DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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四話連続投稿の二話目。ここから物語は加速し、コンボの大盤振る舞いとなっていきます。


第31話 Shout out

翌日。教室の空気が昨日までと明らかに違っていた。

 

重い。兎に角重い。女子高特有の無駄に明るく騒がしい朝の教室が、一瞬お通夜の会場か何かと錯覚してしまう程に空気が重苦しい。そして、この空気の発生源は教室の一番前の座席の中心、即ち一夏だった。

 

「……おはよう」

 

「………」

 

無視か。……いや、まるで親の仇でも見る様な目で、俺の事を睨んでいるのだから、無視とは違うな。

 

「お、おはよう。一夏」

 

「おはよう、箒。後でちょっと良いか?」

 

「あ、ああ……」

 

「……」

 

その後、教室に織斑先生と山田先生が入ってきて、教室内の空気を察した様子だったが、その事に触れる事無く淡々と授業を進めていた。もっとも、織斑先生から「放課後に必ず生徒会室に来るように」とメールが来た時は、非常に憂鬱になったが。

 

「それで、今度は何をしでかしたのだ?」

 

「シャルロットの件が一夏に露見して、シャルロットの対処やら、『白騎士事件』やら、何やらで一夏と口論になった」

 

「あら? 思ったよりも早くバレちゃったのね」

 

「白々しいな猫女。お前、あわよくばあの男女を手駒にしようとしていただろう?」

 

「そんな事はどうでもいい。どうしてそこから『白騎士事件』に話が飛んだのだ?」

 

「それは……」

 

「聞くよりもコレを見たほうが早い」

 

『BATTA~♪』

 

『KUJAKU~♪』

 

俺が昨日の夜に起こった事を正直に話そうとした瞬間、アンクがバッタカンとクジャクカンを起動させて、昨日の様子を大スクリーンで映し出した。恐らく、アンクが自分の記憶をデータ化したものだろう。視点がアンクの視点っぽいし。

 

「……なるほどね。確かに一夏君の方法じゃ無理ね。時間稼ぎにすらならないわ」

 

「そして、既に『コイツと馬夏が仲違いしたらしい』と、学園内に存在するスパイから各国に情報が流れている。となれば、次は『どうしてそうなったのか?』と理由を知りたがる。男女の事は時間の問題だろうな」

 

「俺としてはそれよりも、箒が一夏から聞いた事が気になる。一夏が箒に『ゴクローの事をどう思うか?』と聞いて、それに箒が答えたら、一夏は『待っててくれ、俺が必ずお前達を守る。必ず元に戻してみせる』と返したらしい」

 

「完全にお前を敵と認識している台詞だな」

 

「ああ、その中でも気になるのは『元に戻してみせる』と言う台詞だ。『元に戻す』とは一体何の事を言っているのか――」

 

『た、大変です! 織斑先生!』

 

「何だ山田先生」

 

『織斑君と三組のボーデヴィッヒさんがアリーナで模擬戦を行なっていた所、突然ボーデヴィッヒさんのISが異常な反応を見せていまして、非常に危険な状態です!』

 

!! ラウラのISに異常な反応……『VTシステム』か!

 

ドイツ軍のドス黒い闇について嫌という程知っている俺達はすぐにその可能性に気づき、織斑先生は俺に目配せした。

 

「分かった。シュレディンガー、悪いが織斑を助けてやってくれないか?」

 

『違います! 織斑君がボーデヴィッヒさんを圧倒していて、ボーデヴィッヒさんが危険な状態なんです!!』

 

「「「「何(だと/ですって)!?」」」」

 

俺とアンク、楯無と織斑先生の四人は、山田先生の発言に耳を疑った。

 

前世では居合い斬りの達人の技術も機械によって再現する事が可能になっていたが、この世界の科学や機械工学の技術レベルはそれらを遥かに凌駕し、それによって製作された『VTシステム』は、文字通り「ブリュンヒルデを再現するシステム」であり、その性能を直に体験した俺は、アレを起動させたISがどんなモノなのかよく知っている。

 

だからこそ信じられない。ISの訓練を始めて一ヶ月弱といった程度の一夏が、ドイツ軍人のラウラを取り込んだ『VTシステム』搭載機を圧倒するなど。

 

「すみません。確認しますが、危険なのは一夏では無く、ラウラなんですね?」

 

『は、はい! ダメージレベルが既に「【レッドゾーン】」を超えて、今にも「【デッドゾーン】」に――』

 

「アンクッ!」

 

「チッ!」

 

ドライバーを装着すると同時にアンクがドライバーに入り込むと、俺は窓から外へ飛び降り、ドライバーに装填されている赤・黄・緑のメダルを勢いよくスキャンする。

 

「変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

落下しながらメダル上のエネルギーが俺の周囲を回転し、何時聞いても独特な歌が終了すると同時に全身が装甲に包まれる。第三アリーナまでの最短距離を一直線に飛行しながら、タカの目を使って第三アリーナの様子を目視で確認する。

 

すると其処には、何時もと形状が異なる『白式』を纏った一夏と、『VTシステム』を発動させて尚、劣勢に立たされたラウラの二人が戦っていた。

 

俺が第三アリーナの様子に近づいている間に、一夏の『零落白夜』が装甲を切り裂き、ラウラのISから黒い液体が血の様に噴出して一夏の顔面に直撃するが、一夏は構うことなく前進して懐に飛び込んだ。

ラウラの右足を払って体勢を崩し、頭を掴んで地面に叩きつける。そして、起き上がろうと足掻くラウラを押さえつけ、空いている左手に力をこめると、一夏は勢いよく切り口に左手を突っ込み、中からあるモノを引きずり出す。

 

一夏の左手はドス黒い液体に塗れ、掌には赤色に輝くISコアが収まっていた。

 

何をするのかを察した俺は、左手に召喚したメダジャリバーに3枚のセルメダルを装填すると、右手に持ったオースキャナーで、メダジャリバーの刀身を撫で上げる。

 

『トリプル! スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

空間ごと対象を切断・破壊する「オーズバッシュ」によって第三アリーナのシールドが破られ、そのまま第三アリーナに突入。しかし、一夏は突入した俺には目もくれず、ゆっくりと万力の様な力を込めて、ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』のISコアを握り潰した。ガラス細工の様に砕け散ったISコアが、黒い液体に混じって地面に流れ落ちていく。

 

ISコアが破壊され、装甲がドロドロとした黒い液体に変化する事で、その中からラウラが現われる。一夏の方も気にはなるが、それよりも倒れているラウラの方が気になって仕方ない。横たわるラウラは、意識を失いぐったりとしていた。

 

「……汚ねぇな」

 

「……ッ! 一夏、お前……何をしたのか分かっているのか!?」

 

「ん? ああ、コイツからISコアを引きずり出して粉々にしたんだ。それが何か問題あるのか?」

 

「なっ!?」

 

コイツ、本気でそんな事を言っているのか!? ISのISコアを引きずり出して破壊すると言う事は、人間で例えるならば心臓を抉り出して握りつぶすのと同義。そして、それを操縦者と深くリンクした状態のISに対して行った場合、操縦者自身にもソレと同様のダメージが、感覚としてキックバックされる事になる。

 

「なんて酷い事を……」

 

「は? 何だよ? コイツは火種所か、何時爆発するか分からない爆弾だろ? なら、こうするのが一番じゃねぇか」

 

「ラウラがそのISを手放せば、何の問題も無かったんだ!」

 

「おいおい、俺はお前が手を拱いている間に、IS学園の皆を危険から守ったんだぜ? なんで責められなきゃいけないんだよ?」

 

「……本当にそれだけか?」

 

「そうだな……まあ、力に振り回されたラウラが許せねぇのは確かだな。ISはぶっ壊したから、起きたら一発ぶん殴ってやらないと気が済まねぇ。それに千冬姉の、千冬姉だけのデータを勝手に使ったのも許せねぇ。まあ、こんな真似事の偽者野郎はぶっ壊れて当然だろ」

 

「……はッ。『織斑先生だけのデータ』だと? 面白いジョークだな。その『織斑千冬だけのデータ』を使って戦っているお前が言うと、滑稽以外の何者でも無いぞ」

 

「……あ゛?」

 

「それにお前の戦闘技術は一体誰から学んだんだ? 織斑先生だろう? ラウラもドイツ軍に居た頃に、織斑先生から色々と戦闘技術を学んでいた。それなのに何でラウラが『真似事の偽物』で、お前はそうじゃないんだ? ちょっと論理的に可笑しくないか?」

 

「……何が言いてぇんだ?」

 

「そうだな……今のお前を織斑先生が見たら、『十五歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る』って言うんじゃないかな……と思っただけだ」

 

「ッ!! テメェ……ッ! やっぱり、そうだったのか……ッ!!」

 

一夏の顔が憤怒に歪む。しかし、予想の200倍位怒っている気がするのだが、一体何が一夏の琴糸に触れたのだろうか? ちゅーか、「やっぱり」って何だ?

 

「テメェは……この俺がぶっ飛ばすッ!!」

 

「……アンク、コンボだ」

 

『普段ならこんな奴を相手に……と言いたい所だが、確かに何かヤバそうだな。コイツを試してみろ』

 

やる気……否、殺る気マンマンで俺に『零落白夜』の切っ先を向ける一夏に対し、俺はアンクにコンボを要求すると、ドライバーに装填されていたコアメダルの総入れ替えが起こり、三枚のコアメダルは青色に統一される。これでタトバコンボや亜種形態とは一線を画する力の一端を解放する為の準備が整った。

 

「超変身!」

 

『シャチ! ウナギ! タコ! シャ・シャ・シャウタ! シャ・シャ・シャウタ!』

 

水棲系コアメダル3枚を用いて変身する『シャウタコンボ』。これはラトラーターやガタキリバ、そしてブラカワニと異なり、負担を軽減する方法が全く無い(まあ、コンボを使用しておいて負担が無い方がおかしいのだが)。

 

俺の体は既にコンボの負担に対して、ある程度は慣れているものの、コンボの使用時は短期決戦が最上。

だが今の一夏はラウラを倒す程の強敵。無傷で拘束し無力化するのは難易度が高いと言わざるを得ないが、やるしかあるまい。ここは一つ士気を上げる意味でも、こう言わせて貰う。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 

「俺に数える罪なんて無ぇ!!」

 

激昂する一夏が振るう雪片弐型を、固有能力の『液状化』で回避しつつ、俺はアンクと練った作戦を忠実に実行する。一夏をこのまま『液状化』で翻弄しつつ、高圧で発射される水流や、軌道が読みづらい電撃を帯びたウナギウィップで攻撃し、徐々に弱った所をアイスエイジのマキシマムで凍結させて拘束するのだ。

 

「フッ!! ハァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

しかし、戦況は思った通りには進まなかった。一夏は高圧水流や氷結攻撃を巧みにかわし、ウナギウィップに至っては軌道を見切って切り裂いている。

……おかしい。『虚空の牢獄』以外でシャウタコンボを見せたのは、今回が初めてだ。それだと言うのに、一夏の動きは「俺の行動を予測している」と言うより、「シャウタコンボの能力と戦い方を知っている」と言った方が正しい感じの動きを見せている。

 

『確かに妙だ。無駄に手強い』

 

「ああ、新フォームの初登場ってのは、基本的に補正が掛かるモンなんだがな」

 

『……馬鹿な事を考える程度の余裕はあると考えておくぞ?』

 

しかし、そんな余裕は次の瞬間には跡形も無く消滅した。俺が『液状化』を解く瞬間、一夏が左手のクローから発射した荷電粒子砲で着地地点を赤熱化させ、『液状化』が解けた俺達にダメージを与えたのだ。

 

「何ィイイイイイイイイイイイッ!?」

 

おかしい! コレは『BLACK RX』において、蘇ったシャドームーンがバイオライダーを攻略した方法と全く同じ! どうして一夏がこの戦法を知っている!?

 

……いや、コレはもはや確定だ。一夏は明らかにシャウタコンボの能力を知っている!

 

「クソ……不味いぞ……」

 

「これで、終わりだぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

両手に握る雪片弐型の刀身がスライドし、『零落白夜』が発動されると、爆発的な加速を持って俺に止めを刺そうと一夏が迫ってくる。

それに対して、俺が迎撃手段を考えた瞬間、黄色いシャチアイが紫色に光り、そこから紫色の波動が放出された。

 

「!? もしかして……ッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「フンッ!!」

 

一夏が雪片弐型を担いで急接近する中、俺は渾身の力を込めて地面に拳を叩きつけた。拳が地面に埋まり、そこを起点に地面に亀裂が生じる。そうして生まれた地面の隙間からは紫の光が漏れ出し、右手に確かな手応えを感じた。

 

「!! オラァッ!!」

 

右手に握りしめている物の正体を理解した俺は、地面から勢いよく引き抜いたソレを使い、『零落白夜』の刃を受け止めた。

 

「!? 何ッ!?」

 

「出た……!!」

 

必殺の刃を受け止めたのは、恐竜の意匠が施された、透明な紫色の刃を持つ巨大な斧「メダガブリュー」。

 

確かにプトティラコンボの使用条件である「6種類のコンボが使えるようになる」はクリアしているが、一度もプトティラコンボを使用していない状態で、コレを取り出せるとは思わなかった。

しかし、このメダガブリューはS.I.C.を参考にしている所為か、かなり大型で取り回しが結構厳しい。だが、無の属性を持つコイツの刃なら、『零落白夜』にも十分に対抗出来る事は確かだ。

 

「オラアァッ!!」

 

「グッ!! 面倒なモノをッ!!」

 

……おかしい。メダガブリューを取り出してから、メダジャリバーも召還しての二刀流で戦っているのだが、一夏はメダガブリューをやたらと警戒して戦っている。まさか、メダガブリューの力も知っているのか?

 

「中々やるな……」

 

「ハッ! 俺はもう、昨日までの俺じゃ無い! お前みたいな奴に、負けたりはしないんだよ!」

 

……やはり、何かが確実におかしい。だが、それに関しては後回しにした方が良いな。

 

俺は4枚のセルメダルをメダガブリューの刀身の中にセットし、レバーを操作することでセルメダルからエネルギーを抽出し、それを凝縮・高密度化させる。

 

「コレで決まりだ」

 

『ゴックン! シャウタ! ~~♪ ~~♪』

 

「アンク! メダル!」

 

『チッ! しっかり決めろ!』

 

『タカ! ウナギ! バッタ!』

 

「もう一丁!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

シャウタコンボからタカウタにチェンジし、シャウタで発動させた「グランド・オブ・レイジ」に、更に『スキャニング・チャージ』による必殺技で破壊力を増強させる。

タカアイで狙いを定め、バッタレッグで天高く跳躍すると、ウナギアームから発せられる電撃を纏った「グランド・オブ・レイジ」を一夏目がけて急降下する。

 

「オオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「来いやぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

それに対して一夏は、左腕の籠手からビームシールドを展開し、右手に雪片弐型を握る。ビームシールドで攻撃を耐え、そこからカウンターを狙うつもりだろう。

だが、この一撃はその盾を容易く両断するだけの破壊力を秘めている。防御を一切無視して、一気に決めてくれよう。

 

しかし、それは不意の闖入者によって防がれた。

 

「其処までだ!」

 

「ッ!!」

 

その声を受けて、ビームシールドと「グランド・オブ・レイジ」が激突する寸前、背中のパッケージのブースターを吹かして無理矢理自分の軌道を反らし、声のした方向を見る。

 

俺達の戦いを止めたのは、織斑先生だった。

 

「其処までだ。双方、武装を解除しろ」

 

「でも千冬姉! コイツは――」

 

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

「……織斑先生。ラウラは……」

 

「お前達が戦っている間に運んだ。それと織斑、貴様は後で職員室に来い。ボーデヴィッヒのISのISコアを破壊した件で、聞きたいことが山ほどある。罰則も覚悟しておけ」

 

「そんな! 千冬姉! 俺は――」

 

「織斑先生だ。何度言わせれば分かるのだ、馬鹿者」

 

「……はい」

 

「それでは、今後一切の私闘を禁ずる。解散ッ!!」

 

織斑先生が手を叩き、取り敢えずこの場はお開きとなった。疲れた……。

 

 

●●●

 

 

オーズドライバーを束とクロエに預けた後、俺はアンクと共に、ラウラと一夏、そして俺と一夏の戦闘データを、『NEVER』の拠点にある自室で何度も見直していた。ラウラと一夏の戦闘データに関しては、アンクが砕け散った『シュヴァルツェア・レーゲン』のISコアの破片からデータを集め、映像としてある程度まで復元したものも含まれている。

 

「……何て言うか、まるで猛禽類か、猫科の肉食獣の狩りみたいだな」

 

「ああ、動きに無駄な力が無い」

 

一夏とラウラの戦闘を見た俺の感想に、アンクも肯定の意を示す。つい先日まで、体に余計な力が入っている印象を与える戦闘スタイルを取っていた一夏が、どうしてここまで劇的に変わったのか?

 

「……正直、今回の件は包帯女が絡んでいると俺は思う。それ以外に『VTシステム』や、『シャウタコンボ』の能力をバラす可能性は無いからだ。だが、そうなると一つ分からない事がある」

 

「……と、言うと?」

 

「どんなIS操縦者だって、“『二次移行【セカンドシフト】』で新しく発現した武装を、『二次移行【セカンドシフト】』した瞬間に使いこなす”なんて事は出来ない。それこそ、お前みたいに、事前に能力を知っていてもまず不可能だ。だが、あの馬夏はそれをやってのけた。つい一ヶ月ちょっと前までISに乗った事の無い人間が……だ」

 

そう言われてみれば、確かに妙だな。俺の場合はコンボで発現する能力が決まっていたから、初めてでもある程度はその能力を“使う事”が出来るが、“使いこなす事”は出来ない。それはISにおいても同じだ。

 

「そう言うメモリを使った……って訳じゃ無いよな」

 

「ああ、メモリを使ったのなら『タカの目』で分かる。だが、あの時『白式』にはメモリやメダルは入っていなかった。つまり、あれは素だ」

 

「……それはつまりこう言う事か? 一夏は『白式』の進化した能力や武装を前もって知っていて、どう言う訳かそれを初見で使いこなすだけの技量がある?」

 

「ああ、眼帯娘の『VTシステム』にしろ、『シャウタコンボ』への対策にしろ、そうとしか考えられん部分が多々ある。しかし、そうなると仮に包帯女がそれを教えたとして、どうして包帯女がソレを知る事が出来たのかが分からない。馬夏は一体、何を教えられたんだ?」

 

「さぁーーて、何を教えたんでしょーーうか?」

 

「「!?」」

 

「久しぶりね、シュレディンガー。そして、アンク」

 

聞き覚えのある声に思わずギョッとし、声のした方向を見てみると、そこにはシュラウドが立っていた。しかも立体映像の類いではなく、実体を持った本物だ。

 

「……どう言う風の吹き回しだ? 生身の体で敵陣のど真ん中に足を踏み入れるなんて、随分と度胸があるじゃないか」

 

「そうね。貴方の目にはそう映るでしょうね。でも私にとっては違う。そうなる事が“決まっている”のだから」

 

「……? 何を言っているんだ?」

 

「それよりも知りたい事があるんでしょう? せっかくだから教えてあげるわ。私はね、織斑一夏に『この世界の本来あるべき姿』を記憶として与え、実際にソレを体験をさせたのよ。コレを使ってね」

 

『MEMORY!』

 

そう言ってシュラウドが取り出したのは、記憶を司る能力を持つガイアメモリである『メモリーメモリ』。その場に存在する過去の記憶を吸収する他、周囲にいる人間にその過去を見せる事が出来るメモリだが、話から察するにどうやらシュラウドが持つ『メモリーメモリ』は少々仕様が違うらしい。

 

「お前が馬夏に何をしたのかは分かった。だが、『この世界の本来あるべき姿』ってのは一体何だ?」

 

「そのままの意味よ。それ以上でも、それ以下でも無い。そして『この世界の本来あるべき姿』とは具体的には何なのか? それは……」

 

「それは?」

 

「織斑一夏の、織斑一夏による、織斑一夏の為の『おりむランド』。全ての男は織斑一夏の引き立て役に過ぎず、全ての美女美少女は織斑一夏のモノであり、顔偏差値60を切っている中学生女子はIS学園に入学不可能。世界の中心は織斑一夏であり、織斑一夏が望む事は全て叶う……それが『この世界の本来の在り方』よ」

 

「「……ハアッ!?」」

 

「分かりやすく言うと、織斑一夏は『選ばれし者』なの。故に、織斑一夏が望む事なら全てが思い通りになるのよ」

 

「……いや、お前は何を言ってるんだ?」

 

アンクがツッコミはもっともだ。俺もシュラウドが何を言っているのかまるで分からない。ぶっちゃけ、「シュラウドは復讐に固執する余り、とうとう頭がおかしくなってしまったのだ」とさえ思っている。割と本気でシュラウドの頭の中身を心配するが、シュラウドは俺達の反応を見ても全く動じていない。

 

「……まあ、そう反応する事は分かっているわ。だから一から十まで説明してあげる。一夏ら、十まで。ふふふ……」

 

やはりおかしい。シュラウドはそんなクソの様な、つまらない駄洒落を言う様なキャラではない。やはり、復讐に疲れ、ナニカがおかしくなってしまったのだろうか?

 

「その前に貴方、『ミレニアム』が実行する筈だった計画を覚えているかしら? 少佐が考えていた、『オーズ』によるIS世界の破壊を」

 

「? ああ、確か『IS学園の修学旅行が終わってから、本格的に行動を開始する』と言っていた気がするが」

 

「じゃあ、なんで修学旅行が終わった後なのか、その理由はなんだと思う?」

 

「京アニ」

 

「確かに少佐らしい理由だとは思うケド、全然違うわ。理由はズバリ、『ミレニアム』の勝率が大幅に上昇するからよ」

 

「それだけの時間があれば、『オーズ』が完成するから……か?」

 

「それも有るけど、狙いは違う。単純に“修学旅行が終わった以降”なら、織斑一夏を筆頭とした全ての障害を倒せる可能性が格段に跳ね上がるのよ。お互いの能力や力量とは関係なくね」

 

「……言いたい事がさっぱり分からん。一体何が理由でそのタイミングで行動する必要がある?」

 

「戦えば負ける事が“決まっている”からよ」

 

「“決まっている”? さっきも“決まっている”とか言っていたが、それと何か関係があるのか?」

 

「そう、“決まっている”の。ヒントをあげるわ。かつて、少佐が貴方に『どうやってこの世界に来たのか』を聞いた時の事を思い出してごらんなさい?」

 

「………」

 

――「ところで、君はどのようにしてココに来たのかね? 参考までに教えて欲しい。研究者によると、トラックに轢かれるパターンと、神との遭遇を果たしたパターンがメジャーらしいのだが、君はどんな涙を誘う感動的な死に方と、目を背けたくなるような残酷な最期を迎えたのかね?」――

 

「……『トラックに轢かれるパターン』と、『神との遭遇を果たしたパターン』?」

 

「そう。そして、その二つがメジャーであるとも言っていた筈よね? つまり、『ミレニアム』は様々なパターンの平行世界を数多く観測した結果、幾つかのルールに気付いたのよ」

 

「……世界において共通の人物や歴史が、そして発明が存在する?」

 

「違う。確かにどの世界にも同じ人物はある程度まで存在する。その一方で、その世界にしかいない人間が、或いは別の世界から魂だけでやってきた“異世界の来訪者”がいるケースも確認できた。我々をそうした存在を総称し、『特異点:オリシュ』と呼んでいたわ」

 

「『特異点:オリシュ』?」

 

「そう。そしてそれこそが、絶対無敵の障害を排除する事が出来る。言うなれば、不変の運命を変え得る絶対唯一の存在。理不尽の権化と言える、『特異点:織斑一夏』に対抗できる『鬼札【ジョーカー】』だった。でも、それには幾つかの懸念材料も存在した。例えば「織斑一夏が『特異点:オリシュ』である」とかね」

 

「何?」

 

「つまり、何か? あの馬夏はゴクローと同じ存在だと?」

 

「いいえ。少なくともこの世界では違う。そうした場合、大抵は幼少期から『基本世界の織斑一夏』と大きく異なる事が多いから。この世界の織斑一夏がそうである可能性は無いわ」

 

「……『基本世界の織斑一夏』?」

 

「あら、言わなくても良い事を言っちゃったかしら?」

 

シュラウドは失言した事と言わんばかりのリアクションを取るが、本心ではその事を大して気にしていないだろう。余裕綽々の雰囲気が全身から醸し出されている。

 

「兎に角『ミレニアム』の計画には『特異点:オリシュ』が必要不可欠だった。でも、呼び出された『特異点:オリシュ』が我々に友好的であるとは限らないとも考えていた。実際、神に遭遇して異世界に転生した『特異点:オリシュ』の中には、神に叛旗を翻す個体や欲望の赴くままに活動する個体も確認されている。更にそうしたケースでは、得体の知れない特殊能力や、本来なら獲得できない武器を所有している可能性も極めて高い」

 

「特殊能力や武器……?」

 

「もっとも、そうでなくても十分なケースもあるわ。そう、例えば、こんな風に……」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

そう言いながら、シュラウドがバットショットにメモリーメモリを差し込むと、液晶画面に映像が映し出された。

 

「コレは“織斑一夏が『特異点:オリシュ』と化した平行世界”を観測した時の記録よ。もっとも、この個体は先程言った様な特殊能力は何も持っていないわ。でも、この個体は『基本世界』を知っていて、ソレを最大の武器として使っていたわ」

 

映像の詳細をシュラウドが語るが、俺の視線は映像に釘付けになっていた。何せ、映像の中の一夏はワインを片手に玉座に座り、筋骨隆々な女に組み伏せられている弾を見下ろしていたのだから。

 

『そこの下郎。力とは何だ?』

 

『は?』

 

『「は?」ではない。口の利き方に気をつけろ。朕は気付いたのだ。自分の持つ力と、力とは何かと言う事をな……』

 

異常に尊大な態度で弾に話しかけている一夏と、それを虫酸ダッシュな表情で睨み付ける弾。仲の良い二人の姿を知る俺からすれば、かなり異質な光景だ。

 

『分からぬか。ならば、教えてやろう。力とは……“女”だ!』

 

『……は?』

 

『何も自分自身が強い必要は無い。強い女に守ってもらえばいいからだ。金? そんなもの必要か? 資産家の令嬢を連れて歩けばソイツが財布の代わりになるじゃあないか。ウマイ飯が食いたければ、和・洋・中それぞれ料理の上手い女を用意しておけば、毎晩違った味が楽しめるぞ?』

 

「………」

 

「ふむ、一理あるな」

 

いや、同調するなよアンク。はっきり言って、コイツの言っていることは最悪だぞ。

 

『見るが良い、この朕の虜となった、忠実なる女達を。虜は良いぞ? 自分を簡単には裏切らず、意のままに操る事が出来る。それを思うがままに作り出せる我が才能こそが、女尊男卑の社会において無敵の能力。朕がこの世界の帝王たる所以! 即ち、朕こそが世界最強の男よ!』

 

『テメェ……! 畜生……! 蘭はこんな奴に……!』

 

「……と、彼はこんな事を言っているけど、コレも少し時間が経つとこうなるわ」

 

シュラウドがそう言うと画面が切り替わり、今度は実に穏やかな顔をした弾の姿が映し出された。

 

『一夏にはさぁ、不思議な魅力があるんだよ。俺も妹が女子便所で処女奪われたり、母親を寝取られたりしたケド、一夏なら何でか許せるんだよなぁ……』

 

「「………」」

 

……ヤベェ。何というか、洗脳された人間のビフォーアフターを見ている様な気分だ。

 

「……こ、これが、平行世界の一つだと言うのか?」

 

「まあね。その結果、『ミレニアム』は“織斑一夏は『基本世界』の中心人物”であり、“『基本世界』において織斑一夏の望みは全て叶う”ようになっていると結論づけた。そう言うルールなのだとね。

例えそれがどれだけ穴だらけな作戦だとしても、織斑一夏の立案ならその作戦は必ず成功し、織斑一夏が“守りたい”と思って行動した人間は織斑一夏が思った通りに守れる。どれだけ厳格なルールを破っても大した厳罰に処される事は無く、自分の過去の発言が盛大にブーメランしたとしてもソレが批難される事は絶対にない。織斑一夏が関わったモノは、何故か、必ず、全て、確実に上手くいく。それこそが、“この世界の本来あるべき姿”よ」

 

「……それはアレか? どんな選択肢を選んでも結果的に好感度が上がり、何をやっても好感度が下がらないみたいな感じか?」

 

「そうね。例えがアレだけど、ギャルゲやエロゲで明らかに駄目な選択肢を選んだとしても、それが織斑一夏なら好感度が上がる……みたいな感じね」

 

「何だ! そのぶっ壊れ性能のクソゲー以外の何物でもねぇ世界は!!」

 

「落ち着けゴクロー! コレは包帯女の精神攻撃だ! そんな馬鹿みたいな世界ある訳ねぇ! まして、そんなのが“この世界のあるべき姿”だなんて、嘘っぱちに決まってる!」

 

「信じるか信じないかは、貴方達の勝手よ。話を戻すけど、『基本世界』で起こった出来事は、そこから派生した平行世界でも、ある程度適用されるわ。だからこそ、『IS学園に侵入した無人機ISを倒す』のも、『VTシステムを暴走させたラウラ・ボーデヴィッヒを倒す』のも、織斑一夏にとっては“決まっていた”事よ。

私はそれらを含めた“これから起こる出来事”を、『白式』諸共『記憶』として経験させた。だから織斑一夏は『白式』が進化によって獲得する武器や、その効率的な使い方を知っていたし、『白式』はそれに合せて成長していたのよ。ちなみに後者は本来、月末のタッグトーナメントの最中に起こる筈の出来事で、篠ノ之束にとって『VTシステム』の始末と同時に、織斑一夏の名声を高めると言う意図があったわ」

 

「束がそんな事をするとは思えないが……」

 

「『この世界の篠ノ之束』ならね。でも『基本世界の篠ノ之束』は違う。だって、『基本世界』には貴方が居ないんだもの」

 

基本世界に俺はいない……か。『素晴らしき哉、人生!』と言うアメリカ映画では、主人公は「自分が存在しない世界」を天使に見せて貰い、自分一人がいないだけで世界は全く違った様相を呈すると言う事を知ったが、一夏は『俺がいない世界』や『俺以外の誰かがいる世界』を知ったと言う事か。

 

「要するに織斑一夏は“この世界の存在”が相手なら、結果的に必ず勝てる人間。そして少佐は自分達では勝てない事を知っていた。だからこそ、“この世界以外の存在”を呼び寄せる必要があった。

だからこそ、少佐は貴方を必要とし、決して殺す事はしなかった。何故なら貴方は“この世界のルールが適用されない”存在だから。ここまで言えば、貴方ならその理由が分かるでしょう?」

 

「……すまん。俺にはコイツの言いたい事が、さっぱり分からん。ゴクローはどう言う事か分かるか?」

 

「……仮にこの世界を“A”とすれば、“Aの世界の人間”は“Aの世界のルール”に縛られて生きている。そして俺がいた世界を“B”とすれば、“Bの世界の人間”は“Bの世界のルール”に縛られて生きている。だが、仮に“Aの世界”に“Bの世界の人間”が入り込んだ場合、“Aの世界のルール”は“Aの世界の人間”にしか適用されないから、“Bの世界の人間”は“Aの世界のルール”には縛られない。“Aの世界のルール”に守られる事も無いけどな」

 

「その通り。でも、幾ら“世界のルール”に守られていないと言っても、『特異点:オリシュ』は容易く倒せる存在ではない。『基本世界』に存在しない、通常と異なる存在を倒すには、それと同質かそれ以上の通常と異なる力……例えば『特異点:オリシュ』からもたらされた知識を元にして造った力なんかが必要になるの。

言っておくけど、貴方がアンクと一緒に『ミレニアム』を裏切る事は想定済みだったわ。裏切りは『仮面ライダー』の本分。だからその時に備えて、少佐は『どうやって始末するか』を考えていた。……でも、私は違った。『どうやって始末するか』ではない。『始末するまでに、どうすれば最大限に利用できるのか』を考えていた。そして、私はある事に気づいたのよ」

 

「ある事?」

 

「さっき見たように、『特異点:オリシュ』は必ず特殊な能力を持っている訳では無い。そして、基本世界の人間が『特異点:オリシュ』になるケースもある」

 

「ああ……」

 

「それじゃあ……もしも、『この世界の人間』に『基本世界』の記憶を与えたら、その人間はどうなると思う?」

 

「……まさか」

 

「そう! ならばリスクを犯してまで、平行世界から新たに『特異点:オリシュ』を呼び出す必要は無い! 織斑一夏が『特異点:オリシュ』になるケースが実在するのなら、織斑一夏に『特異点:オリシュ』と成り得る要素を加え、『特異点:オリシュ』に変異させれば良い!!」

 

「……後天的に『特異点:オリシュ』へ変える? そんな事が可能なのか?」

 

「可能よ。既に幾つかの事例をこの世界で確認しているし、実験も成功している。現に織斑マドカは、ガイアメモリ対応ISを手に入れた事で、本来なら倒せない京水を実質撃破しているし、凰鈴音はガイアメモリとコアメダルを与えた事で『オーズ』と同等の存在として、『オーズ』にしか倒せない存在になったでしょう?」

 

「「!!」」

 

俺とアンクは、シュラウドの言葉に戦慄した。今までのシュラウドの行動は、全て対『オーズ』を目的としたものだった事に。そして、俺達の行動がシュラウドの仮説を裏付ける証明となっていた事にだ。

 

「鈴音にガイアメモリを渡して、コアメダルを吸収させたのは、一夏を『特異点:オリシュ』に変えられるかどうかの実験だったって事か!?」

 

「ええ。尤も、あの実験は様々な仮説を平行同時に検証し、更に今後の為の実益を兼ねたものだったから、それだけでは無かったけど……それらを全て正直に話すつもりは無いわ。……それじゃあ、話す事は全部話したし、もう一つの目的を果たしたら、今日の所は帰らせて貰うわ」

 

「おいおい、ここから無事に逃げられると思ってんのか?」

 

「ええ、逃げられるわよ。これは本来スコール・ミューゼルの役目なのだけど……」

 

アンクの問いに対して、逃げ切れると言い切るシュラウドの黒いコートから覗くのは、腰に巻かれた銀色のドライバー。そして右手に持っているのは金色に輝く純正のガイアメモリであり、刻まれているイニシャルは『U』。

 

「!! そのメモリは!!」

 

「この世界では違う」

 

『UTOPIA!』

 

「!! それなら……」

 

『ETERNAL!』

 

「変身ッ!」

 

『ETERNAL!』

 

ユートピアメモリが自我を持つかのように、独りでにドライバーに挿入されるのと同時に、俺はエターナルメモリを起動させて、ロストドライバーに差し込みメモリスロットを傾ける。

そして『ブルーフレアRX』へと変身が完了した直後、シュラウドを中心として青黒い炎と黒い電撃が吹き出し、それが収まった時にそこにいたのは、ユートピア・ドーパントに酷似した全身装甲を身に纏った、シュラウドだった。

 

「なるほど、『エターナル』なら『ユートピア』を無効化出来ると踏んだのね? でも……」

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

俺は即座にエターナルメモリのマキシマムドライブを発動させ、ユートピアメモリの無力化を狙った。しかし、ユートピアメモリの能力が解除される様子は無かった。

 

「何……だと……!?」

 

「無駄よ。貴方の『エターナル』のデータは既に解析済みよ。そして、私と『ユートピア』の適合率は98%を超え、更に設計者自らが特別にチューニングしたガイアドライバーの力が加わっている。更に……」

 

シュラウドが右手をかざすと、不可視の衝撃が俺の体を貫き、鎧の内部にある肉体に、深いダメージが与えられる。コレは……。

 

「ゴフッ……。まさか、『超能力【サイキック】』……?」

 

「そう。『ミレニアム』が研究していた、人間の持つ本来の力を引き出す研究の成果。仮に『エターナル』でガイアメモリの能力を停止させる事は出来ても、それ以外の力を停止させる事は出来ないでしょう?」

 

ヤバいぞ。非戦闘員と思っていたシュラウドが、物凄く強くなっている。しかし、これはそれだけシュラウドが形振り構っていられない状況にあると言う証明でもあるか?

 

「ゴクロー! コイツの相手は『エターナル』じゃ無理だ! 『オーズ』に変えろ!」

 

「……仕方、ないか……。超変身!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ふふふ、無駄よ。貴方と私では、次元が違う」

 

アンクの言う通り、このままでは不味いと判断してドライバーを交換し、『オーズ・ラトラーターコンボ』へと超変身する。しかし、トラクローを振るう俺の動きをシュラウドは完全に見切り、専用武器である『理想郷の杖』に酷似したロッドを手に拳を止めたり、蹴りを受け流したりして、俺は完全に人間に遊ばれる猫と化していた。

 

「つ、強い……!」

 

「何で戦闘員の貴方が、非戦闘員の私に負けるのか……その理由が分かるかしら?」

 

「何……?」

 

「貴方が『自分はこの世界の存在ではない』と自覚し、『この世界の誰かと繋がるべきではない』と思っているからよ。自分が生きる世界を肯定できない以上、“この世界の記憶”からなるガイアメモリの真価を引き出すことは出来ない。

そして、自身の欲望を抑え込んでいる以上、欲望に強く反応するコアメダルの力が真に発揮される事も無い。だから貴方は私に叶わない。その点については、少しは織斑一夏を見習ったらどうかしら?」

 

「……ッ! お前が一夏をそうなるように仕向けたんだろうが!」

 

「ええ。確かにきっかけは私よ。でも、それだけよ。様々な平行世界の『特異点:オリシュ』や、そこに存在する織斑一夏の記憶を与えはしたけど、私はそれだけしかしていないわ。あの子はあの子の意思でラウラ・ボーデヴィッヒを倒し、貴方に刃を向けたのよ」

 

……そうなのか? 一夏はメモリーメモリの影響ではああなったのでは無く、自分の意思で俺やラウラと戦う道を選んだと言うのか?

 

「ゴクロー! 何があった!?」

 

「!? 誰だソイツは!?」

 

「あら、思いの外、早かったわね」

 

「待て! シュラウドに手を出すな!」

 

「! コイツがシュラウドだと!?」

 

「なら、尚更見ている訳にはいかないだろう!」

 

『NASCA!』

 

『ACCEL!』

 

二人はガイアメモリを取り出し、スイッチを押してメモリを起動させると、二人の腰にそれぞれドライバーが装着される。通常形態を通り越して、一気にメモリモードを起動させる。つまり、二人は本気でシュラウドに挑むつもりなのだ。

 

「「変身!」」

 

『NASCA!』

 

『ACCEL!』

 

ドライバーにメモリが装填されると、マドカは青の全身装甲を纏い、箒は紅の全身装甲を纏う。青と紅の二人の騎士はそれぞれ得物を構えると、俺と共に猛然とシュラウドに襲いかかる。

しかし、シュラウドは高速の近接戦闘を得意とする俺達三人に対し、背筋を伸ばして半身に構えて『理想郷の杖』で攻撃を捌きつつ、強烈なカウンターを確実に打ち込んでいく。

 

「くっ! なるほど、確かに強いッ!!」

 

「ああ、しかも『ナスカ』や『アクセル』所か、『ラトラーター』に追いつくスピードだ!!」

 

「いいえ、むしろ貴方達の方が遅くなっている。私の周辺の重力を倍加させる事でね。そして『ユートピア』は希望を司るガイアメモリ。相手の希望を奪ったり、相手に希望を与えたりする事が出来る。今回は貴方達から精神力を奪い、そのエネルギーを私の力に変えているの。そう……こんな風にねぇッ!!」

 

そう言い放つシュラウドは手から金色の竜巻を放ち、俺達三人がそれに巻き込まれて一ヶ所にまとまった所へ、シュラウドは強烈な炎を纏ったキックを俺達に叩き込む。

俺達三人の変身が呆気なく解除され、俺達は生身の無防備な状態で地面に転がった。照井焼きになっていないのがせめてもの救いだが、それでも俺達は相当のダメージを受けていた。

 

「マドカ! 箒!」

 

「さて、それじゃあ、仕上げといきましょうか?」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

シュラウドがゾーンメモリの最大出力を発揮した直後、シュラウドの周辺に束を筆頭とした『NEVER』の面々。織斑先生と山田先生の教師陣。そして楯無達生徒会の面々と、セシリアやシャルロットと言った、IS学園でも比較的実力の高い面子が強制的に集められた。

 

「!? 一体、何をするつもりだ!?」

 

「ふふふ……ッ! 貴方達にも、運命を変えうる『特異点』となってもらうのよ!」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

シュラウドがメモリーメモリのマキシマムを発動させると、その場に居合わせた全員の意識が、現実とは別の場所へと飛ばされる。そしてそこで俺が目にしたモノは、俺の想像を遙かに超えていた。

 

それは、『特異点:オリシュ』が全く存在しない世界。

 

或いは、『特異点:オリシュ』が欲望の限りを尽くす世界。

 

或いは、『特異点:オリシュ』によって滅ぼされた世界。

 

そんな様々な平行世界の光景を、俺は強制的に見せられ続け、様々な世界の記憶の旅が終わった時、俺の精神は漸く元のIS学園へと戻ることが出来た。

 

ふと周りを見てみると、全員が息も絶え絶えで、立つことさえままならない状態に陥っていた。何気なく腕時計で時間を確認すると、驚くべき事に俺が平行世界を体験した時間は、現実世界では僅かに1分と言う短時間の中の出来事だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「こ、こんな事が……」

 

「ふふふ……それじゃあ、私はコレで失礼するわね?」

 

「……待て、シュラウド」

 

「? 何かしら? 織斑千冬」

 

「何で一夏なんだ? お前の目的は、『白騎士事件』を起こした私達に対する復讐だろう……ッ。一夏は関係ないッ!」

 

「今更引き返せないわよ。貴方もあの子も……『運命を選んだ』のだから」

 

シュラウドの返答は、織斑先生の質問の答えにはなっていなかった。だがその言葉は、何か得体の知れない奇妙な説得力に満ちていた。

 

「シュレディンガー。貴方がこれからどんな決断をするのか、私は何時でも見守っているわ……フンッ!!」

 

その台詞を最後に、シュラウドはその場から強烈な衝撃波を放つと、エクストリームメモリの転移によって、この場を悠々と去って行った……。




キャラクタァ~紹介&解説

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 作者が趣味で『アマゾンズ』ネタを加えた結果、原作よりもトンでもない事になってしまったドイツの眼帯少女。原作よりもかなり前倒しで一夏に倒され、意識不明になってしまったが、この後もちゃんと見せ場はある。

シュラウド
 第一話からの伏線回収を担当。『ミレニアム』が「平行世界には“基本世界の運命を事前に知る存在”がいる」事を突き止めていた事を思い出し、それを参考に今まで「事件と言う名の実験」を行なっていた。今回は「これから先の時間軸で起こる物事を、本来それを担う役割の人間に代わって自分が前倒しさせる事」を目的として、IS学園にノコノコとやってきた。
 『鎧武』の戦極凌馬並みの技術力と、『おそ松さん』のイヤミ並みの執念で、専用のドライバーとメモリを作り出た挙句、肉体を超能力兵士に改造している。正直、『W』の裏ボスである加頭よりも性質が悪くなった気がして、私ショックです(棒読み)。



シャウタコンボ
 水棲系コアメダル3枚からなる「海のコンボ」。怒りの王子でもなければ、ウルトラマンでもない。本編ではテーマソングの収録が間に合わず、最終的に本編では戦闘中に一度もテーマソングが流された事が無い事で有名。
 今回はアンクが一夏の不気味な自信の正体を見極める目的で使用。しかし、『仮面ライダーシリーズ』特有の新フォームにおける初登場補正は、原作主人公である一夏の『白式・雪羅』の初登場補正の前に敗れてしまい、更にその後亜種形態のタカウバにチェンジと、割と良い所なく出番を終えた。

U ユートピアメモリ
 理想郷の記憶を秘めたガイアメモリ。この世界では息子である「ライトの生きる世界」を理想郷として望むシュラウドが純正品を使用する。シュラウドが自身の肉体を改造している上に、ガイアメモリを熟知している事も相まって、非常に高い戦闘能力を発揮する。少なくとも迷いを断ち切れないまま立ち向かって勝てる相手ではない。

M メモリーメモリ
 記憶の記憶を秘めたガイアメモリ。この世界ではこちらもシュラウドが純正品を使用。様々な記憶を収集する能力を持ち、『ミレニアム』はこの能力を用いて、観測した平行世界の情報を記録していた。但し、使い手の影響なのか、それとも原作に基づく仕様なのか、収集した記憶が偏っており、「『特異点:オリシュ』が平和を創り出す平行世界の記憶」は収集されていない。

ガイアドライバー
 シュラウドが使用するガイアメモリ専用ドライバーで、一本のメモリの力を最大限に引き出す仕様になっている『ロストドライバー』の発展型。見た目は園崎家が使っているガイアドライバーに似ているが、右腰にマキシマムスロットが備えられている点が異なる。
 しかし、ドライバーの仕様上、使用中は常に使用したメモリのマキシマムドライブを発動している状態であり、作中で見せたメモリーメモリや、ゾーンメモリのマキシマムドライブは、原作『W』で言えば「ツインマキシマム」に該当する荒技。だからこそ本人の素質以上の効果を発揮出来ている訳なのだが。

紅騎士(通常形態/アクセル・バージョン)
 束が造った箒専用機。ISコアは『黒柘榴』のモノを継続使用している。通常形態は原作における『紅椿』に酷似した、第四世代相当の性能を持つ最新型。
 アクセルメモリを使った場合、仮面ライダーアクセルを女性的にしたような姿の全身装甲に変わり、武装にエンジンブレードが追加される。但し、束の趣味で顔の下半分は露出している。

基本世界
 原作『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の世界。取り敢えず、ドラマCDやゲーム版の話は完全に無視。転生系オリ主は大きく分けて「原作を知る者」と「原作を知らない者」がいると言う、オリ主系二次小説そのものをネタにしている。5963は勿論後者だが、シュラウドは意図的に前者を創り出そうとしていた。
 実は『基本世界』と言える世界は二つあり、5963と一夏が見せられた『基本世界』は違う。5963はアニメ第二期における『京都修学旅行編』の「VS黒騎士」まで。一夏は原作10巻における『京都修学旅行編』の「下見の時に集合写真を撮った所」までを見ている。

特異点:オリシュ
 この作品の第一話から伏線として張っていたメタ要素の塊。平行世界を観測し続けた『ミレニアム』の貴重な研究成果の一つであり、これを創り出して手なずけ、都合よく利用する事が、対篠ノ之束&織斑姉弟戦の最重要課題だった。
 5963が最終的にアンクと共に『ミレニアム』を裏切る事は、少佐も薄々感づいていた為、取り敢えず『白騎士』となった一夏を『プトティラコンボ』の強制発動によって排除し、暴走させた状態で全てのISの破壊と、束と千冬の二人を仕留める事が出来たら、最後は『虚空の牢獄』でのライダーリンチ……と言うのが、作戦の大まかな流れ。仮に仕留められなくても、可能な限り戦闘力を削ぎ落としてくれればソレで良かった。

平行世界の一夏
 元々は「もしもハーレム系主人公が、自分がモテる事を自覚していたら」と言う、作者がボツにした二次小説のプロットの一つ。元ネタは『よんでますよ、アザゼルさん』のアザゼル篤史。今回の話で一夏が言った台詞はまんまアザゼル篤史の台詞であるが、実際に一夏ならコレが出来る立場にあるので非常に困る。

VTシステムの暴走
 原作では束は「自分は関係ない」と言った風に話しているが、作者は「許せないモノだからこそ、束は何らかの形でコレを排除しようとしていた」と推測しており、トーナメントでの暴走事件は「一夏の為の踏み台」と「VTシステムの排除」を兼ねた、束の策略だと考えている。
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