遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 バレンタイン? 知らない子ですね(真顔)


第四話 屈辱に身を震わせる準備はOK?(前編)

 バレンタイン? 知らない子ですね。

 

 

 ロザリオ奪取から一日経過したが、小夜鳴先生からそれについて言及も怪しんでいる様子もなく、最後の日が過ぎていった。

門の前で先生に見送られ、俺達は紅鳴館を後にする。最初は不気味な外見を怖がっていたアリアだったが、一週間もすれば慣れたのか特に反応は無い。ホラーとか雷にも耐性できてるのかねぇ、面白く「ジュン?」なんでもないです。

 なお帰る間際、小夜鳴先生がアリアと連絡先を交換していた。「その内お茶でもどうでしょうか」とか言っていて、すわ生徒をナンパかと勘違いしそうな光景だが、多分俺達への愚痴というか悪口だろうな、アリアもイイ笑顔で頷いてたし。

「ねえジュン、小夜鳴先生って……」

「うん、どうしたアリア? まさか教師と生徒のイケナイ関係の秘匿方法を聞きたいとか」

「んなわけないでしょうが!? 小夜鳴先生とそんな関係になった覚えはないわよ!!

 ……まあ、アンタが何も言わないなら違うのかしらね」

 何か気になることを言っているアリアだが、それ以上言ってこないのでまだ考えをまとめている最中なのだろう。

 依頼も終わって俺達が向かっているのは横浜のランドマークタワー、その屋上だ。理子の希望でロザリオの受け渡しはそこで行うらしい。わざわざ高いところを指定したのは、『人がゴミのようだ!』をやりたいからかね?(適当)

 エレベーターを使い扉を開ける。曇天の空の下珍しく先にいた理子がこちらに振り返――るように見えた瞬間視界がぶれた。

「ユーくーーーーん! あーいーたーかーったよーーーー!!!」

 どうやら理子に体当たりの勢いで押し倒されたらしい。当の犯人は猫よろしく俺の胸板に顔を埋めてグリグリしている。イタイイタイ、コンクリートに押し付けられて地味に痛い。

「オイ理子、痛いっての」

 声を掛けてみるも反応なしでグリグリしっぱなし。たった一週間会ってなかっただけでテンションゲージが振り切れるくらい我慢できなかったらしい。

「人間砲弾って言葉がピッタリだったわきゃあ!?」

 しばらく理子のされるがままになっていると、今度は前触れもなくアリアに抱きついていく。

「アリアんも久しぶりーーー、もう久しぶりすぎて死んじゃうかと思ったよーーー!」

「たった一週間じゃないのというかはーなーせー!?」

 ジタバタ暴れるも、全身を使って抱きしめられているため脱出出来そうにない。助けてもいいのだが、またグリグリされても困るのでコアラの○ーチ(イチゴ味)を食べつつ見ていることにする。押し倒されたとき頭打って地味に痛えし、禿げないといいけど。

 これは百合ですか? いいえ理子の暴走です。なんてタイトルが付きそうなほど堪能(深い意味は無い)して理子がアリアから離れる。心なしかその顔はつやつやしているように見えた。

「おk、ユーくんアリアん成分補充完了!!」

「今までで一番酷い目に合った気がするわ……」

 理子とは対照的にぐったりしているアリア、心なし顔も赤い。まあ色々触られてたからな、どことは言わんが。

「ほれ理子、お望みの品だ」

 ロザリオをポケットから取り出すと、理子は目を輝かせて俺の手を取りジャンプし出した。

「やったやったー戻ってきたー! ユーくんアリアんホントありがとー!」

「別にいいわよ、ちゃんとした依頼だしね。それで理子、報酬って具体的に何なの?」

「ああんアリアん色気ない話になるのはっやーい、だがそこもいい!

 でーもーその前にー、ユーくん理子にロザリオを付けて?」

「なんでさ」

「こまけーことはいいんですよ旦那!」

 何がだ。まあこれで依頼の締めにするのだろうと予測し、言われるままロザリオを理子の首につけてやる。

 ガシ

「あん?」

 付け終えたと同時、素早く回してきた理子の両手が俺の首に回り引き寄せられる。必然身体も密着してしまう。

「……オイ理子、これが『報酬』とか言ったらキレるぞ?」

「くふふー分かってるよ、ユーくんそういうの嫌いだもんね。これは理子のお願いを聞いてくれた『お礼』、言っとくけど初めてなんだよ?」

「未経験だったのかお前」

「あーひどーい、ユーくん理子がそんな軽い女に見えるの?」

「別に、軽かろうが重かろうが理子は理子だ。経験の有無でどうこう言うつもりはないし、気にすることじゃないだろ」

「……そーいうの反則ー。もうユーくん、目を閉じてね。嫌なら開けたまんまでもいいのよ?」

「いや、貰えるもんは貰っておくわ」

 「何その軽いの、ぶー」などと言っているが、聞かなかったことにして視界を閉ざす。横で状況についていけないのか「な、な、な」とアリアの声が耳に届いてきた。多分真っ赤になって固まってるんだろう、二回目となるとホントすまんね。

 心の中で謝罪してると、顔の部分へ徐々に近付いてくる感覚。そうして触れ合う――

 バチィ!

「あ、ぅ!?」

 直前、弾ける音と微かに感じられる電流、そして理子の悲鳴が聞こえる。目を開くと組んでいた手が解けて力なくこちらに倒れてきたので支えてやる。

「……理子?」

「理子!?」

 俺とアリアがそれぞれ呼びかけるが、「う、あぅ……」と呻くだけだ。意識はあるようだが、呂律が回っていないのか。

「遠山君、神崎さん、ちょっとそこを動かないでくださいね?」

 屋上の入口に立ち、いつものように微笑んで告げる彼、小夜鳴先生。その手にはルーマニア産のクジール・モデル74が握られており、両脇には以前レキと遭遇したコーカサスハクギンオオカミが四体、彼を守るように唸り声を上げている。

「小夜鳴先生!?」

 アリアが驚く中、俺は片手に理子を構えたままUSPを取り出そうとするが、

「下手に動かない方がいいですよ? 狼達には貴方達が妙な動きを見せたら襲い掛かるよう仕込んでありますし、足手まといのリュパン四世を抱えたままでは、元Sランクの遠山君でも大変でしょうし」

 小夜鳴先生の牽制に、俺は舌打ちしつつ銃に伸ばした手を引っ込め、代わりに口を開く。

「どういうつもりです、小夜鳴先生? ――いや、ブラド(・・・)

 ブラドの名前を出すと、小夜鳴先生は驚いた顔をしてから微笑んでくる。

「おや、気付いていたのですか?」

「学校を襲った狼、紅鳴館の管理人という立場、ブラドに会えないという発言、遺伝学の研究、ルーマニア語……ヒントは幾らでもありましたので」

 そもそも、おかしい話ばかりなのだ。学校に現れた狼はブラドの僕だと聞いたが、何故『ブラドの話を理子から聞いて作戦を立てた後』という都合の良いタイミングで襲ってきたのか? そして同時に行われていた身体検査で集められていた生徒達の顔ぶれ、前に剛から聞いた『小夜鳴と一緒にいた女生徒がフラフラになって出てきた』という噂。これらを集めて、仮説ではあるが推理が出来ていた。

「やっぱり、小夜鳴先生がブラド……! でもジュン、どうして武偵高に潜入してたの?」

 アリアも直感で小夜鳴先生=ブラドの構図は薄々察していたようだ。経過を飛ばして答えを見つけるのは流石だが、何故彼がブラドなのか理由までは分からないみたいだな。

「定期的に行われていた身体検査で集められたのは、アリアも含め歴史に名を残す偉人の子孫だったな。それと小夜鳴先生の研究分野である遺伝学、これらを合わせて考えれば『小夜鳴先生が偉人の遺伝子保有者の血液が欲しい』ことが推測できる。一度だけならともかく、何度ともなれば妙な話だろう。

 そんな血液を大量に欲するのは、蝙蝠や吸血鬼の人外である類。目的は『肉体の保持』か『血液を取り込んで強化』の二種類が主か。そこから『ブラドは小夜鳴先生から血を提供してもらっている』、『ブラドは人間の姿に擬態している』という二種類の推測を立てた」

 ここで一度説明を切り小夜鳴先生を見ると、変わらず笑っている。続きをどうぞということなのだろう。

「前者ならブラドと小夜鳴先生に接触があるだろう。だが、ブラドの気配が感じられないことや小夜鳴先生の様子からそれはなかった。外で接触している可能性も考慮したが、先生は外国はおろか、遠出している様子も見られない。なら、後者の擬態して武偵高に潜入する方法が消去法で上がる。

 更に小夜鳴先生が赴任したのは去年の五月、俺や理子が入学して少し経った後だ。普通に考えれば引継ぎだのなんだので遅れたって考えるだろうが、ある仮説を立てれば本当の理由も見えてくる。

 小夜鳴先生、貴方の目的は優秀な遺伝子を持つものから血液を採取すること、そして武偵高に入学した理子の監視(・・・・・)の二つ。違いますか?」

 一気に説明すると、小夜鳴先生は拍手した。曇天の中、それは屋上に白々しく響く。

「いやあ、素晴らしいですね遠山君。推理に強引な部分はあるものの、目的や正体まで言い当ててしまうとは」

「それはどうも、物証が無いので何とも言えませんでしたがね」

「いえいえ、寧ろ証拠も無いのにここまで当ててくるのは素晴らしいと思いますよ。さて、正解のご褒美に少し講義をしましょうか。

 遠山君の予想通り、ブラドの擬態した姿である私は優秀な遺伝子の収集が仕事です。さて、それらを集めて私は何がしたかったのでしょうか、神崎さん?」

「……ジュンが言った通り、肉体を保つのか強くなるためじゃないの? アンタの吸血は人間で言う食事なんだから」

「いえ、違いますね。たしかに吸血は栄養源となりますが、別に肉などの摂取でも問題は無いですから。

 遺伝子を集める目的は二つ、吸血鬼の弱点の克服と他人の技をコピーするためです」

「技を……コピー?」

 アリアが首を傾げてオウム返しに問うと、小夜鳴先生ははいと楽しそうに頷く。

「吸血鬼の特性として、私は血液を媒介として能力をコピーする術を持っています。そしてイ・ウーではそれを人工的に、誰からでも写し取る方法の実現に成功しました。

 これを用いることで(ブラド)は十字架を恐れず、流水を渡れる、数ある吸血鬼の弱点を克服すると同時に、人類が何代も重ねて形にした技を簡単に習得できるのです」

 もっとも、チマチマしたものは彼の好みではありませんがね。そう言って小夜鳴先生は苦笑する。イ・ウーの名前が出た辺りからアリアの目付きが険しくなっているが、彼は気にした様子も無く言葉を紡いでいく。

「その研究の途中、私はその人間が持つ遺伝子から才能の有無を理解出来るようになったのです。ちなみにそこのリュパン4世ですが」

「や、めろ……! 潤とアリアには、言う」

 それまで無反応だった理子が顔を伏せたまま声を上げるが、それで小夜鳴先生が止まるはずもなく、

「優秀な両親から全く何の才能も受け継いでいない、遺伝学的には完全な無能ですね」

 

 

 愉快と言わんばかりの笑みで、断言した。

 無能。その言葉に理子が腕の中でビクンと震え、それを見た小夜鳴先生が益々笑みを深める。

「さて、後は私が何故無能のリュパン4世を監視していたかですが……それはいいでしょう、もう時間ですからね」

「時間? 何の――!!」

 アリアが問おうとしたが、そうするまでもなく分かってしまった。小夜鳴先生の全身が着ていたスーツを破るほど膨れ上がり、人外のそれへと変貌していく。

「遠山君、貴方とお兄さんには感謝していますよ。遠山金一のDNAからHSSを知ることでブラドになるのが容易になり、貴方がお兄さん用に開発した薬がほんの一押し、リュパン4世を絶望に叩き落すだけで変われるようになったのですから!」

 

 

「さあ かれ が くるぞ」

 

 

 その一言は小夜鳴先生の声ではなく、人では発せられない複数の声が重なったように聞こえるものだった。変身を終えて俺達の前に立つのは、数箇所に奇妙な紋様が刻まれた二足歩行の狼、というべきだろうか。全長は俺達の倍を優に超え、発する気配も人外特有の禍々しいものに変わっている。

「……なるほど、小夜鳴先生が妙に饒舌だったのは時間稼ぎか。あの薬は効果が出るまでラグがあるからな」

「まあ、そういうことだ。小夜鳴の奴がお喋りだというのもあるがな」

 俺の言葉にブラドは鷹揚に頷き、金色の目で俺達三人を見ていく。

「さて、遠山と神崎は改めて始めまして、だな。俺達は頭の中で情報を共有できる、だから面倒な紹介はいいだろう。俺がブラドだ。

 それと、イ・ウー以来だな四世」

「……」

 ブラドの言葉に、理子は何も返さない。ただ細かく震えているだけだ。

「なんだ、ビビッて声も出ねえのか? ああそういえば、お前は俺が人間に化けられるのを知らなかったんだな、なら脅えるのも仕方ねえか、ゲババババ!!」

 耳障りな哄笑が響く、心底愉快そうなそれは人の神経を逆撫ですることこの上ない。

「まあいい、これでチャンスは終わりだ四世。お前じゃ一人で物は盗めねえ、挙句宿敵であるホームズの娘と仲良しこよし、てめえの無能さを証明するだけの結果だったわけだ。

 さあ、檻に戻れ繁殖用雌犬(ブルード・ビッチ)。てめえの居場所なんてこの世の中にどこにもねえ、これが最後の外だ存分に堪能しておけ!

 まあ俺は慈悲深い、てめえが寂しくないように遠山と神崎も一緒の檻に放り込んでやるよ、いい交配研究になりそうだからなあ!!」

 ゲババババ、と再び耳障りに哄笑するブラド。人間を実験対象としてしか見ていないセリフにアリアは怒りを露にし、警告も忘れて銃を構える。

 それでも理子は震えていて、そして堪え切れずに、

 

 

「ふ、くふ、ふふふ、あはははは……」

 

 

 俺の腕の中で笑い声を外に漏らした。

「あは、ははは、アハハハハハハハハハハハ!!!」

 先程のブラドよりも大きく、狂ったように笑い声を響かせる理子。

「り、理子……?」

「何だ四世、もう壊れちまったか?」

 アリアが思わずこちらに振り向き、ブラドが呆れたような声を上げる中、俺が手を離すと理子は顔だけをグルンとブラドに向け、

「ブウゥラアァドオオォォ!!」

 狂笑を浮かべ叫び声をながらブラドへと一直線に飛び出し、

 全体重を乗せたドロップキックが、自身の何倍もの巨躯を誇るブラドを軽々と吹き飛ばした(・・・・・・・・・)

「グガアアァァァ!?」

 命中した胸部が歪に凹み、痛覚はあるのか悲鳴のような叫びを上げながら無様に倒れ伏す。

「……は?」

 アリアが呆然とし、狼達も余りの光景に動けないでいる中、

「ハ、ザマァ」

 理子は最高にキチッた笑みのまま、親指を下に向けた。

「よ、四世いぃぃぃ……!!」

 呪詛のように声を上げ、口から血を吐きながらブラドがゆっくりと立ち上がる。胸の凹みはたしか魔臓と言ったか、ブラドの無限再生能力を保つ機関があっという間に修復していく。

「ああ、久しぶりだよブラド! あたしもお前に会いたかった、何でかって? そんなのお前をこの手でブチ殺したいからに決まってるだろ! 檻に入れて家畜みたいに扱われたあの時のお礼を存分にしないとなあ!!」

 アハハハハ!! と心底楽しくて仕方ないと笑う。発せられる殺気は尋常なものではなく、敵味方を問わず竦み上がってしまうほどだ。

「四世、てめえよくもぉ……!」

「アハ、四世四世って、それしかないのか吸血鬼!? 変身したついでに知能も犬並みに下がっちまったみたいだなぁ!!」

 怨敵の姿を嘲笑いつつ、髪に六丁のワルサーを絡め、両手にタクティカルナイフを構える。

「さあ始めよっか、小便は済ませた? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする準備はOK? お前に祈る神様なんていないだろうけどなあ!!」

「ふざけたことをぬかしやがって……! もう甘やかすのはやめだ、この俺に楯突いたことを死ぬほど後悔させてやるぞ四世ぃ!」

「誰を後悔させるって? アタシは理子だ! 五世を生む道具でもてめえのモルモットでもねえんだよ!!」

 

 

 そうして、当事者以外を置き去りにしながら戦闘は始まった。

「アリア、ちょっと失礼」

「え、キャ! ちょ、ジュン!?」

 展開についていけず固まっていたアリアをお姫様抱っこし、少し距離を取る。

「よし、と。悪いな、あそこだと攻撃の余波が有り得たからな」

「うん、まあ突然抱えられたのは驚いたけどお陰で助かったわ。

 ってそれよりも、理子のアレは何なの?」

 アレ、とはまた抽象的な物言いだ。まあ言いたいことは分かるので、答えるとしよう。

「以前理子に相談されたことがあったんだよ、『恐怖の対象を前にして竦まないようにするにはどうすればいいか』って。で、俺はこう答えた。『恐怖以外の感情で恐怖を塗り潰せばいい』って。

 その結果がアレなんだろうな。怨敵を前にした憎悪と殺意、長年蓄積したものを本人の前で爆発させたわけだ」

「……ジュン。アンタはブラドが理子にとって憎い奴だって知ってたの?」

「いいや」

 知っていたら遠慮なくブチ殺していた。続く言葉は口に出さず首を横に振るだけにする。実際聞いても頑なに教えなかったしな、読心術を用いても分からなかったし。

 直感で何となく察しているだろうが、アリアは「……そう」とだけ言って何も聞かなかった。

 実際、おかしいところは多々あったのだ。校内に出現した狼に何のアクションも見せなかったり、イ・ウーでブラドと顔見知りだろうカナの姿に変装したりと、穴だらけだった。ロザリオを取られたのは本当だったが、結局作戦の本命は『ブラドを誘い出し、倒す』ことだったのだろう。

 視線を交戦中の二人に移す。理子は持ち前の素早さと手数の多さで、ブラドは吸血鬼特有の怪力を用いて拳を振るい、コンクリートの床を軽々と陥没させる。

 理子の攻撃は相手を怯またり吹き飛ばすものの、無限の再生力を前にしては決め手にならず、ブラドの大振りな攻撃は全て空振りに終わっている。

 攻防が続く中、ブラドが奇妙な音を鳴らす。するとそれまで殺気に当てられていて動けなかった狼達が、理子目掛けて一斉に飛び掛かる。

「アリア」

「ん、アタシは右を行くわ」

「じゃあ俺は左で」

 最低限の言葉を交わし、俺達も走り出して狼へと向かう。

 理子を襲おうとする奥の一匹にレキが見せた脊髄部を撃つ一撃で動けなくし、こちらに気付いて反転する一匹には当身を食らわせて吹き飛ばす。これでしばらくは動けないだろう。

 一方アリアは縮地を下地とした高速移動で狼達の懐へ入り、顎を打ち据えた脳震盪で二匹を気絶させた。今狼達反応できなくなかったか?

「潤、アリア?」

「よー理子、勝手に加勢させてもらうぜ」

「……必要ない、あたし一人で十分だ」

「まあそう言うなよ。パートナーが闘ってるのを黙って見過ごせってのは酷だろ?」

「あたしが一人でやりたいんだ。……それに、あたしは二人にブラドが出てくるよう仕向けたのを黙ってたから」

「それに関しての罰は『一緒に闘う』ことにしてあげるわ。ほら、ボヤボヤしてるとアタシ達がブラドを倒しちゃうわよ? 『友達』だからって待ってあげないからね」

「……潤、アリア」

 理子が俺達を見て複雑そうな表情を浮かべた後、何も言わずブラドに向き直る。好きにしろ、ということなのだろう。

「ホームズの娘とリュパンの娘に芽生えた友情か? くだらん、そんなもんでこの俺を倒せるとでも?」

「あら、三対一は卑怯とか言わないわよね? 以前アンタが戦ったリュパンは、双子のジャンヌダルクと共闘したって言ってたし」

「いいや、一向に構わんさ。四世に加えてホームズの娘と遠山の男、どいつも無能の類だがいい実験材料だからな、ゲババババ!!」

「……つくづく舐められたものね、人間を実験材料としか見てないのかしら」

「典型的な吸血鬼って感じだな。じゃあ教えてやるか、化物は人間に倒されるのが相場ってことをよ」

 俺とアリアもそれぞれ銃を構える。

「人間どもが束になったところで、俺様に勝てると思うのか?」

「勝てるさ、それどころかお前に最大の屈辱を味合わせてやるよ、アタシ達三人でな」

 理子の言葉を合図に、敵味方双方が動き出した。さあ、第二ラウンド開始だ。

 




登場人物紹介
遠山潤
 今回は解説役に徹していた男。理子の狙いは大体察していたが、何も言わず協力していた。
 押し倒されても冷静でいられるくらいにはいつも理子にじゃれ付かれている。慣れてるとかそういう問題でない気もするが。


神崎・H・アリア
 潤にお姫様抱っこされて珍しく女子らしい反応を示した子。皆さん忘れてるとは思わないが、原作ではメインヒロインです(真顔)
 最近動きその他が日を追う毎に強くなっている。というか狼の認識力を追い抜くのは最早人間の所業なのだろうか。


峰理子
 只今絶賛狂化中の復讐鬼。アリア達が参戦しても切れたままだが、話ができる程度には冷静な部分を残している。
 電撃を受けて潤に抱えられていたが、実際はすぐ回復していた。動かなかったのは小夜鳴がブラドに変貌するのを待っていたため。彼女にとって復讐する対象はあくまでブラドなのである。


小夜鳴徹・ブラド
 ブラドが来るまでの時間稼ぎに長々と喋っていた人間もどき。変身してからくればいいのだが、それをしなかったのは理子をより絶望させるため(正体がばれていたので意味はなかったが)。
 なお薬の存在があるため原作の理子フルボッコシーンはカット。潤良くやった。


後書き
 長い、しかも戦闘入ったばかりという。一話分で終わらせるつもりだったのですが、どうしてこうなった(白目)
 なお捏造設定が含まれていますが、推理に穴があればそれは潤君ではなく作者の頭が悪いということです、潤は悪くねえ!
 とりあえず、次回はブラド戦の続きです。予言します、誰かが酷い目に遭います。それは誰か!? 正解者には、特に何もありません!(オイ)

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