遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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第三話 思い出は汚え花火に汚されない、はず

 思い付きで言ってみた花火大会、当然護衛の関係からアリアは反対し、白雪は乗り気じゃなかったが、俺の巧みな話術によって説得完了した。数十回ツッコミ入ったりど突かれそうになったが、気にしたら負けだぜ。書類仕事? アリアとか白雪の残ってる分も含めて速効魔法(物理)使って終わらせた。『はや!?』とか二人が驚いていたが、人間その気になればこのくらい軽い軽い。

 さて、一旦荷物を寮に置き、電車に乗って会場付近に到着し現在着物屋に来ている。白雪はともかく最近まで外国にいたアリアは浴衣を持ってないからな。これも渋ってたがとある事を口にしたら一応了解した。

 俺と白雪は寮で着替えを済ませており、今はアリアの着付けを店員さんと同行した白雪がやっているところだ。女三人集まると姦しいと言うが、実際楽しそうな声が奥から聞こえてくる。

『よし、これで終わりだよ。うん、似合ってるねーアリア』

『……子供用のじゃなければ素直に喜べるんだけどねえ』

『すいません、この時期はどうしても在庫が無くなってしまって……でも、これなら彼氏さんも惚れ直すと思いますよ!』

『あー、惚れ直させるのはどっちかっていうとこっちです』

『えぇ!? アリア何言って――なんでそこを指差してるのかな?』

『格差社会に対してアタシの指が動いちゃったのよ。理子といいアンタといいホントなんで……はあ』

 女性格差の世界が垣間見えた気がしたが、聞かなかったことにした。大丈夫、成長の余地はあるぞアリア(適当)。

 程なくして店員さんを伴った二人が出てきた。白雪は名前に合わせた白を基調とし花をあしらったもの、アリアは薄桃色に丸線模様の柄があしらわれたものだ。

「ど、どうかな、潤ちゃん? 改めてだけど」

「……」 

 白雪はもじもじしながら上目遣いでこちらを見、アリアは恥ずかしいのかそっぽを向いている。ふむ、そうだな。

「二人とも、よく似合ってる。浴衣のチョイスが良さを引き立ててるな」

「それは私が子供っぽいってことかしら」

「まあアリアのそれは確かに綺麗よりも可愛さを引き立てるものだが、いいと思うぞ? 愛らしさが男心をくすぐる」

「!?」

 ストレートに褒められると思っていなかったのか、急速赤面してオーバーヒートするアリア。おお、久しぶりに見たなその手の反応。

「白雪も、いつも以上に綺麗だな。見ていると目が離せなくなるタイプの美しさだ」

「そ、そんな、綺麗だなんて……はう」

 褒められて嬉しいのか恥ずかしいのか、その場に伏せていやんいやんと首を振る白雪。すげえ頬緩んでるな。

「ま、まさかジュンにこんなストレートに褒められるとは思わなかったわ……これはダメージでかいわね」

「そりゃ褒めるところは褒めるさ、変にぼかした回答も失礼だろ。我ながらちょいとくどい気もするけど」

「潤ちゃん、やっぱり一生傍にいてください!」

「やっぱりって何だよ、俺そんなこと言われたの初めてなんだけど?」

 というか白雪、目がグルングルンしてるんだけど。祭りはこれからなのに大丈夫なんか。

 

 

 白雪を揺さぶって正常に戻してから(ちなみにさっきの大胆な台詞は記憶から飛んでいた)、俺達は祭りが行われている場所に到着した。屋台が所狭しと並び人が隙間なく通りかかる光景は、まさに日本の祭りといった風情、な気がする。どこも似たような感じ? そうかもね(適当)。

「ねえ白雪、アレ何?」

「わた飴だね、ふわふわして甘い祭りの定番なんだ」

「ふーん、そうなの」(ジッー)

「そんなに気になるなら、買ってあげようか?」

「――ハッ!? い、いや、今は護衛中だし、そんな興味あるわけじゃ」

「兄さん、わた飴三つ。そこの物欲しそうにしてるちびっ子ツインテにはでかめでお願いしやす」

「視線でねだる子供かアタシは!?」

 子供だろ、外見も今の態度も実年齢も。買った分を二人に分けると白雪は頭を下げて嬉しそうに笑い、アリアは「これじゃあ片手塞がっちゃうじゃないの、ただでさえこの格好だと動きにくいのに」とかブチブチ言っていたが、わた飴を口にした途端顔がふにゃーととろけた。ああ、これは(わた飴に)堕ちたな。

 結局アリアは自分のだけで飽き足らず白雪の分も少し貰い、更にたい焼き、りんご飴、カステラ焼きと色々買っては嬉しそうにモグモグしている。甘いもんばっかだな。

「ジュン、白雪、次はあっちよ! アタシの勘がこっちだと告げているわ!」

 前も言ったけど直感の使いどころおかしくね? あとアリアさんや、あーた祭りのテンションで護衛のこと忘れてませんかね。

 肩を竦めて続く俺と妹を見守る姉系の優しい視線で笑っている白雪。気分は完全に保護者である。

「やれやれ、あれじゃあ子供に見られても仕方ねえぞ」

「ふふ、でもアリア楽しそう、見てると来て良かったって思うな。……なんだか懐かしいね、潤ちゃん」

「そーだな、あん時の祭りみたいだ」

 普段はクール系で次女の風雪ですら、あの時ははしゃいでいたからな。はぐれないよう見てるのが大変だった。俺の生涯において気を遣った事項のベスト3に入っていい。

「……ありがとう、潤ちゃん。『また』私を連れ出してくれて」

「別に大したことしてねえさ。俺もアリアも楽しんでるしな」

「でもね、潤ちゃんの大したことがないが、私にとっては魔法みたいなことなんだよ?」

「それが魔法ならどうせならここまで飛んできたかった」

 もー混んでるからめんどくさいの何の。アリアなんて何度見失いかけたか分かったもんじゃないし。その度に類まれなる運動神経を利用してスッスッスッと人込みを抜けてきたけど。忍者かお前は、後輩の忍者武偵風魔を思い出したぞ。

 冗談だと思ったのか、白雪はクスクス笑っている。ふむ、

「あ、え、潤ちゃん?」

 白雪が唐突に繋がれた手を見て目を白黒させている。

「はぐれたら困るだろ」

 アリアの奴が先にホイホイ行ってしまうため、白雪はちょっと急ぎ足になって足元が覚束ない。転ぶと危ないしな、折角の浴衣も汚れる。

「……はい」

 少し顔を赤くしながら、白雪はこっちに近寄ってきた。

「……何かラブコメの波動を感じるんだけど。というかジュンが紳士然としてるのに驚くというか引くわ」

 流石に失礼だなオイ。戻りにくそうにしていたアリアの第一声に、チョコバナナを受け取りつつ渋い顔をした。

 

 

 人通りが少なく穴場となっているスポットを見付け、そこに御座を強いて三人で腰掛ける。状況に応じて適切な場所を見つけるのは探偵科の基本技能だからな。

 近くに先ほど会議で出会った役員達が談笑しており、白雪と俺の姿を見かけるとニヤニヤしながら話しかけていた。どうやらデートのために誘いを断ったのだと思っているらしい。お前ら横のアリアも見てやってくれ。

「いい場所取れて良かったね」

「それはそうだけど、このゴザだっけ? はどこに持ってたのよ? いつの間にか食べ物も揃ってるし」

 アリアが言うとおり、御座の上には焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、ポッポ焼き(甲信越の方で売ってる長方形の菓子。鳩の素焼きとかポ〇モンではない)など、色々置いてある。だって腹減ったんだもん。

「『隠す』は探偵科の基本技能」

「どうやったら身長以上のものを隠せるのよ……ああもういいわ、理子も同じようなことやってたし」

 ちなみに理子はそこら中に飴玉とかの菓子類を仕込んでいる。以前アリアに「ほーら飴ちゃんだよアリアん~」とかやってど突かれてたな。

「あ、始まるみたいだよ」

 付近のスピーカーから花火開始の合図が流れ、上空に鮮やかな大輪の花が幾つも咲いた。

「わぁ、綺麗……」

「中々ね」

「ふむ、のんびり見るのも悪くないな」

 三者思い思いに呟きつつ、視線は上に釘付けだ。その下で俺とアリアは手だけで食い物の取り合いしてるけど。というかたこ焼き食いすぎだろオイ。

「あ、見て見て潤ちゃん! あの花火ワンちゃんの形してるよ!」

「あっちは定番のナイアガラね。ホント、日本人のこういう技術力には驚かされるわ」

「イギリスにもあるんじゃねえの?」

 などと喋りつつ、アリアと食い物を奪い合う反対の手で操作していた糸が反応した。

 視線は上空のまま気配だけ探ってみると、いた。誰か、魔剣本人かその関係者が――ってチョイマテ。

 視線を戻してスマホを操作し、慣れた番号をコールする。

『もしもし、どうしたの遠山君?』

「どうしたのじゃねえよ、何出歯亀してんだ亮」

 視線の主は我が友人、不知火亮のものだった。超能力独特の気配がしないからおかしいとは思ったが。

『あれ、バレてた?』

「こんだけ近付けばバレるっつうの。で、ストーカーしてるのは何のつもりだ?」

『いやあ、神崎さんと星伽さん、遠山君の三人で遠出するのは始めて見るからさ。偶然見かけて面白そうだし付いてきたんだ』

 悪びれなく言う亮、電話越しだがいつもの爽やかスマイルを浮かべているのが容易に分かる。

 そういやこいつ、俺が女子といるとどんなトラブル引き起こすか面白がってたな。常識人の癖してバカルテットに数えられる由縁だ。『結局ストッパーになってないし!?』って意味で。

「で、尾けた感想は?」

『仲良し親子の団欒って感じかな? 神崎さん、随分はしゃいでて可愛かったね』

「今のアリアに伝えてやろうか? ついでに武偵三倍法に則って教務科(マスターズ)に突き出すとするか」

 ちなみに武偵三倍法とは、簡単に言うと武偵が犯罪したら通常の三倍罪が重くなるということだ。終身刑から死刑になる、みたいな感じで。

『あはは、それは怖いね。それじゃあ二人に気付かれない内に退散するよ』

「別にこっち来てもいいぞ?」

『お邪魔虫になるから遠慮しておくよ。それじゃあ遠山君、お幸せに』

「そういう関係でもねえっつの」

 言ってる途中で電話が切れた、同時に気配も遠ざかる。あの野郎、からかうためだけに絶妙なタイミングで切りやがって。

 というか、結局何しに来たんだか。こんなことばっかりしてるからイケメンでもてるくせに彼女いないんだっての。

 溜息を吐きながら、花火鑑賞に戻ることにする。もう一方に仕掛けた即興の罠に掛かった相手のことを考えながら。

 

 

 しばらくして花火大会も終わり、三人満足気にその場を去っていったが、帰りの電車で携帯をチェックしていた白雪が顔を蒼くした。

「白雪、どうしたの?」

「え、う、ううん、何でもないよ?」

「何でもないって顔じゃないでしょ。そのメール、魔剣関連じゃないの?」

「ち、ちが」

「大方、従わないと俺やアリアを殺すとか、武偵高をぶっ壊すとか書いてあるんじゃねえの?」

「!? 潤ちゃん、なんで」

「その反応だと当たりか」

「あ」

 アリアの直感と俺のカマ掛けに引っ掛かり、白雪がしまったと言った感じになるがもう遅い。というか、アリアの直感が始めて推理等に役立ったと思う。

 白雪が俯き、観念したのかメールを見せてくる。

 内容は簡単、『指定日時に下記の場所へ一人で来ること。さもなければ武偵高を爆破する』という、ありきたりな感じの脅迫文だ。

「潤ちゃん、私どうすれば……」

 白雪が涙目になり、アリアも難しそうに腕を組む。あー、シリアスな雰囲気中に申し訳ないんだが、

「その爆弾なら、俺がもう撤去したぞ?」

『え?』

 二人の表情は深刻なものから驚きに変わる。まるで『事件が始まったと思ったら終わっていた、何を言っているか(ry』といった感じだ。いらねーなこの例え(オイ)

「いやー、学校中にやばそうな爆弾が仕掛けられてるもんでな。全部解体するのは骨だったわ」

「え、でもジュン、解体なんていつやったの? ここ最近、ほとんど白雪やあたしと一緒だったじゃない」

「別に俺がやる必要ないだろ。こういうのは専門家に任せるのが一番だ」

「……あ、もしかして潤ちゃん、装備科の友達に頼んだの?」

「正確には情報科・諜報科・装備科の連中だな。知り合いを通してその更に知り合いもって事で集めた人海戦術でな」

 勿論、魔剣にはバレないよう極秘に動いてもらった。元々は校内に魔剣が潜入しているか確認するためだったのだが、見付けられたのは正に棚から牡丹餅だ。

「そっか、じゃあ学校が壊される心配はないんだね……良かった」

「ホントね、肝が冷えたわ。しかし、こういう時ジュンの顔の広さと用心深さを実感出来るわ……一体何人に頼んだの?」

「学年問わず直接頼んだのは40人、知り合い経由で100人前後だな」

「多!? そりゃ魔剣が仕掛けたトラップも無効化されてるわけだわ……」

「ふふん、このお兄さんにかかればこれくらい余裕よ」

「リアル弟+普段アホな奴が何言ってるのよ。アンタどう考えても悪ガキの末っ子ポジションでしょうが」

「パートナーの評価が適切かつ辛口で辛い。白雪、慰めてくりー」

「(適切なのは認めるんだ……)えっと、大丈夫だよ潤ちゃん、潤ちゃんが立派になるまで私が見守ってるから!」

「それ慰めちゃう、死体蹴りや」

 天然の追撃は恐ろしい、もう俺のライフはゼロや……

「……ところで潤ちゃん、その協力者の中に女子っているの?」

「そりゃこの人数ならな。お前の知り合いも何人かいるぞ」

「ふーん、そっかー……うふふ、後で調べ上げないとなあ」

「恩を仇で返すのは止めなさいっての」

 久しぶりに黒モード発動の白雪をアリアと二人で宥めつつ、俺達は無事モノレールを降りて武偵高に辿りついた。

しかし出てこなかったな、魔剣。あの時高確率でいたのだし、普段と違う格好のせいで戦力ダウンしていたこっちに仕掛けてこなかったのは、騒動を嫌ってか、別の策があるからか。まあいいか、これ以上予測しても仕方ねーべ。

同日の夜中、そろそろ日付も変わる頃。俺は寮を抜け出して一人、武偵高の前にいる。

昼間は銃声だの騒ぐ声でやかましい此処も、夜中とあっては静かなものだ。一部電気が点いてたり爆発音が聞こえるが、いつものことなので気にすることはない。

月明かりもほとんどない中、俺は玄関の扉を押すと何の抵抗もなく開いた。仕事しろよ宿直、まあ仕事してる奴なんて見たことねえけどよ。

足音を殺し、一部騒がしい科目棟ではなく一般教科の棟を歩いていく。

「……どういうことだ、トラップはそのままではないか……?」

「ああ、そりゃ嘘だからだよ」

「!? 遠山、潤」

 こっちから声を掛けると、相手は驚いた顔をして振り向いた。そこにいたのは俺たちの担任、高天原ゆとり先生――の、格好をした誰か。どうやら変声術は使っていなかったみたいだな、手間が省けた。

「ハロー、初めまして。いい夜だな、『魔剣』さん?」

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 女性を褒めるのに躊躇いがないタイプ。相手の美点を褒めないのは失礼に当たると考えている。
花火大会も策の一つみたいにアリアは思っているが、ぶっちゃけ突発的な思い付きに理由付けをしただけである。まず楽しむがモットー。

神崎・H・アリア
 祭りで童心に帰っていたタイプ。ぶっちゃけ護衛任務のことは半分くらい忘れていた(アカン)
交友関係が広くないと使えない策を用いた潤に思うところがあるらしく、自分も知り合い増やそうかなーと考えているが、本人はコミュ力の低さと周囲の評価が良くないことを考えてちょっと躊躇っている(実際は理子と潤の暴走を止められる本物のストッパーの役目と意外と付き合いのいい性格から、周囲の評価は初期に比べて改善、寧ろ鰻登りで上がっている)。

星伽白雪
 久しぶりに黒いモードを見せたタイプ。しかし潤が頭を一撫でするとすぐに大人しくなる。犬か君は。
箱入り生活が長かったせいか、隠し事は苦手。それで潤とか理子にからかわれることもしばしば。

不知火亮
 潤と周囲の女子の反応が面白いのでこっそり見ているタイプ。いつもはもっとカオスなパターンが多いのだが、これはこれで楽しいらしい。
なおこの時、依頼に向かう最中だった。仕事しろよ。

魔剣
 ようやく出てきたと思ったら終盤だけ、しかも事前の策を潤に出し抜かれてしまう不遇臭がするタイプ。次回、彼女の活躍はあるのか!?


後書き
 女の子をストレートに褒められるスキルなんてある訳ねーだろ! で、お馴染み、潤に臭いセリフを吐かせるのにリアルで悩みまくったゆっくりいんです。リア充はことごとく爆ぜろ!
さて、魔剣編もいよいよ終盤です。つってもアリアと白雪、潤の三人がほんわか過ごしてただけの気もしますが……これ何の二次創作だっけ? 銃弾どーした。
次回はいよいよバトル……の筈。ふ、筆が暴走し泣ければダイジョーブダイジョーブ。マケンガタタカワズニツカマルトカナイカラネ?(震え声)
まあ冗談は置いておいて、今回は以上です。感想・誤字訂正・リクエスト・死体蹴りな批評、お待ちしてます!(←弱パンチ一回でKOされる精神力の持ち主)

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