リサのご主人様になってから数日が経過し、夏休みに入った。とりあえず学校への編入は来学期からということで手続きを済まし(年上かと思っていたが、同い年らしい)、その間彼女には家事等を任せていたのだが――うん、生活の質が激変したな。特に料理と経済面で。もう以前の生活には戻れないんじゃないかな(真顔)
ウチの個性的な面々とも十分仲良くやれている。唯一家事担当の白雪が「私、要らない子宣言……!?」とか妙に危機感を覚えている時もあったが、リサが顔を立てて家にいる時は白雪メインで動いているため、彼女も満足しているようだ。
というかリサの信頼獲得がすげえんだよな。なにせ、
「メヌ様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ……まだいけるわ」
「ギリギリになる前に言えよー」
「私が倒れる前に察するくらいの機知はあるでしょう?」
「何その過度な期待」
「ご主人様なら出来ます!」
「メイドからの信頼が重い」
姉にも内緒にしている早朝のリハビリに、俺と二人で参加しているくらいなんだから。
イギリスに居た頃からずっとやっていたらしく、以前は双子のメイドさんに手伝わせていたらしいが、「意外と口が固いし、万が一見付かっても言い訳が出来る」という理由から俺が変わることになり、そこへ同じく信用できるリサも加わることとなった。
「はあ、とう、ちゃく……!」
「ほい、ご苦労さん。今日はいつもより長くいけたな」
疲れ切ったメヌが転ばないように支えてやり、車椅子に座らせてやる。歩き方は大分しっかりしてきたな。
「はあ、はあ……我ながら、体力の無さが、嫌になるわね……」
「それは地道に付けていくしかないだろ。リハビリの回数を増やせば話は別だが」
「嫌、よ……お姉様を驚かせたいのに、バレるようなリスクを犯したら本末転倒じゃない」
辛いからとかじゃないんだな。まあ負けず嫌いというか妙なところで意地っ張りなのは、メヌらしいといえばらしい。こいつ、人を弄ったり驚かせるためなら努力は惜しまないもんな。
特製スポーツドリンクを渡し、汗を拭いてやりながら俺達の話を聞いているリサは、柔らかな笑みを浮かべてメヌの頭を撫でてやる。
「メヌ様は充分過ぎるくらい頑張っていますよ、
「な、何よ急に。もう、子供じゃないんだから」
そう言いつつも、メヌはされるがままになっている。存外、甘えさせてくれる相手に弱いのかもねえ。
「いや十四なんだからまだ子供だろうよ。こういう時くらい素直に褒められとけって」
流れに乗じて俺も頭を撫でてやると、メヌは恥ずかしそうに顔をプイッと背ける。「……まあ、当然のことだけど。悪い気分じゃないわね」とか赤い顔で言ってるのは、突付くと薮蛇で弄られるので聞かなかったことにしよう。
ノートを取り出し、今日分の達成距離を記入していく。
「ジュン、この調子なら後どれくらいでいけるかしら?」
「んー、早くて9月半ば、遅くて10月後半かねえ。上手くいけば修学旅行には間に合うな」
「あら、いいわね。学校行事が記念なんて、陳腐だけど素敵じゃない」
どこに行くのがいいかしら、とメヌが早くも行き先を考えている。取らぬ狸の皮算用になる可能性もあるんだが、楽しそうなので言うのは野暮だろう。
ちなみにこのリハビリ最初の目標は、『自分の足でアリアと一緒にお出かけ』。勿論アリアには内緒で、前のように驚かせたいそうだ。まあいいリアクションしてくれるだろうな、アイツは。本人にとってはたまったもんじゃないだろうが。
「ご主人様、メヌ様の記録を見る限り、医学の心得をお持ちですか?」
「ん、まあ一応はな」
「
「いやいや、そんな手放しに褒めるもんじゃねえって」
たしかにノートには過去の歩行距離、そこから予測できる今後の移動可能距離、体力の付き方、ペース配分等の予測を記しているが――
「あら、私の足を治療してくれたのは、どこの誰だったかしら?」
「んー? 腕のいい医者じゃねえの?」
「ええそうね、黒髪黒目の日本人で身長170弱、今なら年齢は十代後半で一見気紛れで軽薄だけど、中身は思慮深く仲間や気に入った相手には甘い男、そんなジュンみたいなお医者様が二年前の秋に来てくれたわ」
「へえ、そりゃまた随分なドッペルゲンガーがいたもんだ。偶然その時期に依頼でイギリスに行ってたが、出会ってたら死んでたかもしれんねえ」
「たしかに、瓜二つと言っていいくらいそっくりだったわ。ああでも名前は違ったわね、多分偽名でしょうけど」
メヌはニヤニヤとこちらを見て、リサは尊敬の眼差しでこちらを見ている。偶々メヌの症例に対して知識があっただけだから、
「ほら部屋に戻るぞー、そろそろアリア達も起きる頃だろうし。メヌは疲れてるだろうから俺が押してやるよ」
「嫌よ、貴方ここでふざけてこの空気をぶち壊す気満々でしょ」
「そんな目で俺を見るなあ!」
「はいはい、存分に尊敬されてなさい。リサ、悪いけど押してもらっていいかしら」
「はい、承知しました。ご主人様には自信を持ってもらうため、どれだけ凄いかを聞かせていただきます」
「いいわねそれ、ジュンは基本自虐的だし、如何に自分が有能か語らせるのも面白そうだわ」
「やめてくださいしんでしまいます」
お前等仲良しだな、でも連携して俺を弄り倒さなくていいから。リサは半分くらい本気で言っている気もするが。
時間は経過し、夕方の自室。現在自作のモニターを作成中である。リサが来てから全員でゲームをやるようになり、しかしテレビが足りないので『全員分のモニターがほしーい!』とか理子の奴がやかましかったのが理由だ。ていうか自分でやれよアイツは。
今現在部屋にいるのは作業中の俺と、鼻歌を口ずさみながら家事をしているリサ。ホームズ姉妹はアリアの母親であるかなえさんの裁判に向けて証拠集め。その関係で最近は家を空けることが多いが、メヌも手伝い始めてから大分捗っているようで、「この調子なら思ったより早く証拠が揃いそうだわ」とアリアが嬉しそうに言っていた。
まあ大抵夕方には帰ってくるんだが、リサの料理目当てで(ぶっちゃけ和食以外は白雪を上回っているレベル)。
白雪と理子は食材の買出し。白雪が買物係で、理子は荷物運びだ。そうしないと無限に余計なもの買ってくるからな、アイツ。
「っと、こんなもんか」
モニターも人数分組み立て、スー〇ァミ、P〇2、ワンダー〇ワンなど古い機種も複数のモニターに繋げられるよう改造し終わった。動作確認もしたし、これなら大丈夫だろう。
「お疲れ様です、ご主人様。すいません、無理なことをお頼みしてしまって……」
「いーよ別に、美味い飯作ってくれるせめてもの礼だ」
本来なら何日か掛けて作るつもりだったが、「ユーくん今日中に製作できるよね? 出来なきゃ罰ゲームだよくふふー」とか理子が煽ってきたので、やってやらあ! という気分になり一日で仕上げた。お陰でほぼ一日潰れてしまったが、まあ結果オーライなのでよしとしよう。
さて、片付けたら設置するか。
「……」
じー
「……動かしてみる?」
「え!? あ、いえ、ご主人様が片付けをされてから……いえ違います、リサが片付けます!」
そう言いながら横目でチラチラゲーム機見てるやん、めっちゃ気になるのね。流石ゲームをやらなかった白雪を巻き込む熱意は伊達じゃない。
「いいから」と言って工具を一旦脇に除け、再チェックも兼ねて全てのゲーム機とモニターを起動させた。その度にリサが「モーイ!」と本気の賛辞を送っている。
「本当にご主人様は凄いです! こんなものを簡単に作ってしまうなんて……」
「いや、この改造そんな難しいもんじゃない。方法さえ分かれ、誰でも出来るさ」
「そんなことありませんよ、リサにはサッパリですし」
「そりゃやり方が分からないからだろ」
「それを思いつく想像力と実行力は、ご主人様自身のお力ですよ。誰でも出来るなんて言わず、誇っていいとリサは思います」
「……そういうもんかねえ」
「『誰でも出来る』が最早口癖」とは以前何人かに言われたことだが、実際俺がやっていることなんて大したことはないし、Sランク武偵や専門家ならもっと短時間、かつ上等なものを作り上げられるだろう。
「なあリサ、上を目指し過ぎるのは悪いことかね?」
「と、いうと?」
「いや、以前師匠に『何でも出来るようにとは言ったが、お前は理想値が高すぎる』って呆れられたからさ」
なんとはなしに聞いてみた。ちなみに俺の師匠はそれこそマジで『何でも出来る』ので、その時は「お前が言うな」と返したな、本人は苦笑いしてたが。
「そうですね……向上心があるのは良いことだと思います。ただ、時には立ち止まったり、振り返ることも必要なのではないかと。
ご主人様は、少し急ぎすぎているのかもしれません」
「別に急いてるつもりはないんだが。ほら、『急がば回れ』って言うし」
「それ、結局急いでませんか?」
「ん? ……そういやそうか」
一本取られた気分だ、リサは何故か楽しそうに笑ってるが。
「やっぱりご主人様は、放っておけないタイプですね。……理子様や白雪様が気に掛けるのも、何となく分かる気がします」
「こんな男に入れ込む理由が分かっちまったか」
「はい、分かっちゃいました。しっかり先を見ているようでどことなく向こう見ず、向上欲が強すぎて止まることを知らない方」
「人を競輪みたいに言わないでくれませんかねえ」
もしくは猪突猛進か。猪は障害物と敵をまとめて薙ぎ払うのが得意なアリアだけで充分だっての。
「……」
「お姉様、どうしました?」
「いや、ジュンがアタシを馬鹿にした気がしたんで、帰ったら胃酸吐くまで殴るわ」
「人前で堂々と言うのはメヌでもどうかと思います。裁判員さん引いてますよ?」
「そんな進みっぱなしな人だからこそ、目に付いた人は思わず気にしてしまってしまうんだと思います」
「要するに、突っ走りすぎてつい見てしまうと?」
「それで『もっとゆっくりにすればいいのにな』と思って、声を掛けたくなっちゃうんですよ。いつの間にか同じペースに巻き込まれちゃうんですけど」
「なるほど、そりゃ合わせる方は大変だな」
「でも、それが楽しいからやめられないんですよ。それに、見返りを求めず誰かを助けられることは、非常に尊い行為だと思います」
でも、と言いつつ、リサが俺の手を取る。極々自然な動作だったため反応できず、引っ張られて二人でソファに隣り合って座る。
「偶には誰かに甘えて、ゆっくりしたり止まってもいいと思います。ご主人様、起きてる間はずっと休んでないじゃないですか」
「んー、まあそうね」
たしかに、起きてる時は何かやってるのが当たり前になっており、休むのは寝る時で十分と割り切っている感はある。別にそれで極度の疲労に見舞われる訳でもないから、気にしていなかったのだが。
「失礼します」と一声掛けてから、リサが俺の肩を押して横倒しにし、ぽすんと膝で受け止める。まああれだ、膝枕って奴だな。
「お仕事もいいですが、今はゆっくり休みませんか?」
「休息を強要するメイドはどうなのだろうか」
「主の健康管理もメイドの勤めですから」
「別に疲れちゃいないんだがねえ」
などと言いながらも、横になると意識が段々曖昧になってきた。おかしいな、体力的にはまだ余裕ある筈なんだが。
リサの方が正しかったか。そんなことを頭の隅で考えつつ、心地良いと思える睡魔に身を委ねることにした。途中理子と白雪の声が聞こえた気もしたが、よく覚えていない。
温かく柔らかい膝の感触と、甘く包むような香りに包まれ、
「お休みなさい。ゆっくり休んでくださいね、ご主人様」
慈しみに満ちたリサの声を最後に、俺の意識は閉じていった。まあ、偶にはこういうのも、悪くない――
結局夕飯の前には叩き起こされたけどな、メヌと理子の悪戯心で。その時の起き抜け姿はアリア曰く、「叩き起こされて不機嫌な熊みたいね」だったそうな。そんな可愛いもんじゃねえだろ、熊に謝れ。
おまけ 寝る直前に帰宅した白雪・理子との会話
「たっだいまー! 今日も色々仕入れてきたよ新作のお菓子とか!」
「もう、理子さん無駄遣いはしないでって言ったのに……」
「あ、お帰りなさい。お買い物ありがとうございます」
「おー、お帰りー」
『…………』
「何で膝枕!?」
「しかもユーくんがリサにされてるし!? 逆だったら理子もあるけど!」
「理子さん、それどういうこと……?」ゴゴゴゴゴゴ
「ご主人様はお疲れのようですので、少しお休みになるそうです」
「え? いあいあ、マンボウよろしく動いてないと死にそうなユーくんがそんなまさか」
「( ˘ω˘ ) スヤァ…」
『ホントに寝たぁ!?』
「あの、お二人とももう少し静かに……」
登場人物紹介
遠山潤
とりあえず色々やってる武偵。メヌのリハビリ記録からモニター製作まで、やらせれば大体出来る。ただし女装は(自発的には)やらない。
ワーカーホリックというより何かしてないと落ち着かないタイプ。甘えるより甘えさせるタイプ(無意識)なため、リサみたいなタイプは新鮮。
メヌエット・ホームズ
努力は人に見せず、人を弄るのは目の前でやるタイプ。特にイタズラの努力は怠らない。
賞賛されることはあっても直接褒められることはなかったため、慣れていない。あと姉属性の相手にも弱く、反応がツンデレ的になるのは姉妹の共通点か。
足の治療に関しては、潤が色々した模様。具体的なことは……多分語らない(オイ)
リサ・アヴェ・デュ・アンク
主はやたら高評価なメイド。無条件の称賛は、潤にとって慣れないものである模様。
人を甘やかすのが非常に上手く、頼られるタイプの人間も頼らせる。これダメ人間製造機じゃね? と戦慄したのは作者。
後書き
なんか流れでリサとメヌメインの話になってしまった……まあ原作の絡みあるし、仲は良好でもいいのかな?
というわけでどうも、作者のゆっくりいんです。夏休み要素が欠片もない気がする今回、いかがでしたでしょうか? ……はいすいません、次回は流石に夏要素いれます、星伽姉妹とか(違)
そういえばリクエストに関連してか、お気に入りの件数が異様に伸びてる気がするんですよね……これがリサの力か(戦慄)
さて、次回はプールか星伽姉妹編を書こうと思います。原作外の話なので順番が定まってないから、思い付きと気分で変わるんですよね、予告詐欺を一番やらかす回(オイ)
とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。
ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?
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読みたい!
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いいから続きを書け
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各ヒロインとのイチャイチャを……
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エッチなのはいいと思います()