遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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キノクニ 十二月末

「……はあ。年末にこんなところまで強襲を掛けなければいけないなんて、モーレツに不服ですよ」

「言っても仕方ないだろう、『魔剱』。もう戦いも終わったのだし、早く戻りたいのなら色金を回収することだ」

「分かっていますよ、『雲居』。さてーー」

「ひ、日ノ本の女武士……覇美様を倒したその手腕、一体……」

「敗者に語ることはありません。情報はどこから漏れるか分かりませんからね。
 あと私は武士ではなく、魔女です。次に間違えたらモーレツに追撃ですよ」

「う、うぐ……」

「……人間にはない臓器の中、ですか。切られて出てきてくれたのは幸いでしたね。見た目が見た目だけに、ここまでするのはちょっと気が引けましたが。
 さて、目的も達しましたし帰りましょう。次はどこでしたっけ」

「欧州だ。『師団』の応援要請で向かう、敵地のど真ん中だが……」

「問題ありません。雇われた以上、『私達』で敵は全員倒します」

「……頼もしくなったものだ、本当に」


第四話 やばいものが迫ってる

「よー潤、お帰……何してんだお前」

 

「うぐええええ……いや気にするな、魔力切れかけで死にそうなだけだ」

 

「ユーくんやっぱ魔力少なすぎない?」

 

「うるせえ、補助で魔力譲渡するお前がサボタージュしたからだろうが……」

 

「ああ騙されたのか、ご苦労さん。じゃあヴォルフ持ってくから、お前の亜空間に入れてくれ」

 

「死にかけてる友人にそれさせるか……」

 

「荷物持ちは男の甲斐性だろ?」

 

「どっちかというと倉庫扱いだろ……」

 

「ご主人様、お疲れ様です。ヴォルフ格納の準備は出来ております」キラキラ

 

「……わあったよ、ちょっと休んだら収納しておくよ」

 

((メイドに甘い))

 

 オイそんな目で見るな、こっち見んな。どうも、遠山潤です。なけなしの魔力で亜空間開くのは、理子が補助してくれました。さっきの転移でやれ、マジで。

 

 というわけでグラーフ・ツェペリンNT号に魔女連隊の迎え、カツェ、輸送用の武器、おまけの俺達を満載し、飛行場から飛び立った。上空から見る景色は中々のもんだね、自力で飛ぶのとは違う感覚だ。

 

 幾らなんでも狭くね? と告げたら、武器達も亜空間に収納させられた。だから俺は倉庫じゃねえよ、というかお前らも亜空間使えるだろと抗議したのだが、

 

「いやあたしの亜空間は総統閣下への献上品とコレクションでいっぱいだから」

 

「理子もコスプレ衣装とゲームと漫画と武装で一杯で」

 

「拡張か整理しろやお前ら」

 

「「ワンチャン出てこなくなるからノー!」」

 

 こいつ等片付け出来無さすぎだろ(白目)

 

 とりあえず女装をさせようとする魔女連隊+ウチの変態+メイドの連携を回避以外は何事もなく空港に到着。ここからはヴォルフで移動するらしい。

 

「オイマジか目立つだろ」

 

「『隠蔽』と『偽装』の魔術で普通の車に見せて運ぶから問題ねえよ。リスクはあるが、訓練も兼ねてるからな。

 それに、いざとなったらお前がどうにかしてくれるだろ、潤?」

 

「魔力減り気味の人間に頼るなよ。理子、お前が面倒見てやれ」

 

「えー? まあらじゃ!」

 

 えーじゃねえよ、なんで一瞬渋った。お前の大好きな女子だぞ(真顔)

 

 あとジャンヌだが、

 

「もう私は付き合わないぞ! 酷い目に遭いたくないし死にたくない!(コンステラシオンのこともあるし、私はチームのみんなと一緒に帰国しよう。道中の安全は任せておけ)」

 

 と、本音と建前が逆になって超スピードで帰って(逃げて)いった。まあ別にいいけどさ、それでいいのか戦役宣誓者。

 

 さて、特にバレることなく目的地ーーエコール戦争博物館に到着。魔女連隊の皆さんも腕を上げたねえ、手を貸す必要も無かったか。

 

 カツェに案内され(何故か入場料取られた、全額俺持ちで)、地上のルートを外れて地下の隠し大広間に入る。「秘密基地みたいでドキドキしますなー」とか理子が言ってるけど、文字通りその類だぞ。

 

万歳(ハイル)!」

 

「「「万歳(ハイル)!」」」

 テーブル中央の席に陣取っていた、二十歳前後のゲルマン系美人ーーイヴィリタ・イステル少将が略式の敬礼で挨拶を交わし、俺達三人も返礼する。リサだけ反応が遅れ、慌てた様子で真似していた。別に癖みたいなもんだし、やらなくても大丈夫だぞ。

 

「お久しぶりね、遠山氏、理子さん、リサ。カツェから報告を聞いて、皆様が来るのを心待ちにしていました。

 我がナチスと日本は昔から変わらぬ友好国。共に轡を並べられることを総統閣下も、私個人としても嬉しく思いますわ」

 

「歓迎のお言葉、痛み入りますイヴィリタ長官。精強で知られるナチスの皆さんと行動を共に「わーイヴィリタさん、お久しぶりー! また美人に拍車がかかっテンタクルロッド!?」」

 

 最後まで言わせろやコノヤロー。思わずアッパーカットを理子(バカ)に決めてしまったが、イヴィリタ長官はいつも通りねと苦笑しているだけだ。寛容で助かったよ、全く。

 

「ありがとう理子さん、忙しいけど美容には気を遣ってるから、そう言ってもらえると嬉しいわ。

 さて潤君、堅苦しいのはここまでにしましょう? 客人をいつまでも立たせているのは、失礼に当たりますわ」

 

「……お気遣いどうも、イヴィリタさん。君呼びはしなくていいんですが」

 

「日本語なら、これがしっくりくるのよ」

 

「さいでっか。あ、これ『お土産』です」

 

 席に座る前に、持ってきていたトランクケースをイヴィリタさんに手渡す。中身を見た彼女は頬を緩ませ、

 

「さすが、私達が喜ぶものを分かっているわね。

 みんな、同盟相手お手製の『お土産』よ。ありがたく頂きなさい」

 

 イヴィリタ長官の言葉に、付近で控えていた魔女連隊の少女達が黄色い声を上げながら、トランクに手を伸ばしていく。さらっと同盟相手って言われたけど、今回は依頼なんですが。

 

「ユーくん何持ってきたの?」

 

「武器」

 

 連隊の皆さんが手に取っているのは、一見するとただの旧式拳銃であるルガーP08だ。

 実際は簡易の魔術式を埋め込み、引鉄と魔力を込めるだけで魔術が放たれる魔導具、『タスラム』。 最近は使ってないが、俺もメインで使う武器の一つだ。

 

「うわ、ユーくんとは思えない色気のなさ!?」

 

「元々ねえよそんなもん、お前だって食い気じゃねえか」

 

 リサと一緒に和菓子セット(自作)持ってきてただろ。

 

「女子力アップ間違いなし!」

 

「ほぼ作ったのリサだろ」

 

「あら、美味しいわねこれ。私達でも食べやすいよう調整されてるみたいだし……リサ、腕を上げたわね」

 

「は、はい。ありがとうございます、イヴィリタ様」

 

「理子をスルー!?」

 

 別にいいだろ、いつも通りだし「よくねー!!」うるせえ、耳元で叫ぶな。

 

 微笑みながら褒めるイヴィリタさんに対し、リサは少々ぎこちない表情で頭を下げる。

 

 そういえば、イヴィリタさんの曽祖父はイ・ウーの歴代艦長の一人か。関わりがあっても不思議じゃないが、リサが少し怯えた様子なのはーー

 

「……大丈夫、今更あなたの『力』があるからって、どうこうしようなんてないわ。こわーいご主人様もいることだし、ね?」

 

「凡百の武偵になんちゅう評価を下してるんですか、イヴィリタさん」

 

「あなたは凡愚の意味を辞書で引いた方がいいわよ?」

 

「ご主人様はリサが想像もできない凄いお方です! 自信を持ってください!」

 

「何でそこで勢いつくんだよ」

 

 俺の後ろに回ってから褒め殺しってなんだよ。イヴィリタさん「愛されてるわねえ」じゃねえから、その生温い目をやめてくれ。

 

「さて、旧交を温めるのはここまでにして、仕事の話に移りましょうか」

 

「生暖かい旧交だな」

 

 俺がイヴィリタさんの対面に、両隣に理子とリサが着席。カツェは俺達から右側に座った。座ってる面々を見ると、本気で作戦会議って感じだな。なんせーー

 

「ようパトラ。兄貴ーーいや今は姉貴か? どこにいるか知らねえ?」

 

「……妾が聞きたいくらいじゃ」

 

「あららー、振られちゃったかーパトラ」

 

「な、振られたなど変なことを言うでないわ峰理子!? 妾はキンイチのことなど何とも思っておらん!」

 

 顔真っ赤にして何言ってんだコイツなパトラ、

 

「この前砂占いしてたのはどこのどいつだった?」

 

「な!? カツェ、余計なことを言うでない?」

 

「あたしは誰がやってたなんて言ってないけどなー? ケケケ」

 

 ケラケラ笑いながらパトラをからかうカツェ、

 

「……」

 

 無言でこちらを見ている『眷属』の傭兵、弓と風の超能力使いでロビンフッドの子孫であるセーラ=フッド、

 

「……」

 

 そして同じく無言、ただしこちらは視線を下に向けている、黒髪ロングでストレートの髪と額に角を生やした、『鬼』の女性。

 

 眷属の主戦力勢揃いってとこだな。それだけこの話し合いは重要ってことか。

 

「さて、今回あなた達に依頼したいことなんだけど……ミス津羽鬼、お願いできるかしら?」

 

 津羽鬼、と呼ばれた鬼の女性は顔を上げる。その目は死人のように虚ろでありながら、内に怒りを秘めた奇妙なものだ。無力感とそれでも抑えられぬ憤怒、かね。

 

「紹介に預かった津羽鬼だ。今回の招集に応じてくれ、感謝する。

 ……本来であれば、私の上役である閻様が来る予定だったのだが……今は動けない状態のため、代役として私が参上した。申し訳ないが、ご了承いただきたい」

 

「動けない……つまり、やられたってことか?」

 

 カツェが信じられないといった顔で質問する。他の面々も同じような表情だ。

 まあ無理もないだろう。『鬼』は純粋な戦闘力ならとびぬけて高いし、眷属の切り札としても考えられていた存在だしな。

 

「……ああ。閻様と我等の主、覇美様が敵と交戦し、重症を負った。幸い一命は取り留めたが、しばらく復帰は無理だろう」

 

「鬼を動けないくらい重症にさせた……一体どのような妖の類なのじゃ? そやつらは」

 

「……妖ではない。いや、一人は妖の類だったが、主に戦ったのは術使いの人間の女だ」

 

「人間? ただの人間が……いや、ありえないことじゃねえな。どんな奴だ」

 

 何でこっち見るんだよカツェ、こっち見んな。

 

「……二つ結びの黒髪で、現代の寺子屋の制服? とかいうのを着ていた。妖は銀髪の女だったな、随分派手な洋装だった。

 名前は確か……人間は『魔剱』、妖は『雲居』と呼ばれていたな」

 

「『魔剣』……? ジャンヌが確かそう呼ばれておったか?」

 

「そりゃ潤達の所で事件を起こした時のあだ名だろ? 同じ名前だがーー」

 

「『魔剱』、立花・氷焔・アリスベル。『雲居』、獏」

 

「「「は?」」」

 

 俺が呟いた二つの名前に、周囲の視線が一斉に集まる。何で分かるんだって顔をされるが、続きを口にしたのは理子だ。

 

「アリスベルは『魔女狩りの魔女(マツギハンターマツギ)』とも呼ばれる現代の魔女だねー。最近の活躍だと四月から神奈川の居鳳高で行われた鳳戦役と、主武器でもある環剱探索かな? 確か獏のお母さんが作ったものだったっけ。

 ちなみに『魔剱』は武器の環剱から取ったものだろうから、漢字違いだと思うよ? 日本語って面倒だよねー」

 

「……待て、待て待て理子。『魔剱』なんて名前を聞いただけで、なんでそいつが出てくる? そもそも、魔剣なんて通称は珍しくもないだろ」

 

「『魔剱』は確かにそうだが、『雲居』は心当たりがあるんだよ。

 貘雲居昇時得(ばくくもいのぼりのときえ)ーーある妖の官女に与えられた号だ」

「……! まさか、『心喰らい』の獏か!?」

 

 津羽鬼さんが驚いた表情になる。さすがに知ってるか、有名だろうしな。

 

「ご名答。そして獏に関して俺達は二つの情報がある」

 

「一つは、封印された時の影響で立花家との『契約』に縛られている。まあ、これはもう解約されてるかもしれないけどねー。

 で、二つ目。長年封印されていた獏は一年前くらいに封印を解かれて、立花家の娘と行動を共にする姿を目撃されているんだってー。

 ちなみに封印を解く少し前に、アリスベルは中国で両親を殺されているらしいよ? 特徴も黒髪ツインテールの少女で共通してるねー」

 

「……よく調べてるのう」

 

「情報は戦闘の優位に立つ必須のものだからねー。というわけではい、これが魔剱の情報だよー」

 

 背中から出した紙束を渡され、カツェ達は微妙な顔になる。人肌でぬるくなってるからな、そりゃ嫌だろう(違)

 

 それまで黙って聞いていたイヴィリタさんは、俺達に笑顔を向けて口を開く。

 

「流石ね、潤君に理子さん。正体が曖昧だった相手の情報を掴めただけでも、あなた達を引き入れて正解だったわ」

 

「確定情報ではないけどな。これまでの行動と津羽鬼さんの話を含めて、的中率は85%ってところだ」

 

「そこまでの信用度があれば十分よ。さて、そんなあなた達に追加の情報なんだけどーーつい先日、『魔剱』と『雲居』が欧州で目撃されたわ。『師団』と一緒に行動しているのもね」

 

「つーまーり、鬼もぶっ倒した異能使いを退治しろと?」

 

「別に倒す必要はないわ、極東戦役からご退場してくれるのなら、戦闘でも交渉でも一向に構わなくてよ。

 ねえ潤君、何か策はないかしら?」

 

「なんで俺に聞きますかねえ」

 

「あら、あなたの作戦は信用できるってカツェから聞いてるわよ? 期待してるわね」

 

「うっうー! ユーくん、ここはお姉さんの期待に応えるべきでしょ!」

 

「モーイ! ご主人様の素晴らしさは、既にナチスの皆様にも知れ渡っているのですね!」

 

「プレッシャー掛けてくれますねえお前ら!?」

 

 リサはいつも通り素だろうけど!? 最近この態度ががブースター掛けてるって理解したよチクショウ!

 

「あー……じゃあ、俺からなんだが」

 

 俺が口にすると、イヴィリタさんは少し悩ましそうな顔になる。

 

「……それだと、あなた達にリスクが高すぎない?」

 

「逃げ足としぶとさは定評があるから大丈夫だよ、俺達は。

 仕事はしっかりやるから、報酬の色金、忘れないでくれ」

 

「ええ、それはもちろん。さて、今後の方針も決まったことだし、食事にしましょうか?」

 

「待ってました!」

 

「ジャーマンポテト食いたい」

 

「あ、ご主人様、イヴィリタ様。リサもお手伝いしてよろしいでしょうか?」

 

「もちろん、あなたが手伝ってくれるなら、ウチの子達も喜ぶわ。あなたの好物であるオリボーレン(オランダのドーナツ)も用意してあるから、存分に堪能してちょうだい。

 ああ、潤君と理子さん。あなた達は何か食べたいものある?」

 

「「甘味」」

 

「ふふ、仲がいいわね。シュネーバル(クッキー生地っぽいのを油で揚げ、砂糖などでコーティングしたお菓子)でも用意させましょうか」

 

 やったぜ。俺と理子は一緒にガッツポーズを取って、イヴィリタさんに苦笑された。甘味は命よりも重いんだよ(真顔)

 

 

「遠山潤」

 

「ん? ああ、セーラ=フッドさんか。俺に何か? 策に不満や不安があったなら、受け付けるが」

 

「違う、少なくとも私に不利益はないし、文句をつける内容でもない。あなたに警告をしに来た」

 

 夕食後、このあとパーティーがあるからと腹ごなしの運動代わりに散歩をしていたら、夕飯時も黙ってブロッコリーをモリモリ食っていたセーラ=フッドさんが俺にコンタクトしてきた。

 

「私は『巨視報(マクロユノ)』持ち。死期が近いものの未来が視え近い相手には伝えるようにしている」

 

「『巨視報』、未来視の魔眼に近しい類のものか。で、俺の死期が見えると?」

 

「そう。明日の夜」

 

「ーーへえ。それはそれは」

 

 明日の夜。それは、イヴィリタ長官が告げた作戦決行日だ。

 

「つまり、俺は明日死ぬと?」

 

「……本来なら、私が告げる相手の確率は100%到来する、はず……」

 

「はず?」

 

「……あなたから視える運命は、揺らぎのようなものを感じる。そのせいで、私は私の予報に確信を持てない。こんなことは初めて」

 

「……ああ、なるほどな。別に気にする必要はないさ、俺は運命干渉や予知を『遮断』する術式を施してるからな。

 ……しかし、それでも『視えて』しまったのかあ。こりゃ、久々に死ぬ思いをするかもなあ?」

 

「……何故、笑っている?」

 

 くつくつと声を漏らしていたら、セーラさんが変化に乏しい顔を僅かに歪めている。引かれてる気がするのは気のせいだろう。

 

「いや何、備えは十二分にしようと思ってな。教えてくれて感謝するよ。

 そうだ、こいつは礼とお近付きの印ってことで」

 

「……!? こ、これは」

 

「品種改良されたロマネスコ(ブロッコリーの一種)だ。以前伝手で手に入れた「これはもう返さない、いや返せない」はえーよホセ」

 

 お目目キラッキラしてるぞ、そんなに好きか。

 

「……何かあれば一度、無償であなたを助ける」

 

「いやそこま「またも女の子を口説いてるユーくん発見!」オイ人聞きの悪いこと言うなアホ理」

 

 言ってる途中で、両手両足を魔女連隊の皆さんに掴まれた。オイ何すんだHANASE!

 

「くふーふふ、さあユーくん、お着換えの時間ですよー?」

 

「待てや、女装はさっき拒否しただろうが!?」

 

「そーんな言葉を理子が受け入れるとでも思ったかー!?」

 

「大丈夫だ潤、もうリサが更衣室で準備完了してるぞ」

 

「後は覚悟だけです!」「遠山様の女装姿、とても気になります!」「出来次第ではお姉様と呼ばせてください!」

 

「好き勝手言ってくれますねえアンタら!? ちょ、セーラさん今助け」

 

「冥福を祈る」

 

「オオオオイ!?」

 

 祈んないで助けて!? というか助けるのって任意じゃなくてアンタの意思かい!?

 

 結局拘束から抜け出せず、理子と俺でArcae〇セットをやらされる羽目になった。おまけに即興で舞踏用にピアノアレンジした曲を連奏させられる羽目になったよチクショウ!

 

 好評だったせいで「素晴らしかったわ、次もよろしくね?」ってイヴィリタさんにも褒められたけど、やらんわもう!(フラグ)

 

 

「オメーは毎度毎度強制女装させやがって……この口か、ろくなこと言わないのは」

 

「むいー。ふぃこふぁふくぬぁーい」

 

「お前以外に誰が悪いんだよタコ。……どうした、リサ」

 

「ご、ご主人様、リサに理子様と同じことをしても、大丈夫です……」

 

「そんな覚悟完了みたいな顔しなくていいから」

 

 お仕置きする趣味なんてねえよ。

 

 準備だの作戦の調整だの(理子の)暴走で過ぎた翌日の夜、俺、理子、リサの三人はベルギーの首都、ブリュッセルの街中を歩いていた。魔剱の最終目撃情報がここだったからな。

 

 さて、俺が提案した作戦だがーー簡単に言えば、『釣り』だ。俺達三人が囮となり、予め定位置についてもらったカツェ達と魔女連隊を配置し、一斉火力で焼き滅ぼす。

 

 策としてはシンプルだが、監視位置の死角を潰す配置にしたし、逃走ルートの想定もしたから、即席の準備としては悪くないと思う。戦術・戦略指揮官として高い能力を持つイヴィリタさんが太鼓判を押してもらったしな。

 

 ちなみに囮役は俺と理子の二人で行くつもりだったが、

 

「リサも一緒に行きます! 囮というならリサは適任ですし、いざとなればあの力も……」

 

 と、リサがごり押しで参加してきた。俺は反対したけど強情に首を横に振り、役に立ちたいと言われ、最終的には泣き落としに入り、

 

「自分の女一人くらい、守ってあげなさいな」

 

 というイヴィリタさんの発言により、やむなく参加させることになった。いやあ、あの時の周囲から向けられた目の生温いこと。

 

「……」

 

「ん? どしたのユーくん?」

 

「……いや、津羽鬼さんの言ってたことが、まだ引っかかってな」

 

「……そんなに? ユーくんも納得したんじゃなかったの?」

 

「ああ、理屈としては納得できる。……出来るんだが」

 

 閻様と覇美様の強靭な皮膚が安々と破られ、いつの間にか切り裂かれていた。彼女は、自分の上役達の敗因をそう語っていた。

 

 無論、環剱という鋭利な武器を持っている魔剱なら、出来ぬ所業ではない。人間相手だから慢心していただろうし、鬼は生来の強さのせいで探知に関しては雑なところがあるからな。

 

 ……それでも、引っかかるものがある。魔術師が用いる手段に対し、理屈で納得してはいけないという経験則。そして感じる既視感ーー

 

 思考を回せ、状況を想定し、仮説を組み合わせろ。この感じる違和感は、何ーー

 

『ーー何、これも『予習』の一貫さ。君にとっては、見慣れているだろうけどね』

 

「ーーっ。そう、か」

 

 繋がった、推測に至った。かつて戦った、シャーロックの言葉ーー

 

「ーー!」

 

「わっ!?」「キャッ!?」

 

 虫の予感、第六感の類と呼ばれる本能の警鐘。普段だったら絶対に起こらないそれに従い、隣にいた理子とリサを突き飛ばす。

 

「アイテテテ……ちょっとユーくん、さすがにそれは、ひどーー!!?」

 

「理子様? どうされーー」

 

 視線をこっちに向けた理子は、目を見開きながら即座にワルサーを構え、その行動を訝しんだリサは、絶句する。

 

 ……良かった、二人とも無傷か。俺の勘という奴も、捨てたもんじゃないらしい。

 

 

「潤!!」「ご主人様!?」

 

 

 二人の悲鳴を耳にしながら、俺の両腕は根元から『斬られ』、宙を舞った。

 

 

 




後書き
 潤君ピンチの巻その2。藍幇編と違うのは両腕が吹き飛んでるのと、現在進行形でピンチのまま続くってことですね。

というわけではいどうも、ゆっくりいんです。いつもは一章毎にとりあえずの区切りを付けるのですが、今回はそのまま続く形となります。

さて、ここで一つ報告を。この作品における『やがて魔剱のアリスベル』ですが、時系列を少し弄っており、鳳戦役は潤がアリアと会ったのと同時期になっています。

 これは当作品の設定の都合とキャラの調整……もあるのですが、一番の理由は、

「あああ暦鏡周りの時間転移分からん! 頭おかしくなる」

 という、作者の頭の悪さのせいです(オイ)

というわけでここのアリスベル世界は原作と色々ずれていますが、まあこの作品だし……ということで、大目に見てやってくださいお願いしますorz

 さて、次回は欧州編第二幕の開催。作者個人として一番書きたかった、リサ編を混ぜたオリジナル要素マシマシの展開です。

……オリジナル展開なんて今更? いあいあ、今までと比較にならない部分が多数あるので。

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)

ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?

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