遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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作者(以下( ゚д゚))「という訳で、以前言っていた通り蒼沙様とのコラボ小説、開始でございます」
潤「その話いつ頃に上がったよ」
( ゚д゚)「……半年以上前ですかね?」
潤「よし、埋めるか。墓には『BAKA』って書いておくわ」
(; ゚д゚)「どこの鬼神様が来てたTシャツだよ!? 
 というかまず埋めるな、書けなくなるわ!」
潤「じゃあこのコラボ終わったら埋めるか」
(; ゚д゚)「とりあえず埋めるのヤメレ!?」

( ゚д゚)「……えー、コラボは四話+おまけの一話で構成する予定です。
 あと、潤は今回武偵ではなく、イ・ウーの所属です」
潤「正直、普通に武偵やってる方が違和感ありまくる」
( ゚д゚)「本編完全否定やん。
 まあ私も否定はしませんが。どう考えても悪属性ですし、こいつ」
潤「それな。あ、ところで作者」
( ゚д゚)「はい? なんです?」
潤「今回こっち側だし、『やっちまって』いいんだよな?」
(; ゚д゚)「……武偵法九条は守ってくださいね?」
潤「善処するわ」
(; ゚д゚)(アカンかもしれん)

蒼沙様の作品はこちら
作品名:緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-
URL:https://syosetu.org/novel/147165/





コラボ 二人の魔術師 第一話 二人のやり方

Side:水無瀬凪優

秘密結社『イ・ウー』が所有する潜水艦、ボストーク号。リーダーである『教授』に頼まれごとをされた私の気分は、憂鬱である。

何故なら私、水無瀬凪優は。呼ぶのを頼まれた相手、遠山潤という男が苦手だからだ。

 正確には私でなく、私の相棒がだが。

 

「はい終わりっと」

「ユーくんユーくん! 次なの〇のメドレー弾いてよ~」

「お前Black Fat〇のメドレーさせた後にそれリクエストする?」

「理子が自由なのはいつものことじゃろ。それよりトオヤマジュン。妾はお前のピアノの腕だけは見込んでいるので、アイマ〇を所望する!」

「意外とミーハーなの選ぶのな、パトラ」

「潤、そこはニーベルンゲン行進曲だろ!」

「この流れでブレずにナチス入党の曲を選ぶのは流石だと思うわ、カツェ。

 じゃあ間を取って、シンフォギ〇メドレーで」

「フー!」

「いやどこが間を取ってるの」

 

 全く関係のない選曲に、談話室(という名のバー)の入口で話を聞いていた私は思わずツッコミを入れてしまう。本人が流れをぶった切ってるでしょ、これ。

 

「お? おおーなゆなゆ、ここではおひさー! どしたのどしたの、理子に会いに来てくれたのー」

「……」

「パトラが無言で引いてるんだが」

「ボコられたのがトラウマになってるんじゃねえの?」

「ちち、違うわ! 妾はいずれ世界を統べるファラオじゃぞ!? あんなことされたくらいで脅えたりはーー」

「ーーへえ?」

「ぴぃ!?」

 

 飛びついてくる理子を適当にあしらいながらパトラに流し目を送ると、変な悲鳴を上げて爆笑しているカツェの後ろに隠れてしまった。冗談のつもりだったんだけど。

 

「いや氷漬けの状態からかき氷よろしく足から削られていったら、誰だってトラウマになるだろうよ」

「そんなことしてないし、する気もないけど!?」

「お主そんなことするつもりだったのか、ジュン!?」

 

 私でもドン引くような所業を平然と騙る彼に思わず二人で叫ぶも、当人は笑いながら「冗談だよ、冗談」と言っている。笑えねーよ(真顔)

 

「で、主戦派(イグナティス)の俺に何の用よ? イ・ウー研鑽派(ダイオ)の水無瀬さん」

「理子もいるけど?」

「こいつはどこにでもいるだろ」

「それは確かに」

「理子は理子の行きたいところに行くのだー」

 

 それ気紛れってだけでしょ。

 

教授(プロフェシオン)が呼んでる。潤、一緒に……何、その顔」

「いやめんどくせえなって」

 

 そんな気はしたけど、口に出さなくていいから。

 

「いや、お互い言うことが推理と予測で分かってるんだし、様式美以上の意味がないなーって「下半身凍らせて無理矢理連れて行こうか?」

へい行きます」

 

 両手を上げてピアノから離れる潤。うん、素直でよろしい。

 

「えーユーくーん。言ったんだからシンフォメドレー弾いてよ~」

「自動演奏用の魔術式ピアノに入れたから、それで聴いて「逝ってヨシ!」お前覚えてろよマジで」

 

 いい笑顔で告げる理子に、三流悪役みたいなセリフを吐きつつ部屋を後にする潤。出る際に両手で中指立ててるのが、よりアホっぽいかな。

 

(……キンジとは別の意味で、変なやつだなあ)

 

 小さく溜息を吐きながら、私はその後を追う。自由すぎるだろ、こいつ。

 

 遠山潤。私、水無瀬凪優のルームメイトである遠山キンジの義理の弟であり、世界中への侵略行為を是とするイ・ウー主戦派の参謀と呼ばれている少年。

イ・ウーには私と入れ替わりで入学しているおり、高校もキンジと違い神奈川武偵校へ進学したため、面識はほぼない。名前で呼んでいるのは、苗字だとややこしいからだ。

 

「やあ潤君。君が凪優君にゴネた時間も含めて、僕の推理通りだね」

「ゴネるの分かってるなら呼ばなきゃいいでしょうに。

 というかしょうもねえこと推理してるあたり、暇なんですか教授?」

「なんでも推理してしまうのは、僕の悪い癖でね」

「それ別の探偵ですらない警部のセリフでしょ」

 

 艦長室に入るなり嫌味を飛ばす潤に対し、笑顔であっさりと受け流す教授ーー武偵の始祖と呼ばれる名探偵、シャーロック・ホームズ。

 

「凪優君、連れてきてくれてありがとう。僕が呼んでも潤君はサボタージュするからね」

「……」

「そんな子供か、みたいな目で見られても」

「子供か」

「口に出したよ。いや、顔合わせるとめんどくせえんだもん教授」

「子供か」

「二回言ったよ」

 

 合理的と言ってくれ。そう言って肩を竦める潤だが、無視して相手に労力を割かせる時点で合理的とは言えないだろう

 

「うん、仲が良いのはいいことだ。

 さて、本題に入ろうか。

僕の曾孫、アリア君と『緋色の研究』についてだがーー」

「大っぴらな干渉はしませんよ、俺は。アンベリールの一件で、表向きは死亡したことになってますし、消極的で行きますわ」

 

 シャーロックの言葉に被せて潤が自分の立場を告げ、懐から煙草を取り出す。これ以上言うことはない、というポーズだろうが。

 

「……今、潜航中なんだけど? あと潤、キンジと同い年なんだから未成年でしょ」

「煙草じゃなくて自作の魔導具だから、環境的にも年齢的にも問題ねえよ」

 

指から魔力の炎を出して火を点け、咥えたまま壁に背を預ける。吐き出される紫煙は確かに無味無臭だが、そういう問題ではないでしょうに。

 

「ふむ、まあ潤君はそうだろうね。

 では凪優君、君はどうだい?」

 

 教授は特に気にした様子もなく、視線を私に向けてくる。いや止めてくださいよ。

 

「……私は、『武偵として』関わっていきます。『緋弾の研究』を引き継ぐ以上、ウチの誰かとは関わるでしょうし、彼女一人では無茶でしかありませんから」

 

 もちろん、誰がどう来るのか事前に分かっていれば対策の立てようもあるがーー名探偵から情報を引き出すのは、探偵科(インケスタ)を専攻している訳でもない私には不可能だろう。

 

(まあ……)

 

横にいる参謀と呼ばれるこの男なら、別かもしれないが。

当の本人は視線を向けられても、上を向いて煙草モドキをふかしていた。絶対気付いてて無視してるな、これ。

 

 笑顔の教授を背に私達は艦長室を出て、艦内の廊下を横並びに歩いていく。部屋から出た瞬間潤はタバコモドキの火を消していた。多分話早く終わらねーかなーとか思ってたのだろう。

 

「……」

「なによ? 野郎の顔なんか見ても仕方ないだろうに」

「男でも、美形なら別なんじゃない?」

 

 嫌味のような言い方になってしまったが、事実としてこの男は美少年と呼べる類だ。

 端正と呼べる整った顔立ちに、細身だが引き締まった肉体。

服装はあちこちにアクセサリーと装飾が施された、黒と赤を基調としたいわゆるビジュアル系と呼ばれる派手なものだが、違和感なく着こなしている。

そして何よりの特徴は、肩口まで伸ばした癖のない髪と、やや鋭いが涼しげな印象を与える、切れ長の瞳。この二つが『血を連想させる暗赤色』であり、派手目の服装によく合っている。

 

 もっとも、当人は自覚がないのか興味がないのか、

 

「ふうん。じゃあ俺は対象外だな」

 

 視線を前に向けたまま、どうでも良さそうな口ぶりである。武藤が聞いたら、泣きながらキレそうね。

 

「そういや水無瀬さん、キンジは元気? また女引っ掛けてる?」

「義理の兄を何だと思ってるの」

「金一の兄貴共々、無自覚でも自覚してても女難の相が取れない半永久モテ期」

「……何も間違ってない、とは言わないでおくかな。

 まあ、元気と言えば元気。「アイツが死んだことで凹んでたら、生きてようが死んでようが指差されて笑われる姿が想像できて腹立つ」っていうよく分からない理由で、依頼も訓練もこなしてるよ」

「流石キンジ、よく分かってる」

「性格悪いって言われるでしょ」

「鏡いる?」

「どういう意味だコラ」

 

 殺気と冷気を合わせて纏い睨み付けてやると、大袈裟な動きで下がってから両手を上げて、降参のポーズ。

 

 

「冗談だっての。イ・ウー最弱の名を欲しいままにしている奴を、そんなに脅すなよ」

「……それ、あなたが同期に技術を教えてるからでしょ?」

「お陰で全員にごぼう抜きされたわ」

「自業自得じゃん」

「違いねえ」

 

 かははと笑う潤。超えられたことを気にした様子はないが、それはそれでどうなのだろう。

 この男、教えるのは凄い上手いけど、本人の力量は微妙(教えられたジャンヌ曰く、「武芸も超能力も一流と呼ぶには程遠いな」とのこと)らしいので、育てた相手が簡単に自分より強くなる、という状態になっているらしい。

 理子曰く、「ユーくんは何でも惜しまず気にせず教えてくれるんだぜー」らしいし。

 

(……まあ、こうやって話してると)

 

 感じる印象は肩肘を張らず、気楽に話せる相手という感じだ。ちょっと軽薄な感じはするけど。

 少なくとも、必要以上に警戒する相手ではない、と思う。そういう演技なのもかしれないのは、否定しきれないけど。

 

「〈……〉」

 

 だというのに、私の中にいる相棒、瑠璃ーー色金の末っ子、瑠璃色金は、顔を合わせた時からずっと、彼を睨んでいる気配を感じる。

 

「(……何をそんなに警戒してるの、瑠璃?)」

 

 潤には聞こえないよう、自分の内側に潜む瑠璃に語り掛ける。極度の人見知りだが、超々能力(ハイパーステルス)を操れる色金である彼女は、必要以上に身構えることはないはずなのだが。

 

「〈……別に、警戒してないよ。ただ〉」

「(ただ?)」

「〈こいつが、気に入らないってだけ〉」

「(……なにそれ)」

 

 あまりにも子供っぽい理由に、肩の力が抜けてしまう。

 生理的に無理とか、そういうのだろうか。感覚を共有しているはずなのに、どうもよく分からない。

 

「〈ずっと視られてるような、知っていて無視されるような……とにかく、見られてるようで嫌になる。凪優も感じないの?〉」

「(……まあ、視られてるのは間違いないだろうけど)」

 

 そんなに気にするほどだろうか。私が内心首を傾げていると、潤はこちらに視線を向け、オーバーリアクション気味に肩を竦める。

 

「随分嫌われたもんだなあ。まあ二人一緒ってわけじゃないし、中の人から無条件に襲われないのは幸運かね?」

「……人の心を読むのはどうかと思うんだけど?」

「読んでねえよ、『予測』しただけさ。死ぬのは勘弁だしな」

「私は今、武偵なんだが?」

「治外法権のイ・ウー(ここ)で、遵法精神を持ち合わせる必要はないだろうよ。

 あんた達がその気になれば、俺なんか一捻りで海の藻屑にクラスチェンジしちまう」

「人を殺人狂(サイコパス)みたいに言わないでくれる? 私は普通の感性だよ」

「ふむ。普通、普通ねえ」

「……何?」

 

『普通』という言葉の何が面白かったのか、含み笑いをする潤を胡乱げな目で見つめていたが、

 

「いや何、どこかの『最悪』が言ってたんだがな? 普通ってのは『常人の平均より劣っている状態』、らしいぞ?

 つまりだ、水無瀬さん。俺みたいな凡百の輩ならともかく、あんたは人格面において他人より劣っていると自称してるようなもんだがーー

 そこんところ、どうなんだ?」

「ーー何? 喧嘩売ってるのアンタ?」

「いやいや、ちょっとしたアドバーーげぺ!?」

 

 ーーいけない、脅しのつもりが凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)を発動させてしまった。お陰で間抜け面の氷のオブジェが出来ちゃったけどーー

 

「(まあ、いいか。自業自得だし。

 瑠璃が気に入らないって理由、分かった気がする)」

「〈いや、こういうのじゃないんだけど……〉」

 

 瑠璃が何か言ってるけど、凍り付かせて少しスッキリしたので、そのままにしておくことにした。

 

(……まあ、普通って言い方はやめておくかな)

 

 次からは、真っ当な性格とでも言えばいいだろう。それはそれで、凍らせたこいつにからかわれる気がするけど。

 

 余談だが、放置していた潤は通りがかった仲の良い同期に助けられたらしい。帰る前に寄った予算会議で、普通に進行役としてメイドのリサと一緒に喋ってたからね。

 

 その際、限界まで値段を削られて魂が抜けていたココに、何やら個人的な『補填』をしてやたら感謝されていたけどーー好物のお菓子とかあげれば復活するでしょうに。

 

「……短気は損気、って言葉があるんだけどなあ。まあ、俺がどうこう言うことじゃねえか」

 

Side:遠山潤

「ーー動いたなあ」

 

 水無瀬凪優と邂逅して、約一月後。俺は現在、イ・ウーから東京に一人で移動していた。

 

 銀髪にワインレッドアイの美人さんが武偵校の制服着てるからすげえ目立つし、監視する側としては楽だね。

 

「人数は……二人、いや二人か? まあ人型だし、二人でいいか」

 

 狙撃用のスコープ越しに相手ーー水無瀬凪優とその相棒、実体化した瑠璃神を観察する。

 トヨタFT86 GT Limitedーー随分いい車で二人が向かうのは、羽田空港。爆弾魔の『武偵殺し』、犯人の目処がついているからこそ、先に潜入してホームズの曾孫とパートナーであるキンジを、サポートするつもりなのだろう。

 

「でも、それじゃあ困るんだよ」

 

 先のバスジャックも合わせて、過度の干渉は成長の妨げになる。それに、

 

「順調に進むだけじゃ、面白くねえしなあ?」

 

 口の端が吊り上がっているのを感じながら、HK417の照準を前輪に向け、鉛弾が吐き出される。

 殺傷圏内(キリングレンジ)である1200mなら、動的対象でも狙うのは難しくない。

 だが、狙撃銃としては威力不足の7.62mm弾では、防弾性のタイヤを貫通するのは至難だろう。

 普通の弾種であれば、だが。

 

 着弾した瞬間、派手な爆発音と衝撃が発生し、車体を軽く浮かび上がらせる。やっぱ引くくらい爆発するな、炸裂弾(グレネード)

 

「おし、停止っと」

 

 炸薬量は減らしたので、防弾製である車の内部までダメージは及んでないが、タイヤは吹き飛んだし、運転するのは無理だろう。

 

『いたた……なんなの、もう。凪優、大丈夫?』

『つう……大丈夫、エアバッグ起動したから。

 ああもう、やってくれるよね遠山潤。干渉は消極的で最小限、って言ってた癖に』

『それは『緋色の研究』の継承者である神崎・H・アリアに対してであって、あなた達は範疇外です、っと』

『……ご丁寧に、刺客まで用意してるってわけ』

 

 爆風で歪んだドアをこじ開けて出てきた水無瀬凪優は、信号機から飛び降りてきた、白髪碧眼の女性を睨み付ける。おっかないねえ、殺意増し増しじゃん。

 白の女性に付けてもらったマイク越しに三人の会話を聞きながら、俺は再び狙撃の体勢に入る。

 

『初めまして、水無瀬凪優さんと瑠璃神様。

 ……ああ、研鑽派の『魔術師』殿と呼ぶべきでしょうか?』

『……今の私は武偵よ、その名前で呼ばないで欲しいね。

 それで、あなたは誰? 『魔術師』の名前を知ってるってことは、イ・ウーの人間でしょうけど』

『はい、ボクはイ・ウー主戦派の一人、西儀天音(さいぎあまね)です。水無瀬さんが休学後に入ったので、知らないのも無理はないかと』

『随分簡単にばらすんだね』

 

 瑠璃神が目を細めつつ、宿主と同じように臨戦態勢となる。

 

『潤さんから、正体を明かしても別に構わないと言われてますので』

『……やっぱりあいつが関わってるか。じゃあさっきの狙撃もそうだよ、ね!』

 

 喋りながら、水無瀬さんは腕を振るう。

 その手から出現したのは、17本の氷の矢。鋭利な先端は右上ーー俺がいる屋上のに向けて、真っ直ぐ飛んでくる。

 

「おーやや、バレてたか。こわいこわい」

 

 軽口を叩きつつ、HK417を掃射。フルオートで放たれた17の弾丸は、迫りくる氷の矢を狙い違うことなく打ち砕く。

 

「ざーんねん、あたらなーー」

 

 リロードしながら喋っていた時、先程砕いた氷がこちらへ飛んできて、俺の周囲を漂っていた。

 

氷爆(ニウィス・カースス)

 

 魔術式を宣言し、視線だけこちらを見てきた水無瀬さんの目はーー笑っていた。

 

「……矢はブラフ、本命はこの氷の微粒子ってわけか」

 

 やるねえ。そのつぶやきは、冷気を纏った爆発音にかき消された。

 

 

Side:水無瀬凪優

 天音と名乗った女性を見つつ、私はビルの屋上ーー潤がいるだろう場所で爆発が起こるのを確認した。長距離攻撃だから上手くいくか不安だったが、あの様子なら問題ないね。

 

「どう、瑠璃?」

「……うん、気配は消えた。詳細は分からないけど、しばらくは動けないはずだよ」

「そっか、それは重畳。

 さて、西儀さんだっけ? 狙撃手は潰したんだし、大人しく降伏してくれたら痛い目見なくて済むけど?」

「……ふふっ」

 

 私の警告に対し、天音は着ている和服の袖口に手を当て、含み笑いを漏らす。

 

「……何笑ってるのさ」

「いえ、大したことでは。一人倒したくらいで有利を確信しているのが、おかしくておかしくて……」

 

 クスクス、と余裕ぶった笑い声をあげる彼女に、私は眉を寄せる。不愉快だが明らかな挑発だし、誘いに乗ってやる気はない。

 

「へえ、まだ私達に勝てる気でいるの?」

「さあ? それはどうでしょうね。ただーー」

 

 天音が口元を抑えるのとは反対の手を広げると、真横に『穴』のようなものが出現し、中から身の丈以上の長さを持つ、大鎌が這い出てきた。

 

「潤さんに『お願い』された以上、ボクに断る権利はありませんし、断る気もありませんから」

 

 大鎌を両手で抱えるように握る彼女の目は本気で、退く気はないようだ。

 

「……なにあなた、潤に脅されでもしてるの?」

 

「(瑠璃、一度戻って。あと、第一形態開放準備)」

「〈おっけー、あと十秒で準備は整うよ〉」

 

 会話で時間を稼ぎつつ、瑠璃との融合準備を進めていく。天音は気付いていないのか、形のいい眉を僅かにしかめ、

 

「脅す? 潤さんはそんな非効率的なことはしませんよ。

 ……これは地獄のような状況から救ってくれたあの人への恩返しであり、ボクの意志です。

 ええ、もし潤さんが命じるなら、この命だろうと喜んで捧げましょう。

 例え万人が、いえ、潤さんが命の尊さを訴えようとーーボクにとって、彼の『お願い』は何よりも優先され、幸福なことなんですから」

 

 何の迷いもなく言い切る姿は、狂信者のそれに近いものを感じさせる。

 ……自分の意志だとしても、遠山潤は人を狂わせてるね。

 

「そう。じゃあそのお願いとやらはーー達成できないな!」

 

 瑠璃との『心結び』が終わった私は、叫びながら小太刀二刀を構え、突進する。

 それに反応して、天音も構えを取るがーーその動きは、瑠璃と心結びを行った私に比べ、明らかに遅い。

 

(もらっーー)

 

「!?」

 

 あと一歩というところで、強化された聴覚が左側からの音を感知し、

「ちいっ!」

 

 咄嗟に持ち替えた拳銃、マテバオートリボルバーを片手撃ちし、飛んできた7.62mm弾にぶつけて弾く。

 

「〈ど、どういうこと!?〉」

「(瑠璃、状況説明!)」

 

 狼狽した様子の瑠璃を落ち着かせるため、敢えて強めの口調で説明を促すが、

 

「足を止めるのは、悪手ですね」

「くっ、この!」

 

 銃撃の間に迫ってきた天音が、上段から鎌を振るってきたので、残った小太刀によって受け流す。

 思ったとおり、格闘戦では私の方が遥かに上だが、

 

「ああもう、鬱陶しい!」

 

 確実に当たる一撃を振るおうとしたその瞬間、今度は真正面、天音の後ろから飛来した弾丸に妨害される。

 

「〈凪優、あいつの気配がそこら中からする!

 1、2……9!? ちょうど私達を囲んでる形!〉」

「(はあ!? 何あいつ、分身でも出来るわけ!? 何でもありか!?)」

 

 

 

Side:遠山潤

「何でもは出来ねえよ、出来ることだけだ」

 

 どっかの委員長キャラみたいなことを言いつつ、天音さんに迫る剣戟に対し、あと一歩のタイミングで迫ったところで支援射撃。水無瀬さんの動きを止めることを徹底する

 

「さて、もう隠れる必要はなくなったし。遠慮なくいきますか」

 

 気配遮断をやめ、再びHK417を構える。

 俺が魔術で用意した分身は、思考力はそのままのため、独自の判断で動ける。自分だから連携を取るのも容易だ。

 

 別方向からの分身が、水無瀬さんが放った銃弾を再び叩き落とす。この戦法、ストレス溜まるって中々の評判なんだよな。

 

「さてさて、本物の俺はどこでしょーか?」

 

 笑いながら、再度HK417から鉛玉が吐き出された。何人目で当てられるかな?

 

 

 

Side:水無瀬凪優

「この、くたばれ!」

 

 銃弾の方向から位置を割り出し、逃げられないよう氷瀑で吹き飛ばす。これで四人目、確実に潤の分身を減らしているけどーー

 

「はっ! ーーぐっ……!」

「また一歩届かず、ですね。疲れてきたのでは?」

「言って、ろ!」

 

 天音の一撃を避け、攻撃ーーしようとしたところで、またも後方からの妨害射撃。集中も途切れてしまい、魔術は霧散してしまう。

 

「くそ、本当にうざったい……!」

 

 攻撃が命中する瞬間、魔力を集中させて放とうとした瞬間。確実に妨害の狙撃が入り、こちらの手を潰してくる。

 

 ここまで戦ってると、相手の目的も見えてきた。これは私を倒すというより、

 

「〈凪優、ペース落として! このままじゃ保たないよ!?〉」

「(分かってーーああもう!)」

 

 大鎌による横凪の一撃を避けてすぐ、追撃の銃弾。瑠璃に言われたばかりだが、足に超能力を回して大きく跳躍し、距離を取る。ほぼ密着状態からでも正確に私だけを狙って技量は凄まじく、性質が悪い。

 

(ジャンヌの奴、どこが一流には程遠いだ!)

 

 内心でイ・ウーの同期を罵倒しつつ、間合いを空けて呼吸を整える。今のところ状況は互角かやや有利だが、消耗を強いられている以上逆転は時間の問題だ。

 

「は、あ……」

 

 妨害のための狙撃によるストレス、心結びによる消耗、そしてーー

 

「ーーっ!?」

「『音』が効いてきましたね」

 

 天音が使っている大鎌から聞こえる、甲高い風のような音の不快感。これが、私の動きを鈍らせる。

 先程考えたけど、こいつらの狙いは消耗を強いること。だからこそ、短期決戦で決めたいのだが、

 

「この、ちまちまうざったい……!」

 

 何度目か分からなくなるくらい受けた狙撃での妨害。変わらず続く嫌らしい手口に、思わず苛立ちの声を上げつつ拳銃を構えーー

 

 

「そうかい。じゃあ一気に決めようか」

 

 

 その声は、突如後ろから聞こえた。天音から距離を離していた私は、思わず振り返ってしまう。

 

「〈!? 嘘、気配は減ってない……最初から隠れて……!?〉」

 

 瑠璃が感知したとおり、三歩ほど後ろで笑いながらUSPの銃口を向けている潤は、狙撃をしていたどれとも違うものだ。

 背後を取られるという致命的な状況ーー

 

(……ん?)

 

 だったが、ふと、彼の動きに違和感を抱く。

 

「じゃあさよなーーぷげ!?」

 

「は?」

「〈へ?〉」

「ーーえ?」

 

 故に私は回避でなく、振り向く勢いのまま小太刀を振るいーー柄がにっくきアンチクショウの鼻っ柱にクリーンヒットした。

 心結びで通常より速度の乗った一撃をまともに喰らい、潤は受け身も取れず吹っ飛び、電柱に激突する。潰れたカエルみたいになったぞ、ナニコレ。

 

「……潤さん、何やってるんです?」

 

 天音が明らかに演技ではない呆れた様子ながら駆け寄る姿を、私は心結びで昂った動悸を鎮めつつ、推測を口にする。

 

「……もしかしてあの分身、自分のスペックを割くものだった?」

 

 そう予測を立てる。幾らイ・ウー最弱を自称してるからって、さっきの動きは並の武偵かそれ以下の動きだったし。

 

「〈ええ……バカなの?〉」

「(私もそう思う)」

 

 さっきまで焦っていた瑠璃も、間抜けな急展開に困惑している。何この空気。

 

「おおお、鼻骨完全に折れてやがる……」

「……とりあえずティッシュを。潤さん、見せられる顔じゃないですよ」

「いやそれじゃ治らんから。とりあえず止血用には欲しいけど」

 

 ゴキン、とやたら痛々しい音を立てて折れ曲がった鼻の位置を自分で元に戻す潤。戻した勢いで余計溢れてきたけど、鼻血。

 

「うわあ」

「引くなよ」

「いや引くでしょ。今最高にカッコ悪いけど、あんた」

「格好つけて死ぬくらいなら、多少の恥は許容すべき」

「今のあんたの状態だと、説得力が凄いわね」

 

 女子に介抱されながら鼻血拭ってるとか、間抜けにもほどがある。完全に鼻声だし。

 

「〈……あ、凪優。周りの分身が消えたよ。多分、治療のために魔力足りないから、戻したんじゃないかな〉」

「(……自分から有利な状況捨ててない?)」

「〈だねえ……バカかな?〉」

「(頭のいいバカってやつだと思う)」

 

 もう戦う雰囲気じゃなくなり、瑠璃とそんな雑談を交わしていると、やっぱり聴き取れてるのか潤はジト目を向けてくる。いや事実でしょ、というか人の会話(心中)を覗くんじゃない。

 

「とりあえず、器物損害と傷害罪諸々で逮捕するから、大人しく連行された方が身のためだよ?

 あと車は弁償してもらうから」

「弁償の方がガチボイスな件」

「潤さんのせいで不利になりましたけど……どうします? ボクじゃなくて、潤さんのせいで」

「二度言わんでいいわい、知ってるから。

 目的達成したし、逃亡一択でーーえちょっと天音さん、何故俺はお米様抱っこされてるんです?」

「潤さんに合わせて逃げるより、魔術込みならこっちの方が速いので」

「事実だけど言われたくなかったなあ」

 

 女子に担がれる男子という、大変間抜けな構図にため息を吐きつつも、抵抗する様子はない潤。コイツにプライドはないのだろうか。

 まあ、当然だけど、

 

「逃がすと思ってる? 氷槍(ヤクラーティオー)ーー」

「逃がして欲しいねえ」

 

 足止めをしようとした矢先、抱えられた状態の潤がUSPを向ける。引鉄に掛けた指の動きは分身が消えたためか、先程の比ではない。

 

(でも、同時なら問題ない)

 

弾雨(グランディニス)!」

 

 発砲と同時、詠唱を終えると先程の氷の矢より一回り以上も大きい、槍と言えるサイズの氷塊が、二人に向けて猛然と迫る。

 

進路上の9mmパラベラム弾と氷の槍が対峙し、衝突ーー

 

次の瞬間、銃弾から暴力的な光が放たれ、視界を潰してくる。

 

「うっ!?」

「〈うわ、まぶし!?〉」

 

 反射で目を閉じながら、自分の失敗に歯噛みする。武偵弾は最初に使われていたというのに……!

 

「それでは、次回の公演をお楽しみにー」

 

 ふざけた言葉の後、銃声。音は一発だったが、空気から感じられる銃弾の数は六発。キンジが言っていた、十八番の速射(クイックドロウ)か。

 

 視界を潰されながらも小太刀で全弾叩き落としたため無傷だが、逃げるだけの時間は与えてしまった。

 

「(瑠璃、追うよーー)」

「〈ううー、まぶしい、まぶしいよお……〉」

「……」

 

 ダメだこりゃ。目を抑えてうずくまってる姿が容易に想像できる瑠璃のセリフに溜息を吐き、心結びを解除する。

 

「〈うー、ようやく普通に見えるようになってきた……凪優は大丈夫?〉」

「(平気、咄嗟に庇ったから)。

 追跡は……無理か」

 

感じられる二つの気配は、随分遠ざかっていた。瞬間移動なら追いつけるかもしれないが、減っている魔力をさらに消耗してしまうし、待ち伏せされているかもしれない以上、リスクは避けるべきだろう。

 

「〈逃げられちゃったね……それにしても遠山潤、本当にふざけたやつ!〉」

「(でも、少し厄介だ。次は最初から潰す気でいかないと)」

 

 瑠璃が憤っている中、私は顎に手を当て先程の戦闘を振り返る。

 今回のように消耗を強いられる戦いを避けるには、やはり短期決戦が一番だろう。ダメージは大したことないが、心結びの消耗が思ったより激しく、全力の戦闘は一日は無理だろう瑠璃も既に眠たそうな気配を感じるし。

 

(『武偵殺し』の一件、予定変更しないとかな。正面からじゃなくて、変装して先に侵入しておいて……)

 

「……っと。ようやく来たか」

 

遠くから響く、サイレンの音。あれだけ銃声どころか爆発音も響いていたのに、随分な重役出勤である。

 

「〈あー、それは……結界、じゃない、かなあ……〉」

「(結界? ……ああなるほど、さっき感じてた違和感はそれか。

 瑠璃、何か痕跡とか……瑠璃?)」

「〈くー……すぅ……〉」

(……もう寝てるし)

 

 脳内で響く寝息に、私も疲労が蓄積しているのを感じてしまうため眠った瑠璃を羨ましく感じてしまう。

 だが、文句も言っていられない。とりあえず警察との面倒な接触を避けるため、私もここから立ち去ろうとーー

 

「……あ」

 

 するも、前輪が吹き飛ばされ、焦げた状態で放置されているFT86を思い出した。

 直撃部分は基盤が歪んでいてすぐ直せる状態じゃないし、置いていこうにもナンバープレートがあるから、特定は容易いだろう。

 

「……遠山潤。ぜっっったいに捕まえて弁償させてやる」

 

 とりあえず捕まえたらOHANASHIだ。停車するパトカーから余計時間を喰わされることが決定した私の姿は、出てきた警官が怯える程度には不機嫌だったという。

 

 

Side:遠山潤

「おーいて、容赦なく殴ってくれやがって」

「あれは無茶無謀に出てきた潤さんが100%悪いと、ボクは思います」

「殴った方が悪いって言わねえ?」

「それは時と場合によるでしょう」

 

 ごもっともで。でも優しくしてもバチは当たらんと思う。意味はないけど(オイ)

 

 天音さんと一緒に、もとい担がれて辿り着いたのは、武偵校周辺に用意したセーフハウスの一つ。イ・ウー内でも存在を知るのは主戦派の極一部だけだから、連中か推理した教授が水無瀬さんにチクらない限り、バレることはないだろう。

 

 折られた鼻を魔術で治している間に、一応周囲の警戒をしていた天音さんは不審な目を向けながら口を開く。

 

「そもそも、あの時反撃されるのは潤さんなら予測できたでしょう? わざわざ声まで掛けて気付かせた(・・・・・)んですから、寧ろ殴られたくらいで済んだのは幸運かと」

「殴られる以上があったと」

「氷漬けくらいはあるでしょう、彼女なら十分に。

 そもそも、今回の襲撃がボクには分かりません。水無瀬凪優と瑠璃神の情報は十分に集めているのに、中途半端な準備しかしなかった上、今後相手に警戒させるような真似をしたのは何故ですか?」

 

 本気で理解できない、と首を傾げる天音さん。

 確かに味方であり、俺の性格を知っている彼女からすれば、今回の襲撃は無駄にすぎると感じても、不思議ではない。

 

 HK417のリロードと簡易点検を行いながら、俺は天音さんに向けて指を二本立てる。

 

「理由は三つ。一つ目は『緋弾の研究』において、水無瀬凪優の脱落を教授が認めていないから。

 だけど二つ目、アリアとキンジだけでの実力、コンビネーションが現時点でどの程度か、俺が見たかったから。今回の襲撃が妨害と消耗メインなのは、これが一番の理由だな。

 そんで三つ目は、水無瀬さんがどの程度の実力者なのか、実際に目にしておきたかったから」

「……それだったら、ボクだけに戦闘を任せても良かったのでは?」

「実体験は大事さ。情報だけで高みの見物を決め込んでいると、いつか足下を掬われちまう。

 ま、今回で水無瀬さんの戦闘スタイルは、おおよそ掴めたしな」

「…………」

 

 ちゃんと説明したのに、天音さんの疑惑は取れない様子だった。あれれー、ちゃんと説明したのにおかしいぞー(棒)

 

 横からの視線をしばらく感じていたが、諦めたように溜息を吐いてから、ソファーの横に座る。近い近い、なんですり寄ってくるのよ。

 

「……潤さんがそう言うなら、これ以上は聞きません」

「いや、聞きたいなら納得するまで話すけど?」

「納得するのと情報を開示するのは別でしょう? ならボクは、これ以上無駄なことはしません。素直に休みます」

「そうかい。じゃあ俺はもう一仕事行ってくるから、天音さんはここの防衛と撤退の準備頼みます。明日の夜までには帰ってくるんで」

 

 HK417の整備を終えた俺は立ち上がり、着替える準備をする。といっても、上着とあるものを付けるだけだが。

 

「しかし、二日連続で精力的に仕事をこなすとは、ワーカーホリックみたいだわ」

「世のブラック企業勤めが聞いたら殺されますよ、それ」

「日本人は働きすぎなんだよ。ブラック企業を全部滅ぼして、新しくホワイト企業作った方がこの国のためだろ。

 ……いっそ誰か焚き付けるか、今の業務体形は非合理だし」

「潤さんが言うと冗談に聞こえませんね。まあいいことなのかもしれませんが。

 それで、今度どちらにお出かけですか? 必要ならボクも護衛として付いていきますが」

「いや、顔合わせと様子見だけだから今回は平気」

「……潤さん、完全に悪人の顔になってますけど」

「悪人だよ、少なくとも今から会おうとしてる奴にとっては、な。

 さてさて、情報は見ていたがーー二年の成果は、どこまで実を結んでるかね?」

 

 間宮あかり。標的の名をつぶやき、俺はセーフハウスを出る。

さあ、どれだけ足掻けるのは見せてくれよ? 間宮の曙座の後継者さん。

 

 

 

Side:間宮あかり

「やった……!」

 

 アリア先輩に今回の作戦、『AA』を託された、因縁の夾竹桃との戦い。

 

私の『鷹捲』は、M134(ミニガン)を伝って持ち主の夾竹桃に届き、パルスの電流が彼女を襲う。古文書を見て毒と思っていたみたいだけどーーまあ、ある意味では間違っていないのかもしれない。

 

「ーーーー」

「ーーあっ、まずい!?」

 

 頭から水面へ落下していく夾竹桃に、私は焦りの声を上げる。武器越しとはいえ、鷹捲のダメージで動くことの出来ない彼女を放置すれば、溺れちゃう。

 

 私は慌ててレインボーブリッジから飛び降りようとしてーー違和感に気付いた。夾竹桃が落ちていく水面、そこが小さな渦を作っていることに。

 

「な、何……?」

 

 思わず足を止めると、夾竹桃が水面に叩きつけられる直前、大きな水しぶきを上げながら出てきたのは、

 

「く、鯨ぁ!?」

 

 全長10メートルほどの、黒い鯨。予想外のものが出てきて思わず叫んでしまった。いや本当にどういうこと!?

 

 混乱しながら見ていると、夾竹桃は鯨の上に落ちるが、目立った外傷は無いようで安心した。

 

幾らののかに符丁毒を打ち込み、志乃ちゃんを傷つけた憎い相手とはいえ、死んでいいとは思っていなーー

 

「ーーーーっ!?」

 それに気付いた瞬間、息が詰まる。思考も瞬きも忘れ、視線はただ一点に固定された。

 

 倒れた夾竹桃の近く、鯨の上に乗っていたもう一人。左右対称に八つの黒い穴が開いた、奇妙なデザインの白い仮面をこちらに向け、全身を黒いローブに包んだ、正体不明の男。

 

「……っ」

 

ギリ、と奥歯を強く噛みしめる。そうでもしないと、理性を振り切って襲い掛かってしまいそうだからだ。

 

 

 

 思い出すのは、二年前の茨城での光景。間宮(私達)の実家が焼かれていき、夾竹桃に毒されるののかと、見ていることしか出来なかった私を睥睨する、あいつの視線。

 

『事が済んだ以上用済みだ、捨て置け。毒された以上、どうせ死ぬ』

『……脆いな、間宮一族。期待外れだ。策一つ弄するだけで、公儀隠密の末裔もこの様か』

 

 炎の中で紡がれた、興味も関心もない冷めきった言葉。夾竹桃がイ・ウーと呼んでいた連中をけしかけた、元凶。

 

 

 

火掻(ひかぎ)ぃ!!」

 

 あらん限りの感情を込めて、仲間に呼ばれていたあいつの名前を叫ぶ。

 今、あたしはどんな顔をしているんだろう。志乃ちゃん達には、見せられないだろうな。

 

『久しいな、間宮あかり。壮健そうで何よりだ』

 

 あたしを見上げるあいつの声音は、二年前と変わらない。男か女かも分からない、不自然なノイズがかったもの。

 分かるのは、言葉に何の感情も込められていない、無機質なものってことだけだ。

 

「あなただけは絶対に、許さない……!」

 

 二年経っても、あいつを許せない気持ちは微塵も衰えていない。

 夾竹桃を回収しに来たのだろうが、出てきたのならまとめて逮捕してーー

 

『倒れた友人を見捨てて来るか。復讐者に相応しい行動だ』

 

 その言葉と向けられた銃口に、レインボーブリッジから飛び降りようとしていたあたしの動きは止まった。

 

(まさか……)

 

 火掻が向ける拳銃ーールガーp08を背後に感じながらも、あたしは倒れた友達、志乃ちゃんの傍に駆け寄り、抱え起こす。

 

「志乃ちゃん、志乃ちゃん!?」

「う、う……あかり、ちゃん……?」

 

 夾竹桃のミニガンに撃たれた志乃ちゃんだったが、当たりどころが良かったのか、大きなケガは無いようだ。

 

「っ、よか、った……」

 

 涙をこらえながら安堵の息を吐いていると、背後から音が聞こえてきた。

 

『言動に惑わされる、か』

 

 予想した銃声ではなく、あいつの声と水が巻き上がる音。

 見ると、火掻の周囲で水が巻き上がり、渦を形作っている。

 

「まっ、みきゃっ!?」

 

 私が言いきる前に盛大な水しぶきが上がり、同時に投げつけられた何かが額にぶち当たる。

 

「い、いたいぃ……なにすんの!?」

『符丁毒の解毒法。夾竹桃の頭を覗いて書いた』

「ーーえ?」

 

 痛みを忘れて顔を上げると、既に二人はいなくなっていた。

 あたしは足下に落ちていた巻物を拾い、開いてみると、

 

『勝者の権利。嘘と思うなら捨てればいい』

 

 と、最初に書かれており、あたしには理解できない図面と材料が書かれていた。

 

「これがあれば、ののかを……?」

 

 半信半疑だったが、あたしは巻物を握りしめて立ち上がる。夾竹桃は逃がしてしまったが、最優先はののかを助けることだ。

 

『間宮様、大丈夫ですの!? 状況はどうなりました!?』

「麒麟ちゃん! 夾竹桃には逃げられたけど、符丁毒の解毒方法は手に入れた! あと、志乃ちゃんがケガしてる、意識不明の状態!」

『! 了解ですわ! 今から迎えに行きます!』

 

 電話越しに車のエンジン音が聞こえ、私は志乃ちゃんに応急処置を施しながら待つことにする。何はともあれ終わった、けれどーー

 

(火掻……っ)

 

 夾竹桃を連れてまんまと逃げていった相手に、あたしは内心歯噛みする。

 目の前にいたのに、何も出来なかった。消耗はしていたけど、そんなの理由にならないし、したくない。

 

「次は、必ず……」

 

 嫌な感情に染まるのを感じながらも、あたしは抑えられなかった。

 最後の言葉を言わなかったのは、武偵として、何より凪優お姉ちゃんとの約束があったからだろう。

 

Side:遠山潤

「……あら。似合わない仮面を着けているから誰かと思ったら、潤だったのね」

 

「起き抜けに憎まれ口を叩けるなら、十分元気だな」

 

 水路を使って撤退に成功し、セーフハウスからの撤退準備を進めていると、夾竹桃が目を覚ました。

 拾った時は何故か下着姿だったが、今は寝ている間に天音が着替えさせたため、青色のワンピースを着させられている。

 

「変態」

「俺に言うな、間宮あかりに言え」

 

 完全に不可抗力だろ。

 

「助けてくれって、言った覚えはないのだけど?」

「聞いた覚えもないから、記憶も正常だな。

 単純にこっちの都合だ、気にするな」

「そう。なら、野良犬に噛まれたとでも思っておくわ」

「そこは感謝してくれてもいいんじゃないですかねえ」

 

 なんで悪い意味なんだよ、とツッコミ入れたつもりだが、丸っきり無視された。ひでえなオイ、まあいいけどさ。

 

「潤さん、準備終わりました。あら、夾竹桃さん、目が覚めたのですね」

「おはよう、天音。この服はあなたが?」

「ええ、ボクの手持ちから勝手ながら。サイズは少し大きいと思いますが、下着姿のままには出来ませんし」

「そう、ありがとう。潤に着せられたかとおぞましい気分になっていたけど、杞憂のようで良かったわ」

「扱いが酷すぎていっそ清々しく感じる」

 

 俺に女装(そんな趣味)はねえよ。別ではやらされてる? 知らん(メメタァ)

 

「それで、潤。あなた、何が目的で私を助けたの?

 間宮あかりの前に姿を現した以上、表で動く気のなかったあなたも狙われるでしょうに」

「んー? いや、大した理由じゃねえよ。

 お前さんから情報が漏れるのを防ぐためと、間宮あかりを試すための確認をしたかったんでな」

「試す?」

 

 夾竹桃が疑問を口にするが、俺は答えない。代わりに窓の外を向き、

 

「さて、成果は見せてもらった。次の手を始めようか。

 水無瀬凪優、間宮あかり、神崎・H・アリア、そしてキンジ。ここから楽しみだなあ?」

 

 誰に言うでもなく呟き、月明かりの下で笑った。

 

 

おまけ

 キンジ・アリアVS理子、ANA600便にて

 

「ユーくんはね、今ーー理子の恋人なんだよ?」

「…………は? え? 

 マジか、あの難攻不落なんて言葉が生易しい恋愛外道に春が来たのか?」

(恋愛外道って何……?)

 

「……やーごめんキーくん、ぶっちゃけ見栄張りましたですはい。ユーくん堕とすなら、キーくんとお兄さん同時に口説いた方がマシかにゃー」

「どんな尻軽だよとツッコミ入れたいが、アイツと比較されると何も言えん」

「いやどんなやつなのよ、キンジの弟って」

「恋愛フラグを笑いながらバッキバキにへし折ってくれるアンチクショー」

「女心を踏み躙る天才」

「どう聞いてもろくでなしじゃない!?」

「「うん、合ってる」」

 

 

 

「へっくしょい! まもの」

「あん? 何だ潤、唐突なカミングアウトをして」

「いやなんでだよ、魔術師だけど種族的には人間だからな俺は」

「普通の人間は種族カテゴリーなんてしないだろ、フツー」

「言葉の綾だよ。誰か悪口言ってるんだろ、多分」

 

 

 




キャラ・用語解説
水無瀬凪優
 コラボ小説『緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-』の主人公。銀髪赤目の美少女、スタイルはそこそこいい(本人談)
 現イ・ウーNo.2にして、研鑽派の筆頭。武偵として活動しているため休学中。
 潤と敵対しているが、本人に対して悪い感情は抱いていない。でも今回の件でむかついたので、次回以降はぶっ飛ばす予定。


瑠璃神
 水無瀬凪優に宿る、四人目? の色金。通常は色金の収められたネックレス状態だが、人間形態になることも可能。
 許可なく視られているし聴かれていると確信しているので、潤のことは苦手で嫌い。


遠山潤
 イ・ウー主戦派所属にして最弱、通称は『参謀』。本編よりカオス寄り(作者視点で)
 本編との違いは、
・キンジがおり、義理の弟
・東京武偵校でなく、神奈川武偵校に進学
・アンベリール号事件で金一の身代わりとなり、世間的には死亡扱いとなっている(遠山家の人間は誰も死んだと思っていない)


西儀天音
 イ・ウー主戦派所属。通称は『音使い』。
 白髪碧眼のボクっ娘和装美少女と、作者もちょっと盛りすぎたと思っている。
 潤より年上だが、本人としては返しきれない恩があるため、彼に従っている。敬語はデフォの口調。
 今回は足止めメインのため、あんまり本気ではない。
 本編で出てきた男の後輩は、別世界線の同一人物。


間宮あかり
 間宮の里を襲撃され、計画の主導となった正体不明の参謀、火掻を夾竹桃や他のメンバー以上に恨んでおり、自分の手で逮捕することを誓っている。


火掻(ひがき)
 潤が各地を襲撃していた際、正体を隠していた姿と名前。全身を黒ローブで覆い、顔に八つ目の白仮面という、その辺歩いてたら通報される格好。
変声術で声と喋り方も変えている徹底ぶりで、本人曰く、
「何が悲しくて顔出しで恨まれなきゃならんのだ」
 とのこと。

分け身
 思考力ではなく、本人の能力を分割して発生させる分身。今回は十人にしたため、戦闘力はEランク武偵といい勝負ができるレベルになったため、狙撃にほとんどの能力を割いていた。


凍てつく氷柩
 巨大な氷の塊に相手を閉じ込める。

氷槍弾雨(ヤクラーティオ・グランディニス)
 周囲に展開した氷片の槍が降下する。飛ばすことも可能。


氷爆
 空気中に氷を発生、凍気と爆風を発生させる。

HK417
 潤愛用のマークスマンライフル。狙撃仕様にカスタマイズされている。
最大射程1200mの範囲内なら、仰臥(伏せた状態)でも立ってても狙撃に支障はない。




あとがき
潤「はい、というわけで後書きだよっと」
水無瀬凪優(以下水)「……え、あたしと潤でやるの? そっちの作者は?」
潤「折角のコラボだから、作者は強制退出(ログアウト)させておいた。で、そっちのやり方に倣ってみようかと」
水「うん、そういうことならまあいいけど。
 で、コラボキャラ同士でガッツリ敵対してるのはどういうこと?」
潤「作者(アイツ)の趣味。元々俺をイ・ウー側に置いた話を考えてたけど、よりにもよってコラボでやるという」
水「ろくでもないな」
潤「まあ否定はしない、作者だし」
水「いやあんたのことだって。なんでノリノリで悪役やってるの」
潤「寧ろこっちの方が素に近い」
水「……本編で武偵やってたの、何?」
潤「そういう流れなんだよ察しろ。
 ちなみにだけど、水無瀬さんとかコラボキャラの言動が合ってるかは自信ねえ」
水「よくそれでやろうと思ったな!?」
潤「俺もそう思う。まあ、ウチの作者(バカ)が俺のキャラブレブレなのは今更だし」
水「自分で言うのか……とりあえず、終わりにしとく?」
潤「せやな。さて、ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
 次回は無限罪、ブラド戦のとこです」
水「私が出ている『緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-』もよろしくね」


 改めて読んでくださり、ありがとうございました。



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