遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 今回はメガネなあの娘が登場します。あ、ジャンヌさん出番ですよ。
ジ「……」
 無言でクラウチングスタートの構えを取らないでください。理子さん達は出ませんから。
ジ「本当だな!? 嘘なら死んでも切り刻むぞ!」
 サイコパスみたいな顔と声になってるんで落ち着いてください、読者さんに見せられない顔になってますよ……
 




外伝 思い込みで大抵のことは何とかなる

「ううう、えい! ――わきゃ!?」

「……」

「どう思う?」

「どうと言われてもねえ……」

 目をつぶってジャンプし、走り高跳びの棒に顔からぶつかるというある意味器用なことをしでかす彼女、中空知美咲(今は涙目で鼻を抑えつつメガネを探している)を見て一言、

「諦めた方がいいんじゃないかと」

「それを何とかするために呼んだのだろうが!? 少しは知恵を絞ってくれ……」

 溜息吐きながら言われても、人間出来ることと出来ないことがあるんですよジャンヌさん。

 あ、どうも遠山潤です(遅)

 

 

 さて、事の始まりは二日前、俺対エルの決闘、理子対ヒルダの姉妹喧嘩が終わった翌日のことだ。ゲームしてるホームズ姉妹を尻目に白雪とリサの三人で昼食の準備をしていたら、突如電話が鳴った。番号は――未登録だが知っている奴、ジャンヌのものだ。何だ珍しい。

「もしもし、出先で理子に襲われたとしても責任は取れんぞ」

『エンカウントした瞬間に逃げるから大丈夫だ』

 いいのかそんなんで、お前ら同期だろ。そこまで逃げ腰だといっそ清々しいな。

「何もないならいいんだが、何か用か? お前から全力で避けてきてたのに電話とは珍しい」

『別に理子が怖いのであってお前個人に思うところはそんなにない』

 ちょっとはあるのかよ、まだ魔剣事件の逮捕劇根に持ってんのか。

『……ところで、理子は近くにいるのか?』

「いない、ヒルダの見舞いに行ってる。扱いは雑だがアイツも姉のことが心配なんだろ」

 まあ理由の半分はそれで、もう半分は別にあるが。ちなみにあれから全く顔を合わせていない、白雪とリサの尋問から逃げてたのもあるんだが、エンカウントすると超スピードで逃げるんだよなアイツ。

『そうか。……私にもその優しさを一片でもくれればいいんだが』

「何したらそんな目の敵にされるんだよお前」

『知らん、会うたび全力で逃亡してるからな』

 それ何もしてないのにトラウマ抱えてるだけじゃねえか、折檻で心折れてたらやってられ「アンタと理子だけよそこまでボコられて平然としてるのは」ゲームしながらツッコミ入れなくてもいいんじゃないですかねアリアさん。

『っと、話が逸れたな。トオヤマ、お前に依頼がある』

「依頼? 探偵科か、それとも超能力(ステルス)絡みか?」

『いや、学科関係ではなく私個人としての頼みだ。勿論報酬は出す。ただ、一つ条件を付けたいのだが』

「なんぞ、言ってみろ」

『来る際女装してきてほし――』

 すぐさま電源ボタンを押して通話終了。さーて、飯作るべ。

 まあ当然再コールは来るが無視、そうしたら白雪の携帯に電話が掛かり、「潤ちゃん、ジャンヌが話あるって」と渡されてしまった。切るのもあれなので渋々出ることにする。

「ジャンヌ、トラウマを脳内で延々とリピートさせて精神崩壊させる魔術がある」

『ヤメロォ私の言い方が悪かったから説明させてくれ!!』

「三行で言え」

『依頼対象は男性が苦手で、

 女装が出来て教えるのも上手いと聞いて、

 最後の手段でお前に頼んだ』

 律儀に三行でまとめやがった、何か微妙な気分だ。

「話は分かった、その口振りだと他の連中に頼んでもダメだったみたいだな」

『ああ、あまり公には出来んし、条件をクリアした相手にも無理だと言われてしまったんでな。とはいえ本人の希望だし、どうにかしてやりたい気持ちは確かだ』

「ふうん、随分そいつに肩入れしてるんだな。あと訂正しておくが、俺は好きで女装してる訳じゃないからな?」

『――え?』

「何素で驚いてんだコノヤロー」

 いっつも理子の強制でやらされてるんだよ、変装技術はあるけど好き好んで女の格好なぞせんわ。

『……コホン、失礼した。とにかくトオヤマ、出来ればこの依頼受けて欲しい。必要なら私がメイクを施そう、イ・ウー時代に理子から習っている』

「いらねえよそんな気遣い、それより依頼の内容を言え」

『ああそうだったな。依頼についてだが――私のルームメイト、中空知美咲が体育の単位を落としそうなので、助けてやって欲しい』

「……はあ?」

 

 

 とまあ荒唐無稽な依頼を受け、考えた末に依頼を受けた。自分から女装するのは普通に嫌だが、顔見知り程度とはいえ仕事で世話になった相手だ、義理人情があるなら助けるべきだろう。

 まあ実際は報酬に釣られてなのだが。公開しないという約束付きだが、ジャンヌ・ダルクの一族が研鑽してきた超能力に関する資料の写しを貰えるのだから。蒐集家としてこういうものは是非とも手に入れておきたい。

 ちなみに本日の女装姿はマルファ・トーラスという名前の外国人女性で、ジャンヌがフランスにいた時の知り合い、たまたま日本に来ていたから依頼を受けたという設定だ(それを聞いた中空知がひたすら申し訳なさそうにペコペコしていた、メンドイ)。ぶっちゃけFG○のステゴロ姐貴なのだが。

 なおジャンヌが『嫌がっていた割に随分と気合が入っているじゃないか』とニヤニヤしながら瞬き信号でからかってきたため、口の中に特製サータアンダギー(練乳等の甘味を混ぜたリサとの合作、死ぬほど甘い)を口の中にねじ込んでやった。悶絶していたが、そうかそんなに美味かったか(邪笑)

 とまあそんな訳で、中空知の単位取得がため訓練をすることになり冒頭へと戻るのだが……いくらなんでも鈍すぎねえか、ジャンプしてバーへ当たりに行く奴初めて見たぞ。

「とりあえず、踏み切りのタイミングに力の入れ方とか色々ツッコミ入れたい部分はあるけど……一番はアレね、目をつぶるのは流石にダメよ、見えないから危ないし」

 それと何故走り方がX脚なんだろうか。寧ろ走れているのか不思議なくらいだ。

「それは分かっている、だから具体的な方法をトオ「マルファね」……マルファに教えてやって欲しいんだ」

「無茶言うわね、正直技術云々以前に苦手意識の克服と基礎体力を付けるのが一番重要なんだけど……あとジャンヌ、次間違えたら殴るわよ」

 お前が女装させたのに自分から台無しにするとかどんだ――分かった、分かったから真っ青な顔で首をガクガク縦に振るのやめなさい。

「ううう、どうしてこうなっちゃうんだろう……」

「そりゃあ目を瞑って目測も何もない状態で跳んだらこうなるわよ。はい、メガネ」

「あ、トーラスさん「マルファでいいわ」え、えっと、マルファさん、ありがとうございます。……私、目を閉じてました?」

「跳ぶ時棒見えてなかったでしょ?」

「うう、無我夢中で分かりませんでした……気付いていたらぶつかっていたというか」

 どんだけだ、自分の状態に無自覚とか相当だぞこれ。この人どうやって武偵校に入ったのだろう、身体検査もテスト項目にあるはずなんだが。

「まあ今ので大体分かったわ。とりあえず当面の目標は苦手意識の克服と、走り方のフォームを修正することね」

「は、はい。でも今のだけで分かるなんてマルファさんは凄いですね。……ところで、なんで走り高跳びなんですか?」

「跳躍力と瞬発力を同時に計るならこれが一番手っ取り早いからよ。別にハードルか走り幅跳びでも良かったけど、すぐ用意できたのがこれだけだったからね」

 まあ、ハードルはやらなくて正解だったと思う。あの身体能力では全部のハードルとランデブーすることになりそうだし。バーのドミノ倒しとか想像するだけで哀れみを覚えそうだ。

「それにしても、大分運動への苦手意識があるみたいね」

「あう……そんなことも分かっちゃうんですね……そうなんです、私なんてドジでマヌケな上にコミュ症の運動音痴で……そのせいで友達もジャンヌさんくらいですし……」

「いやそこまで言ってないわよ」

 ツッコミ入れるがどんよりモードで聞いてないっぽい。通信科(コネクト)でSランク相当の評価なんて早々もらえないだろうに、えらい自己評価が低いこって。ちなみに実際のランクはB、低い原因は本人が言う通りコミュニケーション能力が壊滅的だからである。通信機越しならしっかりしてるんだけどな。

「ほら、とりあえず立ちなさい。人間苦手なものがあるなら嘆くより克服する方法を考える方が建設的よ」

「あうう、すいません……でもマルファさん、亀より鈍い私がそんなこと可能なのでしょうか……」

 どんな例えだそれ。涙目でこちらを見上げてくるのは男心をくすぐるのかもしれないが、秋口ということで双方ジャージなためシチュエーション的には残念な感じが拭えない。

「……まあ、無いわけじゃないわ。根本的な解決にはならないけどね」

「そうですよねやっぱり私なんて――え? 今、あるって?」

「そうよ、あるの。とりあえず、これを耳に付けなさい」

 きょとん顔の中空知に用意していたブツを渡し、指示すると素直に付ける。

「えっと、付けましたけど……これ、何ですか?」

 素直なのは結構だが、武偵なんだし少しは疑うことを覚えて欲しい。この子その内悪い男に引っかかりそうだ。……強引に迫られたら男女関係なくどうしようもなくなりそうだが。

「小型の通信機よ、秘匿性を高めるため小型化と集音を重視したものね。跳び方をこれで教えるから、もう一度高飛びに挑戦して」

「え? でも、さっき全然ダメだって」

「いいから、騙されたと思ってやってみなさい」

 背中を押しながらスタートラインに立たされた中空知は困惑気味だが、素直に従ってその場で待っている。俺も同様の通信機を口の端に付け、準備完了だ。

「中空知さん、聞こえる?」

『はい、感度良好です』

 すぐさまアナウンサーのように明瞭な声が返ってくる。よし、切り替わったな。

「OKよ、じゃあ今から高飛びの方法を口頭で伝えていくから、覚えてちょうだい」

『了解しました、では指示をお願いします』

 返事を聞いて走り方のフォームや跳躍のタイミング、力の入れ方などを教えて動きを確認していく。

「じゃあ、実際にやってみましょうか。跳ぶタイミングはこちらで指示するわ。あなたは視力があまり良くない分、聴覚で出来る部分はカバーしなさい」

『――了解しました。では、行きます』

 返答が一瞬遅れたのは苦手意識ゆえの緊張か、まあいいだろう。中空知は教えたとおりのフォームでスタートを切り、バーへ向かって走っていく。

「今よ、飛びなさい!」

『っ!!』

 合図と共に中空知の身体が宙に浮かび上がる。フォームは少し崩れていたが――それでも最下段に設置したバーを飛び越え、マットに身体が落ちた。

 見違えるような動きに、側で見ていたジャンヌも驚いた顔になる。よし、成功だな。

「状況終了ね、お疲れ様」

『はい。的確なタイミングの指示、感謝します。では、通信を終了します』

 通信機が切られ、彼女の纏う雰囲気が元のオドオドしたものに戻る。そして信じられないものでも見るように自分が座っているマットとバーを交互に見て、

「ママママルファさん!! 今、私、飛んで!! あのバーを飛び越えて!? ゆ、夢、夢じゃないですよね!!?」

「夢じゃないから落ち着きなさいって……ジャンヌ、中空知さんの跳ぶ姿、ちゃんと撮れた?」

「あ、ああ問題ない。……驚いたな、どんな魔法を使ったんだ?」

「超偵が魔法なんて言葉を簡単に使うものじゃないわ」

「では催眠か」

「あんた私を何だと思ってるの?」

 殴るわよ、とポキポキ指を鳴らすと、青い顔でプルプル顔を横に振った。トラウマ多すぎじゃないかコイツ。

 まあ催眠ではないが、近いことはした。以前手に入れた情報から中空知が通信機器を使用中は高い集中力を維持していると聞いたので、何らかの通信手段を介せばその状態を引き出し、運動などにも応用できないかと予想したのだ。

 つまり意識の切り替え、スイッチのON/OFFの類だ。彼女の場合通信機が媒体であり、その状態なら記憶力だけでなく集中力、果ては身体能力にも影響を及ぼすのだろう。まあ素の身体能力が一般の女子高生より多少マシ程度なのだが、そこは今後の鍛え方次第だろう。

 ジャンヌが撮影した動画を見て中空知は「信じられないです……」などと言っているが、嬉しそうな表情だ。人間意識次第で割とどうにかなるもんだよ。

「それが貴方の出せる力ということよ、偶然でも奇跡でもないわ。ただ、この方法はあくまでその場凌ぎでしかないから、基礎的な体力造りは忘れないようにね」

「は、はい、分かりました先生!」

 誰が先生やねん。

「まあしばらくは通信機を使って体育の授業を受けてもいいでしょう、貴方がまずやるべきことは運動が出来るという自信を付けることだから。

 それまで通信の補助やトレーニングに関しては、ジャンヌにお願いしなさい」

「な!? わ、私か!?」

「何意外そうな顔してるの、ルームメイトなんだから助けてあげなさい、そもそも私に依頼して何とかしたいって言ってたのはあなたでしょ」

「あの、ジャンヌさん。ご迷惑をお掛けしますが、お願いしてもいいですか……?」

 またも上目遣いのポーズ、何それ素でやってんのか。

「…………まあ乗りかかった船だ、最後まで付き合おう」

「! ありがとうございます、ジャンヌさん!!」

「こ、こら! 嬉しいのは分かったから抱き付くな!」

「あ! すすす、すいませんつい……」

 中空知が身体を離すが、二人とも恥ずかしげに目を逸らしている。え、何この空間。

「ジャンヌ×美咲の正統攻めか、美咲×ジャンヌの逆転無自覚攻めか悩むわね……マルファ、どっちがいいと思う?」

「どっから出てきたのよあんた」

 ホントどこにでも出てくるな、この妖怪百合集め(夾竹桃)

 

 

おまけ

「トオヤマ、先日の依頼について中空知からマルファにお礼とのことだ」

「女装時の名前を出すんじゃねえよ。……なんだこれ、ポプテ○ピックのヘッドホン?」

「是非いいものだから渡してくれと」

「いや確かにヘッドホンは質のいいもんだが……趣味のブツを渡すのはどうかと思うぞ」

 後日、部屋で使っていたら理子が欲しがったので却下したら中指立てたので握り潰してやった。女の子がそんなポーズするんじゃありません。

 

 

 




登場人物紹介
マルファ・トーラス(遠山潤)
 とうとう自分の意思で女装をした男。報酬の本に釣られればやむなしと考えるくらいの本好きだが、今後その要素はあんまり出ない気がする(オイ)
 

ジャンヌ・ダルク
 ルームメイト兼友人のため色々動いた友達想いの魔女。なおその後中空知を名前で呼ぶようになり、仲が深まった姿をテニス部の後輩に見られてちょっとした騒ぎになった模様。
 なお、理子にぶっ飛ばされるのは主に余計な一言が口から出るため。
 
 
中空知美咲
 オドオド系女子。スイッチが入ると有能なタイプ。色々アドバイスしてくれたマルファにはまた会いたいと思っているが、正体知ったら気絶するんじゃないかな。
 
 
夾竹桃
 妖怪百合ネタ集め、以上。


後書き
 最後の微百合シーン書きたかっただけな気がする(オイ)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回は外伝ということで中空知さん強化プラン(体育)をお送りしました。まあ実際ここまで運動音痴なのかは不明ですが……原作見てるとあながち間違いではないかと思います、多分。
 というか書いてて思ったんですが、何で中空知さん武偵校に入れたんですかね? 本文でも書きましたが体力テストとかあっても不思議じゃないのに……実は推薦もらえるくらい成績優秀なんですかね、通信科の実力はSランク相当なんですし。
 ちなみに彼女が無事単位を取れたのかは……まあ、今後の展開次第ということで(マテ)
 では、今回はここまでで。次回は以前いただいていたリクエスト小説を手がける予定です。……大丈夫、ネタは浮かんでるはず(汗)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?

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  • いいから続きを書け
  • 各ヒロインとのイチャイチャを……
  • エッチなのはいいと思います()

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