DXオーズドライバーSDX   作:トライアルドーパント

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無駄に長々と続いたこの物語も遂に完結。さあ、お待ちかね(?)の最終回です。


最終話 HERO

IS学園でのゴクローとライトの戦いが終わって約8ヵ月。

 

あれからの学校生活は平穏そのもので、臨海合宿も、夏休みも、文化祭も、キャノンボールファストも、運動会も、修学旅行も……。何のトラブルも起こることなく始まり、何のアクシデントも起こらずに終わった。

 

年が明けて、あの時の激戦を去年の出来事として懐かしく感じる今日この頃だが、俺は相変わらず“IS学園で唯一の男性IS操縦者”としての一日を全うしていた。

 

ちなみにあの事件の後、ネット上に俺がISを使える理由と、10年前の『白騎士事件』の真相が暴露されたが、それらはデマとして処理された。

もっとも、ネットでは「各国が秘密裏に代表操縦者の細胞を男に移植する実験をしている」なんて噂が流れているので、実際にどうなのかは分からない。

 

そして、その事でマスコミがIS学園に押し寄せる事態に発展したが、その時にはとっくに束さんも意識不明の千冬姉もIS学園から姿を消していて、その追求の手は当然俺にも伸びたけど、俺は知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

――ソレに大きな価値があったから、罰するのではなく利用する事を選んだ――

 

結局、俺は千冬姉の事を何一つ理解していなかったんだろう。そして、当事者である千冬姉と束さんは、今の自分の立場の危うさと、自分が過去に犯した罪の重さを充分に分かっていたんだと思う。そして、自分の立場を分かっていたのはゴクローも同じだったんだろう。

 

『俺達は元々、出会う筈の無い人間だった。きっと、俺がいなければこの世界の物語も大きく違った結末になる筈だった。俺達はもう会うことはない。もう触れあうこともない。それで良いんだ……』

 

俺からロストドライバーを回収した時に語った言葉の通り、ゴクローは戦いが終わった翌日にはIS学園から消えた。IS学園の敷地内にあった『NEVER』の建物は跡形もなく消滅し、初めからソコに無かったかのように更地になっていて、『NEVER』のメンバーである箒達もIS学園から姿を消した。

 

「ねぇねぇ知ってる? 今日このクラスに転入生がくるんだって! それも専用機持ち!」

 

「マジ!?」

 

「それが本当なら、このクラスが“学園で唯一の専用機持ちのクラス”になるって事!?」

 

……そう。このIS学園で、専用機持ちが居る一学年のクラスは居ない。それどころか、全学年を通しても、専用機持ちは一人もこの学園には居ない。

セシリアも、シャルロットも、ラウラも、簪も、楯無会長も、フォルテ先輩も、ダリル先輩も居ない。……いや、居なくなったと言う方が正しいか。

 

あのライトとの戦いが終わった後、ダリル先輩とフォルテ先輩の二人もまた忽然と姿を消していた。後から聞いた話だと、ダリル先輩は元々『亡国機業』のメンバーで俺の命を狙っていたらしく、フォルテ先輩はダリル先輩に着いていく形で、『亡国機業』に寝返ったらしい。

 

それとほぼ同時に、専用機持ちの代表候補生に対する各国政府からの呼び戻しが起こった。各国の代表候補生……特に一年生で専用機持ちの代表候補生が大量にIS学園に送られた最大の理由は、模擬戦闘を通して得られる俺と『白式』のデータから、新しい男性操縦者を生み出す事を各国が画策していたからだ。

だが、俺がISを使える理由が判明し、それが後天的な要因だとすれば、国家機密と言える最新技術の塊である専用機を持つ彼女達をIS学園に滞在させるメリットは無い。つまり、各国はデマと発表しながら、本当はシュラウドの動画を信じていると言う事なんじゃないかと俺は思う。

 

もっとも、自国で開発した技術の結晶と言える機体を他国に持ち出す危険性を、『亡国機業』へISを持って行ったダリル先輩とフォルテ先輩の一件で学んだと言うのもあるだろう。現にあれから各国の代表候補生が転入することはあっても、専用機持ちが送られてくることは無かった。

日本の代表候補生である簪はこの中でも希有な例外と言えるが、簪は戦いが終わった後でIS学園を自主退学していた。噂ではロシアに旅だった楯無会長に着いて行ったと聞くが、のほほんさんや虚さんも一緒にいなくなったので、それを確認する術は無い。

 

そして、『白式』を失った俺に、日本が再び専用機を与える事は無かった。元々、俺がISを使える理由を探る目的で与えられたのだから、俺がISを使える理由が分かればワザワザ個体数が限られているISを与える理由は無い。その上、事故として処理されたが俺にはISコアを破壊した前科がある。

その結果、今や俺がISを使う事が出来る機会は、IS学園に配備されている量産機を使った実習の時位で、それ以外だと倉持技研で定期的にデータを取る時だけだ。

 

「みなさ~ん。明けましておめでとうございま~す」

 

「まやちゃん! まやちゃん! 転入生ってどんな娘なんですか?」

 

「カワイイ系? それともキレイ系?」

 

「お、落ち着いて下さい! 今から紹介しますから!」

 

「………」

 

俺にとってIS学園は、入学前は絶対に行きたくない場所だった。

 

しかし、俺がISを起動しなかったら、俺は箒や鈴には再会できなかっただろうし、セシリアやシャルロットと言った同世代で外国人の女の子とも知り合わなかったと思う。知り合ったのは2ヵ月とちょっとの僅かな時間だったけど、アイツ等がIS学園を去った今となっては、もう少し一緒に居たかったと思っている。

 

だが、その一方で“守る為の力”を失い、本来起こるはずの出来事が全く起こらない“平和な毎日”を過ごす内に、嫌でも自覚させされた事があった。

 

俺はずっと、“守られる人間”から“守る人間”になりたかった。『変身』がしたかった。だから『白式』を手に入れた時、俺は“守られる人間”から“守る人間”になれるんだと、“守る人間”になれたんだと思った。

 

でも、俺が守る筈だった皆が居なくなって、実際に平和な日常ってヤツを過ごしたら、俺にとって平和がどこか心苦しいものになっていた。

それは、「守る為に戦う」と言う事が矛盾しているから、いざ平和が訪れるとそうした人間は存在理由を失ってしまうと言う事の証左に他ならない。

 

そして、俺はある日ふと思い至る。

 

――俺はただ、自分が誰かを守れる存在なのだと証明したかっただけなんじゃないかと。

 

――男が女を守る事を当然と考え、守れるなら別に誰でも良かったのではないのかと。

 

――今の俺は正に、守る為に戦いを求めているんじゃないかと。

 

「おほん! まず始めに、このクラスにお目見えになるのは転入生ではありません。特別留学生としてルクーゼンブルグ第七王女殿下がおいでになったのです! 王女殿下はまだ十四歳ですから、くれぐれもご無礼の無い様に心がけて下さいね?」

 

「ええッ!? 王女様!?」

 

「でも転入生じゃないのかー。残念」

 

「………」

 

「それでは王女殿下がお入りになられます! 皆さん静かに下さい!」

 

「「「「「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」」」」

 

「コホン。それでは王女殿下、お入り下さい!」

 

かくして、教室にルクーゼンブルグ第七王女にして、国家代表候補生であるアイリス・トワイライト・ルクーゼンブルグが入室する。黒服の男装メイドを従え、豪華なドレスに身を包んだその姿は、相手が庶民とは違う世界で生きていると周囲に認識させるには充分だった。

 

「山田真耶、紹介ご苦労であった。誠に大儀である」

 

「はっ」

 

「むっ!? おぬし! おぬしが有名な織斑一夏じゃな!?」

 

「え? まあ……」

 

「ふふ。おぬしをわらわの召使いにしてやろうぞ。どうじゃ、光栄であろう?」

 

「………」

 

「えと……それじゃあ、織斑君。王女殿下に失礼の無いようにお願いしますね?」

 

「……はい」

 

その声色と表情は傲岸不遜にして生意気。そしてそんな気の強い性格の持ち主と目が合うと禄でも無い事になると予測する事は、俺の経験則からすると容易い事だった。

 

 

○○○

 

 

それからと言うもの、一夏は執事服を身に纏い、王女殿下の召使いとしての毎日を送ることになった。一見すれば威厳のある王女様、しかしてその実態はただのワガママ娘と言う王女殿下の裏表の激しい性格は、彼女のお気に入りになってしまった一夏の精神をゴリゴリと削っていった。

 

しかし、そんな騒がしくも微笑ましい毎日は、一夏とアイリスが町へ出かけた事で急展開を迎える。

 

「ぬ……何じゃ此処は……?」

 

「やっとお目覚めですか、王女殿下」

 

一夏との食事中に気を失ったアイリスが最初に見たのは、邪悪な笑みを浮かべる自身のメイドの一人であった。その周囲には屈強な男達が並んでいる。

 

「貴方には利用価値がある、特に人質としての価値が」

 

その言葉で今の自分がどんな状況にあるかを理解したアイリスは、自分の周囲をみて敵対戦力を把握。そして、自分の持つ力なら問題なくこの状況を打破できると踏んだ。

 

「ふむ……よくわかった。ではわらわが下々の者に最後の慈悲をくれてやろう。三秒じゃ」

 

「?」

 

「お祈りは済んだかの? では、参れ! 『バース』!!」

 

アイリスが自分の持つ力の名前を叫ぶと、腰にガシャポンの様な形をしたベルトが瞬時に巻かれ、「カポーン!」と言う音と共に展開される全身装甲がアイリスの体を包み込む。

 

「さあ、終わりの時じゃ!」

 

かくして、威勢良く戦闘モードに移行したアイリスだったが、その視界がぐらりと揺れた後、あっけなく床に倒れ込んだ。

 

「やはり、事前に麻酔を打っておいて正解だったわね。どんな強力なISだろうと、ISを纏う前に操縦者をどうにかしてしまえば只の鉄くずよ」

 

「お、おのれ……ッ!!」

 

メイドに対して憎々しげに睨み付けるアイリスだったが、体は思うように動かず、アイリスの意識を徐々に奪っていく。

その光景に勝利を確信した笑みを浮かべるメイド達であったが……アイリスの纏う全身装甲のISが黒一色に染まった時、事態は思わぬ方向に転がり始めた。

 

「何だ? ISって色が変わるモンなのか?」

 

「色が変わった位で何だって言うのよ。さっさと……」

 

『DRILL・ARM!』

 

「……え?」

 

全身を漆黒に染めたバースの右腕にドリルが装着されると、バースはソレを使ってメイドの胸を貫いた。もはや勝利が約束されたも同然と思っていたメイドは、自分の身に何が起こったのかも分からず、そのまま血反吐を吐いて息絶えた。

そして、メイドを葬ったバースが屈強な男達をその腕力で次々となぎ倒すと、一枚のメダルをドライバーに装填し、一気に殲滅する為の武装を展開する。

 

『BLEST・CANNON!』

 

「ブレストキャノン・シュート」

 

そして、監禁場所である倉庫を高出力のビーム砲が貫き、今まで命だったモノを消し炭に変える。

かくして、誘拐犯を皆殺しにしたバースがその場から立ち去ろうとした時、バースの視界の隅に映ったのは、アイリスと同じように拉致されていた一夏だった。

 

「!? お前は……?」

 

「久し振りだね……織斑一夏」

 

「久し振り? 何の事だ?」

 

「僕の事を忘れたのかい? 僕だ、ライトだ! メモリを使った記憶のバックアップ……そこからここまで力を取り戻すのに、大分苦労したよッ!!」

 

「ラ、ライトだって……!?」

 

「そしてッ! 篠ノ之束の名義でこの『バースドライバー』をルクーゼンブルグに送り、王女の肉体を使う事で僕は再びこの世界に復活した。そうだな……ここは『仮面ライダーデス』と名乗っておこう」

 

「仮面ライダーです?」

 

「ふざけた事を考える脳みそは健在か。まあ、いいさ。守ろうとしていたものが崩れ去る様を、改めてその目に焼き付けるといいッ!!」

 

「訳の分かんねぇ事言ってねぇで……アリスを返せッ!!」

 

ライトに乗っ取られたアイリス王女を取り戻す為、勇敢にも素手で殴りかかる一夏だが、ISも持っていない生身の人間がライダーシステムに叶う訳が無い。案の定、一夏はライトの軽い腹パンで吹っ飛ばされ、簡単に戦闘不能に陥ってしまった。

 

「ガッ! ぐうぅ……」

 

「無様。まるで話にならない。さあ、狩りの時間といこうか……」

 

「ま、待て……」

 

『CUTTER・WING!』

 

尚も戦おうとする一夏を無視し、背面に飛行ユニットを展開した『仮面ライダーデス』は、アイリス王女を乗っ取ったまま、何処かに飛び去っていった……。

 

 

○○○

 

 

それから何とかIS学園に戻り、事の顛末を包み隠さず報告した一夏は、近衛騎士団長ジブリル・エミュレールの叱責を受けていた。

 

「何たる失態! 何たる無様! 貴様は本国へと連れ帰り、相応の罰を与える!」

 

「落ち着いて下さい! 今はそれよりもアイリス王女を助ける策を考えるべきなのではないですか!?」

 

「そもそも、アレは一体何なんですか? ライトは束さんの名義で送ったって言ってましたけど……」

 

「……そうだ。篠ノ之束の名義でアレは王家に献上された。そして王家の意向により、アイリス様の専用機となったのだ。今までこんな事は一度も無かったのだが……」

 

想定外の事態に困惑するジブリルだが、真耶と一夏にはその内情が何となくだが予測できていた。

 

ライトはシュラウドと同様に『基本世界』の記憶を持っている。恐らく、本来ならば“本当に篠ノ之束がルークゼンブルにISを献上した”のだろう。そして、ライトは王女殿下が日本にやって来る事も知っていたに違いない。ライトはソレを利用して王女殿下に文字通り近づき、復讐の機会をじっと待っていたのだ。

 

「しかし、不味いですね。アレがISではなくライダーシステムだとするなら、少なくともガイアメモリかコアメダルが必要になります。ライダーシステムは対ISを目的に造られたモノですから、恐らく専用機でも太刀打ち出来ないと思われます」

 

「……だろうな。本国でも模擬戦でアレを纏ったアイリス様と戦った事があるが、エネルギーリムーブの能力が凶悪で殆ど相手にならなかった。だからこそ、アイリス様の身を守る力として相応しいと思ったのだが……まさかこんな事になろうとはな……」

 

「本当に何も無いんですか? 奴に対抗できる手段は」

 

「……残念ですが、IS学園にはライダーシステムに対抗する手段は何一つとして残されていません。対抗できるとすれば、今はいない『NEVER』の皆さんだけでしょう」

 

「それでは、このまま王女殿下のお体が良いように使われるのを、黙って見ていろと言うのか!?」

 

「………」

 

その後も、ライトに対して有効的な策が何一つ上げられないまま会議は終わった。そして、会議が終わってすぐに、真耶は自室に戻ってあるものを取り出していた。

 

「行きますか……」

 

ベッドの下に隠した小さなアタッシュケースを片手に、戦場へ歩を進める真耶。すると、真耶の前にジブリルが姿を現した。

 

「……もしかして、バレてましたか?」

 

「ふん。貴公の事などお見通しだ。……それが、奴に対抗し得る手段とやらか?」

 

「ええ、かなり危険な代物ですが……」

 

「……それを私に寄こせ」

 

「駄目です。使えば貴方でもどうなるか……」

 

「見くびるなッ! 王女殿下の為ならば、体の一つや二つどうと言う事は無いッ!」

 

「……体もそうですが、ISにも大きな負荷が掛かるのです。そうでなくとも、相手はISを破壊する為に生まれた兵器。もしもの事が起こった時、貴方にその責任を取ることが出来ますか?」

 

「それはお前も同じだろう。学生時代に散々私を振り回しておいて、今更何を言う」

 

自分一人で戦うつもりだった真耶だったが、近衛騎士団長であるジブリルの決意は固い。もはや、ジブリルを引かせる事は不可能だと悟った真耶は、ジブリルに一つの質問を投げかけた。

 

「こんな事を言いたくはありませんが……“悪魔と相乗りする勇気”はありますか?」

 

「愚問だ」

 

「……では、行きましょうか」

 

「ふん……」

 

かくして、二人の女は戦場に向かって歩き出す。教師として生徒を守る為に。或いは忠義を誓った主君の為に。

 

 

○○○

 

 

一方、『仮面ライダーデス』として復活したライトは、手始めに現在の日本の代表操縦者を蹴散らし、量産機を纏った日本のIS部隊を蹂躙すると、IS学園に向かって高速で飛行していた。

そんな彼がIS学園にあと少しまで近づいた時、高出力のビームと無数の弾丸が殺到し、その行く手を阻んだ。

 

「山田真耶にジブリル・エミュレールか。どうやら専用機の様だけど、それで僕に勝てるとでも?」

 

「いいえ。勝てるとは思っていません。ですので……」

 

「うん?」

 

「コレを使います」

 

『COMMANDER!』

 

『VIOLENCE!』

 

ライトの言葉を肯定する真耶は、ジブリルと共に自身の専用機にガイアメモリの直挿しを行い、専用機の大幅な強化を試みる。

真耶はコマンダーメモリによって遠距離攻撃を、ジブリルはバイオレンスメモリによって近接戦闘能力を強化し、それをライトに対抗する力としたのだ。

 

「へえ。危険を顧みず直挿しを行うとは……余程この王女様が大切な様だ」

 

「黙れッ! アイリス様は返して貰うぞッ!」

 

「出来るものならねッ!」

 

『DRILL・ARM!』

 

『CATERPILLAR・LEG!』

 

右手にドリル、両足にキャタピラを模した武器を装着したライトに対し、ジブリルが前衛を務め、真耶が後衛として援護を行う。

二対一と数的には有利であるが、直挿しによる副作用は決して無視できない。その為、二人は短時間でライトを倒さなければならないと言うハンディを抱えながら戦っていた。

 

「ふんッ!! はっ!! はぁああああああああああっ!!」

 

「ぐううッ!! クソッ、やはり厄介な能力だな!!」

 

「当然さ。コレは『オーズ』以上に、ISからのエネルギー吸収に特化したライダーシステムだ。長期戦に関しては此方に分があると言う訳さ」

 

「だったら……ッ!」

 

近距離では触れる事でISのエネルギーをセルメダルに変換され、相手を回復させてしまう事に繋がる。ならば相手が触れられない距離から攻撃すれば良いと考え、真耶が飛び道具による遠距離攻撃を仕掛けるが、ライトはそれを待っていたかの様に、次の手を繰り出した。

 

『CRANE・ARM!』

 

「そらぁああっ!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

右腕のドリルが新しく現われたユニットと合体したかと思うと、ライトは真耶に対してドリルをロケットパンチの要領で発射する。放たれたドリルは真耶を直撃し、エネルギーをガリガリと削っていく。

 

「分かっていた事だが、強い……」

 

「ええ……強敵ですね」

 

「ハァッ!!」

 

苦戦する二人に対し、ライトはカッターウィングをブーメランの様に投擲して二人を翻弄。そして、その間に二人をまとめて倒す為の準備に取りかかる。

 

『BLEST・CANNON!』

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト!』

 

「そおらぁあッ!!」

 

「きゃっ!!」

 

「ぐっ! ま、不味いぞ!」

 

「ブレストキャノン……シュートッ!!」

 

最後に展開していたドリルを格納し、射出したクレーンのワイヤーでグルグル巻きにして二人の動きを止めると、四回分のセルバーストによって攻撃力を大きく増した破壊光線が放たれる。

高出力のエネルギーの奔流は二人を飲み込み、その衝撃で地面に叩きつけられた二人のISは解除され、一気に戦闘不能へと追い込まれた。

 

「あぐ……ッ!」

 

「くぅうう……」

 

「弱い。メモリを使っても所詮はこの程度か……」

 

地面に降りたって武装を解除し、身軽になったライトは二人のISから飛び出したガイアメモリを回収しつつ、真耶とジブリルに視線を向ける。その視線には侮蔑の色が込められており、期待外れだと言わんばかりである。

 

「さて、僕の記憶が確かなら、他にもコアメダルが3枚あった筈だが……何処だい?」

 

「ま、真耶……」

 

「……ええ、持っています。もしかしたら、使えると思いまして」

 

ジブリルの縋る様な視線に答える様に、真耶は3枚のコアメダルを取りだした。コレが逆転の切り札になると思っていた二人だったが、そんな二人にライトが絶望を与える言葉を紡ぐ。

 

「無駄だよ。少なくともそのコアメダルは、ガイアメモリと違ってそのままISに使う事は出来ない。使うには大量のセルメダルかドライバーが必要だ」

 

「そ、そんな……」

 

「それじゃ……もう打つ手は……」

 

「ドライバーなら此処にあるぞッ!!」

 

「「「!?」」」

 

突如、戦場に響いた声に驚く三人が声のした方向に目を向けると、そこには『DXハデスドライバーSDX』を腰に巻いた一夏が立っていた。

 

「織斑……?」

 

「織斑君!?」

 

「織斑一夏か」

 

「まだ……お前と戦う為のドライバーなら残ってる!」

 

「ハハハハハ……。ゴクロー・シュレディンガーならともかく、君ではどうすることも出来ないよ?」

 

「……確かにアイツは『ヒーロー』だった。俺はよ、実は『ヒーロー』ってヤツが嫌いなんだ。『ヒーロー』ってのは、泣きも笑いもしない様なヤツだからな。だからかな……『ヒーロー』になろうと、『ヒーロー』になりたいと思ってたゴクローの事が気に入らなかったんだと思う」

 

「ふぅん……それで? その『ヒーロー』に助けられた命でのうのうと生きて、『ヒーロー』のお陰で平和を享受している自分に、とうとう嫌気でも差したのかい?」

 

「……そうだな。自分が嫌になるぜ。平和が一番なんて思っておきながら、いざその平和な日常ってヤツを過ごして初めて気付いた。お前の言う通り、俺は“守る為に戦いを求めてた”んだってな」

 

「そして、君は“守る為の戦い”を求めてこの場に現われたと言う訳だ。まあ当然だね、人間の本質はそう易々と変わる様なものじゃあない」

 

「……ああ、そうだ。俺は変わらない。全然変わってない。だけどよ……お前みたいなのを倒すには、どうしてもゴクローみたいな『ヒーロー』が必要なんだよ。此処にお前を倒す『ヒーロー』がいねぇなら……。俺はッ! 『ヒーロー』にならなきゃいけないんだよッ!! 山田先生ッ!!」

 

「……ッ! 織斑君ッ!!」

 

もはやこの場でライトと戦えるのは一夏しかいない。意を決した真耶は、手にした3枚のコアメダルを一夏に投げ渡す。それを一夏が受け取ると、一夏はドライバーにコアメダルを装填し、高らかに叫んだ。

 

「変身ッ!」

 

『カブト! イトマキエイ! シャムネコ!』

 

――この時、一夏にとって幸運だった事が二つある。

 

一つ目は、ゴクローとの戦いで『紫のコアメダル』を抜き取られた際、ドライバーが破壊されなかった事。

二つ目は、シュラウドが造ったヤミー系コアメダルの中には、カンガルーコアメダルの様に“複数の部位に使う事が出来るコアメダル”があり、それが回収したコアメダルの中に混じっていたと言う事だ。

 

そして3枚のメダル状のエネルギーが逆三角形の形を成した時、そこに立っていたのは、カブトムシの雄々しい角を備え、イトマキエイの様な翼を背中から生やし、シャムネコの俊敏な脚力を持つ『仮面ライダー』だった。

 

「っしゃあっ!!」

 

「ワザワザ勝てない戦いに身を投じるとは……何処までもピエロを演じたいらしい」

 

「やってみなきゃ分かんねぇだろッ!!」

 

真っ直ぐに素手で向かってくる一夏を見て、『白式』の時と同じ開幕直後の特攻かと思ったライト。余裕を持って一夏にカウンターを食らわせる腹積もりであったが、その目論見は外れた。

 

「オラァアアア!!」

 

「何!?」

 

一夏は背中のイトマキエイウィングで空を飛ぶと、カブトムシを模した角から緑色の電撃を放つ遠距離攻撃を仕掛けてきたのだ。

そして、小型のエイを模した複数のビットによる攻撃を繰り出し、決して接近戦を挑もうとはしない。まるでセシリア・オルコットの『ブルー・ティアーズ』の様に、此方と一定の距離を保っている。

 

「チッ! “何があっても対応できる距離”か……!」

 

「ああ! 先輩から教わった戦術だ!」

 

「なら……これはどうだい?」

 

自分の周りを旋回するエイ型のビットを鬱陶しいと感じたライトはバースバスターを召還し、エイ型のビットを次々と撃ち落とす。そして、ライトが放つメダルの形をした凶弾の嵐は、空中を舞う一夏にも襲いかかる。

 

「うぐぅ! ま、まだまだぁああッ!!」

 

遠距離では分が悪いとみた一夏は地上戦に移行すると、シャムネコレッグを用いた機敏な動きでライトを翻弄し、隙を見て緑色の電撃を纏った拳で殴りかかった。

 

「オラァッ!!」

 

「ぐっ!! 電撃か……でも良いのかい? そんなに思いっきり攻撃して」

 

「!? どう言う事だ!?」

 

「決まってるだろう。中身の王女様がどうなってもいいのかって話さ」

 

「!!」

 

「隙有り」

 

『SHOVEL・ARM!』

 

「!! は、放せッ!!」

 

「駄目だね」

 

『DRILL・ARM!』

 

「フンッ!!」

 

「ぐわぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

一夏がアイリスを盾にされた事で動きが止まった隙を逃すこと無く、ライトは一夏の腕を掴んだまま展開したショベルアームで一夏の腕を固定し、ドリルアームによる容赦の無い攻撃を叩き込む。

下手に攻撃する事も出来ず、脱出する事も出来ない一夏は、為す術もなく絶え間ないライトの攻撃を食らい続けてしまう。

 

「ククク……『ヒーロー』だって? こんな小さな女の子一人救えないのに? 笑わせてくれるねぇ……」

 

「ち、く、しょう……ッ!!」

 

抵抗する力を奪われ、戦う為の力が摩耗していく中、一夏は仮面の下で涙を流していた。

 

「(やっぱ俺に、誰かを守る事なんて……『ヒーロー』に何てなれないんだ。もう、もう……)」

 

『そんな事無いだろ。随分頑張ってるじゃないか』

 

「……え?」

 

『スーパー! スーパー! スーパー! スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! ス・ウ・パ! タトバ! タットッバ! スゥーパァー!』

 

「!? ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

不意に聞こえた通信に一夏が驚いた次の瞬間、聞き覚えのある歌声が聞こえたと思えば、一夏の目の前から突然ライトが消えて吹っ飛び、その代わりにアイリスを抱えた上下三色の戦士が立っていた。

それは、ISで言うところの『第三形態【サードシフト】』に該当するオーズの最終形態。『オーズ・スーパータトバコンボ』に至った『ヒーロー』だった。

 

「お、お前はッ!! まさかッ!!」

 

「ゴク、ロー……?」

 

「シュレディンガー君……!!」

 

「悪い、待たせたな」

 

「ばっか……ヤロォ……ッ」

 

絶体絶命のピンチに颯爽と現われ、あっと言う間にピンチを覆してしまう。

 

どうしてこう『ヒーロー』ってヤツは、こうもタイミングが良いモンなんだろう……と思いながら、一夏は『ヒーロー』の登場に先程とは違う涙を流していた。

 

「ゴクロー・シュレディンガー……ッ!! 一体、今まで何処にッ!!」

 

「あん? それはな……」

 

「それは?」

 

「教えねぇよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「貴様ぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

アイリスをジブリルに渡したゴクローは、復活したライトに対してこれ幸いとばかりに両手の中指を立てて挑発する。簡単に挑発に乗ったライトは怒り狂い、完全に主導権を握られている。

 

「さて、それじゃ一夏、まだ戦えるか?」

 

「……へッ、当然、だろ」

 

「そうか。なら、思い切りやろうか。今日は俺とお前でダブルライダーだ」

 

疲弊した体を奮い立たせ、一夏は『ヒーロー』の隣に立って戦うべき敵を改めて見据える。不思議とさっきまで勝てないと思っていた相手が、そんなに大した奴じゃないように見えた。

 

「使え!」

 

「おう!」

 

そして、ゴクローが一夏にアクセルブレードを投げ渡し、メダジャリバーを片手にライトに向かっていく。アクセルブレードを受け取った一夏も、すぐさまライトに向かって掛けだし、ゴクローと二人がかりでライトを斬り付ける。

 

「合せろ!」

 

「分かってる!」

 

「むん! ぬっ!? チぃッ! ぐわぁああッ!!」

 

ライトは二人に向かって右手のドリルや左手のショベルを振り回し、強力な攻撃を当てようとするものの、二人は互いの位置を入れ替えながら、流れる様にライトの攻撃をかわしつつ、次々とライトに攻撃を当てていく。

 

「ぐっ! 何故だ! 何故こうまで息が合う!?」

 

「ん? それはアレだ。お前等のお陰だよ」

 

「何……?」

 

「お前等が一夏を煽って俺と戦わせた。そして俺と一夏は本気で戦った。だから一夏は俺の動きが分かるし、俺も一夏の動きが分かる。つまり、お前は墓穴を掘ったって事だ」

 

「馬鹿な……! そんな事が、あって堪るかぁあああッ!!」

 

『CRANE・ARM!』

 

『CATERPILLAR・LEG!』

 

『CUTTER・WING!』

 

『BLEST・CANNON!』

 

近接攻撃が通じないと悟ったライトは全ての武装を呼び出し、『仮面ライダーデス』の最強形態で勝負に出た。

ブレストキャノンの砲口に高出力のエネルギーが貯まっていき、その射線に晒されているダブルライダーは、それに対して必殺技による真っ向勝負を選択した。

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト!』

 

「ファイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『『スキャニング・チャージ!』』

 

「「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

ブレストキャノンから発射された高出力高密度のエネルギー弾と、三色のリングを纏ったダブルライダーキックが空中で激突する。

 

「頑張って! シュレディンガー君ッッ!!」

 

「押し切れぇえ! 織斑ぁああああああ!!」

 

ジブリルを支える真耶と、アイリスを抱えるジブリル。二人の声援がダブルライダーに活力を与え、ドライバーのコアメダルがその輝きを増していく。

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」

 

そして、遂にダブルライダーの必殺技が死の閃光を押し切り、その野望と共にその邪悪な魂を完膚なきまでに打ち砕く。

 

「がぁあああああああああああああああああああああッ!! 何故ッ! 何故、この僕がッ! 二度もお前にッ!! お前等なんかにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

 

断末魔の直後、大きな爆発を起こしてバースドライバーが砕けると、ライトは今度こそ完全に消滅した。そして、二本のガイアメモリが爆炎の中から飛び出し、それらは音を立てて砕け散った。

 

 

●●●

 

 

万が一の事を考えて、監視目的でIS学園に密かに置いてきたエクストリームメモリからの通信でライトの復活を知って急遽IS学園に向かった俺は、一夏と共にライトを完全に倒した後、実に約8ヵ月ぶりに一夏と対峙していた。

 

「相変わらず……手当たり次第に守りたいもん守ってんのか?」

 

「おい……それ……」

 

「ああ、無くなったから代わりにな」

 

もっとも、流石の一夏も俺の右手がアンクになっているのは驚いていた。個人的にはカッコイイと思うのだが、やはり普通の人間からすればこのセンスは無しなのだろう。

 

「あ、あのさ……箒達はどうしてるんだ?」

 

「皆元気でやってる。ソッチはどうだ?」

 

「……ああ、平和そのものだ。『亡国機業』も、特殊部隊も一度も来なかった」

 

「事前に俺達で叩き潰してやったからな。もっとも、どこまで平和に過ごせるかは分からんぞ。俺達がやった事は、結局は終末戦争の先延ばしに過ぎないからな」

 

「終末、戦争?」

 

「これから先の遠くない未来で、何時かISによる戦争が起こる。それは世界を巻き込むほどの戦争だ。それがどんな形で起こるのかは分からないが、少なくとも『基本世界』とは違った形でソレは必ず起こるだろう」

 

「そうか……」

 

「……実はさ。ガイアインパクトを起こしてこの世界を『基本世界』と同じに書き換えようかって考えた事もあるんだ。でも、シュラウドの残した情報を頼りに『基本世界』を観測したら、それをやったらお前が悲惨を通り越したファンタジーなレベルの存在に成り下がる事になるから、俺はこのままにしておくことに決めたんだ」

 

「? どう言う事だ?」

 

「口で言うよりも、見せた方が手っ取り早い。ゴクロー」

 

「ああ……」

 

「え? おい、ちょ……」

 

困惑する一夏を無視し、俺が右手で一夏の頭に触れると、俺達が観測した『基本世界』の情報を、アンクが一夏に第三者の視点で体験させる。これはアンクにメモリーメモリを与え、その使用権を譲渡したから出来る芸当だ。

 

「これは……一体……」

 

「理解できたか? 『基本世界』のお前は……もっと言うなら、お前と織斑先生とマドカの三人は、『究極の人類』を人工的に造る事を目的として、遺伝子情報の海から造られた人造人間。人類の究極たるスペックを持たされ、その繁栄の為だけに造られた禁忌の因子を持った男。それがお前の拘った『基本世界』の、お前自身の正体だ」

 

「そんな……」

 

「まあ、この世界でお前は『普通の人間』として生まれたし、そんな計画自体存在しないんだがな。シュラウドの言葉から察するに、恐らくこの世界では人造人間の俺がその役割の一部を担っているんだろう。

そして、束と同じく『天然物の究極の人類』として生まれた織斑先生の複製を造る計画が始まり、織斑先生のクローンとしてマドカは生まれた。そう考えると、お前に織斑先生の細胞が移植されたのも、それと似たようなモノなのかもな」

 

「………」

 

「まあ、要するに『この世界』のお前は、狂気に侵された科学者の頭脳と、冷たい試験管の中で育まれた『特別な存在』なんかじゃない。父親と母親の血が混ざり合い、温かい血と肉の中で育まれた『普通の人間』なんだよ。

そして、『基本世界』と同じにするって事は、この世界の何処かに存在するお前達の両親を抹消して、人間にカテゴライズされるかも分からん生物に成り下がる事だって訳だ。ついでに、ウサギ女の掌の上で弄ばれるエテ公になってな」

 

「だから俺はガイアインパクトを起こさなかった。幾らご都合主義としか言いようのない運命を持っているとしても、“『普通の人間』として生まれる”ってのは、当たり前の様でいて、実はとても大きな権利なんだからな」

 

「……そうか。俺は……『普通』に生まれたんだな……」

 

一夏がやっとの思いで吐き出した言葉には、安堵とも納得とも諦めとも思える感慨深い響きがあった。今“此処にいる自分”は、“『基本世界』の自分”とは違う。一夏の言葉には、それを理解した事による思いの重さが込められているようだった。

 

「それで、お前はこれからどうする? いっその事、俺達と一緒に来るか?」

 

「……いや、俺は此処に残るよ」

 

「ほう、意外だな。お前なら一も二もなく来ると思っていたが……」

 

「理由を聞いても良いか?」

 

「いや、箒達をお前が守ってくれんなら、俺は別にコッチに居ても問題ないかなって思ってさ。それに弾達と離ればなれになるのもアレだし……千冬姉の帰る場所くらいは守らないとさ……」

 

「……そうか。まあ、箒達は守られることを望んでいないから、お互いに守って守られてって感じの関係なんだけどな」

 

「まあ、あの女共は男に守られて満足する様なタマじゃないしな」

 

「ハハハ……。そうだ、ついでにコレも持って行ってくれないか?」

 

さりげなく笑っていた一夏だったが、何を思ったのか俺にドライバーとコアメダルを渡してきた。

 

「どうしてだ? コレはお前が誰かを守る為には必要だろう?」

 

「いや……コレがあると逆に皆が危ねぇ気がしてさ。だから持って行って貰った方が良いかなって」

 

「そうか……それじゃあ、コレも要らないか?」

 

「それは?」

 

「束がお前用に調整した『黒柘榴』だ。あれから専用機は渡されていないんだろ?」

 

「……要らねぇ。専用機なんてなくたって、俺は俺の守りたいモノを守ってみせるさ」

 

「そうか、それじゃあ……またな、『ヒーロー』」

 

「ふん。精々無様に足掻くんだな……一夏!」

 

『スーパー! スーパー! スーパー! スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! ス・ウ・パ! タトバ! タットッバ! スゥーパァー!』

 

そして、一夏の目の前で『オーズ・スーパータトバコンボ』に変身した直後、時間停止能力を使って残像さえも残すこと無く、俺達は一夏の前から姿を消した。

 

「またな……か。それに馬夏じゃなくて、一夏って初めて呼んだな……」

 

「一夏ぁーーーーー! おぬし無事であったかぁーーー!?」

 

「アイリス様ぁーー! まだ安静にしてなければなりませんぞーーー!」

 

そこにはいない『ヒーロー』を幻視する一夏に、アイリスとジブリルが駆け足で近づいてくる。ワガママ王女と、それに振り回される従者の姿を見て、一夏は笑顔で二人に駆け寄った。

 

 

○○○

 

 

一夏がアイリスとジブリルの二人と、お互いの無事を笑いながら喜んでいると、その光景を影から二人の女が見つめており、そんな二人に真耶が後ろから話しかけた。

 

「織斑君に会わないんですか? 織斑先生」

 

「真耶か……止めておくさ。私が居たら一夏は駄目になる。今にして思えば……『白騎士事件』で私達がテロリストとして逮捕されていた方が、一夏は私を反面教師としてまともに育ったのかも知れん」

 

「そうだねぇ~。まあ、それはそれでテロリストの家族として波瀾万丈な人生を送る事になりそうだけど……確かにいっくんにシリアスな役は似合わないよね~。

普通の友達と他愛もない毎日を過ごして、取るに足らないような人生をダラダラ送って、最期は家族に看取られて畳の上で死ぬのがお似合いだと思うよ? 面倒なのは全部私達に任せてさ。ねぇ、ゴッくん、アンくん?」

 

「……そうだな。突出しすぎた力は災いしか呼ばん。そう言う力は強者を過ちに導き、弱者にとっては脅威でしかない。世界にとって害悪にしかならないと分かったから、俺達は消えた……だろう?」

 

「もっとも、本来なら一夏がそうなったのかも知れないがな。まあ、『基本世界』の観測できなかった部分や、分岐した部分も含めて、俺が全部引き受ける事になりそうだけどな」

 

「そう、ですか……」

 

「それで、おっぱいちゃんはどうするの? 今度こそ私達と一緒に来る?」

 

「……私も此処に残ります。やるべき事はまだ沢山ありますし、それに……」

 

「それに?」

 

「何かあったら、必ず助けに来てくれるって信じてますから」

 

「ふっ……違いない」

 

「だね。まあ、コッチに来たくなったら何時でも歓迎するよ?」

 

「フフフ……そうですね。その時になったらお願いします」

 

「それじゃ……そろそろ行くか。また会いましょう。山田先生」

 

「ああ、そうしよう。生徒達を頼むぞ、真耶」

 

「じゃあね~、おっぱいちゃん。チャオ~♪」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

各々が真耶に別れの挨拶を済ませると、オーズは「認識さえすれば何処にでも行ける力」を使い、束と千冬を連れて真耶の目の前から姿を消した。

 

「はい。その日まで、どうか御達者で……」

 

何処までも青天が広がるその先を見つめる様に、真耶はずっと青空を見上げていた。遠くない未来、また何処かで彼等と出会える日が来ると信じて――。

 

 

○○○

 

 

「結局、貴方の満足いく答えは得られたのですか? 少佐殿」

 

「答え? それは“まだ”出ていないよ、ドク。シュラウドも今際の際に言っていたじゃないか、『誰もが終わらせるつもりで、実は始めている』と。つまり、コレもまた一つの始まりに過ぎない。答えが出るとすれば、シュレディンガーが此処に来るその時までお預けだ」

 

「………」

 

「とは言え、我々の舞台はこれでお終いだ。これ以上もこれ以下も無い。次は一体、どんな舞台でどんな演者と楽しく踊り明かすのやら……」

 

今ではない何時か、此処ではない何処かの『小さな星の物語』。その結末を見届けた観客は続編を期待しつつ、何時か踊り終えた演者達が観客たる自分の元にやってくる日を夢想し、何時ものニタニタとした笑みを浮かべた。

 

――完――




キャラクタァ~紹介&解説

織斑一夏
 イケメン、以上。

山田真耶
 爆乳、以上。

アイリス・トワイライト・ルークゼンブル
 のじゃロリ、以上。

ジブリル・エミュレール
 苦労人、以上。

ライト
 ラスボス、以上。

5963
 特撮ヲタ、以上。

篠ノ之束
 エボルト?、以上。

織斑千冬
 実は義経コス、以上。

少佐
 不思議なオタク、以上。


3枚のコアメダルと2本のガイアメモリ
 本来なら5963との5番勝負が全て終わった後で、現金と引き替えに戦った選手達が分配して各国に持ち帰る事になっていて、『NEVER』がIS学園に預けていたのだが、シュラウドのIS学園襲撃のゴタゴタによってうやむやになり、山田先生が密かに保管していた。
 ちなみにシュラウドが造ったヤミー系コアメダルは、カンガルーコアメダルの様にベルトに嵌め込む場所が固定されていないメダルがあるとあったが、例えばイカコアメダルなら、ヘッドなら口から墨を吐き、レッグなら8本の触手が出てくると言った感じに使う事が出来る……と言う設定。

仮面ライダーバース/仮面ライダーデス
 裏ボス。バースの状態なら緑に銀のカラーリングだが、ライトが表に出た場合オルタ化でもしたかの如く全身が漆黒に染まる。性能や武装は『仮面ライダーバース』と同様だが、『仮面ライダーデス』の時の方が攻撃性能は上。
 元ネタは小説版『オーズ』で、ドクター真木がバースドライバーを触媒にして造った恐竜系ヤミー。描写的にはまんま『鎧武』の「仮面ライダー邪夢」だけど。

スーパータトバコンボ
 略してスタバ。S.I.C.のアレンジはもはやオゾマシイの域に達しており、完全体のウヴァさんを瞬殺した挙句、そのまま喰ってしまいそうな外見をしている。特殊能力の『時間停止能力』を使えば『仮面ライダーデス』など瞬殺出来るのだが、敢えて一夏とのダブルライダーで撃破した。
 ちなみにこれは『基本世界の一夏』が手にする「白式・第三形態『王理』」に該当するモノであり、この世界では一夏の役割が完全に5963に移ってしまっている事を証明していると言える。


後書き

さて、『DXオーズドライバーSDX』いかがだったでしょうか。作者としては、まぁぼちぼちって手応えです。

元々、「敢えて死ぬほど嫌いな作品を元ネタに二次小説を書く」と言うテーマを元に取り組んだが為に、原作の時間軸に突入すると原作を読んだり、アニメを見たりする必要があり、その所為でやる気を出しても創作意欲が失せると言う悪循環に陥っていましたが、それもコレでおしまいです。

まあ、それでも『怪人バッタ男』シリーズの様に「大好きな作品を元ネタにした二次小説を書く」事では決して得られないモノも読者の感想を通して得られましたので、全くの無駄と言う訳ではありませんでした(「ヒロインは幾らアンチしても許されるが、そうでないキャラのアンチは許されない」とか……)。

また、本当は何度も途中で止めてしまおうかと思っていたのですが、一度始めた以上終わらせる責任が作者にはあるし、こんな小説でもお気に入り登録をして下さった読者様がいらっしゃるので、その方達の為に最後まで完結させなければ……と思い、展開が駆け足になりながらも完結まで書ききった次第です。

少佐「その通り、つまり1000人のお気に入り登録と、数人の『お前はヴァ~カ~か?』とか『こんな小説とっとと消せや』と言ったアンチな感想……どちらか一方しか相手取れないとしたら、お気に入り登録をしてくれた1000人の為に完結まで執筆し、アンチの感想を無視できる勇気を持つ。それこそが作者として最も英雄的な行為なのです……と、『龍騎』の香川教授も言っている」

5963「香川教授は絶対にそんな事言ってないですよ」

少佐「そして、続編についてもちゃんと考えているぞ! タイトルは『ナチスも分かるFGO』! マシュのコスプレをした山田真耶や、モードレッドのコスプレをしたダリル・ケイシー。ジャンヌのコスプレをしたシャルロット・デュノアなんかを相手に、シュレディンガーが夜な夜な下世話な欲望を解放して濡れ場を展開し! そこをマンガで分かるライダーのコスプレをした篠ノ之束が嬉々として撮影すると言う、ハートフルゆかい小説!!」

5963「ただのエロ小説じゃねーか! つーか、アンタが見たいだけだろ!?」

少佐「私は見る事によって喜びを得るタイプの人間だからねぇ。所で、猫って何年飼ったら猫耳の女の子に変身できると思うね?」

5963「変身出来ないですよ」

少佐「絶対出来る」

5963「……じゃあ、出来る」

少佐「出来るよねぇ」

(以下、アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』の猫娘の変遷について、二人で延々と語り合う)

……まあ、そんな訳でこの作品を通して色々と経験値を積ませて貰ったからこそ、『怪人バッタ男』シリーズが生まれたのだと作者は思っています。

長々となりましたが、コレにて本当にお終いです。ご愛読ありがとうございました。

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