DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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四話連続投稿の三話目。連載開始からある意味最も書きたかったシーンを漸く書けたが、流石にここまで時間が掛かるとは思わなかった。


第32話 Sun goes up

まさかのシュラウド本体によるIS学園襲来から一夜明け、俺の気分は昨日を遥かに超えて憂鬱だった。

 

――貴方は「この世界の誰かと繋がるべきではない」と自覚している――

 

そんな事は言われなくなって分かっている。だが、自分の弱点は自覚していても、他人にそれを指摘されればムカつく様に、自分が気にしている事を言葉に乗せて伝えられたら最後、それはどうしても頭から離れなくなってしまうと言うのが道理である。

 

お陰で俺は今日の全ての授業において、致命的と言えるレベルで集中を欠き、クラスメイトと数名の教師から体調不良を疑われてしまった。

 

「今日はアレだな。調子が悪かったな」

 

『今のお前は「調子が悪い」で済まされない状態だと思うが……』

 

そんな事を言ったって、やせ我慢でも言わなきゃやってられないだろうが。ぶっちゃけ「居場所が無いなら、居場所を作ればいいじゃない」方式で、今までこの世界を生きていた訳だが、心の何処かで何かしっくりとしないと言うか、引っかかる物はあった。

 

言うなれば、「自分がこの世界に居てもいい確信」が無かった。元からこの世界に居る人間ならまずそんな事は考えないだろうが、「自分が別世界の人間」だと自覚している俺にとって、それはとても重大な問題だった。向こうでは首と胴体が二つに分かれて死んだ上に、もう何年も経っているから、仮に元の世界に帰る方法があったとしても、今更家族の元へ帰れないし。

 

「……シュレディンガー。ちょっといいか?」

 

「はい?」

 

若干鬱状態になっていた俺は、織斑先生に誘われるまま、ズンズンと先を進む織斑先生の背中をホイホイとついていった。

 

「今日は……何だ、食欲が無いのか?」

 

「いえ、そう言う訳では」

 

「そうか……」

 

「「………」」

 

会話が続かない。そうこうしている内に周囲に人影が少なくなり、織斑先生の足が止まった時には周囲に誰もおらず、俺と織斑先生の二人だけになっていた。

 

「……お前も知っての通り、私達姉弟は子供の頃に両親に捨てられた。それからの私は、自分一人の力で物事に立ち向かう様になった。身寄りの無い私達に手を差し伸べる者もいるにはいたが、私には全ての大人が両親と同じに見えた。自分の都合で他人を助け、自分の都合で勝手に切り捨てる様な存在なのだとな……」

 

「………」

 

「今にして思えば、私は弱かったのだろうな。一度裏切られたから、もう二度と信じない……そんな風に、大人を信じる事が出来なくなった。そんな心の弱さを隠し、自分や周りに嘘をついて、私は自分を強く見せるようになった。

そうしている内に私は、誰も辿り着けない絶対的な力を、強さを手に入れたつもりになっていた。誰にも見捨てられる事の無い、価値のある人間になれたと思っていた……手に入れた勝利と栄光が、その実、嘘と暗黒に満ちているにも関わらずな……」

 

「………」

 

俺は織斑先生の独白……いや、懺悔と言うべき言葉を、ただ黙って聞いていた。

 

「私は両親を反面教師として、一夏の手本になりたいと日頃から勤めてきた。正しさと、責任と、誇りのある生き方を学んで欲しいと……。だが、『白騎士』が私だと薄々感づいていた一夏は、そんな私を見てこう思ったに違いない。“強い力があれば我を通せる”。“圧倒的な力の前では、如何なる存在であろうと無力である”と……」

 

「………」

 

「だからかな。一夏は何かトラブルがあると暴力による解決を求め、それを止めようとしなかった。『何があっても自分を曲げない』。それは確かに私が求めた強さだが、それは一歩間違えれば、『何があっても、何を言われても変わろうとしない』と言う危険との隣り合わせ……私はそんな事にも気づかず、教えてやれてもいなかった……」

 

「……ですが、それは織斑先生が、それだけ一夏にとって絶対的なモノになっていると言う事の証明でもある」

 

「………」

 

「一夏は織斑先生の強さに憧れた。ただ、憧れは理解から一番遠い感情なんだって事に気づいていない……ただ、それだけの事ですよ」

 

「……そうか。そうだと良いのだが……」

 

それからしばらく、俺と織斑先生は同じ方向を見ていた。互いに言葉を一切交わすこと無く、静かに時間だけが過ぎていった。

 

「……お前の両親は、きっと素晴らしい人物なんだろう。束やクロエや、マドカ達を見ていれば分かる。もし、もしお前の様な兄が私達にいれば……私は、私達はきっと、道を誤る事もなかったのだろう……」

 

「まあ……これでも一応、俺は束よりも年上ですし」

 

「フッ。そう言えばそうだったな」

 

ずっと神妙な表情をしていた織斑先生が、ようやく笑みを浮かべた。夕日に照らされたその顔が、何処か寂しげに見えたのは、俺の気のせいだろうか?

 

「シュレディンガー。一つ、頼まれてくれないか?」

 

「? 何でしょうか?」

 

「ボーデヴィッヒの事だ。お前なら、アイツを何とか出来るだろう?」

 

「まあ、確かに出来るとは思いますが……それは何時頃にやれば良いですか?」

 

「そうだな。出来るだけ早い方が良い」

 

「それでは、今夜にでも」

 

「ああ、私が言うのも何だが、ボーデヴィッヒを頼む」

 

幸い、意識不明の人間の意識の中に入った事は、一度や二度では無い。しかし、相手はまともにコミュニケーションを取った試しがないラウラだ。取り敢えずは『NEVER』の拠点に行って、束やクロエの意見を聞いてみるとしよう。

 

「……決着を着けよう。『白騎士』」

 

織斑先生の小さな呟きは一陣の風に掻き消され、『NEVER』の拠点に歩を進める俺の耳に入ることは無かった。

 

 

○○○

 

 

千冬姉がゴクローを連れて何処かに行くのを見た俺は、二人に気づかれないようにこっそりと後を付けた。気づかれない事を最優先にしていた所為で、二人の会話は聞こえなかったが、千冬姉の雰囲気が俺の知る千冬姉とは違うことが嫌でも分かった。

 

違う。千冬姉はあんな顔をしたりしない。あんなのは、俺の知っている千冬姉じゃない。

 

元の千冬姉に戻さなければ……そう考えながら俺がフラフラと適当に学園を歩いていると、最近知り合った三年生のダリル先輩が話しかけてきた。

 

「よぉ! 浮かねぇ顔だな? どうした?」

 

「いや……別に……」

 

「別にじゃねぇだろ~? 後輩の悩みを聞くのも先輩の仕事だぜ~?」

 

「……実は……」

 

俺は自分の悩みを全て話した。ダリル先輩は俺の悩みに対して、親身になって相談に乗ってくれた。そんな心地よい時間は、千冬姉からのメールで一変する。

 

「これは……」

 

「『夜に第3アリーナで待つ』……か。まるで決闘だな」

 

「決闘……」

 

「まあ、心配するな。俺も協力出来る事があるなら、協力してやるからよ」

 

そう言うとダリル先輩は、胸を叩いて俺の手助けをする約束をしてくれた。

 

……そうだ。俺は間違って何ていない。此処には確かに、あの京都駅で写真を撮ったあの日へと続く、『本来あるべき世界』の一端がある。

 

確信を得た俺は、皆を元に戻す為に、まずは千冬姉を元に戻さなければと決心した。

 

 

●●●

 

 

ささやかな夕食を終えた俺は、IS学園の中にある専用の治療設備がある部屋で今も眠り続けているラウラの元にいた。

 

「本当によく眠っているな。まるで眠り姫だ」

 

「そうだね。こーゆー時は、王子様がキスをすれば良いんだよね?」

 

「いや、七色に光り輝く剣で切り裂けばいいんだ」

 

「ちょっと止めて、マジに止めて。マジでアレは怖かったんだから」

 

束とアンクのやり取りに鈴音が割とガチになって割り込んでいるのを見て、若干申し訳ない気持ちになる。まあ、確かに聖剣で強制覚醒なんて展開のお伽噺はちょっと無いな。

 

「それにしてもちょっと、警備が厳重過ぎはしないか?」

 

「何言ってるのよ。相手の事を考えれば、これだけ戦力を集めても足りないわよ」

 

そう言う楯無の目に油断は無い。確かに、万が一シュラウドが攻めてきた場合、本人の戦闘力の高さに加え、京水と言った面倒な手下を従えている事を考えるとそうなのかも知れないが。流石にマドカ、箒、鈴音、楯無、簪、セシリア、シャルロット、山田先生と言うIS学園でも結構な実力者8人が一堂に会するのを見ると、過剰防衛なのでは無いかと思わずにはいられない。

 

「それじゃあ、そろそろ始めるか」

 

「うん、コッチは何時でも大丈夫だよ」

 

「では……」

 

「ETERNAL!」

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

ロストドライバーとエターナルメモリを使い、青い炎を纏った『ブルーフレアRX』へと変身し、ラウラの隣のベッドで横になると、三本のガイアメモリをメモリスロットに装填し、マキシマムドライブを発動させる。

 

『LUNA・NIGHTMARE・ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

幻想を司るルナメモリと、夢を司るナイトメアーメモリ。更に過剰適合に加えてレベル2に進化している、空間を司るゾーンメモリを同時に発動させる事で、俺の意識は幻想と現実の狭間にあるラウラの精神世界へと転送される。この間のラウラのバイタルチェックはクロエが、俺のバイタルチェックはアンクが担当し、総指揮は束に任せてある。

 

「……上手くいったみたいだね」

 

「はい。兄様もラウラも、共にバイタルは正常です」

 

「それにしても、凄いシュールな光景だな……」

 

「そうだね……」

 

どう見てもヒーローにしか見えない男が、ベッドインしてスヤスヤと眠っている光景は、確かにシュールであろう。しかし侮るなかれ、コレはれっきとした人命救助の光景なのだ

 

「後は……こうしている間に、千冬さんが『白騎士』を倒せば……」

 

「ああ、全てが終わる」

 

ゴクローの預かり知らぬ所で、彼女達の計画は順調に進行していた。

 

 

●●●

 

 

ラウラの精神世界へのサイコダイブを果たした俺は、『ブルーフレアRX』ではなく、生身の姿で何処かの軍隊の施設の内部の様な場所に立っていた。

 

「ここは……」

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、何心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。何せ私が教えるのだからな」

 

「む?」

 

織斑先生の声が聞こえた方向に目を向けると、そこには軍服を着た織斑先生とラウラがいた。

 

どうやら此処は、ラウラがドイツで織斑先生と一緒だった頃の記憶がベースになっているらしい。それからしばらく二人を見ていたが、織斑先生は今よりも鋭い印象を受け、ラウラは嬉しそうな表情をしていた。

 

それにしても、ラウラは意識不明になってから、ずっとこの世界で過去の出来事を繰り返していたのだろうか? それはラウラにとって、現実よりも甘美で居心地の良い世界には違いない。

……だが、ラウラには目覚めて貰わなければ困るのだ。他ならぬ織斑先生が、お前の帰りを待っているのだから。

 

「よう。随分と楽しそうだな」

 

「! お前は……」

 

「久し振りだな、兄妹?」

 

最初に出会った時と同じイントネーションで、俺はラウラに話しかけた。個人的には「ラリホー!」と叫びたかったのだが、流石に空気は読んだ。

 

 

○○○

 

 

ゴクローがラウラと精神世界で再会を果たしていた頃、織斑姉弟は第三アリーナで剣呑な雰囲気の中で対峙していた。

 

「こんな時間にこんな場所で……何のつもりだよ、千冬姉」

 

「……私には勤めが、やらなければならない事が残っている。この手で、お前を止めなければならない……」

 

「止める? 何のことだよ千冬姉?」

 

「……どうして、ボーデヴィッヒのISのISコアを破壊した? あんな事をしなければ、ボーデヴィッヒは今頃とっくに目覚めていた筈だ」

 

「それは全部アイツの所為だ。アイツの所為で、ラウラは目覚めない」

 

「……違う、シュレディンガーは関係無い。ラウラが目覚めないのは、お前の責任だ」

 

「……なあ、千冬姉、俺は知ってるんだぜ? ラウラのISに搭載されていた『VTシステム』がどんなモノなのかって事も、ラウラは力に溺れたんだって事も。だから俺はそんな偽者野郎を、ぶん殴ってぶっ壊した。それの何が悪いってんだよ」

 

「やり方が間違っていると言っているんだ! 昔にも言った筈だ! こんな方法では、何の解決にもならないのだと!」

 

「何でそんな事言うんだよ! 俺はこの学園の平和を、世界の未来を脅かす爆弾を処理したんだぜ!? むしろ、褒めてくれたっていいじゃねぇか!!」

 

「……そうか。それが、私から学んだ結論か」

 

そう言う千冬がポケットからアクセサリーの様なモノを取り出すと、千冬の全身が輝き、その姿は一変していた。

 

千冬が身に纏うのは、『暮桜』のISコアを元に造られたガイアメモリ対応IS『黒騎士』。

 

その通常形態は、織斑千冬が現役時代に使用していたIS『暮桜』を黒くした様な姿をしており、一夏が撃破した『シュヴァルツェア・レーゲン』が、「VTシステム」を発動させて変化した姿に酷似していた。

 

「それは……」

 

「『黒騎士』。私の新しい……そして最後の刃だ」

 

現役を引退して尚、「世界最強」と名高い自慢の姉。それが今、かつて囚われた自分を助け出した時と酷似した姿で、あの時とは全く異なる感情のこもった視線で、銃剣を構えて自分にその切っ先を向けている。その事実に、一夏は少なからず動揺していた。

 

「構えろ一夏。お前の性根を叩き直してやる」

 

「……分かってたよ千冬姉。俺の知る元の千冬姉に戻すには、こうするしかないって」

 

唯一と言える肉親の戦意を前にして、一夏もまた光と共に姿を変えた。

 

月夜が照らす第三アリーナで、白と黒が並び立つ。白は自分の信じる世界の為に。黒は自分の罪を清算する為に。

 

それぞれの思いを乗せた二つの刃は、白と黒の閃光の後に、火花を散らせて激突した。

 

 

●●●

 

 

俺はラウラと二人だけの世界で、南米でラウラと分かれてから起こった事を、ラウラが倒れてから起こった事の全て話した。

倒れてからの事にはあまり関心が無いようだったが、失敗作として処分された姉達の末路に関しては深い悲しみの表情を見せた。

 

「……そうか。迷惑をかけたな……」

 

「いや、お前が気にする必要は無い」

 

「……姉は、姉達は……今の私をどう思っているのだろうな?」

 

「……さあな。だが、少なくとも『不幸になって欲しい』とは思っていないだろうさ」

 

「……そう言うものか?」

 

「ああ、現にクロエはお前を心配してる。姉妹ってのはそう言うものだ」

 

「そ、そうか……そう言う……ものか……」

 

う~む。ラウラのこの反応を見る限り、ここに編入してからクロエに話しかけなかったのは、別に「クロエとは話もしたくない」って感じではなく、「クロエとどう接すれば良いのか、勝手が分からない」って感じだったようだ。

 

……まあ、今まで避けていた俺とこうして話しているのは、逃げ場が他に無いと言う事で観念している所為なのかも知れないが。

 

「所で、『VTシステム』が発動した時、何か無かったか? 何と言うか、得体の知れない悪魔染みた声が聞こえたとか」

 

「? ……いや、そんなモノは聞こえなかったが?」

 

? 妙だな。『VTシステム』は『白騎士の意思』を参考にして作られており、それを搭載すると言う事は、「“ISコアの人格”の中に、ソレと異なる“別の人格”を移植する」ようなモノ。

故に『VTシステム』が発動する際には、その“移植された別の人格”が表に現われるのだが、ソレが無かったと言う事はどう言うことなのか? ラウラの言う事が本当なら――

 

「『VTシステム』が発動する訳が無い。そうよね?」

 

「「!?」」

 

俺は聞き覚えのある声がした事から、ラウラは不意に現われた闖入者への警戒から、示し合わせたように同時に声のした方向を見る。そこには、やはり全身が黒ずくめで、顔に包帯を巻いた状態でサングラスをかけたシュラウドが立っていた。

 

「だ、誰だ!?」

 

「シュラウド……。どうやって……いや、どうして此処に?」

 

「愚問ね。私を誰だと思っているの? 貴方に出来て私に出来ない事は殆ど無い。そして此処に来たのは、ちょっとした親切心よ。実はその子のISに搭載されていた『VTシステム』は、私がタイミングを見計らって、外部から強制的に発動させたの。だから、その子の意思は関係無い」

 

「何ッ!?」

 

「ハッキングか……!」

 

「その通り。そして、織斑一夏は“力に溺れたラウラ・ボーデヴィッヒ”しか知らない。だから今回の事も、“ラウラ・ボーデヴィッヒが力に溺れて『VTシステム』を作動させた”としか思っていない。そして、“撃破した後のラウラ・ボーデヴィッヒは必ず改心し、自分に感謝する”。だから、そうならないこの世界がおかしい。そしてその理由が貴方にあると本気で思っているのよ」

 

「……つまり、一夏とラウラは、アンタの掌の上で弄ばれたって解釈で良いのか?」

 

「それは半分正解で半分誤解よ。あの子は見てるだけで面白い。私が弄るまでも無く、自分にとって都合の良い事ばかりを考えて、勝手に踊って壊れていく……最高によく出来ているわ」

 

人を小馬鹿にした態度で一夏を語るシュラウドに、どんどん苛立ちが募っていく。そんな俺を愉快そうに横目で見ながら、シュラウドは俺にとっては正に寝耳に水と言える、特大の爆弾を投下した。

 

「所で、外で今何が起こっているか知ってる? 織斑姉弟が一対一で戦っているのよ?」

 

「はぁッ!?」

 

「教官とヤツが!? どう言う事だ!?」

 

「まあ、自分が犯した罪の精算と言うのもあるけど……大手の目的は貴方の為よ。ゴクロー・シュレディンガー。貴方と『白騎士』を戦わせない為にね」

 

「? 俺の為?」

 

「ええ、昨日見せた『平行世界の記憶』だけど、アレは実は全員に同じモノを見せたわけじゃないの。貴方は知らないでしょうけど、『オーズ』には装着者の意思に関係無く、『白騎士』を完全撃滅させる為の“暴走スイッチ”が仕込まれている。貴方もよく知る“紫のコアメダル”がソレよ。ソレは一度発動したが最後、装着者から自我を奪い、殺戮欲求と闘争本能を強制的に引き出し、死ぬまで戦闘を止める事は無い。『白騎士』が倒されたとしてもね。そして、私はそうなった平行世界を、昨日のあの場所に居た“貴方以外の全員”に見せたの」

 

「何……!?」

 

あの場に居た、俺以外の全員!? チョット待て、それじゃあもしかして、あの過剰とも言える布陣が組まれたのは……。

 

「そして織斑一夏を倒すには『特異点:オリシュ』の力が必要不可欠。そして、織斑一夏と同様に平行世界の記憶を持った事で未来を変えうる『特異点』と化した自分なら、織斑一夏を……ひいては『白騎士』を倒せる。そう織斑千冬が思っても不思議は無いわ。

でも正直、水を差すような真似は止めて欲しいわね。最も憎むべき存在の一人が、たった一人の血を分けた肉親と互いに殺しあう……これ以上に愉快な活劇があると思う? ここは静かに見守るのがマナーなんじゃないかしら?」

 

「ふざけるな……ッ!」

 

そうか。それで、シュラウドは昨日、織斑先生や束に手を出さなかったのか。こうなることを見越していて……。

 

「……まあ、不満があるなら、今すぐに行ってご覧なさい。私が思う通りなら、貴方は絶対に間に合わない」

 

「……さて、ソイツはどうかな?」

 

「行くのか?」

 

「ああ」

 

「……私がこんな事を言うのはナンセンスだと思う……だが、教官を頼む」

 

奇しくも、織斑先生と同じ言葉を俺に投げかけたラウラ。その顔は自分ではどうする事も出来ない事を、自分の無力さを嘆くような表情だった。

 

「任せろ。兄妹」

 

後ろ向きでサムズアップをしながら、俺はラウラの精神世界から脱出した。

 

 

○○○

 

 

月光が第三アリーナを照らし、白と黒が幾度目かの閃光と火花を散らして交差する。千冬の操る『黒騎士』は、かつて自身の愛機だった『暮桜』のISコアを使用しており、その機体スペックは完全な織斑千冬専用として調整されており、必殺の武装である『零落白夜』もまた健在である。

そして、如何に第二形態への進化を果たした『白式・雪羅』が、防御力以外の単純な機体のスペックでは『白式・雪羅』の方が『黒騎士』を上回っているとは言え、相手は現役を引退して尚、間違いなく世界最強のIS操縦者である織斑千冬。戦闘経験と実力はソレを補って余りあり、一夏を完全に圧倒していた。

 

「ふんッ!!」

 

「がぁっ!!」

 

「何故、私の影ばかりを引き継いだ!? 私以上に輝く才能を持ちながら!」

 

雪片弐型と無双セイバーによる鍔迫り合い。その最中に千冬は一夏に問いかける。

 

「影!? 俺のやった事の、何処が千冬姉の影だって言うんだよ!! 千冬姉は完璧だ!! 千冬姉のやってきた事に影なんて……間違いなんてないだろ!!」

 

「違う! 私は“そう言う風”に見せてきただけだ! 周りに嘘をつき、自分自身にも嘘をついて、ずっと誤魔化して生きてきた!! だから……ッ!」

 

「ぐわぁああッ!!」

 

無双セイバーの後部スイッチを引き、引き金を引くことで6発の光弾が至近距離から発射され、全ての光弾が一夏に命中する。予想外の攻撃に怯んだ一夏はその場を後退し、そこが千冬の間合いとなった。

 

「だから私を……『完璧だ』等と、言ってくれるなッ!!」

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

無防備な一夏の体へ袈裟による『零落白夜』の一撃が決まった事で、『白式・雪羅』のシールドエネルギーがゼロになり、織斑姉妹の戦いの決着がついた……かに思われた。

 

「!? あああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

「……ようやく、出るべきものが出たか……」

 

一夏の目が金色に輝き、『白式・雪羅』から青く激しい電流が走ると、まるで昆虫の脱皮の様に『白式・雪羅』の装甲が剥がれ落ち、その中から全身装甲を纏った白い戦士が出現する。

 

操縦者である一夏を素体として、織斑千冬の『白き闇』が――『白騎士』がこの世界に再び現われたのだ。

 

「……お前は私の影だ。私の犯してきた、過ちの全てだ。だからこそ……」

 

『JOKER!』

 

「ここで終わらせる」

 

その光景を目の当たりにした千冬は、右手にジョーカーメモリを召喚し、スイッチ押してジョーカーメモリを起動させると、腰にロストドライバーが装着される。

 

「……変、身っ!!」

 

『JOKER!』

 

これまで歩いてきた自分の道筋を振り返りながら、万感の思いを込めて千冬はジョーカーメモリをメモリスロットに装填し、『黒騎士』は更なる変化を遂げる。その姿はかつて自身が身に纏い、そして現在目の前で対峙している『白騎士』に酷似した、紫のラインが入った黒い全身装甲のISへと変化した。

 

「資格の無い、者に、力は、不要」

 

「………」

 

――ああ、そうだ。私にその力は、不要なモノだった――

 

千冬は『白騎士』の言葉に、共感と対立の二つの感情を抱きつつ、最後の戦いの火蓋を切る為に宣言する。

 

「――さあ、お前の罪を数えろ!!」

 

 

●●●

 

 

夢の世界から舞い戻った瞬間、周りの声を無視して『ブルーフレアRX』の姿のまま第三アリーナへ向かって爆走する。黒いマントを翻して夜の学園を駆け抜けるエターナルと言う、第三者から見てかなりアレな光景を作りだしながら、兎に角二人の戦いに間に合う事だけを考えて走った。

 

しかし、そんな先を急ぐ俺の前に、予想外の人物がISを纏った状態で立ちふさがっていた。

 

「!? ダリル・ケイシー?」

 

「先輩をつけろよ。年はそっちが上でも、俺の方が先輩なんだぜ? 失礼な奴だな」

 

確かに。しかし、こんな時間に、こんな場所でISを展開している事を考えると、この出会いは決して偶然ではあるまい。

 

「……一体何のつもりだ?」

 

「いや、何。可愛い後輩が頑張ってるんで、先輩としてちょっとお節介を焼いてやろうと思っただけでよ?」

 

「それは本心か? ダリル・ケイシー。……いや、レイン・ミューゼル」

 

「!! テメェ、何で知ってる?」

 

「何で知らないと思う?」

 

「……まさか、気づいていてワザと放置してたのか?」

 

「アバズレの居場所を突き止める為にな。もっとも、二年のフォルテ・サファイアとイチャイチャしてるばっかりで、碌な情報は得られなかったが」

 

「覗き魔のストーカーかよ。気持ちワリィな」

 

「お前も同じ穴の狢だろうが。女にしか興味が無いと思っていたが、まさか男にも興味がある両刀使いだとはな……」

 

「「………」」

 

こうして話している間にも時間は刻一刻と過ぎていく。コイツとこんな事をして時間を無駄にする訳にはいかないが、相手はむしろソレが狙いなのだから面倒な事である。

 

「そこをどけ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「押し通る」

 

その直後、ダリル・ケイシーのIS『ヘル・ハウンド』の両肩から二つの火球が放たれる。それをエターナルロープで防ごうと思ったその時、不思議な事が起こった。

 

束に預けた筈の「DXオーズドライバーSDX」が、三つの紫色のメダルと共に空中を浮遊し、炎を掻き消したのだ。

 

「あん? 何だ、こりゃ?」

 

「コレは……まさか!!」

 

「逃げろ、ゴクロー!!」

 

猛烈に嫌な予感がした。その予感は、背後から追いかけてきただろうアンクの声と、複数人の駆け足が聞こえた直後に的中した。

3枚の紫色のメダルが俺を攻撃し、強制的にエターナルの変身が解除させると、「DXオーズドライバーSDX」が腰に装着されて全く身動きが取れなくなり、オースキャナーが独りでに動き出して空中に浮遊する。

 

そして、この時の俺は気づいていなかったが、俺の両目は紫色に輝いていた。

 

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

次の瞬間、駆けつけたマドカ、箒、鈴音、簪の四人が瞬時にISを展開し、ダリル・ケイシーは再び俺に向かって炎をまき散らした。

 

俺を含めた全員がきっと同じ事を考えていたのだろう。

 

なんとしてでも、コレを今の内に何とかしなければならないと。

 

この力が解放されたが最後、恐ろしい事になると。

 

正面に立つ『ヘル・ハウンド』の両肩からは絶えず炎が放たれ、それをプテラコアメダルが防ぐ。残ったトリケラコアメダルとティラノコアメダルを、駆けつけたマドカと箒が攻撃する事でドライバーへの装填を防ぎ、鈴音が空中に浮かんだオースキャナーを掴み、簪は俺の腰からドライバーを外そうと躍起になっていた。

 

「ちょッ!? 何よコレ!?」

 

「全然……、外れない……ッ!」

 

「ガッ!? グッ!! クソッ!! 何が何でもゴクローを変身させる気か!?」

 

「掴んだ!! コレで……うわぁ!?」

 

「「「「箒!!」」」」

 

攻撃された事でトリケラコアメダルとティラノコアメダルは攻勢に転じ、ISを纏うマドカと箒を翻弄し始めた。マドカは次々とビットを破壊され、メダルを掴んだ箒に至っては、腕部装甲が砕かれている。

 

「あ、アンク!! コレ、どうにかならないの!?」

 

「この強制力に対抗出来るとすればコンボしかない! どうせコンボを使うなら、コイツで……ぐわああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「「「「アンクゥウウウウウウウウウウウッ!?」」」」

 

「がッ……駄目だ、紫のメダルの力で近づけねぇ。……簪! お前がコイツをドライバーに装填しろ!」

 

「わ、分かった……!」

 

この状況下でアンクが選択したコアメダルは、サイ・ゴリラ・ゾウの三枚。それを簪がドライバーに装填して傾けると、鈴音がオースキャナーで、ベルトのコアメダルを勢いよくスキャンする。

 

『サイ! ゴリラ! ゾウ! サッゴーゾ、サッゴーゾ!』

 

無数のメダル状のオーラに包まれ、俺は『オーズ・サゴーゾコンボ』に変身する。そしてサゴーゾコンボへの変身が完了すると、紫のコアメダルはドライバーの中に戻っていった。

 

「……がはっ!! ア、アンク……」

 

「!! よし、上出来だ!!」

 

「……マドカ、箒、鈴音、簪。すまん、助かった」

 

「礼はいい……それよりも、大丈夫なのか?」

 

「ああ、何とかな」

 

「なら、後は任せる……」

 

「うむ。済まないが……ダメージが大きい」

 

「ああ……鈴音、簪、二人を頼む」

 

「う、うん」

 

「アンタも、気をつけなさいよ!」

 

たった二枚のメダルの力で、マドカと箒のISはボロボロになっていた。それにしても『プトティラ』への強制変身を止めようとした二人が深く傷つき、俺を攻撃し続けていたダリル・ケイシーだけが無傷と言うのは何とも皮肉な話である。

 

「チッ。『コンボ』って奴か。見たことねぇタイプだが、どんなモンかは想像がつくぜ? 攻撃力と防御力に特化したパワーファイターってトコだろ? 違うか?」

 

「いや、それで合ってる。そしてぶっちゃけると、機動力はコンボの中でもダントツで低い」

 

「つまり、当たらなけりゃ問題無ぇって訳だ。そーゆー分かりやすいのは好きだぜ」

 

「そうだ。だが……問題ない」

 

俺は『ヘル・ハウンド』を纏ったダリル・ケイシーに狙いを定め、ゴリラのドラミングの様に両手の拳でオーラングサークルを何度も何度も叩く。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「? 一体何を……ッ!?」

 

瞬間、俺の行動を怪訝な表情で見ていたダリル・ケイシーの顔に、驚愕と困惑の表情が浮かぶ。サゴーゾの固有能力である『重力操作』によって、ダリル・ケイシーに掛かっている重力は通常の10倍程に増している。今のダリル・ケイシーは、動くことすらままならない筈だ。

 

「………」

 

「ヤ、ヤベェ! このッ!!」

 

炎で攻撃する。しかし、サゴーゾは元々防御力が高く、俺は更にその防御力を高める為にメタルメモリを使っている。故に、今の『オーズ』は生半可な攻撃では傷一つ付ける事さえ叶わない。

 

「ッ!! こんのぉおおおおッ!!」

 

「オラァアアアッ!!」

 

「うごおおおおおおおおおおッ!?」

 

炎による遠・中距離攻撃が通用せず、確実に接近する俺に対し、ダリル・ケイシーは双刃剣『黒への導き【エスコート・ブラック】』を振るうが、俺は双刃剣諸共、ダリル・ケイシーを真っ正面から殴り抜ける。双刃剣は粉々に砕け、『ヘル・ハウンド』の装甲にも大きな亀裂が入っている。

 

「が……はっ……、たった、一発で……コレ、かよ……」

 

パワー・パンチ力・強靱さに優れたゴリラアームは、元々その硬質によってあらゆる物を破壊するガントレット状武器『ゴリバゴーン』によって桁外れの攻撃力を誇るが、それがメタルメモリの防御力強化によって、更なる攻撃力増強に繋がっている。だからこそ、一発良いのを当てれば、勝負の流れは一気に変わる。

 

「これで終わりだ」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

メダルを再スキャンした直後にその場で跳躍し、着地した瞬間に発生した衝撃と共に、三つの銀色のリングがダリル・ケイシーを拘束する。身動きの取れないダリル・ケイシーは地面にめり込みながら、見えない力によって俺の方へズルズルと引き寄せられていく。

 

「ちぃいいいいいいいいッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!! セイ……」

 

頭突きと両手のフックパンチが命中する瞬間、ダリル・ケイシーが横から飛んできた巨大な氷塊によって吹き飛ばされ、キルゾーンから離脱する。「サゴーゾインパクト」は氷塊を砕いただけで、肝心のダリル・ケイシーに止めを刺す事は出来なかった。

 

一体誰が……と思ってダリル・ケイシーが吹き飛ばされた方向の反対側を見ると、そこには『コールド・ブラッド』を纏ったフォルテ・サファイアが立っていた。

 

『ヤンキー娘を助ける為にヤンキー娘を攻撃したのか。中々やるな』

 

「フォ、フォルテ……助かったぜ……」

 

「なに、してんスか。先輩……」

 

倒れるダリル・ケイシーを一瞥してから、俺を見つめるフォルテの目には、冷たく鋭い怒りが明確に見えた。今のフォルテ・サファイアにとって、俺は自分の恋人をフルボッコにする悪漢に見えているのだろう。

しかし、面倒な事になった。サゴーゾはタイマンには強いが、鈍重な為に複数の敵との戦いが苦手だ。しかも此奴ら二人はコンビを組んだ時に、冷気と熱気の相転移によってエネルギーを変換、分散させる事で『イージス』と言う防御結界を張ることが出来る。

 

ここで余り時間を消費する訳にもいかないし……ここはこのメモリを使うか。

 

『DUMMY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

メモリをメタルメモリからダミーメモリにチェンジし、マキシマムドライブを発動すると、俺の隣にもう一人の俺が……すなわち、『オーズ・サゴーゾコンボ』がもう一人現われた。

 

「何ッ!?」

 

「えッ!? えッ!?」

 

「超変身!!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

此奴らの事だから、昆虫系コンボである『ガタキリバ』の分身生成能力は知っているだろうが、まさかそれ以外の方法で分身する事が出来るとは考えが及ばなかったのだろう。

その隙を突いて、本体の俺は『サゴーゾ』から『ラトラーター』へとコンボチェンジ。メモリもダミーからルナへと変えた。

 

兎に角、早急にこの二人を倒すには、何とかして一対一に持ち込む必要がある。その為には……。

 

「こ、こんな裏技、私聞いて無いッスよ!」

 

「フ……二対一は卑怯だろ。もっとも、これから三対二になるんだけどな」

 

「!! もしかして、他に仲間を――」

 

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 

「うわぁあああああああああああああ!?」

 

フォルテ・サファイアは、遠隔操作によって呼び出したトライドベンダーに背後から噛みつかれ、強制的にダリル・ケイシーの元から引き離される。それを見た本体の俺はトライドベンダーに飛び移り、フォルテ・サファイアと共にその場を離脱した。

 

「フォルテ!!」

 

「余所見してる場合か!?」

 

「うぼぉおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

遠ざかる恋人に手を伸ばすダリル・ケイシーに対し、分身の『オーズ・サゴーゾコンボ』が容赦なくロケットパンチ「バゴーンプレッシャー」をぶつける。ダリル・ケイシーはまたもや攻撃をまともに食らい、更にダメージが蓄積していく。

 

一方のフォルテ・サファイアは、トライドベンダーによって極力戦闘の余波による影響の出ない場所まで移動させられ、『ラトラーター』と一対一の戦闘を強いられていた。

彼女の専用機である『コール・ブラッド』は冷気を操る能力を持ち、彼女自身も決して弱くは無いのだが、元々戦闘能力に優れている猫科動物の特性を色濃く持ち、更に熱線を操る能力を持っている『ラトラーター』は、彼女にとって余りにも分が悪過ぎる相手だった。

 

「フッ!! ハアッ!! ガァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「うあっ! ぐっ! うわああああああああああああああっ!!」

 

高出力の熱エネルギーによって、生成した氷塊や氷柱は瞬く間に蒸発し、近接戦闘においては全く手も足も出ない。そんな猛攻の中でフォルテ・サファイアは、猛獣に狩られる草食動物の気持ちを理解した。

 

そして、離れた場所で戦う二人の『オーズ』は、全く同じタイミングで必殺技の発動体勢に入った。

 

『『スキャニング・チャージ!』』

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

ダリル・ケイシーは三つの銀色のリングによって再び重力の坩堝に叩き込まれ、フォルテ・サファイアは三つの黄色いリングを通過した『ラトラーター』の放つ激しい閃光によって、動きを止める。

そして、ダリル・ケイシーには『サゴーゾ』の「サゴーゾインパクト」が、フォルテ・サファイアには『ラトラーター』の「ガッシュクロス」がそれぞれ炸裂した。

 

「が、はぁ……」

 

「うぅ……」

 

『ヘル・ハウンド』と『コールド・ブラッド』のエネルギーがゼロになった事で解除され、その場にダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアが横たわる。二人とも体力を摩耗して身動きを取ることもままならないが、それでも辛うじて意識を保っていた。

 

取り敢えず、この二人はダミーメモリの分身に任せ、俺はトライドベンダーに跨がり、再び第三アリーナを目指す。

 

頼むから、間に合ってくれ……!

 

 

○○○

 

 

その頃、『白騎士』と『黒騎士』の戦いは終演に近づいていた。

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「フンッッ!!!」

 

ジョーカーメモリのマキシマムドライブを発動させ、只でさえ向上していた身体能力と技能を更に上のレベルへと引き上げる。そこから繰り出される紫の斬撃は『白騎士』の斬撃をいなし、その白い装甲へ一太刀、更に一太刀と、確実にカウンターの要領で切り裂いていく。

そして、幾度となく繰り返された剣劇の嵐の中、遂に『黒騎士』の一撃が『白騎士』の右手首を捉え、『白騎士』から近接ブレードを弾き飛ばした。

 

「!!」

 

「これで終わりだ!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ここで勝負を決めるべく、千冬は再度マキシマムスロットをタップする。最高出力を発揮した紫の一閃は『白騎士』のISコア目がけて真っ直ぐに振り下ろされ――。

 

「酷いよ。千冬姉……」

 

「……ッ!!」

 

――『白騎士』に触れる直前で止まった。

 

「ハァアッ!!」

 

「ぐああああああああああああああっ!!」

 

その一瞬の隙を突き、『白騎士』は「零落白夜」の爪を手刀の様に束ねて一枚のブレードとし、『黒騎士』を左下から右上へ、斜め上に切り上げる。『黒騎士』の装甲は胸部から頭部に至るまで切り裂かれ、その中にある千冬の体と顔から血が噴き出していた。

 

「うぁあ……ッ、ぐぅうううッ!!」

 

朦朧とする意識の中、自身の甘さを痛感しつつ、千冬は最後の力を振り絞り、使うつもりが無かった「禁じ手」の使用に踏み切った。

 

元々束が開発した『青騎士』『黒騎士』『紅騎士』の三機は、『オーズ』を守る事をコンセプトとして製作された機体だが、束はそれぞれの機体に“それ以外”の役割を持たせていた。

 

『青騎士』は『オーズ』が戦闘不能になった場合において、ナスカメモリのマキシマムドライブによる超高速を利用した、戦場からの迅速な離脱を。

 

『紅騎士』は『オーズ』の「シュナイダーユニット」の使用限界を、「絢爛舞踏」と名付けた特殊能力によってカバーする事を。

 

そして『黒騎士』に与えられた役割は、『オーズ』が暴走状態に陥った際に、可能な限り無傷で止める事。その為に『黒騎士』に搭載された「最後の切り札」は――

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

――IS仕様に製作された「エターナルエッジ」と、複製された「エターナルメモリ」。

 

そもそも『エターナル』が、『白騎士』と『暮桜』のデータを元にしていた以上、千冬のエターナルメモリとの適合率が高いのは必然であり、実際に千冬のエターナルメモリとの適合率は、ゴクローはおろか少佐をも上回っており、理論上では『オーズ』の持つメモリの能力を完全に停止させる事が可能だった。

 

『MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM……』

 

しかし、今回千冬が使用したのはソレをも上回る力を発揮する、『ジョーカーメモリ』と『エターナルメモリ』によるツインマキシマム。

千冬は『黒騎士』にのみ許された「禁じ手」を使い、二つのメモリの力を限界以上に引き出すと、残り少ない力を振り絞って、青紫に輝くコンバットナイフの切っ先を『白騎士』のISコアを目がけて振り下ろす。

 

――さらばだ、『白騎士』――

 

『MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM……』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ぐっ! ああああああああああああああああああっ!!」

 

コンバットナイフの刀身は『白騎士』の装甲を貫き、ISコアに深々と突き刺さる。壊れたテープレコーダーの様に繰り返される、最大出力を意味する音声を聞きながら、千冬はコンバットナイフを両手で握り、渾身の力を込めて刃を押し付けながら、徐々に『白騎士』の装甲を切り裂いていく。

 

――済まない『白式』。そして……――

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! せいやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

千冬の贖罪の思いと、『切り札の記憶』と『永遠の記憶』が込められた刃は、遂に“『白騎士』の意思”を、“『白式』の意思”とISコア諸共両断した。そして性能限界を超える力を発揮し続けたジョーカーメモリとエターナルメモリは焼き切れ、完全に機能を停止した。

 

装甲が崩壊すると同時に『白騎士』が倒れると、千冬の纏っていた『黒騎士』もまた崩壊を始めていた。

千冬にとって相性が良すぎる二本のガイアメモリによるツインマキシマムは、『黒騎士』のISコアに、自壊させる程の致命的な負担を与えて続けていたのだ。

 

――ありがとう、『暮桜』――

 

『白騎士』と『黒騎士』。二機のISがこの世界から消え去った時、残されたのは操縦者たる二人の姉弟。弟は倒れ伏し、姉は辛うじて立っていた。

 

――これで私は……、もう誰も死なせずに済んだ……――

 

「織斑先生ッ!!」

 

第三アリーナに駆けつけた『オーズ』の姿を見た瞬間、緊張の糸が切れたのか、前のめりに倒れ込む千冬を『オーズ』が腕に抱えて受け止める。千冬は大量の血を流し、朦朧とする意識の中、仮面の下で泣きそうな顔で自分を見つめるゴクローを幻視した。

 

――そんな顔をするな、シュレディンガー……。気分はそんなに悪くない……――

 

今まで目を背け、虚飾の栄光で誤魔化してきた、自身の犯した過ちの全て。

 

それに決着を付けた千冬は、満足した様な安らかな笑みを浮かべて、ゆっくりと目を閉じた。




キャラクタァ~紹介&解説

メロンネーサン
 作者の中では構想段階から既に、『鎧武』の「メロンニーサンVS闇ッチ」のISバージョンを書きたいと言う欲望があった為、千冬はメロンニーサンの如く闇ッチと化した一夏との対決と、その末路が確定していた。
 この一件で彼女には顔に大きな傷が出来ることになったが、これは「千冬って顔に傷があって法衣を着れば『新仮面ライダーSPIRIT』の義経みたいになるんじゃね?」と言う、作者の欲望と趣味に起因する。

闇ッ夏
 上記の通り、作者の中では構想段階から既に、『鎧武』の「メロンニーサンVS闇ッチ」のISバージョンを書きたいと言う欲望があった為、コイツは闇ッチの如く闇堕ちする事が確定していた。結果として相打ちになったが、コレも後々の展開の為。

ダリル・ケイシー
 ようやくまともな出番が出たアメリカ代表候補生、且つ『亡国企業』のメンバー。危うくプトティラコンボの餌食になる所だったが、メタルメモリによって攻撃力と防御力に極振りしたサゴーゾコンボ相手に手も足も出ないと言う、どちらにせよ酷い目に遭う。まあ、フリーズドライで粉砕されるよりはマシだろう。
 ちなみに彼女が協力した理由は、「織斑姉弟が戦い、勝ち残って疲弊した方を仕留める」と言う目論見があったからであり、決して一夏に善意から協力した訳では無い。

フォルテ・サファイア
 出番はあったものの、上記のダリル以上に戦闘シーンが少ないギリシャ代表候補生。ちなみに、トライドベンダーを使って安全地帯まで運ぶのは、『クウガ』のトライゴウラムやビートゴウラムによるグロンギ怪人移送のオマージュ。



サゴーゾコンボ
 重量系コアメダル3枚からなる「重力コンボ」。機動力は極端に低いが、重力攻撃によってカバーできるので、一対一においては特に問題は無い。原作においては相性の優劣がハッキリと出る為、あまり勝率が高くはないが、作者はそのパワフルな戦法が好き。
 ちなみに今回のVSダリル・ケイシー戦は、『クウガ』において五代雄介が編み出したタイタンフォーム戦法のオマージュ。もっとも使うのは剣ではなく拳なのだが。

黒騎士(通常態/ジョーカー・バージョン)
 束が『暮桜』のISコアを用いて造った、千冬専用機。名前こそ『黒騎士』だが、その通常態は黒い『暮桜』と言った感じで、原作でマドカが使った『黒騎士』様な機体ではない。尚、武装は「無双セイバー」だけが大量にストックされており、その気になれば二刀流も可能だった。
 ジョーカーメモリを使った場合、『白騎士』の色違いの様な姿に変化。全体的に身体能力が上昇し、副武装として「エターナルメモリ」と「エターナルエッジ」が追加されている。
 初登場した直後に『白騎士』と相打ちになって、速攻で退場というスピード展開。まあ、このままダラダラと続けても出番は無いだろうが……。
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