遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 デレステ、ミリシタを並行でやってるところに新作のアプリ、だと……!? サタスペも並行で勉強してるから、益々小説書く時間無くなりますわ(マテ)
 案の定一ヶ月近くの投稿放置、誠に申し訳なく
ジ「……」
 あ、もう処刑確定なんですね分かります(悟り)
 


第一話 増えるのは厄介事だけとは限らない(後編)

 どうも、遠山潤です。自称妹から血の繋がった妹にランクアップしたかなめと色々話したかったが、先に明日の準備(フケようと思ったら高天原先生に見付かった。半泣きでお願いするのって教師としてどうなんだ)があるので合鍵を渡して俺の部屋で待ってもらうことにした。

 「ちょっと無防備過ぎるんじゃない?」とアリアに言われたんだが大丈夫、下手なことすると部屋の罠が発動するから。まあかなめなら大体予測して潰せそうな気もするが。

 で、面倒な片付けと翌日の準備を終わらせ、日が暮れる前に部屋へ戻ると何やらいい匂いが。

「あ、お兄ちゃんと皆さんお帰りー。冷蔵庫にあったもの適当に使ったけど、大丈夫だった?」

 エプロン姿のかなめが玄関まで走り寄ってくる。お玉持って首を傾げている姿を見て理子がまた騒ぎ出すが、アリアが無言で掌底を放って黙らせているな、この流れさっきもやったぞ。

「ただいま、別に使うのは問題ないが……何か作ったのか?」

「うん、時間あんまりないから簡単なものばっかりになっちゃったけど……でも皆よく食べるって聞いたから、多めに作っておいたよ~」

 部屋に入るとカレー、パスタ、ハンバーグなど確かに簡単だがかなりの量の料理が揃っている。「あ、デザートはフルーツポンチだよー」という追加情報に俺と理子とメヌが反応した。マジかよ分かってるなマイシスター。

「……毒入ってるかもしれないわ、気を付けなさい」

「アリア、まず涎を拭こうな」

「そもそも毒なんて仕込んだらお兄ちゃん+αに殺されますしおすし」

 よく分かってるな、料理に毒を盛るのと動物虐待する奴は極刑(真顔)

「……じゅるり」

「はいはいー理子お姉ちゃん、食べたいのは分かるけどまずは手洗いうがいを済ませてくださいねー」

「!? お姉ちゃん、だと……」

「あ、もしかして嫌でした? じゃあ理子せんぱ」

「逆! もっと呼んで!! 理子も妹が欲しかったんだよー!」

 感極まったのか思いきりかなめを抱きしめる。される側も「もう、しょうがないなあ理子お姉ちゃんは」などと言いながら満更でもなさそうだ、これどっちが姉かわかんねえな。

「ちょっと待ちなさい!!」

 叫びつつ突如影から出てきたのはヒルダ。もう治ったんだな、あれだけ穴ボコだったのに。

「ええ、お陰で完治したわよトオヤマ」

「キ……例の件がまだ尾を引いてる+αね。アンタ何かした?」

「適合する血液の入ったエリクサーを理子に渡したくらいだけど」

「ちゃんと飲ませたよ! ただし耳から!!」

「口からじゃないの!? というかそれで効果あるの!?」

「まだ耳の中に異物感がするわ……治ったけどどうしてくれるのよトオヤマ!?」

 いや、俺1ミリも悪くないやん。

「とまあそれは後でいいのよ! そこのポッと出妹キャラ、理子は私だけの妹よ! 横取りしようなんて言語道断」

「「黙れ負け犬」」

「グボハァ!? ちょっとトオヤマ、お前の妹口が悪過ぎるんじゃない!?」

 理子はいいのか。

「起きれないからって口移しで薬をせがむヒルダが悪いとりこりん思いまーす」

「「ヒルダ……」」

 下の代表として俺・メヌで冷たい視線を送っておくが、本人は平然と、

「して欲しかったからしょうがないじゃない! 貴方達だって姉妹にして欲しいことは在るでしょ!?」

「兄貴が姉貴になってそんなことしたら焼き殺すわ」

「お姉様大好きなメヌでもそれは流石にないですね」

「そもそも弱ってるのをいいことに欲求を満たそうとするのはかなめちゃんどうかと思うの」

「くう、ここに味方はいないのね……! でも私はめげないわ、さあ理子私と存分にハグを」

「ちょっとお姉ちゃん(・・・・・)、邪魔だから影に潜ってて」

「妹が辛辣!? ああでも、理子にお姉ちゃんと呼んでもらえたなら……!」

 お前それでいいのか。本当に影の中へ戻ってるし、恍惚とした顔で。

「し、姉妹ってこんな感じに接した方がいいのかな……?」

「違うと思います。流石にイラストを描く気も起きません」

 美しくない姉妹愛だからな。白雪は強いて言えば粉雪が近いかもだが、流石に違う……よな? あとレキ、そう言いながらかなめと理子の抱き合う姿を描いてる「潤さんも入りますか?」いらん。

 

 

「ん……うまい」

「ホント? 良かったあ! あ、おかわり欲しければ言ってねお兄ちゃん」

「かなちゃんおかわり!」

「それおにぇちゃんと同じ名前です理子先輩」

「めーちゃんおかわり!」

「はーい、ちょっと待ってね理子お姉ちゃん」

 羊みたいなあだ名になったな。

 さて、ヒルダが退散してから俺達はかなめの料理をいただいているのだが、これがまた上手い。料理担当である白雪やリサも「あ、おいしいねこれ」「モーイ! 素晴らしい腕前ですかなめ様」としきりに褒めているし。まあリサの発言には「その呼び方なら妹様がいい!」とか訂正しているが。名前じゃないけどいいの「妹属性は私のアイデンティティなの!」さいですか。

 ちなみに唯一警戒していたアリアだが、「なんかもう緊張するだけ無駄な気がしてきたわ」と、ニコニコしながらリサと一緒に給仕係をしているかなめを見て溜息を吐く。敵が増えるよりはいいやろ。そもそも、

「ねえ白雪お姉ちゃん、リサお姉ちゃん、ちょっといいかな?」

「何? かなめちゃん」「はい、なんでしょう」

「あのね……」コショコショ

「!? そ、それって本当!?」「い、いいのですか妹様!?」

「うん、私は二人を応援してるよ♪」

「潤ちゃん、すっごくいい妹さんだね!」「ヘルモーイ! ご主人様、妹様は素晴らしい方です!」

 ウチの常識組があっさりと陥落してるんだし。

「ちょっとマテ、アタシが常識(そっち)側じゃないと言いたいわけ?」

 指鳴らしながら迫ってくる相手をどうやったらそちらにしろと。

「まあまあアリアお姉ちゃん、ゴハン中なんだしここは抑えて、ね?」

「うるさいわよ妹(仮)、バカ兄は殴っても直らないけど殴らないと気が済まな」

「ここに自作のレオポン型ももまんがあります。これを裂いたらどうなるかなー?」

「!? ひ、卑怯よアンタ! そんな、そんな美味しそうだけど食べれないものを作るなんて!?」

「写真撮って保存すればいいんじゃないかな? それに、また作れるよ?」

「妹(真)に感謝しなさいジュン」

 好きなもののコラボで撃沈された模様。後ろでかなめがドヤ顔してるけどな。

「……」

「あれ? メヌエットちゃん、口に合わなかった?」

「いえ、大変おいしいです。ですが遠山かなめ、お前に言っておくことがあるわ」

 目の前のカルボナーラを食べ終えてフォークとスプーンを置き、かなめをキッと睨む。食べるのが優先なのな。

「お姉様をお姉様と呼んでいいのは私だけよ、他の人はともかく、これだけは譲れないわ」

「……ほほう? 言いますねえ車椅子モドキ系妹、どう呼ぼうと私の勝手じゃないかな?」

「普通ならね。でも『お姉様の妹』という立場を独占できなくなるのは許さないわよ天然タラシ不思議系妹」

「「……」」

「何この殺し合い直前の空気」

「妹という立場は命より重い……!」

「そこまで大袈裟な訳」「「然り」」「あるの!?」

 キャラ被りは死活問題だからな、こいつらは文字通り命賭けてるけど。

「よろしい、ならば戦争(クリーク)だ。ここで明かすと目的の一つはね……お兄ちゃんの周りにいる妹キャラを殲滅することなんだから!

 私より優れた妹キャラなどあってはならんのだーー!!」

 お前妹キャラに会う度SATSUGAIする気か。

 

 

 で、十分後。

「 」チーン

「ふ、他愛ないわね」モグモグ

 床に倒れ伏し魂が燃え尽きているかなめと、勝者の余裕を讃えながらフルーツポンチをパクつくメヌの姿があった。まあそうなるわな。

「ぐふう、バカな……お兄ちゃんの上位互換として作られたこの私が敗れるとは……!」

「いや俺が多少パワーアップしたからってメヌに口で勝てる訳ねえじゃん」

「デスヨネー。お兄ちゃんは相手を土俵から引き摺り降ろして戦うタイプだし」

「復活が異様に早いところはそっくりだねめーちゃん」

「高度な柔軟性が取り柄なんだろ」

「つまり行き当たりばったりよね」

 いいんだよその場で考えるから。

「私の完勝で文句ないわね?」

「妹道に逃走はな「もう一回抉るわよ」すいませんでしたメヌエット様!!」orz

「プライドが欠片すらないのもそっくりだネ!」

「そもそも腕力及び口でホームズ姉妹に俺達が勝てる訳ない件」

「アタシが脳筋だと言いたいのかコラ」

 そうだよ。

「後で〆る。はいはい、メヌもそこまで。大人げないわよ」

「メヌはこの中で一番年下だからセーフです」

「意味が違うわよそれ」

「うう、アリアお姉ちゃーん。かなめの心はボドボドですぅ……」

「メヌ相手にその程度で済んでるなら十分強いわよ」ナデナデ

「!? 抱きしめられてナデナデ、ですって……くう、これが勝負に負けて試合に勝ったという奴なのね……!」

「何本気で悔しがってるのよ、メヌも撫でて欲しいならこっち来なさい」

「! ……お姉様、最近ジュンみたいな人たらしになってきましたね」

「進んでバカやるほどバカになったつもりはないんだけど」

 二度もバカって言われると流石に不本意なんですが。あと、なんだかんだ言いながら撫でてもらうと満足そうなあたりメヌもチョロイ気がする。

 その後、お前ら妹キャラだけど方向性違うんじゃね? とツッコミ入れたら言われてみれば……ということであっさり和解した。争いはいつもディスコミュニケーションから生まれる(適当)

「で、肝心な話を聞いてなかったんだが」

「んむ? ふぁあにおひぃひゃん?」

「食べてから喋りなさい行儀悪い。お前何の目的でここに来たんだ?」

「あむあむ。言わないとダメ?」

「いや言わなくてもいいけど」

「いやそこは聞きなさいよ!?」

 だって大体予想付くし。まあ隠すほどのものでもないらしくかなめは語り出す。それによると、

・宣戦会議の折、リーダーのGⅢが遠山潤に興味を持ったので誰か派遣することにした。

・そこで情報収集と宣戦布告のため、俺と縁深いかなめを使者兼偵察として送り込む。

・GⅢの目的は色金(アリアのも含む)の回収とバスカービルメンバーの取り込み。

 とのことである。宣戦布告と聞いて何人か身構えたが、「まあ私にその気はないんだけどねー」とかなめ当人は呑気に茶を啜っている。

「今この場で私たちをどうにかする気はない、ってことでいいのかなかなめちゃん?」

「そだよー白雪お姉ちゃん。というかちょっと視ればこの戦力に私一人で挑めとか凹られる未来しか予想出来ないから非合理的だし、元々お兄ちゃんに会いたいから立候補したのでその他は二の次だしねー」

「お前自分のこと使者兼偵察って言わなかったか」

「いやあお兄ちゃん、この私はサードにも色んな意味で期待されてないので。「どうせお前のことだから遊ぶ呆けて報告怠るだろうが、思い出したら連絡くらい寄越せ」って言われてるからねー」

「それでよく送り出されたわね!?」

「暇かつ対応力があるの私くらいだったので。サードとやること被るから仕事が少ないんだよね~」

「……ああ、この興味ないことには適当な感じ、ジュンにそっくりだわ」

 失礼な、俺は依頼の報告はちゃんとやる「興味ないのは?」雑に流すな。

「これでも私、『人工天才(シニオン)一ムラのある問題児』として有名ですから!」

「威張って言うことじゃないでしょそれ……っていうかシニオンって何?」

「アメリカのロスアラモス・エリートが研究していた『デザインベイビー』。優秀な遺伝子の人間を掛け合わせて最強の人間兵器を『人工天才』と呼んでいる、だったよね?」

「……詳しいわね、理子」

「依頼で調べたからな」

「二人でネ!」

「何故そこを強調する。ニューステイツで規模は縮小されながらも引き継がれていたと聞いていたが、当人に出会うのは初めてだけど。

 ……ふむ。そうなるとかなめ、お前と俺は」

「うん、お兄ちゃんの予測通り、『父親』が一緒だよん♪」

 父親、と聞いて理子達が嫌そうな顔をする。まあ生まれたての赤ん坊を捨てるような輩だしな、良い印象はないだろう。こちらとしてはかなめが妹な理由に納得いったからいいんだけど。

「まあ実際はお兄ちゃんの義理のお父さん、遠山金叉の遺伝子も混ざってるらしいんだけどねー。だからサードの次でフォースって呼ばれてるんだし」

「ふうん、まあ『あの人』ならこの手の計画に融資するのは納得だ。優秀な個体と聞けば間違いなく欲しがるだろうし」

「個人的にはお兄ちゃんを捨てたクソ野郎ってことでぶち殺したいけどね」

 落ち着けマイシスター、そのヒートサーベルを仕舞いなさい。というかお前等も頷くな、九条はどうした。

「別に殺しはしないわよ。ただ一発文句言って殴りたいだけ。親が子を選べないからって捨てるのはどうかしてるわ」

「愛情じゃなくて有用性で子供を見てた人間なんだし、言うだけ無駄だと思うけどな」

「……なんでお前はいつもそうなのかなあ、潤」

 理子が裏モードで呆れた溜息を吐いてるが、んなもん簡単だ。

「俺にとってあの人は血縁上関わりのある人間、それ以上でもそれ以下でもないし、『家族』なら孤児院の連中と相棒、今だったら兄貴とじいさんばあさんがいるさ。

 それに」

 『妹』も出来たしな。そう言って頭を撫でてやると、かなめはキョトンとした顔になり、

「……もー、お兄ちゃんがそう言ったら怒るに怒れないじゃん」

 頬をリスよろしく膨らまし、不満気にしているが嬉しそうだ。面倒くさい妹なこって。

「知らない奴のことで怒るのは」

「……非合理的だね。りょーかい、じゃあこの件は気にするのやーめた!!」

 あポイ、とゴミ箱に捨てる仕草をするかなめ。それを見て理子達も折り合いが着いたのか、

「じゃありこりんがユーくんの新しい家族になればモーマンタイだね!!」

 何故そうなる。

「え?」

 ほら、かなめも何言ってんだコイツ状態になってるぞ。

「ちょ、めーちゃんそこはりこりんも応援してくれる流れでしょ?」

「えーどうしよっかな~。白雪お姉ちゃんとリサお姉ちゃんはいいけど、理子お姉ちゃんはお料理しないしな~」

「まさかの家事力で差別!?」

「あははー冗談だよ? 理子お姉ちゃんのことも、公平に応援することを誓いまーす」

「何~、言うのがおそーい! もっと気合入れて誓えこの悪女め~!」

「きゃ~許して~」

 キャッキャじゃれ合う二人を見て、そういえばかなめの処遇どうするべと話し合うが、

「花嫁修業したから家事出来るよ! 特に料理!!」

 という本人の発言と実績を持って滞在許可が全員可決。特に料理組と聞いてホームズ姉妹の挙手が早かった、お前ら最初警戒したりケンカしたよな。

 

 

 なおその後我関せずとイラストを描いているレキを見たかなめのやり取りなのだが。

「そこの水色の髪の人!」

「レキです」

「えっと、じゃあレキさん! そなたは妹か!?」

「? いえ、長女です」

「ならば良し! よろしくねレキお姉ちゃん!」

 何の確認だこれ。

 

 

 さて明けて翌日、文化祭翌日。本日は仕事もないため文化祭を見て回っている。かなめとエルの三人で。

 前者は「お兄ちゃんと一緒の学校に通いたい!」ということなので案内を兼ねて、校舎は「忍術を教えてもらうスケジュール調整を相談したかった」とのことで合流した次第である。やることないのか親友、ちなみにホームズ姉妹はかなえさんも交えた家族三人で巡回中、他の連中はそれぞれ仕事中である。メヌが人混みを躊躇してるとかなえさんに押されて慌てるレアな光景が見れた。

 余談だが初見で男装を見破られたエルは「この無遠慮に見破る感じ、まさしくジュンの妹……」などと訳の分からない戦慄の仕方をし、かなめは「いやあそれ程でも」と照れていた。多分観察眼より妹認定されたのが嬉しいのだろう。

 剛の妹である武藤貴希(兄に似ず美人)がからかってくるのでたこ焼き20パックを買って青ざめさせたり、大判焼きのキャラメル味という誰が買うんだみたいな商品をかなめがほぼ買い占める勢いで購入したり、SSRの屋台で何故か兄妹の恋占いをする羽目になったり(かなめの目がキラキラしてた)、エルが女子のコスプレ衣装を羨ましそうに見ていたので二人して着替えさせようとしたら顔を真っ赤にして逃げられたり、お化け屋敷の方に寄ったらマジもんの幽霊がいてSSRの生徒を尻目に除霊(物理)させられたり、まあ存分に遊びまわった。

 あと移動中、エルにはかなめのことを話しておいた。人工天才の話はリバティー・メイソンでも話題になっていたらしく、「敵には回したくないな」と呟いていた。もっとも「お兄ちゃんの敵に回らなければ大丈夫だよ!」と笑顔で言われて苦笑していたが。

「しかし何だ、そう言われると君達が兄妹というのは納得したよ。よく似ている」

「まあ似てる部分は多いわな」

「えへへー、そうでしょそうでしょ。エルおにぇちゃんはいい目を持っているよ!」

「うん、その妙な呼称じゃなかったらもっと素直に喜べるんだけどね」

 そう言いつつ嬉しそうな顔は何でなんですかねえ。あとかなめ、嬉しいからって抱きつかない、動きにくいでしょうが。

 そんな訳で昼食の時間も過ぎ、さて午後はどこを回ろうかと話し合っていると、

「ここにいたか、遠山の」

 と、後ろから古臭いながら幼い声が聞こえる。そこにいたのは東京武偵高の制服を着た幼女――ではなく、狐の妖だ。耳は帽子で隠しているが――まあ、この騒ぎの中なら注目されることもないだろう。

「宣戦会議にいた玉藻だったな。俺に何か用か?」

「用か、とはまた随分な言い種じゃのう。リバティー・メイソンと協力関係を結び、ヒルダを討ったというから様子を見に来たというのに」

「様子を、ねえ」

 リバティーメイソンはワトソンとの個人的な契約、ヒルダは姉妹喧嘩の結果なんだけどな。情報精度がイマイチに感じるのは、師団が人手不足のせいだろうか。組織だって動けるのはバチカンくらいだしな。

 あとエルちゃんくん、後ろめたそうに目を逸らすんじゃない。あーたが選んだ道でしょうよ。

「結果がどうあれそれはお主達バスカービルが得た戦果じゃ、誇ると良い」

「そりゃどうも。で、『中立』の俺達に『師団』が何用で?」

「……その口振り、やはりこちらに着く気はないということか?」

「逆に聞くが、何かメリットがあるのか?」

 最大勢力であるバチカンはヨーロッパで敗戦を繰り返しているし(カツェ経由の情報)、こちらの味方には元『眷属』のヒルダもいる、衝突は免れないだろう。百害あって一利なし、これで味方になるのなら逆転狂いのキチガイか物好きな正義の味方くらいだ。

 口に出さずとも分かっているのか、それでも玉藻は残念そうに肩を落とす。

「遠山侍は本来義に生きる一族なのだが……お主は違うようだな」

「そーいうのは兄貴の役目だ。血縁の宿命というのは縁遠いところにいるんでね、俺に正義の心を問うのは筋違いってもんだ」

 ご期待に添えなくて悪いがね、と肩を竦める。

「……そうか、残念じゃ。遠山金一も行方不明じゃし、当てが外れたの」

「そっちが持ってる色金モドキを無条件で渡してくれるなら話は別だが」

「無理に決まっているじゃろう、アレは今バチカンが持っているし、代表戦士(レフェレンデ)のメーヤにそこまでの発言権はない。

 第一、あんな危険物を個人に持たせるなどどうかしている」

「そりゃそうだ」

 元より期待してはいなかったので、別に構わない。まあそうなれば、

「いずれは戦って奪わせてもらう、かね」

「そうなるの。では当てが外れた以上、儂はここで失礼させてもらうぞ」

「ほいほいどうぞ、俺は追わんよ。大人しく帰るならな」

 玉藻の視線は生徒会室――白雪がいる場所に向けられている。この後に何をするかは簡単に予測できるが、敢えて視線で問う。何するつもりだと。

「知れたこと。遠山侍がダメな以上、星伽巫女だけでもこちらに引き込まねばなるまい」

 やっぱりな。白雪の性格上、縁のある玉藻の誘いなら断り辛いだろうし。

「片割れだけでは心許ないが、緋々神の件もある。最悪お主達と闘わせる羽目になるやもしれん――」

「ねーお兄ちゃん」

 玉藻の言葉を遮る形でかなめが口を開く。いつの間にか幅広の機械剣を取り出し、玉藻の首に突きつけながら。

 「な、に?」などと玉藻は驚いているが、お喋りの途中で気配を絶っていたのに気付かなかったみたいだな。かなめは変わらずニコニコしたまま、

「このお狐様さ、うるさいから首落としていいかな? 白雪お姉ちゃんを死地に追い込む魔の手から阻止できるし、師団の頭数を減らせるよね、それってとっても合理的じゃない?」

 物騒なことを平然と言ってのける。殺気は纏っていないが首筋へ徐々に刃物が近付いていく。

「ま、待て! 儂を殺すのなら神罰も」

「いやねえだろ、お前神というより妖寄りの霊獣だし。そもそも玉陽姉さんより格が低い奴に言われてもなあ」

「!? お主、玉陽様の知り合いなのか!?」

「知り合いというか、姉代わりというか」

「おにーちゃーん、もう殺っちゃっていい?」

 かなめの刃がカタカタ動いてるが、もうちょい待ちなさい。どうせ自分で貼った人払いの結界があるから助けも来ないんだし。

「待ってくれジュン、今ここで玉藻を殺したら師団の連中が明確な敵になるぞ!?」

「え? 何か問題ある?」

「……今はこちらの人数も少ないし、下手すれば眷属との挟み撃ちになる、それは避けた方が良い!」

「ワトソンお主、今一瞬脅威になるか考えおったな!? 確かに儂等の戦力は乏しいが、そこまで哀れまれるほど貧相ではないわ!!」

 ヨーロッパで連敗中の癖に何言ってんだ。

 結局首は獲らず、玉藻が張っている『鬼払結界』の解除を条件に見逃した。これで朝から「肌が痛い、違うこれ焼けてるわ!?」と騒いでたヒルダも大人しくなるな。

 なお「大陸から来る厄介な相手を寄せ付けないために張っていたというのに……もう知らんぞバーカバーカ!!」と捨てセリフを残して逃げていったが、神を自称するならもうちょい威厳を保てよ。

「それにしてもかなめ君、かなり高度な気配遮断と歩法術だね……一体どこで学んだんだい?」

「忍術の基礎にして究極の技って言ってたから覚えた!」

「詳しく話を聞こうじゃないか」

 落ち着けエル、多分お前も習得してる技だから。

「潤ちゃんかなめちゃん、大丈夫!? 今ここで結界が貼られてたみたいで、急いで来たんだけど……」

「じゃりん子の姿をした妖狐に『お前も眷属になれぇ!!』って迫られてた」

「上から目線でお兄ちゃんをめっちゃ侮辱してた!」

「ちょっと待ってて潤ちゃん今滅してくるから!!」

 もちつけ、あと封じ布を外すんじゃない。かなめも適当な事言うんじゃ「私からはそう見えたもん!!」あーはいはい分かったから、その気持ちだけで嬉しいからお前も落ち着こう。まあちょっとイラッとしたのは事実だけどさ。

「なんというか、うん……またアリアの苦労が増えそうだね」

 ボケが増えたと言いたいのか。

 

 

おまけ

「そういえばかなめ、実際ここまでの料理作るのには時間が足りないと思うんだが、何かしたのか?」

「ちょっと時を止めてみたよ!」

「……まあ、ジュンの妹ならそれくらいやるわよね」

「さっすがめーちゃん、そこに痺れる憧れるぅ!!」

「信じるの!? いや実際はマルチタスクでまとめて作ってただけだよ!?」

「それはそれで凄いと思うんだけど……」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 暴走しかける妹+αを抑えまくった今回。ちなみに師団との相性は最悪に悪い。
 
 
峰理子
 姉代わりのヒルダに塩対応なのは地味に喧嘩中のため。まだ潤のことが認められていないためおこらしい。
 
 
メヌエット・ホームズ
 キャラ被りは命の危機に等しい(本人談)
 
 
遠山かなめ
 お兄ちゃんお姉ちゃん呼びで周囲を陥落させていく妹キャラ代表(自称)。ただしお兄ちゃんの敵(仮)には容赦しない。
 ちなみにGⅢ曰く「超フリーダムな癖に能力が高い万能型だから扱いに困る」とのこと。


玉藻
 師団所属の妖狐、多分不憫枠。神扱いでないのは作者イメージの狐神様が某良妻賢母の鯖本体なため。そもそも玉藻って大妖狐のイメージが強いし。


ニューステイツ
 北アメリカ大陸から流れてきた避難民がヨーロッパに設立した新国家。国際的には先進国扱いされている。
 アメリカがどうなってるかは、次回に詳しく説明する――予定です(マテ)
 
 
あとがき
 初っ端から暴れていくかなめちゃん。あれれーどうしてこうなった? というかヤンデレ要素どこ行ったのかな?(知らん)
 というわけでどうも、予想外な方向に進んで困惑しているゆっくりいんです。メヌエットもそうですけどキャラの方向性が訳分からんことになってますね……え、いつものこと? ハハハ、何のことやら(棒)
 とまあそんな感じで次回はジーサードリーグが本格的に干渉――しない日常編です。まあこの辺りで潤の設定を掘り下げてもいいかなーと。興味ない方はいつものバカ騒ぎと思ってください(雑)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 

ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?

  • 読みたい!
  • いいから続きを書け
  • 各ヒロインとのイチャイチャを……
  • エッチなのはいいと思います()

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