遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 第五部、『教授(プロフェシオン)』編スタートです。とりあえず今一番の悩みは、潤の女装をいつ解くか……ですね(何)
 



『教授(プロフェシオン)』編
第一話 奪われたら突撃しかない


 

 兄貴を戦闘不能にし、悪夢のスーツ(あながち間違いでもない)を脱いで俺達の前に姿を現したイ・ウーのリーダーにしてアリアの曾祖父、シャーロック・ホームズ。そんな彼に俺と理子は警戒し、アリアは呆然と立ち尽くしている。さっきツッコミ入れてた? 気のせいです(真顔)

「さて、最初の出し物はそこそこ衝撃的だったと思うが、どうだったかな?」

「物理的に衝撃的だったのですよ。イ・ウーのリーダーがこんなお茶目さんだったなんて、ビックリビックリなのです」

 今のは俺、遠山潤(遠出梨奈)の発言。女装まだ解除してないです。

「ははは、恥ずかしながら未だ童心を捨てられなくてね。僕を驚かせてばかりくれる君を逆にどう驚かせようか、そればかり考えていたのだよ」

 その童心の結果、我が()は結構なダメージを負ってるんですが。というか世界一の名探偵を驚かせるようなことした覚えなんてないぞ、初対面だし。

「流石ユーくん、教授を驚かせるとか理子達に出来ないことを平然とやってのけるぅ!」

「君にも驚かされるばかりだけどね、峰君」

「え、マジですか?」

 何素で驚いてんだよ、というかお前こそ何したんだ。

「さて、そのことは後でゆっくり話すとしよう。アリア君」

 崩さない紳士スマイルを浮かべたまま、シャーロックはアリアに向き直る。視線を向けられてアリアは呆然としながらも、ようやく口を開いた。

「……本当に、曾お爺様、なんですか?」

「疑うのも無理はない。何せ僕は既に死んでいるとされている人間だからね。でも、君に備わっているホームズ家の直感は、僕が偽者か本物か分かるのではないかな?」

 ここでも直感かよ、それ出来たら真偽の看破にも使え――あ、アリア確信したっぽい。

「信じてもらえたようで何よりだ、アリア君。そして僕が君の曾おばあさんに言った、ホームズ家の女性がする髪型の言いつけをきちんと守っているね」

 シャーロックはツインテールが趣味、と。曾孫まで律儀に守るとか性癖強要させすぎだ――『違うからね?』と視線で制された、アッハイ。

「今まで多くの辛い思いをしていただろう。ホームズ家には推理力の欠如から冷遇され、母は冤罪によって投獄され、最近までパートナーにも恵まれなかった。

 でも、僕は違う。君がどれだけ才能に溢れているか、僕を超える存在であることを知っている」

「私が、曾お爺様を……」

「そう。そして――僕なら、君のお母さんが無罪であることを証明出来る」

「!!」

 それは、アリアにとって致命の言葉だ。才能がどうとかより、彼女にとって未来も恋も捨てる決意を持って救おうとする手段が、今目の前に転がっている。

 ならば差し伸べられた手を払えるか? 答えは否。それが尊敬する相手からなら、拒むことの出来る人間などまずいないだろう。

 

 

「僕達は、イ・ウーは君を歓迎しよう」

 微笑んで差し伸べられたシャーロック(憧れ)の手を、アリアは微塵の疑いもなく掴んだ。

 

 

「……やー、アリアん盗られちゃったね。どーしよっかりなちー?」

 この展開でも女装時()の名前を間違えないお前がある意味すげえよ。

「と、言われても……どうするですかね?」

 まあ俺もキャラを崩すような真似はしないけど。しかしどうする、どうするねえ。そんなの、隣の理子が笑顔の奥から発してるものと、後ろの動く気配から決まっているようなものだろうに。

「シャー、ロック……!」

 後ろの気配、治療中の兄貴(吹っ飛んだ衝撃で女装が解けた)がヨロヨロと立ち上がる。治療を行っていたパトラが慌てて止めるが、

「これでいい。これ以上、治すな」

 そう言う兄貴の瞳は力強さを失っておらず、懐から小型のナイフを取り出し、

「ぐっ!!」

 自分の腹に突き立てた。

「キ、キンイチ何を!?」

 パトラの驚きに満ちた、咎めるようでもある声。オイオイ、致命傷を避けているとはいえ、それはどうなんだ?

 ナイフを引き抜いた兄貴の腹からは血が流れ、纏う気配は姉貴(カナ)の時と同じ、もしくはそれ以上のものになっていた。ヒステリア・アゴニサンテ。HSS派生の一つであり、別名死に際のモードだったか。

「潤、理子、よく聞け」

 兄貴は鋭さの増した瞳で俺達を見、語りかけてくる。わあお、女装解けたら相変わらずの超イケメン。

「シャーロックはアリアを迎えるために自らテリトリーであるイ・ウーから出てきた、これは二度とないチャンスだ。

 三人で一斉に掛かって、シャーロックを逮捕」

「ちょっと黙るのですよ」

 話を遮ってまだ持っていた大鉈をぶん投げる。弾丸のように飛んでいくそれは兄貴の顔真横を通り過ぎ、壁にぶち当たって豪快に崩壊させた。

 全員が唖然とした表情になる。敵であるシャーロックとその手に落ちたアリアも例外ではない。理子だけはデスヨネーという顔をしているが。

「じゅ、潤?」

「ボロ雑巾にぶっ飛ばされた癖して何言ってるのですか? 僕は自虐趣味の兄を持った覚えはないのですよ」

 にぱー、と微笑んでやり――その表情を一転して怜悧なものに変じ、口調も冷酷なものにする。

「よく聞きなさい。たしかに今はシャーロック、敵の首魁を逮捕する千載一遇の機会かもしれない。ただし、足手まといがいなければの話だけど」

「足手まとい……誰のことを言って」

「貴方よ貴方、自覚ないの? 自傷なんて馬鹿なことやって、死に際のHSSなんてものを発動させて。確かにそれは強力だしシャーロック相手でも通用するかもしれないでしょう。私たち三人なら成功率は更に上がる。

 でも――仮に一撃で仕留められなかった場合、全力で二撃目を撃てるの?」

「それ、は」

 目を逸らした兄貴に溜息を吐く。全く、こんな説明何が悲しくて兄にしなきゃならんのだ。

「出来ないでしょう? 一撃で倒せるほど相手は甘くないし、貴方もそれは理解している。そうなれば、治しきれてない分と自分で開けた傷に苛まれている貴方がお荷物になるのは確定、最悪人質に取られるかもしれない。

 何よりも――私程度の暴論に捻じ伏せられているようでは、成功するものもしないわよ」

「…………」

 兄貴は、反論しなかった。ただ悔しそうに唇を噛んでいる。薄々察していたのか、無理だと改めて思ってしまったのか。

 そんな相手に、俺はもう一度笑って告げる。

「分かったらさっさとここを出て大人しく治療を受けるのです。あの二人は僕と理子がどうにかするのですよ、にぱー」

 それに対して聞こえたのは、拍手の音だった。無論兄貴ではなく背を向けた相手、シャーロックからのものだ。

「いやいや、本当に君は僕の『条理予知(コグニス)』を超えた動きをしてくれる。僕の推理では、君達三人が一斉に襲い掛かってくる筈だったんだがね」

「みぃ、机上の空論ばっかり立てて勘が鈍ってるんじゃないのですか? 武偵は常在戦場、なのですよー」

「なるほど、一理あるね。武偵の始祖などと言われているが、これなら君の方が相応しいかもしれないね」

「いらないのです、そんな大層な名前。のし付けて返済するのですよ」

 にぱーしてやると、これは手厳しいと苦笑するシャーロック。

「潤」

 声を掛けられたので振り返ると、兄貴は真剣な顔でこちらに告げる。

「必ず、必ずシャーロックを捕まえろ。最低でもイ・ウーは終わらせろ。いいな?」

 その言葉に、梨奈状態の俺はまたも笑ってやった。

「たまには弟に任せて、ワーカーホリックな兄は休むことなのです。まあ、出来るかは保障できないのですが」

「信用されたいのかされたくないのか、どっちなんだ」

「そんなもの、受け取る側の勝手なのです」

 きっぱり言うと、兄貴は苦笑しながら後方に下がった。それを半泣きのパトラが怒鳴りながら迎える。

「白雪、申し訳ないですがウチのバカ兄をよろしくなのです。パトラだけだと簡単に絆されそうなので」

「だ、誰が絆されそうじゃ! 妾はそんな簡単な女ではないぞ!」

 その発言自体がフラグだよ。

「……うん、分かった。潤ちゃん気を付けてね。あとついでに理子さんも」

「生存第一、任務は失敗しても生き残る主義なので心配無用ですよ~」

「理子はおまけですかそうですか」

 ひらひら手を振る俺といじける理子を心配そうに見ながら、白雪を含む三人は先程俺が空けた大穴から去っていった。

「さて。どうにかすると言われた以上、僕は大人しく引き返してもいいのかな?」

「別にここで決着付けてもいいのですよ?」

 予備の鉈(標準サイズ)を背中から取り出し構えるが、

「いやいやりなちー、ラスボスは一番奥に控えるのが通例ってもんですよ?」

「ゲーム脳も大概にしやがれなのです理子」

「いやいや、お約束というのは大事だよ。僕がラスボスかは置いておくけどね。

 それに、君を待っている人もいるのだからね」

「……待っている人?」

「懐かしい相手、と言っておこう。君の頭脳ならすぐ推理できると思うよ?

 ではアリア君、行こうか」

 シャーロックは壁に手をかざすと、何の前触れもなく崩壊した。お前も使えるのかよ二重の〇。

 そうして開いた穴の先、突如海から一隻の船が浮かび上がる。正確には船ではなく――原子力潜水艦だ。

「……」

 形成された氷のアーチ――ジャンヌと同じ系統の超能力(ステルス)だろう――を、シャーロックに手を引かれたアリアが進んでいく。途中一度だけこちらを見たが、何も言わず艦の中へ姿を消した。

「……わざわざ待つ必要あったのですかね」

「くふふ、言うとおりならりなちー待ってる人がいるんでしょ? それならここで教授を倒しても意味ないなーい」

「わざわざ従う義理はないのですがね~」

「それに、今アソコで戦ってもアリアん的には何も解決しないからね~」

「そもそも理子はイ・ウーにいたのですから、教授のことは知っていたのですよね?」

「それ言ったらりなちーもじゃないかな?」

 ……

『にぱ~』

 お互い笑顔で誤魔化した。

「まあ、その辺は追々アリアに怒られることにするのです」

「怒られることは確定なんですね分かります」

「怒られない未来があるなら教えて欲しいのです。とりあえず、アリアの救出とイ・ウー壊滅のために、行くのですよ~!」

「お~!」

 二人して腕を上げ、残っていた氷のアーチを渡ってイ・ウーに突撃する。会話は緩いが、俺達はいつもこんなもんだ。

 

 

「あ、中に侵入する前にいい加減着替えるのです」

「え~、もう鉈振り回してれば勝てるんじゃないかな? かな?」

「待ち人にスルーされるとかシュール展開を防ぐためなのですよ……」

 大体この格好、鉈しか使えんし。

 

 

 入口の適当な物陰で着替え(理子が覗こうとしたので壁に叩きつけておいた)、俺達は艦内に突入する。まず出たのは広いホールで、そこには恐竜の化石や鉱物、絵画や書物などがジャンルごとに並べられており、これらだけで小国くらいなら余裕で買えそうな量が保管されている。

「こりゃまた大したもんで。全部シャーロックが集めたもんか?」

「そだねー、教授は収集癖があるから色々なジャンルのものを取り揃えてるよ。多分これでも一部なんじゃないかなあ。

 ……ちょーと借りてもばれないよね? 」

「窃盗が犯罪なのと武偵三倍法が怖くないならいいんじゃね?」

「元犯罪者で大泥棒のりこりんに躊躇う理由はない!」

 そういやお前そういう家系だったな。手際よく金目のものと気に入ったものを(一生)借りていく理子を見ながら、俺は武装の点検をしておく。多分パクってるのシャーロックにはばれてるんじゃねえかなあ。

 三分も掛からずに必要なものをゲットしたホクホク顔の理子と先へ進む。途中『遊戯室』と書かれていた部屋には、家庭用・アーケード・PC版を問わず多数のゲームが置かれていた。というかほとんど日本製だった、イ・ウーいらんとこに力入れすぎじゃね? 『漫喫室』って言うのもあったけど、流石に予想できるのでスルーした。ギャグのつもりかその名前。

 それにしても、結構な距離を歩いてるのに未だ誰とも遭遇しない。理子の話ではイ・ウーのメンバーはかなりの数に上るはずなのだが。

「まるで船員だけ突然いなくなった沈没船だな」

「もしくは爆弾が仕掛けられて沈む直前の豪華客船みたいな」

「それ犯人お前だろ」

「テヘペロ☆ まあ皆逃げた後だろうね~。理子たちが行っても行かなくても、今日がイ・ウー最後の日なのかもな~」

「最後かは知らんが、全員逃げた訳ではないみたいだな」

 どこか思うところのある理子の言葉を否定し、俺は一つの扉の前で立ち止まる。中から人の気配がするからだ。

「お、この感じは~……あれ、ユーくんひょっとして知り合い?」

「ああ、よーく知ってるぜ。しばらく音信普通だったんだが、なるほどねえ」

 兄貴同様、ここにいたのなら連絡がないのも当然だろう。何か理子が意外そうに見ているが、別に俺だってイ・ウーの動向を全て知ってるわけじゃないからな?

「で、ユーくんどうするの?」

「そりゃまずは『ご挨拶』するのが礼儀ってもんだろうよ」

「おお、なるほど! 敵地での『ご挨拶』ならそれしかないね!」

「そーいうこと。じゃあ行くぞ、せーの」

『おっ邪魔しまーす!』

 台詞と蹴りがシンクロし、ドアは容赦なく吹き飛んでいく。無論中にいるであろう相手に向けて角度は調節してある。

 吹き飛んだドアはしかし、目標の手前で止まった。より正確には、止められた。

「相変わらずですね、理子。変わらず壮健なようで何よりです。

 そして――お久しぶりですね、潤」

 片手でドアを受け止めたまま、優美にこちらへ微笑んでいる同年代の女子。艶やかな長い黒髪を巫女のように緩く結い、女性にしてはやや高い身を包むのは藤色の、どこか毒々しい模様が施された和服。

 そこにいたのは、記憶にある通りの彼女だった。違いがあるとすれば眼鏡を掛けていないことと、成長して大人っぽくなってることか。白雪とは違う方向で、大和撫子に磨きが掛かってるな。

「おう、久しぶり。美人さんに磨きは掛かってるが、変わらず元気そうで何よりだよ、眞巳(マミ)

 そう言って彼女――中学時代のパートナー、須彌山眞巳(すみやままみ)に俺は笑い掛けた。なーるほど、こりゃ確かに俺向けの待ち人で、楽に通れそうにない相手だわ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 イ・ウー本拠地でかつてのパートナーと出会う少年。次回は彼の中学時代について語られる、かもしれない(ノープラン)
 シャーロックが喋っている間は、一応空気を読んで黙っていた。これでも一応場に合わせることは出来る。
 兄と一緒にシャーロックへ攻撃を行わなかったのは、倒せる確率が低かったのと無茶ばかりする兄を嗜めるため。義を通す彼の生き方を否定はしないが、無茶は止める。

 
神崎・H・アリア
 曾祖父に誘拐された今回のヒロインポジション。喋らないとヒロインぽいとかどういうことなの(困惑)
 現在、曾祖父に色々吹き込まれている模様。
 

峰理子
 自分が爆破しかけた客船をネタにする元犯罪者。なお反省しているかは――後のマスコミ達の騒ぎ方を見る限り、微妙なところである。
 イ・ウーの内部は熟知しているので先導していたが、明らかにツッコミ入れたくなる場所を経由して進んでいた。
 

星伽白雪
 金一の治療のため離脱。理由としては本編で言ったとおり、パトラだけでは金一の抑止力とならないため。


遠山金一
 シャーロックを追い詰めようとするも、弟に止められてしまう珍しく男の状態な人。今後一切ないかもしれない(マテ)
 原作なら心臓付近を撃たれていたが、本作では致命傷に至らなかったため自傷行為に走ってアゴニサンテを発動させた。結局潤に止められたので意味はなくなったが。
 
 
パトラ
 金一治療のため離脱。離脱後に本気で怒り、彼を戸惑わせる1シーンがあったとか何とか。
 
 
シャーロック・ホームズ
 ツインテール属性嫌疑を掛けられたイ・ウーリーダー。これでカオスな空気にならないのは長生きの賜物である(違)
 原作のシャーロックより少しお茶目な模様。まあ用意されている部屋を見れば、ねえ……
 

須彌山眞巳
 本作初登場のオリキャラにして、遠山潤の中学時代の相棒。前々から用意していたキャラだがまず思ったこと、名前が面倒臭い(オイ)
 
 
後書き
 という訳で、オリキャラの登場回でした。基本オリキャラ達は作者の趣味全開かネタ満載の二択になると思います。今回は前者、和服美人っていいよね!(何)
 次回は戦闘回になるかと思います。パトラ戦もそうだったけど、上手く書けるかなあ……しかもガチバトル予定なんで、ネタも挟めませんし……シリアス、シリアス、シリアル……(マテ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。

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