DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

30 / 40
大変長らくお待たせしました……とは言うものの、待っている人が果たしてどれだけいるのかと言う様な本作品。キリの良いところまで完成しましたので投稿します。

今回は四話連続投稿。尚『DXオーズドライバーSDX』は全40話で完結の予定です。


第30話 Sな戦慄/一夏はそれを我慢できない

ライダーメモリとライダーメダルによって顕現した、昭和ライダー15人によるライダーリンチで殺されかけた俺は、アンクの手によって『虚空の牢獄』から何とか脱出する事に成功した。

 

割とチート揃いの昭和ライダー達との死闘による消耗は激しく、気絶から醒めた時には体が全く動かなかった。そんな状態であるにも関わらず、起きた途端に束、クロエ、箒、マドカと言った面々に泣きつかれたのは極めてキツイ。逃げ場が無いからだ。

まあ、自分達の大将が知らない間に、他人が拵えた罠にまんまと引っかかって殺されかけたのだから、この反応は仕方が無いだろう。完全に俺の自業自得だ。

 

ちなみにライダーリンチで負った怪我は『ブラカワニ』の能力で治っていたが、逆に言えば『ブラカワニ』が使えなかったら確実に死んでいたと言える。実際アンクから「もしも『ブラカワニ』が使えなかったら30回は死んでいる」と言われた。

しかも、RXを殴り飛ばす破壊力を発揮した『ライダーパンチ』を放った右腕は、骨や筋肉は言うに及ばず、靭帯や血管、神経に至るまで滅茶苦茶になっていたらしく。治ってはいるものの、デコボコとした歪な形になっていた。どうやらあまりにも無茶な怪我を負うと、治癒したとしても綺麗に元通りという訳にはいかないらしい。

 

取り敢えずこの日は『NEVER』の拠点に泊まる事にして、シャルルには今日は部屋に戻らない事を、バッタカンドロイドを通して伝えた。転校初日だから一人でリラックスする時間も必要だろうからな。

 

 

●●●

 

 

それから一週間後の放課後。俺はアジトから回収した『銀の髑髏』を使い、『虚空の牢獄』へ性懲りも無く足を踏み入れていた。いや、足繁く通っていると言った方が良いだろう。

 

相手は「力と技と命のベルト」を持つ、元祖不死身の男こと『仮面ライダーV3』。対する俺はクワガタ・クジャク・コンドルのメダルで構成された『オーズ・ガタジャドル』だ。

 

「V3……電熱チョップ!!」

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ライダーチョップッ!!」

 

緑色の電流とヒートのマキシマムによって強化された炎を纏ったタジャスピナーが、V3の電熱チョップと激突する。俺とV3の左腕が交差し光と熱を生み出し、互いに一歩も譲らない為に鍔迫り合いの様になっている。

1号の技と2号の力のハイブリッドである『第三の仮面ライダー』。その力は記憶と欲望によって生み出された偽物とは言え……いや、だからこそ本物以上の強さを持っている様な気がする。

 

さて、何故再びこうして死地に赴いているのかと言うと、二つ理由がある。

 

一つ目はライダーメモリとライダーメダルの回収、もしくは破壊する事。『無限のセルメダル』と『JUDOボディ』は回収したが、コイツ等だって元はコアメダルとガイアメモリだ。此方の手に余る代物であるとは言え、そんな物がシュラウドの手に渡ればそれこそ最悪以外の何物でも無い。

 

二つ目はコアメダルとガイアメモリの経験値を稼ぐ事。ライダーリンチによって死にかけたものの、昭和ライダー達との死闘は、コアメダルとガイアメモリにかなりの経験値を与えてくれた事が判明した。

束の魔改造ハイブリッドライダーマシンだって無料で造れる訳では無いし、アンクによって脱出方法が確立されている事を考えれば、ハイリスクな方法ではあるものの、コレを活用しない手はあるまい。

 

「V3……レッドボーンリングッ!!」

 

『! コイツを使ってみろ!』

 

『サメ! クジャク! コンドル!』

 

その場からジャンプしたV3は胸部のレッドボーンが赤く輝き、空中でバク転をする様に円を描いて高速回転を開始する。するとV3は一輪の真っ赤なタイヤと化し、此方目掛けて突っ込んでくる。

V3の持つ26の秘密の一つ「レッドボーンリング」。TVでは未使用の技だが、漫画作品の『仮面ライダーSPIRITS』では使用しており、実写でソレを目の当たりにしている俺からすれば、この光景は少々の感動を覚える代物である。

 

そんなV3の対抗手段としてアンクが選択したのは、今回昆虫系コアメダルと交換でドライバーに登録しておいた、『MOVIE大戦 MEGA MAX』で仮面ライダーポセイドンが使用していたコアメダルの一つである、サメコアメダル。

サメの能力が込められた、ヘッドを担当するこのコアメダルの能力は、サメのロレンチーニ器官に相当する能力であり、これで相手の体を流れる電気信号を探知する事で、相手の行動の先読みが可能となるのだ。

 

「トォオオオオオオオオオオオオウッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

何度も何度も様々な角度から突っ込んでくるV3の攻撃を、俺はサメヘッドで動きを先読みし、タジャスピナーの火炎弾。そしてコンドルレッグによる真空波を纏った回し蹴りを叩き込む。

しかし、V3の「レッドボーンリング」はタジャスピナーの火炎弾をかき消し、コンドルレッグの真空波を纏った回し蹴りも、軌道を反らす程度で決定打にはならない。

 

「それなら……!」

 

『サメ! クジャク! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

『UNICORN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『セルバースト!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「!! ぐ……ああああああああああああああッ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

正面から突っ込んでくるV3に対して、セルバーストによる強化と、ユニコーンのマキシマムによる貫通力を加えた左拳を、ギガスキャンによる火炎弾と同時に零距離から叩き込む。

これには流石のV3も効いたらしく、「レッドボーンリング」が解除されて大きく吹き飛ばされる。もっとも俺も無事ではなく、必殺技の激突による反動で大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「グゥゥ……まだ……だ!」

 

V3のダブルタイフーンが唸りを上げ、レッドボーンが再び赤熱化する。そしてレッドランプと緑の複眼が、強く激しく光り輝いている。

 

『何だ!? 何をやろうとしている!?』

 

「あの技は……」

 

『!! 何だ!? アレが何なのか知ってんのか!?』

 

「レッドボーン。レッドランプ。ダブルタイフーン。全ての力を解放して放つV3の超必殺技……『火柱キック』だ!」

 

『超必殺技!? だったら……コレでなんとかしろ!』

 

その瞬間、サメコアメダルがタカコアメダルに代わり、ベルトに装填されたメダルの色が赤に統一される。傾けるとメダルが赤く輝くものの、赤い羽根のエフェクトが現れない所を見るとアンクの意思が内包されたタカコアメダルでは無いらしい。ちょっと残念。

 

「漸くか……超変身ッ!」

 

『タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドル~!』

 

タカ・クジャク・コンドルの鳥系コアメダル3枚をスキャンし、炎が渦巻く中心で『オーズ』はタジャドルコンボへと超変身する。そして超変身が完了すると、直ぐにクジャクウィングを展開して空中高く飛び上がり、「火柱キック」に対抗する為の準備に入る。

 

『タカ! クジャク! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

「アンク! ドライバーにコアメダルを再装填!」

 

『チッ! しっかり決めろ!』

 

アンクによってタカ・クジャク・コンドルの3枚のコアメダルが、瞬時にタジャスピナーからオーカテドラルに戻り、不死鳥を模した炎を纏った状態で、オーカテドラルのコアメダル3枚をスキャンする。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「更に!」

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「もういっちょ!」

 

『セルバースト!』

 

マグナブレイズ。プロミネンス・ドロップ。ヒート・マキシマム。セルバースト。これが今の俺が繰り出せる、文字通りの“最大火力”だ。

 

「ぬぅうううううう! トォオオウッ!!」

 

気合の入った声と共に、凄まじい勢いで急上昇するV3。腕を交差させた独特のポーズを取ると、右足に全エネルギーを結集させ、白熱化した右足を真っ直ぐに突き出してくる。

 

「V3……火柱キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイック!!」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

お互いの最大奥義が空中で激突し、周囲が膨大な熱量で満たされる。現実世界でコレをやったとすれば、そこは核爆発でも起こったのかと錯覚するほどの大惨事を引き起こしていたに違いない。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ぬぅううううううううううううううううううううううううううううううんっ!!」

 

その中心にいる俺とV3は、互いに相手が放った必殺技のエネルギーを利用するべく、発生した熱量の奪い合いを展開していた。

俺はヒートメモリのレベル2によって周囲の熱量を吸収して自分の技に上乗せし、V3はダブルタイフーンから炎を吸収して自分の技に上乗せする。これは『仮面ライダー THE NEXT』の「ホッパーVersion3」の能力だが、このV3はその能力も使えるらしい。

 

『駄目だ! 火力が拮抗している! このままじゃジリ貧だ!』

 

「そうか、それなら……」

 

決着がつかない事に焦り出したアンクの言葉を受けて、俺は一つ賭けに出る。

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバー……』

 

『!? 止めろ! 生身のお前の方が持たないぞ!!』

 

「どうか……なああああああああああああああああああああッ!!」

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバー……』

 

アンクの制止を無視して、ひたすらに『セルバースト』を繰り返して火力を更に上げていく。すると……。

 

「……ぐ……おおお……ッ!!」

 

「! 皹が入ってきた!」

 

『いや、不味い!! 溜め込んでいたエネルギーが一気に爆発するぞ!!』

 

何!? それは不味いな! コイツをきっちりと撃破出来ないのは不満だが……止むを得ないかッ!!

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「!?」

 

「アンク!」

 

『分かってる!』

 

ゾーンのマキシマムによる瞬間移動で離脱し、その直後に起こった大爆発に巻き込まれる瞬間、足元に展開された魔法陣によって俺達は『虚空の牢獄』を脱出した。

 

 

●●●

 

俺が『虚空の牢獄』で死と隣り合わせのトレーニングを終えると、提出されたパッケージの有様をみて、束はぷりぷりと怒っていた。

 

「もうッ! ゴッ君ったら、ま~~~た性懲りもなく無茶したんだねッ! 『ゼロ』のパッケージもこんな真っ黒焦げにしちゃってさッ! 一回戦う毎にパッケージがボロボロになるんじゃ、束さんとしては激おこなんですけど!?」

 

「……悪い」

 

「本当に悪いと思ってる!? 思ってるなら今日もココにお泊りして!」

 

「いや、その理屈はおかしい。……だが、泊まるとしよう」

 

最近ではパッケージの修理やら、ドライバーのメンテナンスを担当してもらっている束に全く頭が上がらず、今日も今日とて束のいいなりとなり、『NEVER』の拠点に泊まる事になった。一方、怪我の手当てをしてもらっているクロエに対しては心配をかけて申し訳ない気持ちが強い。

 

「……兄様。本当にこれは必要な事なんですか?」

 

「それはどう言う意図で聞いているんだ?」

 

「兄様は今でも充分に強いです。私は何も焦る必要は無いと思うのですが……」

 

「それを言ったらアイツ等もそうだと思うんだが……」

 

『くそッ! 箒、大丈夫か!?』

 

『だ、大丈夫だ! まだ……やれるッ!』

 

ベッドの近くのモニターに写るのは、魔改造されたパワーダイザーとサイドバッシャーを相手に、決死の戦いを展開しているマドカと箒の二人。

それも箒に至っては、これまで使い慣れた『黒柘榴』ではなく、漸く完成した『紅騎士』を慣らし運転の後でイキナリ実戦に投入すると言う無謀っぷり。「無双セイバー」や「ソニックアロー」と言った一部の武装は『黒柘榴』から引き続き流用しているらしいが、それでもあのハイブリッドライダーマシンの相手は厳しいと思う。

 

「何て言うか……使えるモノが使えないって言うか、今より強くならないと不安なんだよ」

 

「……それは多分、あの二人も同じ気持ちだと思いますよ?」

 

「そうか……」

 

こうして、我々『NEVER』は最近、放課後になれば割と洒落にならない訓練を人知れず行ない、その度に憔悴して帰ってくる所為で寮に戻る余力など微塵もなく、そのまま『NEVER』の拠点で寝泊まりしている。ぶっちゃけ、ここ一週間は寮に宛がわれた自分達の部屋に殆ど戻っていない。

 

それはつまり、シャルロットとは授業中以外には、あまり会わない様になっていたと言う事。シャルロットにしても、完全なプライベートが保たれる時間が確保できた事で、この学校生活も多少は過ごしやすくなったと思う。

 

しかし、そんな実益を兼ねたシャルロットへの気遣いが、全ての終わりの始まりだったのだと、後になって俺は気付かされることになる。

 

 

●●●

 

 

その日、俺は生徒会に全然顔を出さなかったお蔭で、虚に呼び出されて溜まっていた仕事を消化する事になり、ついでに「DXオーズドライバーSDX」のメンテナンスをする所為で、昭和ライダー達との激闘を繰り広げなかった事もあり、今日は普通に寮で寝泊りする事になる。

 

つまり、この日は「シャルロットと過ごす初めての夜」と言う、誤解を招きそうな字面の展開となる訳だが、この際だからフランスで出会った時の「5963・ポルナレフスタイル」を披露する事で俺の正体を明かし、ポルナレフの格好でDIO様の台詞をのたまい、シャルロットをポルナレフ状態すると言う、俺得でしかないカオス極まるぐだぐだ展開にしてやろうと画策していた。

 

「では……行くとするか」

 

「相変わらずお前のやる事は分からんな……」

 

ほっとけ。これが俺の趣味だ。文句あっか。

 

そんなこんなで『NEVER』の拠点から寮の部屋まで、遭遇した女子全員からギョッとした視線を受けつつも、俺は意気揚々と自分の部屋へと戻ったのだが……。

 

「! よ、よお……って誰だ!?」

 

「? ゴクロー・シュレディンガーだが」

 

「は!? ゴクロー!? 何だよその格好!? つーか、何で此処に!?」

 

「何でって、ここは俺の部屋だろうが」

 

何故か部屋の中から一夏が出てきた。そして妙に焦っているような感じがするのは、俺の気の所為だろうか?

 

「それで……何でお前が此処に居るんだ?」

 

「え……いや、シャルルとちょっと男同士の話し合いを……なあ、シャルル?」

 

「う、うん。そう、そうなん……だ……」

 

そしてシャルロットは何故か布団に包まっていたが、俺の姿をみて表情が完全に凍り付いていた。どうやら1年前のフランスでの出来事は忘れていなかったらしい。

 

「あ……き、君は……まさか……ッ!」

 

「フン……久し振りだな。“シャルロット”」

 

そして、ここで漸くネタばらし。俺はシャルロットに転校した初日から正体に気づいていた事を告げ、寮の部屋にあまり戻らなかった理由の一つがシャルロットのプライベートタイムを確保する為である事を話した。

 

「は、初めからバレてたなんて……」

 

「まあ、フランスのIS事情を考えると、ぶっちゃけ“男子の代表候補生”って設定自体が滅茶苦茶だから、楯無や織斑先生なんかはお前の正体に薄々感づいていたと思うがな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「まあ、どっちでもいいだろ。それより、シャルルの正体を知ってるなら丁度良い。ゴクローも協力してくれよ!」

 

「協力?」

 

「おう! シャルルをデュノア社から守るんだ!」

 

そう俺に宣言した一夏の話を要約すると、IS学園の特記事項を使えば最低でも3年はシャルロットの安全が保証され、シャルロットをスパイとして道具のように使うデュノア社からを守れる。そして、その3年の間に対策を考える手伝いをして欲しいとの事。

 

取り敢えず、一夏の言いたい事とやりたい事は分かった。だが――。

 

「……どうやらお前は、『父親』と言う立場がどういった形で作用するのかを、まるで分かっていないみたいだな。いや、これはお前がデュノア社社長をシャルロットの父親では無いと、本気で思っているからかな?」

 

「は? どう言う事だよ?」

 

「血縁関係上、デュノア社社長はシャルロットの父親。そしてお前が言ったこの特記事項第二一には、『国家』、『組織』、『団体』はあっても、『家族』はない。つまりシャルロットとの血縁関係を理由に、それこそ“家庭の事情”とか適当な理由をつければ、明日にでもシャルロットをフランスに呼び戻す事が可能なんだよ」

 

「な、何ぃ!?」

 

そう、一夏の策はハッキリ言って使えない。ぶっちゃけ、前提からして既に崩壊しているのだ。

 

「ハッ。お前は本当に馬夏だな。お前はデュノア社社長がどんな人間か知っているのか?」

 

「そんなの、自分の娘を道具としてしか見てないクソ野朗だろ」

 

「ハズレでは無いが、それだけじゃあない。奴はお前が生まれる前から、表の社会と裏の社会の海千山千を相手に、様々な法律の穴を突いて様々な武器や兵器を売り歩いてきた武器商人。そして、その時に得たノウハウを活かし、量産機ISの世界第三位のシェアを誇る会社の社長と言う地位を手に入れた様な男だ。

当然、このIS学園の規定も充分に、それこそお前以上に理解した上で、この男女を送り込んだに決まっている。その程度の浅知恵でどうにか出来ると思ったら大間違いだ。そもそもお前、男女の話を聞いて何一つおかしいと思わなかったのか?」

 

「は?」

 

「さっきこの男女が言ったろう? 『三年前にデュノア社に引き取られて、それからISの適正が高い事が分かってパイロットになった』と。そして、今年になってから『広告塔として男装し、IS学園に男として編入した』ってな」

 

「? 何か変な所があるのかよ?」

 

「……お前、ちゃんとISを勉強してるのか? とりあえずISの総数を言ってみろ」

 

「えっと……確か、全部で467機だよな?」

 

「そうだ。そして、それぞれの国が自分達でISコアを生産する方法が無い以上、ISは数に限りがある。故に、各国のISにおける最も恐るべき事態は、“IS操縦者がISを持ってトンズラする事”だ。だからこそISを預かっている企業は、必ず“誰がISを使っているのか”を国に、そして国は国際IS委員会に報告する義務がある。公式・非公式に関係無くな。

だから3年前のデュノア社は、当然『シャルロット・デュノア』として報告した。愛人の娘とは言え、“社長の血縁関係者である”と報告すれば、政府も委員会も“身内なら裏切らないから大丈夫”と判断する」

 

「あ……でも、まさか……」

 

「? 何だよ? それがなんだってんだよ」

 

どうやらシャルロットはアンクの言いたい事に気付いたようだが、一夏は違ったらしく、アンクに答えを求めていた。

 

「……つまり、三年前の段階でIS委員会に女として登録されている人間を、一企業が独断でIS学園に男として送り込める訳がない。つまり、デュノア社だけでなく、フランス政府や国際IS委員会も全員グルって事だ」

 

「な、何だって!?」

 

シャルロットをシャルルに変えたのは、一企業の社長ではなく、ISを管理する巨大組織。ひいてはISの世界そのもの。その事に気づいた一夏は、相手が予想以上に巨大な存在であった事を理解し、驚愕している。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! そんな事して一体何になるんだよ!」

 

「……馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが、これ程までとはな。いや、自分の事を客観的に見れないだけか?」

 

「俺は自分の価値ってヤツを知らないだけだと思う。シャルロットは?」

 

「えっと……」

 

「何だよ! 言いたい事があるなら、ハッキリと言えよ!」

 

自分だけが訳が分からない事になっている現状に我慢ならなかったのか、半分ヤケクソになった様な態度で……って、よく考えてみれば、セシリアとの一件なんかを筆頭に、一夏は元々ヤケクソな部分があるから、普通の人なら全部ヤケクソみたいだな。

 

取り敢えず、一夏に自分が置かれている現状を懇切丁寧に教えるとするか。

 

「……いいか、一夏。今から言う事を良く聞け。デュノア社、フランス政府、国際IS委員会。この三者が『白式』のデータを欲しがっているのは、お前が“世界初の男性操縦者”だからって事だけじゃない。お前と『白式』が発現させた『単一仕様能力【ワンオフ・アビリティー】』も、お前が狙われる理由の一つだ」

 

「『単一仕様能力』……って言うと、何だっけ?」

 

「『単一仕様能力』ってのは、一般的には各ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する固有の特殊能力の事だが、それは各ISが操縦者間と行う、一対一の契約の様な側面を持っている。

だから、どんなに優れた才能や適性を持つIS操縦者であろうとも、それが例え血縁関係者なのだとしても、他人が発現させた『単一仕様能力』を使う事は理論上“絶対に”出来ない。複数の人間と契約するISは存在しないからだ。だからこそ、第三世代兵器が開発された訳なんだが……ここまでで、俺の言いたいことが分かるか?」

 

「いや……」

 

「つまり、お前はこの世で初めて“他人の『単一使用能力』を完全に再現した人間”と見られているんだよ。それも、よりにもよって『零落白夜』と言う“世界で最も強大な剣”と言える能力をだ。

つまり、『白式』のデータを手に入れれば、“男でもISが使える様になる”だけでなく、唯一無二と思われた“『単一仕様能力』を誰でも使える様になる”かも知れないって事だ。そして上手くすれば『ブリュンヒルデ』が使っていた力も手に入る。一石三鳥って所だな」

 

「もっと言うなら、『単一仕様能力』は本来なら第二形態に至ってようやく発現するが、それでも発現しないケースの方が圧倒的に多い。にも関わらず『単一仕様能力』を第一形態で、それも初期状態から僅か数十分の操縦で使える様になった事も異常だ。『拡張領域【バススロット】』が埋まって『後付装備【イコライザ】』が無い事を差し引いても、“『単一仕様能力』が使える”と言う点はデカい」

 

俺の解説にアンクが補足し、自分と『白式』がこのIS世界でどれだけ異常な存在なのかを、一夏にも分かるように教えていく。

まあ、束が言うには、『白騎士』のコアと『暮桜』のコアがコアネットワークを使って『単一仕様能力』を開発していた結果が、『白式』の“第一形態で『単一仕様能力』を使える”と言う特殊性の正体らしいのだが、それを知らない人間からすれば、そう言う風に見える……と言う事だ。

 

そして、ここまで説明し終えた時、一夏は突然ハッとした表情で俺達を見た。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それってつまり、千冬姉の力を誰でも使える様になるって事か!?」

 

「まあ……、そうだな。やり方次第だとは思うが、そう言う事も不可能ではないだろうな」

 

「!! 許せねぇ……ふざけやがって! 千冬姉のデータは千冬姉のものだ! 千冬姉だけのものなんだぞ!」

 

「「「………」」」

 

いや、他ならぬお前が、その「千冬姉だけのデータ」とやらを、現在進行形で使っているんだが……。ちゅーか、何で織斑先生の事になると、さっきまでのイライラするレベルの察しの悪さが、いきなりクリアな感じ冴えを見せるのだろうか。謎だ。

どうしたものかと思いながらアンクを見れば、「お前が言うな」と言わんばかりの視線を一夏に向けており、シャルロットに至っては、激怒する一夏の剣幕に戦々恐々としていた。無理もない。シャルロットは『白式』のデータを奪取する為にやってきた訳だからな。

 

「……それで? お前はどうしたいんだ?」

 

「俺は……俺の家族を守る! 千冬姉の名前を守る! それを邪魔する奴は、誰だろうとぶっ飛ばす!」

 

「そうか。つまり、この男女はお前にとって、その“ぶっ飛ばす敵”って訳だ」

 

「!!」

 

「はぁ!? どうしてそうなるんだよ!!」

 

「だってそうだろう? 少なくともお前と違って聡明なコイツは、さっき俺達が言っていた事は分かっていた。分かっていて『白式』のデータを奪おうとしていたんだ。それなら、お前にとっては“織斑千冬の名を傷つけようとしていた、排除すべき敵の先兵”以外の何者でもない。言わば加害者だ。助ける義理は無い……と言うか、そもそもコイツは助ける必要が無い」

 

「た、助ける必要が無いって……どう言う事だよ!?」

 

「この男女はこの任務に失敗したとしても、デュノア社からもフランス政府からも罰せられることは無い。成功しようが失敗しようが、 デュノア社はコイツを“悲劇のヒロイン”兼“クリーンな広告塔”として祀り上げる腹積もりだ。金食い虫の社長婦人を排除した上でな。

つまりコイツには利用価値がある。利用価値がある限り、デュノア社がコイツを切り捨てることは無い。むしろ必死こいてコイツを“守る”だろう」

 

「そ、そんなのは、守るなんて言わねぇ! 俺が、俺がちゃんとシャルロットを守るんだ!」

 

いや、そう言うお前も、利用価値があるから守られているんだけど……なんて事を言うのは野暮か? そして、それを口に出して言う者は居ないのは、俺も、アンクも、シャルロットも、そんな事は言わなくても分かっているからだ。この場でソレが分かっていないのは一夏だけ。

 

「……そうだったな。お前はそうやって、守るモンと守らないモンと、お前の都合で選り好みして生きてきたんだったな。だから、自分の中で明確な線引きが出来てない。そうでなきゃ、そんなフラフラした事は言えない」

 

「……は? 線引き?」

 

「そうだ。例えばコイツ……ゴクローは『愛を失い、愛に彷徨う人間なら必ず助ける』。そして、『人間の自由を、誰かの未来を奪う奴等は例外なく悪』って言う至極単純な、そして絶対的な二つの線引きがある。

だから、『愛を失い、愛に彷徨う人間』であると判断したなら、コイツはそれが何者であろうとも、まずは全力で助けようとする。その相手が暴走して『人間の自由を、誰かの未来を奪う様な悪』に堕ち、“力でしか止める事が出来ない”と、“それ以外に助ける方法が無い”と結論を下すまでは、コイツは何が何でも、『愛を失い、愛に彷徨う人間』を助けようとする。

まあ、ソレを実際にやるのは難しいし、それ相応の覚悟もいる。だからコイツは『正義の味方』を自称しないし、そうあろうとはしない。その一線を越えたら、いつか勘違いするからだ」

 

「………」

 

「それともう一つ。お前が必死こいて守ろうとしている織斑千冬の名前だが、ソレはいずれ必ず地に堕ちる」

 

「!? ど、どう言う事だよ!?」

 

「一つ聞くがお前、『白騎士事件』についてどの程度まで知っている?」

 

「そりゃ……世界最大のテロ事件だろ?」

 

「それじゃあ、『白騎士』の正体については?」

 

「分かってない。だけど、多分千冬姉だと思う」

 

「え!? ええええええええええッッ!?!?」

 

一夏の言葉に、シャルロットは今までに見たことが無い程の大きなリアクションを見せた。まあ、普通の奴は大体こーゆー反応をするんだよな。

 

「な、なんだよ。千冬姉が『白騎士』で何がおかしいんだよ?」

 

「お前、頭脳がマヌケか? ウサギ女がISを発表して『現行兵器を凌駕する』って言葉が学会に認められなかった一ヶ月後に、日本を攻撃可能な国のコンピューターがハッキングされて、日本に二千三百四十一発のミサイル攻撃が起こり、それの半数を『白騎士』が打ち落とした。そして『白騎士』を捕獲、或いは撃破する為にやって来た戦闘機や軍艦が到着するのを、『白騎士』はそれらを全て撃破する為にワザワザ待っていた。そしてその悉くを海の藻屑に変えた……何処か、妙だとは思わないのか?」

 

「……?」

 

「つまり『白騎士事件』はISの優位性を世に知らしめる為だけに行った、織斑千冬とウサギ女の自作自演だ。そしてそれは織斑千冬が、ウサギ女と共に『白騎士事件』を起こした、人類史上最悪のテロを起こした超弩級の犯罪者って事でもある」

 

「……はあッ!?!?」

 

「『白騎士』の正体に感づいておきながら、そんな事には考えが及ばなかったとは……マヌケもここまで来ればある種の才能だな」

 

言ってやるなよ、アンク。一夏は多分、考えが及ばないんじゃなくて、「敢えて考えないようにしていた」んだ。自分の肉親が犯罪史に名を連ねるような大犯罪者だなんて、誰だって考えたくないだろう?

 

「……とにかく、本来ならそうなる筈だった。だが、世界は二人を“犯罪者”ではなく“英雄”に仕立て上げた。何故なら、ISにはそうするだけの利用価値があったからだ。そうでなかったら、二人は今頃この世には居ないし、お前と箒は“人類史上最悪のテロリストの家族”として生きる事を強いられていた筈だ」

 

「テ、テメェ……ッ、ゴクロー……ッ! 歯ぁ食いしばれぇえええええええええええええええええッ!!」

 

「おっと!」

 

怒りを露わにして俺に殴りかかってきた一夏を、怪人体となったアンクが難無く拘束して床に押さえつけた。床に顔を擦りつけながら、一夏は拘束を解こうと暴れるが、拘束が解ける気配は一切無い。

 

「ったく、どうにも暴走する癖があるな。お前は」

 

「離せッ! 離せよぉッ! 離せぇえええええええええええええええええッ!!」

 

「馬夏。どけるか。つーか、お前常日頃から“守る”って言ってるが、それがどう言う事か分かってんのか?」

 

「あぁっ!?」

 

「“守る”ってのは極端な話、強者が弱者に施すエゴだ。力が無くては何も守れず、その力だって使いこなせなければ意味が無い。力を十全に使いこなせない人間に、人を守る事は出来ない。

だが、お前はこれまで自分の力や覚悟が中途半端でも、お前はお前の望む通りに人を守れていた。それが何故だか分かるか?」

 

「それが“正しいことだから”に決まってんだろ!!」

 

「違う。お前が織斑千冬の……“最強最悪のテロリストの弟”だと認識されていたからだ」

 

「!?」

 

「はっきりと言う。お前が今までの方法で人を守れたのは、お前が“織斑千冬の弟”で、“織斑千冬に守られていたから”だ。これまでお前がやって来たことは、お前が“織斑千冬の弟”であると言う、一線を超えた人間に対する恐怖の裏返りでしかない。

そして、仮に今まで通りに“織斑千冬の弟”って立場でこの男女を守れたとしても、連中は『次の男女』を送り込むだろう。それがお前にとっての有効打になると分かったからだ。代わりなんざ世界中から幾らでも探せるし、用意する事だって出来る。そしてお前はソイツ等が送り込まれる度に、ソイツ等を“守る”事で欲望が満たされる……実に良く出来た美しい循環だな、オイ?」

 

「俺は、俺は別に、誰かを傷つけようとしてる訳じゃない!」

 

「嘘をつくな。“守る”とはつまり、“何処かに存在する敵を、何らかの力を持って排除する事”だ。そしてお前の場合、その力は単純な暴力を含めた“自分の力だと思うモノ”だ。お前は永久無限に自分の手に入れた力を、敵と見なした何者かに振るう事を望んでいる」

 

「え、永久無限ってそんな大げさな……」

 

「そうか? “守る”事と“救う”事は違う。仮に困っている誰かが“救われた”なら脅威は無くなり、“守る”必要は無くなる。逆に言えば、ソイツが救われなければ、永遠にソイツを“守る”事が出来る。

意識してか無意識なのかは知らないが、この馬夏はずっとそんな手段を選んで生きている。要するに、コイツの言う“守る”は、自分が守っていると言う実感を得る為に、守ると決めた相手に苦痛を強要してるんだよ。箒も、中華娘も、男女、お前にもな」

 

「………」

 

一夏をフォローしようとするシャルロットに対するアンクの反撃に、シャルロットは思わず口を噤む。

 

シャルロットも本当は分かっていたのだ。シャルロットは先程「クラスの皆を騙し続ける事が苦痛である」と言った。それを聞いた一夏は、シャルロットに男装を続けて此処に居る事を提案したが、それはシャルロットにとっては「周囲を騙し続ける生活を続ける」という事である。

つまり一夏は、自分の立てた策が、シャルロットに苦痛を伴う生活を3年に渡って強いる事なのだと気づいていないのだ。自分が「シャルロットを守っている」と言う認識に惑わされて……。

 

「はっきりと言ってやる。弁えろ馬夏。お前がコイツ出来る事は何一つとしてない。何一つとして、してやれることは無い」

 

「じゃあ、お前等はシャルロットを何とか出来るって言うのかよ!」

 

「出来ないな。ぶっちゃけ、コイツを救える誰かがいるとすれば、それはコイツだけだ。コイツはコイツにしか救えない。自分を救えるのは自分だけ。お前が関われば駄目になる。それに関しては、箒や中華娘も同じだ」

 

アンクは一夏の反撃に全く動じず、淡々と自分の考えを述べていく。

 

確かに一夏の行動で箒は守られた。鈴音も守られた。しかし、その結果はどうだ? 「いじめ」と言う行為は、誰にもバレないと言う閉鎖的な環境だからこそ成り立つ。織斑千冬から習った武術を使い、制裁の名の元に影でバレない様に暴力を振るい、お互いに“どんな物事も表沙汰にならなければ問題ない”と学習し、その結果は『人知れず行われる、際限の無い暴力と報復の連鎖』だった。

 

もしも、一夏が大勢の人間を味方につけるという選択をしていたならば。

 

もしも、一夏が暴力による解決は不可能だと判断し、別の方法を模索していたならば。

 

箒や鈴音の学校生活は、もっと違っていたのではないだろうか?

 

「それともう一つ。お前、『俺と千冬姉は両親に捨てられた』って言ってたが、アレはちょっと違うだろ?」

 

「はぁ!? 何処か違うってんだよ!?」

 

「お前と織斑千冬では認識が違う。織斑千冬にとっては『両親に捨てられた』で良いだろう。何せアイツには両親との思い出が、“所有されていた記憶”があるんだからな。だがお前にはそれが無い。表現としては『親が初めからいない』が正解なんじゃないか? だからこそ『親が何だって言うんだ』なんて酷い事が平気で言える」

 

「酷い!? 何でそれが酷い事になるんだよ!」

 

「お前はそもそもこの男女を誤解している。コイツは『相手が父親だから言う事を聞いていた』訳じゃ無い。ゴクロー、お前もそう思ってるだろう?」

 

ここで俺に振るのかアンク。散々に煽っておいてから丸投げとか、キラーパスにも程がある。だが、俺も言いたいことが無いとは言えないので、せっかくだから言っておこう。

 

「……シャルロット。お前が父親の言う事を聞いていたのは、自分が娘だからでも、他に行く所が無かったからでも無い。お前は『父親に褒めてもらいたかった』から、『本当の意味で守って欲しかった』から、『娘として愛されたかった』から命令に従っていた……違うか?」

 

「……ッ!! ど、どうして……」

 

「母親を亡くし、それで失った愛を父親に求めた。そう考えればスッキリする部分が多いと思った。それが欲しくて、父親の欲しい物をお前は与え続けた。そうする事で、自分の欲しい物が手に入ると信じていた」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! シャルロットの父親は娘を道具みたいにする様な奴なんだぞ! 何でそんな奴に好かれたいなんて思うんだよ!」

 

「……やはりお前には分からないか」

 

「は!?」

 

「お前は両親を知らない。親に愛された記憶が無い。だからこそ、ソレを求める心理が理解出来ない。だからこそ、織斑先生が『白騎士事件』を起こし、ブリュンヒルデになった事は、“生き別れた両親に再会する為だった”とは……考えつかなかったのだろうな」

 

「!?」

 

「人は孤独には勝てない。だからこそ、例え愛を求める相手や、自分の行為が悪だと分かっていたとしても、人は愛を求めずにはいられない。人は過ちを犯してでも、他者と繋がらなければ生きていく事が出来ない。それは織斑千冬も同様だ」

 

俺の言葉にシャルロットは共感を覚えた様な表情をし、一夏は愕然としつつも否定的な表情をしている。織斑先生にそんな部分があるのだと言う事を、受け入れられないのだろう。

 

「違う……。違う……、違うッ!! 千冬姉はそんな弱くねぇ!! デタラメ言うんじゃねぇ!!」

 

「信じる、信じないは、お前の自由だ。もっとも、お前の前でずっと強き姉を演じてきたあの女が、今更お前に本当の事を言うとは思えないがな」

 

「……ッ!! こんの野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「おい!! さっきから何をやっている!! 近くの部屋から苦情が殺到しているぞ!!」

 

一夏が叫ぶと同時に、織斑先生が部屋にノックも無しに乗り込んできた。俺の姿を見て一瞬動きが止まったが、アンクと一夏、そして即座にシーツに身を包んだシャルロットを一瞥すると、即座に状況を判断して、俺達に指示を出す。

 

「……アンク、織斑を離してやれ。それと織斑。今すぐ部屋に戻れ」

 

「で、でも、千冬姉! コイツ等は……!」

 

「織斑先生だ。そして二度とは言わん。今すぐ部屋に戻れ」

 

「! ……クソッ」

 

「何だ? 不満か?」

 

「……いいえ」

 

色々と言いたい事があるのだろうが、流石に織斑先生には強く言えず、一夏はスゴスゴと部屋を去って行った。それを見届けると織斑先生も立ち去り、部屋の中には俺とアンク、そしてシャルロットの三人が残った。

 

しばらく沈黙が部屋の中を支配していたが、シャルロットの方から俺に話しかけてきた。

 

「……ねえ」

 

「……何だ?」

 

「お父さんは私の事、好きになってくれると思う? 愛してくれると思う?」

 

「……俺は、お前の父親はお前の心の内を知っていたと思う。そして、最大限に効果を発揮するタイミングを狙って、父親はお前が望むモノを与えるだろう。お前が心から欲していたモノを……」

 

「……そっか」

 

そして再び沈黙が訪れる。その後、お互いに会話らしい会話も無く、俺とシャルロットは床に付いた。

 

 

○○○

 

 

一方、部屋に戻った一夏は、一連のやり取りを思い出して、鬱屈した感情と鬱憤を抱えていた。

 

「畜生……! 畜生……ッ! そんな訳あるか……、そんな事あってたまるか……ッ!!」

 

「分かるわよ、貴方の気持ち。とても、信じられる事じゃないわよね」

 

「!?」

 

出現したのか、初めからそこに居たのか。自分の部屋の中に、何時の間にか包帯を顔に巻いた、黒ずくめの女が悠然と立って此方を見ていた。

 

「だ、誰だアンタ!?」

 

「貴方の味方よ。そして断言してあげる。シュレディンガーやアンクの言う事は間違っていると」

 

「……え?」

 

『UTOPIA!』

 

黒ずくめの女が金色のメモリを起動させると、メモリは自動的に腰に装着したベルトに吸い込まれていき、黒ずくめの女の全身を青黒い炎と黒い電撃が覆う。そして、それらが晴れた時、黒ずくめの女は全身に金色の装甲を纏っていた。

 

「見せてあげるわ。この世界の真実を」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

女の右手が一夏の頭に触れ、聞き慣れた音声が聞こえた瞬間、一夏の視界は暗転し、その意識は現実から急速に離されていった。

 

黒ずくめの女が一夏に見せたのは、ゴクロー・シュレディンガーも、アンクも、『ミレニアム』も、シュラウドも存在しない、織斑一夏が絶対唯一の存在であり、織斑一夏が望む事なら全てが現実になる『黄金郷【エルドラド】』。

 

或いは、ゴクロー・シュレディンガーと同質の存在によって、ありとあらゆる意味で破壊され尽くした『暗黒郷【ディストピア】』

 

「全ては、ゴクロー・シュレディンガーって男の仕業なのよ」

 

底無しの執念による模索と探索と捜索の果てに『ミレニアム』が突き止め、手に入れた情報を惜しげも無く使い、魔女は仮面の下でゾッとする様な笑顔を浮かべた。




キャラクタァ~紹介&解説

5963&アンク
 常軌を逸する方法で急激にパワーアップし続ける、二人で一人の『仮面ライダー』。裏側から世界を見続けた結果、気に入らないからと言って敵対してもキリが無い事は嫌と言うほど理解している。

シャルロット・デュノア
 正体を知っている5963が気を使った結果、原作通りの展開で一夏に女だとバレてしまった男装少女。実際、彼女がデュノア社の命令に従っていたのは、「他に居場所や行き場所が無い」だけではなく、「失った家族愛を唯一の肉親である父親に求めていた」のではないかと作者は思う。

織斑一夏
 隠された真実を知って自分が定義した存在意義が揺らぐ原作主人公。『アマゾンズ』の引きこもり養殖アマゾンの如く、自分の掲げる信念を言葉で打ち砕かれてしまった訳だが、実際に『白騎士事件』以降のコイツは「世界が構成した水槽の中で養殖された」と解釈しても良さそうな生き方をしている気がする。



タジャドルコンボ
 鳥系コアメダル3枚で発動する「炎のコンボ」。800年前の王じゃないけど、5963とアンクにとっても「最もフィットしたコンボ」である。コンボ特有の体への負担の大きさは変わらないが、一応意識を保つ程度には耐えられる様になってきた。
 今回「火柱キック」との激突で使用した「プロミネンス・ドロップ」は、劇場版『MOVIE対戦CORE』で仮面ライダーコアに使用した両足蹴りバージョン。ただ、イメージ的には仮面ライダーギャレン・ジャックフォームが使用した「バーニング・ドロップ」の方が近いかも知れない。

IS学園特記事項第二一
 原作において対デュノア社用の手札として一夏が提示した規定だが、作中でも語られたように、この規定には「家族」は適用されない為、デュノア社社長と血縁関係にあるシャルロットは「家族」を名目に、何時でも呼び戻す事が可能となる。
 要するに原作やアニメで一夏の提示した方法では時間稼ぎにすらならない訳で、ちょっと考えればシャルロットは「どう足掻いても絶望」な状態である筈なのだが、一夏より優秀な筈のシャルロットは、“何故か”その事に気づいていない。

5963の線引き
 作者が『IS』を読んだ感想として、ヒロインの多くが「愛を失い、愛に彷徨う人間である」と考えており(つーか、そんな描写が無さそうな設定のヒロイン枠は五反田蘭位しかいない気がする)、5963が助ける相手を「愛を失い、愛に彷徨う人間」に設定している。それはつまり、相手が「愛を失って暴走している人間」であると判断した場合、対応が甘くなると言う事であり、シュラウドを筆頭に束や千冬、鈴音に対する5963の対応の甘さはコレが原因。
 ちなみに、アンクに『アマゾンズ』のアル中おじさん事、鷹野仁が語った“守る者と守らない者の線引き”を語ってもらったのは、単純に名前に“鷹”の字が入っていた事だけが理由。それ以上でもそれ以下でも無い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。