DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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誰がなんと言おうとも! 俺は俺の書きたい事を書く! 書いてみせる!

そんな感じで書いたら、今まででも屈指のカオス回に……。

きっと『喧嘩商売』描いてる木多康昭先生の漫画『幕張』をブッ○オフ読んだ影響だと思われます。



第22話 JUST LIVE MORE

事件から一夜明けた今日、IS学園では「宇宙人が地球を侵略しにIS学園にやってきた」、「ゴクロー・シュレディンガーは分身の術が使える」と言う二つの噂が流れていた。

 

「シュレりん、シュレりん。分身の術ってどうやって使うの~?」

 

「ゆ、UFOの破片とかどうしたんですか?」

 

朝から体を疲労が漲る中、教室に入った途端に本音と簪がやってきて、噂の真相を確かめにやって来た。本音は何時も通りだが、簪は期待に満ちた目をしている。

 

「……本音、簪。噂についてもう少し詳しく」

 

二人から聞いて見た所、第三アリーナ上空から高速回転しながら黒い物体を飛ばしてIS学園を攻撃するUFOと、それを容赦なく攻撃して最後にはUFOを投げ飛ばした複数の『オーズ』の姿を、昨日の放課後に野外にいた生徒の何人かが目撃していた。

その中にスマホやケータイで撮影した生徒が居たらしく、画質はそんなに良くないがしっかりとUFOと複数の『オーズ』が写っており、それが噂の発端になっているのだとか。

 

そして案の定と言って良いのか、一組の教室に黛先輩がやって来た。本音と簪と一緒に居る俺を見つけた瞬間、ボイスレコーダー片手に此方に近づいてきた。

 

「ねぇねぇシュレディンガー君! 本当に宇宙人がIS学園を侵略しに来たの!? 昨日目撃されたUFOもそうだけど、織斑君に聞いたら『犯人は人間じゃない、黄色い宇宙人みたいな奴だった』って言ってたし、シュレディンガー君も意識不明の凰さんも宇宙人と戦ったの!?」

 

黄色い宇宙人ねぇ。マドカの戦闘映像を見た所、京水の真の姿はルナ・ドーパントそのものだった。しかし、ルナ・ドーパントの事を知らない人間から見たら、宇宙人だと思っても仕方無いだろう。さてどうしたモノか……。

 

「……そうですね、凰は……」

 

「凰さんは?」

 

「迫り来る宇宙人をちぎっては投げちぎっては投げ、その姿はまさに中国無双と言った有様で、UFOから無数に放たれる超化学兵器『腐ったピータン』を片っ端から真っ二つにし、最終的に全身に爆弾を括りつけて専用機のIS諸共、UFOを木っ端微塵に吹き飛ばしたのです」

 

『………………オイ』

 

「お~~! 凄いね、りんりん!」

 

「ちょ、超化学兵器『腐ったピータン』!」

 

「……いや、それ本当の話?」

 

「本当です。俺がガタキリバコンボの能力で造った無数の分身達は、その時の凰の必殺剣の巻き添えになって全員死にました」

 

「……うん。分身の術の事は分かったけど……嘘だよね?」

 

「本当です」

 

「いや、だから……」

 

「凄く本当です」

 

「えっと……」

 

「本当に本当です」

 

「あの、ちょっと近い……」

 

「本当です」

 

「だ、だからこれ以上は……」

 

「すご~~~~~く本当です」

 

「ッッ!! わ、わ、わ、分かった! もう分かったから~~~!」

 

「……それじゃあ、お願いしますね~?」

 

黛先輩は逃げ出した。俺はアーカードの旦那みたいに「エロ光線かなんか」は出せないので、力技で言いくるめた。後は適当に黛先輩がなんとかするだろう。

 

「……あの、ゴクローさん? 本当の所はどうなんですの?」

 

「……だから凰は、火星からやってきたゴキブリ人間『テラじょうじ』を円月殺法で片っ端から真っ二つに……」

 

「お~~! やるね、りんりん!」

 

「ご、ゴキブリ人間『テラじょうじ』!!」

 

「さっきと言っている事が違いますわよ!?」

 

俺の支離滅裂な話に対して、暢気に反応する本音と、奇天烈な単語に驚愕する簪。そしてセシリアの常識的なツッコミが入った所で、織斑先生が教室に入ってきた為、一先ずお開きとなった。

実際の所、凰がメダルを取り込んで変身した怪人体の事も、UFOの正体であるガメラもどきの暴走体の正体が凰だと言う事も表沙汰になっていない。そうでなければこんなUFO&宇宙人騒動など生まれやしない。

 

この際だから『凰鈴音・中国無双伝説』をIS学園におっ立ててしまおう。

 

……そう思ったのだが、昼休みに楯無と虚から怒られた。何でも生徒が撮影した『オーズVS巨大UFO in IS学園』の動画がネットにアップされていて、「その動画の火消しだけでも大変だったのに、変な噂を流さないで!」と言われた。誤魔化すには丁度いいと思ったのになぁ……。

 

結局、昨日の事件はこの日の内に「とある研究所の試作機のISと、新型兵器が暴走したものであり、凰はそれに巻き込まれた」と言う事になった。これはもしかしたら、楯無がIS委員会から受けた仕事だったのかもしれない。

 

しかし、それでもUFO肯定派の生徒による「宇宙人の侵略説」が消える事は無かった。

 

ちなみに楯無はUFO否定派だが、簪はUFO肯定派だそうで「今度『未確認飛行物体の記憶』が秘められた“究極のレアメモリ”と称される『ユーフォーメモリ』の力を見せてあげよう」と言ったら、簪は物凄く目をキラキラさせて、今まで見たことも無い様なステキな笑顔を向けてくれた。

 

キャワイイ。そしてザマミロ楯無。

 

 

●●●

 

 

そんなこんなで本日の授業が全て終わった。俺は小鳥状態のアンクを左肩に乗せ、眠り姫の居る保健室に向かう。

 

「俺は目覚めていないと思うが……お前はどうだ?」

 

「俺は目覚めていると思う。上手く説明出来ないんだが、イエスタデイのマキシマムが以前と違う感じだった」

 

「手ごたえがあったって事か?」

 

「いや、マキシマムを叩き込む前から上手く行くような気がしていた」

 

なんと言うか、何故か成功する感じがしていた。感覚的には『エターナルRX』になった時に使った、エターナルメモリのマキシマムを使った時に近い。

 

「しかし、七色に光る剣の波動で斬り裂いて眠り姫の呪いを解こうとする白騎士の御伽噺なんて聞いたことが無い。しかも呪いを掛けた怪人メダル男と白騎士が同一人物ときてやがる」

 

「ああ、絵本にしても売れそうにないな」

 

イエスタデイの無限ループは内部からの脱出方法は一つに限られているが、エクストリームなら外部から干渉して脱出させる事が可能だ。そこで24時間が経過する前に、『プリズムブレイク』で凰に掛けたイエスタデイの能力を斬りに行く。あれから24時間が経過するまで、残り53分と言った所だ。

ただ、マドカに使った時の事を考えると『プリズムブレイク』と一緒に『洋服破壊【ドレス・ブレイク】』も発生する可能性が高い。まあ正直それで役得と言うか、目の保養になるかと言えば……。

 

「おい待て、お前が何を考えているのか、なんとなく分かるぞ。だからそれ以上は止めろ。またあの妖怪の相手をするのはゴメンだからな」

 

……アレか。確かにアレは大変だったな。

 

 

 

それは今から一週間程前の事。寮の部屋でクロエと二人でのんびりしていた時に、目に涙を溜めた箒が部屋に飛び込んできた。

 

「ゴ、ゴクロー! クロエ! 助けてくれぇえええええええええええええええッッ!!」

 

「ぶるぁあああああああああああああああああああっっ!!」

 

部屋に入るなり涙目で抱きついてきた箒に何事かと思ったが、その直後に部屋に突撃してきた魔物の様な形相のマドカを見て、何か尋常では無い何かが起こった事は間違いないと判断した。

 

「追い詰めたぞ巨乳め……。さあ、おいてけ! 乳おいてけ! 巨乳だろ! 巨乳なんだろ! 巨乳なんだろお前ぇえええええええええええええええええええっっ!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

「アンクゥウウウウウウウウウウ!!」

 

「チッ! オラァッッ!!」

 

マドカは『妖怪首置いてけ』ならぬ、『妖怪乳置いてけ』と化していた。そんな箒に向かって飛び掛ろうとしたマドカは、怪人体となったアンクに拘束された。

 

「離せアンク! 箒は悪だ! 巨乳の悪意に染まったエロリストだ!」

 

「何を言っているのかさっぱり分からん! いいから落ち着け!」

 

「離せぇええええええええええええええええええええええええええっっ!!」

 

「……おい箒。一体何があった?」

 

「じ、実は……」

 

アンクに押さえつけられながらも、凄まじい抵抗を見せるマドカ。一体何かマドカをここまで激昂させたのか? その理由は俺をマドカの盾にし、小動物の様に震える箒が、おずおずと語り始めた。

 

何でも箒が部屋を掃除した際に、マドカのベッドの下からマドカが秘密裏に購入したであろう、水流系バストアップマッサージ機を発見。これは不味いと元に戻そうとした所で、タイミング悪くマドカが部屋に帰ってきてしまった。

 

「えっと……これはだな……」

 

「………」

 

箒とマドカの二人の間に気まずい空気が流れる中、箒はあろう事か巨乳のマイナス要素を語る事で、なんとかこの場を誤魔化そうとした。

 

「そ、そもそもだ。巨乳って言うのはそんなに良いものじゃないんだ。肩が凝るし、大きく動くたびに揺れて邪魔になるし、何よりも痛い」

 

「………」

 

「それにサイズの合う下着も服も少ない。しかも胸を強調するような服ばかりで、男の視線も女の視線も嫌でも集めてしまうんだ」

 

「………」

 

しかし箒は気付かなかった。それはマドカには自慢にしか聞こえない事を。

 

「そ、それとだ。冷水よりも温水を使った方が良いぞ。心臓麻痺を起こすからな」

 

その瞬間、マドカの中にあった決定的なナニカが、ブチンと音を立てて切れた。

 

「……な…………せ……」

 

「な、なんだ?」

 

「そんなに嫌なら寄越せぇええええええええええええええッッ!!」

 

マドカは激怒した。バッタのコアメダルを狙って執拗にオーズの下半身を攻撃するウヴァさんの様に、マドカは箒の胸を狙って執拗に攻撃を繰り出した。怒りに任せている所為で大分大雑把な攻撃だが、まともに喰らえば無事では済まない。それでもISを展開しないあたり、ゴクローの教育がしっかりと生きている。

 

「箒ぃいいいいいいいいいいいいいっっ!! そのスイカを渡せぇええええええええええええッッ!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

もがれる。

 

そう思った箒は、妖怪化したマドカに恐れ慄きながらも、両手でしっかりと胸を防御しつつ、ゴクローとクロエに助けを求めて恥も外聞も無く全力で逃走した。マドカと仲の良いこの二人なら、暴走状態のマドカを何とかしてくれると思っての行動である。

 

こうして箒はマドカの猛烈な追撃をかわしつつ、何とかこの部屋に辿りつく事に成功したのである。

 

「……と言う訳なんだ」

 

「そうですか……私にはその気持ちがよく分かります」

 

「クロエ! 分かってくれるのか!?」

 

「ええ、そのメロンを毟ってしまいたい気持ちが……」

 

「え……?」

 

ふらぁっと殺気を一切感じさせない自然な動きで、箒の胸にゆっくりと両手を伸ばすクロエ。その金色の瞳からはハイライトが消えている。クロエは『妖怪ボタン毟り』ならぬ、『妖怪巨乳毟り』へと変貌を遂げようとしていた。

 

「よ~~しよしよしよしよしよしよしよし。落ち着け~~落ち着け~~、いい子だな~~クロエは~~」

 

「? 私は何時でも良い子ですよ、兄様?」

 

「うおおおおおおおおおおおお!! 離せぇえええええええええええええええ!!」

 

「ゴクロー! コッチもそろそろ限界だ!」

 

箒の胸にクロエの両手が触れる寸での所でクロエを後ろから捕らえ、猛獣を宥める様に撫でてみる。クロエはコテンと首を傾げたが、目が完全に死んでいる。

一方のマドカは、怪人体のアンクの拘束から逃れようと必死に抵抗し、マドカに殴られる度にアンクの体からセルメダルが零れる。生身で暴走するマドカに対し、怪人体のアンクがIS大戦の時よりも苦戦している様な気がするのは気のせいだろうか?

 

取り敢えず箒にこの部屋を脱出するよう合図を送ると、箒はコクコクと高速で頷いた後、大急ぎで部屋を脱出した。

 

箒が立ち去った後、俺が解決すべき問題はこの二人を落ち着かせる事だ。今の所この空間に、二人を刺激する巨乳はいない。念の為にこの部屋から脱出も侵入もできない様に封印を施し、精神を落ち着ける為に二人の頭を撫で回し、バーホーテンのココアを淹れ、一番高い茶菓子を引っ張り出して、二人で話し合わせてみる。

 

多少は落ち着いたのか、マドカとクロエはココアと茶菓子を遠慮なくモリモリ食べながら、持たざる者の痛みについて話し合っていた。しかし時間経過に伴って「束様と一緒にお風呂に入った時、何度?ぎ取ってしまいたいと思った事か」とか、「姉さんのを毟って自分の胸に移植しよう」とか、二人とも話す内容が段々とエスカレートしている。

 

「『貧乳はステータスだ』等と言う様な考えはキレイ事だ……貧乳の痛みを知らぬ者の戯言だ。もしも私の痛みを否定するような巨乳がいるなら……そいつ等の大切な巨乳を片っ端からもぎ取ってやる! そうすれば理解するだろう……この私の憎しみを!」

 

挙句の果てにマドカは、血走った目でゲンドウポーズを取りながらそんな事を言い出した。しかも理解するのは痛みではなく、憎しみになっている。

そんな「『禁断の果実』を手当たり次第にもぐ」と宣言するマドカに恐怖を覚えるが、マドカが「憎悪するもの」と「目指すもの」が同一であると言う矛盾に、果たしてマドカは気付いているのだろうか?

 

「……ゴクロー、お前はどんな胸が好きなんだ?」

 

「大きさに関わらず張りと形の良い胸……って何を言わせる」

 

「そうか。俺の好きな胸はハト胸だ」

 

怪人から小鳥の姿に戻ったアンクの質問に、何気なく普通に答えてしまった。しかしアンクの好みは食料的な意味なのだろうか? もしかしたら、アンクの核であるタカコアメダルに組み込まれたタカの因子が、アンクにそう思わせるのかも知れない。

 

「……ならば、将来垂れるだけの巨乳には未来は無いな」

 

「そうですね」

 

「おい。二人とも今なんて言った?」

 

「気にするな。何でもない」

 

「ええ。何でもありませんよ、兄様」

 

そう答える二人は凄みのある笑みを浮かべていた。それに実を言うと二人の会話はちゃんと聞こえている。俺は何かとんでもない爆弾を抱えたような気がするが、二人とも何で自分の成長性を全く考えていないのか? まだまだ勝負は分からないだろうに。

 

そして、この日を境にクロエとマドカ、そして何故か簪に変化が現れ始めた。

 

「なんかさ~、こないだまではクーちゃんって~、束さんのおっぱい見ると涙目になって『う~う~』って言いながら、ぺたぺた自分のおっぱい触ったりしてたんだけどさ~。最近はなんか可哀想なモノを見る様な目って言うか、憐れむ様な微笑を浮かべて見てくるんだよね~。何でかな~?」

 

「姉さんもか? 私もこの間マドカと一緒にシャワーを浴びた時、マドカは私の胸を見る他の女子と違って、何故か勝利を確信した様な目をしていたんだ」

 

「奇遇ね。私の簪ちゃんも私と一緒にお風呂に入った時、なんだかとっても優しい目をしていた気がするわ」

 

「……アンク」

 

「お前の所為だ。間違いない」

 

「………」

 

 

 

以上、回想終了。妹分が黒くなってきた事に不安と悲しみを感じている間に、凰が寝ている保健室へ到着。ノックをするが反応が無い。入ってみると凰はベッドで寝ていた。

 

「寝ているな」

 

「……そうだな。さっさと終わらせろ」

 

「残念だが、そうするか」

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

『エターナルRX』へと変身すると同時に、左手に『プリズムビッカー』を出現させる。凰を『昨日』と言う名の監獄から解き放つ為に、プリズムメモリが柄に差込まれたプリズムソードをビッカーシールドから引き抜いた。

 

「コレで決まりだ」

 

『PRISM・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「へッ!?」

 

「ん?」

 

「チッ!」

 

マドカの時と同じ様に斬撃を飛ばそうと考え、プリズムソードを振り下ろそうとした刹那、寝ているはずの凰が目を開けてコッチを見た。それを見たアンクは盛大に舌打ちをした。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ! あ、アンタ一体何してんのよ!」

 

「ふん。狸寝入りなんてしてやがったお前が悪い」

 

「……アンク。お前、もしかして気がついてたのか?」

 

「ああ。タカの目で『イエスタデイの刻印』が無い事は分かっていた」

 

重要な事をワザと黙っていたアンクは、凰のリアクションを見て「満足した」と言わんばかりの表情をしている。言いたい事はあるが、取り敢えずビビリまくっている凰に、俺が何をしようとしていたのかを説明すると、凰は納得してくれた。

 

「……とりあえず、何をしようとしていたのかは理解したわ。だから変身を解いて話しましょう? シュール過ぎるわ」

 

「ああ……」

 

そう言えば『エターナルRX』のままで説明していた。しかし、保健室で寝ているチャイナ娘に、必殺剣を振り下ろそうとする『エターナルRX』。傍目から見れば、止めを刺しに来た様にしか見えない。

 

「その……ゴメン。アンタには色々迷惑掛けたわね……。本当に、ごめんなさい……」

 

「…………おい。なんか雰囲気って言うか、キャラが変わってないか?」

 

凰は心底済まなそうな顔で俺達に頭を下げた。声色からも反省と後悔の感情が感じられる。以前の凰は「何をしても自分が正しい」と言った感じだったので、そのギャップにアンクが面食らっている。

 

「元ネタがそう言う能力だからな。自分自身を見つめ直して、本当の自分の事を認めた時に解ける無限ループ。そしてその無限ループから自力で脱出したと言う事は、本当の自分が見えたって事だ」

 

「うん……あたしね、今の女尊男卑の社会の世界が凄く気に入ってたの。それで女尊男卑の社会って、ISが登場したお蔭で出来たじゃない? だからかな、専用機持ちの代表候補生になると、大体の事は何でも出来ちゃうの。どんなに無茶な事でもお願い……ううん、ISを展開して脅かせば、やって欲しい事は全部叶えてくれるの」

 

「………」

 

「最強の兵器を向けて脅されればそれが当然だ。言う事を聞かなければ、自分に何をしでかすか分からないからな」

 

「そうね。それでもその時は、自分が酷い事をしてるって自覚が全然無かったわ。自分の倍以上も歳を取った大人が、情けない顔してヘコヘコ頭を下げるのを見ると気分が良かったの。

元々『歳を取っているだけで偉そうにしてる大人』とか、『男ってだけで偉そうにしている子供』とか大嫌いだったから、尚更それが快感だった。とっても居心地が良かった。

それであたしは強くなったつもりだったけど……結局、あたしもそいつ等とやってる事は同じだった。ただ、お互いの立場が逆転しただけ。ただそれだけだったのよ」

 

「………」

 

「間抜けな話だな。何時の間にか自分が一番なりたくないモノに、気が付いたらなっていたって訳だ」

 

「そうね。間抜けな話よ。確かにあたしは『どこか勘違いした馬鹿なライオン』だったってワケ。笑い話にもなら無いわ」

 

凰の独白を俺はただ黙って聞いていたが、アンクは容赦なく突っ込んでいた。凰はそんなアンクの突っ込みに対して言い訳する事も無く、それを素直に受け入れていた。

 

「……ねぇ、何であたしにその……ああしたの?」

 

「あん?」

 

「何て言うかさ……あたしって聞く耳持たない感じじゃない? だからその……『一発殴って分からせる』みたいな考えとか無かった訳? 『コンボ』とか言うのを使えば、あたしを倒すのは簡単だったと思うんだけど?」

 

「……一度『力』ってものを味わったら、人はその魅力に取り憑かれる。仮にそうやってお前から強引に『力』を取り上げたとして、それでお前は納得するか?」

 

「多分……いえ、絶対にしないと思うわ」

 

「だろう? そうなったらお前は『力』を求めて彷徨い続ける。挙句の果てにろくでもない外法で『力』を手に入れて、最後は無残に『初瀬る』羽目になる」

 

「? 『初瀬る』って何?」

 

「チェリーなチンピラにアメリカンクラッカーで始末されるんだ」

 

「……よく分かんないケド、壮絶で禄でもない結末を迎えるって事でいいのかしら?」

 

「ああ」

 

それから凰がガイアメモリを入手した経緯を聞いたが、シュラウドは『555』の花形さんみたいに、強化アイテムを天井から落したらしい。俺の方も俺の出自に加えて、シュラウドについて凰に説明した。

 

「……シュラウドは何であたしを選んだのかしら」

 

「そりゃあお前が、ガイアメモリの力を疑いもせずに軽々しく使う様な馬鹿で、やたらと好戦的な性格だからに決まってるだろ」

 

「………」

 

「或いは、強大な力を手に入れて驕った人間が、『力に驕ったIS操縦者』が、知らず知らずの内に自滅する様が見たかったのかも知れない」

 

「自分の息子を殺したのと同じ様な奴をか? 俺としてはそうなった方が、世界のIS事情も少しは良くなると思うんだがな?」

 

何気にアンクが一番酷い。それは『DEATH NOTE』の夜神月と同じ思考では無かろうか。せめて一度位は更生するチャンスを与えてやって欲しい。

 

「まあ、親の愛情ってヤツは諸刃の剣だって事だ。深ければ深い程に危うい」

 

「親の愛情……ね」

 

「それと、お前の両親の連絡先を調べてある。お前は『新型ISと新型兵器の暴走に巻き込まれた』って事になっているから、それで不安になって声が聞きたくなったとか、お前が連絡を入れる一応の理由はあるかな?」

 

「え……?」

 

凰に両親の連絡先が記されたメモを渡すと、凰は戸惑いながらもメモを受け取った。凰が目覚めなかった場合、俺から親権のある母親に連絡する事になっていた。父親に連絡する必要は無いらしいのだが、俺は二人に連絡する必要があると思って調べておいた。

 

失敗ではなく、成功した場合も想定して。

 

「え、いや、でも」

 

「やっぱ、話したくないか?」

 

「ち、違うわよ! ただ、なんて話したら良いか……」

 

ふむ……どうやら話したくない訳では無いらしい。調べた所、凰は離婚してから父親とは音信不通で、一年以上会っていないらしい。

 

「小難しく考えなくても良いだろ。『あたしは大丈夫』とか、『久し振りだけど、元気にしてる?』とか、『ご飯ちゃんと食べてる?』とか、そんなんで良いと思うぞ? 親子なんだし、そんな他愛も無い会話から展開すれば良いだろ?」

 

「……うん」

 

そんな凰の視線は、父親の連絡先に固定されている。きっと、別れた父親の事も好きなのだろう。

 

「あっ、コレ、ありがとうね。ゴクロー」

 

「おっ。初めて名前で呼んだな。凰」

 

「……鈴よ。これからは鈴で良いわ」

 

「そうか。それじゃあな、鈴」

 

「ええ……またね」

 

鈴は初めて手を振って、俺にさよならをした。

 

さあ、これで漸く寝られる。

 

寮の部屋に着いた途端、俺は泥の様に眠った。

 

 

●●●

 

 

シュラウドが起こした一連の事件の影響は、時間の経過に伴ってそれなりに大きいものになっていた。

 

鈴がイエスタデイの能力から自力で抜け出した為、IS委員会も各国も俺達を叩けなくなった。しかも、本当に改心しているのだから、驚いている事だろう。正直「欲張らなければ叩けたのでは?」と思わないでもない。まあ、改心させる能力なんて、言っても信じられないか。

 

事件の報告会で俺達をIS学園から排除しようとした中国政府の一部勢力が、鈴を唆して俺達を襲わせていた事と、中国のIS操縦者の選考基準や教育方針等、中国側にも責任や問題点がある事をIS委員会や各国上層部に知られた事から、中国政府は鈴に全ての責任を押し付けて済ませる事が出来なくなった。

結局、鈴の処分は減給の他に、「大破させた専用機を本国で修理する」と言う名目でISを没収されたりしたが、それでも代表候補生のままであり、中国へ強制送還される事もなく、IS学園へ残留する事になった。鈴を担当していた楊代表候補管理官にも何らかの処罰が下ったらしい。

 

また中国のISコアの保有数が、IS委員会によって減らされる事になった。これは正直、他国への見せしめの意味が大きいだろう。しかし他国にしてみれば、中国のISコアの保有数が減った分、ISコアが自国に再分配される可能性が出てくる。

他国が中国を叩く理由の一つがコレだ。勿論自国に分配される保障は何処にも無いので、これから再配分の為の裏工作が、IS委員会と各国の間で行なわれる事になるだろう。

 

そしてIS委員会が提示したコアメダル3枚とガイアメモリ2本の買い取り金額は、俺達が提示した金額よりも桁が一つ多かった。コレは「実は自分達もテロリストと何ら変わらない事をしている」と世間様にバラされれば困るので、口止め料が加算されているとの事。下衆共が。

 

また、『オーズ』の公式戦における禁止項目に『ガタキリバコンボの使用禁止』と言うルールが追加された。もっとも、ガタキリバコンボの起動に必要なコストの関係から、公式戦では絶対に使えないのだが、それは黙っておこう。

 

 

 

そして、IS学園UFO襲来事件から一週間後に行なわれた『クラス対抗戦』は、鈴が専用機を失った上に、メモリの後遺症によって休養を余儀なくされた為、一学年では鈴を抜いた、セシリア、マドカ、簪の三つ巴となった。

 

試合内容としては、セシリアの操縦技術は大きく進歩したものの、『ブルー・ティアーズ』の上位互換と言える『青騎士』とのスペック差は如何ともし難く、セシリアはマドカに敗れてしまった。

決勝戦はマドカと簪の一騎討ちとなり、簪はマルチロックオンシステムを使用したミサイル攻撃の他に、荷電粒子砲を拡散型と収束型を随時切り替えて発射する等、敗れはしたものの通常形態の『青騎士』を相手に、予想以上に善戦した。

 

こうして一学年ではマドカが優勝。二学年ではフォルテ・サファイア先輩、三学年ではダリル・ケイシー先輩と、上級生は番狂わせも無く何時も通りの結果だった。

 

そして、各学年の優勝者には『オーズ』と戦う権利が与えられるのだが、それを使用したのはマドカだけ。残り二人の先輩方は棄権するとの事で、後日マドカと戦う事になった。

 

こうして行なわれた俺とマドカの試合は、最初からナスカメモリを使った本気モードの『青騎士』を駆るマドカと、最終的に「ブラカワニコンボ+ナスカメモリ」の組み合わせを使用する『オーズ』と言う、ナスカメモリを使った目にも止まらぬ高速接近戦が展開された。

 

ここで問題となるのはナスカメモリの持つ「ドライバーを使用していても、操縦者に負担の掛かる上位メモリである」と言うデメリット。

それに対してブラカワニコンボは、全身を流れる生体強化物質『ソーマ・ヴェノム』によって、傷やダメージを一瞬で回復して再生する固有能力を備えているが、『ソーマ・ヴェノム』は過回復を引き起こすと言う危険性があり、「短時間で終わらせるか、適度にダメージを負わないと、体がグズグズになって死ぬ」と、アンクが恐ろしいデメリットを言っていた。

 

つまり、「使えば常に体に負担を与えるメモリ」と、「体にダメージを与える必要があるコンボ」。つまり、この二つを組み合わせれば、安定したメモリとメダルの運用が可能になると言う事だ。

これもまた原作『W』における、『財団X』のガイアメモリとコアメダルに関する見解を証明する一つの形だろう。ちゅーか、『コンボ』を使う時はメダルとメモリの色を統一すれば、なんとなく上手くいくような気がしないでもない。

 

それにより『オーズ』と『青騎士』の戦いは、例えるならスピードでは互角だが、連続使用が可能なクロックアップシステムを搭載しているカブト系ライダーと、連続使用が不可能なファイズ・アクセルフォームと言った所だろうか。

 

そこで俺は『青騎士』のナスカメモリによる活動限界を狙い、その瞬間をメダジャリバーで一閃。ナスカ文明の剣士に蛇使いのインド人が勝利すると言う、ビジュアル的になんとも言えない幕引きとなった。

 

『青騎士』が解除されて「体が動かない」と倒れたまま言うマドカを、何時ぞやの楯無みたいに姫抱きして運んだが、マドカから「ぐへへへへ」とか聞いてはいけない笑い声が聞こえてきた。まあ、気のせいだろう。多分。

 

「しかし良く頑張った。ご褒美に何か欲しいものとかあるか?」

 

「!……な、何でも良いのか!?」

 

「ウム。さあ、この大首領様に何でも言ってみんしゃい」

 

「(大首領?)そ、それなら、今度の週末にバイクで何処か遠くに出かけないか?」

 

「ツーリングか。それでいいのか?」

 

「ああ」

 

次の日曜日、マドカと二人で『ハードボイルダー』に乗ってツーリングに出かけた。途中で運転を交代したり、道中のドライブインで名物料理を食べて、道の駅でちょっと休憩したりして、行ける所まで『ハードボイルダー』を走らせた。ただそれだけだったのだが、マドカの欲望は満たされたようだ。

 

 

 

そして『VTシステム』の元ネタにして、『白式』の抱える爆弾と言うべきモノ。『白騎士の意思』について、俺、アンク、束、織斑先生の四人で話し合った。

 

「束、『白騎士の意思』を『白式』から取り除く事はできないのか?」

 

「ごめん、ムリ。だって束さんが『白式』を造った時だって、ISコアの中にそんな存在がいるなんて全然分からなかったんだもん。アンくんに言われてもう一回調べ直してみたけど、『白騎士の意思』が何処にいるのかも全然分からないよ」

 

「そうなると……『白騎士の意思』を無くするには、『白式』のISコアごと完全に破壊するしかないのか?」

 

「そうだな。或いは『白騎士の意思』が表に出て来た時に、完全にそれを消し去るかだ」

 

「完全な破壊か……」

 

「一夏にどう説明します? 『白式』の代わりに『黒柘榴』を渡しますか?」

 

「……いや、一夏と『白式』については私が責任を持って対処する。お前達は気にするな」

 

そう言うと織斑先生は足早に立ち去った。あんな事を言っているが、本当に大丈夫なんだろうか。何となく織斑先生が、『鎧武』のメロンニーサンみたいになりそうで不安だ。

 

「あんな事を言ってるが……どう思う?」

 

「ん~~、ちーちゃんの言う通り、いっくんの事はちーちゃんに任せれば良いんじゃないかな?」

 

「ま、お手並み拝見ってトコだな」

 

束は織斑先生を信じているようだが、アンクは完全に高みの見物を決め込んでいる。何だか構図がユグドラシルっぽくなっている気がする。やっぱり不安だ。

 

 

 

そして、コレが『NEVER』にとって、もっとも大きな変化であると言えるだろう。

 

鈴が『NEVER』の一員となったのだ。

 

あれから鈴は改心し、織斑先生や一夏、そして千歳先輩にも、ちゃんと頭を下げて謝った。俺との会話においても、以前と違って暴言と暴力が振るわれる事は無くなった。ちなみに鈴はUFO否定派だそうだ。

 

ただ、中国代表候補生の王は鈴との一戦でISに対して恐怖心が根付いてしまい、代表候補生を辞めて中国に帰ってしまった。鈴は王にもちゃんと謝ったものの、その事をずっと後悔している。

 

そんな鈴は、事件から10日が経過した頃、自分の家族の事を俺に語り始めた。

 

「あのね。あたしのお父さんとお母さんって、日本で中華料理のお店やってたの。でも、実は経営があまり上手くいってなくて、赤字が続いたりして、なんとかギリギリでやってる状態だったんだって。

それで借金してでも続けるか、それともお店を畳んじゃうかってお母さんと話になって、それがきっかけで二人の仲が悪くなっちゃって離婚したんだって」

 

「口ぶりから察するに、お前は離婚の理由を知らなかったのか?」

 

「……うん。あんなに仲が良かったお父さんとお母さんが別れる理由なんて、わざわざ知りたくも無かったしね。

それでお父さんは、離婚してから借金して新しくお店やってるんだって。結構儲かってるみたい。ちなみにお店の名前は『鈴音』らしいわ」

 

「スゲー愛されてるな」

 

「うん……でもね、もしもあたしがあの時に『借金なんてへっちゃら』とか、『ずっと三人で一緒に暮らしたい』って言ってたら、お父さんもお母さんも離婚しないで済んだのかなって……」

 

「と言うと?」

 

「お父さんとお母さんに電話した次の日にね、向こうで二人が電話で話し合って、それで今度の土曜日に一緒の飛行機に乗って、あたしに会いに日本に来るんだって。宿泊先のホテルでも同じ部屋に泊まるんだって言ってたわ」

 

「……もしかしたら両親のヨリが戻りそうだと?」

 

「うん。『子は鎹』って事かしらね?」

 

どうやら鈴のかけた一本の電話が、離れ離れになった両親の仲を取り持つ事になったらしい。その原因を考えると非常に複雑だが。

 

「それと……あたしね? 代表候補生を辞めようと思ってんのよね」

 

「……ん? 鈴は『ブリュンヒルデ』になる夢を諦めるのか?」

 

「まあね。元々、『ブリュンヒルデ』になりたかった理由が理由だし、あたしは権力とか特権とか、そーゆー社会的な力ってヤツを持っちゃいけないんだって、身に染みて分かったしね」

 

「……代表候補生の椅子には未練は無いと?」

 

「無いわ。でも、せっかく一年間頑張ったし、代表候補生を辞めたら、多分中国に帰らなきゃいけないし……それでどうしようか悩んでるの」

 

「ほう……それで?」

 

「そ、それでさ、あたしって結構引く手数多なのよ。今も色んな国から『専用機持ちの代表候補生にならないか~』とか、色んな企業から『テストパイロットにならないか~』とか打診されてるのよね」

 

……何か、色々と邪悪な欲望が見え隠れしている感じのするヘッドハンティングだな。禄でもない事を考えている感じ。鈴の才能はアンクも認めている程だし。

 

「ほう……それで?」

 

「そ、それでよ? 今までよりもずっと良い条件の所もあるんだけど、全部断ろうと思う訳ね?」

 

「ほう……それで?」

 

「だ、だから……その……あ、あんたから見て、あたしって、どう?」

 

「まあ……嫌いじゃないな」

 

俺は鈴からこの返事に対する何らかのツッコミを期待したが、鈴からは何のツッコミも無かった。

 

「そ、それでさ……あたし……『NEVER』に……入りたいんだけど……」

 

「……は?」

 

「や、やっぱり、嫌? あ、あたしみたいな厄介者なんて……」

 

「いや、それを言うなら俺は世界レベルの厄介者だぞ? 何せ『世界を破壊する悪魔』だからな」

 

「うっ……そ、そんな風に自嘲されると困るわよ……」

 

「悪い……。だが真面目な話、どうして『NEVER』に入りたいんだ?」

 

ちなみに現在『NEVER』は総勢6人の会社で、非常にアットホームな雰囲気の職場である。月給は日本円にして手取り12万円。主な収入源は、ドライバーやメダルとメモリの玩具だ。

 

「あたしね? ずっと見返りが欲しくて、守ろうとしてたの。でも『守る』って言うのは……誰かを傷つけて自分の強さを証明したり、誰かに見せ付けたりする様な事じゃ無いって、思ったの。

それで……あたしも “変身”がしたいの。感情に流されて、力に溺れたりしない。力じゃなくて、心が強い自分になりたいの。だから、あんたの所で働けばそうなれるのかなって……」

 

ふむ……。俺が見る限り鈴の目からは、時々『NEVER』の入社について打診に来る三年や二年の先輩方や一学年の同級生から感じる、「誰よりも強い力を求めて」と言う様な思惑は感じられない。アレは本気でウザイ。

 

しかし鈴は言葉の通り、「本気で変わりたい」と思っているように見える。

 

「……とりあえず他の皆と相談してみる。それから試験をして採用するかどうか決める。それで良いか?」

 

「お、お願い……します」

 

鈴は深々と頭を下げて陳情した。

 

その夜。鈴を『NEVER』へ入社させるか否か。俺、アンク、束、クロエ、箒、マドカの6人で話し合うことになった。

 

「何であんな、ちんちくりんを雇う必要があるのさ? アンくんも何で止めなかったの?」

 

「あ? そりゃあ、中華娘の性格はアレだが才能はピカイチだからなぁ。その性格が改善されたならアレは都合の良い鉄砲玉……もとい、使い勝手の良い駒……いや、戦闘員が手に入る良いチャンスだと思ってな」

 

アンクは正直だった。そして言い直す必要は全く無かった。

 

「む~~。ゴッくんはどうして?」

 

「明らかに以前とは目の色が違うし、本気で自分を変えたいって思っていると感じたからだ。それにこのまま放って置くと、鈴と鈴の両親がエライ目に遭いかねない」

 

「? 何でちんちくりんがエライ目に遭うのさ?」

 

「政治家って人種のバックにはあらゆる職業の組織がある。農水産・土木・貿易・医療・教育・重工業・ハイテク・宗教・エトセトラ・エトセトラ……。

それらの力を持った組織が、自分達の権利や主張を守ったり、より強くしたりする為に、政治家どもと複雑に絡み合っている。表側の組織は元より、裏側の組織もそうだ。所謂、癒着ってヤツだな」

 

「金と利権で繋がったお友達と言うヤツだな?」

 

「正解だ、偉いぞマドカ。そんな腐った奴等が実際に国家を回している訳だが、ソイツ等が今まで散々やりたい放題で色々とやらかした鈴が、代表候補生を辞めて『はい、お終い』で済ませる訳が無い。鈴が幸せを掴もうとしているなら尚更だ。言ってみれば“嫌がらせ”や“憂さ晴らし”の類だが、奴等は確実にそれをやる」

 

「自業自得だがな」

 

「つまり、身内にして凰を守ると言う事か?」

 

「正解だ、偉いぞ箒。このまま放って置いた場合、凰家は様々な工作によって再び一家離散の憂き目に遭い、鈴は脂ギッシュな小汚いキモデブオヤジ達に弄ばれ、ヌッチャヌッチャのグッチョグッチョにされるNTR快楽堕ちエンドのルートに突入する。

ちなみにこのまま代表候補生を続けたとしても、将来的には権力者の愛人と言う名の性玩具ルートだ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ。それは本当に有り得る話なのか?」

 

下ネタをガンガンぶち込んだ会話の内容に、箒がかなり引いている。「UFOの時と同じで嘘なんじゃないのか?」と思っているようだが、全て本当の話だ。実際にそうなった人間が何人か確認されている。

 

「信じられないのも無理は無いが事実だ。実際に今の中国で、権力の椅子に座っている奴の中には、ロリペドで、ショタコンで、鬼畜リョナで、ドSでド変態の、青髭ボーボーの性倒錯者が居る」

 

「まあ、その場合はヤクザな連中を金で利用したりするんだが、それも特に珍しい事では無いな」

 

「そ、そうか。アンクやマドカがそう言うなら、確かにそうなんだろうな」

 

箒はアンクとマドカのお蔭で納得してくれたが、ちょっと例えがキツ過ぎたようだ。もう少しマイルドに表現するとしよう。

 

「しかし、それなら凰が『NEVER』に入社するのを、中国は色々と理由をつけて邪魔しようとするんじゃないか? どう足掻いても凰に嫌がらせをしたいんだろう?」

 

「いや、中華娘にISを与えるには新規のISコアが必要になる。そうなればISの絶対数は自然な形で増える。中華娘が入社してISが渡されたら、上手い事借りパクしようとか考えているだろうな。

量産機の『黒柘榴』はガイアメモリ対応型ではないが、それでも現在のISの科学レベルから見れば、その性能は充分過ぎるモノだしな」

 

「そうなるとさ~。やっぱり、ちんちくりんを採用しなくても良いんじゃないの? 大体、代表候補生を辞めるなんて話自体、嘘なんじゃないの?」

 

「それなら中華娘が入社してから、さっき言った中国政府のドス黒い闇を見せれば良い。実際ココからISを奪取したら、中華娘は用済みだろうしな」

 

「そのネタは『鈴の家族に手を出したら世界中にバラす』って中国政府を脅す時に使えば良いと思うが?」

 

確かにISの保有数を減らされた以上、中国がそんな手段を取ってきてもおかしくは無いとは思うが、鈴がISを奪取して中国に持っていくと言うのは、前の鈴ならまだしも、今の鈴からはちょっと想像できない。

 

「しかし、奴のカッとなればISの武装を生身の人間に使う癖は致命的だぞ。何か考えでもあるのか?」

 

「そうだな……生身の人間に対してISの武装を展開すれば、その瞬間に金盥が頭に振ってくる『O-RENシステム』を組み込んだ『黒柘榴』を鈴に与えて、カッとなったらISを使うかどうか試すのはどうだ? 頭に金盥が落ちてくるから分かりやすいだろ?」

 

「なるほど。文字通り、目に見えて分かる訳か……」

 

「イイね! それなら試験官は束さんにやらせてくれない?」

 

「……そうだな。やってくれるか?」

 

「オッケー、オッケー!」

 

「それと他にも何かアイディアがあったら言ってくれ。俺は他に『点火したライターの炎を24時間守りきる』と言う試験を提案する」

 

「高確率で火事になりますよ、兄様」

 

「そもそも中華娘は相部屋だろうが」

 

情熱的な某イタリアギャングの入団試験は却下された。しかし、クソデブタコ親父の信頼云々の話については、皆が理解を示してくれた。良かった。

 

 

●●●

 

 

「コレもまた人を惑わす力の一つだ。使い方を間違えれば、お前は簡単に滅びへと至る。お前のちっぽけな意志が本物かどうか、この力を持って図らせてもらう」

 

右腕状態のアンクは腕の中から待機状態の『黒柘榴』を取り出し、台本通りの台詞を言った後で『黒柘榴』を鈴に手渡した。そしてアンクから『黒柘榴』を受け取った鈴は、束の待つ地下のガレージに向かった。「何で俺がこんな事を」とぶつくさ言っていたが、ツンデレのアンクはちゃんと仕事をこなしてくれた。

 

「しかし、どんな試験なんだろうな?」

 

「さあな。だがウサギ女の事だ。禄でもない内容だって事は間違いない」

 

俺、クロエ、箒、マドカ、それに飛んできたアンクの5人は、複数のカンドロイドから送られてくる映像を一枚の大型モニターに写し、様々な視点から束が考えた鈴の採用試験の様子を観察する。

試験の内容に関して、アンクは絶対にとんでもない事になると確信しているようで、これもある意味で信頼の成せる業だと思う。

 

そして、いよいよ鈴の運命を掛けた、『NEVER』の入社試験が開始される。

 

『よ、宜しくお願いします!』

 

『うん。ねぇ、ちんちくりん?』

 

『ちっ!? は、はいなんでしょうか?』

 

『中国では「おっぱい大きい人は頭が空っぽだ」って俗説があるらしいけど、ちんちくりんはどう思う?』

 

『わ、私はそんな事は無いと思います……』

 

『それじゃあ、ちんちくりんはおっぱいなんてタダの脂肪の塊だと思う?』

 

『ええっと……』

 

ワザとわがままボディを強調して質問する束に対し、鈴は何とか返答していた。内心「くっ! コレが噂の圧迫面接ってヤツね!」とか思っているかも知れん。

 

それにしても、さっきから乳の事しか話していない。何考えてんだアイツ。

 

『所でさ? 感情に流されないように努力してるって本当?』

 

『は、はい。イライラしたからって、殴ったりするのを辞めるって心に決めたんです』

 

『ふ~~~~~~~~~~~~~~~~ん。それじゃあ、早速努力の成果を見せてもらおうかな?』

 

束の指パッチンと同時に、二人の居るガレージが変形して音楽が流れる。その急展開に鈴は唖然としている。

 

『な、何なんですか!?』

 

『それじゃあ行っくよ~~! らぶりぃ束さんが歌います! 曲はブリーフ&トランクスで「ぺチャパイ」!!』

 

『へっ!?』

 

「「「「「はあっ!?」」」」」

 

頬を引きつらせた鈴の前で束が歌うのは、「ブリーフ&トランクス」の「ぺチャパイ」。ぺチャパイの良い所を、ただひたすらに歌い上げると言うこの曲。ひんぬーの女性に対して歌ったが最後、手酷いしっぺ返しを受ける事間違いなしなこの歌。それが束の高い歌唱力と、無駄に美しい田村ゆかりボイスでカバーされているのだ。曲の音源は恐らくミュージックメモリの中から引き出したのだろう。

 

それにしてもこのウサギ、独特のダンスまで加えて超ノリノリである。

 

『………………』

 

「なんちゅう面してんだ……!」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

束の精神攻撃を青鬼の様な表情で耐える鈴。ただし顔の色はブルーベリーの様な青ではなく、烈火の様な燃える赤……いや紅に染まっている。あまりの形相に、鈴はこのまま憤死するんじゃないかと、見ていて心配になる。アンクはそんな鈴を見てキャラ崩壊した笑顔で爆笑している。外道だ。

 

「……粘るな。私ならとっくの昔に襲い掛かっているぞ」

 

「ええ。只でさえ束様の様なプロポーションを持つ方から、あの様な歌を直に聞かされるのはこれ以上無い屈辱だと言わざるを得ません」

 

「姉さん、貴方はなんて残酷な事を……」

 

「……嫌味か?」

 

「嫌味ですか?」

 

「ち、違うぞ! 断じて違うからな!」

 

一方こちらは、マドカ、クロエ、箒の三人。前よりずっと落ち着いているマドカとクロエだが、弱点と言うものは自分で把握していても他人に言われるとムカつくものである。

そんな二人が妖怪化する気配を感じた箒は必死で弁解し、あの時の二人がよっぽど怖かったのだろう、俺の体にしがみついて俺を二人の盾にしている。

 

「クロエ、『黒柘榴』から送られてくる鈴のバイタルは?」

 

「……心拍数や血圧の上昇等から確実に怒っています。正直見る必要性を全く感じませんが」

 

……そうだな。あれで怒ってなかったら、何が怒ってる事になるのか分からない。

 

『~~♪ イェイ! センキューーーーーッ!!』

 

『フーーッ! ハァーーーーッ! フーーッ! ハァーーーーッ!』

 

束が「ペチャパイ」を歌い終わり、独特なダンスを踊り終わるまで、鈴は必死に耐えた。そして耐え切った。若干過呼吸気味だが、鈴はやり遂げたのだ。

 

『おおっと、これで終わると思ったら大間違いだよ? この後はパルコ・フォルゴレの「チチをもげ」と、宮崎吐夢の「バスト占いのうた」を聞いた後で、ちんちくりんにもその三曲を歌ってもらうんだからね? 勿論、束さんと同じダンスも加えたヤツだよ♪』

 

「やめたげてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

束と違って(失礼だと思うが)鈴には「もげ!」する程のモノは無い! 更によりによって鈴に、とあるカップが好きな男は人格が卑屈過ぎると、鈴に言わせるつもりなのか!?

 

束のあまりに残酷で非道な所業に俺は絶叫した。

 

とは言うものの、諸悪の根源はこの俺の前世の記憶だ。この世界にあんな歌を持ち込み、ミュージックメモリに記憶した過去の自分を殴り飛ばしたくなった。そして束の歌う『チチをもげ』と『バスト占いのうた』は、やはりムカつくほど上手く完璧だった。

 

束は三曲歌って踊りきり、「ふぅ、いい汗かいたぜぇ♪」と言った感じの達成感に満ち溢れた顔で、「う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」と言った感じの凄まじい形相をした鈴にマイクを渡した。

 

鈴はヤケクソな精神状態を全身で表現する様な激しいダンスと共に、束が歌った三曲を全て歌いきった。その三曲を歌う間、鈴は体中から蒸気を発し、青筋を立てた頭の血管が切れ、唇を噛み切った所為で口から血が滴り、力を込めすぎたのか鼻血を噴出し、殺意に溢れた目から血涙を流す。

 

その姿は正に“満身創痍”と呼ぶに相応しいものだった。

 

しかし、それでも尚、鈴はISを一度も展開しなかった。束に襲い掛かりもしなかった。ただひたすらに歌い、ただひたすらに踊り続けたのだ。

 

「……やった。鈴の奴、遂にやり遂げたぞ」

 

「ああ、一度もISを展開しなかった」

 

「人間って面白いな。歌を聞いたり歌ったりするだけでああなるのか」

 

嘗てこれほどの感動を演じた人間が居ただろうか? 過去の自分を乗り越え、新しい自分へと変身を果たした鈴を、何としてでも讃えなければならない。

 

「さあ! 皆で鈴を讃えよう!」

 

「「「オオオーーーーッッ!!」」」

 

「………」

 

約一名……いや、一羽を除いて、そんな使命感に突き動かされた俺達は、束と鈴の居る試験会場に雪崩れ込んだ。ドアを開けたその時、限界を当の昔に迎えていた鈴は、遂に膝から崩れ落ちた。そのまま前のめりに倒れこんだ鈴を、俺は間一髪で抱きとめる事に成功した。

 

「鈴! しっかりしろ!」

 

「ほう。これが『憤死』ってヤツか。初めて見るな」

 

「……違う! 鈴は闘って死んだのだ! 『憤死』ではない! コレは『闘死』だ!」

 

「ああ! ゴクローの言う通りだ! コイツは立派に闘って死んだんだ! コイツは立派な戦士だ!」

 

「か……勝手に、殺さないで……」

 

「! 兄様! まだ息があります!」

 

「ありゃりゃ、やけにしぶといね。もしかして、おっぱいに行く筈だった栄養で、生命力をゴキブリ並みに強化してるのかな? ねえ、箒ちゃん!」

 

「わ、私に質問をするなぁあああああああああああああああああああっっ!!」

 

秩序も何も無い混沌極まる空気の中、鈴は蚊も鳴くような声で俺に語りかけてきた。

 

「ゴクロー……」

 

「待て、それ以上喋るな!」

 

「あたし……変わっ……れるの……かな? “変身”……出来るかな?」

 

「!! ああ! お前なら出来る! いや、お前は立派に“変身”した!」

 

「あ……ありが……とう……、その言葉で……私は……」

 

鈴は俺の言葉を聞くと安らかな顔をし、ガクッと全身から力が抜けた上で目を閉じた。

 

「鈴んんんんんんんんんんんんんんんっっ!!」

 

鈴は合格した。

 

何かしらの気に入らない事があると、即座に洒落になら無い攻撃を加える暴力チャイナ娘は、この世界から春の淡雪の如く消え去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後。俺達の必死の看病の甲斐もあって、鈴はちゃんと復活した。




きょうの妖怪大辞典

マドさん
 別名:妖怪乳おいてけ。同族(ひんぬー族)には優しいが、巨乳には一切容赦しない。口癖は「(巨乳を)もんげーーっっ!!」。田舎者と言うよりは、箱入り娘的な世間知らずその1。怒りが頂点に達するとデジヴァイスを用い『修羅魔怒【しゅらマド】』にメガシンカする。違う作品が混ざっているが気にするな。ゴクニャンを呼べば大体解決する。アンべぇを呼ぶでも一時凌ぎにはなる。しかし、クロじろうを呼ぶと戦況が一気に悪化する。
 必殺技は『巨乳狩り』。絶対発動でガード不可。一狩り行こうぜ(巨乳を)。悪い巨乳はいねが~!?

クロじろう
 別名:妖怪巨乳毟り。ゴクニャンの義妹で、お兄ちゃんっ子。田舎者と言うよりは、箱入り娘的な世間知らずその2。両目に金色の写輪眼を開眼した幻術のエキスパート。仕込み杖を常時携帯しており、生身の戦闘能力もそれなりに高い。
 必殺技は現実世界で瞬時に相手を幻術に嵌める『月読』で、超必殺技にISのバーチャル世界で発動する『限定月読』ズラ。でも兄ちゃんの『イザナミ』には敵わないズラ。兄ちゃんスゲーズラ。

リッティ
 最下級の戦闘員にしてIS学園の守護神。中国妖怪であり、夏休み期間には中華料理屋『鈴音』に出没するらしい。一度見たら決して忘れられない凄まじい形相をしているが、人に危害を加える事は滅多に無い為、同じ顔をしたブルーベリー色の巨人よりずっと安全で安心。
 スタバァコーヒーなる場所に「トッティ」と呼ばれる、ピンク色のドライな亜種が存在するが、そちらは通りすがりの『5人の悪魔(ディケイドではない。カラーリング的にはプリキュア)』に退治されたらしい。
 原作8巻の『ワールド・パージ』を見る限り、「両親が健在だった頃が一番幸せだったんだろうな……」と思ったので、ご都合でも両親の仲を回復させる事は始めから考えていた。


……&解説

O-RENシステム
 元ネタは『鎧武』の凰蓮ロックシード。『ミレニアム』の試作品を元に、束がISのシステムとして作り直したもの。生身の人間に対してISを展開し、悪意を持って危害を加えようとする馬鹿者の頭に金盥を落して制裁する。「ばっかも~ん!」の音声も吉田メタルボイスで完全再現。
 しかしこのシステムをISに搭載すると言う事は、ISを渡された側からすれば「貴方を信用していない」と言われている様なものであり、傍から見れば危険人物のレッテルを貼られているのと同義なので、アンクは「売り出しても全く売れないだろう」と推測している。
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