―――日が暮れた頃、十六夜・番一・黒ウサギの三人は<世界の果て>から箱庭へと戻り、
別行動をしていた、ジン・飛鳥・耀の三人と合流していた。
場所は二一〇五三八〇外門・噴水広場前。
「ジン坊ちゃーん!御二人を連れて来ましたよー!」
「あ……く、黒ウサギ。お帰り。ええと……それは?」
「そうですよ!見てくださいこの水樹!十六夜さんがなんと蛇神様を打ち倒し、手に入れてくださったのですよ!これでもう水には困りませんよ!」
「へ!?ほ、本当ですか!?<世界の果て>に住む蛇神といえば神格持ちの
普通の人間では倒せるはずが」
「黒ウサギが言ってたんだが、俺らは普通の人間じゃ無いんだろ?倒せても問題ない」
十六夜が少し勝ち誇ったような表情で抗議する。
「ええとワタシ達の方は怪我はありませんでした……。番一さまが若干危なかったですが……」
「濡れただけだ。問題ない。ガハハハハ!」
黒ウサギがヘニョリとウサ耳を落とす横、番一は笑い声をあげていた。
黒ウサギはウサ耳をピン、と立て直してジンに尋ねる。
「ジン坊ちゃんの方は何か変わりはありませんでした?まあ起こるとは思えませんが!」
黒ウサギがのんきな笑顔でジンに尋ねると、ジンは顔を逸らしながら答える。
「えっと……落ち着いて聞いてくれるかな、黒ウサギ?」
「……。何かあったのですね?大抵の事では怒らないと思うので正直にお答えいただけますか?」
黒ウサギの笑顔が妙に怖い。ジン・飛鳥・耀は目を合わせて頷き、応える。
「……―――ガルドの奴に喧嘩を売っちゃって」
「明日<フォレス・ガロ>のホームに行き」
「……ギフトゲーム」
「……―――へ?」
ジン・飛鳥・耀の三人は顔を逸らし、黒ウサギの顔を見ない。
「な……!?」
ジンがソロソロと渡してきた<
「な、なんで<フォレス・ガロ>のリーダーと接触して、喧嘩を売る状況になるのですか!?」
「しかもゲームの日取りは明日!?」
「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」
「準備している時間もお金もありません!」
「一体どういう
「聞いているのですか三人とも!!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!!」
誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような……いやさっきの頷きからして合わせていたのだろうが、言い訳に激怒する黒ウサギ。
それをニヤニヤと笑ってみていた十六夜と、ワクワクソワソワした表情の番一が止めに入る。
「別にいいじゃねえか。誰彼構わず見境なく喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「喧嘩を売られて、売り言葉に買い言葉で受けちまったなら、反省すべきだがな」
「お、御二人は面白ければいいと思っているかもしれませんけど……。
……このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」
黒ウサギの見せた<契約書類>は<主催者権限>を持たない者達が<主催者>となってゲームを開催するために必要なギフトである。
そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており<主催者>のコミュニティリーダーが署名することで成立する。
今回の<契約書類>の賞品は、
<主催者は全ての罪を認め、正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する>。
これは<フォレス・ガロ>の犯した罪を裁くという事。
<罪を黙認する>
それは今回限りではなく、以後も継続という事。
黒ウサギは手近な椅子に座り、三人に理由を問う。
「とりあえず、簡単でいいので何があったのか説明していただけますか?」
※
「……。そうでしたか。<フォレス・ガロ>の悪評は聞いてましたがそこまで酷いとは……」
―――半刻後、全ての事情を把握した黒ウサギが呟く。
<フォレス・ガロ>はもともと悪評の多いコミュニティであった。
ジン・飛鳥・耀の三人は、<フォレス・ガロ>のリーダー、ガルド本人から真偽を聞きだし
―――隠され続けた罪を認めさせるために、ゲームを挑んだのだ。
「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。
―――だって彼らの
黒ウサギが言い淀む。
「確かにね、黒ウサギ。彼らの攫った子供たちはこの世にはいないわ。
その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。
だけどそれには時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。」
箱庭の法はあくまで箱庭としないでのみ有効なもの。箱庭の外は無法地帯であり、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。
そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことは不可能であるが、ゲームの結果によって発生する<
「僕もガルドを逃がしたくない。彼のような悪人を野放しにはしておけない」
「……それにいつかまた狙ってくる可能性もある」
ジンと耀も同調する姿勢を見せる。黒ウサギは諦めたように頷いた。
「はぁ~……。仕方がない人たちです。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。<フォレス・ガロ>程度なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう」
それは黒ウサギの正当な評価のつもりだったのだが、十六夜と飛鳥、番一が怪訝な顔をして、
「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」
「当り前よ。貴方なんて参加させないわ」
「俺一人でも楽勝だぞ?十六夜だけ強いと思うなよ」
フン、と鼻を鳴らす二人と見当違いな怒り方をする番一。
黒ウサギは慌てて飛鳥と十六夜の二人に食ってかかる。
「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういう事じゃねえよ黒ウサギ。あと番長は今度手合わせしてやるから黙ってろ」
十六夜が真剣な顔で黒ウサギと番一を制する。
「いいか?この喧嘩は、コイツ等が売った、そしてヤツ等が買った。
―――なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、分かっているじゃない」
「扱いが酷すぎやしないか?なんで俺は喧嘩バカみたいに扱われているんだ?」
「……。ああもう、好きにしてください」
丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。
どうせ失うものはないゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。
※
椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を抱き上げる。
コホンと咳ばらいをした黒ウサギは気を取り直して全員に切り出した。
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するために素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども……不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。
また後日、きちんと歓迎を」
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
驚いた黒ウサギはジンを見る。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分たちの事情を知られたのだと悟る。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが……
―――黒ウサギ達も必死だったのです」
「もういいわ。コミュニティの水準何てどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」
黒ウサギが恐る恐る耀の顔を窺う。
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」
思い出したように迷いながら呟く耀。ジンはテーブルに身を乗り出して問う。
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らにできる事なら最低限の用意はさせてもらいます」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。……毎日三食お風呂付の寝床があればいいなって」
お風呂という単語にジンの表情が固まる。
黒ウサギが水樹を手に入れて水に困ることが無くなります、と喜んでしまうほど水の確保が難しい土地では―――お風呂というのは一種の贅沢品なのだ。
「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんなに大きな水樹の苗を勝ち取ってくれましたから!
これで水を買う必要も無くなりますし、水路を復活させられます♪」
一転して明るい表情に変わる。これには飛鳥も安心したような表情を浮かべる。
「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対に入りたかったところよ」
「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と
「俺も結局濡れたしな……」
「あう……そ、それは黒ウサギの責任外……って番一様は自分が原因じゃ……」
「あ?やるか?黒ウサギ?
「すいませんでした……」
召喚された三人と、理不尽な怒り方をする番一に怖気づく黒ウサギ。ジンも隣で苦笑する。
「あはは……それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら皆さんのギフトの鑑定を
お願いしに行きませんと。この水樹の事もありますし」
「……うん、わかった。僕は先に帰って水路の準備をしておくよ」
十六夜達四人は首を
「鑑定?」
「YES。コミュニティ<サウザンドアイズ>に皆様のギフトの鑑定をお願いしに行きます。
<サウザンドアイズ>は特殊な
箱庭東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。
幸いこの近くに支店がありますし皆様もご自身のギフトの詳細は気になるでしょう?」
そう言って、黒ウサギは四人を引き連れてサウザンドアイズへ向かう。
赤坂です。
次回以降で少しづつ<番長>について明かしていきます。
オリジナルストーリー少なくてすいません。
感想、誤字脱字報告、よろしくお願いします。
・・・オリジナルストーリーでもないのに感想は難しいですが。
ではでは。
11/29 誤字報告ありがとうございました。修正しました。