そして今回、五反田兄妹がようやく登場です。酷い目に遭うので、五反田兄妹好きは注意して下さい。
……え? 前話のマドカ? 何のことですか?
事件は織斑先生が俺と束よりも先に目を醒まし、すぐ目の前に俺の顔があると言う奇天烈な状況に仰天し、取り乱した事から始まる。
「なッ!! なん――ウッッ!!」
寝起きの織斑先生は勢いよく体を起こし、そこで二日酔いによる強烈な頭痛と、猛烈な不快感、そして耐え難い吐き気に襲われ、胃の内容物が逆流。何とか堪えようとした織斑先生だったが、これまでの人生において最多のアルコール量を摂取したツケは非常に大きく、肉体的にも精神的にもソレを耐える事は不可能だった。
「ウボォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「ギャァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
その結果、織斑先生の口から放たれた半径20cmのゲロ・スプラッシュは、寝ていた俺の無防備な顔面を直撃し、鼻をつく刺激臭とドロドロとした生暖かい液体によって、俺は前世でも現世でも経験した事の無い、史上最悪の起床を迎えることになった。
すぐ近くにいた束に被弾しなかったのが不幸中の幸い……と言うか、束は危険を察知して避けたらしい。それも寝ながら。
「うぷ……す、すまん……シュレディ……うぶっ……」
「……いや、いいですから。ホント、無理しなくていいですから……」
「うわぁ……何て言うか、その……酷いね。何かの妖怪って言うか、溶解人間って感じ」
織斑先生が顔を真っ青にし、束がドン引きする今の俺の状態を分かりやすく言うなら、「コイツは臭ぇーッ! ゲロの臭いがプンプンするぜぇーーーーッ!」と言った所だ。その後俺はゲーゲー言っている織斑先生に一声かけてから、返事を待たずに寮長室のシャワールームを借りた。
文句は言わせない。俺は「早く人間になりたい」からだ。
ちなみに俺が溶解人間から普通のクローン人間に戻る間、束は部屋中に散らかっていたゴミをちゃんと分別し、更には俺の着替えも用意してくれていた。いい女だ。
それから復活した俺は束と二人で部屋を綺麗に掃除し、最後に二日酔いに苦しむ織斑先生の為に、大量のミネラルウォーターと、グレープフルーツを寮長室に持ち込んだ。グレープフルーツは匂いを嗅ぐだけでも二日酔いに効果があるので、何も食べられなくてもコレで少しはマシになるだろう。
それから『NEVER』の拠点に束と一緒に戻ると朝食が出来ていたが、何故かクロエとマドカは頻繁に頭を摩り、箒に至っては左腕に包帯を巻き、更に左の頬っぺたに湿布をしていた。
「……箒、その怪我はどうした?」
「名誉の負傷だ」
「……クロエとマドカはどうして頭を摩っている?」
「……ちょっとな」
「はい、ちょっとです」
雰囲気から何か言いたくない事があったと察したが、箒の表情からは何か達成感と言うか、誇らしい何かを感じるのだが、マドカはあからさまに不満気な顔をしており、クロエに至ってはどこか恥じているように見える。
「……何があったかは聞かない事にするが、怪我はなるべくしないでくれ」
「それは兄様もですよ?」
「「「うんうん」」」
「分かってる。もう二度とあんな真似はしない」
今回はクロエのゾンビ兵士だったが、次は「複数の個体が造られた」と言うマドカのゾンビ兵士や、他の面子のクローンゾンビが何処からか出てくる事もあるかも知れない。
もしもその時が来たら、絶対に前の様な事はしない。そう心に決めている。
「とりあえず、ゴッくんは今日の事に集中しなよ。ちんちくりんのお父さんとお母さんに会うんでしょ?」
「……そうだな」
実は今日は鈴音が離婚した両親と会う日であり、俺が鈴音の両親と顔を合わせる日でもある。
理由は鈴音が『NEVER』に入社したがっているから。入社試験をクリアしたは良いが、代表候補生は一般的な国家公務員と同等の役職であり、鈴音が言っている事は「国家公務員を辞めて、零細企業の社員になる!」と言っている事と等しい。両親が不安にならない訳が無い。
そんな訳で、朝食後に鈴音を迎えに行き、束の魔改造が施された車を引っ張り出し、いざ出発しようとした所でラフな格好をした一夏と会った。
何でもこれから中学時代の友達に会いに行くとの事で、中学時代はその弾と鈴音の三人でよくつるんでいたとか。ちなみに親しい男友達はその弾という奴の他に、御手洗数馬と言う奴がいるらしい。
「五反田弾? 例の『業火野菜炒め』とか言う、名物料理が有ると噂の食堂と何か関係あるのか?」
「ああ、『五反田食堂』は弾の実家だ」
「ほう、実に興味深い」
「それならまだ時間もあるし、先にそっちに寄ってから行かない? あたしも久し振りに弾に会ってみたいし」
「そうするか」
画して、鈴と両親が泊まっていると言うホテルに行く前に、噂の「五反田食堂」へと行く事になった。助手席に鈴音。後部座席に一夏。そして運転席に俺。
「そう言えばアンタ、一度戻った何か持ってきたみたいだけど、一体何を持って来たのよ?」
「その弾って奴へのお近づきの印として、大人の玩具とエロ本を用意してきた」
「「ぶっ!!」」
この二人がナニを想像したのかは予想出来る。しかし、プレゼントするのはコイツ等が想像している様な物では無い事を早速ネタ晴らしした。
「ア、アンタ……本当にそう言って“それ”を弾に渡す訳?」
「嘘は言っていないぞ。嘘はな」
「いや、確かに嘘は言ってねぇケドよ……」
そんな会話を続けながら到着した『五反田食堂』は、予想通りの見た目をした大衆食堂だった。もしもあの時に俺に相談しなかった場合、コイツはココに千歳先輩を連れて来るつもりだったのかと思うと、どうしても一夏のセンスについて考えさせられる。
「やっぱ、デートコースの昼飯でココは無いな」
「そうかぁ?」
「え? 何それ? あたし聞いてないんだけど?」
「ん? おお! 一夏に鈴! 久し振りだな!」
食堂の引き戸が開き、一夏と鈴を出迎えたのは、良くも悪くも今時の若者と言った感じの、赤い長髪の男だった。どうやら彼がその五反田弾らしい。自己紹介しようと近づいたら、弾は俺を見るなり指を指して絶叫した。
「……か、仮面ライダァアアアアアアアッッ!?」
「ん? 俺の事を知っているのか?」
「はいっ! 公式戦の動画は何十回見ても最高っす!」
ああ、そう言えば楯無戦は地上波でも放送された上に、ネットでも配信されているんだったな。
試合中に披露した『ミステリアス・レイディ』の強化形態や、『オーズ』の変身と超変身も見所ではあるが、やはり全ISでもトップクラスの威力を誇る「ミストルティンの槍」をライダーキックで真っ向から打ち破ったインパクトは絶大で、動画の再生回数は凄い事になっている。
「ところで、これからどこかに行くんですか?」
今の俺は久し振りの653コスであり、スーツを着こなしている。どうみても遊びに来たようには見えないから、弾の質問はもっともだ。そこで俺はこれからの予定を正直に答えた。
「実はコレから鈴音の両親へ、許しを貰う為のご挨拶に行くところでな!」
「ファッッ!?!?」
「ちょっ!? ちょ、ちょっとアンタ! 何、誤解される様な事言ってんのよ!」
「嘘は言ってないぞ。嘘は」
「言い方ってモンがあるでしょうが!」
俺の発言に想像以上のリアクションを見せる弾に対し、鈴音は必死で挨拶の内容を説明し、弾の誤解を解いていた。
「と、とりあえず、これでコイツがどーゆー奴なのか分かったわよね?」
「お、おう……」
「なあ、二人とも何やってんだ?」
そんな二人のやりとりを、一夏はまるで理解していなかった。一夏にしてみれば、俺が仕事で鈴音の両親に挨拶に行くだけだと思っているから、こんな感じなのだろう。もっとも、箒や鈴音が言うには一夏の鈍感さは今に始まった事じゃないらしいが。
それから俺は弾と電話番号とメールアドレスを交換してから、やはり誤解される様な言い方でプレゼントを渡し、鈴音と共に五反田食堂を後にした。
「言っとくけど、本っっっ当にっ! 真面目にやんなさいよ!?」
「安心しろ。この『NEVER』の大首領様を信じろ」
「さっきの言動と行動の何処に信じられる要素があるって言うのよ!?」
鈴音の言う事はもっともだが、鈴音の両親との挨拶は真面目にやるつもりだ。中国人は面子を物凄く大事にする。一夏が鈴音との約束を間違えて覚えた事に対し、鈴音が何週間もず~~~っと怒りっぱなしだったのも、今にして思えば一夏に自分の面子を汚されたと思った事が根っこにある様な気がする。
そしてホテルに到着し、離婚したという鈴音の両親に会った俺は、可能な限り中国語で会話し、日本語で話す時は聞き取りやすい様にゆっくりと話した。一年振りの日本なら日本語も久し振りに聞くだろうと思ったからだ。
その結果、俺が中国語で話しかけると、相手から日本語の返事が帰ってくると言う、傍から見てかなり不思議な空間が展開されていた。
結局、鈴音の両親と話した時間は1時間程で、後は何の用事も無いのでIS学園に戻ろうとした俺を見送ると言って、鈴音が一緒に着いてきた。
「許してくれて良かったな」
「まあね……でもあんた、何時の間に中国語習ったのよ?」
「お前が『NEVER』に入社したいって言った辺りから勉強し直した。念の為にな」
「そう……でも何て言うか、アンタの話す中国語ってカタコトって言うか、日本語を知ってる中国人じゃないと分からないって感じだったわ」
「ああ……『アマゾン、マサヒコ、トモダチ』みたいな感じ?」
「うん。相変わらずちょっと例えがアレだけど、そんな感じよ」
そう語る鈴音は、内心で「日本に来た頃は、自分もこんな感じで日本語を話していたんだろうか?」と思っていたりする。小学四年生の頃、日本に着たばかりの自分が話す、おかしな日本語が原因で苛められた所為もあって、鈴音にとって言語の壁は大きなコンプレックスとなっている。
もっとも、ちゃんと日本語を話せるようになったらなったで、それが逆に「中国人っぽくない」と弄られるようになったので、結局彼等は「他人と違う自分を弄る事そのもの」が目的であり、そこに理由など存在しないのだと、鈴音は後に悟った。
「……ねぇ。良かったら、あたしがちゃんと中国語、教えてあげても良いわよ?」
「んー……そうだな。でもちゃんとやれるかな?」
「ちょっと、それどういう意味よ?」
「いや、鈴音の能力を疑っているわけじゃない。なんて言うか、親しくなってくると変な言葉でも以心伝心できる様になるだろ? 仲が良いから分かるみたいな」
これは『ミレニアム』に在籍していた頃、「国家を征服するには、まず言葉を征服せよ」と少佐に言われ、英語の他にドイツ語やスペイン語等の色々な言語を覚えさせられた時の話だ。この時に生まれた変な言葉は、国語ならぬ「ゴク語」と呼ばれていた。
「……悪いけどあたしにはそんな経験は無いわ。一夏と一緒に千冬さんが日本語を教えてくれて、少しでも間違えると直ぐに直されたから」
「そうか……」
そう語る鈴音は多少げんなりとした顔をしていた。理由は何となく察するが、日本語習得時の思い出は、鈴音にとって余り良い思い出では無いようだ。
「……一つ聞きたいんだけど、アンタは変な日本語で喋る外国の女の子ってどう思う訳?」
「個性的で可愛いと思う」
具体的には『フォーゼ』に登場する、ネット版で中身がおっさんの乙女座に「私の方がぁ! おっぱい、おっきいわぁあああっっ!!」をやらかした、アクエリアス・ゾディアーツことエリーヌ須田。後は『おジャ魔女どれみ』の飛鳥ももこ。
ちゅーか、このIS学園は海外からやって来た生徒も結構な数が居るのだが、あんな感じの変な日本語を習得している生徒が、何故か誰一人として確認出来なかった。ぶっちゃけ「彼岸島百不思議」……もとい、「IS学園七不思議の一つ」だと言っても過言では無い。
「……やっぱり、アンタって変わってるわ」
「そうか?」
俺の答えに鈴音は若干呆れた表情をしていたが、それでも悪い回答では無かった様で、どこか満更でも無い雰囲気を醸し出していた。
「それでどうするの? まあ、別にアタシはどっちでも良いんだけど?」
「そうだな……無理の無い範囲でよろしく頼む」
「ふふっ。お手柔らかにね?」
こうして鈴音の中国語を勉強する約束をした後、鈴音に「帰りはモノレールを使ってIS学園に帰るから迎えの必要は無い」と言われ、俺は一人IS学園に帰った。
○○○
ゴクローが鈴の両親と会っていた頃、箒は密かに行動を起こしていた。
昨日は何とかマドカの暴走を阻止する事ができたが、クロエがその暴走を止めるどころか、自ら加担するとは思いもよらなかった。
そこで、今の状況が危険だと思った箒は、ゴクローとクロエの部屋割りを変える事を考えついた訳だが、千冬は二日酔いで完全にダウンし、真耶は何処かに出かけていた為、箒は書類を調べていたアンクに相談してみた。そこでアンクから「生徒会長には寮の部屋割りを変える権限がある」と教えてもらい、箒は楯無を頼ろうと思った。
しかし、そうなると一連の流れを知らない楯無に対して、どうしてそうなったのかを説明しなければならない。箒がどうしたモノかと思っていたら、アンクが「面倒だから一から十まで全て話せ」と言い、研究所を潰した時の映像データを箒に渡した。
アンクとしては、理由を中途半端に話すにしても、ウソの理由をでっち上げるにしても、どちらもそれなりの労力を必要とするし、何より箒は説明や腹芸の類が苦手だ。それなら最初から全て正直に伝えた方がマシだと、アンクは結論していた。
こうして箒は楯無の元を訪れた訳だが、楯無の従者である虚は兎も角、最近になって姉妹仲を回復させた簪と、その従者の本音が一緒にいる事は予想外だった。
「駄目だ! お前達二人は絶対に見ないほうが良い!」
「……わ、私だって、知る権利があると思う……!」
その映像の凄惨さを知る箒としては、何とか簪と本音を部屋から退出させようとするが、箒がよりによって「ゴクローが悪の研究施設に乗り込み壊滅させた」と言ってしまった為に、それこそ特撮ヒーロー番組の様なシチュエーションに憧れを持つ簪は、どうしてもその映像が見たかった。
箒と簪はしばらく激しい言い争いを展開していたが、最後には妹に滅法甘い上に交渉事に関しては百戦錬磨(?)な楯無によって、箒はすっかり楯無のペースに乗せられてしまい、結局は全員で映像データを見る事になってしまった。
「「………」」
「……っ……ひ、酷い……」
「シュレりん……」
「だ、だから言ったんだ。見ない方が良いと……っ」
涙ぐんでいる箒の予想通り、映像データは簪の期待を悪い意味で裏切り、簪と本音の二人はたまらず泣き出してしまった。二人の目にはヒーローが泣きながら拳を振るい、胸から見えない血を流しながら戦っているように見えた。
その一方で黙って映像を見ていた楯無は、自分の見通しの甘さを後悔しながらも、同じ様に黙って見ていた虚と同じ様な感想を抱いていた。
確かにあの「VTシステム搭載型EOSモドキ」は出来損ないではある。しかし、それでも戦線に投入されれば恐るべき存在となっていただろう事は明らかであり、それを造り出した彼等に対して優しさを向けても無駄だと、対暗部用暗部の当主とその従者は思っていた。
仮に彼等に恩赦を与えたとしても、それによって実験の第二・第三の犠牲者が出るなんて事になれば、それこそ本末転倒というヤツだ。笑い話にもならない。
力を持つ者にとって、力を持たない者に対する優しさや、思いやりの心を持つ事はとても大事な事だと思う。しかし、「力を持つ者」であると同時に「人の上に立つ者」であるのなら、その者は時として如何なる手段を用いてでも敵を排除し、一切の容赦を見せずに徹底的に叩き潰す冷酷さを持たなければならない。
それこそが「人の上に立つ資格」であると、先人達から教育されていた楯無と虚からして見れば、今回ゴクローが行なったマッドサイエンティストに対する制裁は、良い意味で裏切られたと言えた。
映像はエターナルが助けを求めた研究員に見切りを付けた所で終わり、泣きじゃくっている簪と本音は虚に任せて、楯無は箒から昨夜に起こった事を詳しく聞いた。箒の説明が全て終わった時、楯無はそこでようやく納得の表情を箒に向けた。
「……なるほどね。それで心を痛めているゴクロー君が、これからクロエちゃんやマドカちゃんと爛れた関係にならないか心配しているのね?」
「え、ええ……まあ……そ、それで部屋割り何ですが、その良かったら――」
「実は明日、フランスから転校生がやって来るのよ。それも二人目……じゃなくて、三人目の男性IS操縦者としてね」
「え!?」
「初めは一夏君の部屋にしようと思っていたんだけど、“箒ちゃんの為に”ゴクロー君の部屋にしてあげるわ? 流石に男の子が相部屋なら安心でしょう?」
「え? あ、は、はい。そうですね……」
正直箒としては、護衛の為にゴクローと一緒の部屋が良かったのだが、「他にも男子がいるならマドカやクロエも手が出せないだろう」と思い、内心では渋々ながらも楯無の提案を受け入れ、簪と本音の事は楯無と虚が何とかすると言うので、大人しく立ち去ることにした。
一方の楯無にとって、箒の出した提案は正に「渡りに船」と言えた。
(どう考えても怪しいのよね、この子……)
シャルル・デュノアと言う、一組に転入する事になっているこの少年。資料によればデュノア社社長の息子であり、専用機持ちのフランスの代表候補生だとある。「専用機持ち」なのはまだいいが、それ以外に奇妙としか思えない部分が多々ある。
まず、「男性でもISを使える」と判明したのは、一夏がISを起動させた今年の2月中頃。それから世界中で男性に対するISの適性検査が行なわれた訳だが、そうなるとこの少年は「一夏がISを使えると判明してから、新しく見つかったISが使える男性」と言う事になり、ISを使い出して最長でも三ヶ月ちょっとだ。
そしてフランスは第三世代ISの開発が遅れており、その分フランスの国家代表操縦者及び代表候補生は、他の国よりも操縦者の技量を重視して選考する為、セシリアの様に「第三世代兵器に対する適正の高さ」で選ばれると言った事が現時点では無い。
現に資料では専用機が第二世代機の「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」とあり、専用のカスタムこそ施しているようだが、やはり第三世代ISでは無い。
つまり、資料の通りならこの少年は、ISに触れてから約三ヶ月で、ヨーロッパでも代表候補生の選考基準が高い国の試験をクリアする程のISの操縦技術を会得し、将来的に国防や国益の為に、フランスを背負って戦うに値する人材だと、フランス政府に認められたと言う事になる。
冷静に考えればそんな事は先ず有り得ない。例えこの少年にISのズバ抜けた才能があったのだとしても、代表候補生とはそう簡単になれるものでは無い。それは楯無自身がよく知っている。
それこそどっかのホモパティシエの様に、この少年が軍人だと言うならまだ分からなくもないが、この少年がフランス軍に従軍していたと言う情報は無い。
(何よりデュノア社に所属していて尚且つ代表候補生なら、フランス国内に留めておいた方がどう考えても利益になるわよね)
一夏は専用機こそ持っているが、どの企業にも所属しておらず、更に代表候補生でも無い。言ってみれば、どの国にもどの企業にも所属していない専用機持ちであり、IS学園にいる理由も他の専用機持ちとは少々異なる。
しかし、このシャルル・デュノアは特定の企業に所属している上に、フランスの代表候補生だ。既に所属が決まっている。他の専用機持ちと同じくISのデータ取りが目的なら、フランスには他にも代表候補生がいるのだから、“女子のフランス代表候補生”を寄越せば事足りる。
以上の事から楯無は、「この少年がIS学園に送られてきた目的は別にある」と結論し、「どうやって一夏の部屋では無く、ゴクローの部屋に割り当てようか」とずっと考えていたのだが、そこへ箒が丁度良い理由をもって来てくれた……と言う訳だ。
(一夏君だと正直、不安なのよね。その点ゴクロー君の方は、最低でもアンクが警戒しているでしょうから、まあ適材適所って所ね)
交渉と言うカードは、相手によって出し方や見せ方を工夫すれば、その効果は大きく変化する。場合によってはフランスからシャルルを、ドイツからラウラを引き抜き、自分の部下する事も考えていた。もっとも、あのアンクがデータを自ら渡してきたと言う時点で、内心ではラウラの事は半分ほど諦めている。
「……ヒック……ヒック……」
「うええええええええっ……」
(……今は簪ちゃんと本音を何とかする方が先ね。とりあえず、虚ちゃんから簪ちゃんを奪還しなくちゃ)
この後、楯無と虚の二人は自分の妹を宥め賺して涙を拭いて、心が落ち着くまでえんえんと簪と本音の相手をしたのだった。
●●●
俺がIS学園に戻って、夕方の5時を過ぎた頃。案の定と言うか何と言うか、登録したばかりの弾から電話が掛かってきた。
『……あんた……俺を騙して、そんなに楽しいか?』
「何を言う。お前に送ったのは実物大の『プレミアムDXオーズドライバーSDX』で、大人が楽しむ為に作られた大人の玩具だ。それがエロいものだと思ったのだとすれば、そりゃあお前の早とちりってやつだよ」
スタッグフォンから聞こえる弾の声色は、まるで体がボドボドになった紘汰さんの様だったが、俺はDJサガラの様なノリで華麗にスルーする。しかし、当然ながら弾の怒りは全然収まらない。
『じゃあ、コッチの奴は何なんすか! 何っすか! この玉乗りとかジャグリングとか書いてる本は!? 全然エッチじゃないじゃないですか!?』
「それは伝説のピエロ本だ」
ちなみのコレはコンパイルが発売したPCゲームが元ネタで、簡単に説明すれば「伝説のエロ本」を求めて冒険する、ドスケベな犬の剣士の物語だ。ちなみに「伝説エロ本」の真実に絶望した犬の剣士は、懲りずに「透ける眼鏡」を手に入れる為に冒険に出ている。
『どこが伝説なんっすか!? どこが!?』
「俺もよくは知らんが、とにかく伝説らしい。ちゅーか、そんなにエロイのが欲しいなら、IS学園漫画研究会が描いた18禁のBL同人誌でも送るか? この前に生徒会の活動でとある3年生から回収したヤツなんだが、俺と一夏の濃厚な絡みが描いてあるんで、ビギナーには少々ドギツイ内容なんだけど」
この言葉の後で、電話の向こうの弾の思考がピタッと止まったのを感じた。予想外の台詞の内容を理解する為に、脳が時間をかけて情報を処理しているのだろう。暫く待っていると、漸く弾が口を開いた。
『………え? ちょ、ちょっと待って下さい? それってつまり、IS学園のお姉さま方の中に、一夏とアンタをネタにしてBL本を描いてる人が居るって事っすか?』
「そうだ。お前がIS学園に対して想像していたのはアレだろ? もっとこうキラッキラキラッキラ、清らかな光が差し込み、芳しい香りがする秘密の花園で、見た目麗しい天使や妖精と見紛うばかりの美女と美少女が、キャッキャキャッキャ、ウフフフフフフ……って感じだろ?」
『え、ええ、まあ……』
「その内の何割かが、巧妙に擬態したゾンビ……もとい、適度に腐ったお嬢様だ。今もこうしている間に、『O×1』とか『E×1』とか、物理か何かの数式としか思えないカプ論争が繰り広げられ、ありとあらゆるホモネタがIS学園の暗闇から際限なく生み出され続けている」
彼女達の著作物を一通り見たが、どっかのアイドルか何かと見紛うばかりに線の細いものから、劇画タッチでやたらと生々しいものまであり、画風はそれこそ十人十色と言った感じだ。
それを見た俺の感想はズバリ「悪魔の末裔め! 根絶やしにしてやるぞ!」だ。一緒にそれを見た楯無や虚もそれに同意してくれたが、鼻血を流していた所為で説得力がまるで無かった。
『ま、まじッスか?』
「正直な話、連中にお前の事を話したら、即座に連中はお前と一夏の事をネタにしたBL本を一晩で描きあげるだろう。鼻血をインク代わりにして」
『俺にはソッチの趣味は無いっす!』
「ちなみに彼女達が言うにはBL本を常に懐に入れていたお蔭で、命が助かったというケースもあるそうだ」
『どんなケースっすかそれ!? BL本がナイフを受け止めたとかそんな話っすか!?』
「違う。とある男が満員電車で痴漢の冤罪をかけられた時、コミケに行けないからって買うように頼まれたBL本のお蔭で難を逃れたと言う話だ。何でもBL本を取り出して『俺は女装ショタ以外に興味は無いッ!』って言ったそうだ。正に『ゲイは身を助く』と言うヤツだな」
『地味にあり得そうな話で怖いッ!』
『ちょっと、お兄ぃ! さっきからうっさい!』
弾の声が余りにも五月蝿かったのか、弾の妹と思われる少女の声が聞こえてきた。しばらく弾とその少女の会話が聞こえてきたが、どうした訳かその少女が電話に出た。少女は自分を「五反田蘭」と名乗り、中々礼儀正しかった。
『その、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど、良いですか?』
「ウム。何でも聞いてみんしゃい」
『あ、あのー、そのー、貴方から見て、一夏さんの女の人の好みって、何か分かりませんか?』
ふむ。弾が一夏の同級生で、その妹となると最高でも14歳位だと考えられるが、電話越しではどんな外見なのかを判断する事は出来ない。
そこで、俺は馬鹿正直に答えた。
「巨乳系だな」
『………………』
それまで途切れる事のなかった会話がいきなり止まった。お互いの空気どころか、世界の時間が止まったと錯覚する様な沈黙だった。
『な、何を根拠にそんな……』
「ああ、一夏と俺がいる一組にな? 山田先生って言う爆乳の副担任がいるんだけど、山田先生の胸部装甲がたゆんたゆんと揺れる度に、高確率で一夏の視線がそこに集中するんだよ。後、谷間が見えてる時とか」
『……い、いや、それだけで、そうだとは…』
「他にも鈴音がルームメイトのティナ・ハミルトンって子に『一夏を紹介して欲しい』って頼まれて、それで鈴音がその子に一夏を紹介したらしいんだが、その時に『ティナの胸が揺れる度に、一夏の目がティナの胸に釘付けだった』って、鈴音が青鬼みてーなスゲー顔で俺に言ってきた事がある」
『!! り、鈴さん、が……ッ!』
やはり鈴音とは知り合いだったか。そして反応から推測するに、蘭のスタイルは年相応のそれと見た。
それとぶっちゃけた話、「一夏が巨乳好き」だと言う事はIS学園のほぼ全員が認知している。知らないのは恐らく一夏だけだ。その上で、一夏の目の前でワザと大きく揺らしたり、谷間を見せたり、或いは背中に押し付けたりする生徒が相当数いて、明らかに一夏の反応を楽しんでいる。羨ましい限りだ。
しかしながら、一夏の気持ちも男として分からないでもない。『NARUTO』のオカマ丸……じゃない、大蛇丸風に言うのなら、「動いている物を見るのは面白い……止まっているとつまらないでしょ……」と言う事だ。
『ほ、他には!? 他には何か無いんですか!?』
「年上のお姉さんだな」
またも正直に答えたが、今回は答えてから「しまった」と思った。しかし時既に遅し、一夏よりも年下である蘭の時間が完全にフリーズしたのを、俺は電話越しに感じ取ってしまった。
すると、今度は蘭の代わりに弾が電話に出た。
『……あ、あの、さっきの話って本当っすか?』
「もはやIS学園の常識だ。それとココだけの話だが、IS学園で独自にアンケートを取った所、実に90%以上の女子高生が『男性が自分の胸元へ向ける視線に気付いている』と分かったそうだ」
『マジっすか!?』
ちなみにこれらの情報は黛先輩から聞いた……と言うか聞かされた。面白そうだからついでに調べてみたとか。
『……その、何て言うか……、此処だけの話ですよ? その、IS学園の慎ましい方々にとって、一夏は不人気って事なんスか?』
「いや、それが『これからスレンダーの魅力を教えればいい』とか、『貧乳でしかスタンド出来ない体に調教すればいい』とか、後は『同い年でも諦めない!』とか、そうした前向きな意見も多いらしい。何でも巨乳系とそれ以外で、比率はおおよそ7:3で、学年別の比率なら三年生から順に3:1:4って感じらしい」
ちなみにこれらの比率も黛先輩から聞いた事だ。二年生の比率が低いのは、「二年生で接点のある人物がいないからじゃないか?」と考察していた。
『………………んで……』
「?」
『なんでだよぉ~~~! 何でアイツばっかりモテるんだよぉ~~~~! 俺なんてそんな事、一度も言われたこたねーのによぉ~~~~!!』
「……おい。もしかして、泣いてるのか?」
『泣いてねぇっす! と、とりあえず、最有力は誰っすか?』
「ん~~。俺から見て『千歳燕』って三年生の先輩だそれだが……写メ送るか?」
『お願いします!』
それから一旦弾との通話を切り、以前にマドカから貰った写真を送る。謎の“赤い髪の少女”も写っているが問題ないだろう。すると写メを送ってから直ぐに弾から電話が掛かってきた。
『何で蘭が一緒に写ってるんすか!! 一夏からも蘭からも何も聞いて無いんですけど!?』
どうやら“赤い髪の少女”の正体は蘭だったらしい。しかも一夏に会った事を蘭は兄貴に言ってないようだ。理由は分からないけど。
「それで、お前から見て千歳先輩の感想は?」
『カワイイよぉおおおおおおおお! く、くやしいぃぃいいいいっ! さっさとOKしちまえよぉおおおおおおおおっっ!! 何がいい思いはしてねぇだ! しっかりいい思いしてんじゃねぇか! ちくしょぉおおおおおおおおお! あの野朗ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
『……う、……うるさぁああああああああああああああああああああああいっっっ!!!』
弾と蘭の絶叫の後、肉が潰れるような生々しい音と、機械を破壊する様な音が聞こえたのを最後に通話が切れた。
……うん。二人には悪い事をした。どうしようと考えていたら、アンクが俺の肩を叩いてから、サムズアップしてこう言った。
「絶望がお前のゴールだッ!」
割と洒落にならないから止めてくれ。
●●●
日曜の夜は『NEVER』のメンバー全員で食卓を囲む事に決めており、今回は鈴音が増えているので、その分食卓が窮屈だが少しだけ豪華な夕食だった。
後片付けをした後で各々が学生寮の自分の部屋に戻り、俺はクロエとのんびりしていた所で山田先生がやってきて、クロエが引っ越す事になった事を伝えに来た。引越し先は箒の部屋らしい。
「そんな! それじゃあ、マドカが此処に引っ越してくるのですか!?」
「いえ、マドカさんは明日に転入してくる生徒さんと相部屋です」
「そうなると……この部屋に一夏が引っ越してくるのですか?」
「いえ、確かに引っ越してくる人はいますが、織斑君はそのままです。実は新しくISの男性操縦者が一人見つかりまして、シュレディンガー君はその子と相部屋になります。仲良くしてあげて下さいね?」
マドカとゴクローが相部屋になった場合の未来を想像し、心の底から戦慄したクロエだったが、ルームメイトがマドカでは無いと知って少しだけ安心した。
「それじゃあ、私もお手伝いしますから、すぐにやっちゃいましょう」
「う゛~~~~兄様ぁ~~~~」
「……そんな泣きそうな顔をするな。別に永遠の別れって訳でも無いんだから」
渋るクロエの頭を撫でて諌めて、山田先生と共に荷物を移動させる。引越し先の箒とマドカの部屋で、何故か居た楯無をマドカが殺気を込めて睨んでいる以外、引越しは順調に進んだ。
ちなみにクロエが、わざとノロノロと作業する牛歩戦術を行なっていたのが、元々この部屋には私物をあまり置いておらず、殆どの私物が『NEVER』の拠点の方に置いてあるので、大して意味が無かった。
「それじゃあ、箒。クロエを頼むぞ」
「うむ。お前も今夜は気をつけるんだぞ?」
「大丈夫よ、箒ちゃん。今夜のマドカちゃんは私と一緒だから♪」
「なん……だと……」
何か箒達の発言が妙に引っかかるが、何となく聞かない方が良い様な気がしたので、俺は某死神漫画の主人公の様なリアクションをするマドカを含め、あえてスルーして部屋に戻った。
しかし、(表向きは)三人目のIS操縦者ねぇ……。
一体どんな人物なのだろうかと考えていたら、『NEVER』の拠点に居たアンクが戻ってきた。部屋にクロエが居ない事を不思議がっていたので、クロエがいない理由を答えてやった。
「なるほどな。それと眼帯娘の事で言い忘れていたが、明日には一組にあのシャルロット・デュノアが転入してくるぞ」
「!! 一年前にフランスで接触した、あの花澤ボイスか!?」
「……デュノア社の非公式テストパイロットだろ。それで――」
「それなら、とりあえず『恋愛サーキューレーション』を歌ってもらわなければならんな!」
「少しは用心しろ」
「そして(表向きには)三人目の男性操縦者と、ラウラを含めて合計三人の転入生が来るわけか。面白そうだな」
「………」
ムカついたアンクは、ゴクローの勘違いを敢えて訂正せず、一番重要な事をワザと教えなかった。
キャラクタァ~紹介
五反田弾
初登場の一夏の親友。しかし、もしかしたらこれが最初で最後の出番になる可能性も否定できない。何故ならこの作品を、アニメ第一期(つまり原作第三巻相当)の時間軸で終わらせようと考えているから。このままダラダラと続けるのも何だし。
この世界では作者の欲望により、康一と由花子を見た億泰と化した。そして原作を見る限り、「何故一夏ばかりが、やたらと女子にモテているのか?」と、昔から不思議に思っている模様。
御手洗数馬
名前だけ登場のチョイ役。アニメには未登場。一夏の友人らしいがコイツも弾と同様に非モテらしく、「女に興味の無い」とほざく一夏をアホ呼ばわりしている。ちなみに前話の「キャラクタァ~紹介&解説」の『シグルイ』ネタは、コイツの名前が「舟木“ぬふぅ”ブラザー」の一人と同じだった事が理由だったりする。
龍韻「それでは両名、存分に戯れよ!」
一夏「なあ、“ぬふぅ”って一体何なんだよ?」
5963「負ければ分かる。嫌でもな」
弾・数馬「「ぬふぅ」」
――『楽器を引けるようになりたい同好会』の二人は、その日も同時に達した。
五反田蘭
一応は再登場の“赤い髪の少女”。『555』の啓太郎と結花を意識した、「お互いの顔を知らないやり取り」を試しにやらせて見たが、何か全然違ってしまった。
原作での出番は結構多いが、一夏が年上好きで巨乳好きっぽいので、少々分が悪い気がする。しかし、もしも一夏がISを動かさなかった場合、一夏は箒や鈴音と再会する事も無く、他のヒロインズとも一切関らなかった可能性が高い訳で、この子はかなり有利なポジションに居たのでは無いだろうか……と、思わないでもない。
ティナ・ハミルトン
鈴音のルームメイトでチョイ役。原作ではよく部屋でお菓子を食べているイメージがある。パツキンで巨乳。原作第九巻での彼女に対する反応を見るに、何だかんだ言ってもやっぱり一夏は巨乳が好きなんだと思う。
原作では鈴音に対して、自分を一夏に紹介してもらうように頼んでいるようなのだが、肝心の鈴音が「また今度」、「今度またね」と言ってずっとはぐらかしている為、恐らく永遠にその機会はやってこない。そこでこの世界では、せっかくだからちゃんと紹介させてみた。
やったね、ティナちゃん! チャンスが増えるよ(多分)!