 

「『ガイアメモリ強化アダプター』か」

 

「強化アダプター? どんなモノなんだ?」

 

「ガイアメモリの能力を3倍まで強化する事が出来るブースターパーツだ。『ミレニアム』でも開発はしていたが、包帯女は独自にそれを完成させたらしいな」

 

「……マドカ。飛び出したメモリのイニシャルは『K』か? それと、エクストリームメモリの翼に傷はついていたか?」

 

「イニシャル? ……そう言われてみれば、確かに『K』だったな。あと、翼に傷は付いていなかったはずだ」

 

京水(仮)から出たと言うメモリの正体は、マドカの言う通りイニシャルが『K』ならば、封印された『京水メモリ』の可能性が高い。また、コアメダルを回収したエクストリームメモリは、アンクの攻撃で翼に傷があった筈なので、別個体の可能性が高い。

しかし、わざわざエクストリームメモリで回収したと言う事は、シュラウドにとって京水(決定)がそれだけ重要な存在だと言う事になるのか?

 

「回収したメモリとメダルはどうする? 戦力強化に使うのか?」

 

「駄目だ。メダルにもメモリにも発信機が組み込まれている。使えばコッチの情報は全て包帯女に筒抜けだ」

 

「そうか、それは不味いな」

 

「今の所、メダルとメモリから送信されている情報を受信している場所を、ウサギ女に割り出してもらっている。メダルを回収したエクストリームメモリはガジェットとカンドロイドに追跡させてみたが、全部破壊されちまった」

 

なるほど。あの時アンクがエクストリームメモリへの攻撃を止める様に言ったのは、アジトを突き止める目的もあったからか。

 

「話を聞く限り、シュラウドがそんなヘマするとは思えん。既にもぬけの殻なんじゃないのか?」

 

「確かにそうだが、メモリもメダルも造るにはそれなりの規模の施設が必要になる。そう簡単には廃棄出来ない筈だ。いずれにせよ、テロは守る側が圧倒的に不利。違うか?」

 

「罠の可能性を踏まえても、攻められる時は攻めるべき……か」

 

俺もアンクもマドカもテロ組織に身を置いた過去があり、テロは起こす側の方が守る側よりも圧倒的に有利だと言う事は身を持って知っている。そしてテロを起こす側を倒す方法としては、相手のアジトを把握して直接乗り込み、制圧してしまうのが一番手っ取り早い。

 

「まあ、確かに無駄足かも知れんが、場所が特定されるまでにコイツを戦えるレベルまで回復させて、『ゾーン』のマキシマムで情報の受信場所に向かうつもりだ」

 

「兄様、少しは良くなりましたか?」

 

「……少し」

 

「おい、顔が土気色になってきたぞ。本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

正直、全然大丈夫じゃない。しかし薬が効いてきたお蔭か頭痛が徐々に治まり、おかげで少しは眠れた。薬物と有機ナノマシンで体が改造されている所為か、短時間の睡眠でも体調はかなり楽になった。ただしアンクにベシベシと叩き起こされた所為で、気分と機嫌は最悪だ。

 

束が突き止めてくれた情報の受信場所の座標を確認し、『オーズ』に変身して『ゾーン』のマキシマムで瞬間移動。着いた先は小さな無人島で、島の一角が崩れて煙が上がっていた。どこか壊滅した『ミレニアム』のアジトを髣髴とさせる光景だ。瓦礫をどかして調べてみると、島の地下に施設を造っていた様だ。

内部にメダルやメモリの製造機らしきものは見つからなかったが、その他の開発物と思われる破片が幾つか散らばっていた。アンクが言うには、これらはメモリを強化する外骨格や強化アダプターの様な、ガイアメモリのアップグレードに関連する物らしい。

 

『どうやらここはメモリの製造よりも、メモリの強化を目的に造られた施設らしいな。メダル関連の施設は多分別にある。何か手がかりがあれば良いんだが……』

 

「やけにメダルの事を気にしているが、何か思う所があるのが?」

 

『ある。コアメダルは人間の欲望に強く反応する。欲望は誰でも大なり小なり持っているもので、中華娘に使わせたコアメダルはドライバーを使わなかった事を考慮しても、短時間でそれなりに成長していた。

包帯女の狙いはそんな成長したコアメダルを手に入れ、その成長したコアメダルを使って何かするつもりだと、俺は考える。具体的には新型のドライバーの開発だ。「ポセイドンドライバー」や「銀河王ドライバー」なんかのな』

 

「ゾッとするな」

 

しかもこの世界で造られるドライバーなら、この『DXオーズドライバーSDX』と同じ、ガイアメモリとコアメダルのハイブリットだろう。名付けるなら『DXポセイドンドライバーSDX』か。完成すれば『MOVIE大戦MEGAMAX』の『仮面ライダーポセイドン』を遥かに上回る強敵となるだろうな……。

 

結局、シュラウドの手がかりになりそうなものは何一つ無く、散らばっているパーツの破片を綺麗に回収してから、IS学園に帰還した。

 

 

●●●

 

 

シュラウドのアジト探索から帰り、少し休んでいた俺の元に織斑先生がやってきた。夜の10時になったら、今回の事件について国際IS委員会と各国へ報告するので、一緒に来て説明して欲しいとの事。

 

「今回の事件の帰結としては、中国は中華娘一人に押し付けてトカゲの尻尾切りにするつもりだ。IS委員会の方は適当な理由をつけて、今回の戦闘で回収したメモリやメダルを寄越せと言うだろう。だが、そうはいくか。連中の思い通りにはさせん」

 

「? どう言う風の吹き回しだ? お前、凰に助ける価値なんて無いとか言ってたよな?」

 

「勘違いするな。中国の一部勢力が中華娘を唆して、俺達を排除する為に中華娘をぶつけてきたのを忘れたか? 俺はそんな連中に対して制裁を加えたいだけだ。

もっと言えば、中華娘に対するお前の行動は、IS学園に紛れ込んだ『密偵【イヌ】』を通して中国やその他の国にも、IS委員会にも伝わっている。お前、中華娘の暴言やら暴力に対して、特に反撃しなかったろ?」

 

「ああ」

 

「その所為でお前はかなり舐められてるぞ。『それらしい理由を強気で言えば、自分達の言う事に従うんじゃないか?』って思われる位にな」

 

「実際に今回の戦闘で、第三アリーナなんて廃墟も同然なんだが?」

 

「お前は馬鹿か? 俺達は“包帯女からウサギ女と織斑千冬の命を守る為にココに居る”んだ。二人とも無事な上に、一般生徒の死傷者は一切出ていない。

そもそも“テロリストが襲撃に来る事”を前提に、その時の対抗手段として俺達をIS学園に置いているんだ。IS学園に何かしらの被害が出る事は承知の上だった筈だ」

 

「そうか?」

 

「そうだ。むしろ、俺達が居なけりゃ中華娘が猛威を振るっていた事は間違いないし、あのオカマを止める事も出来なかっただろう。最悪、中華娘以外にもメモリやメダルを使った敵が複数現れていた可能性もあるし、保管庫のISや武装も奪われていたに違いない。そう考えれば、俺達は被害を最小限に抑えたと言える。むしろ金を貰いたい位だ」

 

アンクの言葉には「俺達に非は何一つ無い」と言う自信に満ち溢れている。一方の俺は「お前が戦った所為で被害が拡大した」とか言われたら、正直へこまない自信が無い。

 

「兎に角、今回の事件の“間違った者”と“正した者”の線引きに、中華娘だけじゃなく中華娘を唆した連中も確実に巻き込む。中華娘を唆した時の通信記録や会話内容も保存してあるから問題ない」

 

「それなら全員巻き込めないのか? メモリ欲しさに凰を、自国民を見殺しにしようとする様な連中だぞ?」

 

「それをやると一時的に手を組むかも知れん。『呉越同舟』ってヤツだ。俺達は中華娘を唆した連中だけ攻撃すれば良い。『お前等は中華娘を唆して俺達を追い出そうとしていたが、追い出していたら中華娘が織斑千冬を殺していたかも知れんぞ?』ってな。ほら、これを見ろ」

 

『……そう。それじゃあ、あんたの目の前で千冬さんをボコボコにして証明してあげる。よぉうく、見ててね。アハッ! アハハハハハハハッッ!!』

 

「……これは?」

 

「『甲龍』のISコアの中から抜き出した記録だ。とどのつまり中華娘は織斑千冬を殺す為に、包帯女がメモリとメダルを使って仕立て上げた刺客だ」

 

「俺にはぶち込まれたコアメダルの力で欲望が暴走している様に見えるんだが?」

 

「どっちでもいい。いっそのこと、『中国の一部勢力が包帯女と結託して、中華娘を利用して俺達を排除し、織斑千冬を殺そうとしていたんじゃないか?』なんて、言いがかりをつけてもいい」

 

……鷹は執念深い生き物だと聞いた事はあるが、アンクは相当キレてる。なんとしてでも凰を使って喧嘩を吹っ掛けてきた連中を叩き潰さないと気が済まないらしい。

 

「まあ……こんな事をしなくても、今回の事件で中国が国家規模の力で叩かれる事になるだろうが……」

 

「? どう言う事だ?」

 

「中華娘が王と戦った時に、中華娘がガイアメモリを使っていた事は、国際IS委員会も中国以外の国も薄々気が付いていた。IS大戦で蜘蛛女と『エターナル』の戦いを見ているんだから、それは気付いても不思議な事じゃない」

 

「そうだな」

 

「だが中国は『NEVER』以外からその事を一切突っつかれなかった。そして、中国はメモリの事をIS委員会にも報告しなかった。しかし、中国が他国もIS委員会も出し抜こうとしていたのはバレバレだった」

 

「……つまり、中国を面白いと思わない国が大勢いる?」

 

「そうだ。IS委員会も他国も今回の事件を利用して、『代表候補生に対する教育の不行き届き』とか、『専用機を与える人材の選考に問題が有るのではないか』とか、適当な理由をつけてIS大国の一角を叩くつもりだ。

もっとも、代表候補生への教育に関しては何処の国も同じ様なもんだから、『自分達の事を棚に上げて何を言ってるんだ?』って感じだがな」

 

確かに中国政府は凰がメモリを手にする以前から、凰の手綱をしっかりと握れていたとは言い難い状態だった。凰を担当していた楊候補生管理官も「自分に従順なら問題ない」と言わんばかりに、平気で生身の人間にISを展開する凰に対して、注意も指導も全くしていなかったらしい。相手が男だと言う理由だけで、凰の兵器を使う者にあるまじき行為を黙殺していたのだ。

 

そしてアンクの言う通り、これは中国に限った問題では無い。

 

ISコアは(表向きには)束以外には造れない為、束が新規で造らない限りISの絶対数を増やす事は出来ない。ISを自国で量産出来ない以上、他国からアドバンテージを取るには、ISの性能か操縦者の力を高めるしかない。

故に世界各国のIS開発とは、究極的には『一騎当千の力を持った超人兵』を造りだす事が目的であると言えるだろう。各国ではそれを目指して新技術や新兵器が生まれ、実験的に新技術や新兵器が搭載されたISを使うパイロットは、基本的に代表候補生の中から選ばれる。

しかしそのパイロットの選考基準は、どの国も新技術や新兵器に対する適正、或いはISの操縦技術の高さと言った“パイロットの能力”を最優先し、“パイロットの精神性”に関しては、ほぼ完全に度外視している。

 

その結果、まともに手綱を握る事もままならならず、望むままにエサを与えておだてる以外に言う事を聞かせる方法が無い。そして、いざ暴走された時にはほとんど手がつけられない。そんな専用機持ちの代表候補生が量産される、言うなれば温床と言える環境が、中国だけでなく世界中に出来ている。

 

「それと今回回収したガイアメモリ2本とコアメダル3枚だが、IS委員会に高値で売りつけるぞ。強化アダプターは渡さんがな」

 

「発信機付きのメモリとメダルが売れるのか? それに、誰にも売らずに手元においておいた方が安全なんじゃないか?」

 

「売れる。そもそも売った所でISコアも自力で造れない科学力しか持っていない連中に、ガイアメモリもコアメダルも造る事は不可能だ。破壊も出来ないから、分解して調べる事も出来ない」

 

「それでも使う事は出来るだろ?」

 

「ああ。だが連中の目的は『自国の代表候補生や代表操縦者に、メモリやメダルを使わせて戦力を強化する事』じゃあない。メモリやメダルを所有する事によって、あるチャンスが舞い込んでくる事を狙っている筈だ」

 

「何のチャンスだ? メダルやメモリで出来た怪獣を造って『怪獣総進撃』を実現させるチャンスか?」

 

「違う。包帯女がメダルやメモリを取り返しに来る事だ。今回の襲撃で、刺客としてメモリを搭載した無人機ISを送り込み、メダルを使って操縦者の欲望を半ば暴走させると言った、包帯女のやり方が分かっただろう?」

 

「そうだな」

 

「それは見方を変えればメダルにメモリ、そしてISコアや無人機の技術が手に入るチャンスでもある。特に各国が実際に保有しているISコアの数は、『ミレニアム』と取引した所為で公表している保有数よりもずっと少ない。つまり消費したISコアの不足分を秘密裏に補う事が出来る」

 

……なるほど、ISコアを生産できない連中からすれば、ある所から引っ張った方が手っ取り早いか。

 

「更に“メモリを使う無人機IS”の存在を知れば、メモリやメダルを人間に使わせないように考える奴も出てくるだろう。無人機ならメモリの毒素の影響を受けないから、人間と違って『直挿し』でも問題なく使用出来る上に、暴走するリスクも無い。それに機械は人間を裏切らない」

 

「……それって将来的に機械の反乱が起こるんじゃないか?」

 

「確か『ターミネーター』だったか? そうなるまでにはまだまだ時間が掛かるだろうが……ISの無人機化は将来実現するだろうし、それが軍事に利用されればISの“女にしか使えない”と言う根幹が覆される。パイロットが女どころか、人間を乗せる必要が無いからな。

逆に言えばメモリやメダルでISを強化すると言う事は、今の女尊男卑社会をより確固なモノにする要因となりかねない」

 

以前、束が言っていたように、ISは基本的に“人が使う事”を前提としたモノなので、無人機ISは有人機に比べてスペックが劣るのだが、それでも世界各国でISの無人化が研究されている。

各国では「絶対防御が絶対ではない」とか、「か弱い女を戦場に向かわせない為」とか、それらしい理由を挙げているが、「ISが女にしか使えない兵器であると言う、今の女尊男卑の社会の根幹を崩す」と言う事も、無人機の研究を進めている理由の一つだ……と、少佐から聞いた覚えがある。

 

「束の無人機の技術が発表されれば、今の女尊男卑の社会は変わると思うか?」

 

「そうだな……とりあえず無人機ISを使う男と、有人機を使う女の戦争になるんじゃないか? そうでなくとも今回の事件をきっかけに、世界各国で無人機派と有人機派が明確な形で生まれるだろうな」

 

……この世界の情勢なら充分に有り得そうな展開だな。束は「ほっといても10年もすれば無人機は出来る」って言っていた事を考えれば、この世界でIS大戦以上の大戦争が起こるのは時間の問題なのかも知れん。

 

「しかし、俺達以外でシュラウドの刺客に勝てる奴がそんなに居るのか?」

 

「可能性がある奴は何人か居る。アリーシャ・ジョセスターフの他に、ISを『第二形態移行【セカンド・シフト】』させた奴とかな」

 

つまりアンクから見て、シュラウドの刺客に勝てる奴は殆ど居ないと。かく言う俺も「用意した罠が相手を仕留めるには不十分で、食い破られた挙句餌だけ掠め盗られる」と言うのが、その皮算用のオチではないだろうかと思う。

 

「それに、このままだといずれどんな手を使ってでもメダルやメモリを奪取しようって奴等がIS学園にやって来る。俺達がココに……いや、世に出る前から、このIS学園は世界中の国々から狙われていて、常にセキュリティの隙が出来るのを虎視眈々と狙っている連中が潜伏している事は知っているな?」

 

「ああ。アメリカの『名も無き兵たち【アンネイムド】』とかな。ちょっと前まで『ミレニアム』も監視していたろ」

 

「そうだな。ちなみにその数は去年の今頃と比べて5倍近くに膨れ上がっている」

 

何せここは世界中から専用機持ちが集まる場所だ。そして専用機となったISは、文字通り“操縦者専用の機体”なので、操縦者が一番力を引き出すことが出来る。だからデータの回収も含め、「専用機持ちのISは操縦者ごと奪う」のが常なのだとか。

 

「明らかに俺達と一夏の所為だろうな」

 

「ああ。最悪の場合、俺達の身内を複数人掻っ攫って人質に取り、見せしめに一人を殺すか犯すかなんて事も奴等は平気でやる。俺達が元テロリストで、自分達は国家の正義を背負っているからな。酷い事になるぞ」

 

「俺達の報復がな」

 

「ああ、第三次世界大戦の幕が上がる」

 

「そうなる前に幾つかのメダルやメモリをIS学園の外に出した方が、俺達もIS学園も安全だと?」

 

「安全と言うより、リスクを分散できると言った方が良い。メダルやメモリがここ以外にも有るとなれば、俺達を狙うよりもそちらを狙った方が、メダルやメモリの奪取率は高いと思う所も必ず出てくる」

 

「メジャーな釣り場よりも、マイナーな所の方が釣れるって感じだな。……ちょっと待て、もしかしてお前、この為にコアメダルを奪取したのか?」

 

「さてな。しかし、IS学園の外に出すにしても、さっきも言った様に連中はお前を舐めている。もっともらしい事を言って、メモリもメダルも出来るだけ安く、あわよくばタダで手に入れようとするだろう。

それでも、今までの事から“気前良く金を払えば言う事を聞く”と思われているフシが有るし、金を吹っ掛けても“取れる所で取りに来た”としか思われんだろう。そこでどうやって高値で売るかだが……」

 

「『名も無き兵たち【アンネイムド】』を筆頭とした、IS学園を狙って潜伏している連中の情報を全部暴露するのはどうだ? 連中もシュラウドと同じ様な……いや、それ以上に性質の悪い事を考えているんだろ?」

 

何せ復讐ではなく自国の利益の為に、ひいては自分達が美味い汁をチューチュー吸う為に、俺達がココに来る前から、IS学園を襲撃しようと常日頃から企んでいるのだ。

 

実際のところIS委員会も各国の上層部も、「勝利者こそ正義」と「殺してでも奪い取る」を地で行くタイプの人間の集まりであり、束と『オーズ』を手に入れる為に世界中からIS操縦者を掻き集め、俺達を完全に攻め滅ぼす満々だった連中だ。

その上、表向きでは各国で協力体制をとっているが、裏では互いに出し抜こうと暗闘を繰り広げているのだから余計に始末に終えない。

 

そうでなくとも、機械の体による『永遠の命』と、ISをも打ち倒す『全てを凌駕する力』を欲しがり、その為に祖国を裏切って、少佐の口車に自ら望んで乗り込み、『ミレニアム』を強力に手助けした人間がうようよしている。用心を怠るべきではない。

 

自分の欲望を満たす為なら、ISが何機ぶっ壊れようが、自分達の優秀な部下が何人死のうが、そんな事はお構いなしの悪党。

 

利益と恐怖以外では梃子でも動かない、度し難く救えない馬鹿共。

 

それが裏側の世界から見た、この世界を回している人間達の正体だ。

 

「……そうだな、その方が良い。『IS学園を狙う包帯女を探す過程で見つけた』とか言って、一人残らず全ての情報を洗い出し、『IS学園を狙う不貞の輩』として、誰が見ても分かりやすい報告をしてやろう。そいつ等もIS学園の平和を乱す悪党と言えるからな」

 

「……ちょっと待て、『その方が良い』って言ったが、お前は何を考えてたんだ?」

 

「脅しだ。一例を上げるなら、愛人の子供を夫の子供だと騙し、何食わぬ顔で夫に愛人の子供を育てさせるカッコウみたいな女幹部の所業なんかを押さえてある。『万物の霊長』なんて言うが、人間も動物もそう大して変わらんな」

 

「カッコウって……」

 

鳥のお前がそう言うと……まあ、仰る通りの所業だが。

 

しかし、シュラウドにせよ各国上層部にせよ、傍から見れば両者に一体何の違いがあるのだろう? 彼等はシュラウドの行動を悪と見なす一方で、自分達の行動は正義だと主張するだろう。ある意味、復讐心で動くシュラウドよりも悪質であると思うのは俺だけだろうか?

 

「……一体何時になったら、世界は平和になるんだろうな?」

 

「ハッ。お前は分かっていた筈だぞ? 世界は平和に出来るようなものじゃないし、世界から血生臭い争いが無くなる事は絶対に無い。『世界の平和を守る』とか、『地球の未来を救う』とか、そんな事は絶対に出来ないとお前は理解している。そうだろう?」

 

「………」

 

「だがそれで良いんだ。人間なんて生き物はな、せいぜい明日のパンツとやらの心配する位の生き方が丁度いい。自分の身内が守れれば、それで充分上等だ」

 

アンクから『明日のパンツ』と言う言葉が出るのは驚きだが、何となくコマンダー・ドーパントの相模広志が、照井に対して「悪と戦うものは常に、自分の大切な者を危険に晒すリスクを負っている」と語った事を髣髴とさせる台詞だ。

 

「とりあえず、俺はどうすれば良い?」

 

「そうだな……とりあえず、報告の時に少し演出するか」

 

「あん?」

 

 

●●●

 

 

画して、アンク主導の演出を実行した訳なのだが……。

 

「……おい、アンク」

 

『何だ?』

 

「この表情維持すんのスッゲェツライ」

 

『黙れ。ついでに雰囲気も真似て話せ。試しに何か言ってみろ』

 

「……コミケの歓喜を無限に味わう為に。次のコミケの為に。次の次のコミケの為に」

 

『……まあ良いだろう。そのまま狂ってるフリをしろ。そして俺達に非は無いと、お前達が悪いのだと、堂々と胸を張って言え』

 

「……諸君! 朝が来た! 無敵の敗残兵諸君! 無敗の新兵諸君! 満願成就の朝が来た! コミケの朝にようこそ!!」

 

『もうそれでいいから黙れ』

 

アンクの言う演出とは「今回の事件を報告する間、ずっと少佐の真似をする事」だった。白いスーツを着用し、髪型を少佐と同じに整えたが、伊達眼鏡は掛けなかった。しかし、少佐の表情をずっとキープしながら話すのは結構辛い。あの人何時もこんな感じだったのか?

 

そんな俺を途中で合流した織斑先生は、俺を見て怪訝な顔をしていたが気にしない事にした。ちなみにこの時、爆発に巻き込まれて気絶し、保健室に担ぎ込まれた一夏が、ちゃんと意識を取り戻した事を知った。良かった。

 

そして『無人機IS・京水襲撃事件』の報告会が始まった。

 

報告は中国の一部勢力が凰を唆した所から始まり、提出した『オーズ VS 怪人ドラゴンガール』から『GKB50 VS 巨大怪獣ガメラ』までの戦闘映像を見て、報告会に参加していた連中はガタキリバの固有能力を知って戦慄していた。

 

しかし、凰が意識不明になったのがイエスタデイメモリの能力の仕業だと知った途端、連中はやたらと元気になって、嬉しそうに俺をネチネチと攻撃……いや、口撃してきやがった。俺は「24時間以内に凰は必ず目覚める」と予言したが、それもニヤニヤと嫌らしい目で受け流していた。

そして「IS学園は教育機関であり、預かった生徒から負傷者が出たのなら、その身内への報告が遅れれば誠意が問われる」……と言ったのだが、連中は「24時間以内に確実に目覚めるのだから、連絡の必要は無い」と、ニヤニヤしながら言ってきた。

 

つまりは俺の予言を言質として、俺を徹底的に攻撃するつもりなのだろう。逆に言えば、凰が改心する訳が無いとも思っている訳だ。ある意味で信用されている。

 

だが此方もやられてばかりはいられない。「IS学園を狙う不届き者」として、日本に潜伏している各国の特殊部隊と、その構成メンバーの抹消した筈の個人情報等、その全てを白日の下に晒してやった。中にはIS委員会が絡んでいる部隊もあり、それぞれが独自に、そして秘密裏に進めていた『IS学園襲撃計画』は、全てが水の泡と化した。連中は最初よりも青ざめ、汗だくの顔や引きつった表情を見せていた。

 

最後に、今回回収したコアメダルとガイアメモリについて説明し、希望する買い取り金額を提示して報告を終えた。もっともらしい理由は言われなかった。

 

一応「今回の報告に上がった組織は迅速に処置をする」と言っていたが、恐らくまた懲りずにやって来るだろう。熱帯夜に人間の生き血を啜る蚊の様に。

 

「あ~疲れた。帰ってアイス食って寝よう」

 

「相変わらず安上がりな奴だな」

 

「待てシュレディンガー。回収したメダルとメモリを委員会に売り渡すなど、一体何を考えている?」

 

とっとと帰ろうとした俺達を呼び止めた織斑先生は、俺達に厳しい視線を向けている。その目は怒りと非難を感じさせる。

 

「……流石に吹っ掛け過ぎましたかね?」

 

「違う! 自分達が何をしたのは本当に分かっているのか!? あれは世界に不要な争いを齎すだけだぞ!!」

 

「……ハッ。10年前に世界中に467個の不要な争いの種をばら撒く切っ掛けを作った、テロリストの片割れとは思えん台詞だな」

 

「なッ!」

 

激昂する織斑先生に対し、アンクは失望の眼差しを送っている。「何を間抜けな事を言っているんだコイツは」って感じで。

 

「世界に不要な争いを齎す? なるほど、確かにそうかもな。世界を回す人間達は常に不要な争いを求め、争いに勝利する為の力を渇望しているからな。だから世界はどう足掻いても平和にならないし、俺達がここに来るずっと前から、この学園が常に危険に晒されている訳だ。

だが今回の報告会で危険分子も不満分子も一通り排除出来たし、メダルとメモリを学園の外に出した事で、学園を狙う敵の数は前よりも少なくなる。それはお前達教師にとっても良い事だろう?」

 

「その代わりに国家間で、ガイアメモリやコアメダルの争奪戦が起こる! 最悪それが戦争の引き金になるかも知れんのだぞ! お前達はそれでも良いのか!」

 

「力を求めて自国民を見捨てるような馬鹿の始末は、同じタイプの馬鹿にやってもらうのが一番良い。出来るなら墓穴から葬儀の準備までな。それとも……メモリやメダルじゃなくて、ISコアなら良かったのか? ああ、条約で取引は禁止だったか?」

 

「ISコアも駄目に決まっているだろう! 私ならISコアを回収しても、学園の外に出す事は絶対にしない!」

 

「……『嘗て世界を大混乱させたからこそ、これ以上世界を混乱させてはいけない』と考えているのか?」

 

「ッッ!!」

 

「それとも『元世界最強の自分なら、どんな敵が何人来ても、誰一人犠牲者を出す事なく、学園の一つや二つ守れる』なんて思っているのか?

そうだとすればお前は餓鬼だ。10年前から何一つ変わっていない、痩せっぽっちの糞餓鬼だ。命を賭けようが賭けまいが、人間なんざ人一人守る事さえままならない。それが真理だ」

 

織斑先生を糞餓鬼呼ばわりか。果たして、ここまで織斑先生にズゲズゲと物を言った人間……いや、存在が居ただろうか?

 

「それにIS委員会からの馬夏の身柄引き渡し要求に応じない所為で、連中のストレスは相当に溜まっているぞ? その内『白式』ごと馬夏を拉致する為に、IS学園に特殊部隊を強行突入させるなんて事もしただろうな。3年前の二の舞にならなきゃ良いなぁ、オイ?」

 

「! おい、アン――」

 

流石に最後の台詞は不味いと思い、アンクを止めようと思ったが遅かった。織斑先生は鳥の姿のアンクを鷲掴みにしていた。

 

「貴様ぁ……もう一度言ってみろッ!!」

 

「ああ、この際だからはっきりと言ってやる。お前は全てを利用し、全てを成す事の出来る人間なんかじゃあない。お前もまた、誰かの掌の上で転がされるちっぽけな存在でしかない」

 

「どう言う意味だ!?」

 

「俺は3年前に起こった馬夏の誘拐事件の真実を、あの事件が一体何を目的としたものだったのかを知っている。いや、最近知ったと言うべきだな」

 

「何ッ!?」

 

「……バイラスメモリの力か?」

 

「ああ。ちょっと調べモノをした時にな」

 

拘束されているにも関らず、不敵な笑みを浮かべているアンクの姿が、何となく『シュヴァルツェア・ツヴァイク』のAICに拘束された時を彷彿とさせる。あの時もアンクはガチガチに拘束されていたが、口先一つで束に協力を取り付けた。

 

「教えろアンクッ! あの事件の真相をッ!」

 

「……ゴクロー。誘拐犯が人質を確保したとして、次に一体何をすると思う?」

 

「? そうだな……人を誘拐するのはソイツに用があるか、人質として交渉のカードに使う為だろ? それなら、まず人質を取った事を交渉したい相手に伝えて、それから交渉に入るな」

 

「そうだ。だが馬夏の誘拐事件の時、馬夏を人質に取った『亡国機業』は、何処の誰とも一切交渉していないんだ」

 

何処の誰とも一切交渉していない? と、言う事は……。

 

「…………! なるほど、とんだ茶番だな」

 

「茶番!? 何だ! 何が言いたい!」

 

「人質を目的として攫った誘拐事件ならな、普通なら交渉に入った段階で誘拐された事を知るんだよ。『お前の子供を預かった』ってな。

そして第二回モンド・グロッソの開催中に、日本人の馬夏を誘拐したなら、その交渉相手はどう考えても日本政府かお前だ。だが誘拐した『亡国機業』は何処にも要求する事は無く、単に馬夏を閉じ込めただけ。しかも周りには馬夏以外一人も居なかった。そうだろう?」

 

「ああそうだ! だからそれが何だと言うんだ!!」

 

「まだ分からないのか? 『亡国機業』が何処とも誰とも全く交渉をしていないのに、ドイツ軍はどうして馬夏が誘拐された事と、その監禁場所を知っていたんだ?

なんで馬夏が誘拐された事をお前に知らせたのが、日本人じゃなくてドイツ人だったのか、お前は何も疑問に思わなかったのか?

それに、馬夏の情報をキャッチしたドイツ軍独自の情報網ってヤツが、一体どんなものなのかお前は知っているのか?」

 

「…………! ま……まさか……」

 

「そうだ。3年前の馬夏の誘拐事件は『亡国機業』が計画したモノじゃない。ドイツ軍が計画したモノだ。ドイツ軍が当時開発中だった“ある兵器”の完成に必要な、お前のデータを手に入れる為のな」

 

嘘だ。有り得ない。そんな馬鹿な。信じられない。信じたくない。織斑先生の表情は、そんな感情と驚愕が綯い交ぜになった様に歪んだ。

 

「恩は相手によって労力以上の対価を引き出せる。お前はウサギ女と違って比較的普通で常識的だ。つまり恩を仇で返すような人間じゃあない。しかも唯一の肉親のピンチだ。売った恩以上の対価を引き出す事も不可能じゃ無い。

しかもお前は基本的に、何でも自分一人の力で事を成そうとするタイプの人間だ。両親に捨てられた後で、親類縁者を含めた何者の手も借りようとせずに、たった一人で馬夏を育て上げようとした事からもそれが分かる。

そんな他人を極力頼らない人間が、唯一と言っていい肉親のピンチを知って、見ず知らずの他人の手で救出されるのを大人しく待っている訳がない。それが出来る力を持っているなら尚更だ。そして案の定、お前は決勝戦を棄権して馬夏の救出に向かった」

 

「で、でたらめを言うな! 私に恩を売りたいなら、誘拐犯を自分達の手で捕らえるなりして、自分達が一夏を救出した事にすれば良い! 私に情報を教えて、私に救出させる必要など無い!」

 

「お前は馬鹿か? そんなのお前が邪魔だからに決まってるだろ?」

 

小馬鹿にした声色で語るアンクの言葉に、織斑先生はずっと翻弄されている。その姿は普段の凛とした佇まいとはまるで正反対で、うろたえ方が半端ではない。

 

「じゃ、邪魔!?」

 

「日本を含めた全ての国々が、『白騎士事件』の犯人はウサギ女とお前だと分かっていた。それが分かっていながら、何故日本がお前達に手を出さなかったと思う?

それは一国を上回る“個の力”を持つお前達を下手に刺激すれば、何をしでかすか分からない危険性があったから。そしてそれ以上に絶大な……いや、極大の利用価値がお前達二人にあったからだ。

他国の研究者達が試行錯誤しながら必死こいてISを理解しようと努力し、ISの適正有りと判断されたIS操縦者が右往左往しながら訓練する中、お前達はISの全てを知っていた。ISの能力全てを分かった上で鍛えているとなれば、それは一線を画する強さになるに決まっている。

世界中の国がISを軍事に利用しようと考えていた中で、そんな勝ち馬をわざわざ封殺する馬鹿が居ると思うか? むしろ乗るだろ? その勝ち馬に」

 

確かにアンクの言う通り、織斑先生の強さはそんな感じだ。束も織斑先生は理解レベルからして他人とは違うから、モンド・グロッソ総合優勝は当然の結果だと言っていた。

 

「挙句の果てに、そんな奴が“一撃でISを戦闘不能に出来る武器”まで手に入れたとなれば、鬼に金棒どころの話じゃあない。

日本は“ISが生まれた国”って事で大きなアドバンテージを持っていたが、それが“世界最強のIS操縦者”まで手に入れた。それが一体どれだけの恩恵を日本に与えたか、お前は分かっているのか?

その上、たった二人で世界を震撼させたテロリスト共が、社会的地位と名誉を順調に積み上げていくんだ。それが面白いと思わない国が、人間が、この世界に一体どれだけいるのか考えた事があるのか?」

 

おいアンク、その台詞は俺達にも当てはまるぞ。まあ、箱入りだった俺はテロをやった覚えは無いけどな。

IS大戦? アレは正当防衛だ。相手が闘志と鉄火を持って闘争を始めた以上、その場においては話し合いによる解決はほぼ不可能だ。

 

「第一回モンド・グロッソの後で、『ミレニアム』は教材として『暮桜』を奪取する為に事件を起こした訳だが、アレだってお前から反則染みた武器を取り上げる正当な理由を作り、お前の戦闘能力を大幅に落とす事も、スポンサーの目的の一つだった。

もっとも、量産型の『打鉄』でも世界最強になれる位に強かったのは計算外だったみたいだがな」

 

確かに第二回モンド・グロッソでは、織斑先生は専用機の『暮桜』ではなく量産型の『打鉄』を使い、それで決勝戦まで順当に勝ち進んだ。ちなみに『打鉄』は『暮桜』を模して造られた第二世代ISらしいので、織斑先生もかなり使いやすかったのではないかと思う。

 

「私を……排除する為……?」

 

「そうだ。そもそもモンド・グロッソは、国家間における擬似的なISを使った戦争の縮図だ。大会二連覇なんて伝説を作られたら堪ったモンじゃない。そうなれば日本にまた三年の間、“世界最強のIS操縦者を抱える国家”に、つまり“世界最強の武力を持った国家”と言う玉座に座らせる事になる」

 

そう言えば第二回モンド・グロッソで織斑先生が決勝を棄権した所為で、日本は評価を落したんだったな。それでも一夏をまんまと誘拐された不祥事を、世界中に公開するよりずっとマシだったのだろう。

 

それと思い出したが、第三回モンド・グロッソは今年に開催される筈だ。今年は一体どうなるのだろう?

 

「こうしてお前はドイツ軍の思い通りに。いや、期待以上に動いた。お前は馬夏の誘拐事件のショックから現役を引退。日本は他国とそう変わらないレベルのIS操縦者を国家代表にする事になった。

誘拐事件の際に詳しい情報を提供し、自分の為に協力してくれたと思いこんだドイツ軍に大恩を感じ、結果的にドイツ軍の兵器開発に必要なデータを提供した。

その上、ドイツ軍が使えないと切り捨てた強化人間を、ドイツ最強の実力者にすると言う思わぬ収穫まであったからな」

 

最後はラウラの事だな。もしも再会したならクロエを紹介したい所だが、クロエが嫌がらなければいいなぁ……。

 

「嘘だ……信じられない……」

 

「本当の悪党はな、相手に自分が利用されている事を気付かせないモンだ。下手をすれば、自分が利用されている事に一生気が付かないまま、その一生を終える人間さえいる。

大体、どうしてお前が全てを利用し、全てを成す側だと言い切れる? 自分だけが違うと思うのは、おこがましいとは思わないのか?」

 

織斑先生は膝から崩れ落ち、アンクが織斑先生から解放された。織斑先生は今にもファントムが生まれそうな顔をしている。或いはビャッコインベスの正体を知った葛葉紘汰か。

 

「……違う……違うッ! 私は……私はッッ!!」

 

「……アンク、織斑先生のデータを使って作られた“ある兵器”ってなんだ?」

 

「第零世代である『白騎士』のISコアは、研究材料として『ミレニアム』の手に渡る前に、世界中の様々な研究機関を経由している。そこで『白騎士』のISコアに眠っている『白騎士の意思』の存在に気が付いていたのが、『ミレニアム』だけとは限らない」

 

「『白騎士の意思』?」

 

「そうだ。メダルの塊の俺が言うもの何だが、それはウサギ女に初期化されたはずのISコアの深奥に眠る、ウサギ女でも消すことが出来ない不滅の存在。言わば『魂』とでも言うべきモノだ」

 

その言葉にうつむいていた織斑先生が顔を上げた。その目はこれでもかと言わんばかりに見開かれている。束でも消せない存在ね……もはや『意志』と言うより、『残留思念』と言った方が良いような様な気がしないでもない。

 

「『魂』に関しては、俺はお前にも有ると思うが?」

 

「……兎に角だ。『ミレニアム』が『白騎士』と『暮桜』を教材にして『仮面ライダー』を造ろうとした様に、ドイツ軍は『白騎士の意思』を教材にして、織斑千冬を模倣し量産する事を目的とした計画を立てた。その為には織斑千冬の詳細データがどうしても必要だったって訳だ」

 

織斑先生の量産。もしかしたら、マドカもそんな計画の一端から生まれたのだろうか? その事をマドカから聞くつもりは無いが、ちょっと考えてしまう。

 

「それで織斑先生を教官として招いた……」

 

「そうだ。正直な所、ドイツ軍は教官としての成果は最初から期待していなかった。ドイツ軍にとって、織斑千冬の詳細かつ最新のデータが、自然な形で入手出来ればそれで良かったからだ。

もっとも、そこまでして完成した兵器は、今ではIS条約で研究・開発・使用の全てが禁止されてしまっているがな」

 

「……そ、それはまさか……『VTシステム』か?」

 

「その通りだ、元『白騎士』。『ヴァルキリー・トレース・システム』の正体は、『白騎士の意思』を模倣して出来た、お前の粗悪なコピー商品だ」

 

なるほど。『VTシステム』はそうやって完成したのか。

 

しかしそうなれば、『白式』は「『VTシステム』のオリジナルと言うべきモノが搭載されているIS」と考えて良いのだろうか? 確か『VTシステム』は操縦者の肉体を乗っ取る類の兵器だったハズ。それなら一夏が『白式』を使い続ければ、その『白騎士の意思』とやらに乗っ取られる危険性があるのか? 某オサレ漫画の主人公みたいに『虚化』する感じで。

 

「おのれ……おのれぇ……ッッ!!」

 

絶望していた織斑先生だが、その表情は次第に底知れぬ怒りと悔しさを感じさせるモノになりつつあった。

無理も無いか。当時の織斑先生が味わった突然の絶望も、肉親を失う恐怖も、肉親が無事だった安堵も、確かに感じていた感謝も、全てが自分を利用する為の『作為』だったと知ったのだから。IS条約の禁止兵器の開発に、他ならぬ自分が利用されていたのだから。

 

「……織斑先生、ドイツ軍が憎いですか?」

 

「これがっ……憎まずにいられると思うのかっ!?」

 

織斑先生は腸の煮えくり返る思いだろう。今にも激情に突き動かされて暴走しそうな感じだ。その気持ちは理解できる。しかし……。

 

「……それでも悪い事ばかりじゃないんですけどね?」

 

「は!? 何を言って――」

 

「少なくとも絶望のどん底に居たラウラは、織斑先生のお蔭で救われた。『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』で、その事まで否定しないで下さい。織斑先生にそれを否定されたら、『お前を強くするべきじゃなかった』なんて言われたら、きっとラウラは絶望する」

 

狂気の科学によって生み出された、戦う為だけの生物兵器。人ではなく物として扱われていたラウラにとって、人として接してくれた織斑先生は救いになった筈だ。俺も人ではなく物として見られていた部分があるから良く分かる。

 

「……それで納得しろと言うのか? お前は……」

 

「違います。ただ、ラウラと過ごした時間を否定しないで欲しいんです。ラウラの中で、織斑先生は『最後の希望』になっていると思いますから」

 

「……最後の希望だと?」

 

「はい、きっと」

 

「……それでも……私は……」

 

そう、ラウラは何も悪くないのだ。それにラウラがドイツ軍の闇を知っていたとは思い難い。兵隊にわざわざ都合の悪い事を教える事は無いからだ。

俺も『ミレニアム』が『白騎士』と『暮桜』のISコアを回収していた事とか、今言った『白騎士の意思』とか……、とにかく知らないことが結構ある。まだ他にも何か重要な秘密がある様な気がする。

 

「それとアンク。俺は仮に『白騎士事件』が起こらなかったとしても、世界は今と同じ様になっていたんじゃないかと思う」

 

「ほう? その理由は?」

 

「ISが発表された時にISが認められなかったのは、ISを理解するだけの知識と知恵、それに科学技術が発達していなかったからだ。逆に言えばそれらが時間と共に発達して理解の水準が上がれば、ISがどんなモノなのかを理解できるようになる。

ロケットからミサイルが生まれた様に、遅かれ早かれISを軍事に利用できると考える人間が、この世界に何時か必ず現れたと思う」

 

「……ふん。そうかもな」

 

「お前の言う通り、確かに『白騎士事件』は数えるべき罪だとは思うが、その後に起こった世界の変化や戦争については……俺は二人の罪では無いと思う」

 

「……私達はやる必要の無い事をやった。そう言いたいのか?」

 

「結果が出るのを焦りすぎたんですよ。束も。織斑先生も。それとも、どうしても結果が出るのを焦る必要があったのですか?」

 

「……ッッ」

 

織斑先生の目を見て質問する俺に対し、織斑先生は目を背けた。どうやら何か焦る理由があったようだが……それが何なのかを教えてくれそうにない。俺も無理に聞きだそうとは思わないが。

 

「おい、ヤバイぞ。ウサギ女がドイツに戦争を仕掛けようとしている」

 

「……はあ!?」

 

「な、何!?」

 

「どうやらこの会話を盗聴していたみたいだな。『パワーダイザー』や『サイドバッシャー』を使って、本気でドイツを滅ぼすつもりらしい」

 

「暢気な事を言ってる場合か!?」

 

「え!? ちょ、しゅ、シュレディンガー!?」

 

俺は織斑先生の手を引いて、『NEVER』の拠点まで全力で走った。そして、ドイツに地獄を創ろうとしている束を止める為、織斑先生と二人がかりで束の説得を試みた。

説得は長時間に及び、最終的に「俺が『VTシステム』に関連する施設の破壊に協力する」事を約束して、渋々ながらも束は譲歩してくれた。

 

そして、その為には万全の準備と、綿密な計画が必要だ。ついでに多少の時間稼ぎを含めて、施設の襲撃に必要なモノを束に造ってもらおう。

 

そして束の説得が終わった時、IS学園は朝を迎えていた。俺も織斑先生も全く寝ていない。とりあえず当番になっていた束の朝飯を作って、織斑先生と三人で朝飯を食べてから寮の自室へと向かった。

 

超疲れた。そして超眠い。

 




きょうの妖怪大辞典

ゴクニャン
 土地所か異世界に縛られた、別世界の『シュレディンガーの猫(偽)』。車に撥ね飛ばされて死ねば丁度良かったが、コイツはクマ(動物)に頭を吹っ飛ばされて死んだ。死後も特撮ヲタで、アニヲタで、声優ヲタで、ミレニアムの准尉。ドルヲタでもなければ、ケロン軍の二等兵でもない。
 アイドルに微塵も興味が無い理由は、田村ゆかり、佐倉綾音、日笠陽子、斉藤千和、ゆかな……と、非常に豪華な声が揃っている環境に居るから。「下手なアイドルの歌声聞くよりも、カラオケで皆の歌声聞いた方が良い」と酒の席で語る。

アンべぇ
 鳥・右腕・怪人・●の四つの姿にトランスフォームする妖怪軍師。どっかのしったかぶり妖怪と異なり、マジで何でも知っている。オリジナルの右腕は妖怪パッド(偽)持っているが、この世界ではアンべぇ自身が検索ツールであり、今やスカイネットに近づきつつあるバイラスメモリの能力を駆使し、世界中からあらゆるネタを集めて、物事を有利に進める交渉術(脅迫・恫喝を含む)の使い手。
 必殺技は『ネタバレフィナーレ』。アンべぇの性格も相まって、バレリーナのレジェンド妖怪よりも厄介な性能と凶悪な破壊力を発揮し、相手は『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』を見る前に『dビデオスペシャル 仮面ライダー4号』を見てしまったが如く、地獄を楽しむ羽目になってしまう。

TABAピョン
宇宙に行く事を夢見るウサギ(偽)。決して『ウサビッチ』では無い。造りたいのはロケットではなく『フォーゼドライバー』と『アストロスイッチ』。後は月に『ラビットハッチ』を建設したい。どうにかして『コアスイッチ』を見つけたい所だが……。
 今回、ゴクニャンとアンべぇとチフユニャンの会話を盗ちょ……もとい、聞いてしまったがために、「ちーちゃん騙した。よし、ベルリンを焼こう!」って感じで、ベイダーモードを通り越してエンペラー……もとい、エンペレスモードに突入。世界は第三次……もとい、大惨事世界大戦の危機に陥ったが、ゴクニャンとチフユニャンによって未然に防がれた。

チフユニャン
 ある意味アーカードポジで、ちょっとロシュオが混ざっている黒猫。別に浮遊したりデブになったりはしていない。色々利用されまくって大変だったけど、アラブ人に掘られなかっただけマシだと思う。
 原作・アニメ共に熱狂的で狂信的な教え子が多いが、ラウラ以外に「織斑教官のお蔭で成績が上がった」と言う様なドイツ軍人が登場せず、IS学園では「織斑先生のお蔭で専用機持ち、或いは代表候補生になれた」と言う様な生徒も登場しない為、教育能力に関しては高いのか低いのかイマイチ良く分からない。
名選手が名監督になるとは限らないが、ラウラや一夏から判断する限り、その教えについて行ける人間や、その教えがしっくりとハマる人間なら……と言う事なのだろうか?

……&解説

白騎士事件
 原作開始時に千冬が24歳で、束と小学校から同じクラスだと言う事を考えると、原作の10年前に『白騎士事件』が起こったなら、当時二人は14歳(中学二年生)。一夏と箒は5歳と言う事になる。……が、原作2巻では「千冬が高校生の頃にISが発表され、千冬は以降数年間IS開発に協力していた」とある。……あるぇ?

第一回モンド・グロッソ
 この世界では6年前に設定。当時千冬と束は18歳で、一夏と箒は9歳(小学四年生)。5963は1歳。原作二巻の箒の独白によると、この辺りで「束がISを発表した為に、箒が転校を余儀なくされる」事となり、箒が束を憎む日々が始まる。そうなるとISが世に出たのは6年前になるのだが……。
 まあ、この世界ではISが発表されたのは10年前に設定しているので問題無い。また束の失踪した時期を、作者はこの辺りに設定している。箒が転校した理由も、ISの発表ではなく束の失踪とした。
 そして『ミレニアム』が『仮面ライダー』の教材として、『暮桜』奪取を目的とした事件を起こすのも、5963が少佐達を秋葉原に連れて行ったのも、この第一回モンド・グロッソが終わってからのお話。

第二回モンド・グロッソ & 織斑一夏誘拐事件
 時系列は3年前に設定。当時の千冬は21歳で、一夏は12歳(中学一年生)。5963は4歳。作者の独自解釈や独自設定が多分に含まれている二大イベント。作中でアンクが語った通り、この世界では『暮桜』が『ミレニアム』によって回収されている為、千冬がこの大会で使用したのは量産機の『打鉄』。
 悪の秘密結社と正義(笑)のスポンサーの手によって、千冬は前大会で猛威を振るったチート能力『零落白夜』を失ったが、某オサレ漫画の天に立つヨン様の様に「素でも有り得ない位に強い」人間離れした圧倒的な強さを見せ付ける結果に。あかん、まだ不用心や。
 一夏の誘拐に関しては『亡国機業』の仕業ではあるが、それ以外の事がイマイチ分からない……が、原作で起こった事件の大半がマッチポンプである事を考えると、「この事件もマッチポンプなのではないか」と、思わずにはいられない。
 実はドイツ軍は『亡国機業』の前に『ミレニアム』に一夏の誘拐を依頼していた。少佐は断ったが、『ミレニアム』がこの事件に全く何も関与していない訳では無い。
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