「よいこのみんなあちまれ~! 今日も今日とて、猛り狂ったこの私、モンティナ・マックスが! ヴァルハラをジャンジャンバリバリ地獄に変えていきたいと思いま~す!」
「流石少佐殿パネェ! マジやっちゃってくださいよ~! あこがれちゃうな~!」
「「「………」」」
ハイテンションな少佐とドク。黙って見ている大尉とリップバーンとゾーリーンの三人。少し離れた所でそれを見る俺。
「はい、少佐。一つ質問があります」
「ウム、何時来たんだシュレディンガー。まあいい、何でも言ってみんしゃい」
「俺さっきまでIS大戦してたじゃないですか、それはもう超ド派手に。これから先ずっと世界中の敵と戦い続ける、血と撃鉄と闘争に満ちた人生が待ってるんでしょうか?」
「……まあね」
「やっぱり?」
「話は変わるが、遂にエターナルがエクストリームに至ったようだね。しかもレッドフレアのままで」
「ええ」
「『仮面ライダーエターナルレッドフレアエクストリーム』って略すと『仮面ライダーエターナルRX』になる。つまり『てつをさん』だ。これから君はエターナルに変身する度に『仮面ライダー! エターナッ! アーエーッ!』ってポーズと共に名乗るんだ」
それなら仮面ライダーW・CJXに倣って、仮面ライダーエターナル・RFXだと思うのだが。
「ミレニアム大隊各員に伝達! よく聞け! シュレディンガー准尉が『仮面ライダーエターナルRX』になった! コレどう思う?」
「略称がRXで決定ですか?」
「リップバーン中尉! 景気付けにこの鍋に入った葛を頭から被れ!」
「え? なんでそんな事するんですか?」
「そして葛がぶっかかった状態でぺたんと床に座って、上目遣いにコッチを見るんだ」
何を狙っているのか察した俺は葛の入った鍋を少佐から奪い取り、白濁したドロドロで熱々の葛を少佐に頭からぶっかけた。
●●●
「起きたか」
「ああ、人の尊厳を守る夢を見た」
熱々の葛にのた打ち回るドイツ原産の機械豚を、養豚場から出荷される豚を見る様な冷たい目で見た辺りで目が醒めた。
「聞きたいだろう事を一通り言っておく。あれから約6時間が経過。ここはウサギ女のラボだ。全員無事、妹の箒もエムも大事ない。ウサギ女はエムの事を『織斑マドカ』と言っていたがな」
「その織斑マドカは何処に?」
「お前の隣だ」
隣に目をやるとマドカが寝ていた。オータムの子蜘蛛に襲われた時は、明らかにヤバそうな感じだったが、今はそれもない。安らかな寝顔だ。
「お前の怪我は大体治っている。エターナルに追加された生体再生機能のお蔭だ。それに治療用ナノマシンを注射しておいた。ドライバーもコアメダルもガイアメモリもメンテナンス中。パッケージは『Type-ZERO』がオーバーホール。『イエーガー』が大破。『パンツァー』は使用する弾薬の補充に時間が掛かる」
「ミサイルやら実弾やらありったけぶちこんだからな。気持ちえがった~」
「えがった~じゃねぇよ馬鹿。どんだけ金と時間が掛かると思ってんだ」
それは考えたくないな。しかし、『パンツァー』は補充してもまず使えないだろ。アレは周囲に何も無いからこそ使える殲滅装備だ。市街地で使えばとんでもないことになる。
「ところで、なんで箒がここに居るんだ?」
「ウサギ女とあまり話したくないんだと」
椅子に座ってコクリコクリと効果音がつきそうな感じで、頭を揺らして寝ている箒。箒は束とクロエとラボで合流した後、束とは最低限の言葉を交わしてから、ずっとここに座って俺が目覚めるのを待っていたらしい。要するにこのラボで居場所が無いからここに居ると言った感じか。
「一応、俺達についても一通り話した。お前の出自からこれまでの事を全て」
「手間が省けて何より。しかし、直ぐ横に自分を攫ったテロリストが寝ているのによく居られたな」
「俺がいる事もあるが、そっちがお前より早く目覚めた場合は俺からウサギ女に連絡がいく手筈になっている」
最低限の対策はしているらしい。とりあえず箒を揺すって起こしてみる。
「うん?……! 目が醒めたか」
「ああ、椅子で寝てたみたいだが、体は辛くないか?」
「いえ、少し疲れていただけですので、お気遣いなく」
「ああ、無理して改まらなくても良い。普通に話してくれ」
「はあ、その……助けてくれて感謝する」
「どうしまして」
口調が一気に砕けたが、表情が硬いな。先ずは自己紹介から始めよう。
「自己紹介がまだだったな。俺はゴクロー・シュレディンガー。ゴクローでもシュレディンガーでも好きに呼んでくれ」
「篠ノ之箒だ。箒でいい。……実は聞きたい事が幾つかある」
神妙な顔で箒は俺に質問をぶつけ始めた。
○○○
私の人生は常に姉さんの影が纏わりついていた。
姉さんがISを発明したことで小学4年生の時から政府の重要人物保護プログラムにより、日本各地を転々とさせられていた。一家離散の状態となり、それぞれバラバラに暮らすことになった。初恋の相手である一夏とも離れることになった。姉さんが失踪してからは執拗な監視と聴取を繰り返され、それが私の心身をガリガリと削っていった。
挙句の果てには姉さんを狙うテロリストに捕まって人質にされた。仮に姉さんがコイツ等に捕まっても私は解放されないだろう。これから先、姉さんを良い様に操るための道具としての未来が待っているのかと思うと、とても惨めな思いだった。今すぐにでも死んでしまいたかった。
でも、そんな未来は訪れなかった。メダルで出来た鳥の様な赤い怪人と、血まみれになりながらも諦める事を放棄したような目をした金髪の男が助けてくれた。猿轡と縛っていたロープを切ると、見たことも無い巨大な装甲車の中に私を匿った。
「ここで待ってろ。直ぐに終わらせてくる」
その言葉に自分でも驚くほど素直に従った。それ以外に助かる方法は無いと心で理解していたからかも知れない。戻ってきた時に敵の一人を黒マントに包んで運んできた時は驚いたが、どうやら仲間に見捨てられたのを助けたらしい。何故か怪我が治っていた事に疑問を持ったが、男は体力の限界だったようで倒れてしまった。
戦場から脱出して向かった先は姉さんが造った秘密のラボ。姉さんの仲間だとは思っていたが、姉さんは私と一夏と千冬さん。後は両親くらいしか認識できていなかった筈だ。それが、この男と怪人。それにクロエという少女を、姉さんが認識している事に驚いた。
テキパキと、意識の無い二人に治療が施されていくのをじっと見ていた。姉さんは私に色々と話しかけてきたが、私は話したくなかった。
当然だ。私はずっと姉さんの所為で辛い思いをしてきた。本当の事を言えば直ぐにでもここから出て行きたかったが、何処に行っても危険だと言われた。また捕まって人質にでもなったら、助けてくれた怪人とこの男に申し訳ない。それに助けてくれたお礼くらいはちゃんと言っておきたかった。
怪人から鳥になったアンクから一通りの経緯を聞いた。ISを打倒する為に造られた対IS最終兵器と、それを使うクローン人間。この戦争は姉さんの所為で起こったらしいが、この男は、ゴクロー・シュレディンガーは姉さんを恨んでないのだとか。
どんな人間なのか興味も湧いた事も有り、目覚めるまで椅子に座ってずっと待っていたが、疲れから眠ってしまったようだ。ゴクローが先に目を覚まし、体を揺すって私を起こした。
話してみるとなんと言うか意外だ。あのオータムとか言う女に嬲られていた時に切った啖呵もそうだが、とても悪の組織の一員に見えない。思ったよりも話しやすい事から、思い切って自分の疑問を聞いてみた。
「アンクから大体の話は聞いた。ゴクローはISを打倒するために生まれたのだろう? それが何故姉さんと一緒に居るんだ?」
「俺にとってISは打倒すべきものではあるが、束は敵じゃないって事だ。箒、君は銃を作る人間や、銃を持っている人間は皆、例外なく犯罪者だと思うのか?」
その質問に口を噤んだ。銃と言うと凶悪犯罪のイメージがあるが、警察もまた銃を所持している。
「違うだろ。その力を悪用するものもいれば、脅威から守るために使う者もいる。つまり新しい発明や発見は、必ず悪用されるというリスクがついてまわる。力そのものに善悪が無い様に、発明や発見そのものに善悪は無い。使い手次第で白くも黒くも染まる」
「だ、だが、ゴクローは姉さんがISと言う兵器を開発したから生まれたんだろう? 自分が生まれた原因に対して何も思わないのか?」
「それがそもそもの間違いだ」
間違い? 何が間違っているのだろう。ISが最強の兵器だから、それに対抗する為の兵器を造り出そうとしたのだろう?
「ISは元々戦闘兵器ではない。『あらゆる現行兵器を凌駕する』と言うだけで、他人が勝手に戦闘兵器だと言い出しただけだ。束は元々、ISをロケットとして使いたかったが、それを見た他人がミサイルとして使ったって感じかな」
……確かにISは今でこそ飛行パワード・スーツとして軍事転用され、究極の機動兵器として各国の抑止力の要となっているが、元々は宇宙空間での活動を想定し、宇宙進出を目的として開発されたマルチフォーム・スーツだった筈だ。
「束の罪はISを開発したことじゃない。自分の心の弱さを他人への攻撃に変えたことだ。『白騎士事件』は束が起こしたマッチポンプだと知っているか?」
「……はい」
それはアンクから聞いた。もっとも、私はそれを聞く前からそうとしか考えられなかった。白騎士の正体が千冬さんだと言う事も薄々ながら感づいていた。
「その発端は束が学会でISを発表し、それを否定された事だと言われているが、束が学会で発表したと言う事に違和感がある。他人を認識できない人間が、特定の人間以外に興味を向けない人間が、学会で自分の研究成果を発表する。何か不自然だと思わないか?」
言われてみれば……。『白騎士事件』を姉さんと千冬さんの二人だけで起こせたのなら、学会で発表する必要など無い。姉さんが認識できない筈の人間を相手に、自身の研究成果を発表した事が、私の知る普段の姉さんからはズレている行動の様に思えた。
「つまり、束は他人を『認識できない』のではなく、『認識しない様にしていた』だけ。もしくは、自分を理解していない相手に対して、自分も相手を理解しないと言ったスタンスなのだと俺は思う。そして、束の反応から見るに、恐らくお前達の両親は束を理解していない。むしろ恐怖しているかも知れない」
両親が姉さんを理解していない? それどころか恐怖している? どう言う事なのか?
「仮に人間が犬だとして、犬が人間並みの知能を持った子を産んだとしたらどうだろうか? 幾ら我が子が可愛くても、我が子を理解する事が出来ないのではなかろうか? そして、理解できないモノを人は恐怖し、異端として拒絶する」
……そう言えば、姉さんと両親が仲良くしている所を見たことがあるだろうか? 私は父から剣術を教わっていたが、姉さんはどうだったか。思い出される篠ノ之家の中では、姉さんは何時も一人だったような気がする。
「自分を産んだ両親でさえも自分を理解してくれない。むしろ、恐怖さえ感じている事を束は子供心に理解していた。誰も自分を理解してくれないから、自分も誰も理解しないと思っていたのかも知れない。そして、孤独を孤高に摩り替えた。そんな中で、同じように両親の愛を受けられなかった存在が偶然にも近くに居た」
「……千冬さんか」
「きっとシンパシーを感じていたんだろう。織斑一夏も同様の理由で認識していた。箒を認識できていたのは、箒が純粋に束本人を見ていたからだと思う」
「……」
その答えに身に覚えがある。姉さんを純粋に凄いと思っていた幼い頃の記憶。あの頃の私は姉さんが頼もしくて誇らしかった。
「しかし、成長するにつれて箒が束の才能がどれだけ規格外なのかを理解する様になった。それこそ両親と同じ様に」
それも身に覚えがある。何時の頃からか、姉さんと自分との違いを自覚する様になった。あの人は私とは別の生き物なのだと思うようになった。
「人は何かを欲するから行動する。束が欲しかったものは何だと思う?」
「姉さんが欲しかったもの?」
姉さんが欲しかった何か。今までの会話から察するに……。
「自分を見てくれる理解者?」
「俺の考えは違う。多くの人間が得られるはずのモノだ」
「それは?」
「愛だ。誰もが子供の頃、両親から愛を受ける。束は幼くしてそれを失った。そして失ってしまった愛をずっと追い求めていた」
「両親からの愛……ですか?」
「親ってのは子供にとって神も同然だ。絶対的な自分の理解者であり、絶対的な味方。その神から恐怖される事がどれだけ辛いことかお前に分かるか?」
「………」
「束は愛を失い、愛に彷徨した。そして遂に自分を受け入れない世界そのものを憎んだ。その心の弱さを攻撃に変えて世界を変えようとした。自分を受け入れてくれる世界を、自分が否定されない世界を創ろうとした。だが、失敗した。そして束は自分を受け入れない世界そのものを切り捨てた」
「それが『白騎士事件』と、姉さんの失踪の真相だと?」
「今言った事は俺の推測だ。今言った事が真相だと提示できる証拠は無い」
「……仮に真相がそうだとしても、私は姉さんを許せない」
確かに確たる証拠のない仮説だが、今言った事は私から見てかなり真実に近く、的を射ているような気がする。それでも、今までの不幸の原因である姉さんを許すことが出来ない。
「……いい加減に気付いたらどうだ?」
「え?」
「お前が憎んでいるのは、束自身でも、束がISを開発した事でもない。
物事に対して自分にとっての利益を取捨選択し、理解できない物を理解しようと努力せずに拒絶する安易な方法を取る大勢の意思と、本人の意思を度外視して、強大な力を都合よく利用することだけを考える大勢の欲望。
それらが正義の名の元に強制する、この世界の残酷な理不尽や不条理そのものだ」
!!
「箒は……いや、束も、両親も、他人が巻き起こした欲望の渦に巻き込まれただけ。相手が国家や国際組織と言う、誰にも反論できないような大きなものだったから、言い訳の聞かないようなどうしようもない相手だったから、お前は言い訳のできる相手を憎んだ……違うか?」
その言葉は私が何時も姉さんの事を考えるときに思っていた、疑問の答えとしてぴったりと嵌った。こんな人生を強制された原因である姉さんを断じたいのか、許したいのか。そのどちらもがずっと本心の様で、偽りである様な矛盾を感じていた。
もしも、ISが宇宙へ行く為のマルチフォーム・スーツだと認められていたなら?
もしも、姉さんの研究が正しく見るものが一人でもいたなら?
もしも、姉さんの研究を理解しようと努力する人が一人でもいたなら?
姉さんは『白騎士事件』なんて起こさなかったんじゃないのか? いや、『白騎士事件』が起こった後でもチャンスはあった筈だ。
世界がISの力を目の当たりにして、兵器として利用しようと考えたから。
各国がその強大な力を手に入れようとしたから。
宇宙進出ではなく軍事に利用しようと考えたから、私達はこうなったのではないのか?
重要人物保護プログラムだって、私たち家族の安全を守るためと言いながら、姉さんの情報を得るための大義名分だったのでは無いか?
これまでの私の人生は姉さんではなく、そんな他人の欲望によって捻じ曲げられていたのだと気がついた。気がついてしまった。背中から鳥肌が立った。
「わ……私は……」
「本当はずっと辛かったんじゃないのか。束を憎む毎日が。好きだった人を憎む人生が」
やめろ……それ以上言わないでくれ。
「裏切られた気分だったんだろ。ずっと信じていた人が家族をバラバラにしたと思って、憎まなきゃ耐えられなかったんだろ。……束が大好きだったから」
その言葉が止めになった。もう耐えられなかった。目から涙がとめどめなく流れてきた。自分に対してずっと嘘をついていた事に、自分自身を偽っていたことに気がついてしまった。
「ず、ずっと……ずっと、姉さんを、憎んで……姉さんの、所為だって、言い訳して……ずっと……一人に、なって……一人ぼっちで……寂しかった……んだ。ず、ずっと、ずっと、憎しみの、捌け口をっ、探して……ぼ、暴力でっ、人を、傷つけてっ、ずっと、ずっど、後悔してたんだぁ……っ!」
気がつくと泣きながら懺悔していた。今まで私が溜め込んでいたものを涙と共に吐き出していた。過去に犯した罪からずっと許されたかった。ずっと楽になりたかった。
そんな私を、壊れそうな脆い物に触れるように抱きしめてきた。人の温もりなんてどれ位ぶりだろう。私を慰めようとしているのだろうか。でもそれなら逆効果だ。温かくて、心地よくて、余計に涙が止まらない……。
「お前の罪は三つ。一つは束の心の闇を知ろうとしなかった事。二つ、束を憎むことでしか自分を保てない自分の弱さに気がつかなかった事。三つ、自分の弱さを他人への攻撃に変えたこと」
今までに犯した罪を数える断罪の言葉。だが、厳しい非難や激しい怒りの篭っていない、安らかなで慈悲や慈愛が込められていると感じる声だった。
「自分の罪を数えたら、後は罪を背負って進むだけだ。箒は間違った道を知っているから、後悔してるから、今度はちゃんと正しい道を、ちゃんとまっすぐに歩いていける」
私が望む様な優しい言葉だった。間違いを犯してもやり直せるのだと言ってくれた。むしろ間違えたからこそ、後悔しているからこそ、より正しくなれるのだと。
「なんで束を敵とみなしていないのか。俺には束が、縋るモノを探して泣きながら彷徨っている迷子か、欲しいものが手に入らなくて駄々を捏ねている幼子にしか見えなかったんだ」
ああ、そうか。姉さんも私と同じだったんだ。姉さんはISを発明する前から、私はISが発明されてから、ずっと縋るモノを探していた。愛を失って、愛に彷徨っていた。
「わ、私……姉さんに、謝りたい……謝って、仲直り、したい……」
「そうか……きっと、束も喜ぶ」
奇妙な話だと思う。対ISを掲げる悪の組織の最終兵器。そんな人が私を憎しみから解放してくれた。
○○○
か~なり自分の考えを含めて、エラソーに語ってしまったが、これで良かったのだろうか。沢芽市の呉島兄弟しかり、風都の園崎家しかり、兄弟や姉妹の愛情が憎しみに変わるとドえらい事になる。この篠ノ之姉妹も例外では無かったようだが、憎しみを乗り越えてくれて何よりだ。
「す、すまん。取り乱してしまって」
「俺は一向に構わん」
落ち着きを取り戻した箒の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだが、泣いて吐き出してすっきりしたようだ。姉妹仲の改善の代価が、俺が着ている服が壊滅的な被害を受けることなのだとすれば安いものだ。ティッシュで鼻をかんで顔を綺麗にした箒はもう一つ質問をしてきた。
「もう一つ聞きたい事がある。何故敵だったコイツを助けたんだ?」
隣で寝ている織斑マドカを指差して言った。いや、全裸の少女を砂漠に放置するのもアレだったし、連合軍に渡したらどうなるかも目に見えていた。まあ、強いて言うなら……。
「俺の目指すものの為だ」
「確か『仮面ライダー』と言っていたか、正義の味方ではなく、人間の自由を守るために戦うと」
「ああ」
偉大なる原点。仮面ライダー1号こと、本郷猛の言葉だ。この信念と生き様を無くして仮面ライダーは語れない。それが無ければ仮面ライダーはショッカー最強の怪人に成り果てる。
「俺がいた『ミレニアム』は対ISを掲げる組織だ。悪の秘密結社ってやつだ。その構成員の多くはISによるテロで家族を失った人間や、女尊男卑の社会によって社会から弾かれた人間だ」
第二次世界大戦から生きている、隠し砦の三悪人を筆頭としたISとは全く関係なかった奴もいるけどそれは置いておく。
「裏の世界で生きる人間は初めから裏側にいたって訳じゃない。中にはそうせざるを得ないような連中もいた。そして誰も彼もがISを、束を、白騎士を、時代を憎んでいた。愛する人を奪われて復讐したい気持ちは理解できる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いみたいな考えには賛同できなかったが、皆寂しそうな目をしていた。多分、復讐する事で自分の辛い過去や運命に決着を着けたかったんだと思う。」
彼らには彼らの歩いてきた人生がある。憎み、復讐するだけの過去がある。それをそんな復讐なんて無意味だなんて、分かった風には言えなかったし、言いたくなかった。
「そんな連中を見て、俺は優しくて強い奴になりたかった。本当の強さが欲しかった」
「本当の強さ……」
「力を手に入れて強くなる度に、弱かった頃の優しさを捨てるような人間になりたくなかった。自分達が弱いことを理由にして徒党を組んで、相手が強いってだけで相手の中身を無視して、排除する事を正当化するような卑劣な人間にもなりたくなかった」
憎しみを無くしたかった。彼らの話を聞くに憎しみの原因になった人間はそんな感じだった。
「その信念を守るために助けたのか? それでお前が馬鹿を見るかもしれないのに?」
「ああ、どんな過去や罪を背負っていてもやり直せるって証明したかった。諦めずに生きる限り、人は変われると、なりたい自分に変身できると俺は信じているから。馬鹿を見たら……その時はその時で自分が馬鹿だったって思うことにしてる」
自分自身が二度目のチャンスを、人生を貰ったから、他の誰かにも二度目のチャンスをあげたいと思っている事も理由だろう。
「確かに、信念を貫く為に不利になる事もある。窮地に立たされる事もある。弱さとして漬け込まれる事も有る。でも、俺はその弱さも抱えて進む。それ以外に、俺の目指すものは無い」
「……強いな、ゴクローは」
「いや、割りと弱いと思うぞ。束なら人質取られた状況でも無傷で切り抜けそうだ」
「それは……確かにそうかもな」
「だろ? そろそろ、束とクロエに顔出すか。心配かけたと思うし」
「あ、ああ、そうか……」
「……一緒に行くか?」
箒はまだ束に会うのがちょっと不安なようだ。手を差し伸べると戸惑いながらも差し出された手を掴んだ。
「す、すまない」
「こーゆー時は『ありがとう』が正解だ」
「……ありがとう」
「どう致しまして。アンクはどうするんだ?」
「俺はここに居る」
アンクを残して、箒の手を取って俺は束の居る場所へ向かった。……が、ここで問題が発生した。
「ところで箒、一つ聞きたい事がある」
「なんだ?」
「束ってこのラボの何処にいるんだろうな」
「知らなかったのか!?」
「ああ、初めて来た場所だ」
普段ならキーメモリのマキシマムをメモリガジェットで使う。本家では出番が無かったが、キーメモリは解除能力と目標の対象物を探し当てる能力を持っているから、日常生活でもかなり便利なメモリだ。
しかし、手元にドライバーが無い所為でキーメモリはおろか、メモリガジェットも無いからこの方法は不可能だ。
「全く、確かコッチだ」
「……すまん」
「こーゆー時は『ありがとう』だぞ」
「……ありがとう」
「ふふっ、どう致しまして」
手を引いていた筈なのに今度は逆に箒に引かれている。カッコがつかなかったけど、箒が苦笑しながらも楽しそうなので良しとしよう。
○○○
私は織斑マドカになる為に、自分自身の存在証明の為に、強大な力を、誰にも負けない強さを欲した。
秘密結社の『亡国機業』に入ったのもその為だった。もっとも、組織に対して忠誠心の欠片も無い私は監視用ナノマシンが注入されたが構うものか。力が手に入るならそれでいい。なんとしてでも力を手に入れて、織斑千冬を殺す。私は織斑マドカになる。ただそれだけの為に生きていた。
ある日、スコールが満身創痍の状態で帰って来た。『ミレニアム』とやらを襲撃して、対IS最終兵器とやらに返り討ちに遭ったらしい。名前はゴクロー・シュレディンガーだとか。ふざけた名前だと思った。
それから数日して、その最終兵器『オーズ』と篠ノ之束博士の居場所の情報が流れてきた。チャンスとばかりにオータムが指揮し、私も同行する事にした。人質として捕獲した篠ノ之箒を運ぶ仕事は面倒だったが、スコールを打倒した存在がどれだけのものなのか興味があった。
戦場で『オーズ』を見たときは衝撃を受けた。オータムは獲物が弱るのを今か今かと待つ肉食獣の様に見ていたが、私は違った。次々とISを撃墜していく様に感動を覚えた。臨機応変や千変万化、一騎当千と言った言葉が似合う戦いぶりだった。私が心から欲した、運命さえも捻じ曲げる強大な力を見せつけられた気がした。
ターゲットが全てのIS操縦者を撃破した後に、人質作戦が決行された。あっさりと『オーズ』を渡したことに多少の疑念が湧くが、あの力が私の手に握られている事実に頬が歪む。
生身になった操縦者にオータムがISを展開し、嬉々として攻撃していた。だが、あの男の目はヤバイ。あれは命を散らす最後の一瞬まで、勝利の為に我武者羅に食らい付く執念を持った奴の目だ。オータムに忠告したが、オータムは聞き入れなかった。
私の見解は間違いではなかった。ちょっとした油断から人質は奪還され、私が『亡国機業』で手に入れた力は、イレギュラーにより何時の間にか狂わされていた。人質も気になるが、私は目の前の怪人を仕留める事に躍起になっていた。
絶対に逃してなるものか、その力があれば私は……ッ! だが、ソレが不味かった。怪人との戦いに集中していた所為か、戦場の変化に気がつかなかった。
オータムのモノと思える、大量の蜘蛛の形をしたメカが、ISに纏わりつき爆発した。正確には、ISの装甲を爆弾に変えて、私ごと怪人を攻撃した。ISのお蔭で私は守られ、非難の目をオータムに向けるが、オータムは私が死ななかったことが意外だと言わんばかりだった。
ここで気がついたが、アラクネは姿形を大きく変化させて、未知の能力を使用していた。私のISのBT兵器も、敵のロボットもオータムの蜘蛛に乗っ取られた。
それに相対するのは、先ほどの黒を下地にしたパワード・スーツと対になるような、黒いマントを羽織った白い鎧の戦士。
物量で攻撃するオータムに対して、戦士は黒いマントを翻して光り輝く盾を構えた。盾から発する光線で、爆弾と化したBT兵器もロボットも瞬く間に撃ち落とし、一瞬で数の利を覆した。
駄目だ。オータムではコイツに勝てない。心の中で思ったことをそのままオータムに告げると、私を見たオータムがバイザーの下で、いい事を思いついたと醜悪な笑みを浮かべているのを幻視した。
蜘蛛が次々と私の体に噛み付き、体が徐々に糸に覆われていく。無理矢理に自分の体を意のままにされる感覚に恐怖とおぞましさを覚える。
しかも、先ほどのISに食いついた個体と同じように、赤く発熱している。だが、私は爆発して死ぬのではなく、相対する戦士の剣で終わるのだと何故か分かった。
禄に知らない相手のために簡単に力を捨てる男に。人質の一人も見捨てられない甘い男に。どれだけ傷ついても諦めない目をした男に。自分から枷を作って不自由になった男に。
……だからか? 私には何も無いからか? 私が何者でも無いからか? 私が誰からも愛されないからか? 私が誰とも繋がろうとしなかったからか?
この死に際になって、私は自分が『空っぽな人間』なんだと理解した。その直後、戦士の剣が私を斬り裂いた事を感じ、意識が途切れた。
誰かが泣いている声で目が醒めた。死んだと思ったが生きていた。隣を見ると、件の男が人質にした篠ノ之箒を抱きしめていた。チャンスかと思ったが赤い鳥が此方を見ていた事もあり、黙って様子を伺うことにした。
しばらくして、二人の話題は「私を何故助けたのか」という事になった。男はなりたいものの為に、本当の強さを手にする為に、強くて優しい人間になる為に、自分の信念を曲げない為に助けたと言った。
甘い男だと思った。だが、それがこの男の強さの秘密なのだろうか。ゴクローと篠ノ之箒が出て行った後で、アンクと言われた赤い鳥が私に話しかけてきた。
「おい、お前を助けた理由は今聞いた通りだ。あいつは馬鹿だ。あれだけ痛い目を見てもあんな感じだ」
「……ああ、甘いな。あの甘さはこの世界では命取りだ」
「ああ。だが、だからこそお前は助かった」
そうだ。その甘さが無ければ私はこうしていない。ふと、今までの人生を振り返る。
クローン人間と言う影を背負い、悪の組織に身を置き闇の中で生きながら、ずっと光を目指していた。何時の日か、自分に光が当たる事を夢見ていた。
馴れ合いは無意味と思いながらも、心の何処かで『織斑マドカ』を肯定してくれる存在を欲していた。自分と同じ痛みを持つ者を、痛みを分かち合うことの出来る人を探していた。
「あの白い戦士の名前は何だ?」
「あれはエターナル。仮面ライダーエターナル」
「エターナル……」
私が欲していたのは運命を捻じ曲げる力ではなく、運命を断ち切る力だったのかも知れない。
私は永遠の名を冠する白い戦士に、『仮面ライダーエターナル』に魅せられていた。
○○○
箒と一緒に束の元へ行くと、束とクロエの様子が明らかにおかしい。束は此方に顔を見せないし、クロエはオロオロしている。
「ご、ゴッくん、げ、元気そうだね!」
「ああ、おかげさまでな」
背中を向けた状態でそう言われてもな。束が小声でクロエに何かを告げると、クロエが俺に近づいてきた。
「兄様、束様と箒様を二人に……」
「大丈夫か、箒?」
「大丈夫だ、覚悟は決めた」
「分かった……頑張って」
クロエに手を引かれて、箒を置いて束と二人っきりにした。一体何が起こっていたのか。
「実は……さっきまでの様子をモニターで確認していまして」
「つまり、全部見ていたと?」
「はい。それで束様が泣き出してしまいまして」
……マジか。束にもクロエにも筒抜けか。あの解釈で良かったのか余計に悩む。知った風な口を利くなと束を怒らせてしまったか。
「いえ、束様が怒っている様には見えませんでした。それより戻りましょう。織斑マドカが目覚めていました」
「……何時からだ?」
「兄様が箒様を抱きしめていた辺りです」
マドカにも聞かれていた。しかも、助けた理由が筒抜け。今日は厄日なのかも知れん。羞恥心に苛まれながらも元の場所に戻った。
「おはよう。調子はどうだ?」
「……悪くない」
「そうか。俺はゴクロー・シュレディンガーだ。宜しくな」
「クロエ・クロニクルです。以後お見知りおきを」
「私はエ……いや、織斑マドカだ」
クロエの言う通り、マドカはきっちり起きていた。思ったよりも大人しい。
「その……色々と世話になったな」
「コレからもっと世話になるぞ。お互いにな」
「……いいのか? 私は『亡国機業』で敵だったんだぞ」
「今は敵じゃない。それにそんな肩書きは今の俺に比べれば霞むぞ」
「……ふっ。確かにそうかもな。つまり、命を助けた代わりにお前達の一味に加われと言うわけか」
「拒否権はある。だが、せめて力をつけてから出て行け」
「……変わってるな。それで手にした力でお前達に牙を剥くと考えないのか?」
「その時は俺がお前を倒す。それがお前を信じた俺の責任だ」
「ふふっ。お前、馬鹿だろう」
「良く言われる」
「でも、嫌いじゃないぞ」
柔らかい表情になったマドカを可愛いと思ったら、隣のクロエに抓られた。ジトッとした目で見られた。「む~」とか唸っている。
「一つ聞きたいのだが、チーム名はあるのか?」
「……無いな」
「ありません」
ミレニアムは壊滅したし、束とクロエもチーム名なんて考えていない。そこで一つ提案してみる。
「それならこんなのはどうだ? 如何なる困難や逆境にぶつかっても決して諦めない。諦めを踏破し、運命を変える権利人となる事を目指す。俺達の名は――」
「――『NEVER』。なんてどうだ?」
キャラクタァ~紹介&解説
篠ノ之箒
欲望の渦に巻き込まれた剣道少女。原作の束との確執は今回の一件で解決。篠ノ之姉妹の険悪な姉妹仲の回復は、原作開始前にトライアルドーパントが書きたかった事の一つ。理由は原作三巻でのやり取りが気に入らなかったから。
今回、箒と596のやり取りは、フィリップと翔太郎、フルーツ鎧武者とDJサガラをイメージしていたのだが、書いていて途中からイタチ戦後のサスケとオビトっぽくなったなと思った。
596「束は犠牲になったのだ!」
箒「やめろォ!」
596「思い出せ、優しかった姉を!」
箒「やめろォォオオオオオオオオッッ!!」
アンク「キー!」
織斑マドカ
欲望から生まれた怪物第3号の少女。本作では初代ブリュンヒルデのクローン体に決定。しかし、研究者と思しき人物が『千冬』と呼んでいることから察するにかなり織斑千冬に近い人間が関わっているのでは……と推測。
織斑マドカになるべく旅をして、『自分は一体何者なのか』と言う答えを探して辿りついたのは、もう一つの白騎士。箒がサスケなら、マドカは鬼鮫かカブトだろうか。決して白ゼツではない。
マドカ「私には何も無い……」
596「君は自分を説明できるだけの情報が足りないだけ……」
アンク「オイ、なんだその蛇みてーなメイク」
596「自分が何者か知りたいなら……さあ、傍らに……」スッ
マドカ「………」ギュッ
篠ノ之束
愛を失うばかりのこの世こそ地獄だと悟り、傷つけるばかりの世界を切り捨てた天災ウサギ。愛を失い、愛を求め、愛に彷徨し、漸く愛を説く誰かに出会う。
箒がサスケなら、束はイタチと言うよりはマダラ。クロエの持つIS『黒鍵』の能力『ワールド・パージ』なんて完全にIS版限定月読。原作の束はもしかしたら、無限月読を発動しようとしているのかも知れない。
束「待ってたよ、ちぃぃぃちゃぁあああああああああんッッ!!」
千冬「お前は後!」ズビシッ
束「……びぇぇぇええん! ゴッく~~~ん!」
596「(メンタル弱いな……)よしよし」ナデナデ
束「えへへ~」ニヤリ
千冬「………」イラッ
ゴクロー・シュレディンガー
欲望から生まれた怪物第0号の男。生まれた後は他人の憎しみと復讐の渦の中に居た。少佐を近くで見ていた所為か、人を自軍に引き込む術を知らず知らずのうちに身につけている。相手の憎しみを利用すると言うよりは、相手の憎しみを理解する事で自軍に引き込むので、ある意味少佐やオビトよりも性質が悪いかも知れない。
主人公だが、ナルトよりもオビトに近い。リンって子は居ない。鈴ならいるけど。リンリンリンリンって、鈴でも欲しいんですか~?
596「この世の因果を断ち切る!」
束「今日からゴッくんが救世主だよ!」
アンク「目を醒ませ」
鈴「ちゃんと見てるんだから」
アンク「誰だお前は」
クロエ・クロニクル
欲望から生まれた怪物2号の少女。ちなみに1号はラウラ。兄様の妹と言うポジが脅かされつつある。トライアルドーパントは最近、第二期のアニメのDVDを見て『ハイスクールD×D』のギャスパー・ヴラディと同じ声優さんだと気がついた。
瞳術使いで優秀な妹がいる姉の立ち位置からヒナタっぽいが、性格も体格も全然似てない。ラウラが絡むと豹変。志村動物園のナレーションはしない。
クロエ「ラウラェ! 貴方は私にとっての新たな光だぁ!」
ラウラ「!?」
596「クロエェ! お前は俺にとっての新たな光だぁ!」
クロエ「!!」
アンク「……馬鹿しかいねぇ」
NEVER
この後、束と箒にも聞いたが特に異論も無く、これで決定した。エンブレムはタジャドルコンボの不死鳥マーク。メンバーはこれからも増える。ある意味で本家の『NEVER』よりも強力な面子が揃っている。傭兵家業で資金調達はしない。現在メンバーの為の指輪を製作中。余計に『NARUTO』の暁みたい。
596「もう一度、君を受け入れる世界を創ろう」
束「あうぅぅぅ……」
アンク「『オーズ』に変身してやる必要があるのかソレ?」
クロエ「次は私です。兄様」
箒「わ、私も……」
マドカ「『エターナル』で頼む」