ちなみに、今回の話を投稿した後に、『怪人バッタ男』も二話分投稿するので、興味のある方はそちらもよろしくお願いします。
ゴクローと一夏の戦いが始まる数分前、鬼神の如く勇ましい足取りで廊下を歩く一夏の前に、何時もの包帯と全身黒ずくめと言う不審者丸出しの格好に身を包んだシュラウドが現われた。
「どうやら『覚悟』は決まったようね」
「………」
「大丈夫。何も恐れる事はないわ。貴方が知っている通り、この世界は本来“貴方が望むモノなら、全てが現実になる”。何故なら貴方は世界の祝福を受けた『選ばれし者』なのだから」
「……ゴクローは必ず俺が倒す。絶対に手は出すな」
「“出さない”と言うより“出せない”わ。何せ『オーズ』に対して最も有効と思われる対抗手段は、貴方が持つ『紫のメダル』だけなのだもの。そして、向こうも『紫のメダル』を持っているからソレを確実に使ってくる……と言うかソレしか使えない筈よ。同質・同系統の力を持つ者同士の勝負に持ち込んだなら、後はお互いの心の力。つまりは『覚悟』が勝敗を分けると言っても過言では無い」
「………」
シュラウドの言葉に、決意を秘めた瞳を更に燃やす一夏。その背中を見つめるシュラウドは包帯の下で不敵な笑みを浮かべていた。
「……そう。我々は最初からこうするべきだったのよ。この世界の行く末を、映画の台本の様に『どんな事がなるべくしてなる事なのか』を知り、『それぞれがどんな役を演じるのか』を知る事が出来たのなら、『運命』を自分の思うがままにたぐり寄せる事も不可能ではない」
シュラウドは想う。コレは果たして自分が想っている通りに“本来の人物から奪い取った役目”なのか。それともコレは“元々決まっていたこと”なのか……と
「……いずれにせよ、『自分の正義を成しているつもりで、実際には都合良く他者に利用されている事に気づかない』。それが観測したどの世界でも、そしてこの世界でも変わらない、“世界が織斑一夏に与えた役割”だと言う事だけは確かだった」
その言葉を最後に、シュラウドは行動を開始した。何せ今回の計画の成否が、今後の全ての計画を左右するのだ。失敗は絶対に許されない。
「さあ、行ってきなさい。狙いは分かっているわね?」
「GAAAXAA~~~」
「CUURRRR~~~」
シュラウドの手元から二つの小さな影が飛び出し、IS学園の廊下を縦横無尽に疾走する。一つは恐竜の様な形を、もう一つはオオカミの様な姿をしている小型ロボットだ。
それからおおよそ5分。本来ならば『ゴクロー・シュレディンガーVSクラリッサ・ハルフォーフ』の試合が行われる筈だったアリーナと、そこに続く廊下。それ以外にもIS学園の至る所から火災が発生し、生徒会や教職員達がその対応に追われる様を、シュラウドはIS学園上空に滞空しながら他人事の様に眺めていた。
「不完全なプロトタイプでも物は使いようね。正直、反動が大き過ぎて到底実戦で使える様な代物じゃないのだけど……まあ、どんな欠陥品でも、『織斑一夏ならば大丈夫』……と言う事かしらね」
ここまでは予定通りに事が進んでいる。先程シュラウドが解き放ったのは、自らの意思を持って自立稼働する事が出来る特殊なガイアメモリであり、それぞれが『牙の記憶』と『動物園の記憶』を内包している。
その二つのメモリの力によって、『ファング・クエイク』と『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』はシュラウドの思い通りに動く手駒と化した。もっともコレは、“本来の世界の篠ノ之束”がやる筈だった複数の事柄を前倒しし、それをシュラウドがバージョンアップさせただけに過ぎないのだが。
「そうね! 一番のお目当ては一夏ちゃんが何とかしてくれそうね!」
「……貴方もそろそろ動きなさい。『NEVER』の連中は元より、誰一人としてゴクローの元へ行かせたら駄目よ。万が一、織斑マドカと篠ノ之箒以外のメモリユーザーがいれば面倒な事になる」
「分かったわ、お母様!! それじゃあ、ワタシも行ってきま~~~~~~~すッ!!」
「………」
降下する京水に一抹の不安を覚えるが、アレでも中々優秀な存在である事は事実。シュラウドは気を取り直して、自身の隣にいるもう一人に視線を向けた。
「それじゃあ、6枚の『紫のコアメダル』については……全て貴方に任せるわ。“ライト”」
「分かったよ、“母さん”」
シュラウドにライトと呼ばれたのは、オーズに酷似した姿の異形の戦士。そのベルトには6枚のコアメダルが嵌め込まれ、正中線を境界とした左右非対称の姿は、見る者に不気味な印象を抱かせる。そしてエコーの掛かったその声は、何処か子供のような幼さを残しており、それがまた違和感と共に独特の雰囲気を醸し出していた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「ええ、頼むわよ」
ライトと呼ばれた異形の戦士が降下するのを見届けると、シュラウドもまた篠ノ之束が居るだろう『NEVER』の拠点に向かって真っ直ぐに降下していく。
それぞれが宿願の為に、或いは欲望の為にIS学園を戦場としてぶつかり合ったこの日。
この日が後の歴史で“一つの神話の終わりの始まり”と記される事となる等と、この時はこの場所にいる誰もが知るよしもない事であった。
○○○
理不尽な暴力。ソレはそう表現する他に無い程野性的で、圧倒的な力だった。
「ガッ……ハ……」
「GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
血反吐を吐き、地べたに顔を擦りつけるのは、ドイツの代表操縦者であるクラリッサ・ハルフォーフ。彼女の専用IS『シュヴァルツェア・ツヴァイク』には、『オーズ』との敗戦の後に開発された『VTシステム搭載型強化パッケージ』が用いられていたが、突如現われた機械仕掛けの白き魔獣は、そんな彼女を造作も無く追い詰めていく
かつて『オーズ』との戦いで与えられた敗北により、クラリッサは更にISの鍛錬に励むようになった。専用機もバージョンアップされ、『オーズ』へのリベンジマッチへの準備は万端だった。
しかし、アリーナで『オーズ』を待っていた彼女の前に現われたのは、全身から鋭利な刃を生やした白い異形だった。これだけでも充分に異常だが、何よりもクラリッサを驚かせたのは、その白い異形を『シュヴァルツェア・ツヴァイク』が、アメリカ代表操縦者であるイーリス・コーリングの専用IS『ファング・クエイク』だと認識している事。そして、その一瞬の驚きが命取りだった。
「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「なっ!! ぐわあああああああああああっ!!」
事前に入手していたデータと異なる姿と、それを遙かに上回るスピード。ISの『絶対防御』を無視する攻撃に、此方の攻撃を意にも介していない防御を完全に無視した動き。野生の本能の赴くままに攻撃するソレは、正に人ならぬ獣の戦い方。
これが野生の熊や狼を相手にする様なモノだったならば、クラリッサにも勝機はあっただろう。しかし、今クラリッサが相対しているのは、習性や本能と言った獣が持ち合わせているモノを持っていない鋼の猛獣。しかもその相手は、“この世界で最強”とされる兵器をベースとしており、同格の兵器を持ってしても尚、埋まらない程の戦闘力を持っていた。
「こんな……馬鹿な……」
「FUUUUU……WWWWUUUUSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
そして、白き魔獣は『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の持ちうる抵抗できる手段の全てを、クラリッサからは抵抗する気力を奪い――容赦なく『シュヴァルツェア・ツヴァイク』のISコアを破壊した。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「おっと!!」
ISの心臓部と言える箇所が粉砕され、『シュヴァルツェア・ツヴァイク』から放り出されるクラリッサ。アンクに改悪と称されたとは言え『VTシステム』が絡んだパッケージを搭載していた事を考えると、ここで『シュヴァルツェア・ツヴァイク』が破壊された事は、ある意味でクラリッサにとって幸いであった。
そんなクラリッサを受け止めたのは、専用IS『テンペスタ』を纏ったイタリアの代表操縦者のアリーシャ・ジョゼスターフだ。
「アラアラ……これはドエライ事になってるじゃないカ……」
アリーシャは、ほんの数分前までの事を思い起こしていた。
昨日と同じ様に『オーズ』の戦い振りを、自分達国家代表操縦者にあてがわれた部屋にて三人で観戦しようとした所で、突然天井から恐竜と狼の小型ロボットが現われたかと思えば、変形して待機状態だったナターシャ・ファイルスの『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』とイーリス・コーリングの『ファング・クエイク』に突き刺さった。
『FANG!』
『ZOO!』
そして小型ロボットがそれぞれのISに吸い込まれたと思えば、まるでISが意思を持って動き出したかのように操縦者である二人を飲み込み、その姿を大きく変えて暴走を開始したのだ。
そして、二手に別れた二機の内、『ファング・クエイク』の方を追ってきた訳だが、その所為で今度はアリーシャがターゲットとして認識されてしまった。
「RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
「あああッ!! 本当に何なのサ!! 一体何がどうなってるのサ!!」
新鮮な血と肉を求めるように襲いかかる白き魔獣に対して、アリーシャは『単一仕様能力』の『疾走する嵐【アーリィ・テンペスト】』による実体のある分身を繰り出し、更には二代目ブリュンヒルデとなるまでに至った才能と経験によって対処する。
そんな戦乙女と魔獣の戦いに、真紅の機体を纏った大和撫子と、青い機体を纏った英国淑女が乱入した。
「アリーシャさん!」
「おお! 丁度良かったのサ、モップちゃん! 早くお宅のボスに連絡してコイツを何とかして欲しいのサ! 形こそ違ったケド、コレは間違いなくガイアメモリの仕業サ! 『ファング』って言っていたのサ!!」
「モップちゃん!? それって私の事ですか!?」
「箒さん! それよりもガイアメモリの事ですわ!」
アリーシャが付けた渾名の酷さに動揺する箒だったが、セシリアの一言で冷静さを取り戻すと、改めてアリーシャから得られた情報を咀嚼する。
この件にガイアメモリが絡んでいるとすれば、十中十シュラウドの仕業である事は容易に予測できる。そして『ファング』のメモリについてはゴクローからも聞いたことがあるので、その点ではこちら側にアドバンテージがあると言えるだろう。
『箒、セシリア。此方は簪と共に楯無と合流。今は暴走した「銀の福音」と戦闘中なのだが、能力が多彩でメモリが特定出来ん。何か情報は無いか?』
プライベート・チャンネルを通じて箒とセシリアに話しかけるのは、二人とは別行動を取っているマドカ。彼女は簪を連れて楯無と共に、IS学園の上空を高速で飛び回る『銀の福音』を追っていたが、まだらな体色と様々な動物のディティールが混ざり合った『銀の福音』を相手に苦戦していた。
「アリーシャさん! もう一人の方のメモリは何かご存じ有りませんか!?」
「ご存じも何も、バッチリとこの耳で聞いたサ! 『ズー』なのサ!」
「『ズー』!? 動物園か?」
『……今、アンクと通信して詳細を聞いた。「ズー」の能力は簡単に言えば“コンボによる特殊能力の無い「オーズ」”。そもそもズーメモリは、『オーズ』を作成する過程で試験的に作られたガイアメモリらしい』
「ガイアメモリ版の『オーズ』か……、そっちはそっちで厄介だな」
「それよりも、お宅のボスはこの緊急事態にどうしたのサ!」
「……ゴクローは今、一夏と交戦中だ。どうやら、シュラウドから貰ったドライバーと、紫のコアメダルのコンボを使っていて、すぐには来られないとの事だ」
「……つまり、お宅のボスはお取込み中で、こっちはアタシ達で何とかしなきゃいけないって訳なのカ……?」
「ええ、そうなりますわ……」
「GUUUUUGARRRRRRRRR……!!」
シュラウドの手によって暴走し、存在を書き換えられた『ファング・クエイク』を相手取り、機体に生体パーツとして取り込まれたイーリス・コーリングを救う。
そんな難題に挑む三人の乙女を獲物としてしか見ていない白き魔獣は、その強大な牙をむき出しにして、彼女達に襲い掛かった。
●●●
シュラウドが新しく作り出したのだろう、恐竜系ヤミー(鵺は違うが)をモチーフにした紫のメダルのコンボ。その力は装着者である一夏の戦闘能力を含め、俺の予想を大幅に上回っていた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
だが、それは当然と言えば当然なのかも知れない。『紫のコアメダル』が司るモノは“無の欲望”。原作の『オーズ』において「ダァクトゥァー真木ィ!!」こと、真木博士が『世界の終末』を望んだ様に、一夏は『世界の修正』を心の底から望んでいる。この世界を“俺が存在しない『基本世界』”と同じにしようと戦っている。
……だからだろうか? 一夏が変身した『紫のポセイドン』の腰に装着されたドライバーに嵌め込められた『紫のコアメダル』が激しく光り輝き、その潜在能力を余すこと無く発揮しているのは。しかし――。
「ッッ!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「!! やはりその力、何かリスクがあるみたいだな……!!」
「うるっ……せぇ……!!」
大型恐竜並みに強化された身体能力とメダガブリューを用いて、一夏の振るう大剣を受け止めると、突然一夏が苦しみだした。そもそも、通常のコアメダルのコンボでさえリスクがあると言うのに、それを大幅に上回る力を持った『紫のコアメダル』のコンボを使っているのだ。只で済む筈がない。
「変身を解除しろ!! 下手をすると死ぬぞ!!」
「……それでアンタを止められるって言うなら……喜んで死んでやるッ!!」
「一夏……ッ!!」
「俺が、俺が皆を守るんだ!! もう、これ以上……失う訳にはいかないんだよぉおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
絶叫と共に体をぶつけて俺を弾き飛ばすと、一夏は肩から無数の氷柱を発射して俺の両足を凍らせて身動きを封じた後、盾を捨てて大剣を両手で持ち、大上段に構えた。
「!! 何ッ!?」
「ゴクロー・シュレディンガー。お前に渡す位なら……ッ!!」
『スキャニング・チャージ!』
此方の『DXオーズドライバーSDX』と異なり、スキャナーによるコアメダルの再スキャン無しで発動する必殺技のコール音。
一見すると一夏は、防御を捨てて一撃必殺に賭けたかの様に見えるが、堂に入ったその姿から伺う事が出来たのは、織斑先生から伝授されただろう、真剣による勝負による命のやり取りに対する覚悟。
つまりは……俺に対する純然たる殺意だ。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
魂の咆哮と共に、高密度に収束された紫のエネルギーによって発光する大剣を手に、斬り掛かる一夏。逃げる事は出来ない。そして避ける事は許されない。これはそんな一撃だ。
しかし、同じ系統のメダルのコンボを使っていて、どうしてここまで戦闘力に差が生まれるのか? やはり、俺も覚悟を決めるしか無いのか……? コイツの様に、自分の命を差し出し、相手の命を奪う覚悟を……ッ。
俺がそんな諦めにも似た覚悟を決めかけたその時、ふと頭に閃いたものがあった。
「アンク!! タカ・トラ・バッタ!!」
「!? チッ!!」
コアメダルを手渡して交換する時間は無いと思ったのか、アンクがドライバーに飛び込むと、紫色で統一されていた3枚のメダルが赤・黄・緑に変化し、俺は即座にそれらのメダルをスキャンする。
「変身!!」
『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』
「!?」
プトティラコンボからタトバコンボへのコンボチェンジ。これには一夏も面喰らった様だが、振り下ろされた大剣は止まらない。
そして、本来ならば俺の脳天に加えられる筈だったその一撃は、メダガブリューとメダジャリバーの二刀によって防がれた。
「何だ……何のつもりだ。何のつもりなんだソレは! ふざけんな!!」
「……ふざけてなんていない。考えてみれば簡単な事だった」
そう、考えてみれば『紫のコアメダル』が司るのは『無の欲望』。破壊や破滅と言った、人間の心が抱えるマイナス面に強く反応する。それ故に、一夏に対してそうした欲望を持っていない俺とは、そもそも相性が悪かったのだ。
「一夏……お前は“俺を破壊したい”んだろう? だからその『紫のコアメダル』はお前に力を与えている。だが、俺には“お前を破壊したい”と言う欲望は無い。だから……だからこそ“この姿”になったんだよ。俺は!」
「ッッ!! 俺なんか壊すまでも無いって言うのか……ッ!!」
「……違う。お前の言う通り、俺はこの世界の外側からやって来た異端者だ。お前に言われなくなって、何度も思っていたさ。ここは“自分が居て良い場所じゃ無い”なんて事は」
「だったらとっとと出て行けよ!! 俺らに構わず、とっとと消えれば良いじゃねぇかよぉおッ!!」
「……それでも、見過ごせないモノがあった。どうしても、見ていられない人達が居た。それをどうにかしてやりたかった。その所為なのかも知れないけれど、ソレは何時か誰かがやる事だったのかも知れないけれど……俺は、『この世界で生きて欲しい』と言われたんだ」
「……は?」
「俺は、確かにこう言われたんだ。『この世界が俺の居場所』なんだと……『俺が生きる世界で一緒に生きていたい』と……ッ!!」
「黙れぇえええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」
俺の言葉を否定する様な猛攻を繰り出す一夏を、メダガブリューとメダジャリバーの二刀流で捌いていく。その間にもドライバーに嵌め込まれたタカ・トラ・バッタの3枚のコアメダルは、一夏の3枚の『紫のコアメダル』と同様に……いや、それ以上の輝きを持ってその力を増していく。
「だから俺は死ねないッ!! 俺はこの世界で、束と、クロエと、箒と、マドカと、皆と……“生きて”、“逝きたい”んだッッ!!!」
これまで心から受け入れる事が出来なかった第二の人生。人の命は一つしか無いと考えていた俺としては、一度死んだ人間である俺がこの世界で生きることは、ルール違反も甚だしい反則の様な事だと思えて仕方が無かった。その所為か、「何時死んでも良い」と思う気になる事だって何度もあった。
だが、今は違う。反則だとか、ズルだとか、異常とか、イレギュラーとか、そんな事とは全く関係無い。ただ純粋に、アイツらと一緒に生きて、逝きたい。
それが俺の『仮面ライダー』としてではなく、『オーズ』としてでもない、『ゴクロー・シュレディンガー』としての欲望だった。
「束さん達と……生きて逝きたいだと……? 笑わせるな!! 俺だけが、俺だけがこの世界で皆を幸せに出来る唯一の人間なんだ!! お前に皆は……渡さないッッ!!!」
『スキャニング・チャージ!』
「……アイツらが誰と共に生きるか、誰と一緒に逝きたいのか。それはきっと少なくとも……」
――……なあ、ゴクロー。私の幸せは一夏でも、ゴクローでも、他の誰でも無い。私が決めることなんだぞ?――
「俺達が勝手に決める事じゃ無い」
『トリプル・スキャニングチャージ!』
そして再び紫のエネルギーを纏った大剣による一撃が迫り、それを俺は3枚のセルメダルのエネルギーを纏ったメダジャリバーで受け止める。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
激突する刃は激しい閃光を放ち、ギャリギャリと刃が潰れる嫌な金属音が鳴り響く。そんな鍔迫り合いの中、決め手に欠くと思った俺達の選択肢は、奇しくも「ガイアメモリによる強化」という一致を見た。
『ZERO・MAXIMUM-DRIVE!』
『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』
俺がジョーカーメモリのマキシマムドライブを選択したのに対し、一夏はゼロメモリのマキシマムドライブでソレに対抗する。『無の記憶』を宿したゼロメモリの効果は、記憶が正しければ「触れた物体のエネルギーの消失」。成る程、『紫のコアメダル』との組み合わせとしては最適解と言えるだろう。
「これで……終わりだぁあああああああああああああああああッ!!」
「冗談だろッ!!」
ゼロメモリのマキシマムドライブによって、一夏は自分の勝利を確信している様だった。
しかし、俺は知っている。小説版『仮面ライダーW』において、仮面ライダーアクセルがゼロ・ドーパントと対峙した際、彼は「スロットルを回転させる事でメモリのエネルギーを増幅させる」というアクセルの特殊能力によって、ゼロ・ドーパントの能力を攻略していた事を。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「!? な、何だッ!?」
ジョーカーメモリは『切り札の記憶』を内包したガイアメモリ。そしてその力の真価は、限界ギリギリの土壇場でこそ最大限に発揮される。
今回、俺が発動したジョーカーメモリの最大出力は、一夏が発動したゼロメモリの最大出力を上回っても尚、その力の上昇が止まることは無く、遂には一夏の持つ大剣と、俺の持つメダジャリバーがそのエネルギーに耐えきれず、音を立てて同時に砕け散る事となった。
「!? そんな……!!」
「オラァッ!!」
確信した勝利が崩れた事に動揺し、隙だらけだった一夏の腹……正確にはドライバー目がけて、左腕のトラクローを突き刺すと、残された力を全て右腕に集約させ、必殺の一撃となる決め手を叩き込んだ。
「ライダァアアアアアアアア……パァアアアアアアアアアアアアアアンチッッ!!!」
「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
渾身の右ストレートは一夏の顔面を捕らえ、一夏を豪快に吹き飛ばす。それと同時にドライバーに突き刺したトラクローが引き抜かれると、紫色をした3枚のコアメダルがトラクローの間に挟まっていた。
「ハァ……ハァ……」
「………」
ドライバーからコアメダルが外れたことによるモノか、それとも装着者が戦闘不能になった事によるモノか。シュラウドの事を考えると前者の方が正解の様な気がするが、兎に角一夏は『紫のポセイドン』と言うべき異端のライダーから元の姿に戻った。
しかし、その体は明らかに戦闘による怪我以上のダメージを負っており、どう見ても無事では無かった。
「コレは……ヤバいな……」
『ハッ。自業自得だ。ろくでもない外法なんぞに頼るから、体を磨り潰しながら戦う羽目になる』
「………」
――俺だけが、俺だけがこの世界で皆を幸せに出来る唯一の人間なんだ!! お前に皆は……渡さないッッ!!――
……そうだな、一夏。俺もお前と同じ様に、「特異点オリシュの居ない基本世界」と、「特異点オリシュの居る平行世界」を見てそう思ったよ。だが……。
――束さんも、昔は似たような事考えてたよ。この世界に私の居場所は無いし、私を本当の意味で理解してくれる人も居ない。だから、「この世界は私の世界」じゃないんだって、本気で思ってた――
その言葉で俺は孤独に敗れ、束を、クロエを、箒を、マドカを……自分と共に生きる存在を求めてしまった。まるで哀れな、弱々しく泣き伏せる童の様に……。それが彼女達の運命が本来辿るべきレールから外れ、地獄の道連れになってしまうかも知れないと解っていて……。
そうだ。戦いを長引かせたのも、お前達を戦いに巻き込んだのも、全てはこの俺の弱い心と力ゆえ……。
「織斑先生に合わせる顔が無いな……」
『……あのな、ゴクロー。突き詰めていけばこんなものは、餓鬼の喧嘩だ。お前はコイツに“付き合ってやった”だけだ。この馬夏の児戯にな』
「児戯……?」
『そうだ。闘争の本質だ。「“それ”を打ち倒さなければ“自分”になれない」。だからその為だけに、何もかもを引っくり返して叩き売った。10年前のウサギ女と織斑千冬も、この馬夏も、シュラウドも、あのデブの少佐もな』
「………」
『だからコイツはお前と戦った。戦いたがった。そうでなけりゃ、自分が一歩も前に進めないからだ。他に進む術も知らなかったからだ。
そして何よりもコイツは無用者になるのが……役立たずになるのが怖かった。だから「俺は俺の大事な家族を守る」と言いながら、自分が最も大事に思っている家族をその手にかけた』
「……」
『要は餓鬼なんだよコイツは。何一つ変わっていない、変わる事も出来ない。痩せっぽっちの糞餓鬼だ』
「………」
アンクの一夏に対する批評を聞き終えた俺は、仰向けに倒れる一夏に近づくと、手元からロストドライバーとエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを一夏の腰に装着させた。
『おい、ゴクロー。何を考えている?』
「一夏を『エターナル』に変身させる。コイツには『生体再生機能』があるから、今ならまだ助かる筈だ」
『……コイツはお前を本気で殺しにかかったんだぞ? 情けを掛けても、恩を仇で返されるんじゃないのか?』
「……アンクが言った筈だぞ。俺の線引きは『愛を失い、愛に彷徨う人間なら必ず助ける』って。その基準で言うなら、一夏だって同じだ。愛を失い、愛に彷徨していた……」
『………』
「だから……俺は……」
『ETERNAL!』
エターナルメモリを起動させ、メモリスロットに差し込む。そしてメモリスロットを傾けると、一夏の体が蒼炎を宿した白亜の騎士へと変わる。うむ、エターナルメモリとの相性は悪くないだろうと思っていたが、無事に変身できて良かった。
「それで……取り敢えず此方は終わったが、他はどうなっている?」
『マドカが「ズー」、箒が「ファング」、中華娘が「京水」、そしてウサギ女が「ユートピア」を相手にしているが……さて、どのメモリの所へ加勢に行く?』
「そうだな……まずは……」
『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』
そのガイダンスボイスが聞こえた直後、強烈な衝撃が腹部を襲い、その場から大きく弾き飛ばされた。
「ウゴォオオオオオッ!!」
「何ぃいいいいいいッ!?」
地面を転がりながら変身が解除され、アンクがドライバーから飛び出すと、その場に数枚のコアメダルが降り注いだ。その光景にハッとして腰に巻かれたドライバーに視線を落とすと、ドライバーには横一文字に斬ったかの様なキズが深々と刻まれていた
「何だ……? 今のは……?」
「成長した『紫のコアメダル』……これが欲しかった」
「「!!」」
アンクでも、一夏でも無い、聞き覚えの無い声に驚き、その声の主を探ると、そこには6枚のコアメダルが六芒星の形を描いたドライバーを腰に巻いた、Wとオーズとポセイドンの要素がごちゃ混ぜになった様なビジュアルの、見たことも無い仮面ライダーが『紫のコアメダル』を手にしていた。
「誰だ……お前は……」
「私はライト。新たな世界の創造主にして、旧世界の破壊神となる男だ」
「ライト……!? ライトって確か……」
「ああ、お前の体のオリジナルで、包帯女の息子だ。死んだ筈の……」
「そう、私は一度死んだ。だが、こうして再び蘇ったのさ。『ミレニアム』が母さんに隠していた、セルメダルを使った肉体の再生技術によってね」
「「!!」」
セルメダルを使った肉体の再生技術。そして母さんと言う単語から、目の前にいるのが一度死んで蘇ったライト本人である事を確信する。だが、それよりも問題なのは……。
「お前……『紫のコアメダル』が欲しかったってどう言う事だ?」
「全てはコアメダルを完成させる為さ。人類にとって闘争とは進化のエネルギー。野蛮な人間達の闘争こそが、『紫のコアメダル』を含めた全てのコアメダルを成長させる為に必要な、最高の養分を生み出す苗床になる。
そう、例えば君の所に身を寄せている鳳鈴音や、そこに転がっている織斑一夏みたいに、コアメダルやガイアメモリの力を疑いもせずに軽々しく使うような、 血の気が多くて好戦的且つ、単細胞で理由さえあれば人を傷つける事を躊躇わない馬鹿なんてのが、そうした役目を果たすのに最も相応しい」
俺の質問に答えながら、ライトと名乗る正体不明の仮面ライダーは、かつて鈴音が取り込んでいた鳥系と重量系のコアメダル各3枚をドライバーから外すと、そこへ手にした6枚の『紫のコアメダル』を嵌め込んでいく。
「確かこうだったかな? 超変身ッ!」
『プテラ! トリケラ! ティラノ! ユニコーン! アンキロ! ヌエ!』
ライトがコンボ形態への変身を宣言する単語を口にした瞬間、6枚の『紫のコアメダル』を装填した六連式のポセイドンドライバーから、この世界から既に絶滅、或いは存在しない動物の名前が聞き慣れたガイダンスボイスで次々と告げられると、その体色が赤と銀の二色から、紫一色に統一される。そしてその全身のディティールは、鳥と陸上動物が混ざったキメラの様なモノから、ドラゴンが人型の形を取った様なモノへと変化した。
「さて、そろそろ仕上げだ。お前達も新時代の礎となるがいい。ああ、間違っても命乞いはしないでくれ。時間の無駄だ」
『APPLE!』
これまた聞き慣れたガイダンスボイスと共に、左手に毒々しい紫色のリンゴを模した盾を召喚すると、盾の中央に備え付けられた柄を右手で引き抜く。鞘の役目を果たしていた盾から露わになったその両刃剣の切っ先は、『オーズ』への変身を失った俺に向けられていた。
キャラクタァ~紹介&解説
アリーシャ・ジョゼスターフ
本作のかなり早い段階から、名前だけは出ていたイタリア代表操縦者。今話でようやくまともな出番と台詞が与えられたが、彼女の活躍については次話を期待していただきたい。
尚、この世界では千冬が一夏の手によって意識不能の状態にある為、原作の様に『亡国機業』からの勧誘は受けていない。本人としては『IS大戦』において無双の活躍を見せた『オーズ』との戦いに胸を躍らせているが……。
ライト
言うなれば“悪いフィリップ”であり、本作のラスボス。その正体はシュラウドの息子を元にした、セルメダル製ホムンクルス。つまり『MOVIE大戦CORE』に登場したノブナガみたいなヤツ。ある意味ではゾンビ兵士になった大道克己と同じ存在とも言える。
ファングメモリ&ズーメモリ
それぞれが『牙の記憶』と『動物園の記憶』を宿し、独立した思考プログラムを持つ自立稼働型のガイアメモリ。今回の個体はシュラウドの命令によって、それぞれが『ファング・クエイク』と『銀の福音』を強制的に発動・強化させると共に、シュラウドの手駒として動くように調整されている。元ネタは原作と小説版『W』の「Zを継ぐ者」から。
尚、今回の襲撃は原作で言うなら、第三巻の『臨海学校編』と第7巻の『タッグマッチ』において束が起こした事件を、シュラウドが独自に前倒しにする形にして起こしたモノである。
5963 VS ワンサマー
作者が『剣』でオンドゥル王子がやってのけた「最強クラスの敵(カテゴリーキング)を基本形態で倒す」と言う、かなり衝撃的だった展開を此処でもやってみようという欲望が具現化したモノ。まあ、劇場版『アギト』の「G3-X VS G4」とか色々な要素も入っているんだケド。
その結果としてエンジンブレードに続いて、ジャリ剣ことメダジャリバーもぶっ壊れてしまったが、今後の展開的には特に問題は無い。
ヘキサポセイドン
本作のラスボス。一夏が使用した『HERO SAGA』に登場したショッカー首領が変身する『ヘキサオーズ』とは異なる発展を遂げた『オーズ』の進化系と言うべき存在。そしてメタ的に言うなら、作者がこの作品を手早く終わらせる為に生まれた存在。
今回使用した「鳥類系コアメダル3枚+重量系コアメダル3枚」の組み合わせは、例えるなら「『オーズ』のコンボ形態を、『W』のハーフチェンジの様に使用している」様な状態。当然、今回の様に同系統のコアメダル6枚のコンボも使う事ができる。
DXヘキサポセイドンドライバーSDX
5963の“6枚のコアメダルを用いて変身する”とされる『六連ドライバー』の話を参考に、『DXオーズドライバーSDX』のデータから『DXハデスドライバーSDX』と言う試作品を経て完成した六連式のポセイドンドライバー。当然ながらガイアメモリも使える。
元ネタは『ヘキサオーズ』が使う『六連ドライバー』だが、元ネタがオーズドライバーを上下に重ねた様な見た目なのに対して、こちらはポセイドンドライバーのコアメダルを装填する部分が六芒星を形作る様な見た目になっている。大きさ的には『ゴースト』の『グレイトフル眼魂ドライバー』位だろうか?
タイムメモリ&アップルメモリ
どちらも原作に名前だけ登場する、『時間の記憶』と『リンゴの記憶』を宿したガイアメモリ。これらのメモリも5963の記憶を参考にして造りだしており、タイムメモリは『剣』の「スカラベタイム」。アップルメモリは『鎧武』の「ゴールデンロックシード」が元ネタになっている。
そして、作中の描写を見る限り「タイムの方は『エグゼイド』の絶版おじさんみたいじゃね?」と思った読者の方。貴方は正しい。実際、時間停止の参考にしたのは、仮面ライダークロノスの「ポーズ」である。
ライト「『アーキタイプ・ブレイカー』は絶版だ」
5963「何で?」
ライト「主人公がオリジナルじゃないから」
5963「………」
ライト「………」